東京地方裁判所 平成10年(行ウ)114号 判決 2001年3月30日
主文
一 被告が平成10年3月24日付けでした別紙目録一、二の各1記載の土地に係る平成9年度固定資産課税台帳の登録価格についての審査申出を棄却する旨の決定を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
主文同旨
第二 事案の概要
本件は、原告が、その所有に係る別紙目録一、二の各1記載の各土地(以下、順次、「本件土地1」「本件土地2」といい、右各土地を併せて「本件各土地」という。)の平成9年度の土地課税台帳に登録された価格が「適正な時価」を上回るなどと主張して、原告の審査申出を棄却した被告の決定の取消しを求めている事案である。
一 前堤となる事実(各項末尾の証拠等によって認められる。)
1 原告は、本件各土地のそれぞれの共有持分100分の86を有する者であって、本件各土地の固定資産税の納税義務者である。(当事者間に争いがない事実)
2 東京都知事は、本件各土地の平成9年度の価格を別紙目録一、二の各2記載のとおり決定し、右の各価格は、土地課税台帳に登録された。(〔証拠略〕)
3 原告は、平成9年5月1日付けで、被告に対し、右平成9年度登録価格を不服として、各審査申出をしたのに対し、被告は、平成10年3月24日付けで、右各審査申出を棄却する旨の決定をした(以下「本件決定」という。)。(当事者間に争いがない事実)
二 法令の定め等
1 固定資産(土地)評価に関する地方税法(以下「法」という。)の規定等
(一) 土地に対して課する基準年度(本件では平成9年度である。)の固定資産税の課税標準は、当該固定資産の基準年度に係る賦課期日(当該年度の初日の属する年の1月1日、本件では平成9年1月1日である。法359条)における価格であり、右価格とは「適正な時価」(法341条5号)であって、土地課税台帳又は土地補充課税台帳(以下、これらを併せて「土地課税台帳」という。)に登録されたものである(法349条1項)。
(二) 土地課税台帳に登録される価格(以下、この価格を「登録価格」という。)の決定に際しての固定資産の評価については、自治大臣が、評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を定め、告示しなければならないものとされ(法388条1項前段)、固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号。以下「評価基準」という。)が告示されている。
そして、市町村長(東京都の特別区においては、法734条1項の規定により、東京都知事。以下同じ。)は評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならないとされ(法403条1項)、固定資産の価格等を決定し、価格等を登録した場合には、その結果の概要調書を作成し、毎年4月中にこれを道府県知事に送付しなければならず(法418条)、道府県知事は右価格の決定が評価基準によって行われていないと認める場合においては、当該市町村長に対し、登録価格を修正して登録するよう勧告するものとされ、自治大臣は右勧告をするよう指示するものとされている(法419条1項、422条の2第1項)。
評価基準の取扱いに関しては、自治事務次官の依命通達(「固定資産評価基準の取扱いについて」昭和38年12月25日自治乙固発第30号。以下「取扱通達」という。)が発せられている。
なお、自治大臣は、市町村長に対して、固定資産の評価に関する資料の作成又は助言による技術的援助を与えなければならず、また、道府県知事も、自治大臣の作成した資料の使用方法についての指導又は評価についての助言を与えなければならない(法388条3項、401条)とされているが、これらは、自治大臣又は道府県無事に市町村の徴税吏員又は固定資産評価員に対する指揮権限を与えるものではない(法402条)。
(三) 市町村長は、固定資産評価員から所定の手続による土地の評価に係る評価調書を受理したときは、毎年2月末日までに評価基準によって固定資産の価格等を決定し、これを土地課税台帳に登録しなければならない(法410条、411条1項)。
2 評価基準が定めている宅地の評価方法の概要は、平成9年度においては、次のとおりである。
(一) 地目の現況が宅地である場合の土地の評価は、各筆の宅地について評点数を付設し、当該評点数を評点1点当たりの価額に乗じて各筆の宅地の価額を求める方法による。(評価基準第1章第1節一、第1章第3節一)なお、本件各土地での評点1点当たりの価額は1円である。
(二) 各筆の評点数は、市町村の宅地の状況に応じ、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については「市街地宅地評価法」によって、主として市街地的形態を形成するに至らない地域における宅地については「その他の宅地評価法」によって付設する。(評価基準第1章第3節二)
(三) 「市街地宅地評価法」による宅地の評点数の付設
(1) 市町村の宅地を商業地区、住宅地区、工業地区、観光地区等に区分し、当該各地区について、街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等からみて相当に相違する地域ごとに区分し(以下、右のとおり区分される状況が類似した地域を「状況類似地区」という。)、当該地域の主要な街路に沿接する宅地のうち、奥行、間口、形状等の状況が当該地域において標準的なものと認められる標準宅地を選定する。(評価基準第1章第3節二(一)1(1)、第1章第3節二(一)2)
(2) 右標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価を求め、これに基づいて当該標準宅地の沿接する主要な街路について路線価を付設し、これに比準して主要な街路以外のその他の街路の路線価を付設するものとする。その際には、近傍の主要な街路の路線価を基礎とし、主要な街路に沿接する標準宅地とその他の街路に沿接する宅地との間における宅地の利用上の便等の相違を総合的に考慮する。(評価基準第1章第3節二(一)1(2)、第1章第3節二(一)3(2))
(3) そして、各筆の宅地の評点数は、その沿接する路線価を基礎とし、各筆につき評価の対象とすべき画地を認定し、奥行のある土地、正面と側面あるいは裏面等に路線がある土地等の状況に従って、所定の補正を加える方式(画地計算法)を適用して付設する。(評価基準第1章第3節二(一)1(3)、別表第3)
(4) なお、宅地の評価において、標準宅地の適正な時価を求める場合には、当分の間、基準年度の初日の属する年の前年の1月1日の地価公示法による地価公示価格及び不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価から求められた価格等を活用することとし、これらの価格の7割を目途として評定するものとされている(以下「7割評価基準」という。)。(評価基準第1章第12節一)
(5) また、平成9年度の宅地の評価においては、市町村長は、平成8年1月1日から同年7月1日までの間に標準宅地等の価格が下落したと認める場合には、評価基準第1章第3節及び第1章第12節一によって求めた評価額に修正を加えることができるものとされている。(評価基準第1章第12節二)
3 東京都特別区における評価方法
(一) 東京都特別区においては、東京都知事が固定資産の価格を決定するものとされ(法734条、410条)、評価の方法については、評価基準を取り込んだ東京都固定資産(土地)評価事務取扱要領(昭和38年5月22日38主課固発第174号主税局長決裁。以下「取扱要領」という。)及び東京都土地価格比準表(以下「比準表」という。)によることとされていた。(〔証拠略〕)
(二) また、評価基準第1章第12節二を受けて、各都税事務所長あてに平成9年3月7日付けで東京都主税局長通達「平成9基準年度の固定資産(土地)評価における評価額の修正について」が発出され、価格調査基準日(平成8年1月1日)から同年7月1日までの半年間の地価の変動率を把握のうえ修正率を求めて評価額の修正を行うものとする旨通達された。
そして、右主税局長通達は、右時点修正率の算定方法について、各画地の正面路線が属する状況類似地区の標準宅地の鑑定評価書記載の規準地(鑑定価格を算定する際の基礎とした公示地又は基準地)が公示地の場合、及び右標準宅地が公示地の場合には、当該公示地の平成8年1月1日から同年7月1日までの不動産鑑定による時点修正率をもとに算定する旨定めている(以下、評価基準、取扱通達、取扱要領、比準表及び右主税局長通達を併せて「評価基準等」という。)。(〔証拠略〕)
三 本件決定の根拠(被告の主張。なお、当該事実について当事者間に争いがない事項は、その旨を末尾に記載した。)
1 本件各土地の地目
本件各土地の登記及び現況地目はいずれも宅地であり、主として市街地的形態を形成する地域における宅地に該当する。(当事者間に争いがない)
そこで、市街地宅地評価法により評価することとする。
2 一画地認定
本件各土地は、利用状況等からみて隣接する2筆以上の宅地にまたがり一体をなしている土地である。
評価基準等では、画地の認定は、原則として土地(補充)課税台帳に登録された、1筆の宅地を一画地とするものであるが、例外として、1筆の宅地又は隣接する2筆以上の宅地について、その形状、利用状況等からみて、これらを合わせる必要がある場合においては、その一体をなしている部分の宅地ごとに一画地とする。
そこで、本件各土地は、利用状況等からみて隣接する2筆以上の宅地にまたがり一体をなしている土地であるから、一画地と評価すべきである(以下、右の画地を「本件画地」という。)。
3 三方路線地
(一) 本件画地は、正面と二つの裏面との二方に路線がある画地(以下「三方路線地」という。)である。
(二) こうした三方路線地の価格は、正面路線のみに接する画地の価格より一般的に高くなるものであるから、正面路線から求めた基本単価を補正する必要があることから、評価基準等では、正面路線のみに接するとした場合の基本単価に、副路線である二つの二方路線を正面路線とみなして計算した各評点に当該二方路線の用途地区に係る取扱要領付表3「二方路線影響加算率」によって補正した評点をそれぞれ加算して補正することになる。
4 本件画地が属する地域の用途地区区分
本件画地の正面路線及び二つの二方路線に沿接する地域は、高度商業地区の外延部又は地域の拠点として鉄道駅の周辺等に位置し、一般的な商業施設や事務所等が連たんしているが、高度商業地区に比べ資本投下量が少なく商業密度も低い一方、低層併用住宅地区より商業密度が高い地区に該当する。(正面路線については、当事者間に争いがない)
そこで、被告は、本件決定に当たっては、本件画地の正面路線及び二つの二方路線に沿接する地域を普通商業地区として評価した。
5 状況類似地区の区分及び標準宅地の選定
右の普通商業地区について、状況類似地区ごとに区分した上で、その標準宅地を選定すると、次のとおりとなる。
(一) 被告主張の正面路線に沿接する地域
渋谷区円山町24番3外5筆に所在する土地(以下「標準宅地a」という。)
(二) 被告主張の各二方路線に沿接する地域
渋谷区円山町88番5外2筆に所在する土地(以下「標準宅地b」という。)
6 各路線の路線価の付設
(一)(1) 標準宅地aに沿接する主要な街路の路線価 261万点
標準宅地aに係る適正な時価については、価格調査基準日である平成8年1月1日時点の不動産鑑定価格373万円を活用し、その7割程度の価格をもって261万円とした。
そして、右価格に基づいて、標準宅地aに沿接する主要な街路(以下「主要な街路a」という。)の路線価を付設した。
(2) 標準宅地bに沿接する主要な街路の路線価 65万3000点
標準宅地bに係る適正な時価については、価格調査基準日である平成8年1月1日時点の不動産鑑定価格93万4000円を活用し、その7割程度の価格をもって65万3000円とした。
そして、右価格に基づいて、標準宅地bに沿接する主要な街路(以下「主要な街路b」という。)の路線価を付設した。
(二)(1) 本件画地の正面路線(本件画地の南東側に沿接する街路。国道246号線。)の路線価 261万点
右に述べた主要な街路aと本件画地に沿接する正面路線とが一致するため、正面路線を261万点と付設した。
(2) 本件画地の二方路線Ⅰ(本件画地の北西角において沿接する街路)の路線価 63万3000点
標準宅地bと本件画地の二方路線Ⅰに沿接する土地とを比較して、その格差を、幅員、連続性等の街路条件98パーセント、最寄駅への距離等の交通・接近条件99パーセント、商業密度等の環境条件100パーセント、容積率等の行政的条件100パーセントと算定し、これらを乗じた格差率97パーセントを主要な街路bの路線価に乗じて、本件画地の二方路線Ⅰの路線価を付設した。
(計算式)
633,000=653,000×(0.98×0.99×1.00×1.00)
主要な街路の路線価 街路 交通 環境 行政
格差率の補正処理は小数点第3位で四捨五入
