東京地方裁判所 平成10年(行ウ)244号 判決 2001年11月02日
原告
甲
被告
八王子税務署長
加治屋宏
各当事者の訴訟代理人・指定代理人は別紙のとおり
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告が、原告に対して、平成8年9月9日付けでした平成3年分贈与税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
第2事案の概要
本件は、原告が、被告から、原告に対する有限会社の出資の譲渡は著しく低い価額の対価での財産の譲渡に当たるとして、贈与税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をされたため、上記両処分の取消しを求めた事案である。
1 関係法令等の定め
(1) 相続税法(平成4年法第16号による改正前のもの。以下「法」という。)7条は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があった時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があった時における当該財産の時価との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与により取得したものとみなすと規定する。
(2) 法22条によれば、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、原則として、当該財産の取得の時における時価によるものとされている。
そして、その価額の評価に関しては、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56、直審(資)17。ただし、平成3年3月26日付直評4、直資2-89による改正前のもの。以下「評価基本通達」という。)及び毎年各国税局長が定める財産評価基準が定められている。
評価基本通達において、時価とは、相続等により財産を取得した日等の課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、評価基本通達の定めによって評価した価額によるとされているが(評価基本通達1(2))、評価基本通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価するとされている(評価基本通達6)。
(3) 評価基本通達においては、有限会社に対する出資の価額は、取引相場のない株式の評価方法に準じて計算した価額によって評価することとされている(評価基本通達194)。
そして、評価基本通達は、取引相場のない株式の評価につき、評価しようとする株式の発行会社(以下「評価会社」という。)を大会社、中会社、小会社に区分し(評価基本通達178)、小会社の株式の価額は、原則として、1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって評価する(純資産価額方式)と規定する(評価基本通達179)。
また、開業後3年未満の会社等の株式は、「特定の評価会社の株式」として純資産価額方式によって評価すべきこととされている(評価基本通達178ただし書、189(3)、189-3)。
純資産価額方式によって算定されるべき「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」は、原則として、課税時期における各資産を評価基本通達に従って評価した価額の合計額から、課税時期における各負債の金額の合計額及び評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除した金額を課税時期における発行済株式数で除して計算した金額とする(評価基本通達185)。
上記の「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」とは、次のアの金額からイの金額を控除した残額がある場合におけるその残額に51パーセントを乗じて計算した金額とする(評価基本通達186-2)。
ア 課税時期における各資産を評価基本通達に定めるところにより評価した価額の合計額から、課税時期における各負債の金額の合計額を控除した金額
イ アの課税時期における相続税評価額による総資産価額の計算の基とした各資産の帳簿価額の合計額から、課税時期における各負債の金額の合計額を控除した金額
2 前提となる事実等(証拠等を掲記した以外の事実は、当事者間に争いがない。)
(1) 乙税理士(以下「乙税理士」という。)らによる相続税対策スキーム乙税理士及びA銀行(現在のA銀行。以下「A銀行」という。)の担当者は、原告及び原告の父親である丙(以下「丙」という。)に対し、以下の内容の相続税対策スキーム(以下「本件スキーム」という。)を勧めた。
ア 丙が、A銀行から16億円を借り入れ、これを出資して、資本金1600万円、資本準備金15億8400万円で有限会社file_2.jpgを設立する。
さらに、有限会社file_3.jpgの出資を現物出資して、有限会社B(以下「B」という。)を設立する。
イ 原告は、A銀行から8億円を借り入れ、これを資金として丙からBの出資を譲り受ける。
その際の売買価額は、上記出資の評価額とし、これは評価基本通達185に定める純資産価額方式によって算定することになるが、この規定によれば、評価額の算定に当たり、純資産価額方式により算定した価額から、法人税相当額である51パーセントを控除することができる。
これを計算すると、8億0784万円が控除することができる額であり、Bの財産評価通達による財産評価(相続税上の評価)は、7億9216万円となる。そこで、丙から原告への上記出資の売買価額を7億9216万円とする。
丙は、上記売買の代金をもって、A銀行からの16億円の借入れの一部を返済する。
ウ 丙には、約8億円の借入れが残り、その相続に際しての相続税の計算上、上記借入金が同人の積極財産の価額約8億円から控除されるため、相続税の課税価格は零円となる。
一方、原告にも8億円の借入れが残るものの、前記売買契約により、代金7億9216万円で、実質16億円の価値のあるBの出資を取得することとなる。
エ 本件スキームは、前記出資の売買契約の後、Bが有限会社file_4.jpgを吸収合併し、投資顧問会社で運用していた有限会社file_5.jpgの資産の払戻しを受け、その後、Bの資本を減資することを予定していた。
これによって、原告は、減資払戻金15億8400万円を受け取り、この減資払戻金のうち7億9200万円を原告個人のA銀行からの借入金の返済に充当し、さらに、残余の減資払戻金7億9200万円をBに貸し付けることとされていた。
他方、丙は、Bから7億9200万円を借り入れ、A銀行からの借入金の返済に充当することとされていた。
(2) 原告らによる本件スキームの実行
ア 丙は、平成2年3月14日、A銀行から18億1500万円を借り入れた。
イ 有限会社file_6.jpgは、同年4月2日に、代表取締役を丙、取締役を原告の母である丁(以下「丁」という。)、事業目的を不動産の賃貸並びに有価証券の投資及び運用、資本の総額を1600万円、出資口数1600口、出資1口当たりの金額を1万円として設立された。
有限会社file_7.jpg設立の際、丙は、出資口数1599口を引き受け、アの借入金の中から15億9900万円を払い込み、そのうち1599万円が資本金に、その余の15億8301万円が資本準備金にそれぞれ組み入れられた。
また、丁は、出資口数1口を引き受け、100万円を払い込み、そのうち1万円が資本金に、その余の99万円が資本準備金にそれぞれ組み入れられた。
(弁論の全趣旨)
