大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成10年(行ウ)24号 判決 2003年5月22日

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告が平成6年2月28日付けで原告に対してした原告の平成3年1月1日から同年12月31日までの事業年度分の法人税に係る更正処分のうち所得金額が230万6035円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

2  被告が平成6年2月28日付けで原告に対してした原告の平成3年1月1日から同年12月31日までの事業年度分の法人臨時特別税決定処分及び無申告加算税賦課決定処分を取り消す。

第2事案の概要

本件は,原告が,組合を結成し,同組合が銀行から融資を受けて,その融資金を使って映画に係る権利を取得したとして,同映画についての減価償却費等を損金計上して法人税の申告をしたところ,被告において,上記減価償却費の損金計上等は認められないとして,原告に対し,法人税更正処分及びその過少申告加算税賦課決定並びに法人臨時特別税決定処分及びその無申告加算税賦課決定を行ったことから,原告が,上記各処分の取消しを求めた事案である。

1  前提となる事実(以下の事実は,各項末尾に掲げた証拠等により認定した。)

(1)  課税経緯

ア 原告は,平成4年2月28日付けで,被告に対し,原告の平成3年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「平成3年12月期」という。)の法人税の確定申告書を申告所得金額を230万6035円,法人税額を還付すべき税額19万5547円として提出した。

(争いのない事実)

イ 被告は,平成6年2月28日付けで,原告に対し,原告の平成3年12月期の法人税について,所得金額を8015万6502円,法人税額を2993万5200円とする旨の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び445万7000円の過少申告加算税賦課決定(以下「本件過少申告加算税賦課決定」という。)を行った。

(争いのない事実)

ウ 被告は,平成6年2月28日付けで,原告に対し,平成3年12月期の事業年度の法人臨時特別税について,課税標準法人税額を2629万8000円,法人臨時特別税額を65万7400円とする旨の法人臨時特別税決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び9万7500円の無申告加算税賦課決定(以下「本件無申告加算税賦課決定」という。)を行った。

(争いのない事実)

エ 原告は,平成6年4月22日,被告に対し,本件更正処分,本件過少申告加算税賦課決定,本件決定処分及び本件無申告加算税賦課決定(以下,これらの各処分を併せて「本件更正処分等」という。)について異議申立てを行った。

これに対し,被告は,平成8年9月5日,上記異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をした。

(争いのない事実)

オ 原告は,平成8年10月4日,国税不服審判所長に対し,本件更正処分等について審査請求を行った。

これに対し,国税不服審判所長は,平成9年11月10日,上記審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。

(争いのない事実)

(2)  ミティア映画投資事業組合に関する各契約書の存在と内容等

ア 原告ほか5社を組合員とするミティア映画投資事業組合(以下「本件組合」という。)を結成する旨の契約(以下「本件組合契約」という。)に係る契約書(以下「本件組合契約書」という。)が,平成3年11月29日付けで作成され,原告ほか5社が記名押印している。

本件組合契約書において,「エム・エル・フィルム・エンターテイメント・インターナショナル・インク」(ML FILM ENTERTAINMENT INTERNATIONAL,INC.。以下「MLFE」という。)を本件組合の業務執行者とするものと定められている。本件組合契約において,原告が本件組合に出資した金額は6848万6250円であり,本件組合員の各出資金の合計額は10億9578万円である。

なお,本件組合契約においては,本件組合契約書と一体となるものとして,附属書類Ⅰの「組合規約」と題する書面(以下「本件組合規約書」という。)が作成され,本件組合契約の当事者は,本件組合契約及び本件組合規約書に定められた規約(以下「本件組合規約」という。)に準拠するものとすることが定められている。

(乙8)

イ 本件組合を借入人,「ABN AMRO BANK N.V.,TOKYO BRANCH」(以下「ABNアムロ銀行」という。)を貸出人として,約定金額26億9053万1250円(以下「本件金員」という。)を融資する旨の契約(以下「本件融資契約」という。)に係る契約書「LOAN AGREEMENT」(以下「本件融資契約書」という。)が,平成3年11月29日付けで,英文によって作成され,ABNアムロ銀行及びMLFEが署名している。

(乙18)

ウ 本件組合及び本件組合の組合員を買主,「THE GENESIS PROJECT,INC.」(以下「ジェネシス」という。)を売主として,「PRELUDE TO A KISS」と題する映画(以下「本件映画」という。)に係る一切の権利を,代金36億1672万6250円で販売する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)に係る契約書「AGREEMENT OF PURCHASE AND SALE」(以下「本件売買契約書」という。)が,平成3年11月29日付けで,英文によって作成され,ジェネシス及びMLFEが署名している。

(乙34)

エ 本件組合及び本件組合の各組合員をライセンサーとし,オランダ国の法人である「MERIDIAN FILM DISTRIBUTION COMPANY B.V.」(以下「MFDC」という。)を配給者として,本件映画の配給権を付与する旨の契約(以下「本件配給契約」という。)に係る契約書「DISTRIBUTION AGREEMENT」(以下「本件配給契約書」という。)が,平成3年11月29日付けで,英文によって作成され,MFDC及びMLFEが署名している。

(乙17)

オ 本件組合をライセンサーとし,「Hollandsche Bank-Unie N.V.」(以下「HBU銀行」という。)を保証人として,MFDCが本件配給契約に基づいて支払うべき一定額の支払を保証する旨の契約(以下「本件保証契約」という。)に係る契約書「GUARANTEE AGREEMENT」(以下「本件保証契約書」という。)が,平成3年11月29日付けで,英文によって作成され,MLFE及びHBU銀行が署名している。

(乙41)

カ 本件組合及び本件組合の各組合員は,MFDCに対し,MFDCが本件組合から本件映画のすべての権利,権原及び権益を買い取る権利(以下「本件クラスAオプション」という。)及びMFDCが本件組合の各組合員からその持分を買い取る権利(以下「本件クラスBオプション」という。)を付与する旨の契約(以下「本件オプション契約」という。)に係る契約書「OPTION AGREEMENT」(以下「本件オプション契約書」という。)が,平成3年11月29日付けで,英文によって作成され,MLFE及びMFDCが署名している。

(乙39)

なお,以下,本件融資契約,本件売買契約,本件配給契約,本件オプション契約,本件保証契約を併せて「本件各契約」といい,本件各契約に係る契約書を併せて「本件各契約書」という。また,本件組合が平成3年11月29日付けで本件各契約書を作成して行った本件映画に関する取引を「本件取引」という。

2  当事者双方の主張

(被告の主張)

(1) 本件更正処分の適法性

原告の平成3年12月期の所得の金額及び納付すべき法人税の額は,次のとおりであり,本件更正処分における所得の金額及び納付すべき法人税額と同額であるから,本件更正処分は適法である。

ア 申告所得金額  230万6035円

上記金額は,原告が平成4年2月28日付けで被告に提出した原告の平成3年12月期の法人税の確定申告書に記載された所得の金額である。

イ 減価償却費のうち損金の額に算入されない金額  7730万7523円

上記金額は,原告が平成3年12月期の法人税の確定申告において減価償却費として損金経理した金額のうち,原告が平成3年11月29日付けで組合員となったとする本件組合が取得し,賃貸したとする本件映画の原告の持分に係る減価償却費(以下「本件減価償却費」という。)の当期分として計上したものであるが,後記(5)記載の理由により,原告の当期の所得の金額の計算上,損金の額に算入されないものである。

ウ 支払利息のうち損金の額に算入されない金額  85万0600円

上記金額は,原告が平成3年12月期の法人税の確定申告において支払利息として損金の額に算入した金額のうち,本件組合とABNアムロ銀行との間で締結したとする本件融資契約に係る支払利息としたものの原告持分相当額(以下「本件支払利息」という。)の当期計上分であるが,後記(5)記載の理由により,原告の当期の所得の金額の計算上,損金の額に算入されないものである。

エ 本件収入の益金不算入金額  30万7656円

上記金額は,原告が平成3年12月期の法人税の確定申告において益金の額に算入した金額のうち,本件組合が,本件組合とMFDCとの間で締結したとする本件配給契約に基づき,本件映画に関する収入として益金の額に算入した金額から当該映画に関する収入に係る経費として損金の額に算人した金額を控除した金額の原告持分に相当する金額(以下「本件収入」という。)の当期計上分であるが,後記(5)記載の理由により,原告の当期の所得の金額の計算上,益金の額に算入されないものである。

オ 所得の金額  8015万6502円

上記金額は,前記アの金額にイ及びウの金額を加算し,エの金額を減算した金額である。

カ 納付すべき法人税の額  2993万5200円

上記金額は,次のaの法人税の額にbの金額を加算した金額から,cの金額を控除した金額(国税通則法(以下「通則法」という。)119条1項の規定により100円未満の端数切捨て後のもの)に,dの金額を加算した金額(通則法119条1項の規定により100円未満の端数切捨て後のもの)である。

a 所得の金額に対する法人税の額  2929万8500円

上記金額は,前記オの所得の金額(通則法118条1項の規定により1000円未満の端数切捨て後のもの)に法人税法66条(ただし,平成4年法律第73号による改正前のもの。以下,同じ。)に定める税率を乗じて計算した金額である。

b 課税留保金額に対する税額  128万2500円

上記金額は,所得等の金額及び留保金額の異動に伴い再計算した課税留保金額1282万5000円に法人税法67条に定める税率を乗じて計算した金額である。

c 控除所得税額  84万1227円

上記金額は,法人税法68条に規定する法人税額から控除される所得税の額(確定申告書に記載された金額)である。

d 既に納付の確定した本税額  ▲19万5547円

上記金額は,原告が提出した確定申告書記載の所得税額等の還付金額である。

なお,▲は還付すべき税額を示す。

(2) 本件過少申告加算税賦課決定の適法性について

被告は,平成3年12月期の法人税の更正処分をしたことに伴い,通則法65条1項及び2項の規定に基づき,当該更正処分により納付すべきこととなった法人税額(通則法118条3項の規定により1万円未満の端数切捨て後のもの)を基に,2993万円に100分の10を乗じた299万3000円及び2928万円に100分の5を乗じた146万4000円を加算した金額である445万7000円を,平成3年12月期に係る過少申告加算税額として算定したものであるから,本件過少申告加算税賦課決定は適法である。

(3) 本件決定処分の適法性について

以下のとおり,原告の平成3年12月期の法人臨時特別税の額は適法に計算されたものであり,本件決定処分における法人臨時特別税の額と同額である。また,前記のとおり,原告の平成3年12月期の法人税の更正処分は適法であり,かつ,原告は平成3年12月期の法人臨時特別税申告書を提出していないから,これに伴いなされた本件決定処分は適法である。

ア 更正に基づく法人税額  2929万8500円

上記金額は,原告の平成3年12月期の法人税の更正処分に基づく法人税額である。

イ 更正後の課税標準法人税額  2629万8000円

上記金額は,前記アの金額から300万円を控除した金額(ただし,通則法118条1項の規定により1000円未満の端数切捨て後のもの)である。

ウ 法人臨時特別税額  65万7400円

上記金額は,前記イの更正後の課税標準法人税額に法人臨時特別税の税率である100分の2・5を乗じて算出した金額(通則法119条1項の規定により100円未満の端数切捨て後のもの)である。

(4) 本件無申告加算税賦課決定の適法性について

被告は,平成3年12月期の法人臨時特別税の決定処分をしたことに伴い,通則法66条の規定に基づき,本件決定処分により納付すべきこととなった法人臨時特別税額(通則法118条3項の規定により1万円未満の端数切捨て後のもの)に100分の15の割合を乗じて,平成3年12月期に係る無申告加算税9万7500円を賦課決定したものであるから,本件無申告加算税賦課決定は適法である。

(5) 本件減価償却費及び本件支払利息相当額を損金の額に算入することが認められない理由

ア 本件融資契約の実行及び返済に係る金員の現実的な移動がないことについて

本件融資契約に係る金員(本件金員)は,本件映画の売買代金の一部(約75パーセント相当)に充てるのみの目的に基づき,本件組合がABNアムロ銀行から融資を受け,本件映画の売買代金の一部として本件映画販売会社とされるジェネシスに支払うこととされているが,その前後の本件金員の名目上の流れは以下のとおりである。

a 本件融資契約の実行に係る事実関係

本件組合は,ABNアムロ銀行から本件金員を借り入れ,これと各組合員からの出資金とを併せ本件映画の売買代金としてジェネシスに支払うこととされている。そして,本件映画は,いわゆる「メジャー」と呼ばれるアメリカの大手映画配給会社で本件におけるサブ配給会社(Sub distributors)とされる「The Twentieth Century Fox」(以下「フォックス」という。)の製作又は買取りに係る映画であり,本件組合は,フォックスからジェネシス等を経て本件映画を取得したとされていることから,本件金員は,本件映画の売買代金の一部として,ジェネシス等を通じてフォックスに流れることになる。他方,本件金員は,フォックスが,MFDCとのサブ配給契約等に基づき,MFDCを通じてHBU銀行に預託したとみられる金員であって,HBU銀行は,本件金員を関連銀行であるABNアムロ銀行の本店に融資し,さらに,同本店は,本件金員をABNアムロ銀行に融資し(本支店取引),ABNアムロ銀行が,本件組合名義の口座に融資することとなるのである。このように,本件金員は,本件融資契約の時点において関係当事者間を一巡するものであって,その間に金員の現実的な移動ないし出捐はなく,本件金員を現実に運用しその経済的効果を享受する者が存しないことが明らかである。

b 本件融資契約の返済に係る事実関係

また,本件融資契約に関する元本(26億9053万1250円(年6・07パーセント,月複利))を返済日(原則として,7年後)に一括返済する場合に要するとされる元利金の合計額(以下「本件返済金」という。)は,41億1059万4249円であるとされている。そして,その返済についても,本件配給契約等に基づく最低支払確定額41億1059万4249円として,当該最低支払確定額に係る金員(本件返済金と同額)が,HBU銀行から本件組合に支払われ,本件組合が,ABNアムロ銀行に本件返済金を返済し,その後,ABNアムロ銀行は,同行本店を経由してHBU銀行へ当該金員を返済することになるから,こちらも関係当事者間を一巡するものであって,その間に金員の現実的な移動ないし出損はないことが明らかである。本件融資契約に係る利息は,上記のように最低支払確定額としてそれぞれの間で7年後に一括返済することとされるものであるから,返済期限が到来するまでは,関係当事者において,未払費用として計上されるのみのもので,金員の現実的な移動ないし出捐を要しないものである。

c 小括

そうすると,本件融資契約は,同契約に係る融資金(本件金員)の現実的な運用の機会を欠く,経済的には全く無意味な契約であるのみならず,金員の移動を仮装したにすぎないことは明らかである。

イ 本件映画に係る権利の現実的な移転がないことについて

上記のとおり,本件融資契約が単なる契約書の作成行為ないし仮装行為にとどまるものである以上,本件金員を売買代金の原資の一部(約75パーセント相当)とする本件売買契約もまた,外形ないし形式を仮装したにすぎないことは明らかである。

仮に本件売買契約が有効であるとすれば,ジェネシスは,実質的に本件映画の売買代金の約25パーセント相当の金員しか取得しないで本件映画を本件組合に売却したということになり,かかる取引が経済的な合理性を欠くことはいうまでもない。

このことは,次の諸点に照らしても明らかである。

a 本件組合は本件映画の所有者であれば当然有してしかるべきすべての権利を保有していないことについて

一般的に,映画に関する様々な権利利益は,有体物たる上映用映画フィルム自体ではなく当該映画に関する著作権等に存すること及び映画フィルム等の有体物の譲渡,取得等が直ちに著作権等の譲渡,取得等を意味するものではないことはいずれも顕著な事実であり,著作権の対象となる著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号参照)であって,知的創造性をその本質とするものである。そして,映画の著作権等の権利者であれば,当該映画を公表する(封切る)権利,公表時期を決定する権利,知的創造物である映画の内容の同一性を保持する権利,映画の題号の同一性を保持する権利等を当然保有してしかるべきである。また,一般に,著作権使用許諾契約においては,当該契約が締結された後に,新しいメディアが登場した場合,その新しいメディアが,当該契約の対象に含まれているか否かが問題となるから,権利許諾者は,可能な限り使用許諾する権利の範囲を限定し,将来その範囲を超えて作品が利用される場合には,新たな対価を得る機会を確保しようとし,他方,被許諾者は,可能な限り広い範囲の権利を獲得し,将来新たな使用料を支払うことなく作品を利用できる地位を望むものである。さらに,被許諾者が契約条項に違反した場合には,権利許諾者が使用許諾契約を解除できるという権利復帰条項が定められるのが通常である。

