東京地方裁判所 平成10年(行ウ)144号 判決 2001年2月13日
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、四〇七一万七七七〇円及びこれに対する平成八年二月一日から年七・三パーセントの割合による金員を支払え。
第二事案の概要
租税特別措置法四〇条一項後段に規定する公益を目的とする事業を営む法人に対して贈与を行った原告が、所得税法五九条一項一号の適用を受けない前提で所得税の確定申告をしたところ、いまだ租税特別措置法四〇条一項後段に規定する国税庁長官の承認決定がされていないとして、西新井税務署長から所得税法五九条一項一号の適用を前提とした更正処分等をされたことから、原告は、右更正に基づく所得税本税及びこれに対する過少申告加算税並びに延滞税を納付した。
本件は、その後、国税庁長官の承認決定がなされ、これに基づく減額更正がされて、右の各納付税額が還付されたものの、還付加算金は付されなかったことから、原告が、被告に対し、主位的に、前記の更正処分等は無効であり、また、納付時においては延滞税は発生していなかった等として、納付時からの還付加算金の支払を求め、予備的に、原告は、被告の担当職員から還付加算金が支払われるとの虚偽の説明を受けて納付したものであるから、少なくとも、納付時からの還付加算金と同額の損害を被ったとして、国家賠償法に基づき、損害賠償を請求している事案である。
一 法令の定め
1 所得税法五九条一項一号のみなし譲渡課税の特例規定
(一) 法人に対する贈与又は相続若しくは遺贈により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じたときに、そのときにおける価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなされる(所得税法五九条一項一号)。
(二) しかし、国又は地方公共団体に対し財産の贈与又は遺贈があった場合には、所得税法五九条一項一号の規定の適用については、当該財産の贈与又は遺贈がなかったものとみなされるところ(租税特別措置法(以下「措置法」という。)四〇条一項前段)、民法三四条の規定により設立された法人その他の公益を目的とする事業を営む法人に対する財産の贈与又は遺贈で当該贈与又は遺贈が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することその他の政令で定める要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたものについても、所得税法五九条一項一号の規定の適用については、当該財産の贈与又は遺贈がなかったものとみなされる(措置法四〇条一項後段)。
(三) 右の措置法四〇条一項後段の規定に該当する贈与又は遺贈として、国税庁長官の承認を受けるための要件は、次のとおりである。
(1) 措置法四〇条一項後段の規定の適用を受けようとする者が、当該贈与又は遺贈により財産を取得する法人の事業の目的、当該贈与又は遺贈に係る財産その他大蔵省令で定める事項を記載した申請書に当該申請書に記載された事項が事実に相違ないことを当該法人において確認した書面を添付して、当該贈与又は遺贈のあった日から三箇月以内に、納税地の所轄税務署長を経由して、国税庁長官に提出していること(租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)二五条の一七(ただし、昭和五七年六月三〇日時点においては二五条の九。以下同じ。)第一項)
(2) 当該贈与又は遺贈が、民法三四条の規定により設立された法人その他の公益を目的とする事業を営む法人に対する財産の贈与又は遺贈に該当すること(措置法四〇条一項後段)
(3) 当該贈与又は遺贈が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与すること(措置法四〇条一項後段、措置法施行令二五条の一七第二項一号)
(4) 当該贈与又は遺贈に係る財産が、当該贈与又は遺贈のあった日以後二年以内に、当該財産を受けた法人の当該贈与又は遺贈に係る公益を目的とする事業の用に供され、又は供される見込みであること(措置法施行令二五条の一七第二項二号)
(5) 当該贈与又は遺贈をすることにより、当該贈与者若しくは遺贈者の所得に係る所得税の負担を不当に減少させ、又は当該贈与者若しくは遺贈者の親族その他これらの者と相続税法六四条一項に規定する特別の関係がある者の相続税若しくは贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないこと(措置法施行令二五条の一七第二項三号)
(四) 国税庁長官は、当該贈与又は遺贈に係る財産が当該財産を受けた法人の当該贈与又は遺贈に係る公益を目的とする事業の用に供されないこととなったとき等の場合には、いつでもこの承認を取り消すことができる(措置法四〇条二項)。
2 還付加算金の計算始期の特例
(一) 更正決定等に基づいて納付した国税に係る過納金については、原則として、納付の日の翌日から還付金に還付加算金を付され(国税通則法(以下「通則法」という。)五八条一項一号)、無効な更正決定等に基づいて納付した国税に係る誤納金については、原則として、誤納の日の翌日から起算して一月を経過する日の翌日から付される(同項三号、国税通則法施行令(以下「通則法施行令」という。)二四条二項五号)が、課税標準の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたこと、当該事実のうちに含まれていた取り消し得べき行為が取り消されたことその他これらに準ずる政令で定める理由に基づきその国税について更正(更正の請求に基づく更正を除く。)が行われたときは、その更正により過納となった金額に相当する国税(その附帯税で当該更正に伴い過納となったものを含む。)については、その更正があった日の翌日から起算して一月を経過する日の翌日からその還付のための支払決定の日又はその充当の日までの期間の日数に応じた還付加算金を、還付金等に加算しなければならない(通則法五八条五項、同条一項)。