路線価付設は有効数字上位3桁
(3) 本件画地の二方路線Ⅱ(本件画地の北西側に沿接する街路)の路線価 54万8000点
また、標準宅地bと本件画地の二方路線Ⅱに沿接する土地とを比較して、その格差を、幅員、連続性等の街路条件87パーセント、最寄駅への距離等の交通・接近条件97パーセント、商業密度等の環境条件99パーセント、容積率等の行政的条件100パーセントと算定し、これらを乗じた格差率84パーセントを主要な街路bの路線価に乗じて、本件画地の二方路線Ⅱの路線価を付設した。
(計算式)
548,000=65,000×(0.87×0.97×0.99×1.00)
主要な街路の路線価 街路 交通 環境 行政
格差率の補正処理は小数点第3位で四捨五入
路線価付設は有効数字上位3桁
7 画地計算法に基づく算定
(一) 正面路線から本件画地の奥行きは21.0メートルである。
そこで、取扱要領別表Ⅰに基づき奥行価格補正率0.99を適用する。
なお、本件画地は間口が4.0メートルであるため、間口狭小補正率0.97及び奥行長大補正率0.96の適用が本来あるが、本件画地は不整形な土地に当たるから、不整形地補正率0.90が適用される。そこで、不整形地補正率の方が間口狭小補正率に奥行長大補正率を乗じた率よりも減価率が大きいことから、不整形地補正率のみを適用する。
(二) 二方路線Ⅰから本件画地の奥行きは27.0メートルである。
そこで、取扱要領別表1に基づき奥行価格補正率0.98を適用する。
なお、本件画地は、奥行長大補正率0.99の適用が本来あるが、前記のとおり、本件画地は、不整形な土地に当たり、不整形地補正率0.90が適用される。そこで、不整形地補正率の方が奥行長大補正率よりも減価率が大きいことから、奥行補正率は適用しない。
本件画地は、前記のとおり、普通商業地区に当たると解すべきであり、取扱要領付表3に基づき、二方路線影響加算率の0.05を乗じて、その加算評点を求める。
(三) 二方路線Ⅱから本件画地の奥行きは20.5メートルである。
そこで、取扱要領別表1に基づき奥行価格補正率0.99を適用する。
本件画地は、前記のとおり、普通商業地区に当たると解すべきであり、取扱要領付表3に基づき、二方路線影響加算率の0.05を乗じて、加算評点を求める。
(四) 本件画地の単位地積当たり評点数 218万8362点
以上のことから、本件画地の正面路線の路線価261万点に奥行価格補正率0.99を乗じた数値に、本件画地の二方路線Ⅰの路線価63万3000点に奥行価格補正率0.98及び二方路線影響加算率0.05を乗じた数値並びに本件画地の二方路線Ⅱの路線価54万8000点に奥行価格補正率0.99及び二方路線影響加算率0.05を乗じた数値を加え、これに、不整形地補正率0.90及び平成8年1月1日から平成8年7月1日までの時点修正率0.92を乗じて単位地積当たり評点を算出する(ただし、小数点以下切り捨て)。
なお、右時点修正率は、正面路線の標準宅地の規準地が基準地の場合には、平成8年7月1日の基準地価格(東京都地価調査価格)を平成8年1月1日の不動産鑑定価格で除した率により求めることとされているところ、本件画地の正面路線の標準宅地の規準地は基準地(渋谷5―6)であって、平成8年1月1日の規準地の不動産鑑定価格が520万円、平成8年7月1日の基準地価格は480万円であるから、後者を前者で除した数値は0.92(小数点第3位以下切り捨て)となることから、0.92を採用した。
(五) 本件土地1の評価額 7億7706万5460円
右単位地積当たりの評点数218万8362点に本件土地1の地積355.09平方メートルを乗じて総評点を7億7706万5462点と算出し(ただし、小数点以下切り捨て)、これに評点1点当たりの価額1円を乗じて(ただし、10円未満切り捨て)、本件土地1の評価額を算定した。
(六) 本件土地2の評価額 1億0994万3300円
右単位地積当たりの評点数218万8362点に本件土地2の地積50.24平方メートルを乗じて総評点を1億0994万3306点と算出し(ただし、小数点以下切り捨て)、これに評点1点当たりの価額1円を乗じて(ただし、10円未満切り捨て)、本件土地2の評価額を算定した。
四 当事者双方の主張
(原告の主張)
1 評価基準等に適合していない違法
(一) 一画地認定の誤り
(1) 本件土地1と本件土地2との間には約3メートルの段差があり、本件土地2は本件土地1にある建物の2階部分に接しているところ、段差地であれば、がけ地以上に利用上の障害が生じることが明らかであるのに、取扱要領は、段差地に関する補正規定を置いていないことからすれば、取扱要領自体、段差地を一画地と認定することは予定していないものというべきである。
(2) また、一画地認定をする際には、宅地相互間の均衡が配慮されなければならないとされているが、その際には、近隣土地間の評価の均衡にも配慮すべきである。
ところが、本件各土地を一画地とすると、本件画地の正面路線とされている国道246号線と効率的に接しており、しかも、敷地と公道との間に段差が存しない本件土地1の隣地である渋谷区円山町26番19、同83番5の土地(以下「隣地マンション土地」という。)に比べて、格段に評価条件の劣る本件土地1が、隣地マンション土地よりも著しく高い評価をされることになる。
(3) したがって、本件各土地を一画地とすることは評価基準等に反するものというべきである。
(二) 路線選定の誤り
(1) 正面路線の選定の誤り
本件土地1は、現在6階建ての建物の敷地として使用されているが、その実質的な接面街路は、北西側の幅員3メートルの街路(被告主張の二方路線Ⅱ)であり、本件土地2は、国道246号線に接する路地状画地で、本件土地1に接続し(但し高低差が約3メートル存する。)、本件土地1上の建物への進入路用地となっているが、本件土地2の間口は約4.5メートルにすぎず、本件土地1と一体として利用する場合、周辺が渋谷駐車場整備地区に指定されているため、本件土地1上に建築される建物に設置が義務付けられる駐車場への進入路用地としての利用に限定される。しかも、本件土地1に新たな建物を建築する場合でも、本件土地1上の建物は国道246号線に面しないだけでなく、国道246号線からは見えない建物となり、入り口も北西側道路に面したものとせざるを得ず、商品価値の極めて低い建物となる。加えて、容積率が法定限度たる800パーセントに満たない771.3パーセントに制限されることも、正面路線を国道246号線とすることが著しく妥当でないことの証左である。
以上のことに鑑みれば、本件土地1を本件土地2と一体として一画地として評価するとしても、利用主体となる土地は本件土地1であるから、正面路線は北西側道路と考えるべきであり、本件土地2を通じて国道246号線に接することによる建築基準法上の容積率の増加については、土地評価上の適切な考慮によるべきものと解すべきである。
したがって、被告の正面路線の認定は誤ったものというべきである。
(2) 二方路線Ⅰの選定の誤り
被告は、別紙図面1記載のA街路を二方路線1であると主張するが、同図面の4.028メートルの部分に接しているのは同図面記載のB街路である。すなわち、A街路とB街路が鍵状に交差し、B街路に二方路線Ⅱが交差しているというのが事実であり、A街路を二方路線Ⅰとする被告の認定は事実を誤認している。
(三) 二方路線Ⅰ及び二方路線Ⅱの用途地区を普通商業地区とすることの違法
被告主張の二方路線Ⅰ及び二方路線Ⅱに沿接する地域は、中高層普通住宅地区に当たるから、普通商業地区に当たるとする被告の認定は評価基準に適合しないものというべきである。
(四) 二方路線Ⅰについて二方路線影響加算をすることの誤り
本件各土地の形状及び本件土地1と二方路線Ⅰとの接し方に鑑みれば、本件各土地を一画地として認定したうえ三方路線地として加算評価している点は明らかな誤りである。
すなわち、二方路線Ⅰは、曲がり角として、本件土地1に食い込んだ形の道路であり、しかもその接面はわずか4.029メートルである。それにもかかわらず、二方路線影響加算をすることは、土地の利用価値、実体価値の判断を誤るものである。
(五) 格差認定の誤り
(1) 仮に本件各土地を一画地、三方路線地とした場合についても、本件決定は、次のとおり、格差の認定において評価基準等に適合していない違法がある。
(2) 正面路線の格差
ア 被告は主要な街路aと本件画地の正面路線とが一致するとして、正面路線を261万点と付設すべきものと主張する。
イ しかし、本件画地は標準宅地aと比較し劣悪な土地であり、最大3000メートルの建物しか建てられず、その容積率は、740.13パーセントにすぎない。
したがって、容積率に基づく格差は、マイナス4が妥当であり、行政的条件による格差は96パーセントとすべきである。
(3) 二方路線Ⅰの格差
ア 街路条件の格差について
a 被告は、街路条件中、価格形成要因「構造・階段」の格差が零であるとするが、実際には、二方路線Ⅰは、価格形成要因「構造・階段」の「一部」に当たるから、この点に関する格差はマイナス10パーセントとなる。
b また、被告は、街路条件中、価格形成要因「構造・坂道」の格差がないとするが、実際には、二方路線Ⅰは傾斜しているから、「傾斜」に当たり、格差が零となる。
イ 環境条件の格差について
環境条件中、価格形成要因「商業密度」について、被告は、「90パーセント以上100パーセント未満」に当たるとするが、本件画地の街路の環境は、商業地又は事務所用地はほとんど無く、その実状に照らして、「10パーセント以上20パーセント未満」に当たると解すべきである。そこで、この点に関する格差はマイナス5パーセントとすべきである。
(4) 二方路線Ⅱの格差
ア 街路条件の格差について
被告は、街路条件中、価格形成要因「構造・坂道」の格差がないとするが、二方路線Ⅱは、坂道がなく、「なし」に当たるから、その格差はプラス3パーセントである。その結果、街路条件の格差は90パーセントとなる。
イ 環境条件の格差
環境条件中、価格形成要因「商業密度」について、被告は、二方路線Ⅱは「80パーセント以上90パーセント末満」に当たると主張し、その根拠として、本件画地の向かい側に存する駐車場が商業的利用をされていることを指摘する。
しかし、二方路線Ⅱは車の通行が不可能な道路であり、しかも、二方路線Ⅱに沿接する駐車場のどの部分をとっても当該路線とは1メートルないし3メートルの段差があり、出入口もなく、二方路線Ⅱを利用することはおよそできない状況であって、その利用もバブル期に他に利用価値がないため臨時に駐車場とされていたにすぎないもので、平成12年春には閉鎖されている。そうすると、右の影響を勘案した被告の商業密度の認定は誤りである。また、そもそも、右駐車場は一般個人にも利用されていて、商業系に属する駐車場には当たらない。加えて、商業地又は事務所用地はほとんどないのであるから、「10パーセント以上20パーセント未満」に当たると解すべきであり、この点に関する格差はマイナス5パーセントとすべきである。
(六) 袋地補正率を適用しない違法
本件画地は、本件土地1が主体部分に当たり、本件土地2が路地状部分に当たる。したがって、袋地補正がされるべきであり、奥行価格補正率0.98、通路拡幅補正率1.00、袋地補正率0.75、不整形地補正率0.95を乗じるべきである。
これに対し、被告は、本件画地は、建築可能部分(主体部分)で二方路線に接していることから、袋地には当たらないと主張する。しかし、二方路線に接しているといえるためには、少なくとも道路として正常使用の可能な街路であることが必要というべきである。
ところが、二方路線Ⅱは、原告以外の者が所有する私道であり、その入り口には私道所有者によって車止めの石が埋め込まれており、その途中の道幅は2.6メートルしかない。
また、二方路線Ⅰも、その大部分が階段状の通路で、道路への入り口はわずか1.1メートルの間口しかない道である。
したがって、本件画地を袋地として評価することは取扱要領に適合したものというべきである。
(七) 不整形地補正が過小である違法
仮に、本件画地が袋地補正の対象にならない場合には、本件画地は、間口が4.48メートルしかなく、10の角を持つ凹凸の激しい土地であるから、その全体の形状に照らせば、「極端に不整形のもの」として不整形地補正率0.65を適用すべきである。
これに対し、被告は、取扱要領別表11(1)「不整形のもの」イに当たるとするが、右は、本件画地とは比較にならない程整った形をしており、しかも、右事例には、路地状部分の「間口が狭小でないもの」との注意書きがされており、本件画地が間口狭小補正率の適用され得る画地であることからすれば、右の事例を適用することは誤りである。
また、被告は、相続税における財産評価基本通達を援用しているが、評価の理念を異にするものであって、援用する意味を持たないものであり、しかも、想定整形地の地積を誤ったために、蔭地割合0.454を前提としておらず、さらに、間口狭小補正率の適用を看過しているから、被告の右主張は失当である。
(八) がけ地補正を適用しない違法
