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東京地方裁判所 平成11年(ソ)1号 決定 1999年4月08日

抗告人

篠原直樹

篠原雅子

右両名代理人弁護士

藤澤知之

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は、抗告人らの負担とする。

理由

一  申立ての趣旨及び理由

1  申立ての趣旨

原決定を取り消す。

本件を東京簡易裁判所に差し戻す。

2  申立ての理由

抗告人ら申立てにかかる東京簡易裁判所平成一〇年へ第四一九号公示催告申立事件(以下「本件」という。)において、別紙目録記載の各債券について、権利の届出及び債券の提出があったが、抗告人らは、本件申立てにかかる債券と届出にかかる債券との同一性を認めず、かつ届出人の権利の有無を争った。

原審は、真正債券との比較等適切な証拠調べを行うことなく、漫然と右各債券の同一性を認めた。この認定は、経験則に違背する違法なものである。

原審は、届出人の権利について争いがあるにもかかわらず、除権判決申立てを却下した。債券の同一性又は権利に争いの存する場合、裁判所は中止決定又は留保付除権判決をなすべきところ(公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律七七〇条)、原審は、これらの手続をなすことなく直ちに申立てを却下しており、同条違反の違法がある。

二  当裁判所の判断

1  事実認定の適否について

記録によれば、原審は、権利の届出のあった各債券について、いずれも原本を現認し、各債券の発行名義、銘柄、回号、債券番号等の各記載事項を確認した上で、本件申立てにかかる債券との同一性を認定したものと認められる。この事実認定の適否について検討する。

公示催告申立てにかかる債券と権利の届出のあった債券との同一性を認定するに当たっては、まず、権利の届出のあった債券が真正なものであるか否かを調査すべきである。

本件申立てにかかる各債券の銘柄は、割引長期信用債券、割引興業債券、割引商工債券無記名式であり、いずれも無記名式の割引債券として著名なものであり、市場における流通性の極めて高い証券である。これらの債券で使用されている用紙、記載様式等は、各債券の銘柄ごとに共通であり、このことは、裁判所にとって顕著な事実である。

したがって、権利の届出にかかる証券が真正なものであるか否かを判断するための証拠調べとしては、各債券の原本を現認して、通常の各銘柄の債券の用紙、記載様式等と相違のないことを確認して、各債券が偽造されたものでないことを確認すれば十分である。そして、各債券が偽造されたものであるとの疑いを持つべき特別の事情が認められる場合には、さらに詳細な証拠調べを実施すべきであるが、本件においては、申立人である抗告人は、権利の届出にかかる各債券と本件申立てにかかる各債券とが同一であるかどうかは明言できないと主張に止まり、権利の届出にかかる各債券が偽造されたものであるとの疑いを抱かせるに足りる具体的な事情について何ら述べていないし、他に特に偽造と疑うべき事実があったと認めるに足りる証拠はない。

このような本件の事情の下においては、抗告人らが主張するように真正な債券との比較をしなくても、不適切な証拠調べとはいえないし、前記証拠調べの結果に基づいて原審がした各証券の同一性の認定も経験則に反するものとはいえない。

よって、原審の判断には経験則違背の違法はない。

2  中止決定の要否について

公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律七七〇条は、申立人が申立ての理由として主張する権利を争うとの届出がなされたときは、届け出た権利についての裁判が確定するまで公示催告手続を中止し、又は除権判決において、届け出たる権利を留保すべき旨規定する。しかし、同条は、公示催告の申立人主張にかかる証券と権利の届出にかかる証券との同一性が不明の場合には、公示催告手続を一旦中止し、通常訴訟手続において、当該証券の偽造の有無などを争い、証券の同一性を確定すべきものとする趣旨である。

したがって、本件のように、公示催告手続において、証券の同一性が認められる場合には、公示催告の前提たる証券の所在不明という実質的要件がなくなり、公示催告手続を中止して、通常訴訟手続に移行する必要はないのであるから、原審が中止決定手続をせずに、直ちに、除権判決の申立てを却下したことは何ら違法とはいえない。

3  結論

よって、本件抗告は理由がないから、これを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官加藤新太郎 裁判官片山憲一 裁判官日暮直子)

別紙目録<省略>

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