東京地方裁判所 平成10年(行ウ)105号 判決 2001年7月05日
原告
甲
訴訟代理人弁護士
後藤孝典
被告
品川税務署長 藤原重光
指定代理人
小沢正明
田邊誠一
磯野宏
佐藤繁
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告が原告の平成5年分の贈与税について、平成8年2月28日付けでした更正処分のうち、課税価格2502万0448円、納付すべき税額1078万1000円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
第2事案の概要
本件は、原告が、平成5年分の贈与税の申告をしたところ、被告から、その申告に係る課税価格の計算において、贈与の対象となった株式及び出資持分の価額が過少に評価されているとして、更正処分及び過少申告加算税賦課決定をされたため、その更正処分のうち申告額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定の取消しを求めた事案である。
1 法令の定め
(1) 相続税法(平成6年法律第23号による改正前のもの。以下「法」という。)22条によれば、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、原則として、当該財産の取得の時における時価によるものとされている。
そして、その価額の評価に関しては、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56、直審(資)17。ただし、平成5年6月23日付課評2-7、課資2-156による改正前のもの。以下「評価基本通達」という。)及び毎年各国税局長が定める財産評価基準が定められている。
評価基本通達において、時価とは、相続等により財産を取得した日等の課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、評価基本通達の定めによって評価した価額によるとされているが(評価基本通達1(2))、評価基本通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価するとされている(評価基本通達6)。
(2) 評価基本通達において、株式の価額は、銘柄の異なるごとに1株単位で評価することとされ(評価基本通達168)、取引相場のない株式(上場株式及び気配相場等のある株式以外の株式をいう。以下同じ。)の価額は、原則として、評価しようとする株式の発行会社(以下「評価会社」という。)を事業規模に応じて大会社、中会社、小会社に区分し(評価基本通達178)、それぞれの区分に応じて評価するものとされている(評価基本通達179)。
そして、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令4条に規定する特殊の関係のある個人又は法人)の有する株式の合計数がその会社の発行済株式数の30パーセント(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する株式の合計数が最も多いグループの有する株式の合計数が、その会社の発行済株式数の50パーセント以上である会社にあっては、50パーセント)以上である場合におけるその株主及びその同族関係者を、同族株主といい(評価基本通達188(1))、同族株主のいる会社の株主のうち、同族株主以外の株主等が取得した株式については、「配当還元方式」(株価構成要素のうち配当金だけに着目して、配当金を収益還元することによりその元本である株式の価額を算出する方法)により評価することとしている(評価基本通達188、188-2)。
(3) また、有限会社に対する出資の価額は、取引相場のない株式の評価方法に準じて計算した価額によって評価することとされている(評価基本通達194)。
2 前提となる事実(各項末尾掲記の証拠等により認定した。)
(1) Bグループの事業活動等
ア A株式会社(ただし、平成5年9月6日当時の商号)は、株式、債券等有価証券等に対する投資業務、企業経営に関するコンサルティング業務等を目的とする株式会社であり、B株式会社(以下「B」という。)を中心とする、Bグループに属していた。
なお、A株式会社は、税理士であり、Bの代表取締役でもある乙(以下「乙」という。)が、平成3年8月に株式会社Cを買収し、商号をL株式会社に変更して、同月26日に自ら代表取締役に就任し、平成4年10月1日、商号を上記のAと変更した株式会社である。そして、同社は、平成9年11月4日、さらにK株式会社に商号変更し(登記は同月5日)、平成11年3月31日、解散した(以下、同社を「L」又は「A」という。)。
(解散の事実について甲59。その余の事実は当事者間に争いがない。)
イ 株式会社D(以下「D」という。)は、有価証券の保有、運用、投資等を目的とする株式会社であり、Aの発行済株式数の半数以上を保有しているが、その筆頭株主は乙であり、平成7年12月には、乙がDの代表取締役に就任している。
Dは、平成元年12月に乙が設立した有限会社Eを平成4年5月に組織変更したものであり、Aに出資した株主が同社の株式(以下「本件株式」という。)を売却する際に、その買取りをしばしば行っていた。
(争いがない事実)
ウ Bは、経営、事業承継、相続に関するコンサルタント業務を行う株式会社であり、乙が代表取締役を務め、Bグループの中心をなしていた。
(乙7、同10、弁論の全趣旨)
エ Aは、ベンチャービジネスに投資することを目的として資産家に投資を呼びかける一方、パンフレットを作成して、「A株の過半数はBグループが所有している為、資産家の皆様は少数株主になりますので、評価額は低くなります。」と記載し、本件株式を取得すれば、評価基本通達により配当還元方式で評価される結果、株式の評価が低くなると説明していた。また、Aは、本件株式の売却についても、上記パンフレットに「株主の皆様が株式の売却を希望された時に購入希望者がいない場合にもこの財産の処分でご希望に応じる事ができるものと考えております。」と記載していた。
(争いがない事実)
オ そして、Aへの出資申出があった場合、Bが窓口になり、まず出資希望者に対して、いくら出資できるかを検討して出資金額を決め、次に、出資金額を出資時の前月末現在の本件株式の時価純資産価額で除して出資可能株数を算出し、Aがその株数に相当する増資を行い、出資希望者に割り当てていた。
この増資を行うことによって、Dによる本件株式の保有割合が、Aの発行済株式総数の50パーセント未満になる場合には、Aが劣後株式を発行し、そのすべてをDが引き受けることにより、Dによる本件株式の保有割合が50パーセント以上になる状態を維持し、D及びその同族関係者以外の株主は、常に同族株主以外の株主に該当し、その保有する本件株式が常に配当還元方式で評価される状態が維持されていた。
(乙10、弁論の全趣旨)
(2) 法人の設立等
ア 原告の伯父である丙(以下「丙」という。)は、平成4年6月23日、会社設立資金として、F株式会社(以下「F」という。)より、返済財源を会社売却資金、借入期間を2年3か月として、22億円の借入れを行った(以下「本件借入れ」という。)。
(争いがない事実)
イ 平成4年6月25日、丙の出資により、有価証券の保有・運用・投資及びこれに附帯する一切の業務を事業目的とする有限会社G(以下「G」という。)が設立された。
同社の設立時における総出資口数は120口であり、同社への出資1口当たりの資本金は5万円、出資1口に対する払込金額は1750万円であり、払込総額21億円のうち、600万円が資本金に、その余の20億9400万円が資本準備金にそれぞれ組み入れられた(以下「本件出資」といい、本件株式と本件出資を併せて「本件株式等」という。)。
丙は、上記総出資口数120口すべてを引き受けた上、本件借入れを原資として、この出資に係る払込金21億円をGに払い込んだ。
(争いがない事実)
ウ Gは、平成6年4月25日、資本金を600万円から1200万円に増資し、株式会社Gに組織変更した。この結果、株式会社Gの総株式数は、240株になった。
この組織変更は、無償増資によって行われ、増資に係る資本金600万円は、資本準備金から賄われた。
(争いがない事実)
エ 株式会社Gは、平成6年5月2日、Aと、①合併期日を同年8月1日とすること、②Aが存続会社となり、株式会社Gは解散すること、③株式会社Gの株式1株に対して、Aの株式510株を割当交付することを条件として、合併契約を締結し(以下「本件合併」という。)、同日解散した。
(争いがない事実)
(3) 本件株式等の取引
ア 丙は、平成4年7月2日、DからLの株式1996株を、3388万6092円(1株当たり1万6977円)で取得した。
(争いがない事実)
イ また、丙は、平成4年7月7日、本件出資120口のうち、98口をLに現物出資(16億9405万9850円相当)し、Lの株式9万9785株を取得した。
上記取得に係るLの株式数9万9785株の計算方法は、現物出資の際の本件出資の1口当たりの時価純資産価額が1728万6325円であることから、現物出資口数98口相当額である16億9405万9850円を、Lの株式の1株当たりの時価純資産価額である1万6977円で除して算出したものである。
(争いがない事実)
ウ 丙は、平成5年9月6日に、本件株式10万1781株(上記アの1996株と上記イの9万9785株の合計)及び本件出資22口を、原告に贈与した(以下「本件贈与」という。)。
(争いのない事実)
エ その後、原告は、Gの組織変更により、上記の出資口数に応じて、株式会社Gの株式44株の発行を受け、さらに、同社とAとの本件合併により、本件株式2万2440株の割当交付を得た。
(争いがない事実)
