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東京地方裁判所 平成10年(ワ)6838号 判決

原告

株式会社玉屋

右代表者代表取締役

野嶌功一

右訴訟代理人弁護士

守屋文雄

沼口直樹

被告

右代表者法務大臣

保岡興治

右指定代理人

黒澤基弘

外六名

被告

八王子市

右代表者市長

黒須隆一

右訴訟代理人弁護士

木下健治

右指定代理人

岡部正明

外五名

主文

一  被告国は、原告に対し、金八七六万円及びこれに対する平成一〇年四月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告国に対するその余の請求及び被告八王子市に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の五分の一と被告国に生じた費用の五分の一を被告国の負担とし、原告及び被告国に生じたその余の費用並びに被告八王子市に生じた費用を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、原告に対し、連帯して金三九九八万八六〇〇円及びこれに対する平成一〇年四月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が、被告国の公務員及び被告八王子市の公務員が都市計画道路の位置について適切な説明をしなかったため、都市計画道路に掛かる土地をそれに掛からないものと誤信して購入したことにより損害を被ったとして、国家賠償法一条に基づき、被告らに対して損害賠償を求める事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、建築工事請負、不動産売買等を業とする株式会社である(甲六八、弁論の全趣旨)。

2  東京都知事は、平成九年二月二四日、都市計画道路3・3・2号(以下「東京一六号線」という。)及びこれに関連する八王子市都市計画道路3・3・10号東京環状線(以下「東京八王子線」という。)等五件の都市計画変更(以下「本件都市計画変更」という。)をし、その旨の告示を行った。

本件都市計画変更前においては、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)の南西の角にわずかに掛かる位置に、東京一六号線の支線2が通る計画であったが、同変更により、本件土地のほぼ全域に同線の支線1が掛かることとなった。

3  原告は、有限会社日宅(以下「日宅」という。)の代表取締役である西川康司(以下「西川」という。)から、平成九年三月下旬ころ、建売用分譲地として本件土地を紹介された(甲六八、証人野嶌、同西川)。

4  原告の取締役である野嶌英男(以下「野嶌」という。)は、同年四月上旬ころ、建設省関東地方建設局相武国道工事事務所(以下「相武国道工事事務所」という。)を訪れ、同事務所調査一課計画係所属の建設技官甲野一郎(以下「甲野」という。)に対し、本件土地に都市計画道路が掛かるか否かを質問した(原告と被告国との間において争いがない。甲一一、六八、乙二、八、証人甲野、同野嶌)。

5  原告は、本件土地の所有者である峯尾栄一(以下「峯尾」という。)から、平成九年四月二五日、代金九二〇〇万円で本件土地を買った(以下「本件売買契約」という。)。原告は、峯尾に対し、同日、手付金として金五〇〇万円を、同年七月一〇日、残金八七〇〇万円をそれぞれ支払った。なお、本件売買契約の仲介人は、日宅、株式会社サンシティ・ホーム(以下「サンシティ・ホーム」という。)及びユニオン興産株式会社(以下「ユニオン興産という。)であった(これら三社を総称して、以下「日宅ら」という。)(甲一ないし六、一二、六八、証人野嶌、同西川)。

6  原告は、右同日、本件土地の引渡し及び所有権移転登記を受けた後、本件土地を別紙物件目録二1ないし5の各土地(以下「一号区画」ないし「五号区画」という。)及び同6の土地(以下「本件私道」という。)に分筆した(原告と被告国との間において争いがない。甲一ないし六、六八、八一、八二、八三の1及び2、八四、八五、証人野嶌)。

7  原告は、同年八月二〇日、本件土地に都市計画道路が掛かるという指摘を被告八王子市から受けた(原告と被告八王子市との間において争いがない。甲六八、証人野嶌)。

二  争点

1  被告八王子市は、原告に対し、損害賠償責任を負うか。

2  被告国は、原告に対し、損害賠償責任を負うか。

3  損害額

三  争点に関する当事者の主張<省略>

第三  当裁判所の判断

一  争点1について

原告は、被告八王子市都市計画管理室の職員が、平成九年三月下旬ころ、本件土地に都市計画道路が掛かるか否かを調査に来た西川に対して、都市計画図が二枚ありいずれが正しいかは分からないので、相武国道工事事務所で説明を受けるよう回答したのみであったと主張し、証人西川は、右主張に沿う証言をし、証人野嶌も西川からの伝聞として同様の証言ないし陳述(甲六八)をしている。