ところが,本件組合は,本来,本件映画の所有者であれば当然保有してしかるべきこれらの権利を,すべてMFDCに与えることとなっている。

このことは,以下の諸点に照らして明らかである。

(a) MFDCは,本件映画の権利者であるはずの本件組合の何らの了解なしに,本件映画の題名を選択及び公開することができ,自由に本件映画の化体されたフィルムをカット及び編集できるのみならず,本件映画に関するフィルムをすべて破棄することができるとされている。また,破棄できるフィルムには,本件組合の負担で作成されたものは除くとされているが,本件映画は,本件配給契約に係る契約書の作成,交付後直ちにMFDCに交付されるとされているところ,上記契約書が作成され交付された日と本件組合がジェネシス(外国法人)から本件映画を購入したとされる日は同日(平成3年11月29日)であるから,本件映画フィルムの占有が現実に本件組合に移転された可能性は皆無であり,本件組合が自らの負担によってネガティブ・フィルム等を作成することは事実上不可能である。このように,本件組合は,本件映画の権利者であれば当然保有して然るべき権利を有していないばかりか,MFDCが本件映画に関するフィルムをすべて破棄した場合には,本件配給契約の終了時点で,MFDCが本件組合に返還すべきフィルム等は何も残らないことになる。

(b) 本件取引の時点において本件映画の製作がいまだ進行中の場合,本件組合は,本件映画の化体された有体物をすべて現状のまま引き渡すこととされていることから,本件においては,本件取引の時点で契約の目的物件である本件映画自体が完成していない可能性(その場合には,本件組合所有に係る上映用映画フィルムは存在しないことになる。)もあるのみならず,この場合,本件組合の了解なしに,MFDCにおいて前記の有体物をカットし,編集する等,知的創造物である映画そのものに改変を加えるという,本来映画の権利者でなければ許されないはずの,まさに権利の本質的な内容に係る行為までもが許容されている。このことからも,本件各契約書等は,本件映画に係る権利の所在に重きを置いておらず,本件組合が本件映画の使用収益を行い,処分するような事態を想定していなかったことは明らかである。

(c) MFDCは,自らの選択するラボラトリーに本件映画に関するポジティブ・プリントその他を作成させることができるとされており,上記ラボラトリーとは,本件映画を保管する者であると考えられるところ,本件映画は,上記ラボラトリーからは,MFDCの指示によってのみ移動又は引渡しをすべきものとされ,MFDCの同意なしには,本件組合その他のいかなる者にも引き渡されないこととされている。

(d) 本件映画の我が国における著作権の登録についてみると,原著作者はフォックスであるが,ジェネシスから本件組合の各組合員に対して譲渡の登録がなされたものの,同一日付け(平成3年11月29日付け)で直ちに本件組合の各組合員からMFDCへの譲渡担保を原因とする権利移転の登録がなされており,登録の上でも,本件組合の各組合員が何らかの処分をする余地がないようにされている。

(e) 配給に関しても,MFDCには本件映画の広告等を行うことが認められている一方,本件組合が本件各契約書等の上では「権利者」であるとされていながら,また,本件映画の「権利者」であるとするならば,映画の興行成績によっては,利益を受ける可能性があるにもかかわらず,MFDCの事前同意なしには,いっさい広告等はできないこととされている。

(f) 映画に関する様々な権利・利益は,当該映画に関する著作権等に存し,その使用許諾又は譲渡により,その対価を得ることによって経済的価値が収益として実現されるところ,本件映画につき配給契約によって著作権等の使用許諾を得たとされるMFDCは,本件映画の権利者であるはずの本件組合の何らの了解を得ることなく,自己の単独の裁量により,本件配給契約上の地位又は権利を,MFDCが選択した再配給会社に対し譲渡又は許諾することができることとされている。現に,本件配給契約等と同一日付けで締結されたとする再配給契約においては,既に,再配給会社がフォックスと決定されており,本件映画の権利者であるとされる本件組合は,本件映画につき実際に収益獲得活動(配給)をすることとなる再配給会社を選択する余地さえもなかった。

(g) このように,本件組合は,本件映画の所有者であれば当然有してしかるべき本件映画の管理,利用,収益に関する権利を有していないのであり,本件各契約書等においてもこれらの権利は,MFDCとフォックスとの間の再配給契約に基づき,本件映画の製作又は買取りをしたフォックスに還流されることとなるから,現実的な移転はないのである。そればかりか,本件映画に係る法律上の所有権及び著作権についても,本件映画の移動又は引渡しに関するラボラトリーへの指示及び著作権譲渡担保によるMFDCへの権利移転により,第三者に対する保全措置が講じられており,本件組合は,これらの権利を事実上処分できないようになっているのである。

b 本件映画のすべての権利が,本件オプション契約に基づくオプション行使によってもフォックスから移転しないことについて

(a) 本件組合及び本件組合の各組合員とMFDCとの間で締結された本件オプション契約によれば,MFDCは,本件オプション契約により,クラスAオプション及びクラスBオプションを取消し不能の権利として保持している。

そして,クラスAオプションは,第2オプション期間(本件オプション契約成立日後6年後の日から,MFDCが本件組合より第2オプション期間開始の通知を実際に受領した日の1年後の日までの期間をいう。)中はいつでも行使することができ,また,第1オプション期間(本件オプション契約成立日後7年後までの期間をいい,第2オプション期間と併せて「当初契約期間」という。)においては,本件オプション契約の実行によるMFDCの本件映画のすべての権利,権原及び権益の取得を危うくするおそれがあると認められるときにはいつの時点においても,行使することができることとされている。

また,クラスBオプションは,本件オプション契約の実行によるMFDCの本件映画のすべての権利,権原及び権益の取得を危うくするおそれがあると認められる場合に,当初契約期間中のいつの時点においても行使することができることとされている。

(b) 一方,本件組合は,当初契約期間の満了に伴い,MFDCがクラスAオプションを行使しなかった場合には,MFDCに対して本件配給契約を7年間(再契約期間)延長することができる権利(Extension Option。以下「延長オプション」という。)を行使することができることとされている。

(c) このように,クラスAオプションの行使により,本件映画のすべての権利,権原及び権益がMFDCに移転することとされているが,クラスAオプションが行使された場合等における本件組合とMFDCとの関係についてみると,次のとおりである。

ⅰ 当初契約期間中にクラスAオプションが行使された場合

MFDCがクラスAオプションを行使することにより,MFDCは本件映画のすべての権利,権原及び権益を取得し,本件配給契約は終了することになるにもかかわらず,MFDCには,本件配給契約の当初契約期間中は,本件配給契約が存続している場合と同様,「総支払額」,「純支払額」,「純保証支払額」等の支払義務が存続し,これらを本件組合に対して,クラスAオプションが行使されなかった場合と全く同一の金額で,同一の支払時期に支払うこととされている。なお,この場合のクラスAオプション価額として,契約終了時における本件映画フィルムの価値にかかわりなく,「固定支払額」3億6167万2625円(本件映画フィルムの購入金額の10パーセントに相当する金額)の支払が保証されている。

ⅱ 当初契約期間満了に伴いクラスAオプションが行使された場合

MFDCがクラスAオプションを行使することにより,MFDCは本件映画のすべての権利,権原及び権益を取得し,本件配給契約は終了することになる。この場合においても,上記ⅰと同様,クラスAオプション価額として,最低でも,「固定支払額」3億6167万2625円の支払が保証されている。

ⅲ 延長オプションが行使された場合

MFDCがクラスAオプションを行使せず,本件組合が延長オプションを行使した場合,本件配給契約が延長され,MFDCは,「固定支払額」と同額の「延長前払額」3億6167万2625円(本件映画フィルムの購入金額の10パーセントに相当する金額)を本件組合に対して支払わなければならないこととされている。

ⅳ 当初契約期間満了時におけるクラスAオプション及び延長オプションの関係

クラスAオプション及び延長オプションのいずれのオプションも行使されず本件配給契約が終了した場合には,法形式上は,本件映画の管理,利用,収益権等が本件組合に戻ることとなる。

ところが,本件各契約等には,上記管理,利用,収益権等の返還及びこれに伴う金銭の精算等の手続等については何ら規定がなく,また,本件組合契約及び本件組合規約には本件組合自らが本件映画の配給元となることに関する具体的な規定はない。したがって,本件取引においては,もともとクラスAオプション又は延長オプションのいずれもが行使されない場合を想定していなかったことは明らかである。

このことは,当初契約期間の満了に伴い,クラスAオプション又は延長オプションのいずれが行使されたとしても,MFDCは,Aオプションに係る「固定支払額」又は延長オプションに係る「延長前払額」のいずれかとして,かつ両者同額の3億6167万2625円を本件組合に支払うこととなるから,MFDCは,本件映画のすべての権利を取得することができるクラスAオプションを必然的に行使することとなることによるものである。

そうであるとすれば,本件組合に本件映画を自ら管理する意思がなかったものと認められる。

(d) 本件組合は,本件映画に係るラボラトリーへの指示書の交付及び著作権譲渡担保登録により,本件映画に係る法律上の所有権及び著作権につき,事実上処分できないこととされていることに加え,前記のとおり,当初契約期間中にクラスAオプションが行使されたとしても,本件映画のすべての権利,権原及び権益に関する本件配給契約が存続しているのと同様の実態となっていることからすると,もともと本件組合が本件映画のすべての権利,権原及び権益を有している実態にない。そして,本件映画に関する法的実態は,当初契約期間満了時においてクラスAオプションが行使される場合においても同様であって,クラスAオプションの行使による本件映画のすべての権利,権原及び権益の移転は,所詮名目的なものにすぎず,本件映画に関する権利の現実的な移転のないことは明らかである。

c フォックス,本件組合及びジェネシスの意思について

(a) ところで,フォックスの製作又は買取りに係る本件映画は,ジェネシス等及び本件組合を経てMFDCによって全世界に配給されているのではなく,サブ配給契約等により前記a(a)と同様の権利関係を内容とする配給権をMFDCから得たとするフォックスによって全世界に配給されているものである。

フォックスは,いわゆる「メジャー」と呼ばれる映画の製作及び配給を業とする会社であるから,本件映画の製作又は買取りから配給についても自社で行うことが可能であり,かつ,現実にも本件映画につき実際に製作又は買取りから配給までを自社で行っている。それにもかかわらず,本件各契約書等の法形式上,フォックスは,本件映画に係る権利を,いったん,ジェネシス等及び本件組合に移転した後,本件組合をしてMFDCに配給ないし賃貸させた上,MFDCからフォックスが配給権を得たこととしているのである。しかも,MFDCはフォックスの関連会社であり,前記一連の法形式が同一日付けで作成された本件各契約書等によって行われたとされているのである。

したがって,これらの事情からしても,フォックスが自社の製作又は買取りに係る本件映画を自社で全世界に配給したものと認めるのが自然であって,他に何らかの目的がなければ,本件映画の製作又は買取りから配給に至るまでの間に,ジェネシス,本件組合及びMFDC等を介在させるとの法形式を採る必要性も合理性もなかったはずである。

(b) 他方,本件組合においても,前述のとおり,本来,本件映画の所有者であれば当然保有して然るべき権利を一切有しておらず,映画の製作に関する事項や配給に関する本来の権利者としての経済活動事項についての支配力を一切留保していないのである。このことに照らしても,本件組合が本件映画に係る権利を保有する意思も能力も有していなかったことは明らかである。

(c) ジェネシスにとってみても,仮に本件組合が本件映画に係る権利を取得したとすれば,ジェネシスは,本件売買契約により本件映画を売買価格の約4分の1の値段で売却したことになり,営利を追求する企業主体としてはおよそ考えられない不合理な内容の契約を締結していることとなる。

d 小括

以上のとおり,本件において,本件映画に係る権利そのものの移動その他使用・収益・処分権の変動を裏付けるに足る事実は認められず,当事者においても真に本件映画に係る権利を移転させる意思は認められないから,結局,本件映画に係る権利は,本件取引の前後を通じて,一貫してフォックスに帰属しているといわざるを得ない。

したがって,本件売買契約に係る法形式も,経済的効果ないし裏付けを全く欠くものであって,本件売買契約により,本件映画に係る権利の移転を仮装したにすぎないことは明らかである。

ウ 以上によれば,本件融資契約及び本件売買契約は,単なる事実行為としての契約書の作成行為ないし仮装行為にとどまるものであると認められる。

エ 本件組合の各組合員が行った取引の実態

本件融資契約及び本件売買契約が,法律的な効果を伴わない単なる契約書の作成行為ないし仮装行為にすぎないとすると,本件組合が行った取引として残る法律的・経済的効果は,本件組合の各組合員の出資金及びこれに対する本件映画の興行利益の配当に係る部分のみということになる。

すなわち,本件組合が行った取引の本質は,本件組合の各組合員とフォックスとの間における,本件映画を金融商品とした投資(本件組合の各組合員とされる投資家が行った出資金(本件映画の売買代金とされる金額の約25パーセント相当及び諸経費に充てられるとされるもので,以下「本件投資金」という。)の出資(出捐)(以下「本件投資」という。))に対する本件映画に係る興行収入についての利益配当契約(以下「本件利益配当契約」という。)にほかならない。

a 本件配給契約書によって,MFDCから本件組合に対し支払うこととされていた金員(その合計額を「本件配給料」という。)は以下のとおりである。

(a) リリース支払額(Release Payment Amount)

リリース支払額は,本件映画に関し,本契約締結の日の翌日から本件映画の封切りの日の前日までの間の各暦日に対して1200米ドル(以下,単に「ドル」という。)とする。リリース支払額の総額は,グロス支払額(Gross Payment Amount)の最初の支払と同時にドルで支払われる。

(b) グロス支払額(Gross Payment Amount)

グロス支払額は,本件映画に関し,グロス支払損益分岐点(Gross Payment Breakpoint)887万5000ドルに達するまでは,調整グロス収益(Adjusted Gross Proceeds)の10パーセント相当額とし,グロス支払損益分岐点を超えた場合,①グロス支払損益分岐点以後の調整グロス収益の10パーセント相当額から本件映画に関する第三者配当の累積額を控除した額又は②グロス支払損益分岐点以後の調整グロス収益の7・5パーセント相当額のいずれか大きい方の金額とする。

(c) ネット支払額(Net Payment Amount)

ネット支払額は,本件映画に関し,調整ネット収益(Adjusted Net Proceeds)のライセンサーの取り分(調整ネット収益の累積合計額がネット支払損益分岐点(2772万5000ドルで,本件映画の購入価額とされる金額と同一である。)に達するまでは,調整ネット収益の100パーセント相当額を意味し,ネット支払損益分岐点を超える場合には,調整ネット収益の50パーセント相当額を意味する。)の累積額が,グロス支払額の累積合計額を超える部分の金額とする。

(d) 純支払保証額(Net Guarantee Payment)

純支払保証額とは,最低支払保証額(Net Minimum Guarantee Amount)37億4892万1624円に本契約締結日の7年目の応答日から支払日までに係る適用利率(年6・07パーセント月複利計算)によって計算される利息を加えた金額が,当初の全契約期間における次の金額の合計額を超える部分の金額をいう。

