東京地方裁判所 平成10年(ワ)7841号 判決
原告 株式会社ダイエーオーエムシー
右代表者代表取締役 舟橋裕道
右代理人支配人 井上斉
右訴訟代理人弁護士 片岡義広
同 小宮山澄枝
同 関高浩
同 小林明彦
同 内山義隆
同 稲葉譲
被告 黒川二郎
右訴訟代理人弁護士 龍博
主文
一 被告は、原告に対し、金二四八三万七一三四円及びこれに対する平成一〇年三月二八日から支払済みまで年一四パーセント(年三六五日の日割計算)の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は、被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告(当時の商号・株式会社ダイエーファイナンス)は、平成四年三月一〇日、被告の委託に基づき、被告の訴外千代田生命保険相互会社(以下「千代田生命」という。)に対する左記(一)の借入金債務について、左記(二)の約定により連帯保証した(以下、被告及び千代田生命間の右金銭消費貸借契約を「本件金銭消費貸借契約」といい、原被告間の右保証委託契約を「本件保証委託契約」という。)。
記
(一) 借入金の表示
(1) 元金 四五〇〇万円
(2) 借入日 平成四年三月一〇日
(3) 利息 年七・三二パーセント(月利〇・六一パーセント)
(4) 遅延損害金 年一四パーセント(年三六五日の日割計算)
(5) 資金使途 ゴルフ会員権(プレジデンシャルゴルフクラブ)購入
(6) 返済方法 元利均等分割払いで平成四年四月から平成一四年三月まで毎月二七日限り金五三万三一五一円宛て支払う。ただし、初回は、金四二万一〇九四円、最終回は、金五三万三二一〇円とする。
(7) 期限の利益の喪失 被告が千代田生命から書面で督促を受けたにもかかわらず、元利金の返済を怠ったときは、期限の利益を喪失する。
(二) 保証委託契約における約定
(1) 被告が千代田生命に対する契約に違反したため、原告が千代田生命から保証債務の履行を求められたときは、原告は、被告の借入残債務について代位弁済することができ、原告が千代田生命に対し代位弁済したときは、被告は、原告に対し代位弁済した金額を直ちに支払う。
(2) 遅延損害金は年一四パーセント(年三六五日の日割計算)とする。
2 被告は、千代田生命から、平成一〇年二月一三日到達の書面をもって、同月二七日までに支払をなすよう催告を受けたが、右同日の支払を怠り、右同日の経過とともに期限の利益を喪失した。
3 原告は、平成一〇年三月二七日、千代田生命に対し金二四八三万七一三四円を代位弁済した。
4 よって、原告は、被告に対し、本件保証委託契約に基づき、代位弁済額二四八三万七一三四円及びこれに対する代位弁済の日の翌日である平成一〇年三月二八日から支払済みまで約定の年一四パーセント(年三六五日の日割計算)の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因1及び2の各事実は認める。
2 同3の事実は不知。
三 抗弁
1 割賦販売法三〇条の四の類推適用
被告は、訴外日本広販株式会社(以下「日本広販」という。)からプレジデンシャルゴルフクラブ(以下、右ゴルフクラブを「本件ゴルフクラブ」といい、その物的施設たるべきものを「本件ゴルフ場」という。)の会員権(以下「本件ゴルフ会員権」という。)を購入し(以下、右購入契約を「本件ゴルフ会員権購入契約」という。)、その購入代金の支払のために千代田生命との間で本件金銭消費貸借契約を締結し、原告との間で本件保証委託契約を締結したものであり、本件保証委託契約は、本件ゴルフ会員権購入契約及び本件金銭消費貸借契約と一体の契約であるところ、本件ゴルフクラブは、所要資金六六億円、自己資金二三億円、工事施工会社立替金四三億円の資金計画で進められ、工事着工予定日が平成三年八月二〇日、工事完了予定日が平成五年八月三一日とされていたが、実際には、右工事のうち防災工事が平成四年三月一三日完成しただけで、造成工事は着工はおろか、契約締結すらされておらず、平成九年八月二七日には、本件ゴルフ場予定地が他に売却されており、日本広販が本件ゴルフ会員権購入契約に基づく債務を履行することは不可能な状況である。
したがって、被告は、割賦販売法三〇条の四の類推適用により、原告に対する債務の履行を拒絶する。
2 錯誤
本件保証委託契約締結当時、既に本件ゴルフ場が完成する見込みはなかったものであるが、右契約は、本件ゴルフ場が完成する見込みがあることが動機となっており、右動機を原告も知っていたから、右契約は表示された動機の錯誤により無効である。
