東京地方裁判所 平成10年(ワ)8098号 判決 1999年1月29日
甲事件原告兼乙事件原告
アシェットフィリパキ プレス ソシエテアノニム
(以下「原告アシェット」という。)
右代表者
ベルナール メンフロア
右訴訟代理人弁護士
関根秀太
同
後藤康淑
同
藤井康広
同(乙事件のみ)
高橋豪
同(乙事件のみ)
水落一隆
同(乙事件のみ)
武藤佳昭
右訟訴復代理人弁護士
小野顕
甲事件被告
株式会社ファイブデイズ
(以下「被告ファイブデイズ」という。)
右代表者代表取締役
吉田忠
甲事件被告
株式会社都繊維
(以下「被告都繊維」という。)
右代表者代表取締役
小宮山勢二
甲事件被告兼乙事件被告
株式会社都インターナショナル
(以下「被告インターナショナル」という。)
右代表者代表取締役
小宮山勢二
甲事件被告
小宮山勢二
(以下「被告小宮山」という。)
甲事件被告兼乙事件被告
株式会社オネスティ
(以下「被告オネスティ」という。)
右代表者代表取締役
辻龍男
甲事件被告
辻龍男
(以下「被告辻」という。)
甲事件被告兼乙事件被告
株式会社ノアワールド
(以下「被告ノアワールド」という。)
右代表者代表取締役
仲野公彦
右七名訴訟代理人弁護士
深井潔
右七名補佐人弁理士
辻本一義
主文
一 被告らは、別紙第二標章目録①ないし記載の標章を付した衣服を製造し、輸入し、販売し、販売のために展示してはならない。
二 被告都繊維、同都インターナショナル、同小宮山、同オネスティ及び同辻は、原告に対し、連帯して金二二八万円及びこれに対する平成八年一一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告都繊維、同都インターナショナル、同小宮山、同オネスティ、同辻及び同ファイブデイズは、原告に対し、連帯して金二万八〇〇〇円及びこれに対する平成八年一一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告都インターナショナル、同小宮山及び同ノアワールドは、原告に対し、連帯して金九万円及びこれに対する平成八年一一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
七 この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
(甲事件)
一 主文第一項、第三項と同旨
二 被告都繊維、同都インターナショナル、同小宮山、同オネスティ及び同辻は、原告に対し、連帯して金一七八八万二〇〇〇円及びこれに対する平成八年一一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告都繊維、同都インターナショナル、同小宮山、同オネスティ、同辻及び同ノアワールドは、原告に対し、連帯して金九万円及びこれに対する平成八年一一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告都繊維、同都インターナショナル、同オネスティ及び同ノアワールドは、原告に対し、別紙謝罪広告目録記載の謝罪文を同目録記載の要領に従い、同目録記載の新聞に掲載せよ。
(乙事件)
一 被告都インターナショナル、同オネスティ及び同ノアワールドは、別紙第三標章目録①ないし③記載の標章を衣服に付してはならない。
二 被告都インターナショナル、同オネスティ及び同ノアワールドは、前項記載の各標章を付した衣服を譲渡し、引渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。
第二 事案の概要
(甲事件)
甲事件は、被告らが別紙第二標章目録①ないし記載の各標章(以下、各標章を順に「被告標章①」ないし「被告標章」といい、これらをあわせて「被告標章」という。)を付した衣服を製造、販売等しているところ、被告らの行為は、原告の有する後記一1(一)の商標権の侵害行為、及び不正競争防止法二条一項一号又は二号の定める不正競争行為に該当すると主張して、原告が被告らに対し、商標権又は不正競争防止法に基づき、被告らの行為の差止め及び損害賠償の支払を、不正競争防止法七条に基づき謝罪広告の掲載を請求した事件である。
(乙事件)