オ 原告は、平成6年9月5日、Dに対し、本件贈与により取得した本件株式10万1781株と上記エの割当交付を受けた本件株式2万2440株の合計12万4221株のうち、12万2225株を21億5568万2325円(1株当たり1万7637円)で譲渡した。
(争いがない事実)
カ また、原告は、平成8年4月1日、Bに対し、上記オにおける譲渡の残りである本件株式1996株を3410万9644円(1株当たり1万7089円)で譲渡した。
(争いがない事実)
(4) 本件借入れについて
ア 丙は、前記(2)アのとおり、平成4年6月23日、Fより本件借入れを行ったが、本件借入れの紹介者は乙であり、借入金額は総額22億円(15億4000万円及び6億6000万円の2口)、連帯保証人は、丙が代表取締役である株式会社H(平成7年7月31日に解散。以下「H」という。)、原告、丁(原告の父で丙の弟。以下「丁」という。)ほか5名であった。
(争いがない事実)
イ Hは、平成6年9月30日、発行額を21億円、利率を利息支払時における長期プライムレートに1パーセントを加算した年率、利息支払期日を毎年7月31日、償還期限を平成21年7月31日、資金使途を丙及び丁に対する貸付金とする社債を発行し、原告は、前記(3)オの本件株式の譲渡代金により、この社債をすべて引き受けた。
また、丙は、平成6年9月30日、Hから15億5000万円を借り入れ、これにより本件借入れのうち15億4000万円を返済した。
(争いがない事実)
ウ 丙は、平成6年10月20日、株式会社Iから7億円を借り入れ、これにより本件借入れのうち6億6000万円を返済した。
なお、丙は、実際に同社から丙の銀行口座に振り込まれた金額が支払利息等を差し引いた6億4993万5279円であったため、同日、6億6000万円に不足する金額をHから借り入れ、上記振込金と併せて6億6000万円を返済している。
(争いがない事実)
エ Hは、平成7年3月17日、取締役会を開催し、上記イの社債を償還することを議決し、同月20日、J株式会社(以下「J」という。)との間で、Hの資産及び負債を一括してJに移転する旨の売買契約を締結して、Hの原告に対する社債未払金をJに移転した。
(甲18、同20、同22)
オ Jは、平成7年4月1日、取締役会を開催し、社債を発行すること、原告がこの社債を引き受けること及び原告に対する未払金21億円と同社債払込金21億円とを相殺することを議決し、これに基づいて社債を発行の上、原告に交付した。
(甲24、同26の1ないし5)
(5) 本件訴訟に至る経緯
ア 原告は、平成6年3月8日、本件株式等の価格をいずれも配当還元方式で評価し、本件株式を1株当たり208円、本件出資を1口当たり17万5000円として、平成5年分贈与税の申告をした。
(争いがない事実)
イ これに対し、被告は、平成8年2月28日、本件株式の価格を1株当たり1万6977円、本件出資の価格を1口当たり1801万1558円と評価した上で、課税価格を21億2419万0313円、納付すべき税額を14億7561万3000円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税2億1918万5500円の賦課決定(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った(以下、本件更正処分及び本件賦課決定を併せて「本件各処分」という。)。
(争いがない事実)
ウ 原告は、平成8年3月28日、東京国税局長に対し、本件各処分を不服として異議申立てをしたが、東京国税局長は、同年6月20日、異議を棄却する旨の決定をした。さらに原告は、同年7月18日、国税不服審判所長に対し、本件各処分を不服として審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成10年3月5日、審査請求を棄却する旨の裁決を行い、裁決書の謄本は、同月6日付け書面により、原告に送達された。
(争いがない事実)
なお、本件各処分及びこれに対する不服申立ての経緯は、別表1記載のとおりである。
3 被告が行った本件各処分の根拠
被告が本訴で主張する、本件贈与に係る本件各処分の根拠は、次のとおりであり、そのうち、本件株式等の評価額の点及び本件賦課決定処分に係る正当事由の有無の点を除いては、当事者間に争いがない。
(1) 本件更正処分の根拠
被告が本訴で主張する原告の平成5年分贈与税の課税価格及び納付すべき贈与税額は、次のとおりである。
ア 課税価格 21億4042万3037円
この金額は、原告が平成5年9月6日(本件課税時期)に、丙からの本件贈与により取得した財産の総額であって、その内訳は次のとおりである。
a 本件株式10万1781株の価額 17億4910万6485円
(時価純資産価額方式により、本件課税時期の前月末の1株当たり純資産価額をもって評価した、本件株式の1株当たりの価格 1万7185円)
b 本件出資22口の価額 3億9131万6552円
(本件課税時期の直前期である平成4年6月25日から平成5年5月31日までの事業年度の貸借対照表に計上された資産及び負債に基づいて、評価基本通達185に定める純資産価額方式により評価した、本件出資1口当たりの価格 1778万7116円)
なお、計算方法の詳細は、別表2記載のとおりである。
イ 納付すべき贈与税額 14億8697万6100円
この金額は、上記アの課税価格から、法21条の5に規定する贈与税の基礎控除額60万円を控除した金額21億3982万3000円(ただし、国税通則法(以下「通則法」という。)118条1項の規定により1000円未満の端数切捨て後の金額)に、法21条の7に規定する税率を適用して算出した金額である。
ウ 被告が本訴で主張する原告の納付すべき贈与税額は、上記イのとおり、14億8697万6100円であるところ、本件更正処分に係る原告が納付すべき贈与税額は、14億7561万3000円であり、上記金額の範囲内であるから、本件更正処分は適法である。
(2) 本件賦課決定処分の根拠
原告は、平成5年分贈与税の課税価格及び納付すべき贈与税額を過少に申告していたものであり、かつ、このことについて、通則法65条4項に規定する正当な理由も存しない。したがって、①通則法65条1項の規定により、原告が本件更正処分によって新たに納付すべきこととなった贈与税額(ただし、通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後の金額)である14億6483万円に、100分の10の割合を乗じて算出した金額1億4648万3000円と、②通則法65条2項の規定により、原告が本件更正処分によって新たに納付すべきこととなった贈与税額のうち、原告が平成6年3月8日に被告に提出した平成5年分贈与税の申告書(以下「本件申告書」という。)に記載されている納付すべき贈与税額(1078万1000円)を超える部分に相当する金額(ただし、通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後の金額)である14億5405万円に、100分の5の割合を乗じて算出した金額7270万2500円とを合計した、2億1918万5500円を過少申告加算税として賦課決定した本件賦課決定処分は、適法である。
4 当事者の主張
(被告の主張)
(1) 本件株式等の評価について
ア 法22条と評価基本通達について
法22条に規定する時価とは、課税時期における当該財産の客観的交換価値、すなわち、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立する価額をいうものと解される。しかしながら、財産の時価を客観的に把握することは必ずしも容易ではなく、また納税者間で財産の評価がまちまちになることは、平等の観点から好ましくないため、租税平等主義の見地から、法24条に定める財産以外の財産について、評価基本通達に評価方法が定められており、現実の評価事務は、この通達によって行われている。
したがって、評価基本通達に定められた評価方法が合理的なものである限り、形式的にすべての納税者に評価基本通達を適用することによって、租税負担の実質的な平等を実現することができるのであるから、特定の納税者又は特定の相続財産についてのみ、評価基本通達に定める方法によらずに評価を行うことは、租税平等主義の観点から原則として許されない。
しかしながら、評価基本通達に定められた評価方法によるべきとする趣旨がこのようなものであることからすれば、評価基本通達に定められた評価方法を形式的に適用して、形式的な平等を貫くことが、かえって富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の目的に反し、租税負担の実質的な平等を害することが明らかである等の特別の事情がある場合には、評価基本通達を適用しないで法22条の時価を評価することができるものと解すべきである。
そして、評価基本通達の形式的適用がかえって租税負担の実質的な平等を害するか否かについては、租税回避目的といった主観的事情も含め、相続開始ないし贈与前後の事情を総合的に判定すべきである。
イ 取引相場のない株式(出資)の評価につき評価基本通達が配当還元方式を採用した趣旨
取引相場のない株式は、株式の圧倒的多数を占めており、その発行会社の事業規模は、上場会社に匹敵する大規模のものから、個人企業と変わらない小規模のものまで千差万別であって、会社の株主の構成をみても、いわゆるオーナー株主といわれる株主のほか、従業員株主などの零細株主も存在している。また、これらの株式は、証券取引所又は証券会社の店頭において成立する取引価格(市場価格)を有しておらず、取引事例がみられる場合でも、特定の当事者間や特別の事情で取引されることが通常であるため、その取引価格を直ちに当該株式の客観的交換価値とみることには問題がある。