3 権利の濫用
本件保証委託契約締結当時、既に本件ゴルフ場が完成する見込みはなかったものであるが、原告は、平成三年一一月一八日に日本広販との間で本件ゴルフクラブのゴルフ会員権購入ローン取扱に関する協定を締結していたのであるから、被告と本件保証委託契約を締結するに当たり、本件ゴルフ場が完成する見込みがないことを知り、あるいは、仮に知らなかったとしても、本件ゴルフ場完成の見込みを調査すべき義務を怠り、漫然と被告との間で本件保証委託契約を締結し、原告に損害を与えたものである。
したがって、このような経緯にかんがみると、原告の本訴請求は権利の濫用であり、許されない。
4 相殺
(一) 前記3のとおり、原告は、被告と本件保証委託契約を締結するに当たり、本件ゴルフ場が完成する見込みがないことを知り、あるいは、仮に知らなかったとしても、本件ゴルフ場完成の見込みを調査すべき義務を怠り、漫然と被告との間で本件保証委託契約を締結したものであり、これにより被告は既払額四二二〇万円の損害を被った。
したがって、被告は、原告に対し、契約締結上の過失により、四二二〇万円の損害賠償請求権がある。
(二) 被告は、原告に対し、平成一一年五月一二日の本件弁論準備手続期日において、右損害賠償請求権と原告の本訴請求債権とを金五〇〇万円の範囲で相殺する旨の意思表示をした。
四 抗弁に対する認否及び原告の主張
1 被告の抗弁はすべて否認ないし争う。
2 抗弁1(割賦販売法三〇条の四の類推適用)について
ゴルフ会員権は、割賦販売法所定の「指定商品」には該当しないから、抗弁権の接続を規定した同法三〇条の四第一項がゴルフ会員権にかかる取引に適用される余地はない。
また、右条項の適用範囲は厳格に解釈すべきであり、いたずらに類推適用を認めて、その適用範囲を拡大することは許されない。
3 抗弁2(錯誤)について
本件保証委託契約が締結された当時、本件ゴルフ場の防災工事は現に進行中であり、本件ゴルフ場が完成する可能性は存在したから、客観的事実と被告の認識との間に齟齬はない。したがって、被告に錯誤はない。
また、金銭消費貸借契約の締結に当たりなされるのは交付された金員に係る返還の合意であり、借主の「金員を返還する旨の意思表示」について、これをした動機というものは観念できない。そして、保証委託契約における委託の意思表示も、右のような契約に基づいて現に負担している債務の存在を前提としてなされるものであるから、全く同様の理となる。したがって、本件金銭消費貸借契約、本件保証委託契約においては、「本件ゴルフ会員権購入のため」という事情は、資金使途あるいは借入自体の動機とはなり得ても、錯誤が問題となりうる契約締結の動機とはならないから、被告の主張は失当である。
4 抗弁3(権利の濫用)について
原告は、本件ゴルフ場の完成見込みについての調査義務を負う理由がないから、右調査義務の存在を前提とする被告の主張は失当である。
5 抗弁4(相殺)について
契約締結上の過失は、契約当事者の一方の債務が契約締結時点において履行不能となっており、したがって、当該契約も無効とならざるを得ない場合において、当該事実を過失によって知らなかったために、契約を準備した相手方に損害を与えた者の責任を問う法理であるところ、本件は、このような場合ではないから、契約締結上の過失は問題とならない。
また、前記4のとおり、原告は、本件ゴルフ場の完成見込みについての調査義務を負うものではないから、被告の主張はその前提を欠く。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因について
1 請求原因1、2の各事実は、当事者間に争いがない。
2 請求原因3の事実は、甲第四号証により認められる。
二 抗弁について
そこで、被告の抗弁について検討する。
1 抗弁1(割賦販売法三〇条の四の類推適用)について
被告は、日本広販が本件ゴルフ会員権購入契約に基づく債務を履行することは不可能であるところ、本件保証委託契約は本件ゴルフ会員権購入契約及び本件金銭消費貸借契約と一体の契約であるから、割賦販売法三〇条の四の類推適用により、原告に対する債務の履行を拒絶する旨主張する。