① ネット支払額の合計額

② 各ネット支払額の支払日から決済日(当初契約期間に係る7回目の会計期間について,配給者が,調整ネット収益に係る報告書の提出を要求される日)まで年6・07パーセント月複利計算した各ネット支払額に係る利息額

b 延長オプションが行使された場合の具体的な支払内容

本件配給契約書によれば,ライセンサーが延長オプションを行使した場合における配給者からライセンサーへの支払については,上記aに代えて次の金額を支払うとされていた。

(a) 延長前払額

延長前払額は,3億6167万2625円(本件映画の購入価額の10パーセント相当額)で,当初契約期間終了後,90日以内に支払われる。

(b) 延長期間におけるグロス支払額

(c) 延長期間におけるネット支払額が,延長前払額及び純支払保証額の合計額を超える部分の金額

c 本件配給料の支払と本件融資契約に基づく借入金の返済

本件融資契約書によれば,借主は,返済日(原則として,借入日から7年目に当たる日)に,1回払いで,貸主に本件融資契約に基づく借入金(以下「本件借入金」という。)の残高を返済しなければならないが,①借主が,本件配給契約に定める「ネット支払額」,「純支払保証額」及び「延長前払額」のいずれかを受け取った場合には,直ちにこれに相当する金額を,②本件配給会社であるMFDC及びその承継人等が,本件オプション契約書に基づくオプションを行使した場合には,オプション価額が本件オプション契約書に基づき支払われる日において,本件借入金のすべての残額を,期日前返済に伴う何らかの損失金の補償のための追加額とともに支払わなければならないとされている。さらに,貸主は,これらを受領したときは,本件借入金の期限前返済として充当しなければならないとされている。

d 本件利益配当契約に基づき得られる収益

以上によれば,本件における投資家(本件組合の各組合員)の投資による利益は,外形上は,本件組合がMFDCから受け取る本件配給料及び本件オプション権を行使した場合の延長前払額とされている。もっとも,このうち,ネット支払額,純支払保証額等は,まず銀行借入金の元本及び利息の返済に充当され,借入金返済後に組合員に配分されることとされているから,7年間の賃借期間において本件組合が回収する現金の多くの部分はグロス支払額によることとなる。

ところが,映画の成否は予想がつかず,映画の購入や賃貸,配給には大きな危険がつきまとうものであって,一般に映画の封切り前に本件組合が受領すると思われる本件配給料及びその組合員への配分額を予想することは不可能である。そして,アメリカ映画業界における投資に対する一般的な分配利益の計算では,配給収入から,配給手数料,配給費用及び俳優・監督等への支払等が控除されるため,たとえ映画がヒットしても,投資による利益分配は期待できないものとなっていた。

しかも,グロス支払額については,もともと明確な定義がされているわけではなく,その金額の算定が正確に行われているか否かについて,本件組合が検証することさえ不可能なものであるから,これすらも,本件組合に保証された利益であるとはいえず,本件組合がこれを取得する目的で本件配給契約を締結したとはいえない。

オ 本件利益配当契約に本件融資契約及び本件売買契約が組み込まれた理由

そして,次の諸点に照らせば,本件利益配当契約に加えて本件融資契約及び本件売買契約が形式上組み込まれたのは,本件組合において本件映画に係る減価償却費及び本件融資契約に係る支払利息を計上することによる租税負担の回避目的のみに基づくものであり,それ以外の法律的ないし経済的効果を意図して本件融資契約及び本件売買契約が組み込まれたものでないことは明らかである。

a まず,フォックスが本件利益配当契約を行うことにより得た経済的効果は,本件投資により映画の製作及び配給等に係る営業資金を調達し,映画興行に係るリスクを分散させることであった。

そして,本件利益配当契約は,その配当利益の計算において,フォックスがまずリスクを負担しないような構造に仕組まれているのであって,逆にいえば投資家にはリターンがまず残らないという構造に仕組まれている。

b そこで,このような条件下においても本件利益配当契約が投資商品としての商品価値ないし魅力を失わないためには,投資家が本件利益配当契約においていかに損失を計上してもそれを補填するだけの別個の経済的な利益措置が講じられている必要がある。

すなわち,本件映画に係る権利(所有権及び著作権等)は,前記のとおり,本件取引の前後を通じ一貫してフォックスに存しているところ,それにもかかわらず,仮に,上記権利が我が国の税法の適用される納税者に帰属するとの外観が作出され,課税当局が上記外観の背後に存する法的実質(本件映画に係る権利のフォックスヘの帰属)を解明できなければ,上記納税者において本件映画に係る減価償却費を計上し得る。

しかも,本件金員は,前記のとおり,現実の金員の移動を伴わないものであるところ,それにもかかわらず,仮に,本件金員が我が国の納税者による本件映画取得のための資金であるとの外観が作出され,課税当局が上記外観の背後に存する法的実質(本件融資契約の不存在)を解明できなければ,上記納税者において,本件融資契約に係る多額の支払利息を計上するとともに,本件融資契約に係る借入金相当額を本件映画の取得価額として組み込むことにより減価償却資産の価額を増加させ,より多額の減価償却費を計上し得る。

このように,本件利益配当契約に投資する投資家は,各事業年度の所得の金額の計算上,これらの支払利息及び減価償却費の額を損金の額に算入することにより,多額の課税利益の減少及び課税の繰延べを図ることができることとなる。

他方,もともと本件映画の製作又は買取りをしたサブ配給会社(フォックス)としては,映画の名義上の所有者が誰であれ,その者に本件映画の所有者としての実質的な権利等を与えず,しかも独占的に配給を行い,配給収入を得ることができれば,本件映画の製作又は買取りをした目的を達成できるから,我が国の投資家が本件映画を購入し賃貸借契約を締結したこととしても,映画に係る権利が他の配給会社等に移転することがない限り不利益を受けることはない。

さらに,上映用映画フィルムに係る我が国の法人税法上の法定耐用年数が2年と極めて短期間であることから,我が国の投資家としては,映画を所有しているとする法形式を装うことによって,取引の開始当初に多額の減価償却費を計上するとともに,本件借入金につき月複利による支払利息を計上することによって多額の課税利益の減少及び課税の繰延べを図り,これにより,いわゆる利益参加型投資の利益率の低さを補うこととなる。

このように,本件利益配当契約に係る取引の最大の特徴は,本件利益配当契約から生ずる投資家の損失を補填するための経済的な利益措置として我が国における租税回避に着目し,まさに上記租税回避を謳い文句として我が国における投資者を募る目的だけのために,本件利益配当契約に本件融資契約及び本件売買契約等を組み込み,これを一つの金融商品として作り上げたというところにある。

c 以上のとおり,本件利益配当契約に係る取引に本件融資契約及び本件売買契約に係る部分が組み込まれた目的が,本件組合における減価償却費及び支払利息の計上にあることによる税負担回避にあったことは明らかである。

また,本件投資金(売買代金の25パーセント相当)の本件利益配当契約も,上記のような租税回避目的を隠ぺいするために組み込まれたものであって,本件仮装の金員(売買代金の75パーセント相当)とセットになってはじめて本件全体の取引を構成するものであり,本件利益配当契約についてみても,それ自体に固有の意義を有するものではない。

カ 以上によれば,本件融資契約及び本件売買契約は,我が国の上映用映画フィルムの耐用年数を利用した減価償却費及び本件融資契約に係る支払利息を計上することによる租税回避を目的とし,その目的に基づいて整えられた単なる契約書の作成行為(事実行為)にとどまるものであって,仮に,本件融資契約及び本件売買契約に係る意思表示の外形が存したとしても,これに対応する金員の移動及び映画に係る権利の移転を認めることはできないというべきである。

そうであるとすると,本件融資契約及び本件売買契約は,いずれも成立しておらず,仮に成立していたとしても,有効に成立したものとは認められない。

したがって,平成3年12月期において本件組合が本件映画を取得した事実はないから,原告らについて,本件減価償却費を損金の額に算入することはできない。また,本件組合が本件融資契約に係る借入金を借り入れたと認めることもできないから,原告らは,本件支払利息相当額を損金の額に算入することはできない。

(6) 原告の主張に対する反論

ア 租税平等主義違反の主張について

同一の取引を行った複数の納税者のうち,たまたまある納税者に対してだけ更正処分がなされた場合であっても,そのことのみで当該納税者に対して差別的取扱いがあったということはできず,また,当該更正処分が課税の平等に反し,違法であるとされるものではない(最高裁判所昭和61年・※第187号・昭和61年11月27日第一小法廷判決・税務訴訟資料154号760頁)から,本件において,仮に本件組合の組合員のうち法人税の更正処分等を受けたのが原告のみであったとしても,そのことのみをもって原告に対して不平等な取扱いがあったものということはできないし,本件更正処分等の違法性が基礎付けられ得るものではない。

イ 租税法律主義違反の主張について

被告は,上記(5)記載のとおり,本件融資契約及び本件売買契約は,いずれも成立しておらず,仮に成立していたとしても,有効に成立したものとは認められないことから,平成3年12月期において本件組合が本件映画を取得した事実及び本件組合が本件融資契約に係る借入金を借り入れた事実はなく,そのため,原告らが,本件減価償却費を損金の額に算入すること,又は,本件支払利息相当額を損金の額に算入することはできないとしたものである。したがって,被告が,税負担が過少になるとの理由から,納税者が選択し,私法上有効に成立した法形式を,具体的な法的根拠規定に基づかずにむやみに否認しているとの原告の主張は,失当である。

ウ 理由の差し替えの違法の主張について

本件取引に係る理由附記においては,本件取引について,・※MFDCが本件映画に関する唯一独占的な権利を与えられている旨,・※本件映画の購入価額の約4分の3はABNアムロ銀行からの借入金で賄われたこととされ,当該借入金の元利金の返済にはリスクが伴わない旨,及び・※本件組合の構成員とされる者には,本件映画の興行収入の一部を受ける権利がある旨が指摘され,本件取引は,いわゆる金融取引であること,したがって,本件映画に係る減価償却費は損金の額に算入されず,本件支払利息相当額は益金の額に算入され,本件収入は損金の額に算入されないことが各金額とともに記載されている。

このように,本件更正処分等に係る通知書の更正の理由は,本件更正処分等が,本件取引をいわゆる金融取引と評価したことなどを理由として行われたものであることを示しており,本件更正処分等は,帳簿書類の記載の前提である本件取引について納税者と法的な評価を異にして更正した場合であるから,いわゆる評価否認に当たる。

そして,本件更正処分等に係る通知書の更正の理由においては,上記のとおり,その処分の対象及び被告の判断根拠に係る各認定事実が記載されるとともに,更正に至る判断過程が,処分庁の恣意の抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に記載されていることは明らかであり,更正の理由附記として何ら欠けるところはない。

(原告の主張)

(1) 本件融資契約に係る利息及び本件映画の減価償却費が損金として算入されるべきことについて

ア 本件融資契約における金員の移動について

a 銀行,映画会社,配給会社等の間でどのような資金の授受がされているかについて,原告は関知するものではなく,それによって,本件融資契約の有効,無効を論ずるのは失当である。

b 仮に,本件融資契約に係る資金が関係当事者間で授受されているものとしても,被告の主張によれば,預金担保による借入も借入と認められないことになるものであるから,本件融資契約が仮装であるとするのは誤りである。

c 本件融資契約は,実質的には,いわゆる「ノン・リコース融資」に該当するものである。

「ノン・リコース融資」とは,あるプロジェクトについて外部の投資家を募る際,プロジェクトに関与する金融機関は投資物件の購入価格の70ないし80パーセントを投資家に融資するが,投資家は貸付金の元利金の返済をプロジェクトから生ずる収益のみで行えばよく,当該プロジェクトが失敗した場合には,投資物件を融資元の金融機関に引き渡せば債務不履行の責めを問われないという方式の融資方式である。

本件において,本件組合は,本件配給契約の終了時に,本件融資契約に基づく借入金をMFDCによる本件映画の買入代金とMFDCによる損失補填による収益で弁済することになるが,これは銀行が組合に対してMFDCを通じてノン・リコース融資を行ったと解釈できるものであり,本件融資契約を仮装と決めつけることはできないというべきである。

イ 本件映画に係る権利の移転について

a 以上のとおり,本件融資契約が仮装行為でない以上,本件金員を売買代金の原資の一部とする本件売買契約も,仮装でないことは明らかである。

b 原告が,本件配給契約に基づく配給契約期間中,本件映画の管理処分権を失うのは,原告が賃貸料を得るために,本件映画を,いわゆるネット・リース方式で賃貸という事業の用に供するからであって,実質的所有権がMFDCに移転するからではない。

ネット・リースとは,航空機のファイナンス・リース取引でもみられるように,借主がリース物件の使用に伴って生ずるコストをすべて負担し,貸主は賃貸料である金銭の支払を受ける権利のみを有するリース取引である。

また,リース取引では,貸主が第三者からリース物件を購入し,それを借主にリースするのが通例であり,MFDC・フォックスによるオプション行使による映画の取得は,ありふれた通例のリース取引の一環である。

ウ 以上によれば,本件融資契約及び本件売買契約は,仮装行為とは認められない。

エ 原告が本件組合契約等を締結した目的

原告が本件組合契約等を締結した目的は,映画リース取引により,ヒットした場合の映画配給収入を得ることであり,そのために本件融資契約に基づく借入金により本件組合を通じて本件映画を購入したのであって,被告主張のように,減価償却制度を利用した課税の繰延べとそれに伴う「運用益」を享受することのみを目的としたものではない。

本件映画のリース取引は,法人税法施行令136条の3第3項により制度としてその存在を確認された「リース取引」に該当するが,そのリース期間中の受取リース料が契約時に不確定であるため,資産の売買とも金銭の貸付ともみなされないリース取引である。そのようなリース取引である以上,減価償却費及びノン・リコース融資による借入金の支払利息の発生は当然であって,それをもって租税回避目的ということはできない。

そもそも,借入金によって減価償却資産を取得した本件のような取引では,たとえ繰延租税相当額の預金をして現実に利息が収益として計上されたとしても,借入金の支払利息は常に上記「運用益」を超過するから,投資の経済的効果(減価償却と支払利息の損金算入によって課税が延期された租税相当額のプラス金利効果と借入金の支払利息額の差額)は,マイナスとなるからである。

このように,借入金の支払利息が常に「運用益」を超過することとなるので,本件融資契約に基づく借入がノン・リコース融資であっても,原告としては,各年度において,多額の映画配給収入が期待されなければ,組合に参加する意味がないものであり,また,自己資金に対応する投資額も回収不能となるから,原告が「運用益」のみをねらっていたとする被告の主張は失当である。

(2) 租税平等主義違反

租税法律関係においては,国民は平等に取り扱われなければならないことは憲法14条1項に由来する大原則である。

ところが,原告とともに本件組合を結成した株式会社マルイ,近文商事株式会社(同社は,原告同様,麻布税務署に対して確定申告している。),有限会社バードスタジオは,原告と同様に本件映画に係る取引について,減価償却資産の計上及び借入金の金利の損金計上を行って申告を行ったにもかかわらず,なんらの更正処分も受けていない。

そして,原告同様の組合を結成し映画を購入した法人は,全国で100社を超えているにもかかわらず,更正処分を受けたのは,4社にすぎないことに照らすと,全国的に原告のような事例について課税しない取扱いがされているといえるのであって,このような場合に,原告に対してのみ本件更正処分等を行うことは平等原則に反するものというべきである。

したがって,本件更正処分等は,平等原則に反して違法である。

(3) 租税法律主義違反

租税法の基本原則である租税法律主義は,恣意的課税の排除を目的とし,その機能は,国民の経済生活に法的安定性と予測可能性を付与することにあり,法治国家において最も尊重されるべき基本原則である。課税庁が個別的否認規定,具体的な法的根拠規定に基づかずに,納税者が選択した私法上有効に成立した法形式をむやみに否認することが可能になれば,租税法律主義の機能,目的を損なうこととなる。

そして,租税法の解釈,運用においては,「所有権」が民法からの借用概念であることは学説,判例で確立されており,「実質的な所有権」という概念が必要とされるのであれば,立法措置によるべきものであり,立法によらずして,「実質的な所有権」という概念を用いることは,租税法律主義に反するものである。

