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東京地方裁判所 平成10年(ワ)6118号 判決

原告 スミセイ・リース株式会社

右代表者代表取締役 大荒利之

右訴訟代理人弁護士 梶谷剛

同 岡正晶

同 和智洋子

同 井上裕明

同 松下満俊

同 宮島哲也

被告 オリックス株式会社

右代表者代表取締役 宮内義彦

右訴訟代理人弁護士 佐藤庄市郎

同 可部恒雄

同 林彰久

同 佐藤順哉

同 池袋恒明

同 関口明博

同 池田友子

主文

一  被告は、原告に対し、金四〇億五三〇〇万円及び内金三五億円に対する平成四年八月一九日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員を支払え。

二  被告は、原告に対し、金二〇億円及びこれに対する平成三年七月二一日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文第一、第二項同旨

第二事案の概要

本件は、原告と被告との間において、ゴルフ場経営会社に対する資金融資に際し、対外的には被告が貸主として債権の管理、保全、回収等を担当する一方、原告が貸付契約の当事者にはならないものの貸付金の一部をその負担割合に従って拠出し、被告において借主から貸付金を回収したときに原告に右負担部分に相当する金員を支払うという仕組みのいわゆる協調融資契約を二件取り交わしたところ、被告が右借主に対する根抵当権に基づく不動産競売事件において配当を受けたことから、原告が、被告に対し、借主から右貸付金を回収したとして、右各協調融資契約に基づき自己の負担部分に相当する金員及び遅延損害金の各支払を求める事案である。

一  争いのない事実

1  当事者等

(一) 原告は、金銭の貸付業務、リース業務、債権の買取業務等を営む株式会社であり、住友生命保険相互会社(以下「住友生命」という。)の関連会社である。

(二) 被告は、金銭の貸付業務、リース業務、不動産の開発及び造成等を営む株式会社である。

(三) 株式会社真里谷(以下「真里谷」という。)は、ゴルフ場の経営等を目的とする会社であり、本件当時は、真里谷カントリー倶楽部、ザ・カントリークラブ・グレンモア等を経営していた。

2  被告と真里谷との間の金銭消費貸借契約の締結

(一) 被告は、昭和六三年七月二九日、真里谷に対し、大要次の約定の下に三五億円を貸し付けた。(以下、この契約を「本件消費貸借契約(一)」という。)

(弁済期) 平成二年七月二〇日(期日一括返済)

(利息) 年五・五パーセントの割合

(遅延損害金) 年一四・六パーセントの割合

(期限の利益) 真里谷が被告に対する債務の履行を怠ったときは当然に期限の利益を喪失する。

なお、被告と真里谷は、平成二年七月二〇日、弁済期を平成五年七月二〇日に、利息を年八・六パーセント(長期プライムレートに連動)にそれぞれ変更する旨の合意をした。

(二) 被告は、平成二年七月三一日、真里谷に対し、大要次の約定の下に四〇億円を貸し付けた。(以下、この契約を「本件消費貸借契約(二)」といい、同(一)と併せて「本件各消費貸借契約」という。)

(弁済期) 平成五年七月二〇日(期日一括返済)

(利息) 年八・六パーセント(長期プライムレートに連動)

(遅延損害金) 年一四・六パーセント

(期限の利益) 真里谷が被告に対する債務の履行を怠ったときは当然に期限の利益を喪失する。

(三) 被告は、本件各消費貸借契約締結当時、前記真里谷カントリー倶楽部の敷地のうち真里谷の所有する千葉県木更津市茅野字小高野一三三九番の四ほかの土地及びクラブハウス等の建物(以下、これらを「本件不動産」と総称する。)について、次のとおりの共同根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を有していた。

(極度額) 二〇〇億円

(債権の範囲) 消費貸借取引、リース取引等契約、売買取引、賃貸借取引等

(遅延損害金) 年一四・六パーセント

3  原告と被告との間の協調融資契約の締結

(一) 原告は、平成二年七月三一日、被告から本件消費貸借契約(一)に基づく貸金債権(元本三五億円のほか、利息及び遅延損害金を含む。)を本件根抵当権のうち極度額四二億円に相当する部分とともに大要次の約定の下に譲り受け、その対価として被告に三五億円を支払った。(以下、この契約を「本件協調融資契約(一)」という。)

(1)  被告は、自己の名義により、原告の計算で、善良なる管理者の注意をもって本件消費貸借契約(一)に基づく貸金債権及び本件根抵当権を保全し、その権利を行使する。

