大判例

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東京地方裁判所 平成10年(ヲ)201号 決定 1999年1月18日

債権者

株式会社ワールド

代表者代表取締役

寺井秀藏

債権者代理人弁護士

山本忠雄

安部朋美

債権者代理人弁護士

中野貞一郎

債務者

株式会社ワールドファイナンス

代表者代表取締役

大山三枝

債務者代理人弁護士

堤淳一

石田茂

石黒保雄

主文

1  債務者は、別紙物件目録記載の広告物を債務者の費用で除去しなければならない。

2  債務者が本決定送達の日から七日以内に前項広告物を除去しないときは、債務者は債権者に対し、上記期間の経過の翌日から除去に至るまで、一日につき金五〇万円の割合による金員を支払え。

(裁判官倉地康弘)

別紙物件目録

1.表示内容 下記表示内容のとおり

1.設置場所 東京都港区六本木七丁目一五番一七号ユニ六本木ビル

1.設置位置 屋上

1.広告物の種類 広告板

1.広告物の規模

(縦)5.5m×(横)10.0m×(面数)1=(合計面積)55.0m2

1.数量 1基

表示内容<省略>

別紙間接強制の申立書

申立ての趣旨

1.債務者は、別紙物件目録記載の広告物を債務者の費用で、除去しなければならない。

2.債務者が、本決定送達の日から七日以内に前項広告物を除去しないときは、債務者は債権者に対し、上記期間経過の翌日から除去に至るまで、一日につき金五〇〇、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

との裁判を求める。

申立ての理由

1.債務者は債権者に対し、下記事件の執行力ある債務名義の正本に基づき、債務者の営業に関し、債務名義添付の第一目録(一)ないし(七)の各表示を使用してはならない義務を有している。

東京地方裁判所平成元年(ワ)第一七一七〇号表示使用禁止等請求事件の判決

2.しかるに、債務者は前項債務名義成立後、同目録(一)の表示を使用した別紙物件目録記載の広告物(以下「本件広告物」という)を設置して、現に不作為義務の履行を妨げている。

3.債権者は、前項債務名義に基づく東京地方裁判所平成一〇年(ヲ)第一一一号授権決定申立事件について、平成一〇年八月四日付で「債権者の申立てを受けた執行官は、別紙物件目録記載の広告物を債務者の費用で除去することができる」旨の決定を受けた。

4.債権者は、前項決定正本に基づき東京地方裁判所執行官渡辺秀男に本件広告物除去の執行申立を行い、同執行官は、平成一〇年一〇月八日執行場所に赴き、本件広告物の同一性、占有状況等の調査を行った。

次いで、同執行官は、平成一〇年一一月四日午前一〇時四五分執行場所に赴き、執行場所のビルの所有者である辰建設株式会社取締役総務部長依田伸祐に面会し、目録物件所在場所への立入等の許諾を求めたが、同人からこれを拒否されたため、本件広告物除去の執行は不能に帰した。

従って、債権者は、前記代替執行の方法によっては、本件広告物の除去が出来ないことが明らかとなった。

5.債務者は、本件広告物が第三者所有ビルの屋上に設置されていることを奇貨として、前記執行力ある債務名義の正本に基づく表示の不使用義務を無視して、現在まで本件広告物を撤去せず使用している。

よって、債権者は、前記債務名義の正本に基づく表示の不使用義務の強制執行として、間接強制の決定を申し立てる。

不作為義務についての民事執行法第一七二条の間接強制は、その第1項の表現にかかわらず、たとえ違反結果の除去あるいは将来のための適当の処分につき代替執行の授権決定がなされうるような場合であっても排除されない。単独にあるいは代替執行と併用して、間接強制が適用される(竹下守夫・判例タイムズ四二八号三八頁以下など参照)。まして、本件では、前項記載のとおり、代替執行の方法によっては本件広告物の除去が出来ないことがすでに明らかとなっているのであり、間接強制によらなければ債務者の表示不使用義務の強制的実現ができず、本件の債務名義はその点で画餅に帰する。その強制執行の方法として、間接強制により、債務者の義務の履行を確保するに十分な額の金銭の支払いが命じられなければならない。

6.債務者は、本件広告物の設置に関して、ビル所有者に対し賃料として年間金八〇〇万円程度を負担しているが、新聞・雑誌等に掲載せられ社会問題化しつつある本件のような悪質な違法行為の継続の防止には、相当処分の決定にあたっては、かかる行為が経済的に割りに合わないものであることを認識させる必要がある。

かかる観点に立てば、米国等で行なわれている損害の三倍賠償の考え方を参考として考慮されてもしかるべきであるが、債務者が本件広告物の設置場所及び広告物の規模、広告宣伝効果等から受ける計り知れない利益と比較した場合には、債務者が支払っている賃料額の3倍の違約金、或は、債権者の被る損害を考慮するのみでは足らず、他の者が類似の違法行為をすることを阻止する目的も考慮されて強制金額が決定されるべきである。

7.従って、債務者の本件行為は、債権者に対しては勿論のこと裁判所に対する朝鮮でもあるので、本件強制履行を実行あらしめるには、強制金は、1日につき金五〇〇、〇〇〇円が相当である。

8.尚、本件とは事例が相違するが、間接強制事件に於て強制金額が定められた最近の判例は、下記のとおりである。

① 組事務所使用禁止仮処分決定に違反した一力一家の組長に対し一日一〇〇万円の強制金の支払を命じた間接強制決定が正当として是認された事例(東京高等裁判所昭和六三年一月二七日第一四民事部決定、判例タイムズ六五六号二六一頁)

