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東京地方裁判所 平成10年(特わ)2587号 1998年12月25日

本店所在地

東京都豊島区南大塚二丁目三五番三号

株式会社ティーエスエス

(右代表者代表取締役 河本行生)

本籍

東京都中野区上高田一丁目二六番

住居

東京都豊島区東池袋二丁目三七番一七号

エムアールビル三〇四号

会社役員

河本行生

昭和三二年七月一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官永村俊朗及び弁護人芦田直衛各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社ティーエスエスを罰金一六〇〇万円に、被告人河本行生を懲役一〇月に処する。

被告人河本行生に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、その二分の一ずつを各被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社ティーエスエス(以下「被告会社」という)は、東京都豊島区南大塚二丁目三五番三号に本店を置き、学習塾の経営等を目的とする資本金二二〇〇万円の株式会社であり、被告人河本行生(以下「被告人」という)は、右被告会社の実質的経営者(平成七年三月三一日以前及び平成一〇年七月六日以降は代表取締役)として右被告会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、授業料等窓口現金収入の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成六年七月一日から平成七年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四七九一万七八三一円(別紙1の1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年八月二八日、同区西池袋三丁目三三番二二号所轄豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額がなく、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(平成一〇年押第一七三四号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同被告会社の右事業年度における正規の法人税額一七一五万一三〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れ、

第二  平成七年七月一日から平成八年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二五九六万二一五五円(別紙1の2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年八月二七日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額がなく、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四六四四万六〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(三通 乙三、四、六)

一  今井文彦(五通 甲二五ないし二九)、清水健悟(甲三〇)、野田典義(二通 甲三一、三三)及び鈴木恵二(甲三四)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の売上高調査書(甲二)、給与手当調査書(甲三)、退職金調査書(甲四)、交際費調査書(甲七)、広告宣伝費調査書(甲八)、受取利息調査書(甲一一)、雑収入調査書(甲一二)、貸倒損失調査書(甲一三)、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書(甲一四)、交際費等の損金不算入額調査書(甲一五)及び役員賞与損金不算入調査書(甲一六)

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲二〇)

一  東京法務局豊島出張所登記官作成の履歴事項全部証明書(乙八)及び閉鎖登記簿謄本(乙九)

判示第一の事実について

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲一)

一  大蔵事務官作成の繰越欠損金当期控除額調査書(甲一七)

一  押収してある法人税の確定申告書(平成一〇年押第一七三四号の1)

判示第二の事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書(二通 乙二、五)

一  野田典義の検察官に対する供述調書(甲三二)

一  大蔵事務官作成の委託費調査書(甲五)、通信費調査書(甲六)、保険料調査書(甲九)、割引債券償還益調査書(甲一〇)及び申告欠損金調査書(甲一九)

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲一八)

一  押収してある法人税の確定申告書(同押号の2)

(法令の適用)

一  該当法条

1  被告会社

判示各所為につき、いずれも法人税法一六四条一項、平成一〇年法律第二四号による改正前の法人税法一五九条一項、法人税法一五九条二項(情状による)

2  被告人

判示各所為につき、いずれも平成一〇年法律第二四号による改正前の法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人の判示各罪につき、懲役刑を選択

三  併合罪の処理

1  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重)

四  執行猶予

被告人につき、刑法二五条一項

五  訴訟費用

被告会社及び被告人につき、刑事訴訟法一八一条一項本文

(量刑の理由)

本件は、学習塾等の経営を目的とする被告会社が、二事業年度にわたり法人税を申告せず、合計六三五九万円余の法人税を免れた事案である。右のとおり、ほ脱額は高額であり、ほ脱率も一〇〇パーセントと悪質である上、その手口も、被告人が経理担当者に指示し、実際り生徒数を減らした内容虚偽の「生徒リスト」を作成させて、授業料等の収入の一部を売り上げから除外したり、被告人を含む役員合計四名が被告会社を退職した旨仮装して、架空役員退職金を計上したというものであり、計画的かつ巧妙である。また、脱税の動機について、被告人は、生徒数の減少が見込まれたことから、将来の業績悪化や新事業に備え、簿外資金を蓄えようとしたなどと述べているが、そのような動機は特に酌量するに値しない。なお、被告会社が国税当局により査察を受けた際、被告人が役員らに口裏を合わせるよう指示するなどした点は情状として芳しくない。以上の諸事情を考慮すると、被告会社及び被告人の刑事責任は軽くない。

他方、被告人は、公判廷では本件犯行の事実を全面的に認め、反省の情を示して二度と脱税しない旨を誓っていること、前科、前歴がないこと、被告会社においては、修正申告の上、本税については完納し、延滞税の一部を納付し、その余の延滞税、重加算税についても、税務当局に対し返済計画を示して納付に努めようとしていることなど酌むべき事情も認められる。

以上の諸情状を総合考慮して、主文のとおりの量刑をし、被告人についてはその刑の執行を猶予することとした。

(求刑・株式会社ティーエスエス=罰金二〇〇〇万円、河本行生=懲役一〇月)

(裁判官 池田耕平)

別紙1の1

修正損益計算書

株式会社ティーエスエス

自 平成6年7月1日

至 平成7年6月30日

<省略>

別紙1の2

修正損益計算書

株式会社ティーエスエス

自 平成7年7月1日

至 平成8年6月30日

<省略>

別紙2

ほ脱税額計算書

株式会社ティーエスエス

自 平成6年7月1日

至 平成7年6月30日

<省略>

自 平成7年7月1日

至 平成8年6月30日

<省略>

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