東京地方裁判所 平成10年(行ウ)197号 判決 2002年4月24日
原告
オリエンタルモーター株式会社
代表者代表取締役
若林昭八郎
訴訟代理人弁護士
中町誠
同
中山慈夫
同
男澤才樹
被告
中央労働委員会
代表者会長
山口浩一郎
指定代理人
落合誠一
同
伊藤治
同
瀬野康夫
同
菊池理恵子
参加人
全日本金属情報機器労働組合千葉地方本部オリエンタルモーター支部
代表者執行委員長
大池良三
参加人
大池良三
参加人
和家浩一郎承継人和家嘉津子
参加人
和家浩一郎承継人和家良
参加人
和家浩一郎承継人和家美佳
参加人
和家浩一郎承継人和家真希
前記3名法定代理人親権者母
和家嘉津子
参加人
柳沢茂樹こと柳澤茂樹
参加人
金子政信
参加人
酒井清
参加人
佐藤武幸
参加人
岩田一夫
参加人
鈴木修
参加人
岡島一朗
参加人ら訴訟代理人弁護士
藤野善夫
同
後藤裕造
同
鍛冶利秀
主文
1(1) 被告が,中労委平成5年(不再)第17号,同第18号事件について,平成10年8月5日付けでした命令の主文第1項中,原告に対し,
参加人全日本金属情報機器労働組合千葉地方本部オリエンタルモーター支部の組合員参加人(亡)和家浩一郎に関し,昭和61年度から平成2年度までの各年度の昇給及び賞与について,昭和61年4月昇給を「B」として計算し直し,是正に基づく賃金額と既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分及び退職金についての差額の支払を命じた部分,
同参加人柳澤茂樹に関し,昭和61年度から平成2年度までの各年度の昇給及び賞与について,同人の各昇給評語及び各成績評語を「B」として計算し直し,是正に基づく賃金額と既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分,
同参加人金子政信に関し,昭和61年度から平成2年度までの各年度の昇給及び賞与について,昭和63年上期,下期,平成元年4月昇給を「B」として計算し直し,是正に基づく賃金額と既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分,
同参加人酒井清,同参加人佐藤武幸,同参加人岩田一夫に関し,昭和61年度から平成2年度までの各年度の等級,昇給及び賞与について,等級を別紙8に基づき是正し,同人らの各昇給評語及び各成績評語を「B」として計算し直し,是正に基づく賃金額と既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分,
同参加人鈴木修に関し,昭和61年度から平成2年度までの各年度の昇給及び賞与について,昭和61年下期から昭和63年4月昇給まで,昭和63年下期から平成2年下期までを「B」として計算し直し,是正に基づく賃金額と既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分,
同参加人岡島一朗に関し,昭和61年度から平成2年度までの各年度の昇給及び賞与について,平成元年上期から平成2年上期までを「B」として計算し直し,是正に基づく賃金額と既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分,
をいずれも取り消す。
(2) 同命令中,主文第Ⅱ項を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用(参加によって生じた費用を除く。)は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とし,参加によって生じた費用については,参加人全日本金属情報機器労働組合千葉地方本部オリエンタルモーター支部の参加によって生じた費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を同参加人の負担とし,参加人大池良三,同和家嘉津子,同和家良,同和家美佳,同和家真希の各参加によって生じた費用はいずれも原告の負担とし,参加人柳澤茂樹の参加によって生じた費用は同参加人の負担とし,参加人金子政信の参加によって生じた費用はこれを3分し,その1を原告の負担とし,その余を同参加人の負担とし,参加人鈴木修,同岡島一朗の各参加によって生じた費用はそれぞれをいずれも2分し,その1を原告の負担とし,その余を各同参加人の負担とし,参加人酒井清,同佐藤武幸,同岩田一夫の各参加によって生じた費用は,それぞれを各同参加人の負担とする。
事実及び理由
第1章請求
被告が,中労委平成5年(不再)第17号,同第18号事件について,平成10年8月5日付けでした命令中,主文第1項,同第Ⅱ項及び同第Ⅲ項中,原告の再審査申立てを棄却した部分を取り消す。
第2章事案の概要
参加人らが,原告が参加人全日本金属情報機器労働組合千葉地方本部オリエンタルモーター支部(以下「組合」という。)の組合員9名に対し,組合活動を理由として他の従業員と仕事上及び賃金上の差別的取扱いをしたのは不当労働行為であるとして初審・千葉県地方労働委員会(以下「千葉地労委」という。)に救済申立てをしたところ,千葉地労委はこれを容れて救済命令を発した(ただし,一部は棄却)。
原告は,これを不服として被告に対し,再審査を申し立てたが,被告は初審命令を一部変更したのみの命令を発した。
本件は,原告が,被告に対し,不服申立てが容れられなかった部分の取消しを求めた行政事件訴訟である。
第1争いのない事実等
1 当事者
(1) 原告は,昭和25年に設立され,精密小型モーターの製造・販売を営み,肩書住所地の本社のほか,柏市高田に柏事業所を,同市豊四季に技術研究部門の本部を,土浦市,高松市及び鶴岡市に各事業所を,東京都等に支店を,全国各地に営業所をそれぞれ有しており,初審申立時(昭和63年2月23日)の従業員数は,約1400名であった。
なお,原告は,系列会社として,オリエンタル.イー.ディー株式会社(以下「OED」という。),オリエンタル.エム.ティー株式会社(以下「OMT」という。)等を有していたが,そのうち,OEDは昭和59年4月に,OMTは平成10年8月に,それぞれ営業権を原告に譲渡し,現在は存在しない。(弁論の全趣旨)
(2) 組合は,原告及び系列会社の従業員によって昭和49年12月22日に結成され,昭和50年5月13日に公然化した。組合は,豊四季分会,土浦分会等の下部組織を有し,組合員数は,最も多い同年5,6月ころで約620名であったが,初審申立時の組合員数は約15名であった。
なお,組合は,初審申立時には総評全国金属労働組合千葉地方本部に所属していたが,昭和63年12月17日に脱退した後,平成元年3月4日に全日本金属情報機器労働組合東京地方本部に加盟し,平成11年同労働組合千葉地方本部の結成に伴い,同地方本部の所属となり,名称を変更した。(弁論の全趣旨)
(3)ア 参加人大地(ママ)良三,同柳澤茂樹,同金子政信,同酒井清,同佐藤武幸,同岩田一夫,同鈴木修及び同岡島一朗(これらの者については,以下姓のみで表示する。)の8名は,いずれも組合の組合員であり,初審申立人和家浩一郎(以下「和家」という。)は組合の組合員であった(以下,これら9名を一括して「本件組合員」という。)。
イ 和家は,昭和63年10月8日死亡し,和家嘉津子ほか3名(和家の妻及び子である。以下「参加人和家ら」という。)は,平成元年3月14日,後記3(1)アの救済申立ての承継を申し立てた。
2 新賃金制度の導入
原告は,昭和56年2月から新しい賃金制度(以下「新賃金制度」という。)を導入した。
3 救済申立てと命令
(1)ア 組合及び本件組合員は,昭和63年2月23日千葉地労委に対し,「原告が組合の組合員9名に対し,組合活動を理由として他の従業員と仕事上及び賃金上の差別的取扱いをしたのは不当労働行為であるから,<1>新しい賃金制度が導入された昭和56年2月以降の各組合員の等級及び号数につき,各年度ごとに4月1日に遡って,各人の同期同学歴の中位者の等級及び号数のとおり格付け是正し,それまで受けるはずであった基本給及び賞与と既支給額との差額に年6分の割合による金員を加算して各人に支給すること,<2>団結権を侵害したことに対し,組合及び本件組合員にそれぞれ300万円を支払うこと,<3>組合員に対し,将来にわたって職位,賃金等につき,組合活動を理由に差別を行わないこと,<4>謝罪文の手交,掲示及び社内報への掲載を求める。」旨の救済申立てをした(その後,平成元年3月15日,平成2年3月8日,平成3年3月28日にそれぞれ追加申立て。千葉地労委昭和63年(不)第4号事件)。
イ 千葉地労委は,平成5年3月16(ママ)日,組合及び本件組合員の申立てに係る原告の行為(前記ア)は労働組合法7条1号及び3号に該当する不当労働行為であるとして,別紙1<略>のとおりの命令を発した(以下「本件初審命令」という。)。
(2)ア 本件初審命令を不服として,原告は平成5年3月26日に,組合及び本件組合員は同月29日に,それぞれ被告に対し,再審査を申し立てた(前者が中労委平成5年(不再)第17号事件,後者が同第18号事件)。
イ 被告は,平成10年8月5日付けで別紙2<略>のとおりの命令を発し(以下「本件命令」という。),同命令書の写しは平成10年9月9日原告に交付された。
第2争点
1 不利益取扱いの立証事項は何か。
2 参加人らに対する不当労働行為が成立するか。とりわけ,本件組合員に対する人事考課に正当性があるか。
3 本件命令の救済方法が違法といえるか。
4 和家の救済利益が同人の死亡により失われたといえるか。
第3争点に関する当事者の主張(要旨)
1 争点1(不利益取扱いの立証事項)について
(原告)
(1) 労働組合法(以下「労組法」という。)7条1号の不利益取扱いは,個々の組合員についてその成否を考えなければならないのであるから,査定格差が同号に当たるといえるためには,<1>使用者が労働組合を嫌悪していること,<2>個々の組合員に対する査定が他組合(あるいは非組合員)の比較対象者の査定や昇格に比べて相当の格差があること,<3>個々の組合員の査定対象となった勤務実績が他の労働組合(あるいは組合員以外の者)の比較対象者と同量・同等であること,の各立証を要するというべきである。
本件命令は,本件組合員が同期同学歴入社者の中位者と比較して劣っていないことの疎明はされていないことを認めながら,等級格差の存在から直ちに不利益取扱いの事実を認めており,昇給及び賞与についても,本件組合員が平均的な社員であるとの立証が全くないのに,本件組合員の各昇給評語及び各成績評語を「会社の他の社員の平均的な評語」である「B」にすることにより格差を是正するのが相当としている。