乙事件は、被告都インターナショナル、同オネスティ、同ノアワールドが別紙第三標章目録①ないし③記載の各標章(以下、各標章を順に「被告新標章①」ないし「被告新標章③」といい、これらをあわせて「被告新標章」という。)を付した衣服を製造、販売し、あるいは製造、販売しようとしているところ、被告らの行為は、原告の有する後記一1(二)の商標権の侵害行為、及び不正競争防止法二条一項一号又は二号の定める不正競争行為に該当すると主張して、原告が右被告らに対し、商標権又は不正競争防止法に基づき、右被告らの行為の差止めを請求した事件である。
一 前提となる事実(証拠を示した事実を除き、当事者間に争いはない。)
1 原告の商標権
原告は、左記(一)及び(二)の各商標権(以下、順に「本件商標権一」「本件商標権二」といい、その登録商標を順に「本件登録商標一」「本件登録商標二」という。)の商標権者である。(更新登録日につき甲一)
(一) 登録番号
第六三三五七八号
出願日 昭和三六年五月二四日
登録日 昭和三九年一月一〇日
更新登録日 昭和四九年一〇月三〇日
更新登録日 昭和五九年三月二一日
更新登録日 平成六年一月二八日
指定商品 第一七類、被服(但し帽子、ナイトキャップ、ずきん、ヘルメット、すげがさ、頭から冠る防虫網を除く)布製身回品、寝具類
登録商標 別紙第一標章目録①記載のとおり
(二) 登録番号
第二一三一〇六九号
出願日 昭和五七年五月一七日
登録日 平成元年四月二八日
指定商品 第一七類、被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)
登録商標 別紙第一標章目録②記載のとおり
2 原告の商品等表示
原告は、別紙第一標章目録③記載の商標(以下(原告商標」という。)を付した女性向けファッション雑誌を発行し、また、各企業に原告商標の使用を許諾し、右許諾を受けた各企業は、原告商標を付した各種商品(以下「原告商品」という。)を販売している。原告商標は、原告の商品等表示である。(甲二九、三一ないし四七、五三、五七(枝番号は省略する。以下同様とする。))
3 被告らの行為
(一)(1) 被告辻と被告小宮山は、遅くとも平成八年四月ころまでに、被告標章を付したTシャツ、ポロシャツ、トレーナー(以下、被告標章を付した衣服を「被告商品」という場合がある。)の製造販売を企画した。右企画に基づき、被告小宮山がいずれも代表取締役である被告都インターナショナルと被告都繊維が共同して、被告都繊維名義で、韓国又は中国の提携工場に被告商品を製造させ、これを輸入した。
(2) 被告都繊維は、平成七年一一月二一日より平成八年五月二一日までの間に、被告辻が代表取締役である被告オネスティに対し、いずれも被告標章を付したポロシャツ一万七七〇九着、Tシャツ二万〇六二四着、トレーナー三〇〇〇着の合計四万一三三三着を販売した。
被告オネスティは、このうち四万一二一三着を株式会社パリス吉祥寺(以下「パリス吉祥寺」という。)等に販売した。
また、被告オネスティは、このうち一二〇着を、第三者を介して被告ファイブデイズに販売し、同被告は一般消費者に対して販売した。なお、同被告の小売価格は一着当たり三九〇〇円である。
被告商品の販売に当たり、被告小宮山及び被告辻は、共同して積極的に関与した。
(3) 被告ノアワールドは、平成八年七月ころ、被告標章を付した子供服を少なくとも一〇〇〇着製造し、小売店に販売した。右製造、販売に際し、被告都インターナショナルと被告小宮山は、共同して、積極的に関与した。
(4) 被告標章①ないし③は衣服の織ネームに、被告標章④ないし⑦は下げ札に、被告標章⑧は包装用ポリ袋に、被告標章⑨ないしは衣服の胸部、左胸部、上腕部、背部等の表地に使用されている。
(二) 被告都インターナショナル、同オネスティ、同ノアワールドは、被告新標章を付したTシャツ、ポロシャツ、トレーナー等の衣服を製造、販売し、あるいは製造、販売しようとしている。
(三) 被告らが製造販売するTシャツ、トレーナー等の衣服は、本件商標権一及び二の指定商品に含まれる。
4 損害額
被告ノアワールドが被告商品を販売したことによる原告の損害額は九万円である。
二 争点
(甲事件―不正競争防止法に基づく請求について)
1 原告商標は著名性ないし周知性を取得したか。
(一) 原告の主張
(1) 原告は、原告商標を付した女性向けファッション雑誌(以下「原告雑誌」という。)を、フランスにおいて第二次世界大戦前から発行しており、現在は、合弁事業として活動しているアメリカ合衆国、イギリス、スペインを初めとする世界各国の企業により、世界中で発行している。