(2)  被告は、右貸金の元利金及び遅延損害金を回収したときは、原告に対し、右回収金をその都度遅滞なく支払う。

(3)  被告は、前記権利の保全及び行使に関する重要な事項については、あらかじめ原告と協議し、これにより決定されたところに従って行う。

(二) 原告は、同日、被告との間で、本件消費貸借契約(二)に基づく貸金債権(元本四〇億円のほか、利息及び遅延損害金を含む。)について、大要次の約定の下に、内部的には原告と被告がこれを各二分の一の割合で準共有するとの合意をし、被告に対し、右持分割合に基づく負担金として二〇億円を交付した。(以下、この契約を「本件協調融資契約(二)」といい、同(一)と併せて「本件各協調融資契約」という。)

(1)  本件消費貸借契約(二)は、被告が真里谷に金員を貸し付けるという外形を取り、これに基づく貸金債権は対外的にはすべて被告に帰属し、被告が自己の財産と同一の注意をもってその保全及び権利行使を行う。

(2)  被告は、右貸金債権について元利金及び遅延損害金を回収したときは、原告に対し、その回収金から費用及び事務手数料を控除した残額のうち原告の持分割合に相当する金額を遅滞なく支払う。

(3)  被告は、右貸金債権に係る担保の取得、管理及び処分については、あらかじめ原告の同意を得て行う。

(4)  被告は、前記(2) の金員の支払を遅滞したときは、原告に対し、年一四・六パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

(5)  本件根抵当権の処分等により回収した金額については、二四億円の限度で本件消費貸借契約(二)に基づく貸金債権に優先的に充当する。

4  本件根抵当権の実行による競売の経緯等

(一) 被告は、平成三年六月下旬ころ、原告に対し、真里谷の資金繰りが悪化している旨の報告をした。

(二) 真里谷は、平成三年七月二〇日(同日が土曜日のため実際は二二日)を期限とする利息の支払を怠り、同日の経過により本件各消費貸借契約について、いずれも期限の利益を喪失した。

他方、被告は、同年七月ころから真里谷の財産に対して仮差押えをして債権回収のための方策を採っていたが、真里谷の再建は不可能であると判断し、同年八月二日、原告に対し、同月中に本件不動産について競売を申し立てるとの意向を示した上、同月三〇日、同年九月二日をもって競売を申し立てるとの報告をした。

(三) 被告は、同日、千葉地方裁判所木更津支部に対し、本件根抵当権に基づき本件不動産の競売を申し立てたところ、同月九日、同支部により競売開始決定がされた(以下「本件競売」という。)。

(四) そこで、被告は、そのころ、原告に対し、右の次第を報告するとともに、競落予想価格を告げた。

(五) 被告は、同年九月一七日付けで自社及びその関連会社の出資により有限会社ミューズを設立していたが、平成四年五月二九日、右会社を株式会社に組織変更してその商号を株式会社ミューズ(以下、この組織変更の前後にかかわらず「ミューズ」という。)とするとともに、自己の一〇〇パーセント子会社とした。

(六) 被告は、同年一月一六日、原告に対し、本件不動産について評価人による評価額は被担保債権額を下回る約一二〇億円であり、裁判所が最低売却価額を幾らに設定するかが問題であること、被告は関連会社に落札させることも考えていることなどを報告したところ、原告は、これに対し、回収は被告に任せると答えた。

(七) 被告は、同年二月一三日、原告に対し、本件不動産の最低売却価額が被担保債権額を下回ることが予想されたため、これを自己競落するか、あるいは買受人となる第三者を探す予定であることなどを報告した。

(八) 原告は、同年二月二一日、被告に対し、競落のための受皿会社に対する出資には応じられないこと、買受人となる会社に融資するとしても、本件各協調融資契約における原告の負担部分である五五億円の範囲内としてもらいたいことを伝えた。

(九) 裁判所は、同年五月一一日、本件不動産の最低売却価額を一一一億二三六七万円、入札期間を同年六月四日から同月一一日までとする旨決定したことから、被告は、原告に対しその旨を報告した。

(一〇) 被告は、同月一三日、原告に対し、被告側において入札することを考えているが、その価額は未定であることを告げた。

(一一) 被告は、同年六月上旬、原告に対し、競落した場合に納付すべき代金に充てるために極めて長期かつ低利の融資を要請したところ、以後、原告側では住友生命が被告との間の交渉に当たることになった。

(一二) 被告は、同月二五日、ミューズに二〇八億円で本件不動産を競落させた上、同年七月一三日、同社に対して二〇九億円を貸し付け、本件不動産の競落代金としてそのうち二〇八億円を納付させた。

(一三) 同年八月一八日、本件競売において、被告に対し一六六億五九五七万六五八八円、被告の関連会社である中央信販リアルエステート株式会社(以下「中央信販」という。)に対し三九億八〇〇〇万九九一一円が配当され、被告はこれを本件各消費貸借契約に基づく真里谷に対する貸金債権に充当した。

