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東京地方裁判所 平成10年(ワ)7700号 判決 2001年2月22日

《住所略》

原告

片平公男

右訴訟代理人弁護士

桜井健夫

上柳敏郎

《住所略》

被告

奥田二郎

右訴訟代理人弁護士

田中清

右訴訟復代理人弁護士

井上朗

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、日本電気株式会社に対して、3411万4400円及びこれに対する平成10年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  原告は日本電気株式会社(以下「NEC」という。)の株主であり、かつ、従業員であった者であり、被告はNECの監査役であった者である。

NECは平成3年から平成5年にかけてNECの100パーセント子会社である株式会社エヌイーシー総研(以下「総研」という。)との間で業務委託契約を締結した。本件は、総研が実際には対価に見合う業務を行わなかったにもかかわらず、NECが総研に対して業務委託契約金名目で金銭を支払ったことによりNECに損害が生じたので右支払いはNEC取締役の善管注意義務違反行為に当たり、被告は取締役の右善管注意義務違反行為の監査を怠ったと原告が主張して、被告に対してNECに損害を賠償するよう求めた株主代表訴訟である。なお、総研の商号は、平成2年1月から平成5年6月までは「株式会社日本電気経営システム総研」であったが、以下では呼称はすべて「総研」とする。

二  争いのない事実

1  NECは、総研との間で、平成2年9月1日、次のとおりのコンサルテーション業務契約を締結した(以下「本件コンサルテーション業務契約」という。なお、平成5年3月19日に料金が一部改定された)。

(一) NECは総研に対し、左記コンサルテーション業務を委託し、総研はこれを引き受ける。

(1) NEC及びNECの指定する企業のマーケティング戦略、生産管理システム、ビジネスプランニングシステム等の研究開発、提案、コンサルテーション。

(2) 政治、経済、社会に対する調査、研究、提言。

(3) 企画、開発戦略スタッフのための情報サービス及び研修等。

(二) 総研が本業務に従事させるコンサルタントの料金は左記のとおりとする。

主幹研究員  1日当たり 20万円

主任研究員  1日当たり 15万円

研究員    1日当たり 10万円

(三) 総研は毎月末、各調査員の参加実績に基づいて料金を請求し、NECは翌月末に払うものとする。

2  NECと総研は、平成3年3月20日付の「調査業務委託に関する覚書」により、NECが総研に次の業務を委託し、業務の委託期間は平成3年4月1日から平成3年9月30日までとし、委託費用は合計2億円として、NECは総研に対して毎月3300万円、最終月は3500万円を支払うという内容の契約を締結した。

(一) NEC長期ビジョン策定プロジェクトに関連する調査について6000万円

(二) 産業調査について5400万円

(三) 一般経済社会調査について5400万円

(四) 情報サービス(金融・産業・コンサルティング)について3200万円

3  NECと総研は、平成3年9月20日付の「調査業務委託に関する覚書」により、NECが総研に次の業務を委託し、業務の委託期間は平成3年10月1日から平成4年3月31日までとし、委託費用は合計2億2600万円として、NECは総研に対して毎月4000万円、最終月は2600万円を支払うという内容の契約を締結した。

(一) NEC長期ビジョン策定プロジェクトに関連する調査について5300万円

(二) 産業調査について5400万円

(三) 一般経済社会調査について5400万円

(四) 海外市場調査について3300万円

(五) 情報サービス(金融・産業・コンサルティング)について3200万円

4  NECと総研は、平成4年3月30日付の「調査業務委託に関する覚書」により、NECが総研に次の業務を委託し、業務の委託期間は平成4年4月1日から平成4年9月30日までとし、委託費用は合計2億1000万円として、NECは総研に対して毎月4000万円、最終月は1000万円を支払うという内容の契約を締結した。

(一) NEC長期ビジョン策定プロジェクトに関連する調査について3700万円

(二) 産業調査について5400万円

(三) 一般経済社会調査について5400万円

(四) 海外市場調査について3300万円

(五) 情報サービス(金融・産業・コンサルティング)について3200万円

5  NECと総研は、平成4年9月30日付の「調査業務委託に関する覚書」により、NECは総研に次の業務を委託し、業務の委託期間は平成4年10月1日から平成5年3月31日までとし、委託費用は合計2億3000万円として、NECは総研に対して毎月4000万円、最終月は3000万円を支払うという内容の契約を締結した。