このように,本件命令は,前記<3>の立証を不要とし,本件組合員についてその立証がないまま不利益取扱いの事実を認めているから,本件申立てを労組法7条1号及び3号に該当するとした本件命令は,労働委員会に与えられた裁量権の範囲を逸脱したもので,違法である。
(2) 被告の認定する原告の仕事差別は,昭和51,2年ころの出来事であり,本件救済申立の対象時期である昭和61年度以降とは時期を全く異にするし,そもそも仕事差別があることと前記(1)<3>の立証ができるか否かは論理的には関係がなく,その立証は容易である。本件命令が非組合員との比較において不当労働行為を認定し,是正を命じている以上,非組合員との比較の要素を全く無視して不当労働行為の認定をすることはできず,前記(1)<3>の立証がないまま不当労働行為を認定した本件命令は,誤りである。
(3) なお,後記2(原告)(2)のとおり,原告の新賃金制度は,能力主義に徹した運用であり,参加人ら主張のように年功的,機械的なものではない。
(被告)
(1) 本件命令は,本件組合員と他の従業員との間に等級格差,昇給,賞与に関する昇給評語及び成績評語の格差が存在すること,原告と組合は,昭和50年5月の組合公然化以来紛争状態にあり,原告の管理職らは一貫して組合及び組合員を敵視していることを認定し,また,原告が本件組合員各人の人事考課(低査定)の理由について個別に主張立証した点について検討・判断し,同人事考課が正当とはいえないとして,これらを総合して,不利益取扱いの不当労働行為があると判断している。
本件命令は,本件組合員に対する低査定,等級格差が存在していること,原告が組合を嫌悪し,弱体化するための策動を繰り返し行っていたことから,原告の組合敵視ないし嫌悪による差別的取扱いの意思(不当労働行為意思)を推認し,原告のした査定に合理性・正当性がなく,この推定を覆すに足りるものとは認められないことから,本件組合員に対する低評価が不当労働行為たる差別的取扱いに基づくことが推認でき,これに基づいて不当労働行為の成立を認めたもので,このような手法は,使用者が査定の合理性に関する資料を掌握していることからすれば,是認されるべき正当なものであり,本件命令のした判断に違法はない。
(2) 本件においては,原告は,本件組合員に対して仕事上の差別的取扱いという不当労働行為を行っていたから,本件組合員について,原告による差別がなければ本件組合員が発揮していたであろう能力,勤務成績等を検証することはできず,本件組合員が他の従業員と比較して能力,勤務成績等が劣らないことを証明することはできない状況下にあり,本件は,そもそも「能力,勤務成績等において劣らないことの証明」を行うための前提条件を欠いている。そして,原告が本件組合員を昇格させないあるいは低査定である理由として主張立証するところが正当かつ合理的とはいえないのであるから,原告は,本件組合員に対して仕事上の差別扱いをした上で,新賃金制度が本来予定している評価方法によることなく人事考課において本件組合員をことさらに低く評価しているものであり,原告の本件組合員に対する仕事差別等の不当労働行為の事実と原告の組合嫌悪とを併せ考えれば,本件組合員に対する低評価は,不当労働行為意思に基づく不利益取扱いに当たる。
(参加人ら)
(1) 原告の新賃金制度においては,他の従業員の評価や業績,勤務ぶりが分かる状況にはなく,他の従業員の勤務実績等との比較を参加人らが立証することは不可能であるから,本件組合員の能力,勤務実績の立証についての負担は原告に転換されるべきである。
(2) 本件においては,原告が組合を極めて強く嫌悪していること,本件組合員と他の従業員との間で格差があり,本件組合員は,同期同学歴者の中で常に最下位とされていること,後記2(参加人ら)のとおり,原告における賃金処遇が年功序列的に運用されていること,原告は,本件組合員に対し,仕事上の差別をし,他の者との間で差別のない同量同質の仕事を提供していない上,恣意的に本件組合員を評価していること,原告は,査定関係の資料を保持し,査定の結果も明らかにしていないことからすれば,本件組合員のした仕事についての差別待遇の存在と賃金上の格差に関する全体的・外形的な立証により,格差の理由は組合活動を嫌悪した不当労働行為によるものであることが推認できるから,この推認を崩す著しい不行跡,勤務不良が原告から立証されなければ,差別・不当労働行為と認めるべきである。
2 争点2(不当労働行為の成否,とりわけ本件組合員の人事考課に関する判断)について
(原告)
(1) 本件組合員が組合員以外の者と比較して能力,勤務実績が同等であるとの立証は,参加人らから何らされていない上,本件初審命令及び本件命令掲記の原告の主張のとおり,本件組合員の勤務成績,勤務態度は不良であり,原告のした評価は正当である。したがって,不利益取扱いの事実があったとはいえず,ひいて不当労働行為は成立しないのに,原告のした評価を否定し,不当労働行為の成立を認めた本件命令は誤りである。
(2) 原告は,新賃金制度で定める手順に従って,<1>第1次考課者(課長)が同等級の課員のグループごとに,服務,就業活動Ⅰ,Ⅱ,業務能率,成果の5項目について,所定の着眼点を基準として点数を付け,<2>その合計点(素点)を点数の高い順から並べて上位の部長に提出し,<3>以後,第2次,第3次評定によって,全体調整が行われ,成績評語を決定している。新賃金制度の運用は,能力主義に徹し,年次管理など一切しておらず,同期入社の社員でもその等級は広範囲に分布しており,年功的,機械的なものではない。
(被告)
本件命令は,原告の新賃金制度が年功序列的なものないし年功序列的な運用がされていることを前提に判断したものではない。しかし,本件命令(引用に係る本件初審命令部分を含む。)における認定・判断のとおり,原告のした本件組合員に対する評価が正当かつ合理的なものとはいえず,前記1(被告)(1)のとおり,原告の不当労働行為が認められるから,本件命令の認定,判断に誤りはない。
(参加人ら)
(1) 原告の新賃金制度は,代表的職位並びに昇格資格要件に最終学歴に対応した従業員の在職年数が定められ,また,等級に対応して必要資格年数が定められており,一定年限が経てば昇級昇号することを制度的に予定しているし,実態からみても,勤続年数は長いが等級が低い人は女性であり,大学卒で2等級に留まっているのは組合員ばかりであって,全体的傾向として,勤続年数が長い人は等級が上がっているから,年功的賃金制度である。
(2) 前記(1)のとおり,従業員の一般的傾向は,年功を経るごとに昇級・昇号しているのに,本件組合員のみが等級・号数の処遇において常時最低の処遇を受けているもので,原告のした本件組合員に対する評価は不当である。
原告は,本件組合員の勤務ぶりが消極的なこと,職場離脱が頻繁であること,残業や休日出勤(以下「休出」という。)に消極的であること等を指摘するが,その評価基準は,原告の主張によっても具体的ではなく,本件組合員に対する断片的な事実を印象的に述べる程度で,評価上中位の者の勤務状況を具体的に主張・立証した上のものではない。原告が職場離脱したと主張するもののほとんどは,原告の不当労働行為に関する裁判に出席したもので,組合の団結権確保のために不可欠であり,その原因が原告にあるものである。また,残業・休出については,原告が本件組合員の協力を拒んでいるのであるし,本件組合員はQIC(品質管理サークル)活動から排除されていたから,原告指摘の理由で本件組合員を評価することは不当である。
原告は,本件組合員に対する差別的処遇を一貫して行ってきており,仕事差別処遇,一連の不当労働行為の延長線上の処遇としての本件の賃金格差,低査定があることを考えれば,賃金格差の真の理由が賃金上の差別(不当労働行為)であることは明らかである。
3 争点3(救済方法の違法性)について
(原告)
(1) 本件命令は,本件組合員とそれ以外の者とで同期同学歴入社グループ内で等級格差があり,それが不当労働行為であるとした上,「柳澤を除く本件組合員と本件組合員以外の者との間で等級格差が明らかになった時点からその等級格差分を是正させるのが相当」とし,新賃金制度が実施された昭和56年2月時点での格付け等級を始期として等級格差の是正を図っている。
本件命令のように,同期同学歴入社グループ内で,本件組合員と本件組合員以外の者との等級格差を比較して判断するのであれば,その前提として,等級推移観察の始期において同グループ内の本件組合員と本件組合員以外の者の等級が同一でなければならないはずである。
しかし,本件組合員の入社時期は昭和41年度ないし昭和49年度であり,昭和56年2月までの間には,同期同学歴入社のグループ間で人事考課の反映として既に賃金格差が生じており,昭和56年2月の新賃金制度実施時においても,同グループが同一の等級に格付けされたものではないから,既にその時点で同グループ内でも等級格差が生じていたのである。この時点の等級格差は不合理なものといえないから,これを考慮することなく,昭和56年2月以降の等級推移を単純に比較すること自体誤りである。また,本件命令の救済方法では,昭和56年2月時点で等級の低い本件組合員が,その後他の者との比較において等級が是正されるという逆差別を招来することとなるから,その点でも本件命令の救済方法は違法である。
(2) 本件命令は,前記(1)の「等級格差が明らかになった時点」について,<1>大池,和家,岩田については,同人ら以外の者の等級が5等級となった時点,<2>金子については,同人ら以外の3分の2以上の者が3等級以上となった時点,<3>酒井については,同人を除く全員が3等級以上となった時点,<4>佐藤については,同人を除く4分の3以上の者が3等級以上となった時点,<5>鈴木については,同人以外の者の半数が3等級となった時点,<6>岡島については,同人及び池田博明以外の者の4分の3以上の者が4等級となった時点,とそれぞれ区々にしているが,その理由は明らかでなく,極めて恣意的であるから,救済方法について重大な瑕疵がある。
(被告)
本件命令は,本件組合員についての等級格差,昇給及び賞与における格差は不利益取扱いであること,一方,本件組合員が同期同学歴入社の中位者と比較して劣っていないことの疎明がされておらず,組合主張のように,本件組合員を除いた同期同学歴入社者の中位者と同じ等級に是正することを命ずることは適切でないことから,等級については,本件組合員と本件組合員以外の者との間で等級格差が明らかになった時点からその等級格差分の是正を命ずることとし,昇給及び賞与については,本件組合員の昇給評語又は成績評語が「C」又は「D」とされた各昇給及び各賞与について,これを他の従業員の平均的な評語である「B」にすることにより格差を是正させるべきであると判断したものである。本件命令の救済方法に違法はない。