二  争点

被告が本件競売において配当金を受領して本件各消費貸借契約に基づく貸金債権に充当したことは、原被告間の本件各協調融資契約に定められた貸金債権の回収に当たるか。

三  争点に関する当事者の主張

1  被告

(一) 本件協調融資の経緯

(1)  真里谷は、平成二年七月当時においては、真里谷カントリー倶楽部を既に開業し、ザ・カントリークラブ・グレンモア及びゴルフ・アンド・カントリークラブ・グランマリヤのゴルフ場を造成していた。

(2)  また、真里谷は、このころ、千葉県本埜町に開設するゴルフ場(以下「本埜ゴルフ場」という。)に係る開発計画及び右グレンモアゴルフ場の隣地における民間病院や高齢者介護付住宅団地を開発するサンクス計画に着手しており、その土地買収資金を調達するため、前記(1) の各ゴルフ場の用地及び設備を担保として融資を受けることを希望していた。

(3)  そこで、被告は、真里谷が本埜ゴルフ場の会員募集による入会金及び預託金を原資として返済することを予定して、本件消費貸借契約(二)を締結した。

(4)  他方、被告は、同年七月ころ、原告に対し、真里谷に対する貸付金の一部につき、原告から被告に資金を拠出し、真里谷に対する貸付に伴う利益と回収不能の危険とを分担する本件各協調融資契約の締結を申し入れた。被告は、その際、返済原資は本埜ゴルフ場の会員に応募した者から支払われる入会金及び預託金であることを説明したところ、原告がこれに賛同して本件各協調融資契約の締結にまで至ったのである。

(二) 本件競売の経緯

(1)  被告は、平成三年二月ころから真里谷の経営方針等に疑念を抱いてその資力等を調査し、原告との間で真里谷からの債権回収に関する話合いをする機会を持つようになったが、真里谷が同年五月ころから被告に対する債務の支払を怠ったことから、原告に対し、真里谷が破綻状態にあることを報告し、同年六月二八日、原告とともに真里谷に対する債権回収の方法について検討した。

(2)  被告は、真里谷が平成三年七月二〇日に支払うべき本件各消費貸借契約に基づく利息の支払を怠ったので、原告に対し、真里谷に対する仮差押え等の保全措置を執るべきか、本件根抵当権の実行による不動産の競売を申し立てるべきかについて相談するとともに、ゴルフ会員権の相場及び予想される会員数に照らして本件不動産の価値は約二〇〇億円と見込まれること、競売申立てによる費用を原告にも負担してもらいたいこと、さらに、自己競落する場合には受皿会社に競落させることにしたいので、受皿会社に出資してもらいたいことなどを申し入れた。

これに対し、原告は、住友生命の事実上の管理下にあり、自らの判断だけで処理することはできないし、表立って債権回収を行うことは望まないとの理由で、いずれの申入れにも応ぜず、債権の回収方法及び競売を申し立てるか否かの判断は被告に任せるとの回答をした。

(3)  そこで、被告は、同年九月二日、自己の判断で本件不動産の競売を申し立て、同月一七日、真里谷カントリー倶楽部の敷地のうち真里谷が所有していない部分の買収整理のためミューズを設立し、さらに本件不動産を競落する場合に備えて、平成四年五月二九日、ミューズの増資に際して、同社を被告の一〇〇パーセント子会社とした。

(4)  原告は、本件競売申立後、買受けの申出をする第三者が現れるか、自己競落の必要があるか、必要があるとすればその資金はどのようにして調達するかなど、真里谷に対する債権回収に興味を示したので、被告は、原告に対し、本件競売の進展状況を説明してその検討材料を提供した。

(5)  被告は、平成四年二月ころ、原告との間で、本件競売において自己が買受けの申出をすべきか否か、申出をする場合の入札価格をいくらにするかなどについて検討した際、原告に対し、本件不動産の最低売却価額が低額であるために暴力団系企業によって競落されて低額の配当を受けるよりは、被告側で本件不動産を競落して取得し、将来これを利用してゴルフ場を経営して新規の会員を募集した方が回収の原資確保という点で原告及び被告にとって有利であること、原被告が共同して受皿会社を設立してこれに競落させることが望ましいことなどを説明し、受皿会社に対する出資を要請したところ、原告は、これに対する出資を拒否したものの、実質的には真里谷に対する貸付けが受皿会社に対する貸付けに振り替えられることになるとの認識の下に、五五億円の範囲で受皿会社に対して融資することについて積極的態度を示した。