ウ 有限会社B(以下「B」という。)は、同年4月10日に、代表取締役を丙、取締役を丁、事業目的を不動産の賃貸並びに有価証券の投資及び運用、資本の総額を1599万円、出資口数1599口、出資1口当たりの金額を1万円として設立された。
B設立の際、丙は、出資口数1598口を引き受け、有限会社file_8.jpgに対する出資1598口(出資額1598万円)を現物出資した。また、丁は、出資口数1口を引き受け、有限会社file_9.jpgに対する出資1口を現物出資した。
エ 原告は、平成3年3月1日、A銀行から8億8600万円を借り入れた。
オ 原告は、同月14日、丙から、その所有するBに対する出資1598口(以下「本件出資」という。)を、1口当たり49万7779円、総額7億9545万0842円で譲り受けた(以下「本件売買」という。)。
カ 丙は、同日、前記アのA銀行からの借入れのうち7億9200万円を返済した。
(弁論の全趣旨)
(3) 本件訴訟に至る経緯
ア 原告は、本件売買に係る贈与税の申告を行わなかった。
(弁論の全趣旨)
イ 被告は、平成8年9月9日、原告が本件売買によって本件出資の時価と本件出資の対価との差額を丙から贈与により取得したものとみなし、課税価格を6億6567万3000円、納付すべき税額を4億5803万6100円とする贈与税の決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税6814万6500円の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った(以下、本件決定処分及び本件賦課決定処分を併せて「本件各処分」という。)。
ウ 原告は、同年10月7日、東京国税局長に対し、本件各処分を不服として異議申立てをしたが、東京国税局長は、同年12月18日、異議を棄却する旨の決定をした。
さらに原告は、同月27日、国税不服審判所長に対し、本件各処分を不服として審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成10年9月28日、審査請求を棄却する旨の裁決を行った。
なお、本件各処分及びこれに対する不服申立ての経緯は、別表1記載のとおりである。
3 被告が行った本件各処分の根拠
被告が本訴において主張する、本件各処分の根拠は、次のとおりである。
(1) 前提となる本件出資の評価
ア 有限会社file_10.jpgの出資の価額
有限会社file_11.jpgの出資の評価方法の基礎となる「資産の部」及び「負債の部」の帳簿価額(別表2)は、同社の平成2年4月2日から平成3年3月31日までの事業年度に係る期末現在の貸借対照表の「資産の部」及び「負債の部」の金額である(創業費は資産性がないため計上していない。以下同じ。)が、有価証券については、上記帳簿価額ではなく、同社の同事業年度の確定申告書に添付してある有価証券の内訳書に記載のある各有価証券を平成3年3月14日(本件課税時期)の終値を基に評価した額(詳細は別表3のとおり)の合計額である。
したがって、本件課税時期における有限会社file_12.jpgの1口当たりの出資の価額は、資産の額14億6566万3000円(別表2①)から負債の額13万7000円(別表2③)を控除した金額14億6552万6000円を総出資口数1600口で除した金額(時価純資産価額)91万5953円(別表2⑪)である。
イ Bの出資の価額
Bの出資の評価方法の基礎となる「資産の部」及び「負債の部」の帳簿価額(別表4)は、同社の平成2年4月10日から平成3年3月31日までの事業年度に係る期末現在の貸借対照表の「資産の部」及び「負債の部」の金額である(積立金については、評価明細書上、千円未満を切り捨てて計上していることから0円となっている。)が、有価証券については、上記帳簿価額ではなく、同杜の保有する有価証券が有限会社file_13.jpgの出資1599口だけであることから、有限会社file_14.jpgの1口当たりの出資の価額91万5953円(別表1⑪)に保有口数1599口を乗じた金額14億6460万8847円(なお、評価明細書上、千円未満を切り捨てて計上している。)である。
したがって、本件課税時期におけるBの1口当たりの出資の価額は、資産の額14億8495万7000円(別表4①)から負債の額2233万9000円(別表4③)を控除した金額14億6261万8000円を総出資口数1599口(別表4⑩)で除した金額(時価純資産価額)91万4707円(別表4⑪)である。
(2) 本件決定処分の根拠
被告が本訴において主張する原告の平成5年分贈与税の課税価格及び納付すべき贈与税額は、次のとおりである。
ア 課税価格 6億6625万0944円
原告は、丙から、平成3年3月14日(本件課税時期)に本件出資1598口を7億9545万0842円(1口当たり49万7779円)で譲渡を受けたが、本件課税時期における本件出資1598口の価額は14億6170万1786円(前記(1)のとおり、1口当たりの価額は91万4707円である。)となるので、相続税法7条の規定により、原告は、本件出資の対価(7億9545万0842円)と時価(14億6170万1786円)との差額である6億6625万0944円を丙から贈与により取得したものとみなされる。
イ 納付すべき贈与税額 4億5802万円
この金額は、上記アの贈与税の課税価格から、法21条の5に規定する贈与税の基礎控除額60万円を控除した金額6億6565万円(ただし、国税通則法(以下「通則法」という。)118条1項の規定により1000円未満の端数切捨て後の金額。)に、法21条の7に規定する税率を適用して算出した金額である。
ウ 被告が本訴で主張する原告の納付すべき贈与税額は、上記イのとおり、4億5802万円であるところ、本件決定処分によって原告が納付すべきとされた贈与税額は4億5431万2100円であり、上記金額の範囲内であるから、本件決定処分は適法である。
(3) 本件賦課決定処分の根拠
原告は、平成3年分の贈与税に係る課税価格及び納付すべき贈与税額を申告していなかったものであり、申告書を提出しなかったことについて通則法66条2項、65条4項に規定する正当な理由は存しない。
したがって、原告が本件決定処分によって納付すべきこととなった贈与税額(ただし、通則法118条3項の規定により1万円未満の端数切捨て後の金額)である4億5431万円に、通則法66条1項の規定に基づき100分の15の割合を乗じて計算した金額6814万6500円を無申告加算税として賦課決定した本件賦課決定処分は適法である。
4 当事者の主張
(原告の主張)
(1) 本件売買が錯誤により無効であること
ア 本件売買は、相続税対策のための本件スキームの一環である。そして、原告は、乙税理士及びA銀行の担当者から、評価基本通達185,186-2を活用することで、本件出資の財産評価を時価の約50パーセントに圧縮することができるとの説明を受けた。
原告は、評価基本通達の上記規定の適用によって、丙から時価の約半額で本件出資を適法に譲り受けることができ、これに対しては贈与税が課されることはないと信じて本件売買を行った。この財産圧縮効果を得ること及び贈与税が課されないことが本件売買を締結した動機であり、この動機は、本件売買の相手方である丙にも表示されている。すなわち、原告の本件売買における動機は相手方に表示されていて、意思表示の内容となっている。
そして、原告は、もし贈与税が課税されることを知っていれば、本件スキームを実行する意味がないのだから、本件売買を締結しなかったであろうし、一般取引通念上も、本件売買を締結しないことが妥当である。
したがって、本件売買は、その意思表示に要素の錯誤が存在し、無効である。
本件売買が錯誤によって無効であれば、法的には本件売買契約は初めから存在していなかったことになり、存在していない売買契約に対して課税することはできないから、本件各処分は無効である。