(参加人ら)
(1) 新賃金制度を導入する昭和56年2月以前でも,組合員は,職務手当の有無で差別されていたし,格差が不合理でないとはいえない。そして,新賃金制度の導入により原告は等級格差を生じさせたのであるから,昭和56年2月を等級格差是正の始期とすることに誤りはない。
(2) 被告は,原告が各従業員の賃金,等級号数の処遇実態について明らかにしないことや,等級格差が他者からみて明らかになるまでにはある程度の期間の累積が必要であることから,等級の格差が明らかになった時点を本件命令のとおりとしたものであり,やむを得ないものである。
4 争点4(和家の救済利益)について
(原告)
不当労働行為制度は,団結権に対する侵害の排除を目的とするものであるから,団結権に対する侵害排除を求め得る利益は組合員である和家の一身専属的なものであり,相続の対象とはならない。和家の救済利益は同人の死亡により失われているから,その相続人により手続が承継される余地はなく,和家の申立て分は,財産的利益の回復についての申立て分も含め,却下されるべきである。
(被告)
申立人が死亡した場合に申立てを却下できるのは,死亡日の翌日から6か月以内に承継人からの承継申立てがないときに限られるから(労働委員会規則34条1項7号),この期間内にされた死亡した和家の承継人からの承継申立てを容れた本件命令に違法はない。
第3章当裁判所の判断
第1事実の認定
後掲証拠を総合すれば,次の事実が認められる(争いのない事実を含む。なお,争いのない事実であっても,参照の便宜のため証拠を摘示したものもある。)
1 労使関係の経緯
(1) 組合結成公然化の状況
(<証拠略>)
組合は,昭和50年5月13日原告に対し,組合結成の通告をし,同年春闘賃上げ要求に加えて,団体交渉権を認めることや就業時間中の組合活動等の13項目にわたる要求書を提出して団体交渉を申し入れ,原告と数回団体交渉を重ねた。組合は,賃上げ等についての原告の回答を不満として同年6月23日土浦分会での時限ストライキ,さらに同年7月3日に豊四季,土浦及び高松の各事業所に勤務する組合員約600名が参加した統一時限ストライキを行った。このストライキを契機に,原告は組合に対する態度を硬化させた。
(2) 第1次不当労働行為救済申立事件
組合は,昭和50年10月9日,社外組合活動に対する賃金カットについての団体交渉を原告が拒否したとして千葉地労委に不当労働行為救済申立てを行い,その後数次にわたり追加申立て等を行った(千葉地労委昭和50年(不)第3号事件)。同地労委は,昭和53年1月13日,申立ての一部を除きいずれも不当労働行為であるとして,原告に,<1>就業時間中の組合活動の範囲,人事異動に関する事前協議約款等に関して誠意ある団体交渉の実施,<2>組合事務所の貸与,<3>組合加入状況調査による支配介入の禁止,<4>食堂使用拒否の禁止,<5>組合集会の妨害,組合備品,組合旗の撤去及び組合からの脱退強要・勧誘を行ったこと等に関してポスト・ノーティスを命じた。原告はこれを不服として被告に再審査を申し立て(中労委昭和53年(不再)第4号事件),被告は,昭和62年5月20日,初審命令の一部を変更したほかは初審命令を維持して原告の再審査申立てを棄却した。(<証拠略>)
原告は,これを不服として東京地方裁判所(以下「東京地裁」という。)に行政事件訴訟を提起したが,同地裁は,平成2年2月,前記再審査命令の一部を除き取り消し,原告のその余の請求を棄却したため,原告及び被告は当該判決を不服として東京高等裁判所(以下「東京高裁」という。)に控訴を提起し,同高裁は,同年11月,原告の控訴を棄却し,被告の控訴を一部認容する判決をした。これに対し,原告は平成2年12月7日,被告は同月11日,最高裁判所(以下「最高裁」という。)に上告し,最高裁は,平成7年9月8日,東京高裁が被告の控訴を一部認容した部分を取り消し,被告の上告を棄却するとともに,原告のその余の上告を棄却した。(<証拠略>)
(3) 第2次不当労働行為救済申立事件
組合は,昭和52年6月29日,原告が大池,和家,金子,酒井及び岡島を含む組合員10名に対して仕事上の差別的取扱いを行ったとして,千葉地労委に不当労働行為救済申立て(千葉地労委昭和52年(不)第3号事件)を行い,同地労委は,昭和56年2月23日,原告に,<1>組合員に対し仕事上の差別的取扱いをする支配介入の禁止,<2>陳謝文の掲示を命じたところ,原告はこれを不服として千葉地方裁判所(以下「千葉地裁」という。)に行政事件訴訟を提起し,同地裁は,昭和62年7月17日,原告の請求を棄却した(なお,この間,千葉地労委の緊急命令の申立てに対し,同地裁は,昭和57年9月14日,同地労委の前記命令のうち陳謝文の掲示を命じた部分を除き,同命令に従うべき旨の緊急命令を発した。)。
原告は,千葉地裁の判決を不服として東京高裁に控訴し,さらに同高裁の控訴棄却判決(昭和63年2月23日言渡し)に対し上告したが,最高裁は,平成3年2月22日,原告の上告を棄却した。(<証拠略>)
原告は,平成2年3月8日,陳謝文を掲示した。(<証拠略>)
(4) 第3次不当労働行為救済申立事件
組合は,昭和62年4月20日,原告が組合の教宣活動の中心人物である岡島と岩田に対して配転又は出向を命じ,不利益取扱いを行ったとして,千葉地労委に不当労働行為救済申立て(千葉地労委昭和62年(不)第1号事件)を行い,千葉地労委は,平成元年3月27日,原告に両名の配転命令又は出向命令の取消しとバックペイ等を命じたところ,原告はこれを不服として,被告に再審査を申し立て(中労委平成元年(不再)第35号事件),被告は,平成2年10月17日,初審命令を維持して原告の再審査申立てを棄却した。原告はこれを不服として,東京地裁に行政事件訴訟を提起した。(<証拠略>)
他方,岡島と岩田は,昭和61年8月11日,千葉地裁松戸支部に転勤命令と出向命令の効力停止を求める仮処分申請を行い,同支部は,同年11月27日,岡島に対しては転勤命令の効力を仮に停止する等の決定を行い,岩田に対しては仮処分申請を却下した。続いて,両名から同支部に本案訴訟が提起され,平成3年5月29日,岡島に対する転勤命令が無効であるとして同人に賃金を支払うよう命じるとともに,岩田に対する出向命令は有効であるとする同支部の判決がなされたが,平成4年7月20日,東京高裁において,原告は岩田に対する出向命令を取り消し,土浦事業所へ復帰させるなどを内容とする和解が成立し,同事件は終結した。(<証拠略>)
なお,前記和解の結果,原告は,同月24日,東京地裁に係属していた前記行政事件訴訟を取り下げた。
(5) 土浦分会に係る不当労働行為救済申立事件
組合と組合の下部組織である総評全国金属労働組合茨城地方本部オリエンタル土浦分会(当時。以下「土浦分会」という。)は,昭和51年4月12日,原告が同分会組合事務所の貸与に関して組合及び同分会との団体交渉を拒否したとして,茨城県地方労働委員会(以下「茨城地労委」という。)に不当労働行為救済申立て(茨城地労委昭和51年(不)第4号事件)を行い,同地労委は,昭和52年12月24日,原告に土浦分会の組合事務所貸与について速やかに誠意ある団体交渉を実施することを命じたところ,原告はこれを不服として被告に再審査を申し立て(中労委昭和53年(不再)第1号事件),被告は,昭和54年12月19日,主文を一部変更したほかは初審命令を維持して原告の再審査申立てを棄却した。(<証拠略>)
原告は,これを不服として東京地裁に行政事件訴訟を提起し,昭和60年2月の同地裁の請求棄却の判決を不服としてさらに東京高裁に控訴し,昭和62年5月の同高裁の控訴棄却判決に対し上告したが,昭和63年12月9日,最高裁は原告の上告を棄却した(以下「茨城地労委事件」という。)。(<証拠略>)
この間,被告は緊急命令を申し立て,東京地裁が同申立てを却下したため抗告したところ,東京高裁は,昭和57年1月20日,被告の命令に従うべき旨の緊急命令を発し,原告は特別抗告したが,最高裁は,同年8月10日,これを却下した。なお,東京地裁は,昭和61年3月3日,原告が前記緊急命令に違反したとして,原告に対し10万円の過料に処する旨の決定を行った。
(6) 東葛総行動への参加
ア 組合は,昭和58年5月24日,東葛飾地域の労働組合及び争議団等が労働争議の行われている各関係企業に対し,争議の解決を要請する等の統一行動(以下「東葛総行動」という。)に,大池,和家,鈴木ら9名の指名ストライキをもって参加した。その際,組合は,原告の本社,柏事業所において原告に対し,組合敵視の労務政策を変更するよう要請を行おうとしたが,原告が正門を閉ざして面会に応じなかったため,門前で支援する他組合員も含めて約250名参加の抗議行動を行った。(<証拠略>)
イ 翌25日の終業後,和家,鈴木両名が在籍していたオリエンタル工機株式会社(以下「工機(株)」という。)においては,「今後の工機の仕事のあり方について」話し合うとの趣旨で,同社の一般社員全員が出席して話し合いが行われた。この話合いでは,「今後ストライキとか組合活動をすれば仲間でない。その考えを改めれば,また仲間に迎え入れよう。」という内容に終始し,実質的には組合活動を行っていた和家,鈴木両名に対する非難の場であった。
さらに翌26日から,鈴木については同月末まで,和家については6月15日まで,具体的な仕事を与えられず,同人らは一日中立って本を読んでいた。その間,和家,鈴木両名が小川光司課長(以下「小川課長」という。)に机と椅子を要求したところ,同課長は,「みんな立って仕事をしているから,お前たちにはやれない。」と言って拒否した。なお,原告の当時の生産現場では,立ち作業が行われていた。(以上につき,<証拠略>を総合して認める。)
2 新賃金制度の導入の経過
(<証拠・人証略>)
(1) 原告の賃金制度は,昭和56年2月から新しい賃金制度(以下「新賃金制度」という。)になったが,それ以前の賃金制度(以下「旧賃金制度」という。)の賃金項目では,基準賃金は基本給と,基準外賃金は時間外勤務手当及び休日勤務手当と,手当は,役手当,資格手当,当直手当,運転手当,特殊手当,扶養家族手当,住宅手当,通勤手当,食事手当,調整手当と,されていた。
(2) 旧賃金制度においては,定期昇給とベースアップの区分もなく,人事考課も夏と冬の年2回の賞与の際に行われ,その資料を参考にして翌年の昇給も決定されていた。その仕組みは,基本的に年功序列的な色彩が強かったが,人事考課の反映として同期同学歴入社の者同士でも多少の基本給の差はあり,また,役手当や資格手当といった手当によって,結果として個人差つまり賃金格差が生じていた。
