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東京地方裁判所 平成10年(ワ)27551号 判決

原告 ファーストクレジット株式会社

右代表者代表取締役 鈴木弘章

右訴訟代理人弁護士 山田齊

同 中城重光

被告 成鎬永

被告 寺澤範保

被告 株式会社寿宴

右代表者代表取締役 成鎬永

右被告三名訴訟代理人弁護士 中西正義

被告 尹隆道

右訴訟代理人弁護士 山崎惠

主文

一  被告成鎬永、同寺澤範保は、原告に対し、別紙物件目録(一)記載の建物を明け渡せ。

二  被告成鎬永、同寺澤範保は、原告に対し、平成一〇年六月二四日から右明渡し済みまで、各自一ヶ月金一九万円の割合による金員を支払え。

三  被告尹隆道は、別紙物件目録(七)記載の建物を退去し、被告株式会社寿宴は、同建物を収去して、原告に対し、同目録(六)記載の土地を明け渡せ。

四  被告尹隆道、同株式会社寿宴は、原告に対し、平成一〇年六月二四日から右明渡し済みまで、各自一ヶ月金三万円の割合による金員を支払え。

五  訴訟費用は、被告らの負担とする。

六  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

主文と同旨

第二事案の概要

一  本件は、原告が、競売により所有権を取得した土地建物について、被告成鎬永(以下「被告成」という。)及び被告寺澤範保は競落建物に居住して占有しているとして、被告株式会社寿宴(以下「被告会社」という。)は競落土地上に建物を所有して、被告尹隆道(以下「被告尹」という。)は右建物に居住して、それぞれ競落土地を占有しているとして、建物の明渡し及び建物退去ないし収去による土地の明渡し並びに賃料相当損害金の支払を求めている事案である。

二  争いのない事実

1  別紙物件目録(一)記載の建物(以下「本件建物」という。)及び同目録(二)(三)(四)記載の各土地(以下「本件各土地」という。)は、もと被告会社が所有していた。

2  本件各土地の一部には、もと被告成所有の別紙物件目録(八)記載の建物(以下「旧建物」という。)があり、被告成はこれを被告会社に譲渡した。

3  被告会社は、昭和六一年一月二二日、原告から金一五億四〇〇〇万円を借り受け、右債務を担保するため、その所有にかかる本件各土地及び本件建物並びに旧建物に対して共同抵当権(以下「本件抵当権」という。)を設定した。

4  被告会社は、本件抵当権の設定後に、旧建物を取り壊したうえ本件各土地のうち別紙物件目録(六)記載の土地部分(以下「本件敷地部分」という。)に、別紙物件目録(七)記載の建物(以下「新建物」という。)を建築し、所有しているが、抵当権の設定はしていない。

5  原告は、本件抵当権の実行を申し立て(横浜地方裁判所平成八年(ケ)第三二五号不動産競売事件)、本件各土地及び本件建物を自ら競落して平成一〇年六月二四日に代金を納付し、同年六月二九日に所有権移転登記をした。

6  被告成、同寺澤範保は、平成一〇年六月二四日より前から本件建物に居住して共同して占有している。

7  被告尹は、平成一〇年六月二四日より前から新建物に居住している。

三  争点

1  賃料相当損害金の額

(原告の主張)

平成一〇年六月二四日以降の一ヶ月当たりの相当賃料額は、それぞれ本件建物につき一九万円、本件敷地部分につき三万円を下回ることはない。

2  法定地上権の成否

(被告尹の主張)

本件抵当権は、所有者をいずれも被告会社とする本件各土地及びその地上建物たる旧建物に共同担保として設定されたものであり、旧建物はその後取り壊されて、被告会社が旧建物の敷地上に新建物を建築して所有しているが、本件抵当権設定当時、被告尹は旧建物に賃借人として居住していたから、原告が把握していた担保価値は、本件各土地及び旧建物の共同抵当権を併せてみても、何らの負担のない更地としてのものではなく、旧建物についての被告尹の建物賃借権の負担のついた土地の価値でしかない。ところが、法定地上権の成立が否定されれば、原告は、本来、本件土地についてその全体の価値から被告尹の旧建物賃借権価額相当分の価値を差し引いた価値しか把握していなかったにもかかわらず、本件土地の交換価値全体を把握していたに等しい利益を受けることになるが、これは抵当権設定者にとっては予期せぬ利益であって、合理的意思に反するというべきである。他方、法定地上権の成立を認めても、その範囲・期間・地代等は旧建物を基準として決定されるべきものであるから、旧建物の賃借権価額相当分の価値に相応しい内容のものとすれば足り、むしろ抵当権設定者の合理的意思に合致する。

(原告の主張)

本件は、所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後に右建物が取り壊され、右土地上に新たに建物が建築された案件であるから、特段の事情がないかぎり法定地上権は成立しないというべきであり、被告尹は、旧建物に対する使用借権を有していたにすぎず、仮に賃借権を有していたとしても、建物賃借人にすぎない以上土地の競落人に対しては建物賃借権自体を対抗できない立場にあるから、法定地上権の成立を肯定すべき特段の事情にはあたらない。

3  権利濫用

(被告尹の主張)

(1)  被告尹は、旧建物所有者であった被告成から旧建物を賃借して入居していた。したがって、被告尹は、その後に旧建物を譲り受けた被告会社及びその後に旧建物に本件抵当権を設定した原告に対しても右賃借権を対抗できる立場にあり、原告は、本件抵当権設定当時、これを知っていた。

(2)  被告尹は、新建物についても賃借し、平成元年九月二〇日直後には入居していること、また、新建物の保存登記がされたのは平成五年六月であるから、仮に新建物に原告が本件抵当権を設定していたとしても、被告尹は右の賃借権をもって本件抵当権者に対抗できたはずのものであった。