(6)  被告は、このような経緯から同年六月上旬には、受皿会社に対する約六〇億円の極めて長期かつ低利の融資を要請し、これが受け入れられれば被告が受領した配当金のうち約六〇億円を真里谷からの回収とみなして分配するとの申入れをしたところ、原告は、これに対し、親会社である住友生命が代わりに貸し付ける旨回答するとともに、競売の手続的事項については被告に任せることとした。

(7)  そこで、被告は、原告に対し、入札価格を約二〇〇億円にすることについて事前に報告してその了解を得て、同年六月九日にミューズに入札させ、同年七月一三日にミューズに対して二〇八億円を貸し付け、同社に競落代金として約二〇九億円を納付させた。

(8)  その後、被告は、住友生命との間で、ミューズに対する融資について交渉したが、住友生命がこれに難色を示したため合意には至らなかった。

(9)  被告は、本件各協調融資契約による回収に充てようとして、独力で新たに本件不動産を利用してゴルフ場経営に当たって会員を募集しようとしたが、真里谷らの妨害行為にあったため、本件不動産について様々な法的手段を講じた。

(10) 以上のとおり、被告は、本件競売開始当時から、原告に対して受皿会社、すなわちミューズに対する出資又は融資の要請をするとともに、競落前には被告がミューズを通して本件不動産を競落しても回収に当たらないこと、本件不動産上にゴルフ場を開設して会員を募集することにより得られた資金を原被告の回収の原資とすることを説明しており、原告もこれを了解して、競落を被告に委ねた。

(三) 結論

(1)  以上の事実経過に照らして考察すれば、本件競売手続による被告への配当は、被告が子会社であるミューズに対して貸し付けた資金が環流したものにすぎないとみられるから、本件協調融資契約による回収には当たらないというべきである。

(2)  この点、仮に、本件不動産を債権者である被告自身が自己競落したとすると、競落代金の二割の保証金の納付は別として、優先順位にある被告の被担保債権と競落代金は相殺されて競落代金を納付する必要はなく、競落代金が配当金として債権者に返済されることもなく、実質的に被告が本件不動産の代物弁済を受けたにすぎないこととなるから、これが本件各協調融資契約にいう回収に当たらないことは明らかである。本件では、被告が自己に代えて一〇〇パーセント子会社であるミューズに競落させたため現実に被告の出捐に係る二〇八億円が納付されて約二〇六億円が被告らに配当されたのであるが、被告が自己競落した場合と同視できるから、回収に当たらない。

ただし、被告は、原告からの強い要請を受けて原告又は住友生命からミューズに対し極めて長期かつ低利の融資を受けることができるならば、配当金を真里谷からの回収金とみなして原告に支払ってもよいと考えていたのであり、配当金が回収に当たるとして原告に支払われるか否かはミューズへの新規融資がされるか否かに左右されるという事情の下にあった。

(3)  しかるところ、右新規融資が実現しなかった以上、被告が受けた配当金が、本件協調融資による回収に当たるとみなして原告に支払われると解すべき余地はない。そして、本件各協調融資契約における実質的な回収は、新規の会員権の募集によるしかなく、そのことは原告と被告が共通して認識していたのである。

2  原告

(一) 本件各協調融資契約締結の経緯

原告が被告から申込みを受けた本件各協調融資契約の締結を承諾したのは、被告から、これに基づく融資について、ゴルフ場の会員募集によって集める資金のほか、真里谷が保有している多額の有価証券の売却代金もその返済原資となるとの説明があり、これに加え、原告の融資金が二〇〇億円の根抵当権によって全額担保されているとの確認が取れるなど、回収が確実にできることが見込まれたからである。

(二) 本件競売の経緯等

(1)  被告は、本件各協調融資契約において債権管理、保全、回収等を担当し、また、真里谷に対して全体で三五九億円以上の債権を有しており、本件不動産のみならず真里谷が保有していた他のゴルフ場用地等についても競売を申し立て、真里谷に対する全債権を回収する必要があったことから、主導的に本件競売申立手続を進めていたところ、原告に対しては、本件不動産の競売申立日の一か月前である平成三年八月二日に初めて右の競売申立てをする予定である旨告げ、同月三〇日、同年九月二日をもって正式に競売の申立てをすると連絡したのであって、それまでの間に、競売申立てをすべきか否か、競売申立ての費用をどのように負担するか、自己競落をすべきか否かなどについて相談をしなかったし、協力を要請することもなかった。

(2)  また、被告は、同年九月二日、原告に対し、本件不動産につき競売申立てをしたとの連絡をするとともに、第三者が競落することにより原告の負担分をすべて回収することができると説明した。

(3)  被告は、本件不動産の評価額が約一二〇億円とされた後、原告に対し、この金額では第三者に低廉な価格で競落されるおそれがあるので、平成四年二月一三日、原告に対し、買受人となる第三者を探すのと並行して、自己競落の場合は被告が新会社を設立して原告の出資を求め、これを通じて競落したいとする提案を行った。これに対し、原告は、同月二一日に右新会社に対する出資には応じられないと返答し、被告はこれを了承した。