(二) これを受けて、平成一一年政令第一二二号による改正前の通則法施行令二四条五項(以下、本条項については、いずれも右改正前の通則法施行令二四条五項をいうものとする。)は、右の「その他これらに準ずる政令で定める理由」を通則法二三条二項一号及び三号の規定により更正の請求の基因とされている理由と定めている。
右通則法二三条二項一号は、「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」と、同項三号は、「その他当該国税の法定申告期限後に生じた前二号に類する政令で定めるやむを得ない理由があるとき」とそれぞれ規定するところ、右三号の規定を受けて、通則法施行令六条一項一号は、右のやむを得ない理由を、その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた行為の効力に係る官公署の許可その他の処分が取り消されたことと規定している。
二 前提となる事実(証拠によって認定した事実はその末尾に証拠番号を掲記した。その余の事実は当事者間に争いがない。)
1 原告は、昭和五七年六月三〇日、原告が所有する不動産及び現金四八万円を財団法人金萬有科学振興会に対して寄附(贈与)したこと(以下、右の不動産を「本件不動産」といい、右の寄附を「本件寄附」といい、本件不動産の寄附については「本件不動産寄附」という。)について、本件寄附は公益を目的とする事業を営む法人に対する財産の寄附(贈与)であり、措置法四〇条一項後段の規定により所得税法五九条一項一号の規定の適用を受けない寄附(贈与)に該当するものであるとして、右の規定に係る承認申請書(以下「本件承認申請書」という。)を西新井税務署長を経由して国税庁長官に対して提出した(以下「本件承認申請」という。)。
2 原告は、措置法四〇条一項後段に規定する国税庁長官の承認を受けていなかったが、昭和五八年三月一一日、本件不動産寄附を所得税法五九条一項一号の規定の適用を受けない寄附(贈与)に該当するものとして作成した原告の昭和五七年分の所得税の確定申告書を西新井税務署長に提出した。
3 国税庁長官は、本件寄附が本件承認申請に基づいて措置法四〇条の規定に該当する寄附(贈与)か否かを検討した結果、本件不動産寄附に関しては、措置法四〇条他の規定が定める要件に該当しないと認め、原告に対して是正指導をしたところ、原告は右是正の指導に対し、右指導内容に沿って是正する旨回答したので、国税庁長官は、本件承認申請に対する判断を留保した。
4 西新井税務署長は、昭和六一年三月五日、通則法二四条に基づき、原告に対し、本税の額を六二六七万五〇〇〇円とする更正処分及びこれに対する過少申告加算税賦課決定(過少申告加算税額を三一三万三五〇〇円とする。)を行った(以下、右の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を併せて「本件更正等」という。)
5 東京国税局長は、原告が本件更正等に係る国税について納付を行わなかったため、昭和六一年六月二三日、通則法四三条三項の規定に基づき、西新井税務署長から本件更正等に係る国税の徴収を引き継いだ。
6 東京国税局長は、昭和六三年五月二〇日、原告が所有する不動産を差し押さえた。
7 原告は、平成三年四月八日までの間に、次のとおり、本件更正等に係る国税を、全額納付した(以下「本件各納付」という。)。
① 五三万一三七七円
原告の申告所得税に係る還付金の昭和六二年三月九日付け充当処分(本税に充当)
② 一四四万〇六〇一円
原告の申告所得税に係る還付金の昭和六三年二月二九日付け充当処分(本税に充当)
③ 一億一二九二万八〇二二円
残本税六〇七〇万三〇二二円、過少申告加算税三一三万三五〇〇円及び延滞税四九〇九万一五〇〇円を平成三年四月八日に納付(以下、これらの各金員を総称して「本件納付金」といい、そのうち、延滞税四九〇九万一五〇〇円については「本件延滞税」という。)
(甲五の二、同六、同八の一、同一〇)
8 前記の差押えは、平成三年四月八日、解除された。
9 国税庁長官は、平成七年一二月一四日、本件承認申請について承認する旨の通知を行った(以下、右の承認を「本件承認決定」という。)。
10 西新井税務署長は、平成八年一月二二日、原告の昭和五七年分の所得税につき、減少する本税の額六二六七万五〇六二円とする減額更正及び減少する過少申告加算税の額三一三万三五〇〇円とする加算税変更決定を行い(以下、右の減額更正を「本件減額更正」といい、加算税変更決定と併せて「本件減額更正等」という。)、東京国税局長は、平成八年一月三一日、本件減額更正によって発生した還付金として、所得税本税六二六七万五〇六二円、過少申告加算税三一三万三五〇〇円、延滞税四九〇九万一五〇〇円の合計金一億一四九〇万〇〇六二円(以下「本件還付金」という。)を原告に還付した。
(甲一、同二の一及び二)
三 当事者双方の主張
(原告の主張)
1 還付加算金請求権(主位的請求)
(一) 国税庁長官が承認の許否を決しない間の課税処分の可否について
(1)ア 措置法四〇条一項前段は、国又は地方公共団体に対する贈与等をした場合には、贈与等がなかったものとみなすこととし、同項後段は、民法三四条により設立されたいわゆる公益法人で国税庁長官の承認した法人に対する贈与などについても、贈与がなかったものとみなすこととしているところ、右措置法四〇条一項後段の括弧書き(「当該法人を設立するためにする財産の提供を含む。」)によれば、財産の贈与には、当該法人を設立するためにする財産の提供を含むものと解される。
イ また、措置法四〇条一項後段に該当するものとして、所得税法五九条一項一号が適用されないこととなる場合であっても、その後、措置法四〇条二項に規定する事実が生じたときは、国税庁長官は承認を取り消すことができ、国税庁長官がこれを取り消すと、その取消しのときに贈与などがあったものとして取り扱われる。