イ 本件スキームは、税法の専門家である乙税理士と大手都市銀行であるA銀行の担当者が、原告らに対して、贈与税の課税はなく、有効で適法であると説明して、積極的に勧めたものである。原告は、その勧めるがままに本件スキームを実行することとし、その一環として本件売買を行ったのである。
このような税法の専門家から上記のような説明を受けたのであるから、何らの税務知識も有さない原告が、この説明を信用して、贈与税が課されると考えずに本件売買契約を締結したとしても、その錯誤について重過失はない。
ウ 被告は、原告が錯誤無効を主張し得るのは法定申告期限までであり、この期限を徒過した場合は錯誤無効を主張することができないと主張する。
しかし、原告に対する税務調査があったのは、法定申告期限の平成4年3月をはるかに過ぎた平成7年ころである。原告にとっては、贈与税が課税される可能性などは考えられなかったのであり、法定申告期限前に錯誤無効を主張する機会は存在しなかった。
また、本件スキームと同様のスキームを乙税理士から勧められ、実行した事例が数例あるが、これらの事例のうち税務調査が行われたものの中で、被告が、法廷申告期限後に当事者間による合意解約を認めて贈与税の課税をしなかった事例がある。すなわち、被告は、法定申告期限後でも実質的に錯誤無効を認めて課税を回避させているのであるから、被告の主張には正当性がない。
エ a被告は、原告が本件売買による経済的効果を享受しているから、仮に売買契約が無効であったとしても課税関係には影響を及ぼすことはない旨の主張をする。
b しかし、本件売買が錯誤により無効であれば、本件出資という財産の移転も当初からなかったことになるから、原告は何らの経済的成果も受けていないものである。
原告は、丙に対する売買代金7億9545万0842円の返還請求権を有するだけであるが、丙からはこの代金の返済を受けておらず、一方A銀行に対しては8億8600万円の債務を負っているのであって、借金が残っただけで何らの経済的利得も得ていない。
被告は、原告が丙に対して出資の返還を行っていないから、本件決定処分後も引き続き本件出資を有して経済的成果を享受していると主張する。
しかし、原告は、丙から上記代金の返還を受けていないから、原状回復としての本件出資の返還をすることができないのである。
また、Bは、本件スキームのために設立されたペーパーカンパニーであり、会社としての実態は存在しない。
c 本件スキームでは、丙がA銀行から18億円の融資を受けて有限会社file_15.jpgを設立し、16億円をⒿ銀行に預けて有価証券を中心に運用し、丙は有限会社file_16.jpgの出資を現物出資してBを設立し、原告はBの出資譲受けの資金をA銀行から借り入れているが、これらの借入れや信託銀行への信託行為などがすべて錯誤により無効になる。
したがって、原告には何らの経済的利益も残らない。
オ 仮に、納税義務者において、法律行為の要素たり得る課税負担に関する錯誤が存するからといって、それによる法律行為の無効を理由にいつでも納税義務を免れ得るものとしたのでは、租税法律関係が不安定となるばかりでなく、申告納税方式の破綻につながるおそれもあることからすれば、この錯誤による法律行為の無効については、法定申告期限を経過した後においては、更正の請求(国税通則法23条)によってその救済が図られるべきであり、更正の請求以外にその是正手段を許さなければ納税義務者の利益を著しく害するような特段の事情がある場合を除いては主張できないものと解すべきであるとしても、本件については、以下のような特殊性が存在しているので、本件各処分は、売買契約の錯誤無効により取り消されるべきである。
a 専門家による執拗な勧誘
原告は、自ら積極的に相続税負担を回避する意思はなく、乙税理士とA銀行から適法な節税対策であるとして本件スキームの執拗な勧誘を受けたため、これを適法かつ有効な相続税対策であると誤信して本件売買契約を締結したものである。
b 課税の危険性の告知の欠如
課税される危険性について、原告は何ら告知説明を受けていなかった。
c 専門家にも容易でない複雑な手法
本件決定処分の対象となった本件出資の売買は、法律専門家でも理解が容易でない複雑な節税スキームの一環として行われたものであり、これについて贈与税の課税が行われるか否かは、税理士や都市銀行の本部も容易に判断し得なかったものである。そうすると、一般市民である原告が贈与税が課税されることに思い至らなかったとしても、過失があったとはいえない。
d 課税額の巨額さ
本件各処分により課される税額は5億円を超える巨額のものであり、このような巨額の税は通常人が一生かかっても取り扱い得ないものであるから、結果も著しく重大である。
e 経済的効果の除去は客観的に不可能
原告には、法律行為の経済的効果の享受を除去する方策が、錯誤無効の主張による他には客観的に存在しない。
すなわち、本件課税対象である売買契約は有償契約であり、約8億円にものぼる巨額の売買代金は、原告がA銀行から融資を受け、これを丙に対して支払い、丙においてこれを受領した上で自らのA銀行に対する借入金の一部の返済に充てるという代金の動きがあり、その対価として原告は丙から本件出資を取得したものである。そうすると、原告が課税対象たる売買契約の経済的効果の享受を除去するためには、丙が自らの借入金を返済した金員について銀行から返還を受け、丙がこれを原告に対して返還し、原告が返還を受けた金員を銀行に返済する、という代金の返還を実行しなければならない。もし代金の返還を実行しないままで、会社の法的解散や本件出資の返還などを行えば、これは新たな贈与行為となり、別個の課税関係を生じてしまう。
そして、A銀行は、原告と別件民事訴訟で係争中である。
したがって、原告と丙という当事者間において契約の経済的効果の享受を除去しようとして株式を原告から丙に対して移転することについて、代金の返還関係を実行することは客観的に不可能であるといえる。
f 更正請求の余地もない
原告は本件売買契約について贈与税の課税がされるとは考えておらず、その危険性のあることの説明も受けていなかったのであるから、贈与税の申告をしていないのであって、そもそも一定額の申告をしている場合についての更正の請求による是正も客観的に不可能である。
g 課税の不公平も生じない
原告は丙との関係で本件出資の売買契約が無効であることを確認しており、この旨を別件の民事訴訟及び本件訴訟で明確に主張しているのであるから、本件各処分が本件売買契約の錯誤無効により取り消された場合には、原告と被告との間では、本件の課税対象たる売買契約の目的物である本件出資の所有権が原告ではなく丙であることに既判力類似の拘束力が生じる。そうであれば、国は相続税の課税関係において本件出資が原告ではなく丙の所有であるとみなせば足り、本件各処分が取り消されても何ら課税の不公平は生じない。
h このように、法律専門家でも判断が容易でない課税関係について、課税の危険性さえ告知されず、税理士及び大銀行担当者ら専門家から強く勧誘されて法律行為に至り、本件各処分により著しく巨額の税負担をするに至っており、銀行など第三者との関係で経済的効果の除去が客観的に不可能であるばかりか、そもそも国税通則法上の更正請求も客観的に不可能である場合には、課税対象である売買契約の錯誤無効を主張して民事訴訟を提起し、あるいは贈与税の課税処分に対して取消請求訴訟により救済をはかるほかには客観的に方策がないのである。
したがって、本件各処分は売買契約の錯誤無効により取り消されるべきである。
(2) 本件売買に対する課税が憲法14条違反であること
乙税理士及びA銀行は、本件スキームと同様の相続税対策のスキームを少なくとも原告のほかに7人の者に対して勧め、これらの者は上記スキームを実行したが、彼らには贈与税が課税されなかった。