(4)  次に、被告は、同年五月一三日、原告に対する入札の説明の際、被告ないしその関連会社が落札した場合は原告の持分について被告に融資して欲しいと要望し、さらに、同年六月一日、原告の負担分である五五億円について、長期かつ低金利で融資してもらいたいと要望したが、原告は、当時既に親会社である住友生命の管理下にあり、原告自身が融資を行うことはできなかったためこれを断り、住友生命に右要望を伝え、その後は住友生命が窓口となり被告と交渉した。

(5)  被告が本件競売において配当を受けた後、住友生命は、被告との交渉を経て、同年八月二六日、被告に対し、五〇億円を、金利は長期プライムレートからマイナス〇・三パーセント、期間は三年として貸し付けるという提案をしたところ、被告は、同年九月一日にこれを受け入れ、翌日の原告からの回収金の支払要求に対しては、支払日を確定して連絡すると返答した。

(6)  しかし、同月三日になって、被告が、住友生命に対し、同社からの融資の相手方を被告ではなくミューズにしてもらいたい、融資額についても五〇億円に更に上積みしてもらいたいとの要求をしたため、住友生命は、これには応じられないとの返答をし、その後も、原告及び住友生命は、被告との間で融資に関する交渉を継続したが、合意には至らなかった。

(7)  このように、原告及びこれを実質的に管理する住友生命が、被告との間で、被告に対する融資について協議をしていたところ、被告が突然ミューズに対する融資を提案したため合意に至らなかったのである。また、原告と被告は、本件当時、本件競売により回収を終え、これと切り離して原告又は住友生命から被告に対して融資をするという認識を持っていた。

(三) 結論

(1)  一般に、担保不動産の競売手続において、債権者が、その関連会社に競落させ債権者が配当を受けた場合はもちろん、担保不動産を自己競落して配当金と競落代金の差引納付がされる場合であっても、請求債権に配当金が充当され、右債権が消滅したときは、その限度において債権が回収されたことになる。本件においても、被告は、配当金を真里谷に対する債権に充当している以上、回収に当たる。

被告は、原告との間で、本件不動産上にゴルフ場を開設してゴルフ会員権を売ることが実質的回収であると主張するが、そのような主張は不合理であり採り得ない。

(2)  また、被告は、本件不動産の競売申立に際して、真里谷の本件各消費貸借契約上の債務の返済原資として本件不動産を利用してゴルフ場を開設し、新規会員から支払われる入会金等をこれに充てることを合意した旨主張するが、そのような合意は成立していない。元来、本件競売は被告が主導して進めたものであり、原告は、被告から真里谷に対する債権が全額回収になるとの説明を受けたものの、原告主張のような方法で回収原資を確保するとの説明は受けていないし、自己の債権全額の回収ができれば方法は問わないとの考えから、競売申立てに異議を述べず、また、被告から自己競落の話があった際にも、第三者に低廉な価格で競落されるよりも自己競落した方が全額の回収につながり、原告及び被告の双方に有利であるとの説明があったため異議を述べなかったにすぎない。

仮に、被告から本件不動産を自己競落しても真理谷からの回収には当たらない、あるいは、被告主張のような方法で回収原資を確保する等の説明があったとすれば、原告は、被告による競売申立てを認めることはなかった。

(3)  さらに、被告は、本件競売による配当が回収に当たるとするためには原告がミューズに融資することにより本件競売の競落代金を負担することが前提であるとも主張するが、原告が競売代金を負担したとしても配当が回収に当たることに変わりはなく、原告は、そのようなことに同意したこともない。もともと、原告と被告は、本件当時、本件競売により、真里谷に対する債権の回収は終了し、回収の問題とは別個の事項として、原告又は住友生命から被告に対して融資をすることとするという認識があったのである。

第三当裁判所の判断

一  争点に対する判断の前提となる事実経過については、証拠(甲第一三号証、第一五ないし第四三号証、乙第一三号証の一、二、第一四号証の一、二、第四一ないし第四三号証、証人中島紘平、証人小山俊司、証人水澤郁夫及び証人赤井久男の各証言)及び弁論の全趣旨によれば、前判示第二の一の争いのない事実のほか、次の各事実が認められる。

1  被告は、真里谷が株式投資の失敗等により資金繰りが悪化したため、平成三年六月二八日、原告に対し、その旨を報告するとともに、真里谷の代表者を交代させ、その所有する不動産の仮差押えを申し立てるなどの強硬な手段を執ることを検討していると告げ、実際に真里谷の不動産の仮差押えをした後、同年七月中旬ころ、右仮差押えの事実がマスコミに漏れたとしても、原告が真里谷に対する貸金債権の持分を有することを明らかにしないなどと述べた。