したがって,本件更正処分等は,租税法律主義に反して違法である。

(4) 理由の差し替えについて

原処分庁及び国税不服審判所は,本件借入金は実質的にも本件組合の借入金として認められるが,その借入金による資金は原告より配給業者に貸し付けられたものと認定するとともに,原告がその借入原資により購入した映画フィルムの所有権は,配給契約等の締結によって配給業者(MFDC)に実質的に移転していると主張していたものである。

ところが,被告は,本件訴訟に至って,突然,本件取引は本件各契約書等の単なる作成行為ないし仮装行為にすぎないと主張し始めた。

しかし,本件のように理由附記が法律上要求されている青色申告の更正が問題となっている場合には,訴訟の段階に至ってから,被告行政庁が,処分時に示した処分理由以外の理由を新たに持ち出して処分の適法性を根拠付けることは,理由附記制度の趣旨が没却されてしまうことになるので,許されないというべきである。

3  争点

以上によれば,本件の争点は次のとおりである。

(1)  本件融資契約が有効に成立したものとして,本件融資契約に基づく支払利息を損金として算入できるか否か。

(争点1)

(2)  本件売買契約が有効に成立したものとして,本件映画に係る減価償却費を損金として算入できるか否か。

(争点2)

(3)  本件更正決定等は,租税平等主義に反するとして違法であるか否か。

(争点3)

(4)  本件更正決定等は,租税法律主義に反するとして違法であるか否か。

(争点4)

(5)  本訴における被告の主張は,違法な処分理由の差し替えに当たるか否か。

(争点5)

第3当裁判所の判断

1  本件各争点を判断する前提としての事実関係について

(1)  本件組合を契約当事者とする各契約書の記載内容

以下の事実は,いずれも当事者間に争いがない。

ア 本件組合契約書には下記のような条項が記載されている。

a 本契約当事者は,ここに,組合を結成しこれに参加する。本件組合は,本件組合契約書及びこれと一体となる附属書類Ⅰの組合規約(本件組合規約)に準拠するものとする(本件組合契約書1条)。

b 各当事者は,本件組合契約書末尾に記載される金額を,平成3年11月29日午後1時までに,ABNアムロ銀行(東京支店)の本件組合名義の当座預金口座(口座番号13-23-873)あてに送金することによって払い込むものとする(本件組合契約書2条)。

なお,本件組合契約書末尾の記載によると,本件組合は,10億9578万円を8口に分割して組合員となる者を募っており,原告は,その0・5口分に当たる6848万6250円を出資するものとされている。

c 各組合員は,MLFE,メリルリンチグループ,本件取引をアレンジし,その他何らかの形で関与した個人若しくは団体又はそれらの関連会社のいかなるものも,これまで,明示的と黙示的とを問わず,・※本件組合が取得する映画の商業的利用が生むであろう収益額,及びその税法上の取扱い又は恩典,・※当該映画が興行主又は大衆の間で受けるであろう評価に関して,一切,表明,保証,担保又は約束をしていないことを,ここに確認し同意する(本件組合契約書3条1)。

d 各組合員は,アメリカ合衆国デラウェア州法人で日本国内に恒久的施設を有しないMLFEとの間で「Meteor Film Enterprises Management Agreement」(以下「本件管理契約」という。)を締結することに同意する。本件管理契約に従い,MLFEは,本件組合の唯一の業務執行者となり,各組合員は,本件組合の存続中は,本件管理契約による業務執行者の任命の取消しをしないことに同意する。

各組合員は,いかなる場合にも,業務執行者が本件映画に関連して実現すべきであった,又は実現することができたであろう収入又は収益を実現しなかった旨の主張を一切しないものとする。

業務執行者は,善良な管理者の注意をもって業務の履行に当たり,業務執行者がその職務を執行するに当たっての作為又は不作為に悪意又は重大な過失がない限り,業務執行者は,本件組合又は各組合員に対し,いかなる責任も負わない。

各組合員は,いかなる原因によるかを問わず,本件組合が清算されるに当たっては,別段の決議がない限り,業務執行者が清算人となり,その義務履行に対しては,本件組合から合理的な報酬が支払われることを承認し,これに同意する(本件組合契約書3条2)。

e 本件組合契約書の変更には,各組合員全員の書面による合意及び本件組合規約書第3条2項が言及する諸契約が要求する同意を必要とする(本件組合契約書5条4)。

イ 本件組合契約書の付属書類である本件組合規約書には,以下のような条項の記載がある。

a 本件組合は,日本国民法の規定に基づく民法上の組合とする(本件組合規約書2条)。

b 本件組合の目的は,i本件映画の所有権並びにすべての権利,権原及び権益を購入し,ⅱ本件映画を世界中で,すべての媒体を通じて商業的に利用することとする。このため,本件組合は,・※本件映画を購入する契約,・本件映画についての全世界における唯一かつ排他的配給者を任命する契約,・※配給者に本件映画についての購入選択権を付与する契約及びその他の関連諸契約をそれぞれ締結するものとする。

上記事業を遂行するため,本件組合は,ABNアムロ銀行と融資契約を締結し,約2062・5万ドル相当円貨額の融資を受けるものとし,本件映画購入のため,2772・5万ドル相当円貨額の支払をなす(本件組合規約書3条2)。

c 本件組合の主たる事務所は,変更されない限り,「東京都港区α システムズ・インターナショナル株式会社気付」に置く(本件組合規約書4条)。

d 本件組合は,民法682条所定の事由が早期に発生しない限り,本件組合が本件映画の所有権並びにそれに対する何らかの権利,権原及び権益を保有している限り存続するものとする。この期間満了に伴い,本件組合は清算手続に入る(本件組合規約書5条1)。

e 本件組合が解散した場合,業務執行者以外の個人又は会社その他の法人を任命する旨の組合の決議がなされない限り,業務執行者は清算人となる。

清算人は,本件組合の現務を結了させるため,必要又は適切なすべての事項を行う権限を有する(本件組合規約書5条1)。

f 組合員は,本件組合の清算前に,本件組合の財産の分割を要求する権利を有しない。

各組合員は,本件組合規約書に記載する一定の条件の下で組合の持分を譲渡することを除き,本件組合から任意に脱退できない(本件組合規約書5条3)。

g 本件組合の存続期間中,会計帳簿は,業務執行者によって,そのニューヨーク市所在の主たる事務所に常備され,各組合員は,この会計帳簿を自由に閲覧し検査する権利を有する(本件組合規約書7条3)。

組合員からの要求により,業務執行者は,専門家を雇い,本件組合の計算書類及び帳簿を監査させる(本件組合規約書7条4)。

h 出資比率の合計が50パーセント以上に当たる組合員による要請のあった場合,又は業務執行者が相当と判断した場合,組合員会議が開催されるものとする。その出資比率の合計が75パーセント以上に当たる組合員の賛成により成立した決議は,業務執行者及び全組合員を拘束する。ただし,この決議が本件管理契約において業務執行者が履行すべきとされている義務の範囲に属しない限り,業務執行者を拘束しないものとする(本件組合規約書8条1)。

i 組合員は,直接たると間接たるとを問わず,本件組合を代表するかのように振る舞い又はその代理人と称して行動したりせず,また本件組合のために,又はその計算において,本件組合にいかなる支出,経費,負担,義務又は債務を負担させず,又は負担させることを企図しないことを誓約し,同意する(本件組合規約書9条14)。

j 組合員は,①本件組合を脱退した場合は,それが任意脱退たると非任意脱退たるを問わず,本件組合に対しいかなる現金による一時払を請求する権利を有せず,また,請求しないこと,②脱退組合員の持分についての本件組合との清算は,脱退が発効した時点以降,本件組合の得る年間収益に対する(脱退直前の)出資比率に当たる金額の支払という形でのみ行われること,及び③かかる金額は,組合員としてとどまった他の組合員が配分を受ける時点で,それと同じ方法及びその限度において,当該脱退組合員に対し,あたかもその者が本件組合から脱退しなかったがごとく支払われるものとすることを誓約し,同意する(本件組合規約書9条16)。

k 組合員は,本件組合が本件組合規約書3条2に言及する融資契約上のすべての債務を完済するまで,さらに本件組合が本件映画の権利,権原及び権益を保有している限り,本件組合の解散動議をしないことを誓約し,同意する(本件組合規約書9条17)。

ウ 本件融資契約書には,以下のような条項の記載がある。

a 約定金額は,26億9053万1250円(本件金員)である(本件融資契約書1条)。

b 本件借入金は,貸主が本件融資契約に基づき融資する約定金額に,それに対してその後発生するあらゆる利息と,本件融資契約に従って組み入れられる全利息を加えたものである(本件融資契約書1条)。

c 借主(本件組合)は,本件借入金が,ジェネシスから本件映画を購入するためにのみ使用され,他の目的のためには使用されないことに同意する(本件融資契約書2条3)。

d 利息は,年率6・07パーセントで月複利とし,利息の計算に当たっては,1年を360日,1月を30日として計算するものとする(本件融資契約書1条)。

e 延滞利息は上記利率に年率2パーセントを加えた利率とする(本件融資契約書2条6a)。

f 借主は,返済日に,1回払で,貸主に本件借入金残高を返済しなければならない(本件融資契約書2条7)。

g ただし,借主は,本件配給契約に定める「ネット支払額」,「純支払保証額」及び「延長前払額」のいずれかを受け取った場合には,直ちにこれに相当する金額を,また,本件配給会社であるMFDC及びその承継人等が,本件オプション契約書に基づくオプションを行使した場合,オプション価額が本件オプション契約書に基づき支払われる日において,本件借入金のすべての残額を,期日前返済に伴う何らかの損失金の補償のための追加額とともに支払わなければならない。

貸主は,これらを受領したときは,本件借入金の期限前返済として充当しなければならない(本件融資契約書2条8)。

なお,返済日とは,原則として,借入日から7年目に当たる日を意昧する(本件融資契約書1条)。

h 貸主の費用が増加した場合,やむを得ないときには,借主は増加費用を支払わなければならないこと等がある(本件融資契約書3条2)。

i 借主は,ABNアムロ銀行に,口座番号13-23-881(以下「本件A口座」という。)及び口座番号13-62-852(以下「本件B口座」という。)の預金口座を設定し,MFDC及び保証人(並びにその承継人等)に対し,本件配給契約書,本件オプション契約書,「SECURITY AGREEMENT」と題する担保契約書及び本件保証契約書に関するあらゆる支払を,それぞれ上記預金口座にのみ行うよう指示しなければならない(本件融資契約書1条,6条5)。

j 借主は,貸主の文書による事前の同意なしに,本件保証契約書,本件配給契約書,本件オプション契約書又は上記担保契約書を変更したり,あるいは,いかなる方法によろうとも本契約に基づく貸主の権利に重大な影響を及ぼすような本件組合契約の変更を行ってはならない(本件融資契約書6条6)。

エ MLFEとABNアムロ銀行が署名して作成された,本件組合とABNアムロ銀行を契約当事者とする「ASSIGNMENT AGREEMENT」と題する書面(以下「本件債権譲渡契約書」という。)には,本件組合は,本件配給契約書及び本件オプション契約書に基づき,MFDCから受領するすべての権利及びその全金額,本件保証契約書に基づいてHBU銀行がした保証に関するすべての権利並びにこれらに代替するものを本件融資契約に係る債務の担保として,ABNアムロ銀行に譲渡する旨の条項の記載がある。

なお,本件債権譲渡契約書には,上記で担保とされているMFDC又は本件保証銀行からの支払金額について,その支払方法を規定した以下の条項の記載がある。

a MFDC又は本件保証契約に基づき本件保証銀行から支払われる金額のうち,本件配給契約に定めるネット支払額,純支払保証額及び延長前払額,並びに本件オプション契約に定める本件クラスAオプション価額のうち固定支払金額部分については,本件組合名義の本件A口座に直接支払われるものとする(本件債権譲渡契約書3条a)。

b MFDCから支払われる金額のうち,本件配給契約に定めるグロス支払額,本件オプション契約に定める本件クラスAオプション価額及び本件クラスBオプション価額については,本件組合名義の本件B口座に直接支払われるものとする(本件債権譲渡契約書3条b)。

オ MLFEとABNアムロ銀行が署名して作成された,本件組合とオランダ銀行を契約当事者とする「ACCOUNT PLEDGE AGREEMENT」と題する口座質権設定契約書には,ABNアムロ銀行が,本件A口座及び本件B口座に質権を設定する旨の記載がある。

カ 本件売買契約書には,以下のような条項の記載がある。

a 本件映画の価額は,36億1672万6250円である(本件売買契約書1条,附属書類Ⅱ)。

b ジェネシスは,本件映画の世界中における著作権,オリジナル・ネガティブ及び本件映画が化体されている他の有体物に関する権利,権原及び所有権益のすべてを本件組合に売却,譲渡,移転,許諾等するものとし,本件組合は,それらのすべてを購入し,また,取得するものとする(本件売買契約書2条)。

c 売主(ジェネシス)は,本件売買契約書の作成・交付とともに,①本件映画に関する物件をラボラトリー・アクセス・レターによって,買主(本件組合)の名義へ変更し,②本件映画に関する「BILL OF SALE」を買主に交付し,③「ASSIGNMENT」によって,買主に対し,著作権の譲渡を行う。

これらにより,本件売買契約は履行される(本件売買契約書6条)。

d 売主は,買主に対し,次のことを保証する。

(a) 買主は,本件映画に関し,世界中における著作権,オリジナル・ネガティブ及び本件映画又はその部分が化体されている他の有体物及びその関連権利に対する売主の完全な権利を得ること。

なお,この権利には,買主とMFDCとの間で締結される本件配給契約において,買主がMFDCに与えるべきすべての権利を与えることを可能とするすべての権利を含むこと(本件売買契約書7条aⅵ)。

(b) 本件映画は,適切な品質規格,一定の上映時間並びにアメリカ合衆国での上映上の一定のレーティング取得のがい然性等を有すること(本件売買契約書7条aⅶないしxⅲ)。

(c) 本件映画は,著作権等上の問題がないこと(本件売買契約書7条axⅳ)。

(d) 本件映画は,試写等を除き,上映されたことがないこと(本件売買契約書7条axⅴ)。

キ 本件配給契約書には,以下のような条項の記載がある。

a 「当初契約期間」とは本件配給契約開始の日から7年間をいい,「延長期間」とは本件組合が期間の「延長オプション」(Extension Option)を行使した場合のその後の7年間をいい,両者を併せて「期間」という(本件配給契約書3条,9条)。

b ライセンサーは,配給者に対し,次のことを保証する。

(a) 本件映画は,適切な品質規格,一定の上映時間並びにアメリカ合衆国での上映上の一定のレーティング取得のがい然性等を有すること(本件配給契約書4条Axⅵないしxxⅱ)。

(b) 本件映画は,著作権等上の問題がないこと(本件配給契約書4条Axxⅲ)。

(c) 本件映画は,試写等を除き,上映されたことがないこと(本件配給契約書4条Axxⅳ)。

(d) 本件配給契約により配給者に与えられた権利等は,本件映画に関するいかなる契約の不履行,違反,解除,終了又は,その結果として,解除,変更その他の不利な影響を受けず,またライセンサーは,契約期間中いかなる契約の改正,変更,終了,又は,契約の条項による配給者の権利に不利益な影響を与えるような変更,終了,解除等を行わないこと(本件配給契約書4条Axxⅷ)。

(e) ライセンサーは,いかなる者にも,本件映画に関する権利又は権益を,配給者に与えられた権利に悪影響を与えるような売却,譲渡等を行わないこと(本件配給契約書4条xxxⅲ)。

c ライセンサーの本件配給契約による保証の違反が,「Pico Films,Inc.」(以下「ピコ」という。)とジェネシスとの間の本契約と同一日付けの売買契約に基づくピコの保証の違反の結果もたらされるものである場合には,その限度において,本件映画売買契約の規定にかかわらず,ライセンサーは免責される(本件配給契約書4条B)。

d ライセンサーは,配給者に対し,本件配給契約の期間中,以下の権利を単独かつ排他的に与える。

(a) 配給者の裁量により,題名の選択,変更をすること及び配給者の指定した題名で全世界で本件映画を封切ること(本件配給契約書5条A)。

(b) 配給者の裁量により,本件映画,本件映画のオリジナル・ネガティブその他の本件映画が化体されている有体物をカットし,編集し,追加し又は変更すること,及び外国版を作成(字幕を付け,吹き替えること等を含む。)すること(本件配給契約書5条B)。