(2)ア このような措置法四〇条の規定は、設立準備中の公益法人への贈与などについても、贈与等がなかったものとみなすこととしているが、国税庁長官の承認は同時に得られるものではなく、財産提供行為の後になって承認が得られるものであることからすると、国税庁長官への承認申請と、それに対する国税庁長官の承認の許否に係る決定との間に時間的な間隔の存することは、当然のことであるから、前記の括弧書き部分と「国税庁長官の承認があった場合」とは矛盾することとなる。
イ しかし、括弧書き部分を優先して、設立準備中の公益法人については国税庁長官の承認をしないことの決定をもって課税関係が生じるものとして措置法四〇条を解釈すると、措置法四〇条二項以下が容易に理解できる。
すなわち、措置法四〇条二項は、いわゆる公益法人への贈与等があったが、その後、贈与財産等が当該法人の公益事業目的に供されていないときについて定めているものと解される。
そして、措置法四〇条三項は、国税庁長官が設立準備中であった公益法人を承認したとき又は承認をしないことの決定をしたときはその決定を、またすでに承認していたがこれを取り消したときはその旨を、承認申請者あるいは既に承認を受けている者に通知しなければならないとしているが、その規定は同条一項、二項と大きな関連を有している。
措置法四〇条四項は、設立準備中の公益法人について、国税庁長官への承認申請をしていたところ、国税庁長官が承認をしないことの決定をしたときの所得税課税につき、右決定時において贈与などがあったものとして課税処分を行うこととし、同時に通則法六〇条二項の処理方法を定めたものである。
つまり、措置法四〇条四項は、設立準備中であった公益法人に対する贈与又は遺贈に係る同条一項後段の申請を国税庁長官に対して行ったとき、承認の許否が未定でありながら、当該公益法人に対し贈与等をした場合について、国税庁長官がその後承認をしないことの決定をしたときは、延滞税は、通則法六〇条二項にかかわらず、承認をしないことの決定の通知日の翌日から完納する日までとされている。
このことは、その時点で課税処分を行うことを当然の前提としているからである。また、このように解することによって、公益法人の成立を助長させ、社会的利益に資することにもなる。
なお、「租税特別措置法第四〇条第一項後段の規定による譲渡所得等の非課税の取扱いについて」(昭和五五年直資二―一八一。以下「措置法四〇条通達」という。)の一五は、措置法施行令二五条の一七第二項各号に規定する要件に該当するか否かについて、その承認の申請につき、承認をしないことを決定した旨の通知をする時までに、当該法人の組織、寄附行為などを変更すること等により当該各号に定める要件に該当することが明らかにされた場合には、当該贈与又は遺贈は、当該各号に定める要件に該当するものとして取り扱うこととされており、右によれば、承認の許否が決せられるまでは課税処分を見送り、その結果をみて課税処分をするというのが実務であるものと解され、それは、承認申請後の事情も加えて判断しなければ、承認の許否を決せられないことによるものであって、その間に課税処分がされるとすれば、財産提供者は不利益を被るというべきである。
ウ そこで、当該法人を設立するための財産の提供をした場合において、国税庁長官が承認をしないことの決定をしたときは、右決定の時点で贈与などがあったものとして課税処分を行うことになる(措置法四〇条二項類推適用)。
もし、そのように解しないとすると、設立中の法人に財産提供行為をすると、国税庁長官の承認がなされる以前に、課税処分がなされる危険が常にあることとなるからである。
(3) 以上によれば、本件更正等は、いまだ国税庁長官の承認をしないことの決定がなされていないにもかかわらず、贈与があったものとして、所得税等の課税をするものであるから、違法というべきであり、かつ、その瑕疵は重大かつ明白である。
(二) 本件延滞税の不発生
措置法四〇条四項は、「第一項後段の承認をしないことの決定があった場合には、その者の納付すべき所得税の額で当該処分に係る財産の贈与又は遺贈に係るものとして政令で定めるところにより計算した金額についての国税通則法第六〇条二項の規定の適用については、同項本文に規定する期間は、同項の規定にかかわらず、当該承認をしないことの決定の通知をした日の翌日から、当該金額を完納する日までの期間とする。」と定めている。
右は、国税庁長官の承認がなされたときは、延滞税は、当然課税されないのであるから、承認しないときでさえも、その決定を通知した日の翌日からしか延滞税が課税されないことを、明文をもって定めたものである。
したがって、本件各納付時において、承認をしないことの決定はされていなかったから、その当時、延滞税は一切発生していなかったものというべきである。
(三) 還付加算金の計算期間の始期について
本件は、通則法施行令六条一項一号の規定する「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた行為の効力に係る官公署の許可その他の処分が取り消された」との場合には当たらないというべきである。
すなわち、本件は、国税庁長官の承認がなされたことにより、還付がなされることとなったものであり、何らの処分もされていないし、処分の取消しもされていないから、右の通則法施行令六条一項一号の規定に該当しない。
それにもかかわらず、これに該当するとする被告の主張は、通則法施行令の文理上の限定を全く無視した解釈であって、失当である。
したがって、原則どおり、通則法五八条一項に従って、納付があった日から還付加算金を算定すべきである。
(四) 以上によれば、
① 本件更正等は違法であり、かつ、右の瑕疵は、重大かつ明白というべきであり、また、本件延滞税については、そもそも納税義務が発生していないのであるから、本件納付金は誤納金に当たり、通則法五八条一項により、納付があった日から、別紙「還付加算金の請求内訳」記載のとおりの還付加算金が付されるべきであり、