そこで、評価基本通達は、これらの実態を踏まえ、取引相場のない株式の価額を合理的、かつ、その実態に即して評価するために、評価会社をその従業員数、総資産価額、取引金額に応じて大会社、中会社、小会社に区分し(評価基本通達178)、それぞれの会社に適用すべき評価方法を定めている(評価基本通達179)。
また、有限会社に対する出資の価額は、取引相場のない株式の評価に準じて計算した価額によって評価することとしている(評価基本通達194)。
ところで、評価会社の株主の中には、前述のとおり、従業員株主等の零細株主が存在する場合があるが、これらに代表される「同族株主以外の株主等」は、一般的に、持株割合が僅少で会社の事業経営に対する影響力が少なく、単に配当を期待するにすぎない実情にあることから、この株主等が取得した株式については、評価手続の簡便性をも考慮して、特例的な評価方法である配当還元方式により評価するものとしている(評価基本通達178ただし書)。
ウ 本件株式について、評価基本通達を適用して配当還元方式による評価をすべきでない理由
a 本件株式による租税回避方法及び租税回避の意図
本件株式に関する租税回避の方法は、前記2(1)エ及びオのとおりであり、Aにおいては、常時、関連会社であるD及びその同族関係者による本件株式の保有割合が発行済株式総数の50パーセント以上になる状態が維持され、本件株主を取得する第三者は、同族株主以外の株主となることから、その株式について相続、贈与等による承継があった場合、評価基本通達を形式的に適用すれば、配当還元方式により評価すべきことになり、相続税又は贈与税に係る課税価格の計算上、その価額は、その株式を取得、処分する際の価額である時価純資産価額方式により計算した価額より、著しく低くなる仕組みであった。ところが、実際には、本件株式を取得した株主は、その株式が時価純資産価額により買い取られ、あるいは同価額により買い取られることが保証されていた。
また、Gを設立するための本件借入れの当初の利息が年8.3パーセントであり、丙が借入日(平成4年6月23日)から完済の日(平成6年10月20日)までの間にFに支払った利息(遅延利息を含む。)の合計額が3億4762万4104円であったのに対し、この間にA及びGから受領した配当額は304万2824円(支払利息の約0.9パーセント)にすぎない。また、本件株式の配当金は、普通株式のみに支払われ、その配当金は1株当たり年30円であったところ、平成4年7月7日時点での本件株式1株当たりの取得価額が1万6977円となることからすれば、配当利回りは0.2パーセントにも満たない。このような、本件株式に対する配当の額と本件株式の取得の原資である本件借入れ及び本件株式の取得価額とを比較すれば、丙が本件株式を取得した目的が配当を得ることにあると解することは、経済的合理性に反する。
これらのことからすれば、丙が本件株式を取得した目的は、これを保有することによる配当金の取得ではなく、専ら丙に相続が生じ、又は同人が本件株式を生前贈与しても、上記の仕組みから、相続税又は贈与税に係る課税価格の計算上、その価額が時価純資産価額方式により計算した価額より著しく低くなることに着眼し、税額軽減の利益を丙の承継人に享受させることにあったことは明らかである。
b 本件株式を配当還元方式により評価することが、実質的公平を著しく損ない、法22条にいう「時価」を反映しない結果となること丙は、前記2(3)ア及びイのとおり、本件株式を1株当たり1万6977円の価額で取得したものである。また、原告は、前記2(3)オ及びカのとおり、自己の取得した本件株式のうち、12万2225株をDに対して21億5568万2325円(1株当たり1万7637円)で譲渡し、1996株をBに対して3410万9644円(1株当たり1万7089円)で譲渡している。
この事実と、当時Aが、同社への出資を募るとともに、株主になった者が売却を希望した場合に、購入希望者がいなくても一定の価格で売却できる旨を表明していたこと、Dも、原則として、取引が行われる前月末現在の本件株式の1株当たりの時価純資産価額を買取価額としていたこと、原告以外の同族株主以外の株主についても、同様の取扱いがなされていたこと、その際の引受価額及び買取価額も時価純資産方式により計算されていたことと併せて考えるならば、配当還元方式により評価した本件株式の1株当たりの価額208円は、取引の実際とは著しく乖離しているというべきであって、これをもって、法22条にいう「時価」とすることはできない。
また、本件の状況は、評価基本通達が同族株主以外の株主の保有する株式の評価について配当還元方式を採用する上で想定した状況とは全く異なり、本件株式を配当還元方式により評価することは、課税上、実質的な公平を著しく損なう結果となることが明らかである。
c したがって、本件贈与における本件株式の価額の評価については、評価基本通達を適用しないことが相当と認められるような特別の事情が認められるのであるから、評価基本通達を適用せずに、法22条の時価に立ち戻って評価すべきである。
エ 本件株式を純資産価額方式により評価することの合理性
上記ウbによれば、本件株式については、時価純資産価額方式により計算した価額が、客観的交換価値を正しく反映したものというべきであるから、本件課税時期の前月(平成5年8月)末の本件株式1株当たりの時価純資産価額に相当する1万7185円をもって、本件課税時期における本件株式1株当たりの「時価」とすべきである。
オ 本件出資について、評価基本通達を適用して配当還元方式による評価をすべきでない理由及び本件出資の時価について
a 本件出資による租税回避方法及び租税回避の意図
丙が平成4年7月7日にGの出資98口をLに現物出資したため、原告は、課税時期において、Gの全出資口数の18.3パーセントに相当する出資しか保有しておらず、評価基本通達194及び188に定める同族株主以外の株主等に該当することから、原告が本件贈与により取得した本件出資は、評価基本通達を適用すれば、配当還元方式により評価されることとなる。
しかしながら、丙がGを設立し、その後原告に本件出資を贈与した目的が、丙の相続税対策にあったことは、原告も認めるところである。また、本件贈与について原告から一任されていた丁も、同様の目的で、本件出資を丙から原告に贈与する仕組みにしたことを認めている。さらに、丙がGを設立した意図も、将来のAとの合併を視野に入れた贈与税(ひいては相続税)の大幅な軽減を図るところにあるといわざるを得ない。
b 本件出資を配当還元方式により評価することが不合理であること丙は、Gの設立に当たり、本件出資22口の取得に対し3億8500万円を払い込んだこととなり、また本件贈与を受けた原告は、Dへの本件株式の譲渡価格を前提とすれば、本件出資22口に代わる本件株式2万2440株を譲渡したことにより、3億9577万4280円を回収したこととなる。
しかしながら、評価基本通達を形式的に適用して本件出資22口の評価額を評価すると、わずか385万円となり、丙の取得額及び原告の回収額と比較して著しく低額となるから、本件出資を配当還元方式により評価することは、実質的な租税負担の公平を著しく損なう結果となる。
また、本件の状況は、評価基本通達が同族株主以外の株主の保有する株式の評価について配当還元方式を採用する上で想定した状況とは、全く異なるというべきである。
c したがって、本件贈与における本件出資の評価については、評価基本通達を適用しないことが相当と認められるような特別の事情があるということができるから、評価基本通達によらずに、法22条の時価に立ち戻って評価すべきである。
d 本件出資を純資産価額方式により評価することの合理性
本件課税時期における本件出資の価額を算定する方法としては、純資産価額方式によることが合理的であるところ、被告が主張する本件出資の評価額(1口当たり1778万7116円)は、前記3(1)アbのとおり、Gの本件課税時期の直前期の事業年度の貸借対照表に計上された資産及び負債に基づいて、評価基本通達185に定める純資産価額方式により計算したものであり、法22条に定める時価として十分合理性を有するものである。
また、本件出資の価額の評価に当たり、Gの有する資産及び負債を本件課税時期の価額(時価)によって計算することも合理性を有すると解されるところ、この方法によれば、本件出資1口当たりの価額は1822万8459円となり、その価額は被告の主張する本件出資の価額を上回ることとなる。
(2) 原告による本件贈与の錯誤無効の主張が認められないこと原告は、本件贈与について、本件株式等の価額が評価基本通達に基づく配当還元方式により評価され、贈与税が課税されることが前提とされており、本件更正処分のごとく莫大な贈与税が課税されるものと知っていれば、本件贈与をしなかったことが明らかであるとして、本件贈与が錯誤により無効であると主張するが、このような主張は、以下の理由により失当である。
ア 租税負担の見込みが法律行為の要素となる動機といえないこと本件において原告が主張する錯誤とは、単に租税回避策上の見込み違い、あるいは課税に関する法令解釈の誤りにすぎず、本来課されるはずの贈与税の負担を著しく減少させる意図で本件贈与をしたが、功を奏さなかったにすぎないのであって、そのような内心における租税負担の見込みや、課税に対する法令解釈の誤りは、法律行為の要素となり得る動機とはいえない。また、このような場合にまで、原告の主張する錯誤を要素の錯誤と同視して、法律行為を無効として課税を免れさせれば、納税者間の公平を害し、租税法律関係の安定が損なわれることとなる。
イ 原告の主張する動機の錯誤が本件贈与における要素の錯誤とはいえないこと仮に、租税負担の見込みが、法律行為の要素となり得る動機であるとしても、租税負担の見込み違いは、要素の錯誤とはらない。