本件土地1と本件土地2の間には3メートルの段差がある。仮に、本件各土地を一画地とする場合にはがけ地補正が適用されるべきである。そして、その場合の補正率は、本件土地1がすべてがけ地であるとして、本件画地のがけ地率は87.6パーセントとし、0.60とすべきである。
2 本件決定に係る登録価格が時価を超えていること
不動産鑑定士増田浩二が本件各土地を鑑定評価したところによれば(以下、右の鑑定を「増田鑑定」という。)、平成8年7月1日時点における本件各土地の時価は合計4億7140万円であり、当時の地価下落状況に鑑みれば、賦課期日である平成9年1月1日当時、さらに、客観的時価が下落していたことは明らかである。
したがって、本件各土地の登録価格は、少なくとも、4億7140万円を上回る限度で適正な時価を超えることは明らかというべきである。
3 本件決定の手続的違法について
(一) 調査義務の不履行
本件各土地は、平成6年度までの評価においては、一画地認定はされていなかったところ、平成9年度の評価替えに際し、初めて一画地認定がなされ、国道246号線が正面路線とされた。
被告は、審査申出に係る土地について右評価の方法及び手順が適正になされているかについて、その根拠にまで遡って審査の対象とし、必要であれば職権により調査その他の事実審査をした上で審査の決定をすべきである。
しかし、本件審査申出は、本件各土地が初めて一画地認定がされ、国道246号線が正面路線とされたという、従来とは全く異なった評価がなされたという状況の下でなされたにもかかわらず、被告は、何らの実地調査をしておらず、本件各土地の評価額算定の根拠となる具体的な資料の検討もしていなかった。
したがって、本件決定は違法である。
(二) 口頭審理手続
本件口頭審理手続においては、原告復代理人の根岸が本件各土地を一画地とされ、正面路線が変更された理由を尋ねたのに対し、東京都知事は抽象的形式的に「利用上一体である」等といった回答をするのみで、何ら具体的な回答がされなかった。それにもかかわらず、被告は、適切な回答をすべきとの指揮をせず、その他、審査申出人、市長等の関係者の出席、証言を求め、提出資料の閲覧をさせ、参考人の陳述及び鑑定要求、検証、審尋等の方法で審査資料の収集に努めるなどの手続を十分に履践せず、口頭審理は1回のみで終了した。
しかし、本件各土地の評価に対する原処分庁の評価の問題点の核心に関する実質的な説明がされなかった本件口頭審理は、法が口頭審理手続を設けた趣旨を没却するものであるから、違法である。
法が口頭審理手続を設けた趣旨は、独立中立の第三者機関である固定資産評価審査委員会に公正な審査を行わせ、固定資産評価の客観的合理性を担保して納税者の権利保護を図るとともに、適正な、税の賦課を実現しようとしたというのであり、本件決定に至る手続は、右の趣旨を没却するものであったから、法433条1項の趣旨に反し、違法である。
(被告の主張)
1 本件決定が評価基準等に適合していること
(一) 一画地認定について
評価基準によれば、画地の認定は、原則として、土地課税台帳等に登録された1筆の土地を一画地とするが、隣接する2筆以上の宅地について、その形状及び利用状況等からみて一体をなしていると認められる場合には、一画地と認定される。
そこで、右を前提として、本件各土地について検討すると、<1>本件各土地の出入口は、正面路線の側に向いており、二方路線側にはないこと、<2>本件各土地は、塀その他の囲い等により一体として利用されている宅地であること、<3>本件土地2が本件土地1への通路及び荷物の搬入口になっているため、本件土地1は本件土地2と一体利用されている状況と認められることからして、本件土地1及び本件土地2を同一画地として認定すべきである。
(二)本件画地に係る各路線の選定について
(1) 正面路線の選定について
本件画地の正面路線の選定は評価基準等に従ったものである。
(2) 二方路線王の選定について
路線価は原則として交差点から交差点までの一街路を単位として付設するものであるところ、二方路線Ⅰ(別紙図面1のA街路)が他の街路と交差していると認められるのは、原告の主張するように、A街路が本件土地1に突き当たった屈曲部分ではなく、二方路線Ⅱと交差した部分であるというべきである。
したがって、別紙図面1の4.028メートルの部分に沿接する街路はB街路ではなく、A街路というべきである。
(三) 本件画地の二方路線Ⅰ及び二方路線Ⅱの沿接する地域の用途地区
二方路線の側にも商業施設が少なからず存すること、都市計画法の定める用途地域も商業地域であることからすれば、普通商業地区と認定すべきである。
(四) 二方路線Ⅰについて、二方路線影響加算を行うべきことについて
評価基準等によれば、副路線に接する間口が2メートル未満の場合には副路線加算を行わないと規定されており、その反対解釈からして2メートル以上が当該土地に沿接している場合には副路線加算を行うべきであると解されること、正面路線のみに接している土地に比べ、裏側にも路線が接している土地の方が、通風、日照等において優れていること、二方路線影響加算率は0.05にとどまるので、結論に大きな影響はないことから、2メートル以上の副路線に沿接する土地については、副路線加算を行うべきである。
したがって、本件画地の二方路線Ⅰについても2方路線影響加算を行うことは評価基準等に適合したものというべきである。
(五) 各路線の格差の認定について
(1) 本件画地の正面路線について
原告は、本件画地の容積率が標準宅地aの容積率に比べて小さいにもかかわらず、被告は、右の容積率の格差を評価していないと主張する。
しかし、「容積率」といっても、種々の容積率を認定することができるのであり、建築形態規制及びその他の条件を全て考慮した上での上限となる容積率(使用可能容積率)を調査することは困難であり、これらの規制は画地条件にわたる部分を含むので路線価の算出に反映させることは適切でないこと、一般的に土地価格に影響を与えるのは基準容積率であることから、基準容積率を対象として路線価を付設することは許容されるものというべきである。
(2) 本件画地の二方路線Ⅰについて
二方路線Ⅰには、階段及び坂は存在しないし、また、ほぼ平坦な道路であり傾斜していないから、街路条件の格差において、価格形成要因「構造・階段」、「構造・傾斜」のいずれも「なし」に当たるとしたことは適切である。
また、本件各土地は国道246号線に近接する土地であり、二方路線Ⅰ沿いには、店舗事務所ビルや商業系に属する駐車場があるから、環境条件の格差において、その価格形成要因「商業密度」を「90パーセント以上100パーセント未満」と認定したことは適切である。
(3) 本件画地の二方路線Ⅱについて
被告は、階段の一部と認定される場合には、階段の格差の中に坂道の要素が含まれていることから重複して格差を認定せず、坂道又は階段のいずれか減価の大きい方を選択して比準計算を行うこととしているものであり、また、仮に、本件において重畳的に適用すると、街路条件は90パーセントと認定され、被告認定よりも減価の度合いが小さくなるから、原告の主張は失当である。
また、本件各土地は国道246号線に近接する土地であり、二方路線Ⅱ沿いには、店舗事務所ビルや商業系に属する駐車場があるから、二方路線Ⅱの価格形成要因「商業密度」を「90パーセント以上100パーセント未満」と認定したことは適切である。なお、商業系に属する駐車場とは、一般個人が利用していれば商業系に属しないとすれば、高度商業地区に所在する駐車場であってもそのほとんどが商業系に属しないこととなってしまうから、原則として商業地区又は商業地区の影響を受ける地域に所在する有料の駐車場をいうと解すべきである。そして二方路線Ⅱを挟んで本件画地の反対側に位置する駐車場が時間貸しの有料駐車場であり、しかも、国道246号線の影響を受ける商業地区にあるから、商業系に属する駐車場に当たると解すべきである。
(六) 袋地補正の不適用について
袋地とは、路線に接する路地部分とこれに連続する宅地としての建物建築可能部分からなる宅地をいい、袋地というためには路地部分のみが路線に接していることが必要である。ところが、本件画地は、路地部分でその正面路線に接しているほかに、建物建築可能部分でもその二方路線に接しているのであるから、袋地とはいえない。
したがって、本件画地について、袋地補正を行う必要はないというべきである。
(七) 不整形地補正について
(1) 取扱要領によれば、不整形地に該当するか否かは、当該不整形地に近似する整形地を想定し、この整形地と比較し、その凹凸の状況から宅地としての利用価値を客観的に判断して、画地事例を参照の上で認定するものとされている。
(2) そして、本件画地に近似する整形地は長方形ということができ、事例からは「極端に不整形のもの」(補正率0.65)、「相当に不整形なもの」(補正率0.80)に該当せず、「不整形なもの」(補正率0.90)に該当することは明らかである。
なお、画地事例「不整形なもの」の(イ)には間口が狭小でないこととの記載があるが、右は、単に間口狭小補正率が適用される間口距離を意味するものではなく、画地評価において現に間口狭小補正率が適用される場合をいうものと解すべきである。右は、「間口が狭小でないもの」との注意書きが、間口が狭小で通路状部分においてしか路線に接していない形状の土地においては、不整形地としてではなく、袋地として評価されることから、その注意喚起のために記載されたものであることからも裏付けられるというべきである。
また、仮に、本件画地が「間口が狭小でないもの」に当たらないとしても、不整形の度合いは、当該不整形地に近似する整形地を想定し、この整形地と比較して、その凹凸の状況から宅地としての利用価値を客観的に判断して分類することとされていて、通路状部分の間口が4メートル以上存する本件画地が前記の事例(イ)に最も類似した土地であることは明らかである。
(3) 右結論の妥当性は、固定資産税における評価と同様に適正な時価を求めて評価を行う相続税において用いられる財産評価基本通達に基づいて不整形地補正率を求めて算定した本件各土地の評価額の方が、不整形地補正率0.90を適用して算定した本件各土地の評価額よりも高くなることからも、明らかである。
すなわち、財産評価基本通達による不整形地の補正率は、<1>評価する不整形地の地区及び地積を地積区分表に当てはめて確定した上、<2>評価対象地の画地全域を含む想定整形地の地積を算出して「蔭地割合」を求め、<3>上記地積区分と蔭地割合を不整形地補正率表に当てはめて不整形地補正率を求めるというものであり、右方式を本件画地に当てはめると、不整形地補正率は0.98なる。
したがって、本件画地に不整形地補正率0.90を適用して算定した評価額は、妥当である。
(八) がけ地補正の不適用について
本件土地1と本件土地2との間に3メートルの段差があるか否かは必ずしも明確ではないし、また、がけ地補正を認めた趣旨は、宅地造成規制法、建築基準法、東京都安全条例などにより、崖崩れ防止の観点から一定の規制を受ける土地を念頭において、宅地として利用できない傾斜地として減価すべき土地の範囲を、右の規制対象となる土地と同等の観点から把握し、これを有効な利用が妨げられるものとして減価の対象とする方、右の条件に該当しない傾斜地については、平坦な土地に比較して有効利用度が劣ることがあったとしても、建物の形状や配置上の工夫により、有効利用を図ることができることなどを考慮して、減価の対象としないとする点にあるところ、段差が存する土地については、建築する上で法的規制はなく、宅地として利用できなくなる部分はないから、がけ地補正は必要がないというべきである。評価基準等によっても、がけ地補正は、いわゆるがけ地の面積が総地積に対する割合の20パーセント以上を占めて初めて画地計算に当たり補正を要するとされているところ、段差はがけ地と異なり、右の割合は極めて小さいものである。
したがって、いずれにしても、本件画地については、宅地としての利用ができない程度の傾斜地は存しないから、がけ地補正の必要は存しないというべきである。
2 本件決定に係る登録価格が適正な時価を超えているとの主張について
(一)(1) 法は、固定資産税に関して、昭和37年3月31日法律第51号地方税法の一部を改正する法律(以下「昭和37年改正法」という。)において、右改正前の法403条1項が「市町村長は、(略)自治大臣が示した評価の基準並びに評価の実施方法及び手続に『準じて』、固定資産の価格を決定しなければならない。」としていたものを、「市町村長は、(略)第388条第1項の固定資産評価基準に『よって』、固定資産の価格を決定しなければならない。」と改正した。
これは、<1>改正前の固定資産評価基準が市町村長に対する一つの参考にすぎないと理解されていたため、市町村の固定資産の評価が地域によりまちまちとなっていたところ、評価方法が各市町村において異なるようでは納税者間の公平を期すことができないため、固定資産の評価の均衡を図る必要があること、<2>処分庁が短期間に大量の固定資産について個別に評価することは現実的に極めて困難なため、評価事務の簡便さを図る必要が生ずることより、両者の要請を調整すべく、自治大臣に評価基準の定立を委任したのである。