日本においても、平凡出版株式会社(現在は株式会社マガジンハウスに商号変更、「平凡出版」という場合がある。)が、原告の許諾の下に、昭和四五年三月、雑誌「アンアン(an.an)」を日本語版原告雑誌と位置づけて創刊し、以来昭和五七年に至るまで「アンアン」には毎号フランス語版原告雑誌の記事を一部そのまま掲載するなど「ELLE」ファッションの紹介・普及を図り、その表紙には必ず原告商標と同じ字体をもって「ELLE JAPON」と付してきた。また、平凡出版は雑誌「アンアン」のみにとどまらず、その発行に係る雑誌「クロワッサン」等他の出版物にも、原告雑誌の記事を多数原告商標の下に掲載した。昭和五七年四月、株式会社マガジンハウスが、日本語版原告雑誌「ELLE」を発刊し、右出版事業は、その後株式会社タイム アシェット ジャパンに引き継がれ、現在は、株式会社アシェットフィリパキ プレスがこれを承継している。
(2) 原告は、昭和三九年以降、帝人株式会社に対し、原告商標の独占的使用を許諾し、帝人は、自ら「ELLE」ファッションに係る洋服を製造販売する一方、国内の企業に対し、婦人服等につき原告商標の再使用を許諾した。昭和五九年七月からは、原告は、自ら東洋ファッション株式会社(現在は株式会社エルパリスに商号変更)を設立し、国内の企業を再使用権者として、原告商品の普及に努めている。原告商品は、衣服、寝具類等多種類の商品に及んでいる。
したがって、日本において、原告商標は、遅くとも「アンアン」が創刊された昭和四五年三月までに周知性を、また、雑誌「ELLE」が創刊された昭和五四年四月までに著名性を取得した。
(二) 被告らの反論
原告の主張は争う。
2 被告標章⑨ないしの使用は商品又は営業を表示する使用形態か。
(一) 原告の主張
被告標章⑨ないしは、衣服の表地に装飾的に表示されているが、被告標章の表示の方法、原告商標の著名性を考慮すると、これらの使用は、商品又は営業を表示するものである。
(二) 被告らの反論
被告標章⑨ないしは、衣服の表地に表示されているものであり、商品の購買意欲の喚起を目的とした、専ら装飾的あるいは意匠的効果のための表示と理解すべきである。したがって、その使用は商品又は営業を表示するものではない。
3 被告標章は原告商標と類似しているか。
(一) 原告の主張
原告商標は「ELLE」という四文字を横書きしたものであり、「エル」という称呼、「彼女は」という観念を生ずるものである。被告標章を構成する文字は「JOELLE」であるが、配列、大きさ、色彩、デザイン等により「JO」と「ELLE」を区別し、「ELLE」を著しく目立たせている。また、一部の被告標章には、「NEVEU」「SPORT」「PARIS」という文字が一つあるいは複数、小さく横書きで表示されているものがあるが、「NEVEU」はフランス語で甥を意味し、「SPORT」はスポーツを意味し、いずれも単なる日常語に過ぎず、「PARIS」は単なる地名を表示したものであるから、特に注意を引く表示とはいえない。したがって、被告標章は、原告商標と同様に、単に「ELLE」の呼称、観念を生ずるものであり、原告商標に類似する。
(二) 被告らの反論
被告標章はいずれも、「JOELLE」の文字又は「JOELLE」の文字と「PARIS」「neveu」の文字や図形とが一体不可分に結合したものであり、原告商標に類似しない。
4 被告商品は原告商品と混同を生じさせるか。
(一) 原告の主張
原告商標が周知性を取得した状況において、需要者、取引関係者が、被告標章に接すれば、原告商標と被告標章の若干の相違にかかわらず、「ELLE」の部分に着目して、原告商品を連想する。したがって、被告標章を使用した場合、被告商品は原告商品と混同する。
(二) 被告らの反論
被告商品のすべてには、襟首に「JOELLE」と一連一体に英文字を構成した商標が付されており、商品自体、下げ札、包装袋のいずれにあっても、「JO」と「ELLE」及びその他の文字や図柄を不可分一体に結合したデザインが付されているのであり、混同が生ずることはない。
5 損害額はどれだけか。
(一) 原告の主張
原告商標の使用権者、再使用権者らによる原告商品の日本国内における販売価格は、ポロシャツについて八九〇〇円、Tシャツについて四九〇〇円、トレーナーについて七九〇〇円である。原告は原告商標の使用権者、再使用権者らから、ロイヤリティーとして販売価格の六パーセントを、広告費として販売価格の一パーセントを取得している。
そこで、原告の被った損害額は、商品の通常の販売価格に右の実施料相当額を乗じて算定すべきであり、その額は、左記の算式のとおり、一九七六万五七三九円となる。