同様の相続税対策を行いながら、原告に対してのみ課税処分がなされているのであれば、明らかに平等原則(憲法14条)違反であり、本件各処分は違法である。
(被告の主張)
(1) 租税負担の見込みが法律行為の要素となる動機といえないこと
ア 本件では、本件出資の評価について、評価通達によらない合理的な評価方法による価額が法22条の「時価」であるとして、本件各処分がされたものである。
法22条にいう『時価」とは、課税時期における当該財産の客観的な交換価値をいい、この交換価値とは、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間において自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうと解される。
もっとも、財産の客観的な交換価値といっても、必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務においては、財産評価の一般的な基準が評価通達によって定められ、これに定められた画一的な評価方式によって財産の時価、すなわち客観的な交換価値を評価するものとしている。これは、財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法をとると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることを避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、回帰的かつ大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどからして、あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものである。
しかしながら、評価通達に定められた評価方式によるべきであるとする趣旨が上記のとおりであることからすれば、評価通達に定められた評価方式を画一的に適用すると、かえって実質的な租税負担の公平を害することが明らかであるような特別の事情がある場合には、他の合理的な時価評価方式によることが許されるものと解すべきである。
イ 原告は、評価基本通達の要件を形式的にさえ満たしていれば、明らかに租税負担の公平が損なわれる評価になっても課税処分が行われるはずがないという見込みの下に、評価基本通達を形式的に適用して、本来課税されることになる相続税又は贈与税の負担を著しく減少させるべく、本件スキームの一環として本件売買を行ったが、そのもくろみが功を奏さなかったのであり、原告が主張する錯誤とは単に租税回避策上の租税負担の見込み違いにすぎない。
上記のような内心における租税負担の見込みは、そもそも法律行為の要素となり得る動機とはいえず、本件売買契約は錯誤により無効であるとは認められない。このような場合についてまで、法律行為が錯誤によって無効であるとして課税を免れさせたのでは、納税者間の公平を害し、租税法律関係の安定を損なうこととなる。
(2) 原告に錯誤について重大な過失があること
原告は、乙税理士らの勧める本件スキームの一環として本件売買を行ったものであるから、相続税及び贈与税の負担なしに丙から原告に16億円の財産が売買価額8億円で移転し、相続税の節税になるという認識をもっていたことは明らかである。
そうであれば、原告は、なぜ贈与税を負担することがないのかとか、また、常識的に考えれば相続税が課税されるはずであるところ、本件スキームの実行により、なぜ相続税の負担が全くなくなるのかということについて、疑問を抱くのが当然である。
しかも、丁は、乙税理士から本件スキームについて、資産が5億円の場合を想定して10億円を借り入れるケースで説明を受けており、その際、丁は、同税理士に不安を訴えたところ、同税理士から、「このようなことを始めるとあちこちで税務署が規制し出すから早く始めた方が良い」等と強い勧めを受け、さらに、原告、丙及び丁は、A銀行八王子支店の行員file_17.jpgから本件相続税対策の説明の中で、「早くやらないと税務署で認めなくなる。」との説明を受けているのである。
以上の事実に照らせば、原告は、本件スキームが適法な方法であるかどうか等を確認すべきであったのに、それをしなかったのであるから、原告には重大な過失が存するといわざるを得ない。
したがって、本件スキームの一環として行われた本件売買について、原告自らが契約は錯誤により無効であると主張することは許されない。
(3) 法定申告期限を経過した後の錯誤無効の主張が許されないこと
ア 納税義務者が、納税義務の発生する原因となる私法上の法律行為を行った場合、当該法律行為の際に予定していなかった納税義務が生じたり、法律行為の際に予定していたよりも重い納税義務が生じることが判明したからといって、この課税負担の錯誤が動機の錯誤であるとして、安易に錯誤主張を認め、その法律行為が無効であるとして納税義務を免れさせたのでは、納税者間の公平を害し、租税法律関係が不安定となり、ひいては、我が国が採用している申告納税方式そのものが崩壊してしまうこととなる。
したがって、私的自治の尊重、納税者問の公平の確保及び租税法律関係の安定の維持の三つの要請の合理的調整の必要性にかんがみ、自ら租税回避行為をしながら後になって課税負担に伴う錯誤があったとして無効を主張することは、法定申告期限後には許されないと解すべきである。
イ 原告は、原告に対する税務調査があったのは法定申告期限を過ぎた平成7年ころであり、法定申告期限に錯誤無効を主張する機会はなかったと主張する。
原告は、税務調査があるまでは本件売買が無効であることを主張しておらず、本来課されるはずの相続税又は贈与税の負担を著しく減少させようとするもくろみが功を奏さずに贈与税が課税され、その時になって初めて本件売買が錯誤により無効であるという主張を行ったのである。
この錯誤無効についての原告の主張は、被告が本件決定処分を行わなければ本件売買は有効であるが、被告が本件決定処分を行うと本件売買は無効になり、本件決定処分が違法になるというものである。すなわち、被告としては、有効な売買であれば、それに基づき当然に本件決定処分を行い課税しなければならないところ、適法に課税処分を行うと、その瞬間、課税処分が違法になるという主張なのである。このような原告の主張は、結局、租税法律主義の下、課税に関する法令が制定され、被告が適法に課税したにもかかわらず、原告の法令解釈が間違っていたため、本件決定処分が違法になり、課税することができなくなるという極めて不合理なものである。
上記のような錯誤の主張を課税庁に対する関係で認めると、課税庁は、いかなる場合にも課税することができないことになり、これでは納税者間の公平を害し、租税法律関係が不安定となり、ひいては、申告納税方式の破壊につながることになる。
したがって、税務調査の時期が法定申告期限をはるかに過ぎていたのであるから原告は法定申告期限までに錯誤無効の主張をすることができなかったとの原告の主張は、申告納税制度の趣旨を正解しないものであって、失当である。
(4) 原告に経済的成果が存する限り、本件各処分の効力に影響はないこと
ア 贈与税は、贈与によって財産が移転するのを機に、その財産に対して課される租税であり、これは、贈与契約そのもの、あるいは、その贈与契約による直接の法的効果そのものに担税力を認めて課税対象としているのではなく、贈与という原因行為によって生じた経済的成果、つまり、贈与者から無償で財産を取得することにより、受贈者の財産が増加するという経済的利益を享受したことに担税力を認めて課税の対象としている財産税と解される。