しかし、証拠(甲六八、証人野嶌、同西川)によれば、西川は、本件当時約一〇年にわたり、八王子市近郊の東京都日野市を本店所在地とする日宅の代表取締役として不動産売買の仲介等の営業活動をしていることが認められ、また、本件土地に都市計画道路が掛かるか否かを調査するために八王子市役所を訪れたと供述するところ、西川は、右調査のために訪れた八王子市役所の担当部署の名称を覚えていないばかりか、被告八王子市職員から見せられたとされる二枚の都市計画図において、都市計画道路と本件土地との位置関係の差異を認識することができなかった旨供述しており、およそ、経験のある不動産仲介業者が本件土地に都市計画道路が掛かるか否かという重要事項につき的確に調査したとは考えられないような供述をしていることからすると、証人西川の証言自体はなはだ信ぴょう性に欠けるものといわざるを得ない。

さらに、証拠(丙五、七、証人窪田)によれば、被告八王子市は、都市計画法に基づき都市計画決定がされた都市計画図等関係図書を公告縦覧に供する機関であること、八王子市役所都市計画管理室において、本件都市計画変更のあった同年二月二四日以降、本件都市計画変更後の都市計画図等関係図書をカウンターの下に準備し、同変更前の図面等は事務室内部の図面置き場に保管するという取扱いをしており、相談者が要望しない限り、職員が同変更前の都市計画図を出して説明することは通常なかったことが認められ、右事実によれば、被告八王子市職員が西川に異なる二枚の都市計画図を示し、いずれが正しいか分からないと述べたとする証人西川の前記証言は不自然というほかない。

そうすると、証人西川の前記証言及び西川からの伝聞を述べる証人野嶌の前記証言ないし陳述も採用することはできず、他に被告八王子市の職員に過失があったことを認めるに足りる証拠はないから、原告の被告八王子市に対する請求は理由がない。

二  争点2について

1(一)  争いのない事実、証拠(甲八、六八、乙二、八、証人甲野、同野嶌)及び弁論の全趣旨によれば、野嶌は、平成九年四月上旬ころ、相武国道工事事務所を訪れ、甲野に対し、本件土地付近の住宅地図を示しつつ、本件土地に都市計画道路が掛かるか否かを質問したところ、甲野は、野嶌の右質問に対し、本件都市計画変更前の都市計画図を示しつつ、本件土地には東京八王子線の支線が多少掛かるが、測量をしていないので、都市計画道路の位置は一ないし二メートルずれるかもしれないと説明したことが認められる。

かかる甲野の対応は、前記争いのない事実等一2のとおり、本件都市計画変更後、本件土地に東京一六号線の支線1がほぼ全域にわたって掛かることに照らすと、本件都市計画変更を看過して本件都市計画変更前の都市計画図を示して明らかに誤った説明をしたものであり、甲野には職務を行うについて過失があったと認められる。そして、証拠(甲八、甲一二、六八、乙二、証人野嶌、同西川)によれば、原告は、甲野の野嶌に対する右説明により、本件土地には都市計画道路が掛かるとしてもごくわずかであると誤信して、前記争いのない事実等一5のとおり、峯尾から本件土地を九二〇〇万円で買い受けたことが認められる。

(二)  被告国は、甲野が、右説明において、野嶌に対し、詳しいことは被告八王子市において確認した方がよいと回答したから甲野の説明内容に過誤があったとしても、同人には過失がないと主張し、証拠(乙八、証人甲野、同小俣)にも右主張に沿う部分がある。

しかしながら、そもそも甲野が誤った説明を行った以上、八王子市に確認した方がよいことを付け加えたとしても、甲野の過失を否定することはできないし、また、証拠(証人小俣、同窪田)によれば、相武国道工事事務所は、ある土地が都市計画道路に掛かるか否かという照会に対して、法令上の権限の有無に関わりなく事実上回答しており、ただ、それに伴う具体的な規制内容については、同事務所では把握できないので、被告八王子市に照会するよう回答していたこと、本件都市計画変更前の東京八王子線及び同変更後の東京一六号線の支線1の工事及び整備の事業主体として具体的な測量作業や用地買収を行うのはいずれも同事務所であるところ、右測量がされていない段階では、同事務所も被告八王子市も当該土地に都市計画道路がどの程度掛かるかを具体的に回答することはできないことが認められ、これらの事実関係に照らすと、甲野が、野嶌に対して、本件土地に東京八王子線の支線がどの程度掛かるかという被告八王子市においても回答できない事項を、あえて被告八王子市に照会するようにと回答するとはにわかに考え難い。したがって、前記各証拠はいずれも直ちに採用することはできず、被告国の右主張を認めることはできない。