2  また、被告は、同年八月上旬ころ、真里谷の経営陣に対して、その経営権の譲渡を要求したが、これを拒否されたため、本件競売の申立てを決意した。

3  被告は、原告に対し、同年九月ころ、競売により売却されるまでの期間として一年半ないし二年ほどを要するが、本件不動産は、ゴルフ場の造成により一口三〇〇〇万円の新規ゴルフ会員権を一〇〇〇口販売し、約三〇〇億円の収益を生ずるので、修理費用等を差し引いても、その売却価額は二〇〇ないし二五〇億円になるから、本件各協調融資契約に係る債権は全額回収できるとの見通しを示した後、同年一一月二〇日、本件競売等により債権の回収を推進する方針には変わりがない旨報告し、平成四年一月一六日、評価人による本件不動産の評価額等を連絡した際、真里谷との間で和解による解決をすることも考えられるものの、本件競売によりなるべく債権全額を回収し、未回収分についても他の物件による回収を図る意向であるとの見解を表明し、さらに、同年二月一三日に本件不動産の自己競落の予定を報告した際、原告に対し、従来どおり法的手続を進めて債権の回収を図るが、売却価格が債権額を下回るようであれば、被告が防衛的に自己競落により本件不動産を取得し、これをゴルフ場として整備した上で会員権を販売したり、第三者に売却したりする方策を考えていること、その際の入札価格としては採算のとれる二四〇億円を一応の案とすること、入札のために被告が新会社を設立する場合には、原告からの出資を求めることなどを伝えた。これに対し、原告は、被告による自己競落若しくはその子会社等による競落がされた場合、又は被告の探した買受人が競落した場合に、競落代金の一部を融資することを検討した。

4  また、被告は、同月二一日、競落の受皿会社に対する出資を断られた際、原告に対し、買受人となる第三者を探すのは困難であるので、自己競落をする可能性が高いが、その場合には、旧真里谷の経営するゴルフ場の会員にゴルフ会員権を新たに割引販売しても採算がとれるなどと報告した。

5  他方、被告は、同年三月ころまでに、本件不動産を競落し、又はこれを買い受けてゴルフ場を経営する会社を探した上、これと交渉を持ったが、結局、右計画の実現に適当な会社を見つけることはできず、同年三月一六日、原告に対し、本件競売に関する以後の予定及び入札するか否かの方針が未定であることを報告した。

6  被告は、原告に対し、同年五月一三日、原告が本件不動産を競落するための新会社に対して出資できないことについては了承したものの、被告側で落札した場合に原告の真里谷に対する債権額に相当する金員の融資を受けたい旨要請し、さらに、同年六月二日ころ、弁護士八名を本件協調融資に係る債権の回収に当たらせるなどの費用がかかっているため、原告が経費を負担をしないのは不公平であるとして、長期かつ低金利の融資を受けたい旨要請し、同月五日ころ、被告が本件不動産の入札のために二〇〇億円を支出してほぼ同額の配当を受けた上、真里谷に対する債権額のうち原告の持分に相当する五五億円及びこれに対する遅延損害金の弁済として支払う場合には、被告が負担する回収のための競落用資金合計二二〇億円のうち六六億円を長期かつ低金利で融資し、経費として二億四〇〇〇万円を原告において負担することを要請する旨の書面を示し、その内容を具体的に説明した。

7  原告は、同月九日、被告から、本件競売において二〇〇億円を超える金額で入札したこと、本件不動産を利用したゴルフ場を開場するには約八〇億円を要すること、配当後速やかに原告に対し五五億円及び利息を支払うことを告げられ、競落代金の資金を融資する条件については、元金額は五五億円、期間は三年間、利息は年五・五パーセントとする案を伝えた。そして、そのころから、被告においては、審査部でなく財務部が融資に関する交渉に対応することとなり、原告においては、その親会社に当たる住友生命が交渉を担当することとなり、被告の財務部と住友生命との間で融資の条件に関する交渉が開始された。

8  原告は、同年九月三日、被告から、「本件競売による本件会社に対する貸金債権の回収金の原告に対する分配金計算書」と題する書面を示され、住友生命から融資を受けるのと同時に配当金を支払うと告げられたのに対し、右融資に先立つ二日以内に本件競落における配当金五九億四六二六万八四九一円を支払うよう求めるとともに、被告の支出した回収費用五四二六万六一三四円を支払う用意があることを告げたところ、被告は、原告に対し、同日、住友生命からの融資金額と融資先をミューズにすることについての最終的な調整を要するので、翌日返答すると告げ、そのころ、ミューズの本店所在地、資本金、役員、目的、設立年月日等を記載した書面を交付し、その後、同月四日、原告に対し、住友生命による貸付先をミューズとし、金額を五〇億を超える金額にすることを要請したが、原告及び住友生命はこれを拒否した。