② 仮に、そうでないとしても、本件納付金は過納金に当たるところ、本件は、通則法施行令六条一項一号に当たらず、通則法五八条五項が適用される場合でないから、同条一項に従って、納付があった日から、別紙「還付加算金の請求内訳」記載のとおりの還付加算金が付されるべきであるにもかかわず、被告は、原告に対し、右還付加算金をいまだに還付していない。
(五) よって、原告は、被告に対し、右還付加算金の残金四〇七一万七七七〇円及びこれに対する還付金の支払日の翌日である平成八年二月一日から通則法所定の年七・三パーセントの割合による還付加算金の支払を求める。
2 国家賠償法に基づく損害賠償請求権(予備的請求)
(一) 本件の経過
(1) 措置法四〇条にかかわる問題は、財団法人設立時の基本財産の取扱いにあり、その課税原因の解消については、国税庁直税部資産税課の意向に沿って修正することを条件として、既に合意がされていた。
(2) 昭和六一年六月二三日、東京国税局徴収部特別整理第五部門のAから土地譲渡税納入督促状が送られてきた。
(3) その後、東京国税局から差押書が送られてきたが、それに対し、原告は、昭和六三年七月一八日付けで差押に対する異議申立てを行った。
これに対し、東京国税局のCから異議申立ての取下げの依頼を受けた。その際に、原告は、本件の解消には、今しばらく日時が必要であると説明をし、この点を了承してもらうことを前提にして、昭和六三年一〇月六日付けで取下依頼書を送付した。
(4) ところが、その後、A氏の連絡では、異議申立ては取り下げられているので公売予告をするとし、平成元年三月一日付け公売予告通知書が送付されてきた。それに対し、原告側では、事情説明書を提出したが、平成二年二月二日に再び公売予告通知書が送付されてきたので、原告は、再び、公売予告通知書に対する事情説明書を提出した。
(5) そして、平成二年一二月中旬ころ、東京国税局徴収部特別整理第五部門総括主査Bが、原告に対し、一時課税全額を納付した後に、諸条件を整え、全額還付請求をする方式も検討して欲しいと要請した。原告は、課税全額を納付する場合、銀行からの借入れで支払うので、利息についてはどうなるのか尋ねたところ、同人から、還付加算金については課税金を納付した日から計算して支払うとの説明をされ、同人との間で合意をした。
(6) 原告は、平成三年四月二日、東京国税局徴収部特別整理第五部門に課税金全額を小切手にて納付する際、Bに還付加算金について再度確認をしたところ、必ず還付加算金を付けて返還するとの説明を受け、合意をしている。
(7) しかし、平成八年一月三一日、本件還付金を返還されたものの、還付加算金が付されていなかった。
(二) 以上のように、原告は、被告の担当者である東京国税局徴収部特別整理第五部門総括主査Bから、還付をするときには、還付加算金を、納付した日から計算して支払うと積極的に告げられ、かつ、約束をされたため、納付をしたものである。
しかし、本件は、結局のところ、本税、加算税、延滞税のいずれについても納付義務がなかったものであるから、結果的には納税をする必要がなく、資金を借り入れて納税する必要もなかったものであって、しかも、本件について還付加算金が発生しないのであれば、被告の担当者は原告に虚偽の事実を告げるとの違法行為を行ったものというべきである。また、本件においては違法な差押えがなされ、納税を強要されたものであり、もし、納税をしなければ公売処分をされることとなるから、これを防ぐために納税をせざるを得ない状況にあった。
そこで、原告は、右の虚偽説明を信用して、借入れをして、本件納付金を納付したのであり、その金利は相当額に上るものであるから、納付後還付されるまでの期間に係る還付加算金の利率による遅延損害金相当額の損害があることは明らかである。
そして、還付時の遅延損害金相当金が残元本として残っているものであり、右の残元本に還付時以降の還付加算金の利率による遅延損害金が付加されるものである。
(三) よって、原告は、被告に対し、予備的に、右損害金四〇七一万七七七〇円及びこれに対する平成八年二月一日から年七・三パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
1 本件還付金に還付加算金が付されなかったことについて
(一) (1) 通則法七〇条二項一号は、法定申告期限から五年以内でなければ税額を減少させる更正をすることはできない旨規定しているところ、通則法七一条二号は、課税の適正を期するため、一定の事由が生じたときは、右規定の期間にかかわらず、それらの事由が生じた日から三年間減額更正ができることを規定しており、同規定における一定の事由については、政令で定める理由であるとされているところ、通則法施行令三〇条は、その理由を通則法施行令二四条五項に規定する理由としているから、通則法施行令六条一項一号に規定する理由は、前記の一定の事由に該当することとなる。
(2) 本件更正等は、本件不動産寄附について措置法四〇条一項後段に係る本件承認申請が承認されないことから、本件不動産寄附が所得税法五九条一項一号に該当するものとして所得税法三三条に規定する所得税を課すべく行われたものであるところ、本件減額更正は、その後、本件承認決定がされ、これにより、本件更正の計算の基礎となった所得税法五九条一項一号が適用される本件不動産寄附がなかったものとみなされる(措置法四〇条一項)ことになった結果行われたものであるから、通則法施行令六条一項一号に該当する。
そして、通則法施行令六条一項一号に該当する場合には、後発的事由に基因してなされた減額更正により過納金が発生したことになる(通則法五八条五項)。
(3) したがって、本件減額更正は、昭和五七年分の所得税確定申告に係る法定申告期限である昭和五八年三月一五日から一〇年以上経過した平成八年一月二二日に、通則法施行令六条一項一号に規定する理由に基づいて行われたものであり、本件減額更正に基づき発生することとなった本件還付金については、通則法五八条五項に規定する後発的事由に基因してされた減額更正により過納金が発生した場合に当たるから、右の規定により減額更正があった日の翌日から起算して一月を経過する日の翌日から還付加算金を付すことになる。
