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東京地方裁判所 平成10年(特わ)2102号 1998年10月27日

被告人

本籍

埼玉県所沢市大字上新井一八〇番地

住居

埼玉県所沢市北中三丁目八七番九号

無職

鹿島健一郎

昭和四年一一月四日生

出席検察官 髙畠久尚

永村俊朗

弁護人(私選) 五十嵐チカ

岩﨑淳司

主文

1  被告人を懲役一年六か月及び罰金五五〇〇万円に処する。

2  右罰金を完納することができないときは、二五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

3  この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

【犯罪事実】

第一  被告人は、埼玉県所沢市大字上新井一八〇番地に居住しているところ、分離前相被告人中島清海、同大庭俊雄、小野芳男、池田敏雄と共謀の上、平成五年中自ら所有する同市内の各土地を売却したことから、平成五年分の所得税を免れようと考え、特定寄付金を支出し寄付金控除を受けられるかのように装って、所得の一部を秘匿した上、実際は平成五年分の課税総所得金額が六三七万三〇〇〇円であり、分離課税による課税長期譲渡所得金額が五億二一一〇万四〇〇〇円であった(別紙1の所得金額総括表及び修正損益計算書、別紙3のほ脱税額計算書参照)にもかかわらず、平成六年三月一五日、同市並木一丁目七番所轄所沢税務署において、所沢税務署長に対して、平成五年分の課税総所得金額が零であり、総所得金額から寄付金控除等の所得控除を差し引いた損失と長期譲渡所得金額を損益通算した分離課税による課税長期譲渡所得金額が二八七四万円で、これに対する所得税額が四三一万一〇〇〇円である旨の虚偽の所得税の確定申告書(平成一〇年押第一三二〇号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、正規の所得税額一億五七三二万八五〇〇円と申告税額との差額一億五三〇一万七五〇〇円(別紙3のほ脱税額計算書参照)を免れた。

第二  被告人は、中島清海、大庭俊雄、小野芳男、池田敏雄と共謀の上、被告人と同居している被告人の長男鹿島宏夫の代理人として、平成五年中鹿島宏夫が所有する埼玉県所沢市内の各土地を売却するとともに、これらの土地の売却譲渡にともなう鹿島宏夫の所得税の確定申告手続に関与していたことから、鹿島宏夫の平成五年分の所得税を免れようと考え、鹿島宏夫が特定寄付金を支出し寄付金控除を受けられるかのように装って、所得の一部を秘匿した上、実際は鹿島宏夫の平成五年分の課税総所得金額が零であり、総所得金額の損失と長期譲渡所得金額を損益通算した上、所得控除を差し引いた分離課税による課税長期譲渡所得金額が五億七四九九万七〇〇〇円であった(別紙2の所得金額総括表及び修正損益計算書、別紙4のほ脱税額計算書参照)にもかかわらず、平成六年三月一五日、前記所轄所沢税務署において、所沢税務署長に対して、鹿島宏夫の平成五年分の課税総所得金額が零であり、長期譲渡所得金額から寄付金控除等の所得控除を差し引いた分離課税による課税長期譲渡所得金額が六四八〇万五〇〇〇円で、これに対する所得税額が九六九万二二〇〇円である旨の虚偽の所得税の確定申告書(平成一〇年押第一三二〇号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、正規の所得税額一億七二四七万〇五〇〇円と申告税額との差額一億六二七七万八三〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れた。

【証拠】(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)

全事実について

一  被告人の公判供述、検察官調書(二通、乙一、三)

一  分離前相被告人中島清海の公判供述、検察官調書(三通、乙八ないし一〇)

一  分離前相被告人大庭俊雄の公判供述、検察官調書(乙一六)

一  小野芳男(甲一五)、池田敏雄(二通、甲一七、一八)の各検察官調書謄本

一  中村節子(甲二五)、倉橋二郎(甲二八)の各検察官調書

一  「照会に対する回答」と題する書面(甲一三)

一  捜査報告書(甲三〇)

第一の事実について

一  分離長期譲渡所得調査書(甲二)、給与所得調査書、社会保険料控除調査書(甲四)、小規模企業共済等掛金控除調査書、源泉徴収税額調査書

一  捜査報告書(甲一)