また、本件贈与の贈与契約書において、本件株式等の1株当たりの価額は評価基本通達に基づく相続税評価額とする旨記載され、別紙にその計算根拠が記載されているものの、このことから本件贈与に際し、本件株式等が評価基本通達により評価されることが本件贈与の動機として表示されていたとは認められないから、この動機が表示されていたとはいえないし、仮に動機の表示に当たる余地があるとしても、意思解釈上、この動機が法律行為の要素となっているとはいえない。
ウ 原告に錯誤について重大な過失があること
丙は、平成4年7月2日、Dから本件株式1966株を1株当たり1万6977円で取得し、同月7日にはLから本件株式9万9785株を取得し、それから2年も経過しない平成5年9月6日に、本件贈与をしたのであるから、丙及び原告は、本件贈与に際し、本件株式の実際価額が1株当たり1万7185円相当であることを十分承知していたものであって、課税上、これを著しく下回る1株208円と評価されるという異常な事態について、疑問を抱くのが当然であり、その根拠及び税制上の可能性について国税当局に対して確認してしかるべきところ、それをしなかったのであるから、丙及び原告には、錯誤につき重大な過失があるといわざるを得ず、原告自らが、本件贈与の無効を主張することはできない。
エ 法定申告期限を経過した後の錯誤無効の主張が許されないこと納税義務の発生の原因となる私法上の法律行為に瑕疵はないが、当初予定していたよりも重い納税義務が生ずることに気づき、相手方の同意の下にこれを取り消し、又は解除した場合には、私的自治の尊重、納税者間の公平の確保及び租税法律関係の安定の維持の要請を合理的に調整する必要があることにかんがみ、法定申告期限が経過するまでの間になした取消し、解除に限り、その効果を主張し得ると解すべきであって、少なくとも法定申告期限を経過した後になされた錯誤無効の主張については、その効果が認められないというべきである。
オ 原告に経済的成果が存する限り本件各処分が適法であること法1条の2第1号は、贈与により財産を取得した個人で当該財産を取得した時において法の施行地に住所を有するものに、贈与税を納める義務があるとし、法2条の2第1項は、贈与税の課税財産の範囲につき、「第1条の2第1号の規定に該当する者については、その者が贈与に因り取得した財産の全部に対し、贈与税を課する。」と規定している。さらに、法4条ないし9条は、贈与によって取得したものとはいえないとしても、実質的にみて、贈与を受けたのと同様の経済的利益を享受している事実がある場合に、租税負担の公平の見地から贈与税を課すこととし、例えば法9条は、「対価を支払わないで利益を受けた場合」も「当該利益の価額に相当する金額」を贈与により取得した財産とみなす旨規定している。
以上に照らせば、贈与税は、贈与によって財産が移転するのを機会に、その財産に対して課される租税であり、贈与そのもの又は贈与契約による直接の法的効果そのものに担税力を認めて課税対象としているのではなく、贈与という原因行為によって生じた経済的成果に担税力を認めて、課税の対象としている財産税であると解される。
したがって、たとえ原因行為である贈与契約に瑕疵があったとしても、その結果として無償で財産を取得したという経済的利益の享受があり、その経済的利益が存在する限り、贈与税の課税は妨げられないと解される。
本件において、原告は、本件贈与により本件株式10万1781株及び本件出資22口(その後、Gの組織変更及び本件合併により、本件株式2万2440株となる。)を取得後、Dに対し、本件株式12万2225株を21億5568万2325円で譲渡した上、売却代金のうち21億円をHの発行した社債の引受に充当し、さらに、残る本件株式1996株を、Bに3410万9644円で譲渡している。
したがって、原告が本件贈与により経済的成果を享受し、これを活用していることは明らかである。
(3) 過少申告加算税に関する本件賦課決定処分の適法性について原告は、評価基本通達に従って本件株式等を評価して申告したのであるから、過少申告となったことにつき、通則法65条4項所定の「正当な理由」があり、本件賦課決定処分は違法であると主張するが、以下の理由により失当である。
ア 通則法65条1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき納付すべきこととなった税額に一定の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨を定めている。
過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の発生を防止するため、申告に係る納付すべき税額が過少であった場合に、行政上の措置として課される特別の経済的負担であって、不正行為の反社会性ないし反道徳性に着目したものではないから、単に過少申告の事実があれば、原則として課せられるものである。
イ 通則法65条4項は、その納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、その部分について過少申告加算税を課さないこととしているところ、上記アの過少申告加算税の趣旨に照らせば、ここにいう正当な理由とは、かかる納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は苛酷となる場合をいうと解すべきであるから、当該申告が真にやむを得ない理由によることを要し、納税者の税法の不知又は誤解に基づく場合は、これに当たらないというべきである。
ウ しかるに、原告による平成5年分の贈与税の申告については、次のとおり、通則法65条4項所定の正当な理由はない。
a 評価基本通達が同族株主以外の株主の保有する取引相場のない株式の評価について配当還元方式を採用している趣旨は、前記(1)イのとおりであるところ、本件株式については、贈与税又は相続税の課税価格の計算上、常に評価基本通達の定める配当還元方式により安価に評価できる状態にすることが画策されており、そのことが各投資家に宣伝されていた反面、実際の取引においては、時価純資産価額での売買や引受けがなされていたものである。また、本件出資についても、丙及び原告は、本件出資98口をLに現物出資することにより、本件出資を配当還元方式により評価することができる状況を作出し、贈与税ひいては相続税の大幅な軽減を図る目的で本件出資に係る取引を実行したと認められる。
b このように、原告は、評価基本通達を形式的に適用すると本件株式等の価額が配当還元方式により評価されることを悪用して、多額の贈与税ひいては相続税を免れることを企図して本件贈与を実行したものであって、本件株式等を配当還元方式により評価した原告の申告を容認すれば、評価基本通達の趣旨に反するのみならず、富の再分配を通じて経済的平等を実現することを目的として設けられている相続税ひいてはこれを補完する贈与税の目的を没却することとなり、実質的な租税負担の公平を著しく害することとなる。
c また、原告は、評価基本通達の基準に従って贈与税の申告をした以上、通則法65条4項所定の正当な理由があるとする。しかし、本件課税時期の時点で、評価基本通達によらないことが相当と認められるような特別の事情がある場合に、別の評価方法によって評価することが許されるものとする裁判例が、既に多数存在していたのであって、原告が本件において、評価基本通達どおりに計算して申告したとしても、それが特別の事情の存在により否定されることが十分予想できたのであるから、正当な理由があるとはいえない。
d 以上のとおり、原告が過少申告を行ったことについては、真にやむを得ない理由はなく、かかる申告をした原告に、過少申告加算税を賦課することが不当又は苛酷になる事情も存しないから、通則法65条4項にいう正当な理由はなく、本件賦課決定処分は適法である。
(原告の主張)
(1) 本件株式等の評価について
本件株式等についての法22条にいう「時価」は、次のとおり、評価基本通達に定める配当還元方式によって評価すべきである。
ア 本件株式等について、評価基本通達によらないことが相当と認められるような特別の事情がないこと
a 法22条にいう「時価」をどのように評価するかは、贈与税の課税標準及び税額に重大な影響を与えることになりかねず、評価基本通達によらない例外的な方法による評価を広範に許容することは、裁量課税を認めるのと同様の結果になりかねないのであるから、このような特別の事情の存在を安易に認めることは、許されないというべきである。
b そこで、法22条の「時価」に関し、評価基本通達の定める方法によらずに他の方法によって評価すべきとした裁判例を分析すると、評価基本通達に評価の定めがあるものの、特別の事情が認められるために、これによるべきでないとした裁判例では、当該評価対象物について、不特定多数者間の自由な取引によって成立した取引価格が存在し、その価格と評価基本通達の定める方法による評価額との間に、著しい格差があることが常に認められる。そして、租税平等主義の観点からは、評価基本通達により評価することが原則であるが、特別の事情があることから、法22条の「時価」の意義に照らし、客観的な取引価格をもって「時価」とすべきであるとされている。また、評価基本通達に評価の定めがあるものの、特別の事情あるいはこれに類する文言を用いることなく、これによるべきでないとした裁判例においても、当該評価対象物について、常に客観的取引価格が存在し、これと評価基本通達の定める方法による評価額との間に著しい格差があることが認められる。
以上によれば、評価基本通達の定める方法によらずに他の方法によって評価すべきとされた事例では、必ず当該評価対象物について客観的取引価格が存在しており、評価基本通達の定める方法によらずに評価することが認められるには、客観的取引価格と評価基本通達の定める方法による評価額とに著しい格差があることが必要というべきである。