(c) 配給者の選択するラボラトリー等に本件映画に関するポジティブ・プリント,ビデオテープ,ディスクその他を作成させること等(本件配給契約書5条E)。

上記ポジティブ・プリント等は,配給者の指示によってのみ上記ラボラトリーから移動又は引渡しすることができ,配給者の同意なしには,本件組合その他のいかなる者にも引き渡されない(本件配給契約書添付別紙6)。

(d) 配給者の裁量により,本件映画の広告,宣伝,普及等を行うこと。なお,ライセンサーは,配給者の事前同意なしに,本件映画に関する広告等をすることはできない(本件配給契約書5条G)。

(e) 配給者は,本件配給契約の期間を通じ,その供与の時点における慣習に従い,上記の期間を超える期間にわたる本件映画の公開の権利を第三者に与えることができ,上記第三者の権利は,本件配給契約の期間終了によって影響されない(本件配給契約書5条P)。

e 完成しすべての点において公開の準備のできた本件映画は,本件配給契約書の作成,交付後直ちに配給者に交付されるものとする。

本件映画の製作がいまだ進行中の場合は,ライセンサーは,本件映画の化体された有体物をすべて現状のまま引き渡すこととし,配給者は,その裁量により,この有体物をカットし,編集し,追加し,削除する等の権限を有することとする(本件配給契約書7条)。

f 配給者は,ライセンサーに対し,以下の金員を支払う。

(a) リリース支払額(Release Payment Amount)

リリース支払額は,本件映画に関し,本契約締結の日の翌日から本件映画の封切りの日の前日までの間の各暦日に対して1200ドルである(本件配給契約書8条Aⅰ,付表Ⅱ)。

上記リリース支払額の総額は,グロス支払額(Gross Payment Amount)の最初の支払と同時にドルで支払われなければならないものとする(本件配給契約書8条Aⅰ)。

(b) グロス支払額

グロス支払額は,本件映画に関し,グロス支払損益分岐点887万5000ドル(Gross Payment Breakpoint)に達するまでは,調整グロス収益(Adjusted Gross Proceeds)の10パーセント相当額とし,グロス支払損益分岐点を超えた場合,①グロス支払損益分岐点以後の調整グロス収益の10パーセント相当額から本件映画に関する第三者配当(本契約書添付付属書Aの6Iに記載される本件映画に関して支払われ,又は生ずるすべての原価,費用及びその他の金額の合計額を意味する(本件配給契約書8条Bⅳ)。)の累積額を控除した額又は②グロス支払損益分岐点以後の調整グロス収益の7・5パーセント相当額のいずれか大きい方の金額とする(本件配給契約書8条Aⅱ)。

(c) ネット支払額(Net Payment Amount)

ネット支払額は,本件映画に関し,調整ネット収益(Adjusted Net Proceeds)のライセンサーの取り分(調整ネット収益の累積合計額がネット支払損益分岐点2772万5000ドル(Net Payment Breakpoint。本件映画の購入価額とされる金額と同一である。)に達するまでは,調整ネット収益の100パーセント相当額を意味し,ネット支払損益分岐点を超える場合には調整ネット収益の50パーセント相当額を意味する(本件配給契約書8条Bⅴ)。)の累積額が,グロス支払額の累積合計額を超える金額とする(本件配給契約書8条Aⅲ)。

(d) 純支払保証額(Net Guarantee Payment)

純支払保証額とは,最低支払保証額(Net Minimum Guarantee Amount。本件配給契約書付表Ⅱに記載の金額37億4892万1624円である。)に本契約締結日の7年目の応答日から支払日までに係る適用利率(年6・07パーセント月複利計算)により計算される利息を加えた金額が,当初の全契約期間における次の金額の合計額を超える部分の金額をいう(本件配給契約書8条Aⅳ)。

ⅰ ネット支払額の合計額

ⅱ 各ネット支払額の支払日から決済日(Net Guarantee Payment Date。当初契約期間に係る7回目の会計期間について,配給者が,調整ネット収益に係る報告書の提出を要求される日である(本件配給契約書8条Bⅵ)。)まで年6・07パーセント月複利計算した各ネット支払額に係る利息額

純支払保証額は,決済日までに支払われなければならない。

ライセンサーに対し純支払保証額を支払う配給者の義務は,いかなる理由によって本契約が終了しても存続するものとする。本契約の他の条項(本件配給契約書24条B又は25条を含む。)に反対のものがあるか否かにかかわらず,純支払保証額は,いかなる理由があろうとも,配給者によって,支払停止,支払延期,相殺,反訴を行うことなく全額が日本円で支払わなければならない(本件配給契約書8条Aⅳ)。

(e) 固定費用支払額(Fixed Payment)

固定費用支払額は,本契約書付属書3に記載された総額26万1487・02ドルであり,同付属書3に記載された金額が記載された日に(平成4年11月30日に5万ドル,平成5年11月30日に5万ドル,平成6年11月30日に5万ドル,平成7年11月30日に3万5000ドル,平成8年11月30日に3万5000ドル,平成9年11月30日に4万1487・02ドル)支払われなければならない(本件配給契約書8条Aⅴ)。

g 調整グロス収益及び調整ネット収益は,本契約書添付別紙Aに従って定義・計算・決定・報告され,本件配給契約書8条に規定するすべての支払も添付付属書Aに従って決定され,支払われる(本件配給契約書8条Bⅰ)。

グロス支払損益分岐点及びネット支払損益分岐点は,本契約書付表Ⅱに記載された金額を意味する(本件配給契約書8Bⅱ)。

h 本件配給契約に基づく配給者の支払義務は,本件オプション契約書に記載されたクラスAオプション(ClassA Purchase Option)の行使により,本件オプション契約書2条eに規定される範囲でのみ,自動的に消滅する(本件配給契約書8条C)。

i 配給者(又はその譲受人)がクラスAオプションを行使しなかった場合,ライセンサーは,当初契約期間の終了時から本件配給契約を7年間延長する延長オプションを有する。

延長オプションは,本件オプション契約書に記載された第二オプション期間満了時に,クラスAオプションの行使されていない場合に限り,本件配給契約の締結後6年経過後の日から行使できる(本件配給契約書9条A)。

j ライセンサーが延長オプションを行使した場合,延長された本件映画に係る本契約の期間は,当初契約期間に係る本契約のすべての条件及び状態のまま自動的に延長期間分について延長される(本件配給契約書9条B)。

ただし,配給者からライセンサーへの支払については,前記fに代えて次の金額を支払う(本件配給契約書9条B1ないし3)。

(a) 延長前払額(Extension Advance)

延長前払額は,3億6167万2625円(本件映画の購入価額の10パーセント相当額)で,当初契約期間終了後,90日以内に支払われる(本契約書付表Ⅱ)。

(b) 延長期間におけるグロス支払額

(c) 延長期間におけるネット支払額が,延長前払額及び純支払保証額の合計額を超える部分の金額

なお,延長前払額は日本円で支払い,その他の支払はドルで行う(本件配給契約書9条D)。

k 配給者がクラスAオプションを行使せず,ライセンサーが延長オプションを行使しなかった場合,本件配給契約は,第2オプション期間終了の日に終了する(本件配給契約書9条E)。

l 本件映画には,万国著作権条約及び修正合衆国著作権法に従った著作権表示が含まれているものとする。

配給者は,ライセンサーの請求により,本件組合等が著作権者であることを示す本件映画の著作権登録申請をアメリカ合衆国において行わなければならない。配給者は自らの名義あるいは著作権者の名義で,本件映画の不正な複製,公開若しくは本件映画の著作権の侵害を防止し,又は,ライセンサー又は配給者の権利の侵害等を防止するため,必要又は適当と認める手段をとることができるものとする。ライセンサーは,配給者に対し,上記の手段をとるために必要な,撤回不能の代理権を与えることとし,そのため,ライセンサーは配給者に対し,本契約書添付付属書4の書式による委任状を作成し交付する(本件配給契約書15条)。

m 配給者は,本件映画に関するプリント及びその他のフィルムを破棄することができる。ただし,ライセンサーの負担で作成されたネガティブ等は除く(本件配給契約書16条)。

n 配給者は,いわゆる「メジャー」(大手映画配給会社)に本契約を譲渡すること,又は,その裁量により選択するサブ配給会社(sub distributors)に対し本契約上の配給者の権利の使用を許諾することができる(本件配給契約書18条A)。

ただし,ライセンサー及び配給者は,本契約に明示されている場合を除き,他方の当事者の事前の書面による同意なしには,本契約上の権利を譲渡することはできない(本件配給契約書18条B)。

o 本件組合等は,契約締結時に,本契約添付付属書5の書式による略式「Exclusive License」(包括許諾)を配給者に交付する。

ライセンサーは,配給者から本契約に基づく権利の証明,維持,有効化又は保護するための必要かつ適切な文書を要求された場合,上記要求を実施しなげればならない。

ライセンサーが上記要求を実施しない場合には,配給者がライセンサーの代理人として上記要求を実施する権利を,ライセンサーは配給者に与えるものとする(本件配給契約書20条)。

p 本契約又は関連契約の失効又は終了は,本契約によって配給者に与えられた又は与えることが合意された本件映画に関する権利,権原等に影響を与えない。ライセンサーの配給者に対する保証等は,本契約の失効又は終了にかかわらず有効に存続するものとする(本件配給契約書24条A)。

q 配給者が本契約に違反したときのライセンサーの権利及び救済は,損失の回復に限られ,ライセンサーは,本契約を終了させる権利,本件映画の配給者の権利等を取り消す権利,又は本件映画の公開等を規制し若しくは制限することを含むすべての権利又は救済を放棄する。

また,配給者の本件映画に関する権利は,配給者が本契約に基づくライセンサーへの支払をしなくても,終了,解除されることはなく,上記不履行があった場合の,ライセンサーの唯一の救済は,金銭上の損失の回復を求めるための法律上の措置である(本件配給契約書24条C)。

ク 本件オプション契約書には,以下のような条項の記載がある。

a 本件組合等は,MFDCに対し,本件組合等の本件映画に関するすべての権利,権原及び権益を無条件で,取消し不能な,かつ独占的な権利及び購入選択権(クラスAオプション)を与える(本件オプション契約書B2条(a))。

b MFDCが,本件映画に関して,クラスAオプションを行使する能力を危うくしたり,損なったり,その他悪影響を及ぼしたりするような可能性がある何らかの事実等が生じたと,誠実にかつ合理的に判断した場合,MFDCは,本件組合オプション契約締結日から同日以降,7年後にあたる日のロサンゼルス時間の深夜12時までの期間(第1オプション期間)にいつでもクラスAオプションを行使することができる(本件オプション契約書B2条(c)ⅰ)。

また,上記事実が発生しなかった場合においても,MFDCは,本件組合オプション契約の日から同日以降6年経過した日以降において,MFDCが本件組合から第2オプション期間開始についての書面による通知を受け取った日から1年を経過した日のロサンゼルス時間の深夜12時までの期間(第2オプション期間)中に,いつでもクラスAオプションを行使することができる(本件オプション契約書B2条(c)ⅱ)。

c MFDCがクラスAオプションを行使した場合,本件映画に関する本件組合等の権利,権原,権益,本件映画売買契約に基づく本件組合の権利等は,クラスAオプションの効力発生日に,自動的に,取消し不能な状態で,MFDCに移転,譲渡等される。

なお,この場合,本件組合等は,いかなる契約書,証書等も作成,交付する必要はない(本件オプション契約書B2条(e)ⅰ)。

本件オプション契約B2条(e)ⅲの条項に従い,クラスAオプションの行使により,本件配給契約は自動的に終了する(本件オプション契約書B2条(e)ⅱ)。

しかし,本件オプション契約書B2条(e)ⅰの規定及びB2条(e)ⅱに規定する配給契約の終了は,配給契約に基づく当初契約期間(7年間)において,本件映画に関する本件配給契約書8条Aⅲ(ネット支払額)及び8条Aⅳ(純支払保証額)に基づく支払義務を,MFDCに対し免除し,又は免除するとみなし,あるいは解釈するものではない。当該支払は,配給契約に規定されるとおりにMFDCにより支払が継続される(本件オプション契約書B2条(e)ⅲA)。

d MFDCがクラスAオプションを行使した場合には,本件組合に対し,一定の本件クラスAオプション価額(Class A Option Price)を支払う(本件オプション契約書B2条(f)ⅰ及びⅱ)。

本件クラスAオプション価額として,最低でも,「固定支払額」3億6167万2625円(本件映画の購入価額の10パーセント相当額)を支払う(本件オプション契約書B2条(f)ⅲN,同契約書附属書類Ⅱ)。

e 本件組合の各組合員とされる者は,MFDCに対し,同者の本件組合に対するすべての権利,権原及び権益を無条件で,取消し不能な,かつ独占的な権利及び購入選択権(クラスBオプション)を与える(本件オプション契約書B3条(a))。

f MFDCが,本件組合の各組合員とされる者のいずれかが本件組合に対する権利等に関して,クラスBオプションを行使する能力を危うくしたり,損なったり,その他悪影響を及ぼしたりするような可能性がある何らかの事実等が生じたと,誠実にかつ合理的に判断した場合,MFDCは,前記の組合員(以下「該当組合員」という。)に対し,第1オプション期間及び第2オプション期間中のいつでも,クラスBオプションを行使することができる(本件オプション契約書B3条(c))。

g MFDCが,クラスBオプションを行使した場合,該当組合員の本件組合に対する権利等は,自動的に,取消し不能な状態で,移転,譲渡等される。

なお,該当組合員は,いかなる契約書,証書等の作成,交付する必要はない(本件オプション契約書B3条(e))。

h MFDCがクラスBオプションを行使した場合には,該当組合員に対し,一定の本件クラスBオプション価額(ClassB Option Price)を支払う(本件オプション契約書B3条(f))。

i 本件組合は,MFDCの事前の書面による同意なく,そのすべての資産につき譲渡,担保提供等をすることができないことを保証する(本件オプション契約書B6条(b)ⅲ)。

j 本件組合の組合員とされる者及び業務執行者は,MFDCの事前の書面による同意なく,本件各契約等を,改正,修正又は終了させることができないことを保証する(本件オプション契約書B6条(c)ⅰ)。

k 本件組合の組合員とされる者は,MFDCが本件オプション契約に基づき行い,また,本件オプション契約でカバーされ,期待されている取引を完遂するため要求するすべての契約,文書及び指図書につき,署名し,認知し,記録し,保管すること及びすべての行動をとることについて,MFDCを各組合員とされる者の合法的な代理人として,撤回不能で指名する(本件オプション契約書B10条(b))。

l MFDC及びその承継人は,いかなる者に対しても,本件組合オプション契約に基づくいかなる若しくはすべての権利をも譲渡し,又は,いかなる若しくはすべての義務をも引き受けさせることができ,かかる承継人等は,本件組合等と直接契約をしたかのごとく,本件組合オプション契約に関しMFDCと同一の地位に立ち,本件組合等は,MFDCの単独かつ絶対的な裁量により与えられる事前の書面による同意なくして,本件組合オプション契約による権利又は義務を譲渡し,又は引き受けさせることができない(本件オプション契約書B12条(f)及び(g))。