(三)  また、被告国は、相武国道工事事務所は道路の建設、施工等を行う官署であり都市計画を所管する官署ではないから、本件土地に都市計画が掛かるか否かを回答する権限も義務も有しないこと、甲野の所属する調査第一課が東京八王子線を所掌することになったのは甲野が野嶌に対して右説明をする直前であったことなどの事情にかんがみると、甲野の説明が前記認定のとおり誤ったものであったとしても、国家賠償法上違法とまではいえないと主張する。

しかし、証拠(乙九、丙五、証人甲野、同小俣、同窪田)及び弁論の全趣旨によれば、被告八王子市は、本件都市計画変更がされた同年二月二四日ころ、都市計画法二〇条に基づき、同変更後の都市計画図等の図書を東京一六号線の支線1の工事及び整備の事業主体である相武国道工事事務所に送付し、そのころ同事務所はこれを受領しており、同変更により本件土地に都市計画道路が掛かることを認識することができたこと、同事務所では土地が都市計画道路に掛かるか否かについては事実上照会に応じて説明しており、例えば、同年四月当時本件土地の所在する東京都八王子市片倉以外に東京八王子線に関する照会が一日一件程度あったことが認められる。

右事実によれば、国道工事事務所は都市計画道路の工事及び整備の事業主体であり、都市計画の内容を知り得る立場にある上、同事務所の職員は事実上、土地が都市計画道路に掛かるか否かという照会に応じて説明している現状にかんがみると、たとえ右説明が法令上の根拠を欠くいわゆる行政サービスとしてされたものであるとしても、その説明に誤りがあれば、国家賠償法上違法であるといわざるを得ない。また、甲野の野嶌に対する説明時期と、東京八王子線に関する所掌事務の引継時期が近接していたという事情は、国家賠償法上の違法性を左右する事情とは到底なり得ない。

したがって、被告国の前記主張は理由がない。

2(一)  他方、被告国は、甲野が、平成九年四月二一日ころ、本件土地に都市計画道路が掛かるか否かを質問するために相武国道工事事務所を訪れた西川に対し、本件都市計画変更後の都市計画図を示して、本件土地のほぼ全域に東京一六号線の支線1が掛かる旨を説明したから、甲野の野嶌に対する説明の瑕疵は治癒されたか、又は、原告は本件土地のほぼ全域に都市計画道路が掛かることを知悉したといえると主張する。

(二)  甲野は、平成九年四月上旬と同月二一日ころの二回、相武国道工事事務所を訪れた者に対し、東京八王子線の拡幅工事について説明を行ったが、同月二一日ころの説明においては、本件都市計画変更後の都市計画図を示して、本件土地のほぼ全域に東京一六号線の支線1が掛かる旨を説明したこと、甲野は、その当時だれに対して説明を行ったか分からなかったが、同年八月二二日に野嶌が相武国道工事事務所を訪れた際、甲野が同年四月上旬に説明を行ったのは野嶌に対してであることが分かり、その際、野嶌において西川が四月の契約前に相武国道工事事務所に来たと言っていたので、西川の顔を覚えていないが、同月二一日ころ説明をしたのは西川に対してであると思うこと、相武国道工事事務所の職員で甲野以外に平成九年四月以降東京八王子線の拡幅工事について説明を求められた者はいないことを証言し、小俣も、同年八月二二日に野嶌が相武国道工事事務所を訪れた際、西川が同年四月二〇日ころ同事務所に来ているという話をしていたと証言する。

(三)  証拠(乙四、証人野嶌、同甲野、同小俣)によれば、甲野は、同年八月二二日、相武国道工事事務所を訪れた野嶌及び東山から誤った説明をしたことについて念書を書くように求められて、当初乙第四号証の書面を作成したこと、右書面には甲野において当初間違った都市計画図を見せて説明を行ったが、その後東京八王子線の拡幅工事について説明を求められた別の者に本件都市計画変更後の都市計画図を示して説明した旨の記載があることが認められ、右事実によれば、甲野が当初行った誤った説明後に、相武国道工事事務所を訪れ東京八王子線の拡幅工事について説明を求めた何者かに対し正しい説明を行ったことが認められる。