(一) NEC長期ビジョンフォローアップについて3000万円

(二) 産業調査について5400万円

(三) 一般経済社会調査について5400万円

(四) 海外市場調査について4600万円

(五) 情報サービス(金融・産業・コンサルティング)について4600万円

6  NECと総研は、平成5年3月30日付の「調査業務委託に関する覚書」により、NECが総研に次の業務を委託し、業務の委託期間は平成5年4月1日から平成5年9月30日までとし、委託費用は合計2億3000万円として、NECは総研に対して毎月4000万円、最終月は3000万円を支払うという内容の契約を締結した。

(一) NEC長期ビジョンフォローアップについて3600万円

(二) 産業調査について3900万円

(三) 一般経済社会調査について5400万円

(四) 海外市場調査について4600万円

(五) 情報サービス(金融・産業・コンサルティング)について4600万円

(六) 創研レポートについて900万円

7  NECと総研は、平成5年9月30日付の「調査業務委託に関する覚書」により、NECが総研に次の業務を委託し、業務の委託期間は平成5年10月1日から平成6年3月31日までとし、委託費用は合計2億2500万円として、NECは総研に対して毎月4000万円、最終月は2500万円を支払うという内容の契約を締結した。

(一) NEC長期ビジョンフォローアップについて3600万円

(二) 産業調査について3900万円

(三) 一般経済社会調査について5400万円

(四) 海外市場調査について4200万円

(五) 情報サービス(金融・産業・コンサルティング)について4500万円

(六) 創研レポートについて900万円

8  前記1のコンサルテーション業務契約はNEC社長及び総研社長との間で締結されたが、前記2ないし7の業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)は、NEC企画部長及び総研社長又は専務との間で締結された。

9  NECは、総研に対し、本件業務委託契約に基づき、所定の対価を支払った。

第三  当事者の主張

一  原告の主張

1  NECと総研間に業務委託契約の実体がないこと

NECは総研に対して前記の業務を委託し対価を支払ったが、総研はその対価に見合う成果物を作成提供していない。その根拠は次のとおりである。

(一) 原告の体験及び総研担当者の説明

原告がNECから総研に出向した翌月である平成6年8月、国税局の調査を受けているNECから総研に対して税務調査官に提示できる調査物をNECに持参するよう求めがあった。総研では、NEC以外の者からの委託に基づいて作成された書類の表紙を張り替え、NECの委託に基づいて作成されたかのごとく装った書類を作成し、これを原告がNECに持参した。その際、原告は総研の総務担当部長から毎年税務調査の度にこのようなことをしているという説明を受けた。

(二) 本件訴訟で取り調べられた成果物に実体がないこと

本件訴訟で取り調べられた成果物は、次のとおり、NECからの業務委託によって作成されたものではないもの又は本件業務委託契約の対価に到底見合わないものである。

<1> 「ソフトウェア業界調査」(甲六九)は、NECのC&Cソフトウェア管理本部が、傘下のソフトウェア専業子会社の業績を同規模の会社と比較考察し、グループの幹部会へ報告するために作成した資料である。右報告書は、NECの社内資料であり、総研が外部からの委託で作成する報告書としての体裁もない。

<2> 「独立系ソフトハウス成功の背景」(甲六七)は、総研調査グループ主任研究員相馬幹男が、総研の自主研究として作成したものであり、総研が外部からの委託に基づいて作成する報告書の体裁もなく、総研が作成したものではない。

<3> 「ソフト・サービス化に関する市場予測」(甲六八)は、NECのC&Cシステム事業グループ及びC&C基盤事業グループ、VAN事業グループが社内用に作成した資料を寄せ集めたものにすぎない。同報告書は、NECの社内資料のコピーを寄せ集めたものであり、一個の文書としての体裁もなく、まして、総研が外部からの委託で作成する報告書としての体裁もない。