(17,709×8,900+20,624×4,900+3,000×7,900)×0.07=19,765,739
(二) 被告らの反論
原告の主張は争う。
(甲事件―商標権に基づく請求について)
1 被告標章は、本件登録商標一と類似しているか。
(一) 原告の主張
本件登録商標一は「ELLE」という四文字を横書きしたものであり、「エル」という呼称、「彼女は」という観念を生ずるものである。そして、前記3(一)のとおり、被告標章は、本件登録商標一と同様に、「ELLE」の呼称、観念を生ずるものであり、本件登録商標一に類似する。
(二) 被告らの反論
前記3(二)と同様の理由により、被告標章は、本件登録商標一とは非類似である。
2 その他の争点及び当事者双方の主張は、不正競争防止法に基づく請求における2、5と同じである。
(乙事件―不正競争法に基づく請求について)
1 被告新標章は原告商標と類似しているか。
(一) 原告の主張
被告らが、被告標章(旧標章)を意図的に使用して、まず被告商品と原告商品との混同を生ぜしめた状況下において、同一種類の商品に被告新標章を使用すれば、需要者が、被告新標章を渾然一体と認識し、被告新標章までも原告商標のバリエーションと考えるのは当然の成り行きである。したがって、被告新標章も、衣服等の需要者に、商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれがあるので、原告商標と類似すると解すべきである。
(二) 被告らの反論
被告新標章は原告商標とは、その外観が著しく異なり、両者は非類似である。
2 被告商品は原告商品と混同を生じさせるか。
(一) 原告の主張
前記のとおり、需要者に、被告新商品の出所について混同を生じさせる。
(二) 被告らの反論
被告新標章は、被告標章とは、外観が著しく異なるものであって、一般需要者に、被告標章を修正したかのような関連性を認識させるものではない。また、被告新標章は、原告商標とも明らかに区別して認識されるものであり、両者間に混同が生ずる余地はない。
3 その他の争点及び当事者双方の主張は、甲事件に係る不正競争防止法に基づく請求における1と同じである。
(乙事件―商標権に基づく請求について)
1 被告新標章は本件登録商標二と類似しているか。
(一) 原告の主張
乙事件に係る不正競争防止法に基づく請求1(一)と同様の理由により、被告新標章は本件登録商標二とも類似する。
(二) 被告らの反論
原告の主張は争う。
第三 争点に対する判断
一 原告商標の周知性、著名性について
1 原告は、昭和二〇年(一九四五年)に、フランスで、原告商標を題号として使用した女性向けファッション雑誌(原告雑誌)を創刊し、その後昭和六〇年(一九八五年)ころからは、アメリカ合衆国、カナダ、イギリス、イタリアを初め、世界各国で原告商標を付した原告雑誌を発行している。日本においては、平凡出版が、昭和四五年三月、原告の許諾の下に雑誌「an.an」を発行し、その表紙には「ELLE JAPON」と付されていた。平凡出版は、昭和五七年五月には題号の一部に原告商標を使用した日本語版の原告雑誌「ELLE JAPON」を創刊し、その後、右出版業務は株式会社アシェット フィリパキ ジャパンが承継している(甲四ないし三一、五三、五四、五七)。
なお、昭和六一年六月三〇日増補版第五刷発行の増補版服飾大百科事典下巻には、「エル」の項目に、原告雑誌がファッション中心に編集したフランスの若い女性向きの週刊誌であり、最近では「エル・ファッション」と呼ばれ、全世界の若い女性たちの間に支持者を持つようになっている旨の記載があり、昭和五四年三月五日発行の服飾辞典にも、「エル・ファッション」の項目に、フランスの女性雑誌「ELLE」によって生み出されたファッションのことと記載されている(甲四八、四九)。
2 原告は、原告商標の商品化活動を推進し、昭和三九年以降は帝人株式会社を介して、昭和五九年七月からは自ら設立した東洋ファッション株式会社(平成四年七月一日、株式会社エルパリスに商号変更)を介して、日本国内においても多数の企業に対して原告商標の使用を許諾し、現在までに、右使用権者により、被服、アクセサリー、バッグ類、はき物、傘、時計、眼鏡製品、喫煙具、生活用品等多種類の分野につき、原告商標の付された商品が製造、販売されている。なお、日本国内における平成八年度における原告商品の総売上高は、四三四億円以上にものぼっている(甲三二ないし四七、五三、五四)。
