東京地方裁判所 平成10年(行ウ)58号 判決
原告
中島章裕(X)
(ほか一一名)
原告ら訴訟代理人弁護士
吉田忠司
被告
東京都渋谷区建築主事(Y) 松田健治
右指定代理人
山口憲行
同
岩田実
同
森岡清和
同
小山巳芸
同
清水博登
同
鵜沼富美子
事実及び理由
第五 当裁判所の判断
一1 行政事件訴訟法三六条は、処分の無効確認の訴えの原告適格につき「当該処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分の無効の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」とするから、当該処分により現実に損害を受けるおそれのある者に限らず、当該処分の無効の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者を含むところ、この法律上の利益を有する者とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、当該処分の根拠となる行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に含まれるというべきである。すなわち、訴えに係る事実関係の下において原告が侵害されるとする利益が当該処分を定めた行政法規により個々人の個別的利益としても保護すべきものとされている場合には、原告適格が肯定されることになる。
2 この点を本件についてみるに、法、令、建築基準法施行規則等の諸規定には、建築物の近隣居住者の保健衛生あるいは火災予防、日照、通風等の近隣環境の保全に関する事項を含むが、処分の無効確認の訴えにおける原告適格は、具体的な処分につき、その処分の根拠となった法規について検討すべきものであり、本件処分は、本件建物の計画が本件建物の敷地、構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合するものであることを確認し、その計画の法規適合性を明らかにする処分であるから、原告らの法律上保護されるべき利益は、本件建物について具体的に適用される諸法令について検討されるべきことになる。
3 ところで、本件敷地の南側の一部を除く大半並びに広尾ハイツ及びヴェラハイツの各敷地は、第二種住居地域に属し、高度制限、日影規制の適用を受けていないというのであるから、本件処分によって保護されるべき利益の中に高度制限、日影規制によって実現すべきものは含まれていないことになる。そして、原告らが違法事由として主張する法五六条一項一号に規定する道路斜線制限は、道路の天空を確保し、日照、採光、通風等の道路環境を保護することを目的とするものであり、近隣への日照の確保を直接の目的とするものということはできない。そうすると、原告らが原告適格の根拠として主張する本件建物の隣接地居住者としての日照、採光、通風という生活上の利益は、本件処分において保護されるべき利益ということはできない。
なお、無効確認の訴えに行政事件訴訟法一〇条一項の準用はないから、原告らの法律上の利益に関係のない違法を理由とすることが可能となるが、これは、当事者適格が認められた者が主張することができる違法事由の範囲の問題であって、右規定の故に、法律上保護された利益を有しない者の原告適格が肯定されるものではない。
〔中略〕
三 結論
以上によれば、原告らの本件各訴えは、いずれも原告適格を欠く不適法なものというべきであるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 水谷里枝子)