そうであるとすると、条文の文理解釈及び右立法趣旨からして、評価基準に依拠することが不可欠であり、法的拘束力が認められるべきである。
右結論は、昭和37年改正法が、法388条1項として「自治大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(以下「固定資産評価基準」という。)を定め、これを告示しなければならない。」とする規定を新たに設け、右規定を受けて、従来は自治事務次官の依命通達によっていた評価基準を告示することに変更したことからも明らかである。なぜなら、改正の結果、評価基準は、通達とは異なり、法令と同様に官報に掲載されて、一般に告知されることになったからである。
(2) 以上によれば、昭和37年の法改正後は、評価基準と異なる評価方法を採用することは許されなくなったのであり、市町村長は、評価基準に従った評価をなすべく義務付けられているものと解するのが相当である。
(3) そして、被告が採用した市街地宅地評価法は、まさに評価基準に規定された評価方法にほかならないから、原告の主張するように、個別の鑑定評価という評価基準とは異なる方法によって本件各土地を評価することは許されないというべきである。
また、土地自体を直接鑑定の対象とすると、状況類似地区内の評価に著しい不均衡をもたらしかねず、妥当性を欠き、短期間に大量の土地評価が求められる固定資産税において、個別鑑定による評価を認めると、その鑑定の合理性の検証に多大な労力を要することとなり、結果として、税務行政に多大の支障を生ずることからも、個別の鑑定に基づいて土地の評価をすることは許されないというべきである。
(二) また、増田鑑定は、本件土地1と本件土地2とを別々に分けて評価し、それを合計しているが、本件各土地は、一画地として評価されるべきものであり、これと異なる右鑑定評価は、評価基準の規定と異なる独自の画地認定に基づいて評価したにすぎず、その前提において失当というべきである。
その上、増田鑑定は、<1>本件画地が渋谷駐車場整備地区の指定内にあるというが、駐車場整備地区の規定では、建築物の床面積が2000平方メートル以上あるものについては駐車場を整備しなくてはならないとしているのであり、本件各土地には影響しないこと、<2>対象地(本件土地1)の状況からみて、格差率を標準的画地に比べてプラス50パーセントと判断したとするが、容積率等を勘案するとこれよりも大きな格差率となると思われることからして、右鑑定評価に基づく原告の主張は失当である。
3 本件決定には、手続的な違法のないこと
(一) 本件各土地の実地調査は、平成9年11月28日になされており、原告の申立復代理人であった根岸弁護士も、口頭審理において、「円山町地区は実地調査のときに」と発言している。
また、評価額算定の基礎となる具体的資料についても、申出人の資料要求に基づき評価庁から提出され、それも参考に決定している。
したがって、実地調査をせず、また、具体的な資料も検討していないとの原告の主張は失当である。
(二) また、本件口頭審理手続においても、何ら違法な手続は存しない。
五 争点
以上によれば、本件の争点は、以下の各点にある。
1 本件決定は、評価基準等に適合しているといえるか否か。
(一) 本件各土地を一画地としたことが評価基準等に適合しているか否か。(争点1(一))
(二) 本件画地に係る各路線の選定が評価基準等に適合しているか否か。(争点1(二))
(三) 本件画地の二方路線Ⅰ及び二方路線Ⅱの沿接する地域の用途地区を普通商業地区と認定すべきか否か。(争点1(三))
(四) 本件画地の二方路線Ⅰについて、二方路線影響加算を行うことが評価基準等に適合しているか否か。(争点1(四))
(五) 本件画地に係る各路線の格差の認定が評価基準等に適合しているか否か。(争点1(五))
(六) 本件画地に袋地補正を適用しないことが評価基準等に適合しているか否か。(争点1(六))
(七) 本件画地について不整形地補正率0.90を適用することが評価基準等に適合しているか否か。(争点1(七))
(八) 本件画地にがけ地補正を適用しないことが評価基準等に適合しているか否か。(争点1(八))
2 増田鑑定に基づいて、本件各土地の登録価格が、その適正な時価を超えていると認められるか否か。(争点2)
3 本件決定に至る手続的な瑕疵により、本件決定が違法となるか否か。(争点3)
第三 当裁判所の判断
一1 固定資産税は、固定資産課税台帳に登録された固定資産の価格を課税標準とすることを原則として(法349条1項、349条の2)、固定資産の所有者(質権又は100年より永い存続期間の定のある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下同じ。)に対して(法343条1項)、資産の所有という事実に着目して課税される財産税であり、資産が土地の場合には、土地の所有という事実に担税力を認めて課税するのであって、原則として、個々の所有者が現実に土地から収益を得ているか否か、土地が用益権又は担保権の目的となっているか否か、収益の帰属が何人にあるかを問わず、賦課期日における所有者に対し、課税されるものである。
このような固定資産税の性質からすると、その課税標準又はその算定基礎となる土地の「適正な時価」(法341条5号)とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値(以下、これを「客観的時価」という。)をいうものと解すべきである。
そして、法は、土地課税台帳に登録すべき価格を基準年度に係る賦課期日における価格としているのであるから(法349条1項)、右登録価格は、賦課期日である当該年度の初日の属する年の1月1日(本件では、平成9年1月1日)時点を基準日として、同日における客観的時価をもって算定すべきである。
2 適正な時価の意義を前記のように解すると、土地の適正な時価の算定は、鑑定評価理論に従って個々の土地について個別的、具体的に鑑定評価することが最も正確な方法ということになるが、課税対象となる土地は極めて大量に存在することから、限りある人的資源により、時間的制約の下で、右のような評価を実施することが困難であることは明らかである。
そこで、法は、これらの諸制約の下における評価方法を自治大臣の定める評価基準によらしめることとし、併せて、極めて大量の固定資産について反復、継続的に実施される評価について、各市町村の評価の均衡を確保するとともに、評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消しようとしているものということができる。
3 他方、右の評価基準は、各筆の土地を個別評価することなく、諸制約の下において大量の土地について可及的に適正な時価を評価する技術的方法と基準を規定するものであり、宅地の価格に影響を及ぼすべきすべての事項を網羅するものではないから、個別的な評価と同様の正確性を有しないことは制度上やむを得ないものというべきであり、評価基準による評価と客観的時価とが一致しない場合が生ずることも当然に予定されているものというべきであるから、評価基準に定める個別的評価要素が具体的な土地の特殊性に照らして適切さを欠くとみえる場合があるとしても、それのみでは違法とすることはできないものである。
しかし、このように、評価基準による評価が複数の評価要素の積み重ねを通じて結論において「適正な時価」に接近する方法にすぎないことからすると、法は、登録価格が賦課期日における対象土地の客観的時価を上回ることまでも許容するものではないと解される。
4 これらのことからすれば、登録価格が賦課期日における対象土地の客観的時価以下でないときは、その限度で登録価格の決定は違法になるというべきであり、また、登録価格が賦課期日における対象土地の客観的時価を上回るときを除いては、登録価格の評定が評価基準に適合しない場合には、右登録価格の決定は法に反するというべきである。
なお、市町村長において、近傍の主要な街路の路線価を基礎とし、主要な街路に沿接する標準宅地とその他の街路に沿接する宅地との間における相違を総合的に考慮して、その他の街路について路線価を付設する際に(評価基準第1章第3節二(一)3(2))、その格差率認定の基礎となる比準項目及び比準率を定めるために比準表を設け、また、評価基準の「画地計算法」の付表等について所要の補正(評価基準第1章第3節二(一)4)を行うために取扱要領中に規定を設けて、これらに基づいて評価事務を執行するときには、右の定めが合理的である限り、これと異なる評価を行うことは、登録価格が賦課期日における対象土地の客観的時価を上回るときを除き、評価基準に適合しないものとして、あるいは、平等原則に反するものとして違法となると解すべきである。
二 争点1について
1 争点1(一)について
(一) 一画地認定の趣旨
(1) 評価基準別表第3の2は、土地課税台帳に登録された1筆の宅地を一画地として認定するのを原則とし、例外的に、筆界にかかわらず、その形状、利用状況等からみて、これらを合わせる必要がある場合においては、その一体をなしている部分の宅地ごとに一画地と認定するものとしている。
また、取扱要領第九節第3は、画地の認定は、原則として土地(補充)課税台帳に登録された1筆の宅地を一画地とするが、2筆以上の宅地を合わせて評価することができる場合として、次のとおり定めている。
<1> 隣接する2筆以上の宅地にまたがり、1個又は数個の建物が存在し、一体として利用されている宅地
<2> 隣接する2筆以上の宅地について、それらの筆ごとに1個又は数個の建物が一体として利用されている宅地
<3> 隣接する2筆以上の宅地について、建物の有無又はその所在の位置に関係なく塀その他の囲い等により一体として利用されている宅地
<4> 隣接する2筆以上の宅地について、一体として利用されている駐車場等の宅地
しかし、2筆以上の宅地を合わせて評価することにより、宅地相互聞の均衡を失するものは、1筆を一区画として評価しても差し支えないとしている。
(2) 土地の適正な時価は、正常な条件の下において成立する当該土地の取引価格をいうものであるが、右取引価格は、通常、土地の利用価値を考慮して定められるものであるから、隣接する2筆以上の宅地にまたがり、1個又は数個の恒久的建物があるなど、当該宅地が一体として利用されている場合には、筆界にかかわらず、その一体をなすと認められる範囲をもって一画地と認定してその価格を評価し、各土地の価格を求めることは、基本的に、評価の均衡、公平を図る上で相当と解される。しかし、現実の利用状況による画地の認定は、事務的、技術的に困難を伴うこと、また、市町村が統一的に運用できる限度などの点に対する配慮が必要であることから、評価基準においては、1筆を一画地として認定するのが原則とされ、例外的に、その形状、利用状況等からして、当該宅地が一体として利用されているといった条件を満たす場合には、その一体をなしている部分の宅地ごとに一画地とすることとしたものと解され、取扱要領も、これをより具体化させたものとして、合理的であり、評価基準に沿うものということができる。
(二) 各項末尾掲記の証拠等によれば、以下の事実が認められる。
(1) 本件各土地は、幹線道路であり、幅員約50メートルの国道246号線に近接して存在している。本件土地2は、国道246号線に直接沿接しているが、本件土地1は、国道246号線からみれば、本件土地2に連続してその奥に位置しているものである。その具体的位置関係は、別紙図面1、同図面2のとおりである。(〔証拠略〕)
(2) 本件土地1上には、鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階地上6階建て、延床面積1237.34平方メートルの建物(ただし、6階部分の床面積は23.81平方メートルにすぎない。以下、「本件ビル」という。)が建築されている。
本件土地1と本件土地2との間には、高低差が約3メートル程度ある。(〔証拠略〕)
(3) 本件土地2は、本件土地1への通路としてのみ利用されるように、その土地上にアーケード状の構造物が作られ、さらに、その隣接土地との間には、壁が築造されているが、建物は建築されていない。本件ビルの2階の国道246号線側には、本件土地2を通じて国道246号線方面に通行できるように、ガラス張りの出入口が設置され、「美好ビル」との表示がされている。これに対し、本件ビルの1階の北西側(二方路線Ⅱの側)には1枚の小さなドアしかない。(〔証拠略〕)
(三) 以上の事実を前提に検討するに、本件土地2は、本件土地1上に建築されている本件ビルへの進入用通路として利用されていて、しかも、アーケード状の構造物及び隣接土地との間に壁が築造されていることからすると、本件土地1及び本件土地2は、現況においては、塀その他の囲い等により一体として利用されている宅地と認められる。
したがって、本件各土地を一画地と認定することは評価基準等に適合したものというべきである。
(四) これに対し、原告は、本件土地1と本件土地2との間には約3メートルの段差が存しているところ、取扱要領は段差地に関する補正の規定を設けていないとすれば、段差地を一画地とすることは予定していないと解すべきであると主張する。