<4> 「キーアカウント企業動向分析」(甲七〇)は、総研の新人研究員であった稲田由美子が、平成3年4月から同年6月までの3か月間、キーアカウント(重要顧客)に関する新聞記事を転記したにすぎない。なお、同報告書は唯一調査報告書としての体裁を整えているものであるが、このことは同報告書以外の文書が総研がNEC企画部の委託により作成したものではないことを示している。

右<1>ないし<4>は本件業務委託契約の中の平成3年度上、下記の産業調査の報告書として総研が作成したと被告は主張するが、仮にそうであったとしても右調査の委託費1億0800万円に到底見合うものではない。また、<1>ないし<4>は総合研究開発機構がシンクタンクの研究成果を掲載する「シンクタンク年報」に総研の研究成果として掲載されておらず、実体の欠如は明らかである。

<5> 「首都移転問題調査中間報告書」(甲七一の1)は、NEC調査開発部が、「首都機能移転問題シンポジウム」の懇談会及び国民会議で入手した資料に、若干の報告を添えて社内向け中間報告書として作成したものである。同報告書の「はじめに」という冒頭の文章は、「我々として、今後とも注意を払い続けるべきテーマといえる」と締めくくっているが、他社から有償で委託された報告文書にこのような文脈で「我々」という表現を用いることはない。このように総研が外部からの委託で作成する報告書としての体裁もない。

<6> 「首都移転問題調査報告書」(甲七一の2)は、<5>の17日後に作成された報告書で、ほとんど同内容であり、NEC調査開発部が、「首都機能移転問題シンポジウム」の懇談会及び国民会議で入手した資料に、若干の報告を添えて社内向け報告書として作成したものである。同報告書の「首都移転問題の現状と今後」という冒頭の文章は、「当社としても、今後とも注意深く情報を収集し、適宜対応をしていく所存である」と締めくくっているが、「当社」とはNECと見るほかない。このように総研が外部からの委託で作成する報告書としての体裁もない。

<7> 「国会等移転調査会メンバー略歴」(甲七二)は、同文書の末尾に記載された書籍を抜粋したものにすぎない。同報告書は、社名に略字を使ったり調査者名すら不明であり、総研が外部からの委託で作成する報告書としての体裁もない。

<8> 「地球環境問題調査最終報告書」(甲七三)は、NECの環境管理部が環境庁の「環境にやさしい企業行動調査検討委員会」に参加したことに関連して、社内報告用に作成したものであり、総研が作成したものではない。同報告書は、社名に略字を使ったり調査者名すら不明であり、総研が外部からの委託で作成する報告書としての体裁もない。

右<5>ないし<8>は本件業務委託契約の中の平成4年度上、下期の一般経済社会調査についての報告書として総研が作成したと被告は主張するが、仮にそうであったとしても右調査の委託費1億0800万円に到底見合うものではない。

2  被告の調査義務

被告は、少なくとも次のような調査をして、本件業務委託契約の問題性ないしその対価を支出した取締役の行為の問題性を見抜くことができたはずであり、見抜くべきであった。

(一) 稟議書の閲覧検討

本件業務委託契約については、半期に1度稟議書が起案され、そこでは1億円を超える金額の支出が決定されるべきところ、NECにおいて、1億円を超える金額の支出を決定する稟議書の数はそう多くはなく、本件業務委託についての稟議書は主要な稟議書として閲覧検討すべきものであり、また、成果物はNEC企画部が保管していたのであるから、容易にその実体の有無を調査することができたはずである。

(二) 子会社の調査

監査役の子会社との非通例的取引に対する調査義務は、大会社の監査報告書に関する規則7条1項等に定められているが、被告は、総研の監査役でもあったのだから、総研の法人税申告書等も閲覧検討して、本件業務委託契約の問題性を見抜くべきであった。

(三) 支払伝票の閲覧検討

本件業務委託契約の対価の支払いは、毎月ほぼ同額の均等割りで支払いがなされており、被告は、NECの支払伝票を閲覧検討して、本件業務委託契約の対価の不自然さを見抜くべきであった。

(四) 関係契約書の閲覧検討

被告は、「コンサルテーション業務契約書」及び「調査業務委託に関する覚書」を閲覧検討して、本件業務委託契約の問題性を見抜くべきであった。

総研の調査員の1日当たりの単価を定めた「コンサルテーション業務契約書」については稟議書が起案されて社長が決裁しているのに、実際の支払は社長決裁を経ない「業務調査に関する覚書」によって半年間の支払月額を前もって定めて実施していたのであるから、これらの関係契約書を検討すれば、本件業務委託契約の対価支出手続の不自然さを容易に発見することができたはずである。