c しかしながら、Aは、いわゆるベンチャー企業に対して投融資を行い、将来これが上場した際、その投資有価証券の市場価格の上昇によるキャピタルゲインを得ることを目的として設立された株式会社であり、一般の資産家に資金を依拠するため、創業者である乙が、同社自体の上場と、投資株主が相続税評価上配当還元方式によるメリットを享受できるように、同社を構成することとしたものである。このような事業内容から、Aが行った投融資は、リスクの高さを当初から運命付けられており、もともとAの株主が投資価額で株式の換金を求めたとしても、直ちにこれに応じることは不可能な構造であった。そのため、Aないしは乙が、本件株式の買取りを保証した事実はなく、仮に何らかの約束があったとしても、それは本件株式が換金困難であることから買取りの努力をすると約束していたにすぎない。したがって、本件株式については、第三者との自由な取引はなく、客観的取引価格が存在していたわけではないから、特別の事情は認められない。
また、有限会社であるGに対する本件出資においては、そもそも第三者間での自由な取引があり得ないのであるから、客観的取引価格を想定することができず、特別の事情を認める余地はない。
イ 本件株式等について、配当還元方式により評価することが相当であること
a 非上場株式の具体的な評価方法については、評価基本通達がこれを規定しており、納税実務及び課税実務とも、これに基づいて長期にわたり安定的に運用されてきたものである。この事実は、租税法律主義と平等取扱原則が支配する租税法の分野において、単なる認識対象たる事実ではなく、法規性ある基準として機能してきた事実として把握されなければならない。そこで、評価基本通達に定める評価方法によって得られた評価額は、他に特段の不合理性が認められない以上、「時価」として容認されるべきである。
また、課税庁は、財産の評価方法を変更するのであれば、国民に対して事前にその旨を明らかにすべき義務を有しているが、本件贈与が行われた時点で、取引相場のない非上場株式の評価について、評価方法を改定もしくは変更した事実はない。
これらのことからすれば、本件株式等については、評価基本通達の定める評価方法である、配当還元方式によるべきである。
b また、経済学的見地からは、有価証券の価値を配当還元価額であると考えることが最も正しいということができる。
c さらに、本件株式については、Aのグループ企業による保有割合が発行済株式総数の50パーセント以上になる状態が維持されており、Aに投資する者は、常に少数株主となり、同社の経営を支配することはできず、配当を期待し得るのみであるから、このような投資家の保有する株式の評価方法としては、配当還元方式が最も適切である。
d これに対し、被告の主張する時価純資産価額方式とは、いわゆる再調達時価純資産法であるところ、これは、企業を新たに買収又は設立する場合に必要とされる金額という観点からの評価方法であって、企業買収とは全く関係のない本件株式等の評価においては、そのような高い評価額を導く評価方法を用いることは相当ではない。
また、Aは、投資家を誘引するために、意図的に高い評価額を採用していたのであるから、そのような価格を基に本件株式等の「時価」を評価することには無理がある。
ウ 「実質的な租税負担の公平」について
被告の主張する「実質的な租税負担の公平」は、税務対策を講じた者と講じなかった者の税額が異なることを禁止するという意味で使われているが、納税者たる国民がその所有する財産を自由に処分することは憲法上認められた権利であって、税務対策を講じることは、そのような権利の行使である。租税法律主義の下において、国は、法律が権限を与えている範囲を超えて国民から税金を徴収することはできず、納税者が、租税を、法令の範囲内において、意図的に極小化することは、法律違反ではないというべきである。
また、「実質的な租税負担の公平」を理由に、評価基本通達によらない評価を採用して課税することは、懲罰的評価方法の導入にほかならず、また、このような根拠による課税は、法律上の根拠を欠き、租税法律主義に反するというべきである。
(2) 本件贈与が錯誤により無効であること(予備的主張)
仮に、本件株式等の価額が時価純資産価額方式により評価されるべきであり、本件各処分が法的に正当であるとしても、その課税処分の対象となった本件贈与には、次のとおり、民法95条に定める錯誤があり、贈与契約自体が無効であるから、本件各処分は、そもそも課税の対象を欠くこととなり、当然に取り消されるべきである。
ア 原告及び丙は、評価基本通達による配当還元方式に基づいて、本件株式1株当たりの評価額を208円、本件出資1口当たりの評価額を17万5000円と認識、判断して、本件贈与を行ったものである。したがって、原告としては、これらの認識が誤りであって、贈与税額の算定に当たり、被告が本件更正処分の前提とした、本件株式1株当たりの評価額1万6977円及び本件出資1口当たりの評価額1801万1558円が正当な評価額であるとすれば、本件贈与を受けなかったことは明らかであるから、本件贈与において、法律行為の要素に錯誤がある。
イ また、上記の錯誤が、本件贈与に関する動機の錯誤であるとしても、原告及び丙が、本件贈与において、本件株式等が贈与税の算定に当たり評価基本通達による配当還元方式に基づいて評価され、その評価額以上に課税されないことを当然の前提として契約を締結したのであって、このことは原告及び丙の共通認識であり、本件贈与の贈与契約書(甲1、同2)にも、贈与物件が評価基本通達によって評価されることが明示されている。したがって、本件株式等が贈与税の算定に当たり配当還元方式により評価されることは、法律行為の要素となる動機であり、この点に関する錯誤がある以上、本件贈与は無効である。
ウ 被告は、上記錯誤について、原告に重大な過失があると主張するが、原告は、本件贈与に際し、本件株式の実際価額が被告の主張するような額であることを知らなかったのであり、このようなことを知らないことについて重大な過失はなく、そもそも、原告と取引関係にある第三者でない被告が、錯誤に関する原告の重大な過失を主張することは許されない。
エ また、被告は、法定申告期限を経過した後の錯誤無効の主張が許されないと主張するが、錯誤無効の主張が法定申告期限以降には主張できないとする法律上の根拠はなく、むしろ通則法23条2項、71条2号は、法定申告期限以降に錯誤無効の主張が許されることを前提として規定されている。
オ さらに、被告は、たとえ本件贈与が要素の錯誤により無効であるとしても、原告がその結果として無償で財産を取得したことにより経済的利益を享受し、その経済的利益が存在する限り、原告への贈与税の課税が妨げられないと主張する。
しかし、本件贈与が無効である以上、当該契約によって予定された権利の移転は発生せず、本件株式等について、法律上の所有権はもちろん、株主権、社員持分権も原告に移転していないのであるから、本件各処分の時点で、経済的成果が原告に残存していることはあり得ない。
また、本件贈与が無効であるにもかかわらず、既に履行されている場合、原告には不当利得返還義務が生じるが、原告が丙に返還すべき利得は、Hの債券全部及びAの株式1996株の株券の占有にすぎない以上、これらを経済的成果ということはできない。そして、Hは既に解散し、社債を引き継いだJも、資本金1000万円の会社にすぎず、Jの丙に対する19億円の貸付金も返済不可能な状態であって、21億円の社債を償還する力はないから、Hの債券は無価値であり、Aも平成8年には倒産状態となり、平成11年3月末日には解散しているから、本件株式の株券も無価値である。
そもそも、給付行為が法律上無効であり、そのため当該利益につき法律上不当利得が成立し、このため当該利益を受けた者が当該利益を給付者に返還すべき義務を負う場合にも、法9条の「みなし贈与」が成立し、贈与税が課税されるとの被告の主張は、返還すべき義務を負う者に対して利益を受けたことを認める点で、背理というべきであり、民法の体系に合致しない。加えて、法9条は、法4条ないし8条に該当しないものの、なおみなし贈与を認めるべき利益を受けたといえる場合を対象とするものであって、贈与契約の無効又は取消しによる返還義務が成立する場合とは関係のない規定であるから、本件贈与には適用がないというべきである。
したがって、経済的利益の存在を理由に、原告に対する贈与税の課税が妨げられないとする被告の主張は、理由がない。
(3) 原告による贈与税の過少申告について、通則法65条4項所定の正当な理由があること(予備的主張)仮に、本件株式等の価額が評価基本通達の定める配当還元方式により評価されるべきでないため、本件贈与に係る贈与税の申告が過少申告となったとしても、原告には、次のとおり、通則法65条4項にいう正当な理由が認められるから、過少申告加算税を課すべきではなく、本件賦課決定処分も違法である。
ア そもそも、過少申告加算税の本質が、自主申告納税制度の維持にある以上、その制度の本質に反しない限り、上記の正当な理由の存在を認めるべきであって、納税者が通則法及び租税実体法に従い、自ら正当に税額を算定して申告している場合には、過少申告加算税を賦課すべき理由はないから、正当な理由の存在を認めることが相当である。
イ そして、法22条の「時価」の内容について、法は明確な規定を置いていない以上、納税者としては、評価基本通達を基準として時価を評価するほかないのであって、贈与税の申告における財産の評価が評価基本通達の基準に準拠している限り、「正当な理由」があるとすべきであるから、評価基本通達の定める配当還元方式により本件株式等の価額を評価して贈与税を申告した原告には、「正当な理由」が認められるというべきである。