しかし、取扱要領が段差地に関する補正規定を設けていないことについては、後記8記載のとおりであるが、そうであるからといって、段差地を一画地とすることが全く許されないわけではないというべきである。すなわち、当該宅地内に段差のある土地といってもその段差の高低、当該宅地の最有効使用がどのような形態のものであるのか等によって、段差地であることが土地使用に対する限害要因となる程度は異なるものと解されるところ、段差があるにもかかわらず一体として利用を図ることに客観的な合理性がある場合には、少なくとも、一画地として評価することが、当該宅地の利用価値を適切に把握し、評価の均衡、公平を図ることとなるものというべきである。そして、本件画地の近隣地域は、ビル等の建物が連たんしている地域であり(〔証拠略〕)、その土地の最有効使用は高層事務所ビルの敷地とされていること(〔証拠略〕)、現に、本件画地は、本件土地1上に建築物を建築し、その2階部分に本件土地2への出入口を設けることにより、右の段差部分が存することによる土地使用への障害を可及的に除去しているとみられることに鑑みれば、一体として利用を図ることに客観的な合理性があるというべきであり、本件画地については、段差部分が存することにより、一画地認定をすることが許されないとまでは解することができない。
(五) また、原告は隣地マンション土地と比較して、著しく高い評価となることから、一画地認定をすると評価の均衡を阻害すると主張する。
〔証拠略〕によれば、隣地マンション土地は、その北西側において、本件画地の二方路線Ⅱに沿接し、また、その南側において、本件画地の正面路線である国道246号線に接続する道路に沿接している土地であり、その具体的位置関係は、別紙図面2のとおりであって、その1平方メートル当たりの評価額は109万3234円であり、本件各土地の約半分程度の価格であることが認められる。
しかし、評価の均衡を阻害するというのは、単に隣地のうちの一つの土地との不均衡が存在するというだけでは足りず、その他の隣地の評価との均衡も失われている程度にまで至っていることを要するというべきであり、また、本件画地と隣地マンション土地との間に前記のような開差が生ずる原因が、一画地認定を行ったことに起因するのか、それとも、その余の評価の過程における誤り、あるいはその他の原因によるものであるかは明らかではないから、隣地マンション土地との間の比較をもって、一画地認定をすることにより評価の均衡が阻害されるとまではいうことができず、原告の主張は採用することができない。
2 争点1(二)について
(一) 本件画地の正面路線の選定について
(1)ア 評価基準によれば、正面路線とは、路線価の高い方の路線をいうものとされているが(評価基準別表第3の4)、取扱要領は、2以上の路線に沿接する画地については、原則として路線価の高い方を正面路線とするが、路線価の高い方の間口が2メートル未満で、当該画地の状況、形状等から、その路線の影響がほとんどないと認められ、かつ、当該路線に接する宅地との均衡を失しない場合は、それ以外の路線を正面路線とすることができるとする(取扱要領第九節第4の1)。
イ 右のとおりの取扱要領の定めは、単に路線価の高い方の路線を正面路線とするときは、当該路線への間口が狭小であることなどから、何らその影響を受けない宅地についても、路線価の高い方の路線に合わせて高い評価をすることになり、相当でないとの配慮に基づくものと解され、評価基準の趣旨に反するところはなく、合理的であるということができる。
ウ 本件画地に沿接する路線のうち、最も路線価の高い路線は、被告の主張する本件画地の正面路線であり、また、その間口が2メートルを超えているから(〔証拠略〕)、被告のした本件画地の正面路線の選定は評価基準等に適合したものというべきである。
(2) これに対し、原告は、利用主体となる土地は本件土地1であるから、正面路線は、右の本件土地1に沿接する被告の主張する二方路線Ⅱと考えるべきであると主張するが、評価基準、取扱要領の定めるところは前記のとおりであり、右の規定から、原告の主張するように、一画地のうち、主として利用される区画に面する路線を正面路線とすべきであることまで定めたものとは解することができない。
(二) 本件画地の二方路線Ⅰの選定について
(1) 評価基準等によれば、路線価は、原則として、交差点から交差点までの一街路を単位として付設するものであるとされている。
(2) ところで、別紙図面1記載のB街路は、国道246号線とほぼ並行して走る道路を起点として、階段構造部分を通過し、その右手に存する駐車場として利用されている土地を過ぎたところで、被告の主張する二方路線Ⅰがこれに接続し、その後、左に折れ、渋谷YTビルを超えて、道玄坂上交差点から西側に通じる道路に接続する道の一部をなすものであると認められ、そのうち、本件画地近辺における具体的な状況については別紙図面1のとおりである(〔証拠略〕)。
そうすると、右の道を、国道246号線とほぼ並行して走る道路を起点として、階段構造部分を通過し、二方路線Ⅱに接続するまでの部分と、これを超えて左方向に屈曲し、渋谷YTビルを超えて、道玄坂上交差点から西側に通じる道路に接続するまでの部分との2つの路線に区分することは、評価基準等に適合するものということができる。そして、本件土地1がその北西角において接する部分は、右の道が、二方路線Ⅱに交差する地点を超えて、左方向に屈曲していく部分にあるものというべきであるから、本件画地が沿接するのは、その後者、すなわち、別紙図面1のA街路ということになるから、被告が、これを前提として、二方路線Ⅰを選定したことは評価基準等に適合したものというべきである。
3 争点1(三)について
(一) 評価基準によれば、標準宅地を選定するに際しては、市町村の宅地を商業地区、住宅地区、観光地区等に区分し、さらに、必要に応じ、商業地区にあっては、繁華街、高度商業地区(Ⅰ、Ⅱ)、普通商業地区等に、住宅地区にあっては高級住宅地区、普通住宅地区、併用住宅地区等に区分するものとし、これを受けて、取扱要領は、商業地区及び住宅地区を、高度商業地区、繁華街、ビル街、普通商業地区、中高層併用住宅地区、低層併用住宅地区、高級住宅地区、中高層普通住宅地区、低層普通住宅地区に区分する。そして、普通商業地区とは、高度商業地区の外延部又は地域の拠点として鉄道駅の周辺等に位置し、一般的な商業施設や事務所等が連たんしていて、高度商業地区に比べ、資本投下量が少なく商業密度も低いが、低層併用住宅地区より商業密度が高い地区をいい、中高層普通住宅地区とは、低層普通住宅地区よりも敷地が広く、高度利用が進んでおり、中高層共同住宅の敷地として利用されている画地が多い地区をいう。
(二)(1) JR出手線渋谷駅は、JR山手線のほか、東急東横線等の各種鉄道が接続し、また、大規模なバスターミナルもあるため、多数の乗降客があり、本件画地の存する円山町も、右渋谷駅を中心とする渋谷区中央商店街に属するが、都内でも有数の代表的商業集積地域である道玄坂周辺に比べて、やや商業地域の中心部から離れているため若干繁華性が低くなっており、旅館業等のサービス業が多く、特に、本件画地の二方路線Ⅰ及び二方路線Ⅱに沿接する地域を含め、国道246号線の背後の地域には、中小規模のホテルや店舗、一般住宅が混在する地域となっている(〔証拠略〕)。また、二方路線Ⅰに沿接する地域及び二方路線Ⅱに沿接する地域のいずれについても、その都市計画法上の用途地域は商業地域とされている(〔証拠略〕)。
(2) 右のとおりの状況からすれば、本件画地の二方路線Ⅰ及び二方路線Ⅱに沿接する地域は、高度商業地区の外延部に位置し、一般的な商業施設や事務所等が連たんしているが、低層併用住宅地区よりも商業密度が高いということができるから、普通商業地区に当たるとした被告の認定は評価基準等に適合したものというべきである。
(三) これに対し、原告は、二方路線Ⅰ及び二方路線Ⅱに沿接する地域は、中高層普通住宅地区に当たると主張するが、右に説示したところからすれば、かかる地域が、中高層普通住宅地区に当たるとは認められない。
4 争点1(四)について
(一) 評価基準は、正面及び裏面に路線がある宅地については、正面路線から計算した単位地積当たり評点数に、二方路線影響加算率によって補正する単位地積当たり評点数を加算して単位地積当たり評点数を求めることとしており(評価基準別表第3の5)、取扱要領も、同様に二方路線影響加算率による補正を行うこととするが、二方路線の間口がおおむね2メートル未満の場合は、加算するほどの影響が認められないので、加算を行わないこととしている(取扱要領第九節第5の2(2)、同第8の3)。
(二) 右のとおりの評価基準の定めは、本件画地のように、正面及び裏面に路線がある画地については、正面路線のみに接する画地に比べて、建築計画上の優位性から宅地としての利用価値が大きくなり、また、商業地においては広告宣伝効果や顧客誘引効果が優ることになることから、規定されたものと解され、取扱要領の定めも、評価基準の規定を受けつつ、その間口がおおむね2メートル以下の土地については、加算するほどの影響が認められないものと判断して、その場合には、二方路線影響加算の補正を行わないこととするものであり、評価基準の趣旨に背くものとはいえない。
(三) そして、本件においては、二方路線Ⅰに対する本件画地の間口距離は、2メートルを大きく超えるものであるから(〔証拠略〕)、二方路線Ⅰに係る二方路線影響加算を行うことは評価基準等に適合したものというべきである。
5 争点1(五)について
(一) 本件画地の正面路線について
(1) 原告は、本件画地は、最大3000平方メートルの土地しか建てられず、その容積率は、771.3パーセントにすぎないから、標準宅地aとの容積率に基づく格差は、マイナス4パーセントとすべきであり、行政的条件による格差は96パーセントとすべきであると主張する。
(2) しかし、主要な街路の路線価は、標準宅地について不動産鑑定士等により求められた鑑定評価価格等に基づき、その7割を目途に付設されるものであるところ、当該状況類似地区のうち、主要な街路以外の街路については、当該街路に沿接する標準的な宅地との間における道路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等の相違を総合的に考慮して比準評価を行い、路線価を付設するものとされ(評価基準第1章第3節二3)、さらに、当該主要な街路以外の街路に沿接する各画地に係る固有の価格形成要因については、画地計算法の定めるところに従って評価に反映させることが予定されているものと解されるから、評価基準に基づく価格評価の過程で行う格差の認定は、各画地の個別的な価格形成要因を反映させるべきものとはいえない。
そして、原告のいうところの、容積率の減少要素とは、本件画地については、最大3000平方メートルの建物しか建てられないことによるというのであって、本件画地固有の要素といわざるを得ないから、右の点を格差の認定に反映させることはできない。
(3) そして、標準宅地aと本件画地との位置関係は、別紙図面2のとおりであるから、標準宅地aに沿接する主要な街路aと、本件画地の正面路線とが同一であるとした被告の認定は評価基準等に適合したものというべきである。
(二) 本件画地の二方路線Ⅰについて
(1) 街路条件による格差について
ア 本件決定は、主要な街路bと本件画地の二方路線Ⅰとの間の格差のうち、街路条件の格差について、価格形成要因「構造・階段」について、主要な街路、二方路線Ⅰのいずれも「なし」に当たるとして格差を零とし、価格形成要因「構造・坂道」について、主要な街路を「傾斜」に当たるとし、二方路線Ⅰを「なし」に当たるとして格差をプラス3パーセントとする(〔証拠略〕)。
イ これに対し、原告は、実際には、本件画地の二方路線Ⅰには、階段が一部存するから、「一部」に当たり、この点に関する格差はマイナス10パーセントとなると主張するが、〔証拠略〕によれば、本件画地の二方路線Ⅰには、階段は存しないものと認められるから、原告の主張はその前提を欠くものというべきである。
ウ また、原告は、実際には、本件画地の二方路線Ⅰは、傾斜しているから、「傾斜」に当たり、格差が零となると主張するが、〔証拠略〕によれば、本件画地の二方路線Ⅰは、傾斜していないものと認められるから、原告の主張はその前提を欠くものというべきである。
(2) 環境条件による格差について
ア 〔証拠略〕によれば、本件決定は、環境条件のうち商業密度を主要な街路b及び本件画地の二方路線Ⅰのいずれも「90パーセント以上100パーセント未満」に当たるとして、格差が零であると認定したことが認められるところ、原告は、本件画地の街路の環境は、商業地又は事務所用地はほとんど無いから、その実状に照らして、「10パーセント以上20パーセント未満」に当たるとして、この点に関する格差はマイナス5パーセントとすべきであると主張する。