ケ MLFEとMFDCが署名して作成された,本件配給契約書及び本件オプション契約書に記載された本件組合等の義務の完全な履行を担保することに係る「SECURITY AGREEMENT Option--MFE to MFDC」と題する書面(以下「本件オプション担保契約書」という。)及び「SECURITY AGREEMENT Distribution--MFE to MFDC」と題する書面(以下「本件配給担保契約書」といい,本件オプション担保契約書と併せて「本件担保契約書」という。)には,以下のような条項が記載されている。

a 本件組合等は,本件配給契約書及び本件オプション契約書に記載する権利につき,MFDCに,本件組合等にあっては本件オプション担保契約書により第1順位の担保を設定し,あるいは譲渡,移転等をし,本件組合にあっては本件配給担保契約書により第2順位の担保を設定し,あるいは譲渡,移転等をする(本件オプション担保契約書1条及び2条,本件配給担保契約書1条及び2条)。

b 担保物件は,本件映画から派生する著作物,本件映画のオリジナル・ネガティブ及びその他の化体物件に対する本件組合のすべての権利,権原及び権益であり,各組合員にあってはその組合員としての権益とする(本件オプション担保契約書3条,本件配給担保契約書3条)。

c 本件組合は,MFDCの事前の書面による同意なく,担保物件又はこれに関する権利の担保提供,譲渡,引渡し等をしてはならず,MFDCは,本件担保契約書に記載する権利及び担保物件又はこれに関する権利につき,本件組合の事前の書面による同意なく,第三者に対し,担保提供,譲渡,引渡し等をすることができる(本件オプション担保契約書4条ax,18条fg,本件配給担保契約書4条j,18条fg)。

d 本件組合は,カリフォルニア州及びニューヨーク州当局へのUCCファイリングのためのファイナンシング・ステイトメント等並びに著作権担保・譲渡証をMFDCに交付しなければならず,また,MFDCがその権利,担保を証明し,完遂し,有効化し,又は保護するに必要と認められる手段をとるため要求するその他の書類を交付しなければならない。本件組合が要求後5日以内に所要の措置をとらない場合,MFDCがMFDC自身及び本件組合の名においてすべての措置をとることを本件組合は授権し,また,本件組合は,この点に関し,MFDCを代理人に任命するところ,この授権及び任命は撤回不能である(本件オプション担保契約書4条axⅰ,本件配給担保契約書4条k)。

e 本件組合は,本件売買契約書に記載のラボラトリーを担保権者としてのMFDCの代理人に撤回不能で任命し,ラボラトリーが所要の措置をとるよう指示した指示書をMFDCに交付する(本件オプション担保契約書4条axⅱ及び添付別紙E,本件配給担保契約書4条l及び添付別紙E)。

上記ラボラトリーは,MFDCの代理人として,本件組合の債務不履行が生じた場合,MFDCの指示により担保物件の全部又は一部を処分することが授権される(本件オプション担保契約書7条,本件配給担保契約書7条)。

f 本件組合の組合員とされる者についても,前記c及びdに相当する規定がある(本件オプション担保契約書4条bx及びxⅰ)。

g 本件組合等の債務不履行の場合,MFDCは本件組合等の代理人に撤回不能で任命され,代理人として,書簡の開示等のほか,本件配給契約,本件映画売買契約その他の関連契約,本件組合の組織上の規定等による権利を行使すること等ができる(本件オプション担保契約書12条,本件配給担保契約書12条)。

コ MLFEとMFDCが署名して作成された,本件組合の組合員とされる者のMFDCに対する著作権譲渡担保権付与に係る「Agreement of Assignment of Copyright by way of Security」と題する書面(以下「本件著作権譲渡担保契約書」という。)には,以下のような条項の記載がある。

a 各組合員は,本日,MFDCに対する本件オプション契約に基づく一切の債務の履行等を担保するため,本件映画の著作権を譲渡した。

b 本件著作権譲渡担保契約書は,「SECURITY AGREEMENT」に基づき締結されたものである。

c 本件著作権譲渡担保契約書の写し3通を作成し,1通を文化庁長官への提出用とする。

サ 本件保証契約書には,以下のような条項の記載がある。

a 保証人(HBU銀行)は,ライセンサー(本件組合)に対し,配給者(MFDC)のネット支払額,純支払保証額並びに固定費用支払額に相当する額の支払を保証し,配給者が前記の各支払をしなかった場合には,原価,費用あるいは保証人又は配給者によって支払われ,源泉される税金の合計額の支払をHBU銀行が要求されることがないという条件の下で支払う。

ただし,上記金額の現在価値が最低支払保証額の現在価値を,いずれも年率6・07パーセント月複利の割引率で計算したところで,超えない範囲とする(本件保証契約書1条)。

b 本件保証契約に基づく支払は,円貨により,ABNアムロ銀行の本件組合の本件A口座に払い込まれる(本件保証契約書6条)。

(2)  MFDCとフォックスとの間における契約書の存在

ア 各項末尾に掲げた証拠等によれば,以下の事実を認めることができる。

a 本件配給契約書には,付表ⅢのⅤB4に,「MFDCは,本件映画(Picture)に関する,MFDCとフォックスとの間の,本契約と同日付けの再配給契約(Subdistribution Agreement)の変更が,本契約に基づく参加者(Participant)の権利に悪影響を及ぼし,又は主契約(Main Agreement)に基づき参加者(Participant)に支払われる(若しくは受領される)金額に悪影響を及ぼす場合には,参加者(Participant)の書面による事前同意なしで,当該変更に合意したり,又は変更を行ってはならない。」と,付表ⅢのⅥGに,「MFDCは,参加者(Participant)による事前の承認なしに,MFDCとフォックスとの間の,同日付の再配給契約(Subdistribution Agreement)中の変更に同意したり,又はその変更を行ってはならない。」と,それぞれ記載されている。

(乙17)

b 本件オプション契約書B2条(f)ⅲ(I)に,「「二次配給者」とは,フォックス又はMFDCとフォックスとの間の本書と同日付特定「二次配給契約書」(以下「二次配給契約書」という。)の下での「二次配給者」としての権益継承者のいずれかを意味する。」と,同契約書B2条(f)ⅲ(P)に「「配給費総計」とは,「二次配給契約書」の添付別紙A,5A項の「当該映画」のいずれか及び総てに関する「正味収益金」算出の下で「配給費」として差し引くことができる総ての額に収益を得た日より「配給費払戻金」が支払われるまで,本書日付(現在7・5%)の「プライムレート」(「二次配給契約」に定義されている如く)の125%で課される月複利の利息を合算した合計額を意味する。」と,それぞれ記載されている。

(乙39)

c 本件映画が著作物として最初に公表された年月日は平成4年7月10日であり,上記公表の際に表示された著作者名はフォックスとして,著作権登録原簿に表示されている。

(乙3)

d 本件映画を実際に全世界に配給したのはフォックスであった。

(乙1,2)

e 株式会社レオ企画外15社によって設立され,オリックス株式会社を業務執行者とするオリックス映画投資事業第三組合(以下「第三組合」という。)が,①ALGEMENE BANK NEDERLAND N.V.(以下「ABN銀行」という。)から元金20億9520万円融資を受ける旨の契約「LOAN AGREEMENT」(以下「別件融資契約」という。),②当該融資金に第三組合の各組合員の出資金を加えた金額を代金としてジェネシスから,「Miller's Crossing」と題する映画(以下「別件映画」という。)を購入する旨の契約「AGREEMENT OF PURCHASE AND SALE」,③TCFC FILM DISTRIBUTION COMPANY B.V.(以下「TFDC」という。)に対して,別件映画の配給権を付与する旨の契約「DISTRIBUTION AGREEMENT」(以下「別件配給契約」という。),④HBU銀行との間において,HBU銀行が,TFDCによって上記配給契約に基づいて支払われるべき一定額(別件配給契約書8条Aⅲに規定されたネット支払額及び同条Aⅳに規定された純支払保証額であり,最低支払保証額は,30億8275万8464円とされている。)の支払を保証する旨の契約「GUARANTEE AGREEMENT」,⑤TFDCに対し,TFDCが第三組合から別件映画のすべての権利,権原及び権益を買い取る権利及びTCFCが第三組合の各組合員からその持分を買い取る権利を付与する旨の契約「OPTION AGREEMENT」に係る各契約書が,いずれも英文によって,平成2年6月29日付けで作成され,第三組合は,別件映画に係る取引(以下「別件類似取引」という。)を行っているところ,上記①ないし⑤に各契約についての契約書に記載された内容は,それぞれ,本件融資契約書,本件売買契約書,本件配給契約書,本件保証契約書,本件オプション契約書に記載された内容と極めて類似している。

そして,TFDCとフォックスを契約当事者(TFDCをライセンサー,フォックスをサブ配給会社)とする,下記のような内容の契約「SABDISTRIBUTION AGREEMENT」(以下「別件サブ配給契約」という。)に係る契約書(以下「別件サブ配給契約書」という。)が上記平成2年6月29日付けで作成されており,別件サブ配給契約書においてフォックスが平成2年6月29日の別件サブ配給契約実施時にTFDCに対して支払うものとされている保証支払金額1372万5000ドルは,1ドル153円で計算すると,ほぼ,別件融資契約上の融資金額20億9520万円に見合う金額となっている。

(乙15,35,36,38,40,42)

(a) 「当初契約期間」とは別件配給契約開始の日から7年間をいい,「延長期間」とは第三組合が期間の延長オプション(Extension Option)を行使した場合のその後の7年間をいい,両者を併せて「期間」という(別件サブ配給契約書3条,9条)。

(b) ライセンサーは,サブ配給者に対し,次のことを保証する。

ⅰ 別件映画は,適切な品質規格,一定の上映時間並びにアメリカ合衆国での上映上の一定のレーティング取得のがい然性等を有すること(別件サブ配給契約書4条Axⅳないしxxⅱ)

ⅱ 別件映画は,著作権等上の問題がないこと(別件サブ配給契約書4条Axxⅲ)

ⅲ 別件映画は,試写等を除き,上映されたことがないこと(別件サブ配給契約書4条Axxⅳ)

ⅳ 別件配給契約によりサブ配給者に与えられた権利等は,別件映画に関するいかなる契約の不履行,違反,解除,終了又は,その結果として,解除,変更その他の不利な影響を受けず,またライセンサーは,契約期間中いかなる契約の改正,変更,終了,又は,契約の条項による配給者の権利に不利益な影響を与えるような変更,終了,解除等を行わないこと(別件サブ給契約書4条Axxⅷ)

ⅴ ライセンサーは,いかなる者にも,別件映画に関する権利又は権益を,サブ配給者に与えられた権利に悪影響を与えるような売却,譲渡等を行わないこと(別件サブ配給契約書4条xxxⅲ)

(c) ライセンサーは,サブ配給者に対し,別件配給契約の期間中,以下の権利を単独かつ排他的に与える。

ⅰ サブ配給者の裁量により,題名の選択,変更をすること及び配給者の指定した題名で全世界で別件映画を封切ること(別件サブ配給契約書5条A)

ⅱ サブ配給者の裁量により,別件映画,別件映画のオリジナル・ネガティブその他の別件映画が化体されている有体物をカットし,編集し,追加し又は変更すること。また,外国版を作成(字幕を付け,吹き替えること等を含む。)すること(別件サブ配給契約書5条B)

ⅲ 配給者の選択するラボラトリー等に別件映画に関するポジティブ・プリント,ビデオテープ,ディスクその他を作成させること等(別件サブ配給契約書5条E)。

上記ポジティブ・プリント等は,配給者の指示によってのみ上記ラボラトリーから移動又は引渡しすることができ,サブ配給者の同意なしには,いかなる者にも引き渡されない(別件サブ配給契約書添付別紙6)。

ⅳ サブ配給者の裁量により,別件映画の広告,宣伝,普及等を行うこと。なお,ライセンサーは,サブ配給者の事前同意なしに,別件映画に関する広告等をすることはできない(別件サブ配給契約書5条G)。

ⅴ サブ配給者は,別件配給契約の期間を通じ,その供与の時点における慣習に従い,前記期間を超える期間にわたる別件映画の公開の権利を第三者に与えることができ,上記第三者の権利は,別件配給契約の期間終了によって影響されない(別件サブ配給契約書5条P)。

(d) 完成しすべての点において公開の準備のできた別件映画は,別件配給契約書の作成,交付後直ちにサブ配給者に交付されるものとする。

別件映画の製作がいまだ進行中の場合は,ライセンサーは,別件映画の化体された有体物をすべて現状のまま引き渡すこととし,配給者は,その裁量により,この有体物をカットし,編集し,追加し,削除する等の権限を有することとする(別件サブ配給契約書7条)。

(e) サブ配給会社は,ライセンサーに対し,以下の金員を支払う。

ⅰ グロス支払額

グロス支払額は,グロス支払損益分岐点に達するまでは,調整グロス収益の10・25パーセント相当額とし,グロス支払損益分岐点を超えた場合,①グロス支払損益分岐点以後の調整グロス収益の10・25パーセント相当額から第三者配当の累積額を控除した額又は②グロス支払損益分岐点以後の調整グロス収益の7・6875パーセント相当額のいずれか大きい方の金額とする(別件サブ配給契約書8条Aⅰ)。

ⅱ 保証支払金額

保証支払額は,サブ配給契約実行時に,払戻不可能として支払われる別件サブ配給契約書附属書類Ⅱに明記された金額1372万5000ドル全額とする(別件サブ配給契約書8条Aⅱ)。

ⅲ ネット支払額

ネット支払額は,調整ネット収益のライセンサーの取り分の累積額がグロス支払額の累積合計額を超える金額とする(別件サブ配給契約書8条Aⅲ)。

ただし,ネット支払額の累積合計額が,ネット支払開始点(Net Payment Commencement Point)を超過する部分についてのみ支払われるものとする(別件サブ配給契約書8条Aⅲ)。

ⅳ リリース支払額

リリース支払額は,本契約書附属書類Ⅱに明記された金額に,配給契約締結の日の翌日から当該映画の封切りの日の前日までの間の全暦日数を乗じたものに相当する額とする(別件サブ配給契約書8条Aⅳ)。

(f) 調整グロス収益及び調整ネット収益は,本契約書添付別紙Aに従って定義・計算・決定・報告され,別件サブ配給契約書8条に規定するすべての支払も添付別紙Aに従って決定され,支払われる(別件サブ配給契約書8条Bⅰ)。

ネット支払損益分岐点は,本契約書附属書類Ⅱに記載された金額を意味する(別件サブ配給契約書8条Bⅲ)。

(g) 第三組合が,ライセンサーと第三組合との間の配給契約9条の規定に従って,延長オプションを行使した場合,サブ配給契約は,当初期間の満了した日から自動的に7年間延長される(別件サブ配給契約書9条A)。

ただし,サブ配給会社からライセンサーへの支払については,前記(e)に代えて次の金額を支払う(別件サブ配給契約書9条A1及び2)。

ⅰ 延長期間におけるグロス支払額

ⅱ 延長期間におけるネット支払額が,第三組合とライセンサーとの間の配給契約書9条B1に基づいて支払われるべき延長前払額及び同契約書8条に基づく純支払保証額の合計額を超える部分の金額

本条項の規定は,ライセンサーに対し,当初期間に関して別件サブ配給契約書8条Aⅰないしⅳに規定する額を支払うサブ配給会社の義務を免除するものではない(別件サブ配給契約書9条B)。

(h) ライセンサーは,サブ配給会社に対し,ライセンサーの権利,権原,特権及び優先権を,取消し不能で,絶対的に,かつ,無条件に譲渡し,移転し,その地位を与える(別件サブ配給契約書13条A)。

また,仮に,サブ配給会社がクラスAオプションあるいはクラスBオプションのいずれかを行使した場合には,ライセンサーは,第三組合に対し,クラスAオプション価額あるいはクラスBオプション価額のうちのオプション契約の第2項に詳述する金額を第三組合に支払うことを条件として,ライセンサーと第三組合との間で締結されたオプション契約及び担保契約に基づくライセンサーのすべての権利,責務及び義務をサブ配給会社に委譲する。

なお,これらは,ライセンサーとサブ配給会社との間の平成2年6月29日付けの譲渡契約(Assignment Agreement)の条項に従う(別件サブ配給契約書13条A及びB)。