そして、本件還付金は、本件減額更正が行われた日である平成八年一月二二日の翌日から起算して一月以内の同月三一日付けで還付されているのであるから、本件還付金には還付加算金は付されないこととなる。
(二)(1) これに対し、原告は、措置法四〇条一項については、括弧書き部分を優先して、設立準備中の公益法人については国税庁長官の承認をしないことの決定をもって課税関係を生じるものと解すべきであると主張するが、同条はその文言からして右のように解釈する余地はない。また、措置法四〇条一項後段に係る承認申請は、その承認又は承認をしないことの決定を原因としてのみ課税関係が終了するものではなく、申請者自らがその承認申請を取り下げることで終了することもあるのであるから、この点からしても、原告の主張は失当である。
(2) 原告は、本件延滞税を併せて納付させられたことが、措置法四〇条四項の規定に違反すると主張する。
しかし、措置法四〇条四項は、国税庁長官が措置法四〇条一項後段の承認をしないことの決定を行った場合に、国税庁長官が当該承認をしないことの決定の通知をした日の翌日から当該金額を完納する日までの期間についてのみ通則法六〇条所定の延滞税を納付すべき旨を定めているところ、本件更正は、本件不動産寄附について措置法四〇条一項後段に係る本件承認申請が承認されていないことから、本件不動産寄附が所得税法五九条一項一号に該当するものとして所得税法三三条に規定する所得税を課すべく、通則法二四条の規定に基づき行われたものであって、措置法四〇条一項後段の承認しないことの決定があったことにより行われたものではないから、原告の主張は失当である。
(三)(1) また、原告は、本件は、通則法施行令六条一項一号の規定に該当しないものであり、これに該当すると解することは、通則法施行令の文理上の限定を全く無視した解釈であって、失当であると主張する。
(2) 本件更正の課税要件事実は、本件不動産寄附の存在であるが、本件不動産寄附は、措置法四〇条一項に該当する贈与又は遺贈であるか否かによって所得税法五九条一項一号に該当するか否かが定まるものであるところ、西新井税務署長は、本件不動産寄附を措置法四〇条一項に該当する贈与又は遺贈ではなく、所得税法五九条一項一号に該当する贈与又は遺贈であると認定した。
一方、本件減額更正は、本件承認申請が承認されたことから、前記のとおり、通則法施行令六条一項一号に該当するものとして行われたものであるところ、右申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実とは、課税要件事実、すなわち本件減額更正にあっては本件不動産寄附の存在であり、右事実のうちに含まれていた行為の効力とは、本件不動産寄附が所得税法五九条一項一号に該当する寄附(贈与)として有効であるということであり、右効力に係る官公署の許可その他の処分とは、本件不動産寄附が措置法四〇条一項に該当する寄附(贈与)ではないと認定されたことである。そして、右の本件不動産寄附が措置法四〇条一項に該当する寄附(贈与)ではないとの認定は、本件承認申請が承認されていないことからなされたものであるところ、本件承認申請が承認されたことにより、そのような認定の根拠が失われ、所得税法五九条一項一号に該当する寄附(贈与)として有効であった本件不動産寄附がなかったことになるのである。
なお、租税法の解釈は原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されないものであるが、文理解釈によって規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合には、規定の趣旨目的に照らしてその意味内容を明らかにしなければならないところ、通則法施行令六条一項一号が官公署の許可等の取消しを通則法二三一条二項三号のやむを得ない事由とした趣旨は、行為の効力に係る官公署の許可等の処分に基づいて課税の基礎となる事実が構成され、更にその事実に基づいて確定申告などがなされた場合において、その後その官公署の許可等の処分が取り消され、その取消後の事実に基づいて計算すると税額が申告額より過大となる場合には、その課税の基礎となる事実そのものが存在しなくなって、結果として納付すべき税額が当初から過大であったということになり、遡って税額の減額等をなすべきこととなるからであり、通則法施行令六条一項一号の規定を解釈するに当たっては、右趣旨に沿った解釈をすべきである。
そして、そのように解すれば、通則法施行令六条一項一号が定める「官公署の許可その他の処分」が官公署の許可処分に限定されるものではなく、「取り消されたこと」が取消処分に限定されるものではないことは明らかである。
したがって、本件は、通則法施行令六条一項一号に該当し、後発的事由に基因してなされた減額更正により過納金が発生したことになる(通則法五八条五項)ものというべきであり、原告の主張は失当である。
2 国家賠償法による損害賠償責任(予備的請求)について
原告は、本件更正等に係る国税について、結果的に納付する必要がなかったのにもかかわらず、税務署職員の還付加算金が付されて還付されるとの納付の慫慂によって納付させられたことにより、損害が発生したと主張する。
しかし、前記のとおり、本件更正等は適法であり、延滞税も発生しているものであるから、原告は、本件更正等により原告が新たに納付すべきこととなった税額が具体的に確定した当初から、納税義務を負っていたものであり、本件承認決定がされたことによって行われた本件減額更正により、結果的には納税をしないのと同様の効果が生じたとしても、右により、本件各納付の際にその必要がなかったこととなるものではない。
したがって、納税義務がなかったことを前提として、借入れに係る利子相当額の損害賠償請求権がある旨の主張は失当である。
四 争点
以上によれば、本件の争点は、以下の各点にある。
1 還付金加算金の還付請求(主位的請求)関係
(一)(1) 本件更正等が違法であり、かつ、その瑕疵が重大かつ明白であるために、無効であるか否か。