そして、証拠(甲一一、一二、乙一、三、七、証人甲野、同小俣)によれば、相武国道工事事務所における調査では、同年三月一日から同年四月末日までの間に本件土地に東京八王子線の支線が掛かるか否かを部外者に説明をしたのは、同月に甲野が対応した二回だけであったこと、本件売買契約に関して、日宅が原告に対し重要事項を説明したところ、重要事項説明書には「計画道路あり。(東京八王子線)」との記載のあることが認められ、右事実は、甲野の前記証言を裏付けるものであると考えられなくもない。

(四)  しかしながら、乙第四号証の念書には、甲野が本件都市計画変更後の都市計画図を示して説明した者が西川である旨の記載はないから、右念書の記載は、甲野が右説明をしたのが西川に対してであることを裏付ける証拠とはなり得ない。

また、証拠(乙一、乙九、証人甲野、同小俣)によれば、前記相武国道工事事務所における調査は、野嶌が甲野から受けた説明が誤りであったと抗議に行った同年八月二〇日以降に行われたものであるところ、同年四月当時、相武国道工事事務所には、来訪者及び電話の問い合わせについて記載する簿冊が存在していたにもかかわらず、かかる簿冊への記載は励行されていなかったことから、右調査は客観的資料に基づくことなく、職員からの聞き取りによってされたものであることが認められる。これに、前記1(三)認定のとおり、同月当時、東京八王子線に関する照会が一日一件程度あったことを併せると、右調査の結果自体にわかに採用できず、これを根拠に相武国道工事事務所の職員で甲野以外に平成九年四月以降東京八王子線の拡幅工事について説明を求められた者はいないと認定することができないばかりか、甲野が正しい説明を行った相手が西川であると判断する根拠とすることもできない。

さらに、甲第一二号証の重要事項書面の記載は、前記のとおり、「計画道路あり。(東京八王子線)」と記載されているのであり、「計画道路あり。(東京一六号線)」との記載ではない。そして、前記第二、一2及び第三、二1(一)に判示したところによれば、本件都市計画変更前においても、本件土地に東京一六号線の支線2が若干掛かっている可能性が高かったこと、甲野は、東京一六号線の支線を誤って東京八王子線の支線と説明したのであり、右事実によると、右重要事項書面の記載は、甲野の誤った説明を基にして記載されたと理解すべきであり、甲野が平成九年四月二一日ころに行ったとする本件都市計画変更後の都市計画図を示して、本件土地のほぼ全域に東京一六号線の支線1が掛かる旨を説明したことに基づいて作成されたとは認められず、そうすると、重要事項書面の記載をもって、甲野が西川に正しい説明を行ったことを裏付ける証拠とできないばかりか、かえって、右記載は、西川が甲野から正しい説明を聞いていないことを裏付けるものであるといわざるを得ない。

(五)  一方、西川は、相武国道工事事務所に行ったのは、平成九年三月に調査のために行ったのと同年九月に交渉のために行った二度だけであり、同年四月二一日ころに行ったことは否定する証言をしている。また、野嶌は、西川が相武国道工事事務所に行ったのは同年四月上旬であると聞いていること、西川から本件土地のほぼ全域に東京一六号線の支線1が掛かるとの説明を受けたことがないこと、野嶌が同年八月以降相武国道工事事務所に交渉に行った際、西川が同年四月中旬に右工事事務所に行ったと発言したことは覚えていないと証言している。

(六)  さらに、前記第二、一5ないし7の事実、後記三に認定する事実及び証拠(甲一二ないし二九、六八、八〇、証人野嶌)によれば、原告は、本件土地に都市計画制限が全域に掛かった場合の正常価格を二九二〇万円上回る九二〇〇万円で本件土地を購入していること、原告は、本件土地のうち一号区画を高瀬に売却した後の平成九年八月二〇日に被告八王子市から本件土地に都市計画道路が掛かるという指摘を受けて、速やかに既に本件土地の一部を売却した者に対しては、売買代金の減額の措置をとり、買付証明が提出されていた三号区画及び四号区画については、右各買付証明に記載された額よりも低い価格で売買契約を締結したことが認められる。右事実からすると、原告が、本件土地のほぼ全域に東京一六号線の支線1が掛かるということを認識した上で本件土地を購入したということは到底認定できない。