3 以上によると、原告商標は、遅くとも平成七年一一月ころには、原告の女性向けファッション雑誌における商品等表示としても、原告のファッション関係を中心とした各種商品における商品等表示としても、周知かつ著名であると認められる。
二 被告標章の商品表示及び商標としての使用について
被告商標⑨ないしの使用態様をみると、これらは、衣服の左胸部分に小さめに表示されたり、正面の胸部分に大きく目立つように表示されるなどしている(甲五五)。そして、商品のブランド名を衣服に右のような方法で表示することが一般的に行われていることも考えあわせると、右被告標章は、衣服に装飾的に使用されているだけではなく、商品の出所を表示する機能を有する態様で使用されていると認められる。
三 被告標章と原告商標及び本件登録商標一との類似性について
1 原告商標は、欧文字の「ELLE」を横書きしたものであり、右「ELLE」を構成する欧文字は、いずれも縦長であって、各文字の横線の右端部分に縦方向に拡大されたひげがあり、また、各文字の縦線は、横線に比べて太いという特徴がある。原告商標からは、「エル」の称呼を生じる。
本件登録商標一は、原告商標と同様に欧文字の「ELLE」を横書きしたものであるが、頭文字「E」が、他の文字よりも大きい文字で構成されている。本件登録商標一からも、「エル」の称呼を生じる。
被告標章は、別紙第二標章目録①ないし記載のとおりである。
2 被告標章①ないし③のうち、「PARIS」の部分は、他の部分より小さく表示されていること、一般的に商品の生産地等を意味する地名であると認識されることから、右部分には、商品の出所表示機能はない。「JOELLE」のうち「JO」の部分には、右文字に重なるように右上方向から左下方向へ向けて三本の線が配置されていることから、「JOELLE」の部分は「JO」と「ELLE」に区別して認識される。そして、前記一のとおり原告商標が著名であることを考慮すると、一般消費者は、「ELLE」の部分に商品の出所表示機能があると認識するものと認められる。よって、被告標章①ないし③の要部は、いずれも「ELLE」の部分であると解すべきである。
なお、被告標章③には、数字が付加されているが、当該衣服のサイズを意味し、右部分に格別識別的機能はないと解されるので、右の判断を左右するものとはいえない。
3 被告標章④のうち「PARIS」の部分には、前記2のとおり、商品の出所表示機能はない。「JO」の部分は、「ELLE」とは独立して、その上部に配置され、四角形に囲まれて表示されていることから、「JO」と「ELLE」は別々の語であると認識される。そして、前記一のとおり原告商標が著名であることを考慮すると、一般消費者は、「ELLE」の部分に商品の出所表示機能があると認識するものと認められる。よって、被告標章④の要部は「ELLE」の部分であると解すべきである。
4 被告標章⑤及び⑧のうち「PARIS」の部分には、前記2のとおり、商品の出所表示機能はない。その余の部分について検討するに、「ELLE」の部分が黒抜きの文字であるのに対し、「JO」の部分は白抜きの文字であること、「JO」の部分と「ELLE」の部分との間には若干の間隔があること、「JO」の部分には、右文字に重なるように右上方向から左下方向へ向けて三本の線が配置されていることから、「JOELLE」の部分は「JO」と「ELLE」に区別して認識される。そして、前記一のとおり原告商標が著名であることを考慮すると、一般消費者は、「ELLE」の部分に商品の出所表示機能があると認識するものと認められる。よって、被告標章⑤及び⑧の要部は、いずれも「ELLE」の部分であると解すべきである。
5 被告標章⑥のうち「PARIS」の部分には、前記2のとおり、商品の出所表示機能はない。その余の部分について検討するに、前記2の理由に加え、「JOELLE」の部分の上部に、「JO」の文字が四角形に囲まれて表示されていることから、「JOELLE」の部分は、「JO」と「ELLE」に区別して認識される。そして、前記一のとおり原告商標が著名であることを考慮すると、一般消費者は、「JOELLE」の部分のうちの「ELLE」の部分に商品の出所表示機能があると認識するものと認められる。よって、被告標章⑥の要部は「ELLE」の部分であると解すべきである。