② 暴力団の組事務所として建物を使用することの禁止を命じた仮処分決定について、間接強制が認められ、履行の完了まで一日につき一〇〇万円の支払額を認めた事例(大阪地方裁判所堺支部平成三年一二月二七日決定、判例時報一四一六号一二〇頁)

③ 建築工事の妨害を禁止する旨の不作為を命じる仮処分の間接強制において、一日につき五〇万円の支払額を認めた原決定が抗告審に於て維持された事例(東京高等裁判所平三年五月二九日決定、判例時報一三九七号二四頁)

④―①公害防止協定に掲げられる廃棄物広域処理場の資料の閲覧・謄写を命じた仮処分の強制執行(間接強制)として、履行の完了まで一日につき一五万円の金銭の支払を命じた原決定が維持された事例(①事件、東京高等裁判所平成七年六月二六日民事一一部決定、判例時報一五四一号一〇〇頁)

④―②右間接強制決定にもかかわらず仮処分命令が履行されなかったことにより、間接強制としての支払額を一日三〇万円に増額した間接強制変更決定が維持された事例(②事件、東京高等裁判所平成七年九月一日一二民事部決定、判例時報一五四一号一〇〇頁)

9.本件申立に至る背景事件の経緯は、次のとおりである。

① 平成元年一二月二六日、債権者は債務者を相手方として、東京地方裁判所に対し、不正競争防止法第一条一項二号に基づき本件債務名義添付の第一目録(一)乃至(七)記載の表示使用禁止等を求めて訴えを提起した(同庁平成元年(ワ)第一七一七〇号)。

② 平成五年二月二四日、東京地方裁判所に於て、本件債務名義主文のとおりの第一審判決が言渡された。

③ 平成五年三月五日、債務者は東京高等裁判所に控訴を提起した(同庁平成五年(ネ)第八五四号事件)。

④ 平成七年二月二二日、東京高等裁判所に於て、控訴棄却の判決が言渡された。

⑤ 平成七年三月六日、債務者は最高裁判所に上告を提起した(同庁平成七年(オ)第一一〇五号事件)。

⑥ 平成九年二月一四日、債権者代理人弁護士山本忠雄は、債務者に対し、看板撤去の意向に関して申し入れをしたが、債務者からは何らの回答もなかった。

⑦ 平成九年六月一〇日、最高裁判所に於て、上告棄却の判決言い渡された。

⑧ 平成九年六月一九日、債権者代理人弁護士山本忠雄は、上告棄却判決がなされたので、債務者に対して内容証明郵便(債務者会社同年同月二三日到達)により、再度、看板撤去の意向に関して申し入れをしたが、債務者はこれを無視して何らの回答もなかった。

⑨ 平成一〇年一月一三日、債権者は、八洲貿易ビル屋上の看板撤去のため、東京地方裁判所に対し不作為義務違反物除去の申立てを行った(同庁平成一〇年(ヲ)第四号事件)。

⑩ 平成一〇年二月三日、東京地方裁判所に於て前記平成一〇年(ヲ)第四号事件の授権決定がなれた。

⑪ 平成一〇年三月一三日、フライディ誌上に

「PRページではありません

アパレルの「本家」が激怒する“違法看板”林立」の見出し記事が掲載された。

⑫ 平成一〇年四月一五日〜一八日、東京地方裁判所渡辺執行官により八洲貿易ビル屋上の看板撤去の強制執行を完了した。

⑬ 平成一〇年七月一六日、債権者は東京地方裁判所に対し、次のとおり不作為義務の違反除去の申立てを行った。

(イ) ユニ六本木ビル屋上看板撤去に関する申立て

(同庁平成一〇年(ヲ)第一一一号事件)

(ロ) 六本木フジビル屋上看板撤去に関する申立て

(同庁平成一〇年(ヲ)第一一二号事件)

⑭ 平成一〇年八月四日、東京地方裁判所に於て、前記(イ)事件・(ロ)号事件の各授権決定があった。

⑮ 平成一〇年八月三一日、債権者は東京地方裁判所執行官に前記(イ)事件(ロ)事件の各代替執行の申立てを行った。

⑯ 平成一〇年一〇月八日、東京地方裁判所渡辺執行官は、前記(イ)事件・(ロ)事件の各現場に赴き占有状況等の点検を行った。

⑰ 平成一〇年一一月四日、東京地方裁判所渡辺執行官は、前記(ロ)事件の六本木フジビル屋上看板撤去の強制執行を完了した。

⑱ 平成一〇年一一月四日、東京地方裁判所渡辺執行官は、前記(イ)事件のユニ六本木ビル屋上看板撤去の強制執行に赴いたが、同ビル所有者の辰建設株式会社の立入拒絶により執行不能と帰した。

そのため、債権者は、本件間接強制の申立てを行わざるを得なくなった。

⑲ 平成一〇年一二月一三日号、サンデー毎日誌上に於て

「敗訴でもおろさぬ金融道

ワールドVSワールドファイナンス」

とする見出し記事が掲載された。

10.以上の次第で、本件は、わが国裁判制度ひいては法制度の実質的な実効性が試されている事件であり、今後の影響が極めて大きいものと考えられるため、民事執行法第一七二条により、申立ての趣旨記載の間接強制の決定ありたく、本申立てに及んだ。

添付書類<省略>

別紙<省略>

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