3  被告の責任

本件業務委託契約の対価の支出は違法な支出であり、被告はNECの監査役として適切な調査をすることによって、右支出の問題性を見抜き、監査報告書記載などの適切な是正措置をとることによって右支出を防止することができたところ、これをしなかったため右支出を防止できなかった。そして右対価の支出全額13億2100万円がNECにとっての損害であるが、原告は本件訴訟では、被告に対して、そのうち総研への課税によりNECグループ外に流出した金額に相当する3411万4400円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金のNECへの支払いを求める。

二  被告の主張

本件業務委託契約は、NECの時宜を得た切実な多数の経営課題について、NECから総研に現実に業務委託された実体のあるものである。成果物は総研が作成したものではないという原告の主張はすべて憶測によるものである。

また、業務委託の対価を決定するに際しては、委託業務の内容、受託する側の専門的知識の内容、受託業務に従事する各研究員の熟練度、予測される仕事に要する時間及び労力のほか、総研がNECの子会社であること、総研をNECグループの研究機関として育成し、将来的にコンサルティング及びシンクタンク機能を充実させる必要性、NECがNECのグループ外に委託できない機密事項が含まれていること等、あらゆる諸要素を考慮して、契約当事者間の協議の末に決定されたものであり、NECの取締役の裁量権の範囲内で定められた相当な額である。また、総研の申告所得高は、総研と規模や性格が類似する株式会社富士通システム総研とほぼ同じであり、この事実からも本件業務委託の対価が相当なものであったことが推認される。

したがって、本件業務委託について、その委託内容及び対価の内容につき、取締役に裁量権の逸脱・濫用はなく、NECに損害は発生しておらず、また、NEC取締役に善管注意義務違反及び忠実義務違反は存しない。NEC取締役に義務違反がない以上、監査役である被告に監視義務違反はない。

仮に、本件業務委託についてNEC取締役に義務違反が認められるとしても、監査役である被告は、膨大な業務量の中で社長決裁案件のみを監査の対象としていたのであり、社長決裁事案でなかった本件業務委託契約の内容は容易に知る立場にはなかった。したがって、この点からも被告に監査役としての義務違反はない。

第四  当裁判所の判断

一  裁判所の認定した事実(甲六七ないし七三、乙六の1ないし5、一一、一二、一七、一九、証人北澤進、弁論の全趣旨)

1  NECと総研の関係

NEC及びNECグループは、昭和63年ころから、従来の「ヒト」「モノ」「カネ」に加えて、第4の経営資源として「情報」の重要性に着目し、有用な「情報を」獲得し、それを有効に活用するために専門的調査研究を行うシンクタンク機能を強化する必要性を意識してきた。また、コンピュータ事業においても、従来のハードウェア中心の販売形態から、専門家の立場から顧客の経営課題解決のための助言・提言を行い、課題解決に最適な情報システムの企画・設計を一括して請け負う形態(システム・インテグレーション)による事業力の強化を図る必要性に迫られている旨認識し、このような提案を行うことのできるコンサルタント体制強化について検討してきた結果、総研(当時の商号は株式会社産業システム研究所)を核として人材等を充実させることを決定した。総研は、外部から経験者の採用、NECでの社内公募等を通じて陣容を拡充するとともに、平成2年1月、NECグループのシンクタンク会社であることを明確にするため、社名を「株式会社日本電気経営システム総研」に変更した。さらに、事業分野の拡大を明らかにするため、平成5年7月、社名を「株式会社エヌイーシー総研」と改称し、現在に至っている。

NEC企画部は、経済業界動向の調査、企業幹部支援及び全社的経営課題への対応等を担当する部門であるが、NECの事業領域の拡大に伴い、調査業務が増加する一方で、本社スタッフ部門の効率化に伴い、人員が抑制されていること及び外部専門家、経験者の知識の積極的活用を図る必要があったことから、平成元年以降、総研への業務委託を増加させる傾向にあった。