しかしながら、割賦販売法三〇条の四第一項は、同法所定の「割賦購入あっせん」の方法により購入した「指定商品」(定型的な条件で販売するのに適する商品であって政令で定めるもの)の代金について、あっせん業者から支払の請求を受けたときに限り適用されるものであるところ、被告の本件ゴルフ会員権の購入は同法所定の「割賦購入あっせん」の方法によるものではないし、ゴルフ会員権は、右の「指定商品」には含まれない。したがって、本訴請求について同条項を適用する余地はない。そして、同法は、私人による取引への過剰な規制を避けつつ購入者保護の目的を達成するため、規制の対象となる商品を、一般の購入者に同様の条件で販売される大量生産品に限定していること、同条項は、特に購入者保護の必要性の高い取引形態による商品購入の場合に限って抗弁権の接続を認めたことにかんがみると、これを拡大解釈して本件に類推適用することは相当ではない。
したがって、被告の抗弁1は採用できない。
2 抗弁2(錯誤)について
被告は、本件保証委託契約締結当時、既に本件ゴルフ場が完成する見込みはなかったものであるところ、右契約は、本件ゴルフ場が完成する見込みがあることが動機となっており、右動機を原告も知っていたから、右契約は表示された動機の錯誤により無効である旨主張する。
しかしながら、調査嘱託の結果(被告の平成一〇年八月二七日申立に係るもの及び同年九月二五日申立に係るもの)によれば、訴外鹿島建設株式会社(以下「鹿島建設」という。)が平成三年一〇月一〇日から平成四年三月一三日までの間本件ゴルフ場の防災工事を実施したこと、防災工事代金は約一三億円であったこと、日本広販はその工事代金の支払のために同月三一日に一億円の手形二通を交付し(決済日・同年五月二〇日及び同年六月二〇日)、同年四月二〇日に五六〇五万八〇〇〇円、同年七月二〇日に二〇〇〇万円、同年一〇月三〇日に一〇〇〇万円、同年一二月二九日に五〇〇万円の支払をしたこと、鹿島建設は当初本件ゴルフ場の造成工事の施工を予定していたが、防災工事代金の支払が遅延したため、造成工事請負契約が締結されなかったことがそれぞれ認められるところ、原告と被告が本件保証委託契約を締結したのが同年三月一〇日であり、右時点では、防災工事が現に進行中であり、日本広販及び鹿島建設の間では造成工事請負契約の締結も予定されていたのであるから、右時点ではいまだ本件ゴルフ場が完成する見込みがなかったということはできない。
したがって、被告の抗弁2は、その前提を欠き失当である。
3 抗弁3(権利の濫用)について
被告は、本件保証委託契約締結当時、既に本件ゴルフ場が完成する見込みはなかったものであるところ、原告は日本広販との間で本件ゴルフクラブのゴルフ会員権購入ローン取扱に関する協定を締結していたのであるから、被告と本件保証委託契約を締結するに当たり、本件ゴルフ場が完成する見込みがないことを知り、あるいは、仮に知らなかったとしても、本件ゴルフ場完成の見込みを調査すべき義務を怠り、漫然と被告との間で本件保証委託契約を締結し、被告に損害を与えたものであるから、このような経緯にかんがみると、原告の本訴請求は権利の濫用であり、許されない旨主張する。
しかしながら、原告が本件保証委託契約締結時に本件ゴルフ場が完成する見込みがないことを知っていたことを認めるに足りる証拠はない(なお、そもそも右契約締結時に本件ゴルフ場が完成する見込みがなかったとはいえないことは、前記のとおりである。)。また、原告が日本広販との間で本件ゴルフクラブのゴルフ会員権購入ローン取扱に関する協定を締結していたというだけでは、いまだ原告が被告主張に係るような調査義務を負っていたということはできない。
したがって、被告の抗弁3は、採用できない。
4 抗弁4(相殺)について
被告は、原告が被告と本件保証委託契約を締結するに当たり、本件ゴルフ場が完成する見込みがないことを知り、あるいは、仮に知らなかったとしても、本件ゴルフ場完成の見込みを調査すべき義務を怠り、漫然と被告との間で本件保証委託契約を締結したものであり、これにより被告は既払額四二二〇万円の損害を被ったので、原告に対し、契約締結上の過失により、同額の損害賠償請求権があるとして、右損害賠償請求権と原告の本訴請求債権とを金五〇〇万円の範囲で相殺する旨主張している。
しかしながら、前記3のとおり、原告が本件保証委託契約締結時に本件ゴルフ場が完成する見込みがないことを知っていたことを認めるに足りる証拠はなく、また、原告が被告主張に係るような調査義務を負っていたということもできないから、原告が被告に対して契約締結上の過失により損害賠償責任を負っているということはできない。
したがって、被告の抗弁4は、採用できない。
5 以上のとおり、被告の抗弁は、いずれも採用することができない。
三 結論
よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 伊藤繁)