(i) サブ配給会社は,いかなる者の同意もなしで,その権利の譲渡又は他の方法による引渡しをすることができ,あるいは,その義務を委譲することができる(別件サブ配給契約書18条A)。

ただし,いずれの場合であっても,譲受人が譲渡日以後に生ずるサブ配給会社の契約,支払義務及び責務を引き受け,かつ,履行することを条件とする。

本契約に明示されている場合を除き,いかなる当事者が,他方の当事者の事前の書面による同意なしに本契約上の権利を譲渡したり,義務を委譲したりしても,それらは当初にさかのぼって無効とされる(別件サブ配給契約書18条B)。

(j) 本契約の条項にもかかわらず,ライセンサーは,サブ配給会社が,劇場用映画配給事業及び自身又は他の者によるテレビ番組製作に携わることを承認する。

本契約により引き渡された映画の基本アイディア,テーマ,題名等に基づく他の劇場用映画の配給又はテレビ番組の製作に係るサブ配給会社の権利をいかなる方法でも限定したり,制限したりするとみなされることはない(別件サブ配給契約書19条A)。

(k) ライセンサーは,サブ配給契約の実施及び引渡と同時に,ABN銀行とライセンサーとの間における平成2年6月29日付けの信託契約(Trust Agreement)の目的のためにのみ,ABN銀行に対し,保証支払金額を取消し不能,かつ,無条件に信託する。

ライセンサーは,保証支払金額又はそれに係る利益,所有権の一部あるいは全部を保持したままとしたり,管理権,支配権あるいは監督権を行使したり,振る舞ったりしないものとする(別件サブ配給契約書30条)。

イ 以上のとおり,本件映画を実際に全世界に配給したのはフォックスであって,本件配給契約書及び本件オプション契約書に,フォックスをサブ配給者(二次配給者)とする,本件配給契約及び本件オプション契約と同日付け(平成3年11月29日付け)のサブ配給契約(二次配給契約書ないしは再配給契約書)の存在が言及されていること,ジェネシス,HBU銀行,フォックスなどを契約当事者として,本件融資契約書,本件売買契約書,本件配給契約書,本件オプション契約書及び本件保証契約書と極めて類似する内容の各契約書が作成されている別件類似取引において,上記アeに述べた内容の別件サブ配給契約書が作成されていることに照らすと,MFDCをライセンサー,フォックスをサブ配給者とするサブ配給契約書(以下,この契約書を「本件サブ配給契約書」,この契約書に基づく契約を「本件サブ配給契約」という。)が平成3年11月29日付けで作成され,その内容は,別件サブ配給契約書の内容と類似するものであると推認される。

(3)  MFDCとHBU銀行の間における契約書の存在

証拠(乙47)によれば,日本法に基づき設立された組合であるNOVA FILM PARTNERS(以下「ノヴァ映画組合」という。)が,INTERNATIONAL FILM DISTRIBUTORS B.V.(以下「IFD」という。)との間で映画の配給契約及びオプション契約を締結し,IFDから一定額の支払を受けること,並びにHBU銀行がノヴァ映画組合のために保証契約を締結していることを前提として,IFDを信託設定者兼復帰権的受益者,ABN銀行を受託者,ノヴァ映画組合及びHBU銀行を受益者として,IFDがABN銀行に対し,一定の信託基金を支払っていること,その信託基金は,①上記配給契約又はオプション契約に基づく,IFDのノヴァ映画組合に対する債務,②HBU銀行が締結した上記保証契約に基づくHBU銀行のノヴァ映画組合に対する支払について,IFDによるHBU銀行に対する返済,の各支払に利用されることなどを内容とする信託契約書が作成され,信託設定者としてIFD,受託者としてABN銀行,受益者としてHBU銀行がそれぞれ署名していることが認められる。

そして,上記事実に加えて,別件類似取引における別件サブ配給契約書において,前記のとおり,TFDCが,別件サブ配給契約の実施及び引渡と同時に,別件融資契約の貸出人であるABN銀行に対し,フォックスからTFDCに支払われる保証支払金額(前記のとおり,1ドル153円で換算すると,ほぼ,ABN銀行が別件融資契約に基づき第三組合に融資したとされる20億9520万円に見合う金額となる1372万5000ドル)を信託する旨の信託契約の存在が言及されていること,HBU銀行は,本件組合に対し,MFDCの本件組合に対する支払のうち,純支払保証額37億4892万1624円及び固定費用支払額26万1487・02ドルの支払を保証する旨の本件保証契約を締結しており,銀行の通常業務のあり方に照らすと,HBU銀行において,何らの引当金もなく,本件組合と本件保証契約を締結するものとは考えがたいこと等を併せ考慮すると,MFDCと,本件融資契約の貸出人とされるABNアムロ銀行との間においても,①MFDCは,フォックスが本件サブ配給契約に基づいて平成3年11月29日にMFDCに対して支払ったものと推認される保証支払金額(以下「本件保証支払金額」という。)を信託基金として,ABNアムロ銀行に信託し,②ABNアムロ銀行は,受託者として,この信託基金から,受益者たるHBU銀行に対し,HBU銀行が行った本件保証契約に基づく支払について,MFDCに代わって返済する旨の信託契約(以下「本件信託契約」という。)に係る契約書(以下「本件信託契約書」という。)が作成されていたものと推認され,また,上記信託基金となる本件保証支払金額は,少なくとも,本件金員(本件融資契約に基づく融資金26億9053万1250円)を平成3年11月当時の為替レート等によってドル換算した金額であったものと推認することができる。

(4)  以上のとおり,平成3年11月29日付けで,本件各契約書のほか,本件債権譲渡契約書,本件オプション担保契約書,本件配給担保契約書,本件著作権譲渡担保契約書,本件サブ配給契約書,本件信託契約書が作成されていることが認められ,これらの各契約書相互に,同一日付の本件映画に関連する契約の存在を前提とし,あるいは言及されていることからすると,上記各契約書は,一連の取引を構成するものとして,相互に密接に関連し合い,不可分のものとして作成されていたものと認められる。

2  争点1及び争点2について

以上の事実を前提に,本件各争点について判断する。

(1)  本件取引に係る各契約書上における金銭及び本件映画に係る権利の流れについて

ア 平成3年11月29日における本件金員の流れ

前提となる事実及び前記1において認定した事実によれば,平成3年11月29日の同一日付けで,①フォックスが上記同日に本件金員と同額と推認される本件保証支払金額をMFDCに対して支払う旨記載された本件サブ配給契約書,②MFDCが,少なくとも本件金員と同額と推認される本件保証支払金額を,信託基金として,ABNアムロ銀行に信託する旨の本件信託契約書,③ABNアムロ銀行が,上記同日に本件組合に対し,本件金員の融資を実行する旨の本件融資契約書,④本件組合が,上記同日に,本件金員に9億2619万5000円を加えた金額36億1672万6250円を本件売買代金としてジェネシスに支払う旨の本件売買契約書が作成されていることが認められる。

そうすると,上記各契約書上,本件金員は,平成3年11月29日の同一日付で,フォックスからMFDC,MFDCからABNアムロ銀行,ABNアムロ銀行から本件組合,本件組合からジェネシスへと流れる構造となっていることが認められる。

なお,被告は,本件映画は,もともとフォックスの製作又は買取りに係る映画であるから,ジェネシスとフォックスとの間にも本件映画の売買契約が存在する旨主張するが,証拠(乙1ないし3)によれば,平成4年以降においては,本件映画の配給者がフォックスとされていること,本件映画が最初に公表された年月日が平成4年7月10日であって,その際に本件映画の著作者名としてフォックスが著作権登録原簿に登録されていることは認められるが,他方,これらのことからすれば,平成3年11月29日の時点においては,本件映画はまだ完成していなかったことが推認され,本件においては,上記時点の段階において,本件映画を企画,製作し,本件映画に係る権利を有していた者がフォックスであったと認めるに足りるだけの証拠はない。

イ 本件映画に係る権利の流れ

前提となる事実及び前記1において認定した事実によれば,平成3年11月29日の同一日付けで,①ジェネシスが本件組合に対し,本件映画に係る一切の権利を販売する旨の本件売買契約書,②本件組合がMFDCに対し,本件映画の配給権等を付与する旨の本件配給契約書及び本件映画のオプション権を付与する旨の本件オプション契約書,③MFDCがフォックスに対し,本件映画の再配給権等を付与する旨の本件サブ配給契約書が作成されていることが認められる。

そして,前記1に認定のとおり,本件サブ配給契約書及び本件オプション契約書によれば,①MFDCの裁量により,題名の選択,変更をすること及び配給者の指定した題名で全世界で本件映画を封切ること,②MFDCの裁量により,本件映画,本件映画のオリジナル・ネガティブその他の本件映画が化体されている有体物をカットし,編集し,追加し又は変更すること,及び外国版を作成(字幕を付け,吹き替えること等を含む。)すること,③MFDCの選択するラボラトリー等に本件映画に関するポジティブ・プリント,ビデオテープ,ディスクその他を作成させ,上記ポジティブ・プリント等は,MFDCの指示によってのみ上記ラボラトリーから移動又は引渡しすることができ,MFDCの同意なしには,本件組合その他のいかなる者にも引き渡されないこと,④MFDCの裁量により,本件映画の広告,宣伝,普及等を行うことができ,本件組合は,MFDCの事前同意なしに,本件映画に関する広告等をすることはできないこと,⑤MFDCは,本件配給契約の期間を通じ,その供与の時点における慣習に従い,上記期間を超える期間にわたる本件映画の公開の権利を第三者に与えることができ,上記第三者の権利は,本件配給契約の期間終了によって影響されないこと,⑥完成しすべての点において公開の準備のできた本件映画は,本件配給契約書の作成,交付後直ちに配給者に交付されるものとし,本件映画の製作がいまだ進行中の場合は,本件組合は,本件映画の化体された有体物をすべて現状のまま引き渡すこととし,MFDCは,その裁量により,この有体物をカットし,編集し,追加し,削除する等の権限を有すること,⑦MFDCは,自らの名義あるいは著作権者の名義で,本件映画の不正な複製,公開若しくは本件映画の著作権の侵害を防止し,又は,ライセンサー又は配給者の権利の侵害等を防止するため,必要又は適当と認める手段をとることができるものとし,本件組合は,配給者に対し,上記手段をとるために必要な,撤回不能の代理権を与えることとし,そのため,本件組合は,MFDCに対し,委任状を作成して交付すること,⑧MFDCは,本件映画に関するプリント及びその他のフィルムを破棄できること(本件組合の負担で作成されたネガティブ等は除くとされているものの,本件配給契約書が本件売買契約書と同一日付で作成されており,本件組合が本件映画を実際に占有する余地はないことから,本件組合がネガティブフィルム等を作成する余地はないこと),⑨MFDCは,いわゆる「メジャー」(大手映画配給会社)に本件サブ配給契約に係る権利を譲渡し,又は,その裁量により選択するサブ配給会社に対し,本件サブ配給契約上の配給者の権利の使用を許諾することができるとされており,現に,フォックスとの間で本件サブ配給契約が締結され,フォックスがサブ配給会社とされていること,⑩MFDCは,本件組合及び本件組合員から,包括許諾書を交付されること,⑪MFDCが本契約に違反したときの本件組合の権利及び救済は,損失の回復に限られ,本件組合は,本件配給契約を終了させる権利,本件映画の配給者の権利等を取り消す権利,又は本件映画の公開等を規制し若しくは制限することを含むすべての権利又は救済を放棄するものとされ,MFDCの本件映画に関する権利は,MFDCが本件配給契約に基づく本件組合への支払をしなくても,終了,解除されることはなく,その不履行があった場合の,本件組合の唯一の救済は,金銭上の損失の回復のみであるとされていること,⑫MFDCは,本件組合の本件映画に関するすべての権利,権原及び権益を本件組合から買い取る権利であるクラスAオプション及び,本件組合の各組合員が本件組合に対して有するすべての権利,権原及び権益を本件各組合員から買い取る権利であるクラスBオプションを付与されていることが認められ,これら①ないし⑫の各権利は,いずれも,本件映画に係る権利者(本件映画の著作権者あるいは本件映画が化体されている一切の有体物の所有権者)として有してしかるべき,本質的,かつ,重要な権利であって,本件映画に係る各権利から,上記各権利を除くと,本件映画を管理,処分する権限は存しないも同然となり,「本件映画に係る一切の権利者」としての実質的な権利は残らないものというべきである。

しかも,前記に認定のとおり,本件組合は,さらに,MFDCとの間において,本件担保契約書,本件著作権譲渡担保契約書も作成して,MFDCの上記①ないし⑫の権利等をMFDCに担保しており,著作権登録原簿上においても,ジェネシスから本件組合の各組合員に対する本件著作権譲渡の登録と同時に本件組合の各組合員からMFDCに対する譲渡担保設定契約による著作権の譲渡登録が行われていることが認められる(乙3)。

これらのことからすれば,本件組合は,本件映画の一切の権利を取得したとされる平成3年11月29日と同一日に,直ちに,本件配給契約書及び本件オプション契約書上,本件映画に係る権利者(本件映画の著作権者あるいは本件映画が化体されている一切の有体物の所有権者)として有していてしかるべき本質的かつ重要な権利のすべてにわたって,MFDCに与えるものとされていることが認められる。

さらに,MFDCは,上記①ないし⑫の権利を取得したとされる平成3年11月29日と同一日に,本件サブ配給契約書によって,MFDCが本件組合から与えられた権利のほとんどを,フォックスに与えるものとされていることが認められる。

そうであるとすれば,本件各契約書及び本件サブ配給契約書上,本件映画に係る一切の権利は,本件映画の著作権及び本件映画の化体された映画フィルム等の有体物の所有権を含めて,そのほとんどが,平成3年11月29日の同一日付で,ジェネシスから本件組合,本件組合からMFDC,MFDCからフォックスへと流れる構造となっているものと認められる。

ウ 本件融資契約に基づく本件借入金(本件金員26億9053万1250円に年率6・07パーセントで月複利の利息を加算したもの)の返済日(平成3年11月29日から7年目の応答日である平成10年11月29日)時点における金銭の流れ

前提となる事実及び前記1において認定した事実によれば,平成3年11月29日の同一日付けで,①ABNアムロ銀行が,MFDCから受領した信託基金(少なくとも,本件金員26億9053万1250円と推認される金額)により,MFDCの本件組合に対する本件配給契約及び本件オプション契約に基づく支払を行うか,あるいは,HBU銀行の本件組合に対する本件保証契約に基づく支払を行う旨の本件信託契約書,②MFDCが,本件組合に対し,純支払保証額37億4892万1624円及び延長前払額あるいは固定支払額のいずれかの名目により3億6167万2625円を支払う旨の本件配給契約書及び本件オプション契約書,③HBU銀行が,MFDCの本件組合に対する債務である本件配給契約に基づく純支払保証額37億4892万1624円の支払を保証する旨の本件保証契約書,④本件組合が,ABNアムロ銀行に対し,本件借入金(本件金員26億9053万1250円に利率年6・07パーセント月複利による利息を加えた金額で,本件融資契約実行の日から7年後には41億1059万4249円となる金額)を平成10年11月29日の返済日に1回払いで返済する旨の本件融資契約書が作成されていることが認められる。

そうすると,上記各契約書上,本件金員に本件融資契約上の金利を加えた本件借入金は,原則として,上記返済日において,MFDCから本件組合へ,本件組合からABNアムロ銀行へと流れるものとされ,MFDCにおいて,本件組合に対し純支払保証額及び延長前払額又は固定支払額を何らかの理由に支払うことができなかった場合においても,HBU銀行が,純支払保証額の限度で本件組合に対して支払うものとされており,MFDC及びHBU銀行の上記各支払のためにABNアムロ銀行に信託されている信託基金が利用されるものとされていることが認められる。