(2) 原告には、本件延滞税の納付義務が発生していなかったといえるか否か。
(二) 国税庁長官が本件承認決定を行ったことが「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた行為の効力に係る官公署の許可その他の処分が取り消されたこと」(通則法施行令六条一項一号)に当たるか否か。
2 国家賠償請求(予備的請求)関係
被告の担当者である東京国税局徴収部特別整理第五部門総括主査Bが、還付をするときには、還付加算金については納付した日から計算して支払うと告げて、納税を慫慂したことが、国家賠償法上違法であり、これによって、原告が損害を被ったといえるか否か。
第三当裁判所の判断
一 争点1について
1 争点1(一)について
(一) 争点1(一)(1)について
(1) 原告は、措置法四〇条一項後段に規定する国税庁長官の承認の許否が決される以前においては、所得税法五九条一項一号のみなし譲渡課税規定の適用を前提とした課税処分を行うことは許されないと主張するので、以下、まず、この点を検討する。
(2) 所得税法五九条一項一号は、法人に対する贈与又は相続若しくは遺贈により、譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、その者の一定の所得の金額の計算については、その事由が生じたときに、そのときにおける価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなされると規定する。
しかし、右のみなし譲渡課税の規定には、措置法四〇条一項に特例が設けられており、同項後段においては、民法三四条の規定により設立された法人その他の公益を目的とする事業を営む法人に対する財産の贈与又は遺贈で当該贈与又は遺贈が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することその他の政令で定める要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたものについては、所得税法五九条一項一号の規定の適用については、当該財産の贈与又は遺贈がなかったものとみなされる。
また、措置法四〇条二項は、当該贈与又は遺贈のあった後に、当該贈与又は遺贈に係る財産が、当該財産を受けた法人の当該贈与又は遺贈に係る公益を目的とする事業の用に供されないこととなったとき等の場合には、いつでもこの承認を取り消すことができることとし(同項前段)、その場合には、その承認が取り消された時において、政令で定めるところにより、同項に規定する承認又は贈与があったものとみなす旨を定めている(同項後段)。
そして、同条三項は、承認をしたとき、若しくは承認をしないことを決定したとき、又は当該承認を取り消したときにおける、国税庁長官の当該承認申請者等に対する通知義務を規定し、さらに、同条四項は、承認をしないことの決定があった場合には、その者の納付すべき所得税の額から承認があったものとした場合における納付すべき所得税の額を控除した金額(措置法施行令二五条の一七第七項)についての通則法六〇条二項の規定(延滞税の額についての規定)の適用は、同項本文に規定する期間は、同項の規定にかかわらず、当該承認をしないことの決定の通知をした日の翌日から当該金額を完納する日までの期間とすると定める。
(3) 以上によれば、措置法四〇条一項後段は、一定の条件を満たす公益を目的とする事業を営む法人に対する贈与又は遺贈については、国税庁長官の承認があった場合には、所得税法五九条一項一号に規定するみなし譲渡課税の規定の適用につき、当該財産の贈与又は遺贈がなかったものとみなすこととして、右規定の特例を定めたものであり、他方、承認をしないことの決定があった場合にも、当該財産の譲渡があったとみなして計算した所得税の納付すべき税額と譲渡がなかったとして計算した所得税の納付すべき税額との差額に係る延滞税の計算につき、前記のとおりの特例により、承認をしないことの決定の通知がされるまでの期間については、計算の基礎から除くことを定めたものと解するのが、措置法四〇条の文理に適合するものと解される。
(4) そうすると、措置法四〇条の文言に従えば、国税庁長官の承認決定又は承認をしないことの決定がされていない段階においては、所得税法五九条一項一号に規定するみなし譲渡課税の規定の適用については、当該財産の贈与又は遺贈がなかったものとみなすことはできず、これがあることを前提として、みなし譲渡課税の規定が適用されるものと解するほかないものであり、その適用を前提とした更正決定、各種加算税の賦課決定を行うことが違法ということはできない。
(5) これに対し、原告は、国税庁長官の承認の許否が未定の間は、贈与又は遺贈があったことを前提とする課税関係は成立しないと主張し、その根拠として、設立準備中の公益法人へ贈与などをした場合には、国税庁長官の承認は財産提供行為の後になって得られるものであるから、設立準備中の公益を目的とする事業を営む法人への贈与又は遺贈についても措置法四〇条一項の規定する遺贈又は贈与に含むと規定した措置法四〇条一項中の括弧書き部分と、「国税庁長官の承認があった場合」とが矛盾すると主張する。
確かに、措置法四〇条一項の括弧書き部分によれば、財産の贈与又は遺贈には、当該法人を設立するためにする財産の提供を含むとされていることからも明らかなように、財産の贈与又は遺贈が、国税庁長官の承認に先だってなされる場合が存することは措置法において、当然に予定されているところである。