(3) 原告は,昭和50年ころから,社員にわかりやすく納得できて合理性のある賃金制度を作る必要性があるとして,また,そのころ組合からも原告の賃金体系を明らかにするよう要望が出されていたこともあって,新賃金制度導入の検討に入った。
原告は,専任の賃金担当者を設けて検討を進め,昭和54年には一応等級号俸制度を作り,翌年にかけて当てはめてみる作業をしたが,人事考課については従来どおりであって,賞与の配分方法や昇進・昇格等全体的体系は残された課題であった。
原告は,昭和55年秋ころから,弥富賢之が主宰する賃金管理研究所(以下「研究所」という。)の全面的指導を仰ぎ,新賃金制度を,研究所の提唱のまま手直しすることなく導入した。
(4) 原告は,新賃金制度の趣旨・内容について,昭和56年1月14日から28日にかけて,土浦,鶴岡,高松,大阪,豊四季及び東京において説明会を開催した。
豊四季事業所では,昭和56年1月26日に原告役員出席のもと説明会が開催され,研究所の講師が説明をしたが,社員に対して説明資料は配付されなかった。そして,その席で大池と金子が,残業したか否かは査定に影響あるかどうかという趣旨の質問をし,出席していた福島伸夫総務部長(当時。以下「福島部長」という。)を指名して回答を求めたところ,同部長は答えず,講師から「残業したかしないかは査定の対象にはならない。」旨の回答がなされた。(<証拠・人証略>)
なお,原告は,法定の年次有給休暇の取得日数の多寡は,査定には影響しないとしている。
(5) 原告は,昭和56年2月20日に,賃金の支給明細書とともに,福島部長名で「新しい賃金制度について」と題した小冊子(<証拠略>。以下「説明用小冊子」という。)を初めて社員に配付した。
組合は,同月26日付けで原告に対し,新賃金制度を議題として翌27日に団体交渉を行うよう団体交渉申入書を提出したが,原告は,要求事項が具体的でないので回答できないとして,要求事項を明らかにするよう求める回答書(同年3月5日付け)を発し,当該団体交渉には応じなかった。
なお,その後も原告は組合に対し,説明用小冊子に基づいた新賃金制度の仕組みや考課査定の運用方法についての説明はしていない。
3 新賃金制度の概要
(<証拠略>)
(1) 原告は,昭和56年2月25日支給の給料から新賃金制度に切替移行した。この制度では,賃金につき,基本給は本給及び加給とされ,手当は,時間外勤務手当,休日勤務手当,深夜勤務手当,管理職手当,宿日直手当,特技手当,家族手当,住宅手当,通勤手当とされている。
本給は,仕事の質により1等級から6等級までに区分され,各等級に応じた「定期昇給」により決められる。なお,新賃金制度への移行にあたって,旧賃金制度下の役手当,資格手当,住宅手当の一部,食事手当及び調整手当が本給に組み入れられた。
加給は,いわゆるベースアップで,本給の一定比率又は一律定額で支給される。
管理職手当は,課長等の職以上の管理職者にのみ支給される。
特技手当は,旧賃金制度下の運転手当又は特殊手当に相当するものである。
(2) 等級・職位と資格要件
各等級ごとの代表的職位や各等級の職位の具体的な内容については,それぞれ別紙3及び別紙4のように定められ,旧賃金制度下で既に部長,課長,主任(係長相当職)に就いていた者は,新賃金制度下ではそれぞれ6等級,5等級,4等級に格付けされ,3等級以下の者については,各等級の資格要件及び等級説明書に基づいて格付けされた。
なお,どの等級に格付けされても,旧賃金制度下で支給されていた賃金額は保障された。
(3) 昇格・定期昇給の方法
ア 昇格は,社員に配布された説明用小冊子によれば,「資格要件が満ちた場合『適性』と『ポスト』等を加味し決定」されるとされており,具体的には,毎年5月に,各等級の資格要件に照らし,所属の上司段階の検討を踏まえ,最終的には総務部長の判断によって決定される。
イ 定期昇給は,毎年4月期に行われるが,その際何号俸昇給するか(以下「昇給号数」という。)は,毎年2回(夏と冬)の賞与支給にあたって行われる成績評価の結果を基に「昇給評語」が決定され,それと直接リンクした形で決められる。昇給評語がS,A,B,C,Dであるのに応じ,昇級号数はそれぞれ6,5,4,3,2とされる。
新規採用1年目の昇給評語は原則として全員Bとし,2年目はA,B,Cの3段階に,3年目以降から前記の5段階に昇給評語を区分している。
なお,新賃金制度下の最初の昇給である昭和56年4月の昇給評語は,社員全員がBとされた。
ウ 年令(ママ)調整による昇給号数
毎年の定期昇給において一定の号数が昇給するため,同一等級内に長く滞留していても年々賃金が高くなり,仕事内容がさほど変わらないのに同一等級内の若年層の社員と賃金バランスを崩すことになることから,そのバランスを図り,同一等級内に長く滞留した者の昇給を抑制するために,それぞれ該当年令(ママ)の年度から毎年以下のように昇給号数の調整が行われる。
(ア) 第1次調整では,1等級は26才(ママ)から,2等級は32才(ママ)から,3等級は36才(ママ)から,4等級は41才(ママ)から,5等級は46才(ママ)から,6等級は52才(ママ)から,それぞれ調整を行うこととし,昇給評語がS,A,B,C,Dであるのに応じ,昇級号数はそれぞれ5,4,3,2,1とされる。
(イ) 第2次調整では,1等級は31才(ママ)から,2等級は39才(ママ)から,3等級は42才(ママ)から,4等級は46才(ママ)から,5等級は51才(ママ)から,それぞれ調整を行うこととし(6等級は年令(ママ)調整を行わない。),昇給評語がS,A,B,C,Dであるのに応じ,昇級号数はそれぞれ4,3,2,1,0とされる。
エ 昇給の上限等
前記ウの調整年令(ママ)による昇給号数の調整が行われるほかは,同一等級内での昇給の上限の定めはなく,滞留が長期間に及んだ場合に例外的に昇格するといった取決めや基準は設けられていない。
(4) 昇給評語の決定の仕方
ア 昇給評語は,賞与支給時の成績評価の評語である「成績評語」を参考にして決定される。
この関係を図示すると,次のようになる。
各賞与における成績評語の標準分布は,Sが5パーセント,Aが20パーセント,Bが55パーセント,Cが15パーセント,Dが5パーセントである。
イ 前記アのとおり,年2回の成績評語が昇給評語につながるので,2回の成績評語が同じならば,翌年4月の昇給評語も同じ評語となる。夏と冬で異なった成績評語となった場合は,基本的には後の評価が優先されるが,これは原則であり,例えば夏にAをとり冬にBをとった者は,翌年4月の昇給においてAかBを部門の長の責任で決定されることとなっている。(<証拠略>)
(5) 成績評語の決定方法
ア 成績評語の評価の対象となる期間(以下「評価期間」という。)は,夏(以下「上期」という。)が前年の11月からその年の4月まで,冬(以下「下期」という。)がその年の5月から10月までのそれぞれ6か月間となっている。
<省略>
イ 成績評語の決定は,以下のような3次にわたる評価調整を経て行われる。なお,3次にわたる評定の査定基準として,課長の評価基準や部長の調整基準といったものが定められているが,社内には公開されていない。
(ア) 第1次評定
第1次評定においては,現場の管理監督者である課長等の実質上の直接監督者(第1次評定者)が,原告から与えられた成績評価基準書(<証拠略>。別紙5<略>)の評価要素ごとに,課員の点数をつける。評価要素には,服務,就業活動(Ⅰ),就業活動(Ⅱ),業務能率及び成果の5つがあり,それぞれに4つの着眼点が設けられている。
第1次評定者は,課員を等級ごとにグルーピングして点数をつけるが,その際評価要素ごとに標準者を決めてその標準者の点数を10点とし,標準者以外の者について標準者と比較した点数を,6点から14点までの範囲内でつけていく。そして各人について,その合計した点数(素点)を,そのまま部長又は事業所長(工場の場合)に報告し,この段階では成績評語はつけない。
(イ) 第2次評定
第2次評定においては,部長又は事業所長が第1次評定者から提出された成績評価報告書をもとに,部又は事業所全体で各等級ごとに素点に従って順位をつけていくことにより,部又は事業所全体としての調整がなされる。
この段階において,部又は事業所単位で前記(4)アの標準分布に従ってSからDまでの成績評語がつけられ,事実上ほとんど決定される。
(ウ) 第3次評定
第3次評定においては,総務課長をスタッフとして総務部長が,各部・各事業所から集まったものの全体調整をする。
この段階では,第2次評定で決まった各等級ごとの順位付けを変えることなく,部又は事業所ごとに評価の境目にある者を中心に微調整を行い,境目にある者の評価は,最終的には総務部長が判断する。
ウ このように決定された各人の成績評語は,賞与の支給明細書が渡される約1週間前に各課長に対して通知される。
(6) 賞与の支給方法
賞与は,上期にあっては6月,下期にあっては12月に,次の式により配分され支給される。
個人別賞与配分額=基本給比例部分(<1>)+成績比例部分(<2>)
<1> 基本給比例部分の算出方法
基本給×α×出勤係数
αは月数で,組合員については労使協定で決まる。
出勤係数は,過去6か月間の,「出勤日数(出勤すべき日数一欠勤日数)÷出勤すべき日数」で算出される。遅刻,早退,私用外出は,3回で欠勤日数1日と換算される。年次有給休暇,特別休暇は,出勤とされる。
<2> 成績比例部分の算出方法
一点単価×等級別成績評語別配分点数×出勤係数
一点単価は,組合員については労使協定で決まる。
等級別成績評語別配分点数は,以下のとおりである。
1等級の場合,成績評語がSは130点,Aは110点,Bが100点,Cが90点,Dが80点。
2等級の場合,成績評語がSは210点,Aは160点,Bが130点,Cが110点,Dが80点。
3等級の場合,成績評語がSは280点,Aは220点,Bが170点,Cが140点,Dが110点。
4等級の場合,成績評語がSは380点,Aは290点,Bが230点,Cが180点,Dが140点。
5等級の場合,成績評語がSは490点,Aは390点,Bが300点,Cが240点,Dが180点。
6等級の場合,成績評語がSは600点,Aは500点,Bが400点,Cが310点,Dが240点。
(7) 中途採用者の取扱い
中途採用者については,入社時の年齢や経験が異なるため,原告では入社前の経験を加味しつつ,年齢や前職の賃金を重要な要素として賃金決定を行っている。
4 改善提案制度とQIC活動
(<証拠・人証略>)
