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東京地方裁判所 平成10年(特わ)432号 1998年8月27日

本店所在地

東京都品川区東品川二丁目三番一二号

株式会社大紘コーポレーション

(右代表者代表取締役 長原道德)

本籍

東京都港区白金四丁目四六四番地

住居

同区白金四丁目一〇番一八-四〇三号

会社役員

長原道德

昭和六年一月一〇日生

右両名に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官福垣内進並びに弁護人(私選)松崎勝一(主任)及び同石井正行各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社大紘コーポレーションを罰金五〇〇〇万円に、被告人長原道德を懲役二年に処する。

被告人長原道德に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人株式会社大紘コーポレーション(以下「被告会社」という)は、東京都品川区東品川二丁目三番一二号に本店を置き、土木工事等の請負及び設計監理等を目的とする資本金五〇〇〇万円の会社であり、被告人長原道德は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人長原は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の外注工事費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成四年八月一日から平成五年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五二七一万一八八四円であった(別紙1の修正損益計算書参照)にもかかわらず、同年九月三〇日、東京都港区高輪三丁目一三番二二号所轄品川税務署において、同税務署長に対し、所得金額が九九七万六二九〇円で、これに対する法人税額が二七二万二六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成一〇年押第九四一号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一八七四万八二〇〇円と右申告税額との差額一六〇二万五六〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れた。

第二  平成五年八月一日から平成六年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億七〇六四万六〇二七円であった(別紙2の修正損益計算書参照)にもかかわらず、同年九月三〇日、前記品川税務署において、同税務署長に対し、所得金額が零円で、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額六三二三万二二〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れた。

第三  平成六年八月一日から平成七年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億六五六三万八九二二円であった(別紙3の修正損益計算書参照)にもかかわらず、同年一〇月二日、前記品川税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四三五万三九八一円で、これに対する法人税額が一二〇万八二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億三六三四万三六〇〇円と右申告税額との差額一億三五一三万五四〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れた。

(証拠の標目)〔括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。〕

判示事実全部について

一  被告人の公判供述、検察官調書二通(乙3、4)

判示冒頭の事実について

一  被告人の検察官調書(乙2)

一  登記簿謄本(乙7)、閉鎖登記用紙謄本(乙8ないし10)

判示第一ないし第三の各事実について

一  捜査報告書(甲13)

一  受取利息調査書(甲5)、道府県民税利子割調査書(甲10)

一  証拠品提出書(甲14)

一  領置てん末書(甲15)

判示第一の事実について

一  被告人の検察官調書(乙5)

一  外注工事費調査書(甲2)

一  法人税確定申告書(平成五年七月期分)(甲16・同押号の1)

判示第二及び第三の各事実について

一  捜査報告書(甲12)

一  売上高調査書(甲1)、租税公課調査書(甲3)、支払利息調査書(甲8)

判示第二の事実について

一  雑費調査書(甲4)、支払保証料調査書(甲6)、車両運搬具売却損調査書(甲9)

一  法人税確定申告書(平成六年七月期分)(甲17・同押号の2)

判示第三の事実について

一  支払保証料戻り益調査書(甲7)、寄附金損金不算入額調査書(甲11)

一  法人税確定申告書(平成七年七月期分)(甲18・同押号の3)

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社 第一ないし第三の各事実につき、法人税法一六四条一項、平成一〇年法律第二四号による改正前の法人税法一五九条一項、法人税法一五九条二項(情状による)

2  被告人長原 第一ないし第三の各行為につき、平成一〇年法律第二四号による改正前の法人税法一五九条一項

二  刑種の選択 被告人長原につき、いずれも懲役刑を選択

三  併合罪の処理

1  被告会社 刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人長原 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第三の罪の刑に法定の加重)

四  刑の執行猶予 被告人長原につき、刑法二五条一項

(量刑事情)

本件は、土木工事の請負及び設計監理等を目的とする被告会社の代表取締役であり、被告会社の業務全般を統括していた被告人長原が、被告会社の業務に関し、架空の外注工事費を計上するなどしてその所得を秘匿し、三事業年度にわたり、法人税をほ脱した事案である。

被告人長原は、本件において、自分の自由になる金や被告会社の事業拡張資金等を蓄えるために、納税の義務を不当に免れていたもので、動機において酌量の余地はなく、その手口は、架空の外注工事費を計上し、自己の保有する海外のダミー会社に送金するなどしてその発覚を防ぎ、あるいは、売掛金を簿外口座に振り込ませて売上から除外するなど巧妙悪質なものであり、ほ脱税額は合計二億一四三九万三二〇〇円と高額である上、平均ほ脱率も約九八・二パーセントと高率であって、被告人長原が、ほ脱して蓄えた資金で、不動産、高級乗用車、ゴルフ会員権等を購入していたことなどをも合わせ考慮すると、結果も看過できず、動機、態様、結果に照らし、犯情は悪質であり、被告人らの刑事責任は重い。

他方、被告会社においては、既に修正申告の上、本件に関する本税、加算税、延滞税のうち合計金二億五四〇〇万円余を納付済みであり、その余の未納分についても早急に納付される予定であり、未納の地方税についても将来的には納付の見込みがあること、被告人長原は、被告会社の経営体制を改め、今後は正当な申告及び納税をする旨を誓約し、反省の態度を示していること、被告会社及び被告人長原には前科前歴がないことなど被告人らにとって有利に斟酌すべき事情も存するので、これらの諸事情を総合考慮し、被告人長原に対しては、社会内での自力更生の機会を与えるのが相当であると判断し、主文のとおり量刑した次第である。

〔求刑-被告会社につき、罰金七〇〇〇万円

被告人長原につき、懲役二年〕

(裁判官 成川洋司)

別紙1

修正損益計算書

株式会社大紘コーポレーション

自 平成4年8月31日

至 平成5年7月31日

<省略>

別紙2

修正損益計算書

株式会社大紘コーポレーション

自 平成5年8月31日

至 平成6年7月31日

<省略>

別紙3

修正損益計算書

株式会社大紘コーポレーション

自 平成6年8月31日

至 平成7年7月31日

<省略>

別紙4

ほ脱税額計算書

株式会社大紘コーポレーション

(1) 自 平成4年8月1日

至 平成5年7月31日

<省略>

(2) 自 平成5年8月1日

至 平成6年7月31日

<省略>

(3) 自 平成6年8月1日

至 平成7年7月31日

<省略>

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