東京地方裁判所 平成10年(特わ)606号
主文
被告人エルン株式会社を罰金二二〇〇万円に、被告人岡本武彦を懲役一年に処する。
被告人岡本武彦に対し、この裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人エルン株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都渋谷区恵比寿一丁目一三番六号に本店を置き、薬液注入等による遮水及び地盤改良工事の請負等を目的とする資本金二〇〇〇万円の株式会社であり、被告人岡本武彦は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全体を統括しているものであるが、被告人岡本は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の外注費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上
第一 平成四年九月一日から平成五年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二五八七万〇一六三円(別紙1の1の修正損益計算書及び修正工事原価報告書参照)であったにもかかわらず、同年一〇月二二日、東京都渋谷区宇田川町一番一〇号所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二二二八万〇六四一円で、これに対する法人税額が七四八万八〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成一〇年押第八九〇号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額四六三三万四二〇〇円と右申告税額との差額三八八四万六二〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れた
第二 平成五年九月一日から平成六年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七九三一万八七八七円(別紙1の2の修正損益計算書及び修正工事原価報告書参照)であったにもかかわらず、同年一〇月二五日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二三五二万一五五八円で、これに対する法人税額が八〇一万八七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二八九四万二六〇〇円と右申告税額との差額二〇九二万三九〇〇円(別紙2のほ脱額計算書参照)を免れた
第三 平成六年九月一日から平成七年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九三三〇万九六五五円(別紙1の3の修正損益計算書及び修正工事原価報告書参照)であったにもかかわらず、同年一〇月一七日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一四六七万九五七一円で、これに対する法人税額が四七〇万九三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三四一九万五五〇〇円と右申告税額との差額二九四八万六二〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れた
ものである。
(証拠の標目)
括弧内の甲・乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。
判示事実全部について
一 被告人の公判供述及び検察官調書二通(乙二、三)
一 大蔵事務官作成の外注費(工事原価)調査書(甲二)、交際費調査書(甲四)、雑費調査書(甲五)、受取利息調査書(甲六)、交際費等損金不算入額調査書(甲一〇)、損金の額に算入した道府県民税利息割調査書(甲一一)、事業税認定損調査書(甲一二)及び領置てん末書(甲一七)
一 検察事務官作成の捜査報告書三通(甲七、一三、一四)
一 登記官作成の閉鎖登記簿謄本(乙六)
判示第一、第二事実について
一 大蔵事務官作成の福利厚生費調査書(甲三)
判示第一事実について
一 大蔵事務官作成の原材料費(工事原価)調査書(甲一)
一 押収してある確定申告書(平成一〇年押第八九〇号の1)
判示第二の事実について
一 押収してある確定申告書(同押号の2)
判示第三事実について
一 大蔵事務官作成の売上割戻し調査書(甲八)
一 検察事務官作成の捜査報告書(甲九)
一 押収してある確定申告書(同押号の3)
(法令の適用)
被告会社につき 判示各事実につき、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)
被告人岡本につき 判示各所為につき、いずれも法人税法一五九条一項
刑種の選択
被告人岡本につき いずれも懲役刑
併合罪の処理
被告会社につき 刑法四五条前段、四八条二項
被告人岡本につき 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重)
刑の執行猶予
被告人岡本につき 刑法二五条一項
※ なお、右の刑法四五条等の適用は、平成七年法律第九一号附則二条二項、三項によるものである。
(量刑の理由)
本件は、被告人岡本が経営する薬液注入等による遮水の請負等を目的とする被告会社が三事業年度にわたり合計八九二五万円あまりの法人税を免れた事案である。ほ脱額は少なくなく、ほ脱率も平均約八一・五パーセントと高率である。その手口は、知人の経営する全く取引関係のない会社に謝礼を払って架空の請求書を発行してもらい、架空経費を計上するという悪質なものである。また、本件の動機につき、被告人岡本は、大型工事を受注するため取引先の現場所長らを接待する費用が必要であったことや、取引先に対して被告会社の景気がよいように見せかけて信頼を得るとともに被告人岡本個人の物欲を満たすため、外車や高級カメラの購入費用等を捻出したかったことなどを挙げているが、いずれも格別斟酌するに値しないものである。これらの点からすると、被告人岡本及び被告会社の刑事責任は軽視できない。
しかし、被告会社は、その後修正申告の上本税のうち約七〇〇〇万円が納付済みである上、被告人岡本は、本件犯行を認め反省の態度を示しており、被告人岡本及び被告会社にいずれも前科がないことなど、被告人岡本及び被告会社のために酌むべき事情も存するので、以上の諸事情を総合考慮し、主文の刑が相当と判断した
(求刑 被告会社・罰金二五〇〇万円、被告人岡本・懲役一年)。
(検察官村上満男、私選弁護人高松滋各出席)
(裁判官 保坂直樹)
別紙1の1 修正損益計算書
自 平成4年9月1日
至 平成5年8月31日
エルン株式会社
<省略>
修正工事原価報告書
自 平成4年9月1日
至 平成5年8月31日
エルン株式会社
<省略>
別紙1の2 修正損益計算書
自 平成5年9月1日
至 平成6年8月31日
エルン株式会社
<省略>
修正工事原価報告書
自 平成5年9月1日
至 平成6年8月31日
エルン株式会社
<省略>
別紙1の3 修正損益計算書
自 平成6年9月1日
至 平成7年8月31日
エルン株式会社
<省略>
修正工事原価報告書
自 平成6年9月1日
至 平成7年8月31日
エルン株式会社
<省略>
別紙2 ほ脱税額計算書
自 平成4年9月1日
至 平成5年8月31日
エルン株式会社
<省略>
ほ脱税額計算書
自 平成5年9月1日
至 平成6年8月31日
エルン株式会社
<省略>
ほ脱税額計算書
自 平成6年9月1日
至 平成7年8月31日
エルン株式会社
<省略>