東京地方裁判所 平成10年(ワ)4417号 判決 1998年11月13日
原告
近藤義智
右訴訟代理人弁護士
栗宇一樹
同
早稲本和徳
右訴訟復代理人弁護士
秋野卓生
被告
青木達典
右訴訟代理人弁護士
岡田優
主文
一 原告が、被告との間で、東京都国民健康保険団体連合会及び東京都社会保険診療報酬支払基金に対する別紙診療報酬債権目録一及び二記載の診療報酬債権の債権者たる地位を有することを確認する。
二 被告は、東京都国民健康保険団体連合会及び東京都社会保険診療報酬支払基金に対し、原告と被告との間の診療報酬等に関する債権譲渡契約の解除に基づき、原告が平成九年一一月二一日以降請求分の別紙診療報酬債権目録一及び二記載の診療報酬債権につき原告が支払を受けることに対し同意する旨の確定日付による通知をせよ。
三 被告は、東京都国民健康保険団体連合会及び東京都社会保険診療報酬支払基金から別紙診療報酬債権目録一及び二記載の診療報酬債権の支払を受けてはならない。
四 訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求の趣旨
主文同旨
第二 事案の概要
一 争いのない事実等
次の各事実のうち、4(1)(2)の各事実を除く各事実は、当事者間に争いがなく、4(1)(2)の各事実は、甲二号証の一ないし四により、これが認められる。
1 原告は、青梅市今井<番地略>所在の老人医療を主たる医療業務内容とする今井病院の名称で開設届を行った開設者であり、被告は、弁護士である。
2 東京都国民健康保険団体連合会(以下「国保」という。)及び東京都社会保険診療報酬支払基金(以下「社保」という。)は、それぞれ病院開設者である原告からの診療報酬請求に基づき今井病院の診療報酬額について審査を行い、診療報酬を支払う機関である。
3 原告は、平成九年一月、被告に対し、左記内容の事務処理を委任した(以下、右契約を「本件委任契約」という。)。
記
(1) 原告は、原告の国保及び社保に対する診療報酬等を被告に債権譲渡する。
(2) 被告は、前条において譲り受けた診療報酬を、原告のために次の通りの方法で管理する。
ア 被告は、原告に関する金員の受け入れ、支払いのために特定の銀行預金口座を定め管理する。
イ 第一条の国保などより、診療報酬等の入金があったときは直ちに原告に通知すること。
ウ 右口座よりの支払はすべて原告の指示により行う。
エ 被告は、原告より、今井病院の従業員への給料振込手続き、業者への銀行振込、その他租税、公共料金の支払い業務を受託する。
オ 原告が右預金口座の残高を確認するため必要なときはいつでも、被告に対し、前記(1)の預金口座の提示を求めることができる。
(3) 原告は被告に対し、第二条の管理業務に関する経費として、月額金二〇万円の管理委託費を支払う。
4 原告は、右委任契約に基づき、次のとおり、
(1) 国保に対し、平成九年一月二一日、同年一月支払分から同年一二月支払分までの診療報酬債権を被告に譲渡する旨の、同年七月二三日、平成一〇年一月支払分から同年一二月支払分までの診療報酬債権を被告に譲渡する旨の各通知をなし、これらの通知はそのころ国保に到達し、
(2) 社保に対し、平成九年二月五日、平成八年一二月診療分から平成九年一一月診療分までの診療報酬債権を被告に譲渡する旨の、同年七月二四日、同年一二月診療分から平成一〇年一一月診療分までの診療報酬債権を被告に譲渡する旨の各通知をなし、これらの通知はそのころ社保に到達した。
(以下、これらの債権譲渡を「本件債権譲渡」という。)。
5 しかしその後、原告は、平成九年一一月二一日、被告との本件委任契約を解除する旨の意思を表示し、本件委任契約は、遅くとも、同年一一月二五日までには解除された。
6 また、原告は、同月二二日、国保及び社保らに対し、被告と原告の間の債権譲渡を取り消す旨通知した。
二 当事者らの主張
(原告の主張)
1 本件委任契約が解除されたのであるから、その委任事務処理の手段としてされた被告に対する債権譲渡も当然に効力を失ったものである。
2 したがって、これにより、少なくとも、原告が解除の意思表示をした平成九年一一月二二日以降請求分の別紙診療報酬債権目録一及び二記載の診療報酬債権については、原告に帰属する。
3 よって、原告は、債権譲渡の原因関係たる委任契約の解除に基づき、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。
(被告の主張)
1 本件債権譲渡は、本件委任契約とは別個独立の契約であるから、委任契約が解除されても、それが、本件債権譲渡の取消しの原因になるものではなく、被告に債権譲渡撤回通知をなすべき義務もない。
2 被告は、原告に対し、本件委任契約に基づき事務処理費用及び立替金の返還請求権並びに報酬請求権を有しており、譲渡された診療報酬は、これらに対する担保でもあるから、右の事務処理費用等を支払わない限り、本件債権譲渡の解除又は取消しはできない。
三 争点
したがって、本件の争点は、本件委任契約の解除に伴い、本件債権譲渡が当然に効力を失うか否かの点である。
第三 争点に対する判断
一 本件委任契約の内容が前記「第二 事案の概要」の「一 争いのない事実等」3記載のとおりであることは、当事者間に争いがなく、右事実によれば、本件債権譲渡は、本件委任契約における委任事務処理の手段として行われたものと認められる。
二 また、原告が本訴において自らに帰属するものと主張する診療報酬債権は、本件債権譲渡の目的とされたもののうち、本件委任契約が解除された後に支払期が到来する診療報酬債権であって、被告が本件委任契約に基づいて行った事務処理等に関して発生したものとは認められない。
また、本件債権譲渡に係る債権が被告の報酬等の担保であると解すべき事情は認められない。
三 したがって、本件委任契約が解除されたことに伴い、少なくとも、別紙診療報酬債権目録一及び二記載の診療報酬債権については、原告と被告との間では債権譲渡が当然に取り消されたものと認めるべきであり、被告は、国保及び社保に対し、右の趣旨に沿った通知をなすべき義務がある。
よって、原告の本訴請求はいずれも理由がある。
(裁判官市村陽典)
別紙診療報酬目録<省略>