一  平成五年分の所得税の確定申告書一袋(平成一〇年押一三二〇号の1)

第二の事実について

一  鹿島宏夫の検察官調書

一  長期分離譲渡所得調査書(甲八)、社会保険料控除調査書(甲九)、損害保険料控除調査書(甲一〇)

一  捜査報告書(三通、甲七、一一、一二)

一  平成五年分の所得税の確定申告書一袋(平成一〇年押第一三二〇の2)

【法令の適用】(以下、刑法は平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法を適用する。)

一  項本文により同法による改正前の刑法を適用する。)

一  罰条

第一の所為 刑法六〇条、平成一〇年法律第二四号二〇条により同法による改正前の所得税法二三八条一項、情状により所得税法二三八条二項

第二の所為 刑法六〇条、所得税法二四四条一項、平成一〇年法律第二四号二〇条により同法による改正前の所得税法二三八条一項、情状により所得税法二三八条二項

二  刑種の選択

各罪 いずれも懲役刑及び罰金刑選択

三  併合罪の処理 刑法四五条前段

懲役刑 刑法四七条本文、一〇条(犯情が重い第二の罪の懲役刑に法定の加重)

罰金刑 刑法四八条二項

四  労役場留置 刑法一八条

五  懲役刑の執行猶予 刑法二五条一項

【量刑の事情】

本件は、被告人が、他の共犯者四名と共謀の上、自分及び確定申告手続を代理していた長男の所得を秘匿して、両名の所得税合計三億一五七九万五八〇〇円を免れたという事案であり、ほ脱税額は高額である上、ほ脱税額の合計が正規の税額の合計に占める割合は、九五パーセントを超えており、この種事案のなかでは悪質なものである。

本件犯行の態様は、納税義務者が五億及び八億という高額な特定寄付金を支出したように装ってその所得を秘匿し、しかも、寄付金控除の額には所得金額による制限があることを承知しながら、あえてそれを無視して、仮装した特定寄付金の大半が寄付金控除の対象になるような申告をしたというものであって、寄付金控除の制度を悪用して行われた厳しい非難に値するものである。

しかしながら、他方において、被告人は、相続税の納付に苦慮していたところ、本件の共犯者の一部の者らが関与して更正の請求がされ、税理士の相続財産の評価が適切でなかったこともあり、その相続税を五億円以上減額する更正決定がされ、その後共犯者らから勧められて本件犯行に至ったのであり、本件各犯行においては、他の共犯者が行った脱税の方法の考案や必要な書類の調整に直接関与していないことが明らかである。また、被告人は、自ら及び長男が所有する不動産をすべて担保に提供した上、親族に保証してもらい、金融機関から多額の融資を受けて、本件各所得に関する本税、附帯税をすべて納付しており、そのため、自宅を含む財産の大半を失い、現在借家住まいを余儀なくされているが、まだ負債を完済できず、親族に経済的な負担をかける可能性を憂う状態にあるなど、本件によって十分な経済的な制裁を受けている。これらの事情に加え、被告人は、本件各犯行について反省の態度を示していること、その他被告人の身上、経歴、被告人の家族の状況等、被告人にとって有利な事情もある。

そこで、これらの事情を総合して考慮するときは、被告人に対してはその懲役刑の執行を猶予すべき事情があるというべきであるから、被告人を主文の懲役刑及び罰金刑に処した上、その懲役刑の執行を猶予することとした。

(裁判官 山口雅髙)

別紙1

所得金額総括表

自 平成5年1月1日

至 平成5年12月31日

鹿島健一郎

<省略>

修正損益計算書

自 平成5年1月1日

至 平成5年12月31日

鹿島健一郎

<省略>

別紙2

所得金額総括表

自 平成5年1月1日

至 平成5年12月31日

鹿島宏夫

<省略>

修正損益計算書

自 平成5年1月1日

至 平成5年12月31日

鹿島宏夫

<省略>

別紙3

ほ脱税額計算書

平成5年分

鹿島健一郎

<省略>

別紙4

ほ脱税額計算書

平成5年分

鹿島宏夫

<省略>

注:総所得金額及び分離長期譲渡所得金額欄の( )は損益通算前の金額である。

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