また、法7条の趣旨は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合には、法律的には贈与といえないとしても、実質的には贈与と同視することができるため、課税の公平負担の見地から、対価と時価との差額について贈与があったものとみなして贈与税を課すというものであり、譲渡された財産の時価と対価との差額、すなわち低額譲受けによる利益に担税力を認めたものである。そして、当該財産を著しく低い価額で譲り受けた事実があれば、課税要件が充足され、当事者の意図・目的に関係なく、法7条の適用がある。
そうすると、たとえ原因行為である贈与契約や財産譲渡行為に瑕疵があったとしても、その結果として無償での財産取得や低額譲受による経済的利益の享受があって、その経済的利益が存在する限り、課税が妨げられるものでないことは明らかである。
通則法71条2号は、減額更正の期間制限の特例として「申告納税方式による国税につき、その課税標準の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為が無効であることに基因して失われたこと・・・に基づいてする更正」は「当該理由の生じた日から3年間」することができると規定している。これは、法律上無効な行為により生じた経済的成果が、その行為が無効であることに基因して失われた場合には、減額更正を行うことができることを定めた規定であるが、その反面として、法律上無効な行為であるとしても、その行為によって経済的成果が生じていれば、その事実に対して一定の課税処分を適法に行うことができること、その行為が無効であることに基因して経済的成果が失われていない場合は当該課税処分は違法とはならないことを前提としているものと解されるのである。
イ 相続税法7条は、前述のとおり、譲渡された財産の時価と対価との差額に担税力を認めたものであるから、その課税要件を充足するか否かについても、当該財産を著しく低い価額で譲渡を受けたか否かという事実関係に着目して判断することになる。
そうすると、当該財産を著しく低い価額で譲渡を受けたか否かについては、売買契約などの原因行為の実行が外形的に行われたか否かにより判断することになる。例えば、財産の現実の引渡しがなされれば、経済的成果を取得したと認められるが、財産の現実の引渡しを観念し難いときは、譲渡代金が受領されれば、同時履行の抗弁の趣旨からすると、その対価としての財産の移転があったといえるので、その時点で、経済的成果を取得したと認められる。
そして、いったん当該財産を著しく低い価額で譲渡を受ければ、相続税法7条の課税要件は充足される。
本件においては、原告は、平成3年3月14日、丙との間で、本件出資を7億9545万0842円で買い受ける旨の売買契約を締結し、同日、本件出資の譲渡代金に相当する7億9545万0842円をA銀行の原告名義の普通預金口座から引き出し、同行の丙名義の普通預金口座に入金したことによって売買を実行したものである。
すなわち、原告は、丙に対し、売買契約という原因行為の実行として本件出資の譲渡代金を支払い、丙から本件出資を譲り受けて、本件出資の権利を行使し得る地位を取得したのであるから、これにより原告が経済的成果を享受したと認められる。
ウ これに対し、原告は、本件出資の売買は錯誤により無効であり、本件出資の原告への譲渡が当初からなかったことになり、原告は丙に対して代金の返還請求権を有している立場にあり、しかも、上記代金を支払うためにA銀行から金員を借り入れており、借金が残っているだけで何の経済的利得も得ていない旨主張する。
しかしながら、前記のとおり、原告が本件出資を譲り受けたことは明らかであり、さらに、丙が本件売買の代金をA銀行からの借入金の返済にあてていること、原告が丙から譲渡代金の返還を受けた事実がないことから、原告が丙に対して本件出資の返還を未だ行っていないと認められる。
また、以下のaないしcの事実からも、原告が本件決定処分後においても本件出資を引き続き保有していることが認められるから、原告が本件出資の売買により経済的成果を享受していることは明らかである。
a 原告は、東京国税局の職員による調査において、本件出資の売買及びBの出資者としての認識がある旨申し述べている。
b 原告の代理人である関島保雄弁護士は、平成9年12月12日、国税不服審判所長に対して、乙税理士とA銀行の勧めた相続税対策に基づいて行った法律行為については、別件で民事訴訟を堤起しているが、同日まで具体的な原状回復の手当をとっていない旨述べている。
c Bの平成10年4月1日から平成11年3月31日までの事業年度の法人税の確定申告書別表2(同族会社の判定に関する明細書)の「判定の基準となる株主等の株式数等の明細」欄の「判定基準となる株主(社員)及び同族関係者」欄に、順位1として原告の住所、氏名及び本件出資金額1598万円の記載がある。
(5) 特段の事情に関する原告の主張について
原告は、錯誤による法律行為の無効については、法定申告期限を経過した後においては更正の請求によってその救済が図られるべきであり、更正の請求以外にその是正手段を許さなければ納税義務者の利益を著しく害するような特段の事情がある場合を除いては主張できないものと解すべきであると解した場合であっても、原告には上記「更正の請求以外にその是正手段を許さなければ納税義務者の利益を著しく害するような特段の事情」が存在する旨の主張をする。
しかし、前記(1)のとおり、節税対策を目的にした法形式の選択によって節税効果を上げることができなかったとしても、これはそもそも錯誤の適用場面ではない。
また、仮に、節税対策を目的に選択した法形式によって節税効果を上げることができなかった場合に錯誤無効が適用されるとしても、「更正の請求以外にその是正手段を許さなければ納税義務者の利益を著しく害するような特段の事情」がある場合に法定申告期限を経過した後でも錯誤無効を主張することができるというのは、あくまで税の申告がされている場合についてであり、本件のように税の申告がされておらず、被告が贈与税の決定処分を行った場合はこれにあてはまらない。
さらに、節税対策を目的に選択した法形式が節税効果を上げることができなかった場合に錯誤無効が適用される上、前記の特段の事情が税の申告がされていない場合にも認められるとしても、原告が主張する事情はこの特段の事情に当たらない。
ア 本件スキームが税理士らの執拗な勧誘によってされたとしても、原告は自らの判断によって節税効果を企図して税理士の勧誘に従ったのであるから、このような事情が前記特段の事情に該当するものとは到底認められない。
イ 税理士らによる本件スキームの勧誘の際に税理士らから課税の危険性が告知されていなかったとしても、原告が自らの判断によって節税効果を企図して税理士の勧誘に従った以上、これに伴うリスクを自ら負担すべきであることは当然である。
また、租税回避の手法が専門家によっても理解が容易でない複雑なものであるために、原告がリスクの大小について自ら的確な判断をなし得ないというのであれば、本件スキームの実行を中止すれば済むことであるから、仮に、原告が課税の危険性についての告知を受けておらず、かつ、本件スキームの手法が専門家にも理解が容易でない複雑なものであったとしても、原告が租税回避効果を企図して自らの判断でかかる行為に及んだ以上、それに伴うリスクは原告が負担すべきは当然である。
ウ 課税額が巨大であるからといって、前記特段の事情が認められることになれば、法律行為の錯誤無効が認められるか否かが、課税額の大小によって影響されることになるところ、かかる事態は租税法律関係はもとより私法上の法律関係の安定性を著しく害することになり、法解釈としては到底受け入れ難い。
エ 経済的効果の除去は客観的に不可能である旨の原告の主張は、錯誤無効を認めなければ、本件出資の売買契約による経済的効果を除去することができないという事情を指すものと解されるが、仮に、原告が本件スキームによって租税回避効果を得ていたならば、原告は本件出資の売買契約による経済的効果を除去しようとはしなかったはずであるから、原告が除去せんとする経済的効果というのは、結局のところ、贈与税の課税そのものにほかならないことになる。