イ 商業密度とは、商業集積の高い商業地は繁華性が高く、土地価格も高くなることから、客観的に測定できる現況利用データから商業地としての繁華性等を判定しようとするものであり、取扱要領は、商業的利用のされている建物等の敷地とされているもの、すなわち、物品販売小売店舗、百貨店、スーパー、事務所、飲食店、銀行等の金融機関店舖、各種娯楽施設、各種学校、専門学校、公共施設、自動車教習所、競馬場・競艇場、商業施設付属の駐車場、他の施設から独立した駐車場(商業系に属するものに限る。)の割合から商業密度を判定することとしているが、本件二方路線Ⅰ沿いには、店舗事務所ビルなどが存することからすれば(〔証拠略〕)、相当の商業密度があるものと認められるから、「90パーセント以上100パーセント未満」に当たるとした被告の認定は、合理的というべきである。
(三) 本件画地の二方路線Ⅱについて
(1) 〔証拠略〕によれば、本件決定は、主要な街路bと本件画地の二方路線Ⅱとの間の格差のうち、街路条件の格差について、価格形成要因「構造・階段」について、主要な街路を「傾斜」に当たるとし、二方路線Ⅱを「なし」に当たるとしつつ格差を零としていることが認められるが、原告は、右の格差はプラス3パーセントになるべきものと主張する。
これに対し、被告は、「構造・階段」において、「一部」に当たると認定される場合には、階段の格差の中に坂道の要素が含まれていることから重複して格差を認定せず、坂道又は階段のいずれか減価の大きい方を選択して比準計算を行うこととしていると説明する。
しかし、いずれにしても、被告は、原告にとって有利に取り扱っているのであって、かかる点に仮に評価基準等に適合しない点があったとしても、原告に不利益となるものではないから、原告の主張は失当である。
(2) 〔証拠略〕によれば、本件決定は、環境条件のうち商業密度を主要な街路bについては「90パーセント以上100パーセント未満」に当たるとし、本件画地の二方路線Ⅱについては、「80パーセント以上90パーセント未満」に当たるとして、格差をマイナス1パーセントであると認定したことが認められる。そして、本件二方路線Ⅱ沿いには、店舗事務所ビルや駐車場が存することからすると(〔証拠略〕)、被告の右認定は、合理的であるということができる。
なお、原告は、本件二方路線Ⅱ沿いに存する駐車場は、どの部分をとっても当該路線とは1メートルないし3メートルの段差があり、出入口もなく、二方路線Ⅱを利用することはできない状況であって、その利用もバブル期に他に利用価値がないため臨時に駐車場とされていたにすぎないから、その影響を勘案することは相当でない旨主張する。
しかし、たとえ、当該路線に対して直接は出入口が存せず、当該路線からは当該駐車場に進入することができない状況であったとしても、当該駐車場が存することによって、商業地域における利便性が増し、繁華性を増すことは考えられるところであって、かかる駐車場の存在を、商業密度の認定において考慮することが、評価基準等に適合しないとまでは解することができない。また、バブル期に、他に利用価値がないことから、臨時に駐車場として利用していたにすぎないとしても、一定の期間、その駐車場が存することによって、右のとおりの影響は生ずるものと解されるから、駐車場の存在を商業密度の認定において考慮することが、評価基準に適合しないとはいえない。
さらに、原告は、当該駐車場は一般個人にも利用されていて、商業系に属する駐車場には当たらないと主張するが、右駐車場は、時間貸しされているものであって(〔証拠略〕)、また、当該地域が普通商業地区に当たることからすれば、かかる駐車場を、商業密度の認定に際して考慮することが許されないとはいえない。
6 争点1(六)について
(一) 取扱要領に定める袋地補正とは、次のとおりのものである。なお、評価基準自体には、袋地の特性に着目した補正方法は定められていない。
(1) 袋地とは、路線に接する路地部分とこれに連続する宅地としての建物建築可能部分(以下「主体部分」という。)からなる宅地をいう。
(2) 袋地については、路地部分の幅員が間口狭小補正率の適用をしない程度のとき(路地部分が2以上あるときは幅員の広い方で判断する)は、袋地としないものとする。
(3) 袋地の補正方法
ア 当該画地の路地状部分が接する路線から、主体部分の最深部までの距離に応じて、取扱要領付表1「奥行価格補正率」(ただし、平成9年度から平成11年度までは取扱要領別表1による。)により補正する。
イ 次に、取扱要領付表9「通路拡幅補正率」により補正する。
通路拡幅補正率は、路地状部分の幅員と主体部分の最浅部までの奥行距離に応じて各用途地区に共通の補正を行うものであり、最大0.80の補正が行われる。
ウ さらに、取扱要領付表8「袋地補正率」により補正を行う。
袋地補正率は、普通商業地区においては、0.75の減価補正として行われる。
(二) 右のとおりに行われる取扱要領による袋地の補正は、対象地の奥行に応じた価格の逓減を考慮し、次に、建築法規の要求する最低限度の間口割合を確保するために必要な土地部分の取得に要する費用を控除し、さらに、袋地であることにより不可避的に発生する路地状部分の土地の価値の低減、主体部分の環境条件の低下をも考慮して減価補正を行うことにより、路線との間口が狭小であって、しかも、路地状の敷地の奥に連続して存する部分が建築可能部分となる土地であることから、その部分の土地の環境条件が低下することが見込まれるようないわゆる袋地について、その適正な時価を算定する手法として合理的であるということができる。
(三) ところで、本件画地は、別紙図面1のとおり、正面路線に対しては、間口が約4メートル程度であって、主体部分と判断される本件土地1の最浅部との距離は約11メートル程度あり、その形状からして、本件土地2は、本件土地1との関係では、路地状敷地に当たるということができる。しかしながら、一方で、本件画地の主体部分である本件土地1は、二方路線Ⅱとも接しており、その間口距離は、間口狭小補正率が適用される余地はおよそないものである。
そうすると、かかる土地について、袋地として補正することを取扱要領が予定していないことは明らかである。
したがって、本件画地について、袋地補正を行わないとすることは、取扱要領に適合したものというべきである。
(四) これに対し、原告は、二方路線Ⅱは、原告以外の者が所有する私道であり、その入り口には私道所有者によって車止めの石が埋め込まれており、その途中の道幅は2.6メートルしかないなど、正常使用の可能な街路ではないから、袋地に当たると解すべきであると主張する。
しかし、二方路線Ⅱが原告主張のとおりの状態にあって、その使用に障害となるいくつかの点が存するとしても、主体部分の環境条件の低下といった点においては、本件画地と全く道路と接していない土地との間に差があることは明らかであるから、原告の主張を採用することはできない。
7 争点1(七)について
(一) 評価基準別表第3の7(1)<1>は、不整形地の価額については、整形地に比して一般に低くなるものであるので、「不整形地補正率表」(附表4)によって求めた不整形地補正率を乗じて当該不整形地の単位地積当たり評点数を求めるものとされ、附表4は、蔭地割合方式による補正率表を定めている(普通商業地区については、1.00から0.80まで)が、附表4の(注3)は、蔭地割合方式によらない場合の不整形地補正率の適用に当たっては、当該画地が所在する用途地区の標準的な画地の形状・規模からみて、不整形度を判断して、同項に規定する表(普通商業地区については、「普通」から「極端に不整形」までの5段階の不整形度に応じて、1.00から0.80までの補正率を定める。)の定めるところに従い、不整形地補正率を定めることができる旨を規定している。
これは、蔭地割合方式による不整形地補正率表を適用するに当たっては、対象土地について細かな計算が求められるが、評価対象土地が大量に存する等の場合には短期間にすべての画地のデータを把握して計算を行うことが困難であることから、そのような場合には、市町村においては、蔭地割合方式によらずに、画地の形状等から不整形度を5つの段階に分け、蔭地割合方式による場合と概ね同程度の不整形地補正率を定めることができるものとしたものと解される。
そして、取扱要領は、不整形地の補正は、不整形の度合を、当該不整形地に近似する整形地を想定し、この整形地と比較し、その凹凸の状況から宅地としての利用価値を客観的に判断して(なお、画地の面積の大小は宅地としての利用価値に影響を及ぼすものであるから十分留意することとされている。)、「やや不整形のもの」、「不整形のもの」、「相当に不整形のもの」及び「極端に不整形のもの」に当たるものについては、これに応じた補正率(それぞれ0.95、0.90、0.80及び0.65)により不整形地の補正を行うことと定めているが(取扱要領第九節第5の3(5)、第九節第8の11、付表10)、これは、東京都特別区においては評価対象土地が大量に存し、短期間に蔭地割合方式により評価することが困難であることから、蔭地割合方式によらずに、不整形の度合による補正率表を定めて評価を行っているものと解される。
したがって、取扱要領の不整形地補正の定めは評価基準に違反するものではないし、右の定めによって不整形地補正を行うことは、不整形の度合の認定が適切に行われる限り、土地の評価方法としても合理的であるということができる。
(二) そこで、本件画地の形状についてみるに、その具体的形状は、別紙図面1のとおりであり、これと取扱要領第九節第8の11(1)「画地(測定)事例」とを比較すれば、そのうち、別紙「画地(測定)事例」記載のとおりのイ「不整形のもの」(イ)におよそ近似した形状をしているものということができる。これに対して、同画地(測定)事例のウ「相当に不整形のもの」、エ「極端に不整形のもの」と比較すると、本件画地は、はるかに不整形の度合いが小さいものといわざるを得ない。
そうすると、本件画地について、「不整形のもの」に当たるとして、不整形地補正率0.90を適用することとしたことは評価基準等に適合するものというべきである。
なお、原告は、本件画地について、相続税における財産評価について定めた相続税財産評価通達に基づいて算定すると、被告の主張するところと異なり、0.9215となると主張して、これに沿う〔証拠略〕を提出するが、右の結果によっても、前記の不整形地補正率0.90よりも補正の割合は小さいのであるから、原告の主張は失当である。
(三) 原告は、前記の取扱要領第九節第8の11(1)「画地(測定)事例」イ「不整形のもの」(イ)には、路地状部分の「間口が狭小でないもの」と付記されているところ、本件画地の正面路線に対する間口は狭小であることから、間口狭小補正率の適用があり、間口が狭小なものというべきであるから、前記の事例には当たらないと主張する。
しかし、別紙「画地(測定)事例」のイ「不整形のもの」(イ)のとおりの形状の土地については、路地状の土地によって路線と沿接する部分の間口距離が極端に小さな場合には、袋地と評価され、袋地補正が適用された上で、主体部分の土地の形状を下に不整形地補正率の適用について判断することになるものであり(取扱要領第九節第8の10(2)イ)、これに対し、間口距離がより大きくなり、袋地と判断されないような場合については、むしろ、その画地全体の形状に従って、不整形の度合いが判断されることから、間口距離が相対的に大きくならない限りは、「不整形のもの」に当たることになるものと解される。
そうすると、「間口が狭小でないもの」との付記の趣旨は、間口が狭小である場合にっいては、「不整形のもの」という以上の補正をすべきことから、これを注意的に記載したものと解することはできず、むしろ、間口が狭小である場合には、袋地評価がされ、不整形を判断する基礎となるのは、主体部分の形状となり、判断が異なることを注意的に記載したものと解するのが相当である。
そして、本件画地には、袋地補正の適用がないことは前記6記載のとおりであるから、本件画地の不整形補正率の適用について判断するに際して、「画地(測定)事例」イ「不整形のもの」(イ)を参照することは、許容されるものというべきである。
8 争点1(八)について
(一) 評価基準は、がけ地等で、通常の用に供することができないものと認定される部分を有する画地については、当該画地の総地積に対するがけ地部分等通常の用に供することができない部分の割合によって、評価基準附表7に規定する「がけ地補正率表」を適用して求めた補正率によって、その評点数を補正することとし(評価基準別表第3の7(3))、右がけ地補正率表によれば、がけ地面積が総地積に占める割合が0.10以上0.20未満については補正率0.95とし、その後、割合が順次高くなるに従って、大きな補正を行うこととし、右の割合が0.90以上の場合は補正率を0.55とする。
一方、取扱要領は、がけ地とは、宅地として使用することができない程度の傾斜地をいうとした上で、「傾斜地」は、<1>高低差が約2メートル以上あること、<2>傾斜が約30度以上あることとし、「急傾斜地」は、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律における急傾斜地崩壊危険区域内にある土地で傾斜が約30度以上あるものとし、それぞれについて、取扱要領付表11のがけ地補正率に規定するところに従い、がけ地の総地積に対する割合に応じた補正率(ただし、がけ地の総地積に対する割合が2割未満であるときには、補正をしない。)を適用することとしている(取扱要領第九節第5の4)。