しかし、措置法四〇条一項は、国税庁長官が承認をした場合については、所得税法五九条一項一号との関係においては、当該贈与又は遺贈がなかったものとみなすこととして、かかる贈与又は遺贈については、みなし譲渡課税を行わないとするものであり、承認をしないことの決定がされた場合について延滞税に係る特例を規定しているものの、承認決定又は承認をしないことの決定がなされていない段階においては、課税を留保すべき旨の規定などはおかれていないから、右の段階においては、所得税法五九条一項一号のみなし譲渡課税の規定の適用を受けるものと解するほかはないというべきである。そして、このように解したとしても、当該財産が贈与又は遺贈されてから、承認がされるまでに、長期間が経過したときにも、みなし譲渡課税の適用を前提とした課税関係を形成させ、事後的に、承認がされた場合については、それまでに生じた課税関係を承認決定がされたことに従って覆滅させることが予定されているのであるから、措置法四〇条一項が、それ自体、矛盾した規定であるとはいうことができない。
また、原告は、措置法四〇条四項をもって、国税庁長官が承認の許否を決したときから課税関係が発生すると解すべき根拠となると主張する。
しかし、所得税法五九条一項一号の適用を前提としない期限内申告がされた後に、その適用を前提とする更正決定がされた場合についていえば、通則法六〇条一項二号に基づき、更正通知書に記載された更正により納付すべき税額に係る延滞税を納付すべき義務が発生し、その額については、同条二項により、当該国税の法定納期限の翌日からその国税を完納する日までの期間の日数に応じた一定額とされるのが原則であるところ、措置法四〇条四項は、承認をしないことの決定がされ、法人に対する贈与又は遺贈がなかったものとはみなされず、所得税法五九条一項一号のみなし譲渡課税の規定が適用されることとなった場合については、右の特例として、承認をしないことの決定の通知がされるまでの期間については延滞税の額の計算の基礎となる期間から除かれることを規定したものと解すべきであるが、右の規定がおかれているからといって、承認の許否が決せられるまでの期間、課税関係が成立しないとまで解することは困難である。
さらに、原告は、措置法四〇条通達の一五によれば、措置法施行令二五条の一七第二項各号に規定する要件に該当するか否かについて、その承認の申請につき、承認をしないことを決定した旨の通知をする時までに、当該法人の組織、寄附行為などを変更すること等により当該各号に定める要件に該当することが明らかにされた場合には、当該贈与又は遺贈は、当該各号に定める要件に該当するものとして取り扱うこととされており、右によれば、承認の許否が決せられるまでは課税処分を見送り、その結果をみて課税処分をするというのが実務であるものと解され、それは、承認申請後の事情も加えて判断しなければ、承認の許否を決せられないことによるものであって、その間に課税処分がされるとすれば、財産提供者は、不利益を被るというべきであると主張する。
しかし、措置法四〇条通達の一五は、申請後において、事情に変化があった場合について、納税者に有利になる事情についてはこれを斟酌して承認決定をすることができるとしたものであって(甲一二)、申請後において、納税者に不利な事情の変化があった場合についても斟酌することができるとしていないことからも明らかなように、承認申請時における事情を基に、承認の許否を決すべきことが原則であることは当然であるから、原告の主張はその前提を欠き、採用できない。
(二) 争点1(一)(2)について
前記(一)記載のとおり、措置法四〇条四項が、承認をしないことの決定がされるまでの期間につき、その者の納付すべき所得税の額から承認があったものとした場合における納付すべき所得税の額を控除した金額に係る延滞税の納税義務が発生しないことまで規定するものと解することは困難である。
そうすると、原告が主張するように原告には本件延滞税を納付する義務が生じていなかったものとは認められない。
2 争点1(二)について
(一) 以上のとおり、本件更正等は無効であるとはいえず、かつ、原告に、本件延滞税の納付義務が発生していると解されるから、本件納付金は誤納金ということはできないが、その後、本件減額更正がされ、原告の納付すべき税額は減少したことから、本件納付金は、その全部が過納になったものである。
そこで、次に、被告が、右過納金を原告に還付する際に付すべき還付加算金の計算期間の始期について検討する。
(二)(1) 本件更正は、本件不動産寄附についての措置法四〇条に係る承認決定がなされていないことから、本件不動産寄附が所得税法五九条一項一号に該当するものとして所得税法三三条に規定する所得税を課すべく行われたものであるところ、本件減額更正は、その後、本件承認決定がされ、これにより、本件更正の計算の基礎となった所得税法五九条一項一号が適用される本件不動産寄附がなかったものとみなされる(措置法四〇条一項)ことになった結果、行われたものであると認められる(弁論の全趣旨)。
ところで、被告は、本件減額更正は、通則法施行令六条一項一号に規定する「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた行為の効力に係る官公署の許可その他の処分が取り消されたこと」に基づき行われたものであるから、後発的事由に基因してなされた減額更正により過納金が発生した場合として、減額更正があった日の翌日から起算して一月を経過する日の翌日から還付加算金を付すことになる(通則法五八条五項、通則法施行令二四条五項)と主張する。
(2) 本件減額更正は、前記のとおり、本件承認決定がされたことにより、本件不動産寄附につき、所得税法五九条一項一号の適用については贈与又は遺贈がなかったものとみなされることからされたものである。
ところで、通則法施行令二四条五項は、通則法五八条五項に規定する政令で定める理由は、通則法二三条二項一号及び三号等により更正の請求の基因とされている理由をいうものとし、通則法施行令六条一項は、右の通則法二三条二項三号を受けて、その具体的内容を規定するものであるが、右通則法施行令六条一項は、申告時には了知し得なかった事態その他やむを得ない事由が生じ、当初の課税が実体的に不当となった場合に、納税者から更正の請求をなし得ることとして納税者の権利救済の途を拡充した規定であると解される。そして、同項一号は、行為の効力に係る官公署の許可等の処分が取り消された場合に、その取消後の事実に基づいて計算すると税額が申告額よりも過大となる場合について、右課税の基礎となる事実そのものが存在しないこととなり、結果として納付すべき税額が過大であったということになると、実体的に不当であることから、更正の請求を許容すべきであるとの趣旨によるものと解される。