(七)  以上の検討によれば、甲野が平成九年四月二一日ころ、本件都市計画変更後の都市計画図を示して、本件土地のほぼ全域に東京一六号線の支線1が掛かる旨を説明した相手は、西川であるという事実を裏付けることができる客観的証拠は存在せず、右事実を証言する甲野及び小俣の各証言が存在するだけであるところ、一方、西川及び野嶌は、右事実を否定する証言をしており、さらに、前記(四)のとおり、西川が甲野から本件都市計画変更後の都市計画図を示して正しい説明を受けていないことが推認される事実も存在する以上、いまだ甲野及び小俣の各証言によって、甲野が本件土地のほぼ全域に東京一六号線の支線1が掛かる旨を説明した相手は、西川であるという事実を認定することはできないといわなければならない。

付言するに、仮に、甲野が西川に対し、右説明を行っていたことが認定できるとしても、前記(四)、(六)に認定した事実によれば、西川は、右説明を重要事項説明書には記載せず、原告において右事実を認識しないままに本件土地を買い受けたと認められるから、甲野の西川に対する説明をもって、甲野の野嶌に対する説明の瑕疵が治癒されたといえないし、原告において本件土地のほぼ全域に都市計画道路がかかることを知悉したと認定することはできない。

そうすると、被告国の前記主張は理由がない。

3  また、被告国は、種々の事情を挙げて、原告が、本件土地のほぼ全域に都市計画道路が掛かることを認識しつつ自己の危険において本件土地を買ったか、又は、原告には、本件土地に都市計画道路が掛からないと信ずるにつき重大な過失があるから、甲野の違法行為と原告の損害との間に因果関係がないと主張する。

原告が本件土地のほぼ全域に都市計画道路が掛かることを認識していたと認定できないことは、前記2(七)のとおりであり、被告が主張する前記第二、三2(二)(4)②、③、⑥の点は、後記三3に判示するとおり、原告の過失に基づく過失相殺として考慮すべき事項であり、原告に右過失が認められる事実によって、甲野の違法行為と原告との損害との間の因果関係を否定することはできない。

なお、前記第二、三2(二)(4)①の点は、前記1(二)のとおり認められず、第二、三2(二)(4)⑤の点は、証拠(甲三〇の1、乙一〇の2、調査嘱託の結果(近鉄不動産販売株式会社分))によれば、近鉄不動産販売株式会社は、平成八年五月ころ、仲介業者として本件土地について買付証明を出した直後に、本件土地に都市計画道路が掛かる可能性があることに気づき、右買付証明を撤回した事実が認められるが、右各証拠及び前記第二、一2の事実によれば、平成八年五月の時点は、本件都市計画変更前であって、本件土地に東京一六号線の支線2がわずかに掛かる程度であったところ、近鉄不動産販売株式会社は買主からの申出により、買付証明を撤回したというにすぎないのであり、右事実は、原告の過失を判断する上で何らかの意味を持つものとは解されない。

4 被告国は、原告主張にかかる損害に対応する利益を得ている峯尾及び本件土地につき適切な調査をしなかった日宅らに対して損害賠償請求等法的責任を追及し得る以上、前記1(一)認定にかかる甲野の野嶌に対する誤った説明と原告主張の損害との間には因果関係がないと主張する。

しかし、前記1(一)認定のとおり、原告が、甲野の誤った説明を信じて本件売買契約を締結し、後記三認定のとおりの損害を被ったことにかんがみると、仮に、日宅らが原告に対し右損害につき損害賠償義務を、峯尾が原告に対し瑕疵担保責任、不当利得返還義務等を負うとしても、かかる事実をもって、甲野の右説明と原告の損害との間の因果関係を否定することはできない。

三  争点3について

1  原告は、本件土地に都市計画道路が掛かることが発覚したことにより一号区画ないし五号区画の転売利益が減少したから、その減少額三九九八万八六〇〇円をもって、被告国が賠償すべき損害額であると主張する。

しかし、仮に、甲野が平成九年四月上旬ころ野嶌に対し本件土地のほぼ全域に都市計画道路が掛かるという正しい説明をしたとしても、客観的に本件土地に都市計画道路が掛かっているという事実には何ら変わりはないから、原告において、本件土地に都市計画道路が掛からないことを前提として転売利益を上げることはそもそも不可能であったといわざるを得ない。