(1) 原告には「私の考え」と呼ばれる改善提案制度があり,社員は各々の仕事の中で様々な工夫を提案している。同時に,原告では原告の積極的な支援の下に社員の自主的な活動であるQIC活動が行われており,主に同種の仕事をしている者が約7,8名で小グループを構成し,その活動結果は年に一度の全社的な発表の場である全国大会で発表される。
(2) 「私の考え」の提案は,グループでも個人でも提案できるが,職場に備えつけの提案用紙に記入してQIC委員会の事務局に提出することになっている。グループ活動であるQIC活動の成果は同時に「私の考え」として提案されており,QIC委員会がサークルごとに「私の考え」の提案件数の統計をとって,毎月1回の全体朝礼の際に発表している。
(3) QIC活動は,主に昼休みや就業後に行われており,社員の自主的活動であるとの位置づけから,これに参加しても原告から残業手当は支払われていない。
組合は,原告がQIC活動を就業時間外に行わせながらも,残業手当を支払わないのは問題があるとする立場をとっていた。このため,原告は,本件組合員に対し,QIC活動への積極的な参加を求めなかった。また,本件組合員も「私の考え」を提案することはほとんどなかった。
5 朝のミーティングについて
(<証拠略>)
原告では,始業時刻(午前8時25分)10分前に従業員が自主的に参加する朝のミーティングが行われていたが,組合は,これは,就業時間外に労働を強いるものであり,時間外手当が支払われるべきであると主張していた。
6 本件組合員の職歴・組合歴・勤務状況及び新賃金制度上の評定
(1) 大池について(略,以下(9)まで略)
(10) 前記(1)から(9)までの本件組合員の昇給評語及び成績評語をまとめると,別紙6<略>のとおりである。これによると,大池,柳澤及び佐藤にあっては,社員全員がBとされた昭和56年4月昇給時以外はC又はDとされている。残りの本件組合員についてみると,金子と岡島を除き,2年以上にわたって各評語がBとされた組合員はいない。なお,金子も昭和60年上期からはC又はDとされ,岡島も昭和58年下期からは,昭和59年下期を除き,C又はDとされている。
7 本件組合員及び本件組合員以外の者の等級・号数の実態
(1) 本件組合員の昭和56年2月から平成2年4月までの等級・号数の経年的実態は,別紙7<略>のとおりである。
(2) 本件組合員及び本件組合員以外の者の等級・号数の経年的実態は,別紙8<略>のとおりである。(<証拠・人証略>,弁論の全趣旨)
ア 大池,和家及び岩田と同じ昭和45年大卒入社の川崎修身,後藤猛吉,狩野俊正及び鎌谷伊佐久の4名は,昭和56年2月時点では全員4等級であった。後藤は昭和58年4月には,川崎は昭和60年4月には,狩野は平成2年4月には,それぞれ5等級であり,鎌谷は平成2年4月には4等級であった。
他方,大池,和家及び岩田は,昭和56年2月時点では3等級ないし2等級であり,平成2年4月時点(和家については死亡時点)も等級に変化はなかった。
イ 柳澤と同じ昭和41年高卒入社の森山哲雄,門倉博,吉田孝一の3名は,昭和56年2月時点では4等級であり,同じく藤原常男は同時点で3等級,同じく増田高志は同時点で2等級であったが,藤原は昭和58年4月には4等級であった。平成2年4月時点も各人の等級は同様であった。
他方,柳澤は,昭和56年2月時点では1等級であり,昭和61年5月に2等級になり,その後等級に変化はなかった。
ウ 金子と同じ昭和44年高卒入社の国府田は,昭和56年2月時点では3等級,昭和58年4月には4等級であった。
同じく真鍋哲及び亀山静夫の2名は,昭和56年2月時点では4等級であった。同じく藤本守は,同月時点では3等級であったが,同年4月には4等級になっており,平成2年4月時点も各人の等級は同様であった。
同じく青山守,岡田保男,高岡政美の3名は,昭和56年2月時点では3等級であり,平成2年4月も同様であった。
同じく下川和司は,昭和56年2月時点では2等級であり,昭和58年4月には3等級であり,平成2年4月時点でも同様であった。
同じく荒巻孝三郎,竹内文明,青木義文及び宮武章造の4名は,昭和56年2月時点では2等級であり,その後,荒巻は昭和60年4月,竹内は昭和61年4月,青木及び宮武は昭和62年4月には,それぞれ3等級であった。
同じく竹村正沖及び増田善太郎は,昭和56年2月時点では2等級であり,平成2年4月時点でも同様であった。
他方,金子は,昭和56年2月からの2等級に変化はなかった。
なお,これらの者のうち,真鍋,国府田,亀山,青山,高岡,荒巻,青木,竹村及び増田は,金子と同じく中途採用者であり,新卒で同一年に入社した者と比較して,金子,荒巻及び増田は2歳,真鍋は7歳,国府田は5歳,亀山と青木は1歳,青山,高岡,竹村は3歳ずつ年齢が高かった。
エ 酒井と同じ昭和43年高卒入社の染谷は,昭和56年2月時点では4等級であり,昭和59年4月には5等級であった。
同じく国友武志は,昭和56年2月の時点では3等級であったが,同年4月には4等級になった。
同じく戸井田隆,海老原幸一,遠藤一夫及び鈴木義治の4名は,同年2月時点では2等級であり,昭和60年4月には3等級であった。
同じく川辺一男は,昭和56年2月時点では3等級であり,平成2年4月も同様であった。
他方,酒井は,昭和56年2月からの2等級に変化はない。
オ 佐藤と同じ昭和45年高卒入社の遠山道伸,深田俊則及び南原重清の3名は昭和56年2月時点では3等級であり,遠山及び深田は昭和59年4月時点には,南原は昭和60年4月時点には,それぞれ4等級であった。
同じく安西明,長島君哉,渡辺辰夫,三好弘二,飯塚和夫及び石川孝雄の6名は,昭和56年2月時点では2等級であり,渡辺を除く5名は昭和60年4月には,渡辺は昭和61年4月には,それぞれ3等級であった。
同じく石塚光一及び川村智宏の2名は,昭和56年2月時点で2等級であり,平成2年4月も同様であった。
他方,佐藤は,昭和56年2月からの2等級に変化はない。
なお,佐藤と同年入杜の遠山道伸は,工業高等専門学校卒の新規採用者であり,同一年に入社した者と比べ2歳年齢が高かった。
カ 鈴木と同じ昭和48年高卒入社の石島良介,古徳豊及び前田章の3名は,昭和56年2月時点では2等級であり,石島及び古徳は,昭和60年4月には,前田は昭和61年4月には,それぞれ3等級であった。
同じく酒巻明彦及び日塔道春の2名は,昭和56年2月時点では2等級であり,平成2年4月も同様であった。
他方,鈴木は,昭和56年2月からの2等級に変化はない。
キ 岡島と同じ昭和49年大卒入社の鈴木(美)は,昭和56年2月時点及び4月時点では3等級であったが,昭和58年4月には4等級であり,昭和62年4月には5等級であった。
同じく木次谷栄一,浜田雅士,香月浩二,長妻輝夫,浜忠信,衣川正紀,酒井真澄,是枝季久夫,岡田操及び松尾健介の10名は,昭和56年2月時点では3等級であり,その後,木次谷は同年4月,香月,長妻,浜の3名は昭和57年4月,衣川,酒井真澄,是枝及び岡田は昭和58年4月,松尾は平成2年4月には,それぞれ4等級であった。なお,浜田は平成2年4月までには退職したが,退職時には4等級のままであった。
同じく高橋辰雄は,昭和56年2月の時点では2等級であり,昭和58年4月には3等級であった。
他方,岡島は,昭和56年2月からの3等級に変化はなかった。
同じく組合の組合員である池田博明は,昭和56年2月時点で2等級であり,平成2年4月も同様であった。
なお,これらの者のうち,鈴木(美)は中途採用者であり,新卒で同一年に入社した者と比較して,1歳年齢が高かった。
ク 新賃金制度が導入されてから,本件組合員のうちで昇級した者は,柳澤のみである。
第2争点に対する判断
1 争点1(不利益取扱いの立証事項)について
(1)ア 労組法7条1号本文前段は,使用者が,「労働者が労働組合の組合員であること,労働組合に加入し,若しくはこれを結成しようとしたことの故をもって,その労働者に対し不利益な取扱をすること」を不当労働行為として禁止しているところ,これらの要件が充足された場合に,同号本文前段にいう「不利益取扱」の不当労働行為が成立するのであるから,同号本文前段の不当労働行為があると主張する者は,これらの要件,すなわち,<1>労働者が労働組合の組合員であること,労働組合に加入し,若しくはこれを結成しようとしたこと,<2>使用者が当該労働者に対し不利益取扱いをしたこと,<3>前記<2>の不利益取扱いが前記<1>の故にされたこと,を主張し,立証する必要がある。
イ ところで,企業における人事考課は,年功序列的に行われ,経歴や職務内容を同じくする従業員であれば,一定年令(ママ)に達することにより同等の考課がされる場合もなくはないが,一般には,人事考課は多かれ少なかれ能力主義的に行われ,経歴や職務内容を同じくする従業員であっても,その能力,勤務実績に応じて考課がされ,その結果として格差が生じる場合も少なくないから,労働組合の組合員と経歴や職務内容を同じくする組合員以外の者との間に人事考課に基づく格差が生じているからといって,それが当然に組合員に対する不利益取扱いであるとはいえない。
したがって,本件のように,労働組合の組合員と組合員以外の者との間に人事考課に基づく等級格差,昇給及び賞与の格差が生じている場合には,当該組合員が組合員以外の者と能力,勤務実績が同等であるのに,当該組合員に対する査定結果が組合員以外の者の査定結果と比べて低いといえる場合であって初めて,当該組合員に対する「不利益取扱」がある,すなわち,<2>の要件を充足するといえるから,この「不利益取扱」を主張する者は,当該組合員に対する低査定の事実のほかに,当該組合員が組合員以外の者と能力,勤務実績において同等であることを主張し,立証することを要するものというべきである。
この「当該組合員が組合員以外の者と能力,勤務実績において同等であること」の立証については,前記のように人事考課が年功序列的に行われている場合には,経歴や職務内容を同じくする従業員であれば,一定年齢に達することにより同等の考課がされるものであるから,特段の事情のない限り,「当該組合員が組合員以外の者と能力,勤務実績において同等である」と推認でき,反証のない限り,「当該組合員が組合員以外の者と能力,勤務実績において同等であること」の立証があったものと認めることができる。これに対し,人事考課が能力主義的に行われている場合には,そのように推認することはできないから,「当該組合員が組合員以外の者と能力,勤務実績において同等であること」を直接立証する必要があるというべきであるが,従業員の能力,勤務実績等の資料は使用者が保有しているのが通常であり,使用者がこれを明らかにしない限り,その立証に困難が伴うことは否定できない。したがって,このような場合には,当該組合員が,自己の把握し得る限りにおいて具体的根拠を挙げて組合員以外の者と能力,勤務実績において劣らないことを立証すれば,「当該組合員が組合員以外の者と能力,勤務実績において同等である」と推認することも許されるというべきである。