ウ また、過少申告加算税の賦課決定においては、課税庁からみて納税者が申告納税制度を守っているか否かが問題なのであって、原告は、その課税庁が規定して公表した評価基本通達を守っているのであるから、そのような原告が、被告にこのような秩序罰を課されなければならない理由はない。
5 争点
以上によれば、本件の争点は、次の各点である。
(1) 本件株式等の価額を、評価基本通達188-2に規定する配当還元方式によらないで、時価純資産価額方式により評価することの適否
(争点1)
(2) 時価純資産価額方式による評価が適法とされた場合、本件各処分に関し、本件株式等の価額が配当還元方式により評価されることを前提とした本件贈与が、錯誤により無効であり、課税対象を欠くとの主張が認められるか否か。
(争点2)
(3) 原告の贈与税の申告が過少申告となったことについて、通則法65条4項所定の正当な理由があるか否か。
(争点3)
第3争点に対する判断
1 争点1(本件株式等の評価方法)について
(1) 法22条にいう「時価」とは、当該財産の取得の時において、その財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間において自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、当該財産の客観的交換価値をいうものと解される。
(2) ところで、すべての財産の客観的交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではないから、これを個別に評価する方法をとった場合には、その評価方法等により異なる評価額が生じたり、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれもある。そこで、課税実務上は、法に特別の定めのあるものを除き、財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定められ、原則としてこれに定められた画一的な評価方法によって、当該財産の評価をすることとされている。
そして、このようにあらかじめ定められた評価方法により、画一的に財産の評価を行うことは、税負担の公平、効率的な租税行政の実現という観点からみて合理的であり、これを形式的にすべての納税者に適用して財産の評価を行うことは、一般的には、租税負担の実質的な公平をも実現し、租税平等主義にかなうものである。
しかしながら、評価の目的は、あくまでも当該財産の客観的交換価値を確定することにあり、評価基本通達に定められた評価方法により財産を評価すべきであるとする趣旨が以上のとおりであることからすれば、評価基本通達に定められた評価方法を画一的に適用することによって、明らかに当該財産の客観的交換価値とは乖離した結果を導くこととなり、そのため、実質的な租税負担の公平を著しく害し、法の趣旨及び評価基本通達の趣旨に反することとなるなど、この評価方法によることが不当な結果を招来すると認められるような特別の事情がある場合には、評価基本通達に定める評価方法以外の他の合理的な方法により評価することが許されると解すべきである。
(3) ところで、本件株式等のように、取引相場のない株式や有限会社の出資の時価を評価するに当たっては、自由な取引を前提とした客観的価値を直接把握することが困難であるから、当該株式や出資が化体する純資産価額、同種の株式の価額あるいは当該株式や出資を保有することによって得ることができる経済的利益等の価格形成要素を勘案して、当該株式や出資を処分した場合に実現されることが確実と見込まれる金額を合理的方法により算出すべきものと考えられる。
そうであるとすれば、純資産価額をもって株式及び出資の時価を評価する方法は、そもそも株式や出資が、会社資産に対する割合的持分としての性質を有しており、その理論的、客観的な価値は、当該株式の場合には、会社の純総資産の価額を発行済株式数で除したものであり、当該出資の場合には、会社の純総資産の価額を総出資口数で除したものであると考えられることに照らして、合理性があるということができる。
もっとも、「同族株主以外の株主等が取得した株式」については、株主の持株割合が低いため、会社経営等についてこれら同族株主以外の株主の意向はほとんど反映されず、会社の経営内容、業績等の状況が、これらの株主の有する株式の価額に反映されないこととなるから、株式の保有により把握する権利の主たる要素は、配当を受ける点にあるということができる。そこで、これらの株主が株式を所有する実益が、通常の場合配当金の取得にあることに着目して、そのような株式の時価を評価する場合には、株式の価額を配当還元方式によって評価することも、この特殊性を斟酌した合理的な評価方法であると認めることができ、この理は、有限会社における出資の場合についても同様である。評価基本通達188-2が、同族株主以外の株主の有する取引相場のない株式の評価に際して配当還元方式を採用し、有限会社の場合も上記評価基本通達の規定に準じることとされているのも、同様の趣旨によるものと解される。
(4) そこで、まず、本件株式の時価の評価方法について検討する。
ア 前記「前提となる事実」(3)及び(4)の各事実によれば、Aにおいては、常時、関連会社のD及びその同族関係者による本件株式の保有割合が、Aの発行済株式総数の50パーセント以上になる状態が維持されており、本件株式を取得する第三者は、同族株主以外の株主となることから、その株式について相続、贈与等による承継があった場合、評価基本通達を形式的に適用すれば、配当還元方式により評価すべきことになるところ、証拠(乙20)によれば、平成5年3月31日までの1年間の本件株式(普通株)1株当たりの配当額が約10.2円となることが認められ、純資産価額に比べて、極めて低い配当しか行われず、かつ、出資のうち資本準備金に組み入れられる額が極めて大きいAの場合、相続税又は贈与税に係る課税価格の計算上、その価額は、時価純資産価額方式により計算した価額より著しく低くなる仕組みであったことが認められる。
イa 次に、証拠(乙9、同10)によれば、Aの株主が株式の売却を希望したときは、同社がその株式の購入希望者を探し、購入希望者が見つからない場合には、DをはじめとするBグループの関連会社において買い取ることとし、これらの関連会社が買い取ることができない場合には、Aの減資により対応することとして、株主の希望に応じることとされており、現に、平成10年4月23日までは、このような希望に応じた処理がされていたこと、その際における本件株式の売買価額は、原則として、売却時の前月末現在におけるAの時価純資産額を基に定められていたこと、本件株式の取得者は、取得時にこれらに関する説明を受けていたことが、それぞれ認められる。
そこで、これらの事実によれば、Aは、本件株式を取得した株主に対し、同人が本件株式の売却を希望するときには、上記のいずれかの形式によって、時価純資産価額によって評価した価額をもって、その希望に応じることを内容とする買取り保証をしていたものと認めるのが相当である。
b そして、前記「前提となる事実」(3)オ及びカ記載のとおり、原告は、本件贈与により本件株式を取得した後に、D及びBに対し、本件株式を、その時点における時価純資産価額(Dに対しては1株当たり1万7637円、Bに対しては1株当たり1万7089円)で譲渡したものであるが、これらは、その内容及び譲渡先である両社とAとの関係からして、上記の買取り保証に従って行われたものと認められる。
c これに対し、原告は、Aがいわゆるベンチャーキャピタルであって、その事業内容の実質に照らし、同社が本件株式の買取りを保証することはあり得ず、あくまで買取りを努力するとしていたにすぎない旨主張し、乙もこれに沿う供述をする(甲29、同125、同156、証人乙)。
しかしながら、上記a及びbで認定した各事実に加え、乙自身、Aが本件株式を取得価額において買い取るという意味での買取り保証の存在は否定するものの、本件株式の株主が売却を希望したときは、あっせんした第三者ないしはBグループの会社が時価純資産価額で買い取ることは説明していたと述べていること(証人乙)に照らせば、乙の上記の供述をもっても、上記aのような意味での買取り保証の存在を否定することはできず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。
ウ 一方、前記「前提となる事実」(3)イ、(4)及び上記アによれば、平成5年3月31日までの1年間の本件株式(普通株)1株当たりの配当額が約10.2円にすぎないのに対して、平成4年7月7日時点での本件株式1株当たりの取得価額は1万6977円であって、配当利回りは0.1パーセントにも満たないこと、Fからの本件借入れの当初利率が7.5パーセントであり、そのほかに保証料率が0.3パーセントを支払うものとされていたことがそれぞれ認められ、これらの事実によれば、丙及び原告の一連の取引は、配当金を期待して行われたものとしては、経済的な合理性を欠いていることは明らかである。
エ ところで、評価基本通達が同族株主以外の株主の保有する取引相場のない株式の評価において配当還元方式を採用した趣旨は、通常、これらの株主が株式の保有により把握する権利の主たる要素が配当を受ける点にあるということができるためである。
これに対し、本件株式は、同族株主以外の株主がその売却を希望する場合には、時価純資産価額による買取りが保証されているものである。そして、丙が本件株式を取得し、これを原告に贈与した目的は、贈与税に係る課税価格の計算上、その価額が時価純資産価額方式による評価額より著しく低くなることを利用して、専ら丙の相続税の負担を軽減する点にあるということは、本件贈与について原告より一任されていた丁の陳述からも明らかなところである(甲155)。