してみると、原告の上記主張は、錯誤無効を認めなければ、本件各処分による贈与税等の課税を免れることができないというものにほかならないところ、かかる事情が前記特段の事情に該当するとすれば、租税回避行為が失敗した事案についてはすべて錯誤無効の主張が認められることとなり、前記特段の事情のある場合に限って例外的に錯誤無効の主張を認めた趣旨を否定することとなる。
したがって、経済的効果の除去が客観的に不可能であるとの事情は、前記「特段の事情」には該当しないというべきである。
オ 本件の場合、原告は贈与税の申告をしていないのであるから、更正の請求の余地がないことは当然であるが、かかる事情が前記特段の事情に該当することになれば、税の申告をしなかった者を申告をした者よりも広く救済することになり、不当である。とすれば、税の申告をしなかったがゆえに更正の請求の余地がないという事情は、前記特段の事情には該当しないというべきである。
カ 原告は、錯誤による無効を認めても課税の不公平も生じないという主張もするが、自らの責任において節税対策を講じたものがその失敗を理由として課税を免れることを容認するとすれば、他の納税者との租税負担の公平を害することとなって不当であることは明らかであって、原告の主張は失当である。
(6) 本件各処分が公平の原則に反しないこと
原告は、原告と同様の相続税対策を行った者が他に存在しながら、原告に対してのみ課税処分がされているのであれば、納税者間の公平の原則に反すると主張する。
しかしながら、通常用いられる法形式である贈与と同様の経済的成果を得ながら、通常用いられない法形式を選択することにより税負担を免れるとすれば、通常用いられる法形式を用いたことによって税を負担する納税者との間で租税負担の公平を害することとなるから、原告に課税処分をしないことは、かえって他の納税者との租税負担の公平を害することとなり不当であることは明らかである。
また、課税庁は、私法上の行為によって生じた経済的成果を課税の対象として課税処分を行うべきところ、被告は、原告が行った経済活動の結果に対して租税法を適用した本件決定処分を行ったものであり、これは適法である。
したがって、原告と同様の相続税対策をした者に課税処分を行ったか否かにかかわらず、適法・公平に課税処分は行われなければならず、課税要件を充足している原告に課税するのは当然であり、原告のみを不公平に取り扱うものではなく、原告の前記主張は失当である。
5 争点
以上によれば、本件の争点は以下の各点である。
(1) 本件売買が錯誤により無効であり、本件各処分は課税対象を欠くとの主張が認められるか否か。
(争点1)
(2) 本件各処分は、平等原則に反し、違憲又は違法か。
(争点2)
第3当裁判所の判断
1 本件出資の評価について
(1) 法22条にいう「時価」とは、当該財産の取得の時において、その財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間において自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、当該財産の客観的交換価値をいうものと解される。
(2) ところで、すべての財産の客観的交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではないから、これを個別に評価する方法をとった場合には、その評価方法等により異なる評価額が生じたり、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれもある。そこで、課税実務上は、法に特別の定めのあるものを除き、財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定められ、原則としてこれに定められた画一的な評価方法によって、当該財産の評価をすることとされている。
そして、このようにあらかじめ定められた評価方法により、画一的に財産の評価を行うことは、税負担の公平、効率的な租税行政の実現という観点からみて合理的であり、これを形式的にすべての納税者に適用して財産の評価を行うことは、一般的には、租税負担の実質的な公平をも実現し、租税平等主義にかなうものである。
しかしながら、評価の目的は、あくまでも当該財産の客観的交換価値を確定することにあり、評価基本通達に定められた評価方法により財産を評価すべきであるとする趣旨が以上のとおりであることからすれば、評価基本通達に定められた評価方法を画一的に適用することによって、明らかに当該財産の客観的交換価値とは乖離した結果を導くこととなり、そのため、実質的な租税負担の公平を著しく害し、法の趣旨及び評価基本通達の趣旨に反することとなるなど、この評価方法によることが不当な結果を招来すると認められるような特別の事情がある場合には、評価基本通達に定める評価方法以外の合理的な方法により評価することが許されると解すべきである。
(3)ア 評価基本通達を形式的に適用すると、Bは課税時期において開業後3年未満であったから、評価基本通達194,178ただし書、189(3)及び189-3により、本件出資の時価は、評価基本通達185に規定する純資産価額方式によって評価すべきことになる。そして、評価基本通達185によれば、出資1口当たりの純資産価額は、課税時期における各資産を評価基本通達に定めるところにより評価した価額の合計額(相続税評価額)から、課税時期における各負債の合計額及び評価基本通達186-2に規定する評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除した金額を、課税時期における出資口数で除して計算することになる。
このように、評価基本通達において有限会社の出資の評価に当たり法人税額等相当額を控除するものとされた趣旨は、個人が出資を通じて会社の資産を間接的に所有する場合には、個人事業主がその事業用資産を直接所有するのと異なり、個人が自己のために会社の資産を処分するためには、会社を解散し清算するほかないが、この解散、清算の際に、法人に清算所得があれば、その清算所得に対して法人税等が課されることとなるため、評価の均衡を図る必要があるというところにある。
しかしながら、前記「前提となる事実等」(1)及び(2)によれば、本件スキームは、評価基本通達の上記規定を利用して法人税額等相当額の控除を受けて相続税を回避することを唯一の目的として、現物出資による会社を設立し、個人の財産を形式的に間接的な所有形態に変更する方法をとったものである。
そうすると、有限会社file_18.jpg及びBの出資の評価に当たって、評価基本通達を形式的に適用して、法人税額等相当額を控除して課税標準を算出することは、評価基本通達が純資産価額方式において法人税等相当額を控除するとした前記の趣旨に当てはまらないといわねばならない。
イ 一方、前記第2の2(2)イ、ウのとおり、丙は、Bの設立に当たり、本件出資1口に対し有限会社file_19.jpgに対する出資1口を現物出資しており、有限会社file_20.jpgの設立に対しては出資1口当たり100万円を払い込んでいる。
しかしながら、証拠(乙6)及び弁論の全趣旨によれば、本件スキームのようにBが解散して清算所得が生じることが想定されていないにもかかわらず、原告と丙は、評価基本通達を形式的に適用して算出した本件出資1口当たりの評価額である49万7779円を代金として本件売買に係る契約を締結したことが認められる。