ウ そして,<3>は,使用者が,当該労働者が労働組合の組合員であること等の事実を認識し,そのことの故に当該労働者に「不利益取扱」をしようと意欲し,これを実現することであるから,使用者が当該労働組合の存在や当該組合員の組合活動を嫌悪していたこと,当該不利益取扱いが労働組合の組織や活動に打撃を与えていることが立証できれば,当該労働者が労働組合の組合員であることないしは組合活動をしたことの故に当該不利益取扱いをしようとしたとの使用者の意欲を推認することができる。したがって,使用者は,これに対する反証として,当該労働者に対する人事考課が正当であるなど,当該労働者が不利益に取り扱われるだけの合理的理由が存することを主張,立証し,この「不利益取扱」が当該労働者が労働組合の組合員であること等の故ではないことを主張,立証する必要があるものである。したがって,使用者がこの反証をしないとき,又は,この反証に十分な理由がないときは,そのことと相まって,当該不利益取扱いは,当該労働者が労働組合の組合員であることないしは組合活動をしたことの故であると認めることができるというべきであるから,<3>の立証があったということができる。
エ 前記イ,ウで述べたところからすれば,労働委員会や訴訟の審理における具体的な立証方法としては,まず,使用者に対し,当該組合員の能力,勤務実績が劣り,当該組合員に対する人事考課が正当であることを具体的事実に基づいて主張,立証させ,これに対し,当該組合員にこれを否定する具体的根拠を主張,立証させることとするほうが,実際的,効率的であり,当該組合員の能力,勤務実績が劣り,当該組合員に対する人事考課が正当であるとの使用者の主張,立証に理由がなく,これを否定し,当該組合員の能力,勤務実績が組合員以外の者と劣らないとする当該組合員の主張,立証に理由があるときは,当該組合員が組合員以外の者と比較して,能力,勤務実績において同等であると認めることができ,不利益取扱いがあるといえるし,また,当該組合員に対するこの不利益取扱いに合理的な理由がないといえるから,これにより,使用者が当該労働組合の存在や当該組合員の組合活動を嫌悪していたこと,当該不利益取扱いが当該労働組合の組織や活動に打撃を与えていることと相まって,不利益取扱いが当該労働者が労働組合の組合員であることないしは組合活動をしたことの故であるとして,労組法7条1号本文前段にいう「不利益取扱」の不当労働行為の成立を認めることができるというべきである。
(2) 本件命令は,「本件組合員に対する賃金上の差別」欄で,本件組合員と他の従業員との間に等級格差,昇給,賞与に関する低査定が存在すること,原告が組合及びその組合員を嫌悪していることを認定するとともに(本件命令書72ページないし76ページ),原告による本件組合員に対する仕事上の差別的取扱いがあることや,原告が本件組合員各自の人事考課の理由について主張立証した点についても,検討判断して(本件命令書76ページないし98ページ),原告と組合が紛争状態にあり,原告が過去に不当労働行為を行っていること,原告の管理職らが組合及び本件組合員を敵視していること,本件組合員に対する人事考課が正当とは認められないことから,原告が本件組合員の組合活動を嫌悪し,仕事上の差別的取扱いをした上,賃金上の差別を行い,その結果柳澤を除く本件組合員について等級格差を生じさせたとし,これが本件組合員に対する不利益取扱いであるとしているところ(本件命令書98ページないし99ページ),他方で,「賃金に係る救済方法」欄で,「本件組合員が同期同学歴入社者の中位者と比較して劣っていないことの疎明は何らされていない」(本件命令書100ページ)としているから,本件組合員に対する賃金上の差別を「不利益取扱」と認定するに当たり,本件組合員と本件組合員以外の者とを比較して能力,勤務実績が同等であるとの判断を捨象したものではないかとの疑問を生じさせるおそれがあり,その措辞は適切を欠く。
被告は,原告が本件組合員に対し仕事上の差別的取扱いを行っていたから,本件組合員が他の従業員と比較して能力,勤務成績等が劣らないことを証明することはできない状況下にあると主張するが,仕事上の差別的取扱いがあることと,本件組合員が,その従事する仕事において,他の従業員と比較して能力,勤務成績等が同等であることとは別個の事柄であり,仕事上の差別的取扱いがあるからといって,本件組合員が,その従事する仕事において,他の従業員と比較して能力,勤務成績等が同等であることを証明することができないとはいえないから,被告の主張は,その前提を欠き,採用できないし,前記(1)の説示に照らし,本件組合員の能力,勤務実績の立証についての負担が原告に転換されるべきであるとする参加人らの主張も採用できない。
しかし,前記(1)で述べたとおり,参加人らが主張するように,原告の人事考課が年功序列的に運用されているのであれば,経歴や職務内容を同じくする従業員であれば,同等の考課を受けるはずであるといえるから,本件組合員と本件組合員以外の者との間の等級,昇給及び賞与の格差は,不利益取扱いであるといえるのである。また,人事考課が能力主義的に行われている場合であっても,労働組合の組合員が組合員以外の者と比較して,能力,勤務実績において同等であることが証明されているのであれば,本件命令で被告が認定,判断したところと相まって,不利益取扱いの事実ひいて不当労働行為の成立を認めることができるところ,「本件組合員が同期同学歴入社者の中位者と比較して劣っていないことの疎明は何らされていない」との本件命令の前記の認定,判断は,賃金に係る救済方法についての判断部分でされていることも併せ考えると,「不利益取扱」の不当労働行為の成立を認めた本件命令の前記の判断経過は,前記(1)で述べたところとその趣旨において異なるものとまでは解されない。
のみならず,仮に本件命令の「不利益取扱」に関する不当労働行為の認定,判断手法が前記(1)で述べたところと異なるとしても,要は,本件における事実関係の下において,「不利益取扱」の不当労働行為が成立するために必要な前記(1)の立証がされているかの問題に帰着するといえるから,本件命令の文言をとらえ,本件命令が不利益取扱いについての立証のないままこれを認めていることを理由に,直ちに本件命令を取り消すべきであるとの原告の主張は,結論において採用できない。
2 争点2(不当労働行為の成否,とりわけ本件組合員の人事考課)について
(1) 本件組合員の活動
本件組合員は,組合の組合員であり,積極的に組合活動を行っていたものである(第2章第1の1(3)ア,第3章第1の6(1)ないし(9)の各ア(イ))。
(2) 「不利益取扱」の事実の有無及びそれが組合の組合員であることの故であるかについて
ア 等級の格差について
(ア) 原告においては,新賃金制度が導入される昭和56年2月以前には,基本的には年功序列的な色彩の強い賃金体系であったが,人事考課の反映として同期同学歴入社者の間でも,多少の賃金格差はあった(第1の2(2))。また,新賃金制度の導入に当たり,同期同学歴入社者の間でも,位置づけられた等級に格差があった(別紙8)。しかし,新賃金制度自体が本件組合員に対する賃金差別を意図したものであることを認めるに足りる証拠はない。
(イ) 新賃金制度の下,昭和56年2月時点で格付けされた等級を前提に,同月以降に本件組合員と本件組合員以外の者との間で等級格差が生じたのかどうかをみると,次のようになる。
a 大池,和家及び岩田について
昭和56年2月以降の期間において,大池ら3名(大池,和家,岩田)を除く川崎修身ら4名の半数が昭和58年4月時点で4等級から5等級に昇級しており,等級の差が1級拡がっている。
b 柳澤について
新賃金制度導入の時点では森山哲雄ら5名との間で等級の格付けに差はあるが,その後に等級格差は生じていない。
c 金子について
国府田との等級の差は,昭和56年2月時点では1級であったが,昭和57年4月には2級に,平成2年4月時点では3級になった。昭和56年2月時点で金子と同じ2等級であった荒巻孝三郎及び竹内文明が昭和61年4月時点で3等級になって1級の差が生じ,同期の3分の2が3等級以上になった。
d 酒井について
昭和56年2月時点で染谷とは2級,国友武志及び川辺一男とは1級の差であったが,昭和60年4月時点からは酒井を除く全員と1級ないし3級の差になった。
e 佐藤について
遠山道伸,深田俊則及び南原重清の3名とは昭和59年4月時点で2級の差になり,安西明,長島君哉,渡辺辰夫,三好弘二,飯塚和夫及び沼川孝雄の6名とは昭和60年4月から1級の差が生じ,同期の4分の3が3等級以上になった。
f 鈴木について
石島良介,古徳豊及び前田章の3名とは,昭和60年4月から1級の差が生じ,同期の半数が3等級になった。
g 岡島について
昭和56年2月時点では池田博明及び高橋辰雄を除き等級の差がなかったが,昭和57年4月時点では,岡島と池田を除く同期の4分の3以上が4等級になり,1級の差が生じた。
(ウ) 前記(イ)で本件組合員と比較した本件組合員以外の者の中には,国府田と鈴木(美)のように,賃金上の取扱いが異なる中途採用者がいるが,これらの者の取扱いが異なるのは入社時の賃金であり,また,これらの中途採用者と同一年に入社した金子又は岡島との年齢を比較してみても,国府田とは3歳,鈴木(美)とは1歳の年齢差にすぎず,このような年齢差のみで前記イのような等級格差が生じたものとは考えがたい。
(エ) 以上のように,新賃金制度が実施されてから,本件組合員のうち大池,和家,岩田,金子,酒井,佐藤,鈴木及び岡島の8名については,本件組合員以外の者との間で等級格差が生じたものと認められるが,柳澤については,本件組合員以外の者との間で等級格差は生じていない。
イ 昇給及び賞与の格差について
原告における定期昇給の昇給評語は,年2回の賞与支給時に行われる成績評価の結果(成績評語)が反映されるのであるから(第1の3(3)イ),昇給評語は,賞与における成績評語の標準分布(第1の3(4)ア)と同様の分布になるものといえる。
本件組合員の昇給評語及び成績評語は,一定の期間を除きC又はDとされている(第1の6(10))。C又はDとされた社員は,前記の各評語の分布によれば,全体の20パーセントを占めるに過ぎず,80パーセントの者はB以上とされていたことになる。
したがって,本件組合員の昇給評語又は成績評語がC又はDとされた各昇給及び各賞与については,原告の他の社員との間に格差が生じていたものと判断できる。
ウ 原告の新賃金制度の運用が能力主義的か否かについて