このように、本件贈与によって原告が取得した本件株式については、評価基本通達において、同族株主以外の株主の保有する株式の評価について配当還元方式を採用された趣旨と比べると、その前提を大きく異にするというべきである。
オ そして、丙による本件株式の取得価額が1株当たり1万6977円であり、原告のDに対する本件株式の譲渡価額が1株当たり1万7637円、Bに対する本件株式の譲渡価額が1株当たり1万7089円であるのに対し、配当還元方式による本件株式の評価額は、わずか208円にすぎず(乙20)、これにより本件贈与における本件株式(10万1781株)の課税価格に17億円以上もの相違を生じることとなるから、仮に、評価基本通達に基づく評価方法を適用した場合には、実質的な公平を著しく欠く結果となるといわざるを得ない。
カ 以上によれば、本件贈与における本件株式の評価については、評価基本通達の定める評価方法によることが不当な結果を招来すると認められるような特別の事情があるというべきである。
キ これに対し、原告は、上記の特別の事情が、客観的取引価格の存在を前提に、その価格と評価基本通達の定める方法による評価額との間に著しい格差がある場合に限り認められるのであって、客観的取引価格が存在しない本件株式の場合、そのような特別の事情は認められないと主張する。
しかし、評価基本通達に定められた評価方法を画一的に適用することによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害し、法の趣旨及び評価基本通達の趣旨に反することとなる場合には、これによらない特別な事情があるというべきであり、本件株式の場合、時価純資産価額による買取りが保証されており、そのため、評価基本通達の定める配当還元方式による評価額と比較すべき実質的な価格が存することに照らしても、原告の上記主張は採用できない。
ク そうであるとすれば、本件株式については、評価基本通達に基づく評価方法によるのではなく、時価純資産価額により計算した価額をもって、その客観的交換価値を把握することが合理的であるというべきところ、証拠(乙17)によれば、本件課税時期の前月(平成5年8月)末における本件株式1株当たりの時価純資産価額は1万7185円であると認められる。
ケ したがって、本件株式については、本件株式1株当たりの時価純資産価額である1万7185円をもって、本件課税時期における本件株式1株当たりの「時価」と評価することが相当である。
(5) 次に、本件出資の時価の評価方法について検討する。
ア 前記「前提となる事実」(3)イ及びウによれば、原告は、丙が平成4年7月7日に本件出資98口をLに現物出資したことにより、本件贈与の時点において、Gの総出資口数の18.3パーセントに相当する出資しか保有していないため、評価基本通達194により、同通達188にいう同族株主以外の株主等に準じることとなるから、原告が本件贈与により取得した本件出資の価額は、同通達を適用すれば、配当還元方式により評価されることとなる。
イ しかしながら、前記「前提となる事実」(2)及び(3)のとおり、本件借入れにおいて、返済財源を会社売却資金、借入期間を2年3か月としていたところ、G設立の約2年1か月後に株式会社GがAに合併されて解散していること等に照らしても、GがAとの合併を視野に入れて計画的に設立されたことが認められ(証人乙)、さらに、Aの株式に関する前記(4)アの仕組みを考慮すれば、G自体が、将来のAとの合併を見越して、相続税の負担軽減のために設立されたものと認めるのが相当である。また、丙がGの設立後直ちに総出資口数の過半数をLに現物出資したことに照らせば、G自体においても、丙及びその承継人である原告が、同族株主以外の株主等に準じた地位にとどまることが当初より想定されていたというべきである。
以上によれば、原告に対する本件出資の贈与の場合、評価基本通達が同族株主以外の株主の保有する株式の評価について配当還元方式を採用する前提として想定された状況とは、著しく異なる事情の下になされたものであって、同通達の趣旨は当てはまらないといわなければならない。
ウ 一方、前記「前提となる事実」(2)イ、エ、(3)ウ及びオのとおり、丙は、Gの設立に当たり、本件出資1口当たり1750万円を払い込んでおり、また、本件贈与を受けた原告は、本件株式を1株当たり1万7637円でDに売却しているところ、Gの組織変更及び本件合併を通じて、本件出資1口により本件株式1020株を取得している計算となることに照らせば、原告は上記売却により、本件出資1口当たり1798万9740円を回収したこととなる。
しかしながら、評価基本通達を形式的に適用して算出した本件出資1口当たりの評価額は、17万5000円にすぎず(乙21)、これにより本件贈与における本件出資の課税価格に3億5000万円以上もの差違を生じることからすれば、仮に、本件贈与における本件出資の評価について、仮に、評価基本通達に基づく評価方法を適用した場合には、かえって実質的な公平を著しく欠く結果となるといわざるを得ない。
エ 以上によれば、本件贈与における本件出資の評価についても、評価基本通達の定める評価方法によることが不当な結果を招来すると認められるような特別の事情があるというべきである。
オ これに対し、原告は、本件出資は、客観的取引価格を観念できないのであるから、こうした場合、特別の事情があるとは認められないと主張するが、AとGの合併により本件出資に相当する本件株式が交付されることが予定され、最終的に本件株式の買取りによる資本の回収が保証されていたことに照らせば、本件出資の場合も、評価基本通達の定める配当還元方式による評価額と比較すべき実質的な価格が存するということができるから、原告の上記主張は採用できない。
カ そうであるとすれば、本件出資についても、評価基本通達に基づく評価方法によることは相当でないというべきところ、証拠(甲7)及び弁論の全趣旨によれば、本件出資がAとの間で取引された際、本件出資1口当たりの取引価額が、当該取引日に最も近いGの貸借対照表上の財産内容を基に、純資産価額により評価されていることが認められることからすれば、本件課税時期の直前期における事業年度(設立時である平成4年6月25日から、平成5年5月31日まで)の貸借対照表に基づいて、評価基本通達185に定める純資産価額方式により計算する方法は、本件出資の「時価」を算定する方法として、合理性を有しているものと認められる。
これに対し、原告は、このような評価基本通達の定めによらない評価方法に対し、「実質的な租税負担の公平」等を理由にした法律に根拠のない課税であり、租税法律主義に反していると主張するが、上記の評価方法が、法22条に規定する「時価」の算定方法として合理性を有するものであることは、前述のとおりであり、また、そもそも、評価基本通達の定める評価方法は、上記の「時価」を算定するための方法を定めたものであって、評価基本通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額の評価については、これによらないことも、当然に予定されているところである(評価基本通達6)から、上記の評価方法によることが、法律又は通達に反するとか、租税法律主義にも反するということはいえないから、この点に関する原告の上記主張は採用できない。
キ そして、弁論の全趣旨によれば、この方式により算出した本件出資1口当たりの価額は、別表2のとおり、1778万7116円と認められる。
ク したがって、本件出資1口当たりの時価純資産価額である1778万7116円をもって、本件課税時期における本件出資1口当たりの「時価」と評価することが相当である。
2 争点2(錯誤無効の主張が認められるか否か)について
(1) ア 原告は、原告及び丙が、本件贈与に際し、本件株式等の価額が評価基本通達に基づく配当還元方式により評価され、かかる評価額に基づいて贈与税が課税されることを前提としていたものであり、贈与税額の算定に当たり、被告が本件更正処分の前提とした、本件株式1株当たりの評価額1万6977円及び本件出資1口当たりの評価額1801万1558円が正当な評価額であるとすれば、原告が本件贈与を受けなかったことが明らかであるとして、本件贈与に係る契約は法律行為の要素に錯誤があるため無効であり、本件各処分は課税の対象を欠くので、当然に取り消されるべきであると主張する。
イ そこで検討するに、原告が主張する本件贈与における錯誤は、本来はいわゆる動機の錯誤に当たるものであり、それが、表意者において意思表示の内容とすることを明示又は黙示に相手方に表示した場合に、はじめて意思表示の内容となり、そのうち、その錯誤がなかったとすれば表意者が意思表示をしなかったことが認められるときには、法律行為の要素の錯誤として当該法律行為が無効となるものと解すべきである。
ウ そこで、本件贈与において法律行為の要素の錯誤が存在するか否かについて検討する。
a 丙は、本件株式を原告に贈与した際、Aにおける株主構成により、贈与税に係る価格の算定上、その価格が配当還元方式により算定されることにより、丙の相続税の負担が軽減されるものと考えて、本件贈与を行ったものと認められ、本件贈与について原告より一任されていた丁も、その旨陳述しているところである(甲155)。
b しかしながら、証拠(甲155)及び弁論の全趣旨によれば、丁は、丙家の資産の承継を図るため、旧知の間柄にあった税理士である乙の指導の下に、平成4年ころから丙の相続税対策を開始したこと、乙からの対策内容の説明は、すべて乙の部下を通じて丁になされており、指示を実行したのも丁であったこと、丙及び原告は、この件を丁に一任し、必要な時に立ち会うにすぎなかったこと、丁は、乙から、本件株式等が評価基本通達のとおり配当還元方式で評価されるから問題はないと事前に説明を受けていたが、相続税対策の内容は専門家である乙に任せており、細かい内容まで理解していたわけではないことが、それぞれ認められる。