(二) 右のとおりの評価基準及び取扱要領の定めからすると、評価基準及び取扱要領は、傾斜地であることによって、宅地としての有効利用が阻害され、減価をすべきと考えられる程度の傾斜のある土地を含む土地については、その総地積に占める一定の傾斜のある土地の割合に応じで、減価補正をすることとしたものである。そうであるとすれば、一定程度の傾斜がある土地を含むというわけではないが、当該画地内に段差が存し、有効利用が阻害されるという場合に、かかる要因に伴う減価の補正を、がけ地補正として行うことは予定されていないものといわざるを得ず、右は、がけ地の総地積に対する割合が0に近い場合について、評価基準及び取扱要領が一切補正を要しないとしていることをみても、明らかである。
(三) したがって、本件画地について、がけ地補正を行わないことが、評価基準等の規定するところに適合しないものではない。
9 以上によれば、本件決定は、評価基準等の定めるところには従ったものというべきであり、評価基準等に違反したとの原告の主張はいずれも理由がない。
三 争点2について
1 不動産鑑定士増田浩二が、本件各土地につき、価格時点を平成8年7月1日時点とし、更地としての正常価格を鑑定した結果及びその鑑定手法等については次のとおりである(〔証拠略〕)。
(一) 前記の条件による増田鑑定の現地調査は、平成10年5月2日に行われ、鑑定評価額の決定自体については同月28日に行った。
(二) 対象不動産の位置と地域の概要
(1) 対象不動産は、JR山手線渋谷駅の南方約800メートル、道玄坂と国道246号線が交差する地点に所在しており、その所在する円山町は、やや商業地域の中心部から離れていることから、若干繁華性は低くなっており、同町内の事業も旅館業等サービス業が多い。そして、国道246号線沿いには、高層の店舖事務所ビルが建ち並んでいるが、その背後は、中小規模のホテルや店舖、一般住宅が混在し、街路の配置にやや整然さを欠く地域である。
(2) その地域特性は次のとおりである。
<1> 用途地域 商業地域、防火地域、建ぺい率80パーセント、容積率800パーセント
<2> 供給処理施設 都市ガス、公共下水ともに整備されている。
<3> 最有効使用 高層事務所ビルの敷地
(三) 対象不動産の状況
対象不動産は、国道246号線に接面するものの、渋谷駐車場整備地区の指定内にあるため、対象地に新たに建物を建築する場合、同国道に接する路地状部分は、車の進入路として使用しなければならず、同部分には建物の建築は不可能であり、対象地が同国道に接することによる効果は建築基準法上の容積率の緩和のみで、国道沿いの商業地域としての地域性の影響は希薄である。
そこで、鑑定評価上は、対象地を、基本的には幅員約3メートルの北西側街路に接する画地として評価し、これに、路地状部分を経て国道に接することによる行政上の利点を勘案することが合理的である。
(四) 鑑定評価の方式
(1) 対象地について、幅員約3メートルの舗装道路に接する北西側部分(有効宅地部分)と国道に接する路地状の南東部分とにわけ、それぞれについて取引事例比較法により比準価格を求めた。
(2) 北西側部分(有効宅地部分)について
ア 取引事例比較法に基づく比準価格算定に際しては、同一需給圏内の類似地域における4取引事例(いずれも対象土地から300メートル以内に存する。)を求め、それぞれの取引事例につき、地域格差による補正及び事例地の個別要因の補正を行い、さらに、各事例につき、事情補正、時点修正、対象地の個別格差の補正を行い、その平均値から、103万円(1平方メートル当たり)の比準価格を求めた。なお、対象地は、路地状画地を経て南東側が幅員50メートルの国道に接しているため、対象地上の建築物に適用される容積率は、北西側の幅員3メートルの街路にのみ接する画地と比べて容積率は大きくなり、行政的条件で大きく優れていることから、国土庁土地局地価調査課監修「土地価格比準表」の高度商業地域・準高度商業地域の地域要因比準表における行政的要件の格差率の上限を参考として、対象地と近隣地域内の標準的画地との個別格差をプラス50パーセントであると判断した。
イ さらに、地価公示地(渋谷5―18)の平成8年1月1日時点における地価公示価格124万円(1平方メートル当たり)を基礎として、これに時点修正、地域格差の補正、個別格差の補正を行い、その結果、117万円(1平方メートル当たり)の価格が求められた。
ウ 前記の比準価格と公示価格より求めた価格との間には13パーセント程度の開差があったが、比準価格を5パーセント程度増額修正して108万円(1平方メートル当たり)とすると、公示価格より求めた価格と著しく均衡を失するものではなくなることから、右修正後の108万円(1平方メートル当たり)を鑑定評価額に採用した。
(3) 南東側の路地状画地部分について
ア 南東側の路地状画地部分についても、取引事例比較法に基づく比準価格を算定した。その際には、4取引事例(いずれも対象土地から約1.6キロメートル以内に存する。)を求め、それぞれの取引事例につき、地域格差による補正及び事例地の個別要因の補正を行い、さらに、各事例につき、事情補正(ただし、本件では、いずれも、事情補正の必要はないとされている。)、時点修正、対象地の個別格差の補正を行い、その平均値から、176万円(1平方メートル当たり)の比準価格を求めた。なお、対象地は、路地状画地であって、有効宅地部分への進入用道路として使用されるのみの、その土地上に建築物の建築は不可能な土地であることから、前記の「土地価格比準表」における減価率を参考として、対象地と近隣地域内の標準的画地との個別格差をマイナス50パーセントであると判断した。
イ さらに、地価公示地(渋谷5―1)の平成8年1月1日時点における地価公示価格435万円(1平方メートル当たり)を基礎として、これに時点修正、地域格差の補正、個別格差の補正を行い、その結果、173万円が求められた。
ウ 前記の比準価格と右の公示価格より求めた価格とは、ほとんど一致することから、比準価格を鑑定評価額とした。
(4) 以上を前提とすると、本件各土地の評価額は、本件土地1が、3億8300万円、本件土地2が、8840万円となり、その合計は4億7140万円(1平方メートル当たり116万円)となる。
そして、右の合計額を本件各土地の鑑定評価額とした。
(計算式)
本件土地1
355.09(本件土地1の面積)×108万円≒3億8300万円
本件土地2
50.24(本件土地2の面積)×176万円≒8840万円
(5) なお、対象土地の収益価格について、直接法によって求めたところ、107万円となり、前記の鑑定評価額よりも低額となるが、右の原因は、駐車場設置が義務付けられ、かつ、建物が実質的に国道に面しないことによる賃料収入に制約があり、また、対象土地の建物建築をする上で、その街路の条件が劣っていることから、建物の建築費が高くなるためであると考えられ、本件においては、参考に止めた。
2 増田鑑定が本件各土地の更地としての正常価格を求めた過程は右1記載のとおりであるところ、右の価額決定の手法は、取引事例比較法に基づく比準価格を求め、類似する地域にある地価公示地の地価公示価格を算出した上でこれとの均衡を図って鑑定評価額を決定するとの手法によったものであり、そのほかに、収益還元法による収益価格も算出したが、これについては、前記のとおりの理由から参考の域を出ないと判断したものであるから、右の手法自体が、特段、不合理であるとは認められない。また、取引事例比較法を具体的に適用するに当たっては、各取引事例を選択し、その価格の適正な補正を行って標準的画地の価格を求め、さらに、対象土地である本件各土地の特性に従った補正を行う必要があるところ、右の各点についても、その過程において、特段、不合理と認められる点は存しない。そうすると、増田鑑定は、不動産鑑定評価理論に従った手法を採用しているものということができ、その具体的な適用についても合理的であったというべきである。
3(一) これに対し、被告は、増田鑑定は、本件土地1と本件土地2とを別々に分けて評価し、それを合計しているが、本件各土地は、一画地として評価されるべきものであり、これと異なる右鑑定評価は、評価基準の規定と異なる独自の画地認定に基づいて評価したにすぎないから、増田鑑定に基づく原告の主張はその前提において失当であると主張する。
(二) しかし、一画地認定は、土地の取引価格は、隣接する2筆以上の宅地にまたがり、一個又は数個の恒久的建物があり、当該宅地が一体として利用されているなどの場合には、筆界にかかわらず、その一体をなすと認められる範囲をもって一画地と認定してその価格を評価し、各土地の価格を求めるのが、評価の均衡、公平を図る上で相当と解されることから、その形状、利用状況からして、必要がある場合に限って、一画地としてその後の評価手順を踏むべきことを規定したものであって、一定の期間内に限られた人的資源をもって、極めて大量に存在する課税対象土地の評価を行うことが求められる固定資産の評価方法として合理的であることについては前記のとおりであるとしても、そうであるからといって、様々な形態、利用状況、利用規制の存するあらゆる土地について、その利用状況において一体利用されていると認められた場合には、例外なく一画地であることを前提として評価しなければならないというものではない。
(三) また、増田鑑定は、本件各土地のうち、有効宅地部分(本件土地1)と路地状画地部分(本件土地2)とを分け、それぞれについて、取引事例比較法等に基づく鑑定評価額を算定しているが、前記のとおり、本件各土地は現状において一体利用されているものの、対象地に新たに建物を建築する場合を想定すると、国道246号線に接する路地状部分は、車の進入路として使用しなければならず、同部分には建物の建築は不可能であり、国道沿いの商業地域としての地域性の影響は希薄であると考えられたことから、本件画地については、基本的には北西側街路(二方路線Ⅱ)に沿接しているとして評価しつつ、これに、路地状画地によって国道246号線と接続していることに基づく容積率の緩和を反映させるのが合理的であるとして、有効宅地部分(本件土地1)の価額算定に際しては、路地状画地(本件土地2)を通じて国道246号線に沿接していることによる容積率の向上を勘案しているものであり、さらに、路地状画地部分(本件土地2)は路地状画地としての利用に限定されることから、路地状宅地部分(本件土地2)の価額算定に際しては、本件土地1への通路として利用されることによる減価を勘案した価額を求めたというものであるから、増田鑑定が、本件土地1及び本件土地2を個別に評価した上で単純にこれを合算したとはいえないことは明らかである。
(四) したがって、被告の前記主張は理由がない。
4(一) なお、評価基準によれば、本件画地のように、正面と裏面に路線のある宅地については、その沿接する路線のうち、路線価の高い路線の路線価を基礎としつつ、これに路線価の低い路線の路線価を一定の限度で斟酌する(二方路線影響加算率0.05)との方法が採用されていることは前記のとおりであり、増田鑑定は、本件各土地は基本的に二方路線Ⅱと沿接している土地として評価すべきであるとしているのであるから、この点において、増田鑑定は評価基準とは異なる見解を採用したものともみることができる。
(二)(1) そこで、検討するに、評価基準は路線価の高い路線を正面路線として、この路線価を基礎として当該宅地の価格を評価することとしているが、単に右の手法によるときは、例えば、路線価の高い路線と当該宅地の沿接する距離がわずかであり、その影響が少ないものと判断される場合や、路線価に著しい開きが存する場合についても、一律に高い路線価が正面路線の路線価とされ、この影響を強く受けた評価がされることとなり、実際的には、評価の妥当性を欠く結果となる場合も想定されないではない。そこで、取扱要領は、前記のとおり、路線価の高い方の間口が2メートル未満で、当該画地の状況、形状等から、その路線の影響がほとんどないと認められ、かつ、当該路線に接する宅地との均衡を失しない場合は、それ以外の路線を正面路線とすることができるとして、右の不都合を回避しようとしているものと解される。そうであるとすれば、路線価の高い路線を正面路線とするとの評価基準の定めは土地の評価を行う上で絶対的な要請ということはできないし、かかる評価方法が法律上の要請に基づくものとみるべき根拠もないのであるから、間口が2メートルを超える場合において、具体的状況の下において、その路線の影響がほとんどないとみられるなどとして、不動産鑑定士が路線価の低い方の路線に主に接する土地であると判断したことに対して、合理性を欠くものと即断することはできないというべきである。