2  総研は、NECに対し、本件業務委託契約の成果物として次の(一)ないし(五)の文書を作成提出したほか、中間段階での打ち合わせや会議等で使用するために作成された調査レポートや資料及び問い合わせに対する口頭ないし文書による回答など多様な方法で成果物ないし情報を提供していた。

(一) NEC長期ビジョン策定プロジェクト(平成4年10月1日からはNEC長期ビジョンフォローアップ)

<1> 百人委員会ビジョン最終報告書(平成3年7月)

<2> 長期ビジョン検討会議事録(第13回ないし第25回)(平成3年4月ないし平成4年6月)

<3> 長期ビジョン検討委員会中間報告書(平成3年9月)

<4> ビジョン検討会議事録(第1回ないし第8回)(平成3年11月ないし平成4年5月)

<5> ライフクリエーション事業研究会議事録(第1回ないし第8回)(平成5年5月ないし平成6年2月)

<6> 教育事業への取組みに関する報告書(平成5年10月)

<7> パーソナルインテリジェントサービスに関する報告書(平成5年10月)

<8> エンターテイメント事業に関する報告書(平成6年1月)

(二) 産業調査

<1> ソフトウェア業界調査(平成3年9月)

<2> 独立系ソフトハウス成功の背景(平成3年9月)

<3> ソフトサービス市場に関する市場予測(平成4年2月)

<4> キーアカウント企業動向分析(平成3年7月)

<5> マルチメディア・プレゼンテーション・ガイドブック(平成4年9月)

<6> マルチメディア利用による効果的なプレゼンテーションに関する研究報告書(平成4年11月)

<7> セイコーアルバ(ブランド)調査(平成4年11月)

<8> アウトソーシングビジネス報告書(平成5年4月)

<9> アウトソーシングビジネス報告書(平成5年10月)

<10> アウトソーシングビジネス報告書(平成5年12月)

<11> アウトソーシングビジネス報告書(平成6年2月)

(三) 一般経済調査

<1> 首都移転問題調査中間報告書(平成4年11月)

<2> 首都移転問題調査報告書(平成4年11月)

<3> 国会等移転調査会メンバー略歴(平成5年4月)

<4> 地球環境問題調査最終報告書(平成4年12月)

(四) 海外市場調査

<1> 朝鮮民主主義人民共和国の現状について(平成3年10月)

<2> 大連経済技術開発区について(平成4年10月)

<3> 環日本海経済圏調査プロジェクト研究会報告書(平成4年9月)

<4> アジア経済圏研究会報告書(平成5年8月)

(五) 情報サービス

<1> 創研レポート(隔月)

<2> ファイナンシャルリサーチ(年4回)

<3> 金融情報・金融資料(月2ないし3回)

<4> 金融デイリー情報(日刊)

<5> 行政ウイークリー(週刊)

3  本件業務委託契約の成果物の内容

本件業務委託の内容は、前記2記載のとおりであるが、本件訴訟で取り調べられた成果物の具体的内容は次のとおりである。

<1> 「ソフトウェア業界調査」は、A49枚の報告書であり、表紙には表題と、作成年月日として「1991年9月3日」、作成者として「(株)日本電気経営システム総研」の記載がある。内容においては、まず「ソフトウェア業の概要」の項で情報処理産業の市場規模等の1987年から1989年までの実績と1995年及び2000年の予測が分析され、ソフトウェア業界の構造及びソフトウェア会社の特徴が説明されている。次に、「個別企業調査」の項でソフトウェア会社9社の規模、人員構成等が比較分析されている。次に「ソフトウェア業界の動向」の項でソフトウェア業界に対してはニーズの拡大が顕著で、これには人材の大量採用によって対応していること、未だ労働集約型産業の特徴があること、派遣型の事業展開が可能であること等が業界の推移として分析され、ソフトウェア業界は付加価値、収益、信頼性が低く、システムインテグレーション、システムオペレーション事業にビジネスチャンスがあると提案されている。