そうすると、本件出資の評価において評価基本通達に基づく評価方法を適用した場合には、上記の本件売買の代金が本件出資の時価と一致することとなるため、原告は本件出資が実際に有する価値を大きく下回る対価でこれを取得したにもかかわらず、法7条に基づく贈与税は課されなくなり、かえって実質的な公平を欠く結果となるといわざるを得ない。
ウ 以上によれば、本件売買における本件出資の評価についても、評価基本通達の定める評価方法によることが不当な結果を招来すると認められるような特別の事情があり、評価基本通達を形式的、画一的に適用することなく、他の合理的な方法により評価するのが相当であるというべきである。
そして、本件では、評価基本通達の定める評価方法、すなわち、本件出資の評価において、評価基本通達を形式的に適用して法人税額等相当額を控除することが相当でなく、本件出資の時価を純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって評価することに不当な点は認められないから、本件では、有限会社file_21.jpg及びBの出資の評価は、純資産価額方式に従いつつ、法人税額等相当額の控除の措置を取らない方法、すなわち、出資1口当たりの時価を、課税時期における当該有限会社の資産を評価基本通達に従って評価した価額の合計額から、課税時期における当該有限会社の負債の金額の合計額を控除した金額を出資数で除して計算した金額とするのが相当というべきである。
弁論の全趣旨によれば、上記の方法によって計算すると、課税時期における有限会社file_22.jpgの1口当たりの出資の価額は、別表2のとおり91万5953円であり、これを前提とすると、課税時期におけるBの1口当たりの出資の価額は、別表4のとおり91万4707円であることが認められる。
(4) 以上より、本件課税時期における本件出資1口当たりの「時価」は、91万4707円と評価することが相当である。
2 争点1について
(1)ア 原告は、評価基本通達185、186-2によって、本件出資の評価を時価の約半分に圧縮することができ、この売買に相続税は課されないことを前提として本件売買を行ったのであり、本件売買について贈与税が課されると知っていたら、原告が本件売買を行わなかったことは明らかであるとして、本件売買に係る契約は法律行為の要素に錯誤があるため無効であり、本件各処分は課税の対象を欠くので無効あるいは違法である旨主張する。
イ そこで検討するに、原告が主張する本件売買における錯誤は、本来はいわゆる動機の錯誤に当たるものであり、それが、表意者において意思表示の内容とすることを明示又は黙示に相手方に表示した場合に、初めて意思表示の内容となり、そのうち、その錯誤がなかったとすれば表意者が意思表示をしなかったことが認められるときには、法律行為の要素の錯誤として当該法律行為が無効となるものと解すべきである。
ウ そこで、本件売買において法律行為の要素の錯誤が存在するか否かについて検討する。
a 証拠(甲20の1、2、同23)によれば、原告及び丙は、本件売買に係る契約の締結に際して、本件売買につき贈与税が課されるとは考えていなかったことが認められる。
b しかしながら、証拠(甲18の1、2、同19の1、2、同20の1、2、同22、同23)によれば、原告は、本件売買契約を締結する以前においては、本件スキームについての説明は、平成2年ころにA銀行の担当者file_23.jpg(以下「file_24.jpg」という。)から一度受けたのみであること、本件スキームの実行は丙に任せていたこと、一方、丙は、本件スキームが相続税対策となるとの認識は有していたが、本件スキームの実行としてどのような契約締結等を行うかについては、乙税理士やfile_25.jpgの指導のままに行っていたことがそれぞれ認められる。
これらの事実からすれば、原告は本件スキームの実行を丙に任せ、丙は、本件スキームが相続税対策となるとの乙税理士やfile_26.jpgの説明を信用して、同人らの指示に従って本件スキームの一環として本件売買を行ったのであり、原告及び丙において、本件売買に際して、本件スキームにおける本件売買の意義を確認したり、課税の関係について検討を行い、その上で、本件売買について贈与税が課されないことを前提として取引を行った事実は認められない。
c 証拠(乙6)によれば、本件売買に際して作成された契約書には、本件出資の評価は純資産価額とすることが明記されているものの、その評価に際して評価基本通達により法人税額等に相当する金額を控除することは記載されておらず、その他贈与税に関する記載はないことが認められ、この契約書の記載からも、本件売買において贈与税が課せられないことが本件売買を行う動機であったと認めることはできない。
d その他、贈与税が課されないことが、原告が本件売買を行った動機であると認めるに足る証拠は存在しない。
e また、原告と丙との間で、本件売買において、贈与税が課されないことが意思表示の内容になっていたとまで認めるに足る証拠もない。
f したがって、原告の主張する前記の錯誤をもって、本件契約が無効であることを主張することはできないというべきである。
(2) また、仮に、本件贈与に関する原告の錯誤が、要素の錯誤と解される余地があるとしても、次のとおり、それだけでは、原告に対する贈与税の課税が違法であるということにはならないものである。
ア 贈与税は、贈与契約そのものにではなく、贈与によって財産が移転することにより受贈者の財産が増加するという経済的利益を享受したことに担税力を認めて、課税の対象としている租税である。
また、法7条の趣旨は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合、これは実質的な意味では贈与であり、贈与税の課税がないとすれば課税の公平を失する結果となることから、対価と時価との差額について贈与があったものとみなして贈与税を課すということにある。そこで、同条によって課される贈与税も、譲渡された財産の時価と対価との差額、すなわち著しく低い価額での譲受けにより享受することとなった経済的利益に担税力を認めて課税の対象とした租税であると解すべきである。
錯誤により法律行為が無効である場合には、観念的には、当初より法律行為が存しなかったと私法上取り扱われるものの、実際は、表意者自身が無効を主張して不当利得返還請求権を行使しないときには、当該法律行為の履行として発生した経済的成果が表意者の側に存続することがあり、そのようなときには、上記の贈与税の趣旨に照らして、受贈者に発生した経済的成果に担税力を認めて、法7条による贈与税を課税することは、相当というべきである。
国税通則法71条2号は、申告納税方式による国税につき、その課税標準の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたことに基づいてする更正又は当該更正に伴い当該国税に係る加算税についてする賦課決定は、当該理由が生じた日から3年間行うことができる旨規定するが、この規定は、無効な法律行為であっても、その行為によって経済的成果が発生し、かつそのまま存続しているときには、この経済的成果に担税力を認めて課税することが適法であることを前提としているということができる。
イ 本件においては、前記第2の2(2)エ及び第3の1のとおり、本件課税時期における本件出資1口当たりの時価は91万4707円、1598口では14億6170万1786円と評価するのが相当であるところ、原告は本件売買契約により本件出資1598口を代金7億9545万0842円で取得していることが認められる。
そして、本件課税時期において、原告が本件出資を丙に返還していなかったことは争いがなく、原告が丙に対して、本件出資の時価と上記代金との差額を支払っていたなどという事情も存在しない。
そうであるとすれば、本件売買により原告に経済的成果が発生し、かつ本件各処分の時点においても、その経済的成果は依然として存続していたのであるから、この経済的成果に担税力を認めて、本件売買について法7条に基づき課税を行うことは適法であるというべきである。