本件においては、もともと、当事者間でなされた行為は、贈与又は遺贈であったにもかかわらず、譲渡があったものとみなして課税するとする所得税法五九条一項一号の規定の適用について、贈与又は遺贈がなかったものとみなすとの効力を有する措置法四〇条一項後段に基づく国税庁長官の承認がされたというのであり、このような効果を有する国税庁長官の承認決定は、その実質においては、譲渡があったものとみなすとの法律に基づく効果を遡及的に否定するとの効力を有するものであり、その効果は、許可その他の処分が取り消された場合に類似するものということができる。また、右のとおり、所得税法五九条一項一号の規定の適用については、当初から、贈与又は遺贈がなかったとするものであって、課税の基礎となる事実を消滅せしめるものであることからすれば、結果として納付すべき税額が過大であったということになる。
そこで、右のような国税庁長官の行う措置法四〇条一項後段に規定する承認決定の効果に鑑みると、これがなされた場合については、通則法施行令六条一項一号の「行為の効力に係る官公署の許可その他の処分が取り消された」場合に当たるものと解することができる。
(3) そして、通則法施行令二四条五項は、通則法五八条五項に規定する政令で定める理由は、通則法二三条二項一号及び三号並びに通則法以外の国税に関する法律の規定により更正の請求の基因とされている理由とする旨を定め、また、通則法施行令三〇条が、通則法七一条二号(国税の更正、決定等の期間制限の特例)に規定する政令で定める理由は、通則法二四条五項に規定する理由とする旨を定めているから、通則法及び通則法施行令は、更正の請求の期間制限の特例、更正、決定等の期間制限の特例、その場合における還付加算金の計算期間の始期の特例については、いずれも通則法施行令六条一項を要件としているものであり、これを、各特例に応じて、別異に解釈すべき根拠を見出すこともできない。
そして、仮に、通則法施行令六条一項一号を文理に忠実に限定的に解釈すべきとするときには、更正の請求の期間制限の特例のみならず、更正、決定等の期間制限の特例をも限定的に解釈せざるを得ないところ、その場合には、そもそも、原告について本件減額更正を行うこと自体が違法であると解さざるを得なくなるが、このような結論が不合理であることは明らかである。
(4) したがって、措置法四〇条一項後段に基づく国税庁長官の承認がされたことに伴って減額更正がされ、過納金が発生した場合については、通則法五八条五項、通則法施行令二四条五項、六条一項一号により、減額更正があった日の翌日から起算して一月を経過する日の翌日から還付加算金を付すことになると解するのが相当である。
(三) 以上を前提とすれば、本件減額更正は、措置法四〇条一項後段に規定する国税庁長官の承認決定がされたことに基づいてなされたものであるから、これに伴って発生した過納金の還付に際しては、通則法五八条五項、通則法施行令二四条五項、六条一項一号の各規定により、減額更正があった日の翌日から起算して一月を経過する日の翌日から還付加算金を付すことになるものであるところ、前記のとおり、本件減額更正があった日は、平成八年一月二二日であり、東京国税局長は、平成八年一月三一日付けで、本件減額更正によって発生した還付金全額を原告に還付しているものであるから、原告には、還付加算金は付されないこととなる。
3 したがって、原告が、被告に対し、別紙「還付加算金の請求内訳」記載のとおりの還付加算金の支払を求める請求については理由がない。
二 争点2について
1 前記一に記載のとおり、原告は、本件承認決定がなされる以前においては、本件更正等に基づく所得税等の納税義務及び本件延滞税の納税義務を負っていたものというべきである。
2 そうすると、被告の公務員である東京国税局徴収部特別整理第五部門総括主査Bが、原告に本件各納付を慫慂した時点においても、原告には本件各納付に係る税金の納税義務が生じていた以上、右慫慂に従って本件各納付を行ったとしても、原告には何らの財産的損害は生じていないものというべきである。
3 これに対し、原告は、借入れをして、本件納付金を納付したのであり、その借入金利は相当額に上るものであるから、納付後還付されるまでの期間に係る還付加算金の利率による遅延損害金相当額の損害があることは明らかであると主張する。
しかし、本件各納付の時点において、本件納付金を納付すべき義務がなかった場合については、被告の職員が慫慂の際に還付加算金が付されることとなるとの説明を行ったことと、相当因果関係のある損害の存在を想定することができないではないが、本件においては、右納付時点において、原告には納付義務があったものであるから、原告の納税をしない権利ないし利益を侵害したものとして本件納付金に係る借入金利に相当する損害が生じたと解することはできない。
4 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告に対する国家賠償請求には理由がない。
三 よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 阪本勝 裁判官 村松秀樹)
別紙還付加算金の請求内訳
① 昭和六二年三月九日付けで充当された還付金五三万一三七七円の同日からの還付加算金(平成八年一月三一日までで、三〇万六四九七円である。)
② 昭和六三年二月二九日付けで充当された還付金一四四万〇六〇一円の同日からの還付加算金(平成八年一月三一日までで、七二万八三六六円である。)
③ 平成三年四月一〇日付けで納付した六三八三万六五八四円の同日からの還付加算金(平成八年一月三一日までで、二二四三万二一五二円である。)
④ 平成三年四月一〇日付けで納付した四九〇九万一五〇〇円の同日からの還付加算金(平成八年一月三一日までの分は、一七二五万七五五円である。)