<2> 「独立系ソフトハウス成功の背景」は、A421枚の報告書であって、表紙は付けられておらず、1枚目の冒頭に作成年月日として「91・9・3」、作成者として「NERI相馬」と記載されている(NERIとは総研を指す)。内容においては、メーカー系でもなくユーザー系でもない独立系の情報サービス企業として成功したCSKについて、顧客の選定、価格設定とネゴ、システムの組み方、プロジェクト管理、システムエンジニアの管理体制、マネジメント、資金調達の7項目にわたってその成功原因が分析され、またCSKのグループ企業の経営分析がなされている。

<3> 「ソフト・サービス化に関する市場予測」はA411枚の報告書であり、表紙には表題と、作成年月日として「1992年2月12日」、作成者として「(株)日本電気経営システム総研」と記載されている。内容においては、ソフトウェア、VAN(付加価値通信網。電話回線など公衆通信網を利用して特定の情報処理、データーサービスを行うもの)、システムインテグレーション、AVメディアの市場の分析、それに基づく将来の市場の予測、NECが各市場において占める割合の分析、情報経費支出の推移と予測、VAN需要の予想等がなされている。

<4> 「キーアカウント企業動向分析」は、A4157枚の報告書であり、表紙には表題、宛先として「日本電気株式会社御中」、作成年月日として「1991年7月25日」、作成者として「株式会社日本電気経営システム総研 情報サービスグループ(調査担当・稲田由美子)」と記載されている。内容においては、日経グループ、朝日新聞、日本航空等NECの重要顧客35社について事業戦略、組織、人事等の項目が2週間単位にまとめられており、重要顧客の企業動向特に情報サービスに対する取組みが紹介されている。

<5> 「首都移転問題調査中間報告書」は、A464枚の報告書であり、表紙には表題、宛先として「NEC企画部御中」、作成年月日として、「1992年11月17日」、作成者として「NEC経営システム総研 調査研究グループ(原田、松本、中川)」と記載されている。内容においては、総論、移転の理由、移転の規模等、移転の影響、移転の順序の5項目にわたる首都移転問題が分析されている。

<6> 「首都移転問題調査報告書」は、A484枚の報告書であり、表紙には表題、宛先として「NEC企画部御中」、作成年月日として「1992年12月4日」、作成者として「NEC経営システム総研 調査研究グループ(原田、松本、中川)」と記載されている。内容においては、総論、移転の理由、移転の規模等、移転の影響、移転の順序の5項目にわたる首都移転問題が分析されている。

<7> 「国会等移転調査会メンバー略歴」は、A438枚の報告書であり、表紙には表題、作成年月日として「1993年4月」、作成者として「NEC経営システム総研」と記載されている。内容は、国会等移転問題調査会の構成員32名の略歴である。

<8> 「地球環境問題調査最終報告書」は、本文A4230枚の報告書であり、表紙には表題が記載されており、その次頁には「環境主義経営とNECの対応」、作成年月日として「92年12月18日」、作成者として「NEC経営システム総研」と記載されている。内容においては、地球環境保全の現状と課題、国際動向と通産省、環境庁の見解、業界代表企業の環境主義経営、海外の環境保全対策、NECの対応の5項目にわたって、地球環境保全の現状と課題、各国政府の動向や先進企業の取組事例の分析がされ、最後にNECへの提言として環境に配慮した経営を進める上での27の提言がなされている。

二  成果物の実体がないとの原告の主張について

1  総研がNECに対し、本件業務委託契約の成果物として前記一の2の(一)ないし(五)の文書を作成提出したことは前記認定のとおりであるが、原告はこの点について右の成果物の実体がなく仮装されたものであると主張するのでこの点について判断する。

2  まず原告は「キーアカウント企業動向分析」(甲七〇)を除いて業務委託を受けた受託者が委託者に提出する調査報告書としての体裁を備えたものではなく、むしろこれらの大部分はNECが社内で作成した資料等の冒頭に総研作成を示す表紙を付したものに過ぎないと主張し、その旨の供述もする。しかし、本件成果物が作成された平成3年ないし平成5年当時原告は総研に出向しておらず、原告の右供述をもって原告の主張を裏付けるに足るものではない。また、体裁の点についても、総研がNECの100パーセント子会社であることを考えると、成果物の体裁が甲六七ないし六九、七一、七二の程度のものであるからといって成果物の実体がなく仮装されたものであると推認することはできない。