ウ この点、原告は、本件売買が錯誤により無効である以上、本件出資に係る権利の移転は存在しなかったことになるから、原告は何らの経済的成果も受けていないと主張する。
しかし、前記アのとおり、法的には無効な法律行為であってもこれによって経済的成果が生じ得るし、当該法律行為の当事者が無効を主張せず、不当利得返還請求権を行使しないときは、その経済的成果が存続し得るのであって、本件において、仮に本件売買が錯誤により無効であったとしても、原告は本件出資を取得し、これを丙に返還していないのであるから、本件売買による経済的成果が原告に存続しているといえるのであって、原告の上記主張は採用することができない。
原告は、本件スキームに関する借入れ等の契約が全て錯誤により無効であるとも主張するが、この主張を前提にしても、本件売買行為によって生じた前記の経済的成果が原告に存続しているといい得ることに変わりはない。
また、原告は、Bが本件スキームのために設立されたペーパーカンパニーである旨の主張をする。しかし、前記1のとおり、本件において本件出資の評価方法としては純資産価額方式が相当であり、同方式によると課税時期におけるBの1口当たりの出資の価額が91万4707円であると認められるのであって、原告には上記1口当たりの価額に本件出資の口数を乗じた金額と譲渡対価との差額について経済的成果が存在するということができるのであるから、Bがペーパーカンパニーであるために、原告に経済的成果が存在しないということはできない。
エ 原告は、本件については特殊な事情が存在するから、本件売買の錯誤無効を主張し、本件各処分の取消しを求めることができる旨の主張をする。
まず、原告は、本件スキームは複雑で理解が困難であったこと、及び本件スキームを勧めた乙税理士らから課税の可能性を告げられなかったことを主張するが、仮に本件売買契約について贈与税が課せられないと考えたことが要素の錯誤となる余地があるとしても、当該売買契約によって発生した経済的成果の存続によって原告に対して課税することが相当であるのは前記のとおりであるから、課税の可能性を告げられなかった事実の存在をもって、本件各処分の取消しを求めることが許されるべきであるということはできない。
また、原告は、本件売買契約の経済的成果の享受を除去するためには、売買代金の返還、すなわち、丙が借入金の返済に充てた上記売買代金の返還をA銀行から受け、原告が丙から返還を受ける代金をもってA銀行に対し債務を返済することが必要となるが、A銀行と原告とは別件訴訟で係争中であるから、代金の返還を行うことは客観的に不可能である旨の主張をする。
しかし、丙が本件売買契約の代金をA銀行への債務の返済に充てたからといって、本件売買契約の経済的成果の解消のための原状回復に際して丙が返済した上記金員の返還をA銀行から受ける必要があるわけではないし、仮に銀行との紛争により本件売買契約の原状回復が困難な状況にあるとしても、前記のとおり、法7条に基づく贈与税は著しく低い価額での譲受けによる経済的利益を享受したことに担税力を認めたものであるから、これを享受している以上、贈与税の課税に不当な点はなく、錯誤無効により課税を取り消すべきことの根拠とはなり得ない。
さらに、原告は、本件スキームについて乙税理士らから執拗な勧誘があったこと、課税額が高額にのぼること、贈与税の申告をしていないから更正の請求ができないこと、及び本件売買契約の無効によって本件各処分が取り消されても被告は丙に対して課税し得ることも指摘するが、これらの事実は原告が錯誤無効を主張して本件各処分の取消しを求め得る理由となるとは認められず、原告のもとに存続する経済的成果に担税力を認めて被告が原告に対して課税することを不当とする事情ともなり得ないことは明らかである。
以上のとおりであり、原告の上記各主張はいずれも採用することができない。
(3) したがって、いずれにしても、争点1に関する原告の主張は理由がない。
3 争点2について
原告は、乙税理士に勧められて本件スキームと同様の相続税対策のスキームを実行した者が原告以外に少なくとも7人いるが、これらの者に対しては課税がされなかったから、原告に対する課税は平等原則に反し、違憲又は違法である旨の主張をする。
本件では、課税時期における本件出資の時価の評価において、評価基本通達を形式的に適用せず、純資産価額方式に従いつつ、法人税額等相当額の控除の措置を取らない方法を用いたために、本件売買について法7条による贈与税が課されたものである。そして、このように評価基本通達を適用しなかった理由は、本件売買について、評価基本通達を形式的に適用すると、明らかに売買の目的物たる本件出資の客観的交換価値とは乖離した結果を導くこととなり、そのため、実質的な租税負担の公平を著しく害し、法の趣旨及び評価基本通達の趣旨に反することとなるなど、この評価方法によることが不当な結果を招来すると認められるような特別の事情があると認められるためである。
そして、上記の特別の事情の有無は、個々の事案における具体的な事実から判断されるべきものであって、本件スキームと同様の相続税対策が行われ、会社を設立した上でその出資を売買する手段を用いられたとしても、直ちに当該売買について上記特別の事情が存在すると認められて評価基本通達に定める評価方法以外の方法により当該出資の時価を評価すべきとなるものではない。
したがって、仮に、原告と同様の相続税対策スキームを実行したにもかかわらず贈与税が課されなかった者が存在するとしても、これによって、原告に対して本件各処分を行ったことが平等原則に反して憲法14条違反であるとか、違法となるということはできない。
そして、他に本件各処分が平等原則に反することを認めるに足る証拠は存在しない。
むしろ、本件における上記特別の事情の存在に照らせば、評価基本通達を形式的に適用して、贈与税を課さないとすれば、実質的な租税負担の公平を著しく害する結果を招くということができる。
以上によれば、争点2に関する原告の主張は理由がない。
4 本件各処分の適法性
(1) 以上のとおり、本件売買について法7条に基づいて贈与税が課されることとなるが、本件売買において贈与とみなされるべき額は、本件出資1口当たりの時価である91万4707円と本件売買における本件出資の対価である49万7779円との差額である41万6928円に、本件出資の口数1598口を乗じた6億6625万0944円となり、これをもとに算出すると、本件売買にかかる原告に対する贈与税は、法21条の5に規定する贈与税の基礎控除額60万円の控除後の課税価格は6億6565万円(通則法118条1項の規定により1000円未満の端数切捨て後の金額)、納付すべき税額は4億5802万円となる。
本件決定処分における納付すべき税額は上記金額を下回るから、本件決定処分は適法である。
(2) また、原告は、本件売買に係る贈与税の申告を行っておらず、これについて通則法66条2項、65条4項に規定する「正当な理由」は認められない。
したがって、同法66条1項により、原告に対しては無申告加算税が賦課されるところ、その税額は、本件決定処分により納付すべきこととなった贈与税額(ただし、通則法118条3項の規定により1万円未満の端数切捨て後の金額)である4億5431万円に、100分の15の割合を乗じて算出した金額6814万6500円となる。
本件賦課決定処分における無申告加算税額は上記金額と同額であるから、本件賦課決定処分は適法である。
第4結論
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 森英明 裁判官 水野正則)
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