これらの事実からすれば、原告及び丙は、丙の相続税対策を丁の依頼を受けた乙に任せた上で、本件株式等の価額が配当還元方式により評価されるとの乙の説明を信用して、本件贈与を行ったものであり、原告ら関係者において、本件株式等の価額について配当還元方式による評価が認められない場合に、適用される評価方法及びこれに基づく評価額、本件贈与を含む一連の取引や今後の相続税対策等の検討を行った事実を認めることはできない。
そうすると、原告と丙の間で、本件贈与において、本件株式等が配当還元方式により評価されることは、明示的にはもとより、黙示的にも意思表示の内容となっていたとまではいえないと理解することが相当というべきである。
c もっとも、証拠(甲1、同2、乙20、同21)によれば、本件贈与に際し作成された本件株式及び本件出資の各贈与契約書には、本件株式等について「一株当りの価額は財産評価基本通達に基づく相続税評価額とし計算根拠は別紙の通りとする。」と記載されていることが認められる。しかしながら、この記載からは、本件株式等が評価基本通達に基づき評価されることが当事者に認識されていることが窺われるとしても、これだけでは、本件株式等が評価基本通達に定められた方法により評価されることが本件贈与を締結する動機であるということが、意思表示の内容として表示されているとは認め難いというべきであって、他に、原告及び丙が本件贈与に係る契約の締結に当たって、本件株式等の評価について、評価基本通達による配当還元方式がそのまま適用されることが意思表示の内容として表示されたことを認めるに足りる証拠はない。
d 以上によれば、原告及び丙が、本件贈与に係る契約の締結に当たって、本件株式等の評価について、評価基本通達による配当還元方式がそのまま適用されるものと考えていたことは認められるものの、このことは動機の錯誤の範疇にとどまり、これが丙と原告との間における本件贈与において、意思表示の内容として明示的又は黙示的に表示されていたとまでは認められないから、原告の主張するように契約の要素に錯誤があるとは認め難い。
e したがって、原告の主張する前記の錯誤をもって、本件契約が無効であることを主張することはできないというべきである。
(2) 仮に、本件贈与に関する原告の錯誤が、要素の錯誤と解される余地があるとしても、次のとおり、それだけでは、原告に対する贈与税の課税が違法であるということにはならないものである。
ア 贈与税は、贈与によって財産が移転することにより、受贈者の財産が増加するという経済的利益を享受したことに担税力を認めて、課税の対象としている租税であり、このことは、法4条ないし9条が、贈与によって取得したものとはいえないとしても、実質的に贈与を受けたのと同様の経済的利益を享受している事実がある場合に、租税負担の公平の見地から贈与税を課すこととしていることからも理解されるところである。
そして、錯誤により法律行為が無効である場合には、観念上は、当初より法律行為が存しないことと私法上取り扱われるものの、実際上は、表意者自身が無効を主張して不当利得返還請求権を行使しないときには、当該法律行為の履行として発生した経済的成果が表意者の側に存続することがあり、そのようなときには、上記のような贈与税の趣旨に照らして、受贈者に発生した経済的成果に担税力を認めて贈与税を課税することは、相当というべきである。
イ 本件においては、前記「前提となる事実」(2)及び(3)のとおり、原告は、本件贈与により、本件株式10万1781株及び本件出資22口を取得し、その後、Gの組織変更により、上記の本件出資に対応する株式44株を取得し、さらに平成6年5月2日の本件合併により、本件株式2万2440株の割当交付を受け、同年9月5日、Dに対し、本件株式12万2225株を21億5568万2325円で譲渡した上、譲渡代金のうち21億円をHの発行した社債の引受に充当し、さらに、本件更正処分後の平成8年4月1日、残る本件株式1996株を、Bに3410万9644円で譲渡したことが認められる。
また、この間に、丙が、原告に対し、錯誤無効を主張したことは証拠上も窺われない。
ウ そうであるとすれば、本件贈与によって原告に経済的成果が発生し、さらに本件各処分の時点においても、その成果が存続していると認められる以上、被告が原告に対して本件贈与に基づき贈与税を課すことは、適法であるというべきである。
エ これに対し、原告は、本件贈与が無効である以上、本件各処分の時点において、経済的成果が原告に残存しないと主張するが、私法上の効果の有無にかかわらず、経済的成果が発生することはあり得ることであるから、この主張を採用することはできない。
また、原告は、贈与が無効であるにもかかわらず、既に履行された場合、原告に不当利得返還請求権が生じるが、原告が返還すべき利得は、Hの社債券及びAの株券の占有にすぎないから、これを経済的成果ということはできない旨主張するが、原告は、本件贈与に基づいて本件株式等の権利の移転を受けており、さらにその後、これを換価処分しているのであるから、本件贈与によって、原告に経済的成果が発生しなかったものは認められない。
さらに、原告は、Hの解散、同社の社債を引き継いだJの資力や同社の債務者である丙の現時の返済能力、Aの解散により、原告には最終的に何らの経済的成果も残存していない旨主張しているが、原告が本件各処分の時点において、本件贈与による経済的成果を享受していたことは、前記のとおりであるから、この主張も理由がないといわざるを得ない。
(3) 以上によれば、いずれにしても、本件において、本件贈与が錯誤により無効であることを理由として本件各処分の取消しを求める原告の主張には理由がないというべきである。
3 争点3(過少申告加算税賦課の当否)について
(1) 通則法65条4項は、過少申告加算税の計算の基礎となった事実のうちに、当初の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、その部分について過少申告加算税を課さないこととしているところ、原告は、本件贈与に係る贈与税について、通則法及び租税実体法に従って、自ら正当に税額を算定して申告しており、とりわけ評価基本通達の定める財産評価方法に従って本件株式等の価額を評価しているのであるから、上記の正当な理由が認められると主張して、本件賦課決定処分を争っている。
(2) しかしながら、過少申告加算税の制度が、申告に係る納付すべき税額が過少な場合に、行政上の措置として特別の経済的負担を課するものであることに照らせば、原則として、過少申告の事実があれば課すことができるものと解され、課税対象財産に関する評価方法を誤って過少申告となった場合であっても、このことは同様に当てはまるというべきであり、財産の評価方法を誤るにつき真にやむを得ない理由がない限り、上記の正当な理由の存在を認めることはできないというべきである。
(3) そこで、本件について検討すると、贈与税の評価について、評価基本通達に定めた評価方法により財産の価額を評価することが不当な結果を招来すると認められるような特別の事情がある場合には、評価基本通達に定める評価方法以外の他の合理的な方法により評価することが許されることは前記のとおりであるところ、本件各処分は、この見地から評価基本通達の定める配当還元方式によらずに本件株式等を評価して行われたものであって、かかる評価が適法であることも前記のとおりである。さらに、原告は、専ら評価基本通達の形式的適用により相続税の負担軽減を目的とした取引の一環として本件贈与を行った上、評価基本通達に定める配当還元方式により本件株式等を著しく低額に評価して贈与税の申告をしているのであるから、このような場合に、上記の正当な理由が存すると認めることは相当でない。
(4) 以上のとおり、原告の申告が過少申告となったことについて、通則法65条4項に規定する正当な理由が存するとは認められないから、これが認められることにより本件賦課決定処分が違法であるとする原告の主張は、理由がないといわなければならない。
第4結論
被告による本件各処分の根拠については、上記各争点を除いて、当事者間に争いがないところ、以上によれば、被告の本件各処分は、いずれも適法と認められる。
よって、原告の請求は理由がないから、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 森英明 裁判官 馬渡香津子)
別表1
本件課税処分等の経緯
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別表2
本件出資の1口当たりの純資産価額の計算
file_3.jpg1 RERVAROS CHE: FFD) REO AROB me] ee linen wee] Ae [Faveeramen] oem 1 |R&- Re 1, 348, Ls | ARREARS 2 fm | 48078 2|m 0 & 2 2 3 A if ea 109, 649 93,248| 3 ff 2 & 4, 465 4,465 4 [RM RTS 264, 086 264,086] 4 | AHAS ot ot D @ @ @ eit 2, 170, 536 2, 126, 497 eit 13, 623 13, 623 MIC TS RS Te 14) OME HRC oR THREW OMR AR R|O FH )) 156, 913 (REA (O-® 2, 134, 454 RREMREOOKOKREK| OD a 120 Fi RMI ATS Se BIO FA | RRMMREDOLRSE OO) @ (@-@) 44,039 FeeacHi se ARMsE|® TH MESRE (RERERM 51%) 22, 459 @=®) 1,787,116