3  原告は、本報告書はシンクタンク年報に総研の研究成果として掲載されていないので総研が作成したものではないと主張するが、証人北澤の証言によればシンクタンクが作成した全ての報告書がシンクタンク年報に掲載されるわけではなく、また、NECから委託を受けたものについては総研の自主研究によるものとして掲載することがあることが認められ、この点からいっても原告の主張は採用できない。

4  原告は、「首都移転問題調査中間報告書」に「我々」という表現が使われていることを根拠に本報告書はNECが作成したと主張するが、総研はNECのグループ企業であり「我々」とはNECグループの趣旨と解されるので、このような表現が使われているからといってNECが作成したものとは認められない。

また、原告は、「首都移転問題調査報告書」に「当社」という表現が使われていることを根拠に本報告書はNECが作成したと主張するが、原告の指摘する部分は総研としてこの問題について今後とも情報収集をし、対応していくと読むのが自然であり、原告の主張は採用できない。

三  対価が不当に高いとの原告の主張について

一の認定事実によるとき、総研からNECに対して提供された成果物は、<1>当時のNECの経営課題であった事業のソフトウェア化、サービス化に向けた戦略の立案と実行に関するもの、<2>NECの重要顧客の動向の把握に関するもの、<3>首都機能移転に伴う情報通信関連需要の増大が見込まれ、企業立地の選択にも影響を与えることからNECの経営方針の策定に関するもの、<4>大企業として環境問題を配慮した経営が求められるNECの経営方針の策定に関するもの等々、いずれもNECの企業経営上有用なものであったと認められる。そして、総研においてNECの製品原価情報や事業計画等のNECの機密情報を共有することが予定されており(弁論の全趣旨)、その機密性を保持する必要性のあること、競合他社がシンクタンク機能を充実・強化している状況の下、NECにおいても情報の重要性を認識し、コンサルティング及びシンクタンク機能を強化することが意識され、コンサルタント子会社である総研を育成する(総研が恒常的に情報を蓄積・分析・整理・提供できる体制を整えることも含む)必要性も踏まえて本件業務執行の対価が決せられたこと(乙一一、一二、証人北澤)、現に総研はNECからの要請に応じて、適時に適宜の情報(成果物)を口頭ないし書面により、中間報告書や最終報告書等の形式で提供していたことが認められる。

原告は、本件業務委託契約による対価の額がその算定基準となるべきNECと総研の間のコンサルテーション業務契約書(乙四)に定められた調査員の料金単価と比較して上回っていることも理由に右対価が不当に高額すぎると主張する。しかし、前記認定事実によるとき、原告の右主張が仮に認められたとしてもそれによって対価の額が不当に高いとすることはできず、他に対価の額が不当に高いとする原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

四  結論

以上によれば、NECと総研の間の本件業務委託契約においては成果物の存在が認められ、また、対価が不当に高いという原告の主張が認められない以上、NECによる総研に対する対価の支払いによってNECに損害が生じたと認めることはできない。

よって、その余の点について判断するまでもなく原告の本訴請求には理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 菅原雄二 裁判官 中山誠一 裁判官 松山昇平)

●訴状(平成10年4月10日付)

訴状

《住所略》

原告 片平公男

(送達場所)《住所略》

原告代理人 桜井健夫

《住所略》

同 上柳敏郎

《住所略》

被告 奥田二郎

株主代表訴訟事件

訴訟物の価額 金95万円

貼用印紙額 金8200円

請求の趣旨

一 被告は日本電気株式会社に対し、金3411万4400円およびこれに対する訴状送達の日の翌日から支払い済に至るまで、年5分の割合による金員を支払え。

二 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および一項につき仮執行宣言を求める。

請求の原因

第一 当事者

一 原告は、日本電気株式会社(以下NECという)の株式1000株以上を6か月以上前より保有している(争いがないと思われる)。

二 被告は平成3年から平成5年にかけてNECの監査役の地位にあった(争いがないと思われる)。

第二 NECから子会社への供与金とNECグループ外への流出

一 株式会社エヌイーシー総研(以下NEC総研という)は、NECの100パーセント子会社である(争いがないと思われる)。

二 NECは、NEC総研の要求に応じて、平成2年度2億8000円、平成3年度4億2600万円、平成4年度4億4000万円、平成5年度4億5500万円、平成6年度4億5700万円、平成7年度4億4100万円を供与した(数値には争いがないと思われる)。