原告の新賃金制度についての説明用小冊子(<証拠略>)によれば,原告の新賃金制度は,能力主義的な運用を目的としたものと認められる。
そして,証拠(<証拠・人証略>)によれば,原告全社員の入社年度別の平成2年2月時点での等級分布は,同期入社の社員であっても広範囲に及んでいることが認められるから,原告の新賃金制度における運用は,能力主義的にされたものということができる。
これに対し,参加人らは,同制度の運用は年功的に行われたとし,(証拠・人証略)は,勤続年数が長い年代ほど等級が高く,また,女性が低等級に位置づけられ,高等級では大卒者の割合が高いのが実態であり,年令(ママ),性,学歴による運用が行われているとするが,前掲証拠及び(証拠略)に照らし,採用できない。
しかし,原告における成績評語は,第1次評定者から提出された成績評価報告書を下に,第2次評定までに事実上決定されるところ(第1の3(5)),第1次評定における評価が公正でないとした場合にこれを是正する方法は特段とられていない(<人証略>によれば,第1次評定は課長等が全責任を負うもので,原告には,苦情処理委員会などの評価に対する不服申立て手段はとられていないことが認められる。)から,この評価に評定者の主観ないし恣意が入り込んだ場合には,それを是正する方法はなく,その意味で,新賃金制度の下における人事考課制度は,評定対象者の能力,勤務実績について正当でない評価がされることもあり得る制度であると言わざるを得ない。
エ 原告の組合に対する態度
昭和50年5月の組合公然化以来原告と組合は紛争状態にあり,原告は,大池,和家,金子,酒井及び岡島を含む組合員10名に対して業務の格下げ等による仕事上の差別的取扱いを行ったり,岡島に対し配転を命じるといった不利益取扱い等を行ってきており,労働委員会及び裁判所においてこれらの原告の行為は不当労働行為と認定判断されている(第1の1)。
また,原告の管理職らは,本件組合員に対して,組合活動のための職場離脱等を理由として,日常的に様々な嫌がらせの言動を行う等,一貫して組合及び本件組合員を敵視していることが認められる(第1の6)。
オ 本件組合員の人事考課の正当性等について(略)
カ 小括
以上によれば,本件組合員のうち,大池,和家,金子,酒井,佐藤,岩田,鈴木,岡島については,不当労働行為(不利益取扱い)の成立を認めることができ,同時に組合に対する不当労働行為(支配介入)を認めることができるが,柳澤については不当労働行為(不利益取扱い)を認めることはできず,同人に対する関係で組合に対する不当労働行為(支配介入)を認めることもできない。
3 争点4(和家の救済利益の有無)について
争点3の判断に先立ち,争点4について判断する。
不当労働行為救済制度の目的は,労働者の団結権を擁護し,労使関係の将来の正常化を図ることにあり(労組法1条1項参照),使用者により労働者に対する不利益取扱いが行われた場合には,不利益取扱いを受けた労働者とその労働者の所属する労働組合がその是正を求めて救済申立てをすることができるものである。そして,救済申立てをした当該労働者が死亡した場合の承継手続が定められていること(労働委員会規則34条1項7号)からすれば,当該労働者の救済を求める利益は,それが当該労働者の一身専属的なものでない限り,その相続人によって承継することができるものと解するのが相当である。
和家の,等級,昇給及び賞与についての不利益是正を求める利益は,経済上の不利益是正を求めるもので,経済的利益といえるから(いかなる等級に位置づけられるかによりその給与も異なるのであるから,等級是正を求める利益も経済的利益ということができる。),和家の一身専属的とはいえず,相続の対象となると解するのが相当である。したがって,和家の相続人に救済利益がないとする原告の主張は,採用できない。
4 争点3(救済方法の違法性)について
(1) 査定に関する不利益取扱いが不当労働行為であるといえるためには,当該労働者が同種,同等の能力,勤務実績を有するにもかかわらず,他の者と比較して低く査定されていることが証明されなければならないから,本件命令が,「本件において,本件組合員が同期同学歴入社者の中位者と比較して劣っていないことの疎明は何らなされていない」としながら,不当労働行為の成立を認めて救済しているのは,措辞適切を欠くが,前記2(2)オ(ア)ないし(ケ)で判断したとおり,柳澤を除く本件組合員については,その一部(大池についてはその全部)について査定に関する不利益取扱いがあり,不利益取扱い及び支配介入の不当労働行為を認めることができるものである。
(2)ア 本件命令は,「本件において,本件組合員が同期同学歴入社者の中位者と比較して劣っていないことの疎明は何らなされていない」ことを前提としつつ,等級についての是正方法は,柳澤を除く本件組合員と本件組合員以外の者との間で等級格差が明らかになった時点からその等級格差分を是正させるのが相当であり,昭和56年2月時点で格付けされた等級を前提に,同月以降に生じた等級格差分を是正させるのが相当であるとして,<1>大池,和家及び岩田については,同人ら以外の者の半数が5等級になった昭和58年4月から,<2>金子については,同人以外の3分の2以上が3等級以上になった昭和61年4月から,<3>酒井については,同人を除く全員が3等級以上になった昭和60年4月から,<4>佐藤については,同人を除く4分の3以上の者が3等級以上になった昭和60年4月から,<5>鈴木については,同人以外の者の半数が3等級になった昭和60年4月から,<6>岡島については,同人及び池田以外の者の4分の3以上が4等級になった昭和57年4月から,それぞれ1級分昇級させるのが相当であるとし,昭和61年度から平成2年度までの各年度の等級について本件命令添付別紙8に基づき是正することを命じている。また,前記各年度の昇給及び賞与については,本件組合員の昇給評語又は成績評語が「C」又は「D」とされた各昇給及び各賞与について,同人らの各評語を原告の他の社員の平均的な評語である「B」にすることが相当であるとし,前記のように是正した等級を前提に各評語を「B」として計算し直し,既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して本件組合員に支払うこと(和家については,退職金を含む差額を和家らに支払うこと)を命じている。
イ(ア) 本件命令のこれらの救済方法は,本件命令が本件組合員について認定,判断した原告の不当労働行為の有無,程度を前提にしていること,すなわち,本件命令が本件組合員に対する原告の人事考課が全て正当とはいえないと認定,判断したところを踏まえて本件組合員に対する救済方法を検討していることは,その説示に照らし,明らかである。
しかし,前記2(2)オ(ア)ないし(ケ)でみたとおり,原告が本件組合員にした人事考課には不当とはいえない部分も相当あるのであるから,これら原告の本件組合員にした人事考課が一律に不当であることを前提としてされた本件命令の具体的救済方法(大池に対するものを除く。)は,その前提事実を誤り,救済方法として過ぎたものであるといわざるを得ない。
(イ) そこで,以下,本件命令の命じた救済方法の適否について,個別組合員ごとに検討する。
a 大池について
原告が大池にした人事考課は,そのすべてにおいて不当であり,その間,大池が同一等級の他の者と比較して同等の能力,勤務実績を有していたことが推認できるから,本件命令中,大池について,大池以外の者の半数が5等級になった昭和58年4月から1級分昇級させるのが相当であるとし,昭和61年度から平成2年度までの各年度の等級を4等級とした上,同各年度の昇給及び賞与について,この是正した等級を前提に,各昇給評語及び各成績評語を他の社員の平均的な評語である「B」として計算し直し,既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分は,不当労働行為に対する救済方法として被告に与えられた裁量権の範囲内といえるから,これが違法であるとすることはできない(新賃金制度の等級説明書(別表2及び別表3を含む。)によれば,各等級ごとの職位は「代表的職位」とされており,必ずしも限定されたものとは解されないから,大池について,他の者との間で現に等級格差がある以上,必要な限度でその状態を是正することも被告の裁量の範囲内である。)。
b 和家について
原告が和家にした人事考課は,昭和59年下期から昭和60年上期までのB評価及び昭和60年下期,昭和61年4月昇給のC評価のみが正当であり,これを除くC評価はすべて不当であって,この不当なC評価がされた期間,和家が同一等級の他の者と比較して同等の能力,勤務実績を有していたことが推認できるし,和家のC評価が正当なのは昭和60年下期,昭和61年4月昇給のみであることからすれば,本件命令中,和家について,和家以外の者の半数が5等級になった昭和58年4月から1級分昇級させるのが相当であるとし,昭和61年度から昭和63年度までの各年度の等級を3等級とした部分が,不当労働行為に対する救済方法として被告に与えられた裁量権の範囲を逸脱したものとまではいえないから,これが違法であるとすることはできない。
しかし,同各年度の昇給及び賞与について,この是正した等級を前提に,各昇給評語及び各成績評語を他の社員の平均的な評語である「B」として計算し直し,既払い賃金額との差額(賞与,退職金を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分は,昭和60年下期,昭和61年4月昇給をC評価としたことが不当であるとまではいえないから,これらを含めた是正を命じている点で,原状回復の域を超えるもので,不当労働行為に対する救済方法として被告に与えられた裁量権を逸脱したものというべきであり,違法である(その余の各昇給評語及び各成績評語を他の社員の平均的な評語である「B」として計算し直し,既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分は適法である。)。
c 柳澤について
柳澤についての昇給及び賞与の格差が不当労働行為であるとはいえないから,昭和61年度から平成2年度までの各年度の昇給及び賞与について,各昇給評語及び各成績評語を他の社員の平均的な評語である「B」として計算し直し,既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分は違法である。
d 金子について