(2)  本件取引の実態

ア 以上によれば,本件組合は,本件取引によって,本件売買契約書上,本件映画に係る一切の権利を取得したものとされているが,本件取引の上記のような全体構造に照らしてみると,本件組合が取得したとされる本件映画に係る一切の権利のほとんどは,本件映画の著作権,本件映画が化体されている映画フィルムの所有権を含めて,本件売買契約締結後,直ちにMFDCを経由してフォックスに移転しているのであって,本件組合が取得した本件映画の所有権は形式的,外形的なものにとどまり,実質的には,本件組合は本件映画に係る権利を何ら取得していなかったものと認められる。

そして,証拠(乙6,7)及び弁論の弁論の全趣旨によれば,①本件組合の組合員である原告は,映画の製作又は配給等を行うことを目的とする会社ではないこと,②原告は,原告に本件取引を勧誘したMerrill Lynch International Limited(以下「メリルリンチ」という。)によって作成された説明書(以下「本件説明書」という。)に基づく説明を受けて,投資目的で本件取引に参加したものであること,③本件説明書には,本件取引は,我が国の投資家が組合を結成し,各組合員の出資金と銀行からの借入金に係る金員で映画を購入し,配給会社と映画の配給契約を締結し,配給会社がサブ配給会社を使って全世界に映画を配給するとされているが,投資家が投資によって得る利益については,映画興行の相対的成功度とともに,投資収益を構成する2番目の要素として,映画投資に関する我が国の税法に起因すると説明され,現行の我が国の税法では,減価償却に関する映画の法定耐用年数は2年になっているなど税効果についての説明がされていること,④本件各契約書は,本件組合契約書及び本件組合規約書以外は,すべて英文で作成されていて,本件各契約書作成当時には日本語版も存在せず,これらの英文による各契約書は,いずれも本件組合の業務執行者とされるMLFEによって記名押印されていることからすると,原告ら本件組合の各組合員において,本件各契約によって規定された権利,義務の内容,本件映画に係る権利の有無及び内容に対しては何ら関心を有していなかったと推認されること,⑤原告代表者代表取締役であるAは,メリルリンチ担当者からの説明で,投資としてもうかるものであって,映画フィルムの所有権を購入するものであり,取得価額については減価償却もできるなどと説明されたと述べており,本件映画に係る所有権が認められることによる税効果には関心を払っていたことなどが認められる。

これらの事実に加えて,我が国の税法上,上映用映画フィルムに係る法定耐用年数が2年と極めて短期間であること(減価償却資産の耐用年数等に関する省令1条別表第1)から,映画フィルムを所有しているとする法形式を装うことによって,取引開始当初に多額の減価償却費を計上することが可能になり,また,本件融資契約を組み合わせることによって,月複利による支払利息をも計上することによっても多額の課税利益の減少及び繰り延べを図ることが可能であることを併せ考慮すると,本件組合の各組合員は,本件映画フィルム等の所有権が課税当局によって認められることによって租税回避の効果を得ようとする意思を有しているものの,本件映画に係る一切の権利(著作権あるいは映画フィルム等有体物の所有権)を真実取得しようとする意思も能力も有していなかったものと認められる。

また,本件各契約書の内容に照らせば,MFDC,フォックス,ジェネシスのいずれの当事者においても,本件映画に係る一切の権利を本件組合及び本件組合の各組合員に真実取得させる意思を有していなかったものと明らかに推認できる。

さらに,本件組合がジェネシスに支払ったとされる売買代金36億1672万6250円の約75パーセントに相当する本件金員26億9053万1250円をABNアムロ銀行から借り入れによるものとされ,かつ,その元金及び利息の返済総額(本件借入金)である41億1059万4249円が最低支払確定額としてMFDCから本件組合に支払われるものとされていること,MFDCが支払うべき上記最低支払確定額のうち,純支払保証額37億4792万1624円の支払についてHBU銀行が保証していること,MFDCが支払うべき上記最低支払確定額の支払原資としてフォックスがMFDCに本件各契約日と同日に支払われる保証支払金額と同額の信託基金がABNアムロ銀行に信託されていることなどに照らすと,本件組合は,本件融資契約に基づく借入金の返済リスクもほとんど負っていなかったというべきであり,本件組合は,本件売買契約上の売買代金の約75パーセントを実質的には全く負担していなかったものと認められる。

これらを総合的に判断すれば,本件映画に係る一切の権利(著作権,所有権等)は,本件取引によって,ジェネシスから直ちにフォックスに移転したものと認められ,本件組合,ジェネシス,MFDC,フォックスのいずれの当事者の意思においても,本件組合に本件映画に係る一切の権利(著作権,所有権等)を実質的に取得させる意思も,客観的事実も認められず,本件売買契約書は,専ら租税回避を目的として,本件組合及び本件組合の各組合員に本件映画に係る一切の権利(著作権,所有権等)が移転したとの形式,外観を作出するために作成されたものであったと認められる。

したがって,本件売買契約は,成立していないか,少なくとも無効なものであったものと認められる。

イ 次に,本件融資契約についてみると,前記のとおり,本件金員は,平成3年11月29日の同一日付で,フォックスからMFDC,MFDCからABNアムロ銀行,ABNアムロ銀行から本件組合,本件組合からジェネシスへと流れる構造となっており,本件各契約書等の前記各内容を総合すると,本件融資契約に係る融資の実行日である平成3年11月29日に,フォックスがMFDCに支払ったとみられる保証支払金額(本件金員と同額以上と推認される。)が直ちにMFDCによってABNアムロ銀行に信託され,その信託目的等に照らし,その信託基金は本件融資契約に基づく返済にのみ使用されるように仕組まれているものと認められるから,本件金員は,ABNアムロ銀行において,なんらの金融リスクを負うこともなく,フォックスからジェネシスに移転しているものと認められる。

また,前記のとおり,本件金員及び利息の返済時においても,ABNアムロ銀行に信託されていたとされる信託基金が,本件借入金の返済原資となるよう仕組まれているから,結局,上記信託基金及びその運用益相当額は,ABNアムロ銀行に環流することになり,本件組合においても,本件融資契約に係る本件借入金41億1059万4249円のうち,HBU銀行の保証する37億4892万1624円については確実にABNアムロ銀行に返済することができるのであって,残りの3億6167万2625円(延長前払額又は固定支払額に相当する。)についても,MFDC,ひいてはフォックスが支払を約束している金額であって,本件組合において負担する事態となることはほとんど考えられない。

これらの事実に加えて,前記のとおり,本件各契約書に係る取引は一連の取引を構成するものとして,相互に関連し合い,密接不可分のものであって,現に,本件融資契約書上において,本件融資契約に基づいて融資される本件金員は,本件売買契約に基づく本件映画の購入代金にのみ使用されると明記されているところ,本件売買契約が前記のとおり,不成立又は無効であることをも併せ考慮すると,本件融資契約も,また,その実体を欠いたものであって,本件組合が本件映画に係る一切の権利を取得したとの外観,形式を作出し,併せて,本件融資契約に基づく利息の計上によって本件組合に租税回避による利益を与えることを目的として,本件映画の売買代金の約75パーセントの融資があったとの形式を作出したものにすぎず,本件各契約の各当事者において,真実ABNアムロ銀行から本件組合に本件金員を融資する意思も客観的事実も有していなかったものと推認される。

したがって,本件融資契約も,成立していないか,少なくとも無効なものであったと認められる。

ウ 以上のとおり,本件売買契約及び本件融資契約は,売買契約あるいは融資契約としては実体のない,あるいは仮装された契約として,不成立又は無効なものと認められ,本件取引によって,ジェネシスは,本件組合ではなく,フォックスに対し,本件映画に係る一切の権利を移転し,フォックスは,本件映画に係る一切の権利の実質上の保有者として,本件映画を全世界に配給し,その配給収入を得ることになったものと認められる。

なお,そもそもジェネシスに本件映画に係る一切の権利を譲渡したのがフォックスであるとすれば,本件映画に係る権利は循環していることになるが,前記のとおり,本件においては,本件取引以前から,フォックスが本件映画の所有権を取得していたと認めるに足りるまでの証拠はない。

ところで,本件組合は,現実に,10億9578万円を出捐(以下「本件出捐」という。)していることから,本件組合にとって,本件取引全体が何の実体もないものであったということはできない。

そこで,本件取引から,上記のような仮装部分を除いて,本件取引の全体構造を検討すると,本件組合は,本件出捐を行うことによって,MFDCひいてはフォックスから,本件映画の興行収入によって生じるグロス支払額等の一定の金銭的利益を得る地位を得ていたことが認められる(本件利益配当契約)。他方,フォックスにおいても,本件映画製作,配給,広告,宣伝等,本件映画の興行に要する費用のうちの一定額を本件組合に負担させることによって,興行リスクを軽減する利点があったものと認められる。

そうであるとすれば,本件組合は,本件映画に係る減価償却費及び本件融資契約に基づく利息の損金計上による租税回避によって得られる利益のみならず,本件映画の興行収入による利益をも期待して,本件取引に参加したものと認められ,本件組合にとっても,本件取引は,本件出捐による投資と,その投資によって生じる利益を得るという経済的効果,経済的実体があったものと認められる。

これに対し,被告は,本件出捐による投資に係る本件利益配当契約も,租税回避目的を隠ぺいするために組み込まれたものであって,仮装の本件金員とセットになってはじめて本件全体の取引を構成するものであって,本件利益配当契約にも固有の意義はないと主張する。

しかし,本件映画が爆発的にヒットするなどして,租税回避による利益がなくても,本件利益配当契約自体による利益が期待できる可能性が全くないと認めるに足りる証拠はなく,また,本件取引全体において,本件利益配当契約において,本件映画の売買代金の約25パーセントという無視できない金額の出捐がされていることをも考慮すると,本件利益配当契約に固有の意義がないとまでは認められない。

このように,本件取引には,本件組合が行った本件出捐に係る本件利益配当契約という実体部分がそれ自体無意味とはいえないものとして残るものと認められるが,本件取引にそのような実体があるとしても,本件取引の中に,専ら租税回避のみを目的として組み込まれた売買契約や融資契約についてまでもが実体があったことになるものではないから,本件売買契約及び本件融資契約が不成立又は無効であるとの前記認定が左右されるものではないというべきである。

(3)  原告の主張について

ア 原告は,本件配給契約に基づく配給契約期間中,本件映画の管理処分権を失うのは,原告が本件映画を,いわゆるネット・リース方式で賃貸という事業の用に供するからであって,実質的所有権がMFDCに移転するからではないと主張する。

しかし,本件組合が単に本件映画の管理処分権を失っているというにとどまらず,本件組合は,例え短かい期間であっても本件映画に係る一切の権利者としての本質的権利を全く保有することのない取引構造となっていることから,本件組合が本件映画を所有していたと認めることができないことは前記認定のとおりであり,また,本件組合が本件映画を賃貸していたと認めるに足りる証拠もないから,原告の上記主張は失当というほかない。

イ 原告は,銀行,映画会社,配給会社等の間でどのような資金の授受がされているか関知するものではないから,それによって本件融資契約の有効,無効を論ずるのは失当であると主張する。

しかしながら,本件融資契約は,前記認定のとおり,それ自体単独で行われたものではなく,本件各契約及びこれと同一日付けのその他の各契約を前提として,一連のものの一環として行われているものであるから,原告において,本件取引の全体構造を知らなかったからといって,前記認定が左右されるものではない。

ウ 原告は,仮に,本件金員が関係当事者間で授受されているとしても,預金担保の例などに照らし,本件融資契約が仮装というのは誤りであると主張する。

しかし,本件融資契約が不成立又は無効であるとした理由は,前記のとおりであり,単に関係当事者間で本件金員が授受されているとの事実のみから,本件融資契約が仮装であると認めたものではないから,上記原告の主張も失当である。

エ 原告は,本件組合が,本件配給契約終了時において,本件借入金をMFDCによる本件映画の買入代金とMFDCによる損失補填による収益で弁済することになるのは,銀行が組合に対してMFDCを通じてノン・リコース融資を行ったと解釈でき,本件融資契約を仮装と決めつけることはできないと主張する。

しかし,本件融資契約が不成立又は無効であると認定した理由は前記のとおりであり,単に,本件組合が,本件配給契約終了時において,本件借入金をMFDCによる本件映画の買入代金とMFDCによる損失補填による収益で弁済することになる点のみから,本件融資契約を仮装であると判断しているものではないから,原告の上記主張も前提を欠いており失当である。

(4)  小括

以上によれば,本件融資契約及び本件売買契約はいずれも有効に成立したものではないというべきであるから,平成3年12月期における原告の所得の計算において,本件融資契約に基づく支払利息及び本件映画の減価償却費を損金として算入することはいずれも認められないというべきである。

3  争点3について

原告は,本件組合を結成した株式会社マルイ等の他社について,原告と同様に,本件取引について,減価償却資産の計上,借入金の金利の損金計上に基づく申告を行ったにもかかかわらず,何らの更正処分も受けていないのに,原告についてのみ本件更正処分等がなされることは,租税平等主義に反すると主張する。

しかし,同一の本件取引を行った複数の納税者のうち,たまたま,原告に対してのみ,本件更正処分等がされたものとしても,そのことから直ちに納税者に対して差別的取扱いがあったということはできず,ほかに,原告についてのみ差別的取扱いがあったと認めるに足りる主張,立証はない。

したがって,本件更正処分等が租税平等主義に反するとの原告の主張は,前提を欠くものであって,採用できない。

4  争点4について

原告は,租税法の解釈において,「所有権」が民法からの借用概念であるとされていることから,「実質的な所有権」という概念を用いることは,租税法律主義に反すると主張する。

しかし,前記認定のとおり,本件においては,本件売買契約及び本件融資契約が,その実態に照らして,成立していないか無効であると認められるにすぎず,私法上の所有権とは別個に「実質的所有権」の有無を問題としているものではないから,原告の上記主張も失当というほかない。

また,原告は,納税者が選択した私法上有効に成立した法形式をむやみに否認することになれば,租税法律主義の機能,目的を損なう旨主張する。

しかし,前記のとおり,本件取引においては,本件売買契約及び本件融資契約は私法上有効に成立していないものと認められるものであるから,上記原告の主張も前提を欠いており,失当である。

5  争点5について

原告は,被告が,本件訴訟に至って初めて本件取引が仮装行為にすぎないと主張し始めたものであり,原処分庁及び国税不服審判所の処分理由を差し替えるものであるから違法であると主張する。

しかし,本件更正処分において附記されていた処分理由及び本件裁決書に記載されている裁決理由は,いずれも本件売買契約及び本件融資契約を含む本件取引に対する法的評価の結果,本件映画フィルムの所有権が原告にはなく本件減価償却費が認められないこと,本件取引において,融資契約によって生じる利息に見合う受取利息があるとして,本件融資契約に基づく利息の損金計上と同額の益金を計上すべきことを理由とするものである。そして,本件訴訟において,被告が主張しているところも,本件売買契約及び本件融資契約を含む本件取引に対する法的評価を根拠として,本件映画フィルムの所有権が原告にはなく本件減価償却費が認められないこと,本件融資契約によって生じるとされる利息の損金計上が認められないことであるから,その根拠は,本件取引に対する評価の結果としての本件減価償却費と本件融資契約に基づく利息に関する事柄であるという点において,本件更正処分の処分理由及び本件裁決の裁決理由と何ら異なるものではない。

そうであるとすれば,青色申告に係る更正処分について理由附記が求められている趣旨が,青色申告にかかる所得の計算については,それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上,その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨にかんがみ,更正処分庁の判断の慎重,合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える点にあること(最高裁判所昭和56年・※第36号・昭和60年4月23日第三小法廷判決参照)からして,被告において,本件訴訟において理由を実質的に差し替えたものとはいえない。

したがって,原告の上記主張も,前提を欠くものであって採用できない。

第4結論

本件各争点についての判断は以上のとおりであり,本件更正処分等の適法性に関するその余の事実については,原告において明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。

よって,本件更正処分等は,いずれも適法なものと認められ,原告の本訴請求は理由がないので,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 森英明)

裁判官馬渡香津子は,転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 市村陽典

<編注:『※』部分は原文のとおり。>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例