(2) そして、本件においては、前記のとおり、不動産鑑定士である増田浩二が、その鑑定において、本件各土地については、国道246号線沿いの商業地域としての地域性の影響は希薄であると判断しているものであり、これに加えて、本件画地のうち、本件土地一部分は、本件土地1上に建築される建物に設置が義務付けられる駐車場への進入路用地として利用されざるを得ないものであること(〔証拠略〕。なお、道路法47条4項、車両制限令5条参照)、本件画地と国道246号線との間口はわずか4メートル程度にすぎないこと、国道246号線から少なくとも11メートル以上離れた位置にしか建築物を建てることができず、しかも、国道246号線からみて、その存在が必ずしも顕著とはいえず、顧客誘引効果においても劣るものと考えられることなどを勘案すると、基本的に二方路線Ⅱに沿接している土地として評価することに合理性がないということはできないものと解され、右の判断を左右するに足る証拠はない。
(3) したがって、基本的に二方跨線Ⅱに沿接する土地として評価したとの点をもって、増田鑑定に基づく鑑定評価の信用性が損われるべきものとは解されない。
5(一) 被告は、増田鑑定は、渋谷駐車場整備地区の指定内にあるというが、駐車場整備地区の規定では、建築物の床面積が2000平方メートル以上あるものについては駐車場を整備しなくてはならないとしているのであり、本件各土地には影響しないことからして、右鑑定評価に基づく原告の主張は失当であると主張する。
しかし、本件画地に係る指定容積率、基準容積率は、800パーセントであり、本件画地の地積が405.33平方メートルであることからすれば、二方路線Ⅱがいわゆる2項道路であり、建築物を新築する際には、セットバックを行う必要があることを考慮したとしても3000平方メートルを超える床面積の建築物を建築することが可能であり(〔証拠略〕)、さらに、前記のとおり、増田鑑定においては、本件各土地の近隣地域の土地の最有効使用は高層事務所ビルの敷地であると判断されているのであるから、駐車場整備地区の指定に基づく効果が本件各土地に影響しないとする被告の主張は理由がない。
(二) また、被告は、増田鑑定が、有効宅地部分(本件土地1)に係る比準価格を算定するに際して、対象地の状況からみて、対象地と標準的画地との個別格差をプラス50パーセントと判断したことにつき、容積率等を勘案するとこれよりも大きな格差率となると思われると主張する。
しかし、増田鑑定は、本件土地2を通じて国道246号線に沿接し、容積率が大きくなることを勘案して、プラス50パーセントという個別格差を認定したものであり、しかも、国土庁土地局地価調査課監修「土地価格比準表」の高度商業地域・準高度商業地域の地域要因比準表における行政的要件の格差率の上限を参考としつつ、これをプラス50パーセントとしたものであるとしており、これが不合理であることを窺わせる点は存しないし、そのほかに、被告の主張するように、個別格差の認定が過小にすぎることを認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告の主張には理由がない。
6 以上によれば、増田鑑定に基づく本件各土地の不動産鑑定評価額は、本件における証拠関係の下では、本件各土地の平成8年7月1日時点の適正な時価を示すものと認められる。そして、平成8年1月1日から平成9年1月1日までの期間について、本件各土地の周辺地域(半径1キロメートル以内)における地価公示価格(商業地)がいずれも下落していたことからすれば(〔証拠略〕)、平成8年7月1日から平成9年1月1日までの期間に本件各土地の地価が下落していたことは明らかであるから、右の鑑定評価額は、少なくとも、平成9年1月1日時点における本件各土地の適正な時価を超える価額であると認められる。
そして、前記のとおり、評価基準等に基づく評価方法は、一定の期間内に限られた人的資源をもって、極めて大量に存在する課税対象土地の評価を遂げなければならないという制約の下で可及的に「適正な時価」に接近するための方法にすぎないものであって、個別鑑定と同程度の高度の正確性が担保されたものとはいうことができないところ、本件においても、本件画地が国道246号線と沿接していることについて、具体的な土地の形状、利用に関する実際上の制限を勘案した上で、どの程度に評価をすべきものかについては、必ずしも評価基準等が適切な定めを置いているともいい難いものであること、標準宅地aと比較して本件画地は具体的な容積率が劣っていることに伴う補正を行う規定がないこと、段差土地についての何らの補正を行う規定が置かれていないことなどの点において、評価基準等に基づく評価が、本件画地に係る個別的な特性を適正に反映させていないのではないかとの疑念があること、増田鑑定に基づく評価額と本件各土地に係る登録価格との間には、ほぼ倍近い開きがあることに照らせば、本件各土地の時価は、増田鑑定に基づく価格4億7140万円と認めるのが相当である。
したがって、右価格を地積に従って配分した結果の価格、すなわち、本件土地1について、4億1297万0730円を上回る価格を登録価格とし、本件土地2について、5842万9270円を上回る価格を登録価格とした点において、本件決定は違法である。
なお、被告は、評価基準による評価に法的拘束力があることを前提として個別鑑定による時価立証は許されないと主張するが、前記一に記載したとおり、法は、登録価格が賦課期日における対象土地の客観的時価を上回ることまでも許容するものではなく、登録価格が賦課期日における対象土地の客観的時価以下でないときは、その限度で登録価格の決定は違法になると解すべきであり、個別鑑定を行うことが許されないとする被告の右主張は採用できない。
四 争点3について
1 調査義務の不履行との主張について
原告は、被告は、本件決定に際し、何らの実地調査もしておらず、本件各土地の評価額算定の根拠となる具体的な資料の検討もしていなかったから、本件決定は違法であると主張する。
しかし、〔証拠略〕によれば、被告は、審査段階において、原告の代理人の地位にあった弁護士山田二郎に対し、平成9年11月28日に、原告を含む審査申出人らの土地(本件各土地を含む。)の実地調査を行うから、立会いを依頼する旨の文書を送付していることが認められるから、被告は、本件各土地の実地調査を行ったものと認められる。また、原告は、実地調査がされたとしても不十分であったとも主張するが、不十分であったことを認めるに足る的確な証拠はない。
また、前記山田弁護士が、被告に対し、弁ばく書と題する書面をもって、東京都知事に対して資料の提出を求め、さらに、見解の明示をするように求めることを要請したところ、東京都主税局資産税部長は「求見解に対する回答」と題する書面や、住宅地図、地籍図、副路線の路線価等算出表などの資料を被告に提出しているから(〔証拠略〕)、かかる資料等を踏まえた上で、被告は、本件決定を行ったものというべきであり、このほか、何ら資料を検討しないなど、実質的に審理をしていなかったことを窺わせる証拠も存しない。
したがって、原告の前記主張は理由がない。
2 口頭審理手続の瑕疵についての主張について
原告は、本件口頭審理手続において、東京都知事側が、本件各土地を一画地とし、正面路線を変更した理由について、抽象的形式的に「利用上一体である」等といった回答をするのみであったにもかかわらず、被告は、適切な回答をすべきとの指揮をせず、その他、審査申出人、市長等の関係者の出席、証言を求め、提出資料の閲覧をさせ、参考人の陳述及び鑑定要求、検証、審尋等の方法で審査資料の収集に努めるなどの手続を十分に履践しなかったから、法が口顧審理手続を設けた趣旨を没却するものであり、違法であると主張する。しかし、〔証拠略〕によれば、東京都知事の吏員は、口頭審理手続において、本件各土地を一画地とし、国道246号線を正面路線とする根拠については、本件各土地の利用実態として、本件ビルの通路として有効に使われていることから、利用上一体というべきであり、その場合、一画地として、評価上の一つの単位として捉えることになり、その結果、本件各土地は、複数の路線に面する土地になるが、取扱要領によれば、正面路線は、路線価の最も高い路線とするとされていることを説明していて、また、本件各土地について、平成9年度の評価替えに当たって、現実の利用形態が変わっていないにもかかわらず、いままで別の画地とされていた本件各土地を同一画地と判断した経緯につき、平成6年度の評価替えに係る被告の決定において、一画地と判断すべきとされたところ、確かに、その実態においても、現実に一体として利用されていたことから、従前は捕捉漏れであったと判断して、前記のとおり同一画地としたと説明しており、右の説明内容に鑑みれば、単に抽象的・形式的な答弁に終始していたとは認められないから、口頭審理手続上の瑕疵が存するから本件決定が違法であるとの原告の、主張は、その前提を欠くものというべきである。
3 以上によれば、本件決定に係る手続に瑕疵があるとする原告の主張は理由がない。
五1 以上によれば、本件決定は、本件土地1について4億1297万0730円を上回る価格を登録価格と認定した点、及び本件土地2について5842万9270円を上回る価格を登録価格と認定した点において違法というべきである。
2 ところで、法は、固定資産税の納税者が、その納付すべき固定資産税に係る資産について固定資産課税台帳に登録された一定の事項について不服がある場合には、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる(法432条1項)とする一方、同委員会は、右申出を受けた場合においては、直ちにその必要と認める調査、口頭審理その他の事実審査を行い、その申出を受けた日から30日以内に審査の決定をし、決定のあった日から10日以内に、申出人及び市町村長に文書をもって通知しなければならないとし(法433条1項、12項(平成11年法律第15号による改正前の法においては同条8項。以下、同じ。))、右の決定に不服がある固定資産税の納税者は、その取消しの訴えを提起できるとしている(法434条1項)。右のとおり、取消訴訟の対象である固定資産評価審査委員会の決定は、固定資産課税台帳に登録された一定の事項についての審査申出人の不服申立てに対する同委員会の応答としてされるものであり、また、右決定において判断された価格は、前記のとおり、基準年度に係る賦課期日における当該固定資産の適正な時価という一個の評価的事実であるから、法は、右価格を可分なものであるとして、その一部に関する部分のみが取消訴訟において争われ、残部が別途に確定するという事態は予定していないというべきである。もし仮に同委員会の決定が可分なものであって、その一部のみの取消しを訴求することが認められるとすると、請求が認容された場合には、同委員会は審査申出に対して応答すべき義務の履行として改めて当該部分についての決定を行うべきこととなるが(行政事件訴訟法33条2項)、その結果、右の新たな決定と訴訟の対象とならなかった決定の残部の両方が存在することとなり、これらの間の論理的な整合も期し難い結果を招来することとなり、実際上も不都合であると解される。
これに対し、判決において決定のうちの価格の一部又は全部を取り消した場合には、その部分については、固定資産評価審査委員会が改めて決定する義務は生ぜず、決定のうち取り消されなかった部分のみの効力が存続すると考える余地もなくはないが、右のような考え方は、行政事件訴訟法33条2項の規定に反するうえ、審理の結果、係争部分の具体的な価格について真偽不明となれば、立証責任の原則に従い、右請求に係る部分の価格全部を取り消すべきこととなり、改めて同委員会の決定も行われないため、右の係争部分の価格は零円として薙定することになると解さざるを得なくなるが、そのような結果が不合理であることは明らかであり、右の考え方を採用することはできない。
むしろ、法は、固定資産評価審査委員会の決定については、市町村長に対しても、右決定を文書をもって通知するものとし(法433条12項)、市町村長は、その結果、既に固定資産課税台帳に登録された価格等を修正する必要があるときは、右通知を受けた日から10日以内にその価格等を修正して登録し、その旨を当該納税者に通知すべきものとしたほか(法435条1項)、同項の規定によって価格等を修正した場合においては、市町村長は、固定資産税の賦課後であっても、その修正した価格等に基づいて既に決定した賦課額を更正すべきことを義務づけている(同条2項)が、判決の結果に基づいて、直ちに市町村長が固定資産課税台帳に登録された価格等を修正すべき事態が生じることを予定した規定は設けられていないことからすれば、法は、取消訴訟において固定資産評価審査委員会の決定のうち価格の認定に誤りがあると判断された場合には、改めて同委員会による決定がされることを前提としているというべきである。
ちなみに、固定資産評価審査委員会の決定が不可分であると解した場合、同委員会が認定した価格が「適正な時価」を上回るとして同委員会の決定を取り消す旨の判決がなされ、その理由中で「適正な時価」が具体的に認定判断されているときには、同委員会は、右判断の拘束を受けたうえで、改めて決定を行うべきこととなる。
3 そうであるとすれば、1に摘示した違法事由の存在は、本件決定の全部の取消事由であると解すべきであるから、原告の本訴請求は理由がある。
六 よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 阪本勝 村松秀樹)
別紙〔略〕