原告が金子にした人事考課は,昭和56年上期,下期,これらを受けた昭和57年4月昇給のC評価は正当であるが,その後昭和57年下期から昭和60年4月昇給までB評価を受けた後の,昭和60年上期以降の各C評価は,昭和63年上期,下期,平成元年4月昇給時の評価を除き,いずれも不当である。したがって,この不当なC評価がされた昭和60年上期及び下期において,金子が同一等級の他の者と比較して同等の能力,勤務実績を有していたことが推認できることや,それまでの昭和57年上期以降昭和60年4月昇給まで金子がB評価であることからすれば,本件命令中,金子について,金子以外の3分の2以上の者が3等級になった昭和61年4月から1級分昇級させるのが相当であるとし,昭和61年度から平成2年度までの各年度の等級を3等級とした部分が,不当労働行為に対する救済方法として被告に与えられた裁量権の範囲を逸脱したものとまではいえないから,これが違法であるとすることはできない。
また,同各年度の昇給及び賞与について,この是正した等級を前提に,各昇給評語及び各成績評語を他の社員の平均的な評語である「B」として計算し直し,既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分は,昭和63年上期,下期,平成元年4月昇給をC評価としたことが不当であるとはいえないから,これらを含めた是正を命じている点で,原状回復の域を超えるもので,不当労働行為に対する救済方法として被告に与えられた裁量権を逸脱したものというべきであり,違法である(その余の各昇給評語及び各成績評語を他の社員の平均的な評語である「B」として計算し直し,既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分は適法である。)。
e 酒井について
原告が酒井にした人事考課は,昭和56年上期以降昭和59年4月昇給時までのC評価,昭和63年度上期,下期,平成元年4月昇給のB評価は正当であるが,それ以外の時期のC評価はすべて不当である。
しかし,前記2(2)オ(オ)gのとおり,酒井についての等級格差が不当労働行為であるとまではいえず,酒井の等級を昭和60年4月から1級分昇級させるのが相当とはいえないから,本件命令中,酒井について,昭和61年度から平成2年度までの各年度の等級を3等級に是正し,同各年度の昇給及び賞与について,この是正した等級を前提に各昇給評語及び各成績評語を他の社員の平均的な評語である「B」として計算し直し,既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分は,不当労働行為の原状回復の範囲を超え,被告に与えられた裁量権を逸脱したものとして違法であるといわざるを得ない。
f 佐藤について
原告が佐藤にした人事考課は,昭和56年上期,昭和57年上期,下期,昭和58年4月昇給の各C評価は不当であるが,それ以外の時期のC評価ないしD評価は不当とはいえない。
そして,佐藤についての等級格差が不当労働行為であるとまではいえず,佐藤の等級を昭和60年4月から1級分昇級させるのが相当とはいえないから,本件命令中,佐藤について,昭和61年度から平成2年度までの各年度の等級を3等級に是正し,同各年度の昇給及び賞与について,この是正した等級を前提に各昇給評語及び各成績評語を他の社員の平均的な評語である「B」として計算し直し,既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分は,不当労働行為の原状回復の範囲を超え,被告に与えられた裁量権を逸脱したものとして違法であるといわざるを得ない。
g 岩田について
原告が岩田にした人事考課は,昭和56年上期,下期の各C評価は不当であるが,それ以外の時期の評価は不当とはいえない。
そして,岩田についての等級格差が不当労働行為であるとまではいえず,岩田の等級を昭和58年4月から1級分昇級させるのが相当とはいえないから,本件命令中,岩田について,昭和61年度から平成2年度までの各年度の等級を3等級に是正し,同各年度の昇給及び賞与について,この是正した等級を前提に各昇給評語及び各成績評語を他の社員の平均的な評語である「B」として計算し直し,既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分は,不当労働行為の原状回復の範囲を超え,被告に与えられた裁量権を逸脱したものとして違法であるといわざるを得ない。
h 鈴木について
原告が鈴木にした人事考課は,昭和56年上期から昭和59年下期まで及び昭和60年度4月昇給時のC評価は,昭和58年上期のBを除き,不当であるが,それ以外の時期の評価は不当とはいえない。
そして,この不当なC評価がされた昭和59年度までの期間,鈴木が同一等級の他の者と比較して同等の能力,勤務実績を有していたことが推認できるから,本件命令中,鈴木について,鈴木以外の者の半数が3等級になった昭和60年4月から1級分昇級させるのが相当であるとし,昭和61年度から平成2年度までの各年度の等級を3等級とした部分が,不当労働行為に対する救済方法として被告に与えられた裁量権の範囲を逸脱したものとまではいえないから,これが違法であるとすることはできない。
しかし,同各年度の昇給及び賞与について,この是正した等級を前提に各昇給評語及び各成績評語を他の社員の平均的な評語である「B」として計算し直し,既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分は,この期間の原告の評価が,昭和61年4月昇給,昭和61年上期,昭和63年上期の各B評価を除き,不当とはいえないから,これら不当とはいえない評価の期間を含めた是正を命じている点で,不当労働行為の原状回復の範囲を超え,被告に与えられた裁量権を逸脱したものとして違法であるといわざるを得ない。
i 岡島について
原告が岡島にした人事考課は,昭和58年下期から昭和61年上期までのC評価は,昭和59年下期のB評価を除き,不当であり,平成2年下期のD評価も不当であるし,評価されなかった昭和61年下期から昭和63年下期まで及び平成元年4月昇給もC評価が相当とはいえない。
そして,岡島が昭和56年度以降昭和58年上期まで一貫してB評価であったことからすれば,本件命令中,岡島について,岡島及び池田以外の者の4分の3以上が4等級になった昭和57年4月から1級分昇級させるのが相当であるとし,昭和61年度から平成2年度までの各年度の等級を4等級とした部分が,不当労働行為に対する救済方法として被告に与えられた裁量権の範囲を逸脱したものとまではいえないから,これが違法であるとすることはできない。
しかし,同各年度の昇給及び賞与について,この是正した等級を前提に各昇給評語及び各成績評語を他の社員の平均的な評語である「B」として計算し直し,既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分は,平成元年上期から平成2年上期までの病気休暇期間中は低評価されてもやむを得ないから,この期間を含めた是正を命じている点で,原状回復の域を超えるもので,不当労働行為に対する救済方法として被告に与えられた裁量権を逸脱したものというべきであり,違法である(その余の期間について,各昇給評語及び各成績評語を他の社員の平均的な評語である「B」として計算し直し,既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分は適法である。)。
5 結論
(1) 本件命令の主文第Ⅰ項中,大池に関する部分は正当であるが,その余の部分は,柳澤については不当労働行為の成立を認めた点で既に違法であり,和家,金子,酒井,佐藤,岩田,鈴木,岡島については,その救済方法を一部誤った点で違法である。したがって,本件命令主文第1項の取消を求める原告の請求は,大池に関する部分の取消しを求める部分は理由がないから棄却すべきであるが,その余の部分の取消を求める部分は以下の部分について理由があるから,認容すべきであり,その余は理由がないから棄却すべきである。
和家について,昭和61年4月昇給を「B」として計算し直し,既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分及び退職金についての差額の支払を命じた部分(昭和61年度から昭和63年度上期までの間において,昭和61年4月昇給のC評価が不当とはいえないから,これを含めてすべてをB評価として退職金を計算し直すことは不当労働行為の救済方法として過ぎたものであるところ,退職金の差額の支払を命じた部分は,昭和61年4月昇給をC評価とし,それ以外をB評価として計算し直した退職金の差額が支払われるべきものであるから,この部分も取り消すこととする。),
金子について,昭和63年上期,下期,平成元年4月昇給を「B」として計算し直し,既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分,
酒井,佐藤,岩田についてはその全部,
鈴木について,昭和61年下期から昭和63年4月昇給まで,昭和63年下期から平成2年下期までを「B」として計算し直し,既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分,岡島について,平成元年上期から平成2年上期までを「B」として計算し直し,既払い賃金額との差額(賞与を含む。)に年5分の利息を付して支払うことを命じた部分。
(2) 本件命令の主文第Ⅱ項については,柳澤を除く本件組合員について不当労働行為が認められるのであるから,被告が原告に命じた文書・手交の全ての部分が根拠を欠くとはいえないが,被告は本件組合員全員についてその全てが不当労働行為に当たることを前提として文書の手交・掲示を命じたと解されるから,これを取り消すのが相当であり,この取消しを求める原告の請求は理由がある。
(3) 本件命令の主文第Ⅲ項については,原告の組合の組合員に対する仕事上及び賃金上の差別的取扱いが認められるから,これに関する原告の再審査申立てを棄却したのは正当である。その余の再審査申立てを棄却した部分については,主文第Ⅰ項中,前記(1)の部分及び主文第Ⅱ項を取り消すことにより,原告の満足が図られるから,特に主文第Ⅲ項を取り消すことはしない。
4 よって,主文のとおり判決する。なお,参加人和家嘉津子,同和家良,同和家美佳,同和家真希の参加によって生じた費用は,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法64条但書を適用して,原告に負担させることとする。
(裁判長裁判官 山口幸雄 裁判官 木納敏和 裁判官 鈴木拓児)
(別紙3) 等級構造の代表的職位ならびに昇格資格要件
<省略>
(別紙4) 等級説明書
<省略>