6 被告標章⑦のうち「PARIS」の部分には、前記2のとおり、商品の出所表示機能はない。その余の部分について検討するに、「neveu」の部分は、「JO」及び「ELLE」の部分の後に、若干の間隔をおいて、右文字よりも小さい文字で表示されていること、「JO」の部分と「ELLE」の部分との間には若干の間隔があること、前記一のとおり原告商標が著名であることを考慮すると、一般消費者は、「ELLE」の部分に商品の出所表示機能があると認識するものと認められる。よって、被告標章⑦の要部は「ELLE」の部分であると解すべきである。
7 被告標章⑨のうち、「ELLE」の部分と「JO」の部分は、色彩において異なること、「JO」の表示と「ELLE」の表示との間には若干の間隔があること、「JO」の部分には、右文字に重なるように右上方向から左下方向へ向けて三本の線が配置されていることから、「JOELLE」の部分は「JO」と「ELLE」に区別して認識される。そして、前記一のとおり原告商標が著名であることを考慮すると、一般消費者は、「ELLE」の部分に商品の出所表示機能があると認識するものと認められる。よって、被告標章⑨の要部は「ELLE」の部分であると解すべきである。
8 被告標章⑩は、「ELLE」の部分が大きく表示されているのに対し、「JO」の部分は、「ELLE」の部分の左上方に、小さく表示されている。そして、前記一のとおり原告商標が著名であることを考慮すると、一般消費者は、「ELLE」の部分に商品の出所表示機能があると認識するものと認められる。よって、被告標章⑩の要部は「ELLE」の部分であると解すべきである。
9 被告標章⑪ないし⑭のうち「PARIS」の部分には、前記2のとおり、商品の出所表示機能はない。その余の文字部分について検討すると、「ELLE」の部分が大きく表示されているのに対し、「JO」の部分は「ELLE」の左下方に小さく表示されている。そして、前記一のとおり原告商標が著名であることを考慮すると、一般消費者は、「ELLE」の部分に商品の出所表示機能があると認識するものと認められる。よって、被告標章⑪ないし⑭の要部は、いずれも「ELLE」の部分であると解すべきである。
なお、被告標章⑪には、文字部分の周囲を囲む装飾的な図形が描かれ、被告標章⑫には、フランス国旗を模した三色の色彩が施され、被告標章⑭には、中央の文字部分の上下に、フランス国旗に「PARIS」を重ねた図形が一列に配置されているが、右各装飾的部分はいずれも、その形状、色彩等に照らして、商品の出所表示機能はないと解される。
10 被告標章⑮のうち、図形部分は、凱旋門やエッフェル塔等の図形が、「E」「L」「L」「E」の文字と互い違いに配置されているが、各図形の形状等に照らして、図形部分には商品の出所表示機能はないと解すべきである。そして、文字部分のうち、「PARIS」の部分には、前記2のとおり、商品の出所表示機能はない。その余の文字部分について検討すると、「E」「L」「L」「E」の文字は、中央に大きく表示され、四角い升目の中に配置されていること、これに対し、「JO」の部分は、小さく表示され、升目の外に配置されていること、前記一のとおり原告商標が著名であることを考慮すると、一般消費者は、「E」「L」「L」「E」の文字を一体のものとして「ELLE」と認識し、この部分に商品の出所表示機能があると認識するものと認められる。よって、被告標章⑮の要部は「ELLE」の部分であると解すべきである。
11 被告標章⑯のうち、「neveu」の部分は、「JOELLE」の部分の右下方に、小さく表示されていること、「ELLE」の部分は各文字の間隔が広く取られているのに対し、「JO」の部分は間隔が著しく狭いことから、「JOELLE」の部分は、「JO」と「ELLE」に区別して認識される。そして、前記一のとおり原告商標が著名であることを考慮すると、一般消費者は、被告標章⑯のうち「ELLE」の部分に商品の出所表示機能があると認識するものと認められる。よって、被告標章⑯の要部は「ELLE」の部分であると解すべきである。
12 被告標章⑰及び⑱のうち、「neveu」の部分は、「JOELLE」の文字よりも小さい文字で、「ELLE」の部分の右下方に表示されていること、「JO」の部分は「ELLE」の部分と異なり、白抜きの文字(被告標章⑰について)ないし異なる字体(被告標章⑱について)で表示されていることから、「JOELLE」の部分は、「JO」と「ELLE」に区別して認識される。そして、前記一のとおり原告商標が著名であることを考慮すると、一般消費者は、被告標章⑰及び⑱のうち各「ELLE」の部分に商品の出所表示機能があると認識するものと認められる。よって、被告標章⑰及び⑱の部分は、いずれも「ELLE」の部分であると解すべきである。