二  前判示第二の一3の本件各協調融資契約の内容に照らして考察すれば、被告は原告の計算で本件根抵当権を行使し(本件協調融資契約(一))、担保権の管理及び処分については原告の同意を得て行う(本件協調融資契約(二))とされており、本件根抵当権は、その経済的な実質関係においては原告が密接な利害関係を有し、いわば原告の被告に対する債権を担保する機能をも兼ね備えているとみることができるのであるが、法形式上はあくまでも右契約の前提となる本件各消費貸借契約に基づく被告の真里谷に対する貸金債権を担保し、これを被告が実行するものとされていたのであるから、被告が本件根抵当権を実行し、その競売手続において配当金を受領して真里谷に対する債権に充当した場合には、法律上は被担保債権について満足を得たことになるのはいうまでもない。このような法律上の観点からみれば、右配当金の受領は一般に本件各協調融資契約における債権の回収に当たり、被告は原告に対し本件協調融資契約(二)係る持分については優先的に、本件協調融資契約(一)に係る持分についてはその割合に従って、それぞれ約定の金員を支払わなければならないことになる。

もっとも、本件においては、被告が主張するように、本件競売において受領した配当金は、被告の子会社であるミューズが被告から貸付けを受けて納付した金員を原資とするものであって、実質的には被告の支出した金員が環流したにすぎないとみることができないわけではなく、かかる場合には債権の回収に当たらないとの考え方もあり得ないわけではない。

しかしながら、前判示第二の一4の各事実によると、被告はミューズに対して二〇九億円の貸金債権を取得し、その子会社であるミューズは本件不動産の所有権を取得しているのであるから、単純に被告の自己資金が代金として納付された上、配当金として環流したと評価することはできない。そして、本件競売において配当金を受領したことが債権の回収に当たらないとすると、原告にとっては、本件各協調融資契約に従って被告に本件根抵当権の行使を任せていたところ、実質的には自己の有する五五億円の債権をも担保する機能を有する本件根抵当権が消滅したにもかかわらず、本件根抵当権により把握していた担保価値により債権の満足を受けることができないという結果とならざるを得ない。ところが、本件各協調融資契約の内容をつぶさに検討しても、あるいはその他関係各証拠を精査しても、原告と被告との間において、原告がミューズの取得した本件不動産について被告を介して従前と同様の担保的効力を有する権利を行使し得る根拠となる合意を見出すことはできない。

したがって、本件根抵当権が実行されて被告がその配当金を受け取ったのにこれが債権の回収に当たらないという事態は、本件各協調融資契約において想定していなかったと考えざるを得ない。

三  ところで、被告側で本件の処理を担当した水澤郁夫は、被告と原告との間では、原告が本件不動産を競落した会社に対して融資をするなど被告が競落のために拠出した資金について原告が応分の負担した場合に限って、本件競売における配当金の受領が本件各協調融資契約における債権の回収に当たるとみなして、被告に対してその持分に相当する元本五五億円及び利息を引き渡すこととされていたのであって、本件競売における配当金の交付が債権の回収に当たらないことは共通の認識であった旨証言する。

しかしながら、これに反し、原告側で本件の処理を担当した中島紘平及び小山俊司は、証人尋問及び陳述書(甲第四二、第四三号証)において、原告としては、被告又はその子会社等に対する融資に関する交渉が始まってからも競落代金を融資することと本件各協調融資契約における債権の回収とは別個のものであると考えており、自己競落であっても本件競売における配当金の交付が債権の回収に当たるという認識であった旨供述する。そこで、右の各供述について検討するに、前判示一の事実経過に照らせば、被告は本件競売の申立当時は本件不動産を自己競落することを予定しておらず、原告と被告は本件不動産が二〇〇億円を超える価値を持つからそのような価額で競落されることにより本件競売手続を通じて債権の回収が図れると認識していたことが窺われるところ、その後、原告の右認識が変化したことを認めるに足りる証拠はない。また、最終的に原告に代わり被告との間で融資の交渉を行ったのは本件各協調融資契約の当事者でない住友生命であること、被告が原告による融資先として考えていたのは本件各協調融資契約の当事者でなく、本件不動産を競落してゴルフ場を整備するものとされていたミューズであることに徴すると、原被告間では競売代金の負担問題が本件協調融資契約の当事者以外の者の問題として議論されていたとみられ、債権の回収の問題と融資の問題が別個のものとして取り扱われていたと考えざるを得ない。