したがって、右転売利益の減少をもって原告の損害とすることはできず、原告が、本件土地に都市計画道路が掛からないと誤信したことにより支出した本件売買契約における売買代金とかかる誤信をしなかった場合に本件土地購入のために支払ったであろう売買代金との差額に相当する額をもって、原告の損害とすることができるにとどまるというべきである。

そこで検討するに、証拠(甲八〇)によれば、本件売買契約当時における都市計画制限が全域に掛かることを前提とする本件土地の正常価格は、六二八〇万円であると認められ、右認定に反する証拠はない。したがって、本件売買契約において原告が峯尾に対して支払った九二〇〇万円と右六二八〇万円の差額である二九二〇万円が、甲野の誤った説明により原告に生じた損害であると認められる。

2(一)  これに対し、被告国は、原告は本件土地を分筆した一号区画ないし五号区画を本件土地の購入価格である九二〇〇万円を上回る合計一億一九九一万九三五〇円で転売しており、実質的に損害を被っていないと主張する。

しかし、原告が前記二1(一)のとおり、本件土地に都市計画道路が掛からないと誤信して本件売買契約を締結し、その売買代金を支払った時点で損害は確定しており、その後の転売利益は、原告の営業努力において得られたものであり本件損害とは関係がないものといえるから、原告の損害を評価するに際しては、右転売利益を考慮すべきではない。したがって、被告国の右主張は理由がない。

(二) また、被告国は、原告が本件土地の売主である峯尾や本件売買契約の仲介人である日宅らに対して損害賠償請求等の法的責任が追及できる限り、原告の損害は確定していないと主張する。

しかし、前記(一)のとおり、原告の損害は、本件売買契約を締結し、その売買代金を支払った時点で確定しているというべきであり、仮に、峯尾や日宅らが本件売買契約に関して損害賠償等の金銭支払義務を原告に対して負っているとしても、それが現実に履行されて損害がてん補されない限り、甲野の誤った説明により生じた原告の損害はそのまま残存しているというべきである。したがって、証拠(証人野嶌)によれば、原告が峯尾及び日宅らに対して法的責任を何ら追及していないことが認められる本件では、原告の損害額は、前記二九二〇万円で確定しており、被告国の主張は理由がない。

3  もっとも、前記二1(一)、(三)のとおり、甲野の誤った説明は、原告からの照会を受けて、相武国道工事事務所の職員として行政サービスの一環として行ったものにすぎないこと、甲野の説明においても測量をしていないことを前提に都市計画道路の位置が一ないし二メートルずれるかもしれないことを明示していること、原告は、本件土地の買主として、しかも、不動産売買業を長年営む会社であるから、本来自己の責任において本件土地に都市計画道路が掛かるか否かやその正確な範囲について調査すべき立場にあるし、その能力を有していたと認められること、原告は本件土地に都市計画道路が掛かるかもしれないことを認識していたのであるから、右の各点について、法令上、都市計画決定を告示し、都市計画図等の図書を公告縦覧に供する義務を有し、現に、前記一認定のとおり、本件都市計画変更後の都市計画図を備え付けて縦覧に供していた被告八王子市に対して、照会し、又は、八王子市において調査すべきところ、西川の説明を軽信して、自ら被告八王子市に照会をしたり、調査をするのを怠り、本件売買契約を締結しその売買代金を支払って、前記1のとおり、損害を被ったことを考えると、原告には、本件売買契約を締結するに当たって過失があるというべきであり、この過失を損害賠償額の算定にしんしゃくすべきである。

そして、右各事実に照らすと、七割の過失相殺をするのが相当であると認められる。したがって、被告国が賠償すべき損害額は、八七六万円となる。

四  結語

以上によれば、原告の本訴請求は、被告国に対し八七六万円及びこれに対する不法行為の後であり訴状送達の翌日であることが記録上明らかな平成一〇年四月一〇日から年五分の割合の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、被告国に対するその余の請求及び被告八王子市に対する請求は理由がないからこれを棄却し、被告国の仮執行宣言免脱の申立てはこれを認めることが相当ではないから却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・前田順司、裁判官・森田浩美、裁判官・成田晋司)

別紙物件目録<省略>

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