この供与金(以下本件供与金という)は、形式的には、NECからNEC総研に対する包括的な業務委託契約金との名目で支出されているが、実態は、同契約金に見合う業務委託は行われていない。実体のある業務委託の10倍以上の額が、業務委託費と仮託して供与された(原告他)。

三 本件供与金は過大であったため、NEC総研で費消されるだけでなく、過大な納税という形でNECグループ外へ相当な額の金員が確定的に流出した。

すなわち、被告が監査役の地位にあった平成3年度から平成5年度の納税金額の右過大部分は、平成3年度1327万1000円、平成4年度638万9000円、平成5年度1445万4000円で、この3年間の合計は、3411万4000円である(数値には争いがないと思われる)。

第三 B取締役の違法行為

一 本件供与金支出決定は、当時のNEC常務取締役B(以下B取締役という)によってなされた。本件供与金は、前記のとおり、その大部分が実際の業務委託がないのに支出されたものであり、その支出はNECに対する背任行為である。また、本件供与金の支出決定は、その目的において取締役の裁量を逸脱したものであり違法不当である。すなわち、B取締役は、NEC総研代表取締役Aの要求するままに、その野心を満たすために支出したものである(原告他)。

二 仮に何らかの事情でNECにおいて子会社たるNEC総研を救済する目的が正当化されるとしても、本件供与金の支出決定は、その目的達成の手段として、取締役の裁量を逸脱したものであり違法不当である。すなわち、子会社救済なり、子会社の事業拡大等をするとの目的が必要かつ相当であったとしても、その手段として、供与金とすることは不当であり、資本金増額(増資)とか貸金等の代替手段をとるべきであった(評価の問題)。

三 しかも、B取締役はNEC総研の取締役を兼務しており、NEC総研の実情を熟知していた(争いがないと思われる)し、またNECとNEC総研の利益相反的な立場をわきまえて慎重に意思決定すべきであったから、その責任は重いといえる。

第四 被告の責任(評価の問題)

一 被告は、この期間、NECの監査役であったのだから、適切な調査をすることにより、前記の供与金ないしB取締役の行為の問題性を見抜き、さらに監査報告書記載など適切な是正措置をとることによって、前記過大納税を回避してNECの損害を防止すべきであった。しかるに、被告は、これらをしなかった。この点で、被告の義務違反および責任は明らかである。

二 被告は、少なくとも、次のような調査をして、右供与金ないしB取締役の行為の問題性を見抜くことができたはずであり、見抜くべきであった。

第一に、被告は、本件供与にかかる稟議書を閲覧検討し、本件供与金の実体がないことを見抜くべきであった。

第二に、被告は、NEC総研の監査役でもあったのであるから、NEC総研の法人税申告書等も閲覧検討して、過大納税の事実および本件供与金の問題性を見抜くべきであった。

被告は、右のような調査によって本件供与金ないしB取締役の行為の問題性を発見した上で、監査報告書へ記載し、取締役会に是正を勧告し、さらには違法行為の差し止めを請求するなどの適切な措置をとるべきであった。

三 本件供与金全体が右違法行為と因果関係のある損害であるが、このうちNEC総研への課税によりNECグループ外に流出した額金3411万4400円についてはグループ全体の損害であり、評価が明確である。

第五 訴え提起請求

原告は、平成10年2月16日、NECに対し、平成3年から平成5年にかけてNECの監査役の地位にあった被告(奥田二郎)を被告として金3411万4400円の賠償を求める訴訟を、30日以内に提起するよう求めた通知を発し、これは2月18日にNECに到達した(争いがないと思われる)。

その後30日が経過するもNECは被告に対して右訴訟を提起しない。

第六 結語

よって原告は、被告に対し、商法280条、267条に基づき本件株主代表訴訟を提起し、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

証拠方法

追って提出する。

付属書類

一 訴訟委任状 2通

平成10年4月10日

原告代理人 桜井健夫

同 上柳敏郎

東京地方裁判所

民事第8部 御中

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