13 被告標章⑲及び⑳のうち、「PARIS」の部分には、前記2のとおり、商品の出所表示機能はない。その余の部分のうち、「ELLE」の部分は、中央に大きく表示されているのに対し、「SPORT」の部分は、「ELLE」の部分の下方に、小さく表示され、「JO」の部分は、左上方に小さく表示されている。そして、前記一のとおり原告商標が著名であることを考慮すると、一般消費者は、「ELLE」の部分に商品の出所表示機能があると認識するものと認められる。よって、被告標章⑲及び⑳の要部は、いずれも「ELLE」の部分であると解すべきである。
14 被告標章ないしは、いずれも「JO」「ELLE」「neveu」「SPORT」「PARIS」の文字により構成される(被告商標は「NEVEU」の文字により構成される。図形部分を含む標章もある。)右各標章のうち、「PARIS」の部分には、前記2のとおり、商品の出所表示機能はない。その他の文字部分のうち、「ELLE」の部分は、中央に大きく表示されているのに対し、「JO」、「neveu」及び「SPOPT」の部分は、小さく表示されている。そして、前記一のとおり原告商標が著名であることを考慮すると、一般消費者は、「ELLE」の部分に商品の出所表示機能があると認識するものと認められる。よって、被告標章ないしの要部は、いずれも「ELLE」の部分であると解すべきである。
なお、被告標章には、「ELLE」の文字下方が重なるような長円状の図形が、被告標章には、「ELLE」及び「neveu」の文字を囲むように四角形の図形が、被告標章には、左側に右上から左下方向に二本の平行四辺形の図形が、被告標章には、長円で囲まれた中にエッフェル塔の図形が、被告標章には、中央上部にハート型の図形が、それぞれ描かれているが、右各図形部分は、その形状、色彩等に照らして、商品の出所表示機能はないと解される。
15 以上のとおり、被告標章はいずれも「ELLE」の部分が要部であると認められる。そこで、各被告標章の要部と原告商標及び本件登録商標一とを対比すると、いずれもその外観及び称呼において、類似又は同一である。よって、被告標章はいずれも原告商標及び本件登録商標一と類似する。
四 過失の有無及び損害額について
1 以上のとおり、被告らが被告商品を製造、販売する行為は、不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争に該当し、また、本件商標権一を侵害する。そして、原告商標の著名性、被告標章の使用態様に照らすならば、被告らには右製造、販売を行うに当たり、少なくとも過失があったものと認められるので、右行為により原告に与えた損害につき賠償する義務がある。
2 被告都インターナショナルと被告都繊維は、共同して、被告商品を製造し、被告都繊維は、被告オネスティに対し、いずれも被告標章を付したポロシャツ一万七七〇九着、Tシャツ二万〇六二四着、トレーナー三〇〇〇着(その合計四万一三三三着)を販売し、被告オネスティは、このうち合計四万一二一三着を株式会社パリス吉祥寺に販売したこと、被告商品の製造、販売に当たり、被告小宮山及び被告辻が、共同して積極的に関与したことは、前記のとおりである。したがって、右各被告らは、連帯して、原告の被った損害を賠償すべき義務がある。
原告の被った損害額については、被告商品の販売価格を基礎として、これに実施料相当額を乗じた額によるものというべきである。ところで、弁論の全趣旨及び証拠(甲六〇ないし六三)によれば、被告商品の価格に関して、被告オネスティの仕入金額(ポロシャツ、Tシャツ及びトレーナー合計四万一三三三着)が合計二九五七万八七七五円であることは認められるが、本件全証拠によっても、個々の被告商品の仕入額及び販売価格は必ずしも明かではない。弁論の全趣旨及び原告商品における小売価格が四九〇〇円ないし八九〇〇円の間にあること等に照らすならば、本件においては、被告商品の販売価格は、概ね右仕入価格に三〇パーセント相当額を加算した金額であると推認することができる。そうすると、被告らが販売した被告商品の販売価格は、以下のとおり、三八三四万〇七七〇円となる。
ところで、原告は原告商標の使用権者、再使用権者から、ロイヤリティーとして販売価格の六パーセントを、広告費として販売価格の一パーセントを取得しており(甲七〇)、右の経緯に照らすならば、実施料相当額としては、販売価格に七パーセントを乗じた額と解するのが相当である(なお、実施料相当額の算定に当たっては、広告費を含めるのが相当である。)。そうすると、原告が被った損害金は、二六八万円(一万円未満を切り捨てた。)となる。