そうすると、右中島及び小山の各供述は前記の水澤証言と比してその信用性が損なわれるものではなく信用することができるというべきである。

もっとも、原告作成に係る平成四年二月一四日付けの報告書(甲第二七号証)には、被告による自己競落のための資金を負担した場合には真里谷への融資が落札会社への融資に切り替わる旨の記載があるけれども、その当時は、被告が自己競落又はミューズ等の受皿会社に落札させるか、第三者に競落してもらうかを決定していなかったのであって、被告の内部で十分に検討したか否かについて疑問がある上、その記載の趣旨も明確であるとはいえないから、原告において被告が配当金を受領しても債権の回収として扱われないという認識があったということはできず、右記載をもって水澤の前記証言を裏付けるものとすることはできない。

なお、水澤は、その陳述書(乙第四四号証)において、本件競売で被告が競落代金を負担することなく、配当金を取得できるとすると、受皿会社が競落したと同時に原告のリスクが被告に移ることになり理不尽であると述べるけれども、原告が本件各協調融資契約において負担したリスクは真里谷に対する債権を回収できないというリスクであって、ミューズによる本件不動産を利用したゴルフ場の開発が成功しないと利益を上げられないというリスクとは質を異にするから、原告がそのリスクを負わないことを非難することはできず、右陳述書の記載をもって被告が配当金を受領することが回収でないことを基礎付けるものとはいえない。

以上によると原告が応分の負担をしない限り配当金の受領をもってを債権の回収とはしないことが原被告間で合意されていたと認めることはできない。

四  次に、前掲水澤は、本件各協調融資契約における債権の回収は、本件競売によって取得した本件不動産を第三者に売却して売買代金を得ることや本件不動産をゴルフ場として造成した上でゴルフ会員権を販売して預託金を得ることを意味するのであって、原告との間では被告が右売買代金又は預託金を得た場合にその金員を引き渡すことについては合意されていたと証言し、同人と同様に被告側の担当者であった赤井久男もこれに副う証言をする。

しかしながら、前掲小山及び中島は、被告から右のような説明を受けたことがないと明確に証言している上、水澤も同人が合意したという内容については、原告も理解しているとの考えから原告との間で議論したことすらないと証言しているのであって、このような曖昧な証言によって右合意が成立したことや共通の認識があったことを認めることは困難である。そして、ゴルフ場の造成という本件不動産の有効利用により収益を上げることは新たな事業の展開というべきものであるところ、本件各協調融資契約の締結当時においては、本件根抵当権を実行することにより債権を回収するという事態が生ずることは予想されないではないが、右のように新たな事業の展開により債権を回収することが想定されていたとまで解することはできない。しかも、本件不動産を所有するのは被告でなくミューズであり、本件不動産の売買代金やゴルフ会員権代金を取得するのもミューズであるから、本件各協調融資の主体でないミューズが金員を取得することが本件各協調融資契約における債権の回収に当たるとすることも不自然である。

そして、原告が被告に対して送付した本件各協調融資契約に基づき回収金による支払を求める平成五年三月一日付けの書面(甲第一三号証、乙第一一号証)には、原告において被告が本件競売を通じて真里谷に対する債権を回収したことが原告グループ内における資金の移動にすぎず、本件不動産を利用したゴルフ場の経営により実質的に資金が回収されるという点について認識していた旨の記載があるが、他方、同書面によれば、その認識は被告からの競落代金の負担の要請について理解を示すことの根拠にすぎず、原告にとっては本件競落手続における配当金の受領が本件各協調融資契約における債権の回収に当たることが基本にあることを明記しているのであるから、同書面の記載によって、原告において被告が本件競落の配当金による支払をする必要がないとの認識を持っていたと認めることはできない。

以上の次第で、水澤及び赤井の右供述を採用することもできない。

五  さらに、前掲水澤は、本件競売によりミューズが本件不動産を取得したことが代物弁済にすぎないとして、被告が原告に対する配当金による支払を拒む理由を正当化する証言をする。

しかしながら、ミューズは被告と法人格を異にする子会社であるから、ミューズが本件不動産を取得したとしても、法律的に代物弁済と評価できないことは明らかである。そして、仮に実質的には代物弁済と同視できる実体があるとしても、これが本件競売における配当金の受領が回収に当たることを否定する根拠となり得るとは考えられないところである。

六  以上の次第で、本件競売において被告が配当金を受領したことが、回収に当たらないとする被告の主張を裏付けるような事実関係は存せず、前判示のとおり、被告において真里谷に対する債権の満足を得たものとして回収に当たるというべきである。

七  よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判断する。

(裁判長裁判官 齋藤隆 裁判官 内堀宏達 裁判官 小川嘉基)

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