(3)  ところが原告は、新建物に抵当権を設定できなかったことを奇貨として、敷地のみを対象として競売を申し立て、自己競落したうえ、被告尹に退去を求めようとしている。

(4)  また、原告は、民法三八九条により新建物を競売の対象に加えることにより被告尹との利害の衝突を避けられたにもかかわらず、敢えてこれをせず、善意の被告の犠牲において、建物賃借権価額相当分の価値の増大という予期せぬ利得を得ることとなる。

(5)  右のような本件抵当権設定時の事情、被告尹の旧建物及び新建物の賃借状況、新建物の敷地所有権の取得が右事情を知悉した原告が申し立てた競売事件の売却手続によるものであること等を考慮すると、本件請求は権利の濫用として許されないというべきである。

(原告の主張)

(1)  被告尹が旧建物及び新建物について居住していたとしても、使用借権に基づくものにすぎない。

(2)  抵当権者が、抵当権設定者からの通知がないのに抵当権設定物件の状況を把握することは困難であり、本件抵当権の設定契約において、抵当権設定者(被告会社)が担保目的物を取り壊す場合には、事前に抵当権者(原告)に通知し、その承諾を受ける旨定めていたにもかかわらず、被告会社はこれを怠ったため、原告は、旧建物の取壊し及び新建物の新築の事実を知らずにいた。これを知った後も、法定地上権が成立しないとする執行実務の扱いを前提に、新建物に対する抵当権の設定を要求しなかったにすぎない。なお、新建物には、共同抵当証券株式会社が、債権者代位権の行使により保存登記をしたうえ、第一順位で抵当権設定の登記をしている。

(3)  民法三八九条の規定は、抵当権者の便宜をはかって一括競売申立権を定めたものであって、一括競売の義務を定めたものではない。また、建物賃借権があったとしても、土地の占有権限はないものとして評価されることにかわりがない。

第三争点に対する判断

一  争点1について

甲第八、第九号証、弁論の全趣旨によれば、本件建物及び本件敷地部分の一ヶ月当たりの賃料相当損害金の額は、本件建物については一九万円、本件敷地部分については三万円と認めるのが相当である。

二  争点2について

所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され、右土地上に新たに建物が建築された場合には、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたとき等特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しないと解するのが相当である(最高裁平成七年(オ)第二六一号同九年二月一四日第三小法廷判決・民集五一巻二号三七五頁等参照)。

これを本件についてみるに、被告会社は、昭和六一年一月二二日、原告に対する借受金債務を担保するため、その所有にかかる本件各土地及びその地上建物である旧建物に対して原告を権利者とする共同抵当権を設定したこと、その後、被告会社は、旧建物を取り壊したうえ本件敷地部分に新建物を建築し、所有しているが、新建物に対する原告の抵当権は設定されていないことは当事者間に争いがないところ、被告尹は、本件抵当権に対抗できる建物賃借権が設定されていたことを前提に、原告(抵当権者)は、本件抵当権を設定した当時、被告尹の賃借権の負担のある状態での建物価値を把握していたにすぎないのに、法定地上権の成立を否定すると、右建物賃借権の存在による減価部分について抵当権者は予想外の利益を得ることになるとして、新建物のために法定地上権が成立すべき右特段の事情がある旨主張する。

しかし、被告尹の主張するような事実がある場合であっても、抵当権が設定されない新建物のために法定地上権の成立を認めるとすれば、抵当権者は、土地及び地上建物に共同抵当権を設定することにより、当初は土地全体の価値を把握していたのに、その担保価値が法定地上権の価額相当の価値だけ減少した土地の価値に限定されることになって、不測の損害を被る結果になり、抵当権設定者の合理的意思に反することにかわりはないから、被告尹主張の事実をもって法定地上権の成立を認めるべき特段の事情にあたるということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

よって、争点2についての被告尹の主張は理由がない。

三  争点3について

被告尹の主張は、要するに、原告は、抵当権者として土地のみならず新建物をも同時に競売申立てをすることが可能であったのにこれをせず、また、旧建物が存続し、あるいは新建物に原告が抵当権を設定したとしても、抵当権者(原告)は被告尹の賃借権の対抗を受けたはずであり、そのことを知っていたのであるから、旧建物が取り壊され、新建物に抵当権を設定しなかったことを奇貨として建物賃借人の退去を求めて予想外の利益を取得することは、権利の濫用であるというものである。

しかし、民法三八九条は、本件のような場合にも適用されて抵当権者は土地とともに新建物についても競売の申立てをなしうると解すべきであるとしても、同条の文言からすれば、同条は、競売を容易にするために抵当権者に一括競売権を認めたにすぎないものと解すべきであり、一括競売の申立てをしなかったことをもって直ちに不当ということはできないし、本件において法定地上権が成立しないこととなった直接の原因は、抵当権設定者が建物を再築しながら新建物に対して土地と同順位の抵当権を設定しなかったことにあり、反面、この場合の原告の建物退去土地明渡請求が権利の濫用になるとすれば、抵当権設定者は法定地上権の成立を認められたに等しい不利益を受ける危険にさらされることになり、このことは、前記二記載のとおり、抵当権設定者の合理的意思に反する結果となることを考慮すると、本件における原告の被告尹に対する建物退去土地明渡請求が権利の濫用にあたるということはできず、他にこれを肯定すべき事情を認めるに足りる証拠はない。

よって、争点3についての被告尹の主張は理由がない。

四  以上によれば、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 齋藤憲次)

物件目録(一)~(七)<省略>

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