なお、原告は、前記パリス吉祥寺から、原告の被った損害金の一部として四〇万円の支払を受けている(争いがない)ので、右金額を控除すると、原告の損害額の残金は二二八万円になる。
29,578,775×1.3×41,213÷41,333=38,340,770
38,340,770×0.07=2,683,853円
3 次に、被告オネスティは、右被告商品四万一三三着のうち、一二〇着を、第三者を介して被告ファイブデイズに販売し、同被告は小売販売をしたこと、同被告の小売価格は一着当たり三九〇〇円であること、被告商品の製造、販売に当たり、被告小宮山及び被告辻が、共同して積極的に関与したことは、前記のとおりである。したがって、被告辻、被告小宮山、被告都インターナショナル、被告都繊維、被告オネスティ、被告ファイブデイズは、連帯して、原告の被った損害を賠償すべき義務がある。
原告が被った実施料相当の損害金は、以下のとおり三万二七六〇円となり、原告の請求額二万八〇〇〇円を超える。
3,900×120×0.07=32,760
4 さらに、被告ノアワールドは、平成八年七月ごろ、被告標章を付した子供服を少なくとも一〇〇〇着製造し、小売店に販売したこと、右製造、販売に際し、被告都インターナショナルと被告小宮山は、共同して、積極的に関与したことは前記のとおりである。したがって、同被告らは、連帯して、原告の被った損害を賠償すべき義務がある(なお、右販売について、被告都繊維、被告オネスティ、被告辻が右販売に関与したと認めるに足る証拠はない。)。
原告の被った実施料相当の損害額は九万円である。
五 被告新標章と原告商標、本件登録商標二とは類似しているか。
1 原告商標は前記三1のとおりである。
本件登録商標二は、欧文字の「ELLE」を横書きし、その下方に片仮名の「エル」を横書きしたものであり、その呼称は「エル」である。
2 被告新標章は、欧文字の「JOELLE」を横書きしたものである。被告新標章は、すべて欧文字が、ほぼ同じ大きさの大文字で表示され、各文字の間隔も同一である(なお、被告新標章①については、すべての文字を黒で被告新標章②については、先頭の文字から順に、赤、青交互に、被告新標章③については、先頭の文字から順に、青、赤交互に、彩色されているが、商標の対比に影響を与える程の特徴はない。)。このうち、頭文字の「J」の文字は「OELLE」の文字よりも若干縦長である点、「O」の文字は「ELLE」の文字と字体において、若干相違がある点において特徴がある。しかし、「J」及び「O」の右の点の特徴は、些細なものであって、一般消費者の目を引くほどのものではない。被告新標章からは、「JOELLE」又は「ジョエル」なる人名を想起し、「ジョエル」の称呼を生じ得るものと解される。そうすると、被告新標章は、各文字の体裁及び配列等からみて、「JO」と「ELLE」を区別して認識することはなく、一体のものと認識されると解するのが相当である。
そこで、被告新標章と原告商標及び本件登録商標二とを対比すると、その外観、称呼、観念のいずれも相違する。したがって、被告新標章は、原告商標とも本件登録商標二とも類似するとは認められない。
なお、原告は、被告新標章と原告商標及び本件登録商標二の類否の判断に当たっては、被告らが、原告商標と類似する被告標章①ないしを使用していた経緯を考慮にいれるべきである旨主張する。しかし、このような事情を考慮にいれても、なお、前記の判断に消長を来すものではなく、この点における原告の主張は採用できない。
六 結論
甲事件については、差止請求は理由があるが、損害賠償請求については主文の限度で理由があり、その余は理由がない。なお、原告は、使用回復措置として謝罪広告の掲載も請求しているところ、本件で認定した前記の事情によると、被告らの行為により、原告に謝罪広告を要するほどの信用毀損があったとまでは認められない。
乙事件については、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。
(裁判長裁判官飯村敏明 裁判官八木貴美子 裁判官沖中康人)
別紙第一標章目録
別紙第三標章目録
別紙第二標章目録
別紙第二標章目録②、③、⑥〜<省略>
別紙第三標章目録②、③<省略>
別紙謝罪広告目録<省略>