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東京地方裁判所 平成11年(モ)665号 決定 1999年4月01日

申立人(被告)

斎藤隆

相手方(原告)

株式会社商工ファンド

右代表者代表取締役

大島健伸

主文

本件を盛岡地方裁判所宮古支部に移送する。

事実及び理由

第一  申立ての趣旨及び理由等

一  申立ての趣旨

主文同旨。

二  申立ての理由

本件については、申立人が岩手県宮古市に居住しているため、東京地方裁判所に出頭することは時間的及び金銭的理由から困難であること、別紙物件目録記載の建物が同市にあること、申立人が相手方との間で右物件について根抵当権設定契約を締結したのも同市であること、申立人の連帯保証人である三浦健司も同市に居住すること、同人もまた相手方から提起された訴えについて盛岡地方裁判所宮古支部に移送することを求める旨東京地方裁判所に対して申立てたこと等の事情がある。これらの事情は、民事訴訟法一七条の「訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要がある」場合に該当する。

三  相手方の意見

当裁判所は、平成一一年二月三日、裁判所書記官から相手方に対し移送申立書を送付し、移送申立てに対する意見を求め、相手方は、右同日、右書面を受領した。しかし、現在に至るまで、相手方は、何ら意見を述べない。

第二  検討

一  記録によれば、基本事件は、貸金業者である相手方から、消費者である申立人に対し、別紙物件目録記載の建物について、別紙仮登記目録記載の根抵当権設定仮登記に基づく根抵当権設定本登記手続を求めたものである。

二  基本事件について、東京地方裁判所に管轄が認められるのは、申立人が相手方との間で締結した「手形割引・金銭消費貸借契約等継続取引に関する承諾書並びに限度付根保証承諾書」第二六条の合意に基づくものである。

三  ところで、民事訴訟法一七条は、定型的な契約書の中に合理管轄条項が存するけれども、消費者が遠隔地に居住しているため、応訴にあたり、経済的及び時間的に困難を来している場合における手続的配慮を定める規定である。そこで、このような同条の趣旨をふまえ、基本事件について、訴訟の著しい遅滞を避け、または当事者間の衡平を図るために移送が必要であるかについて判断する。

1  記録によれば、申立人斎藤隆は岩手県宮古市に住居を有することが認められる。また、申立人の経済状態は必ずしも判然としないが、相手方によれば、申立人は平成九年一〇月五日に利息の支払を怠ったというのであるから、このような申立人が東京地方裁判所への出頭費用を負担することは困難であると推認される。

申立人が、基本事件についてどのような争い方をするのかについては、明らかではないが、基本事件が東京地方裁判所において審理されるとすれば、盛岡地方裁判所宮古支部において審理される場合と比較して、申立人が応訴するに当たり、経済的及び時間的に、より困難となることは否定できない。

2  これに対して、相手方は、各地に支店を有して営業する資本金四〇〇億を超す株式会社であるから、本件を盛岡地方裁判所宮古支部で審理することにしたとしても、申立人が基本事件について東京地方裁判所で応訴することと比較すれば、別段大きな経済的不利益を受けるものとはいえない。

3  そうすると、基本事件は、そもそも、定期的に作成された契約書の中にあらかじめ合意管轄条項が盛り込まれているために、これに基づき、相手方が東京地方裁判所に申立人に対する訴えを提起したものであるところ、遠隔地に居住する申立人が、経済的及び時間的に応訴の困難を来しているものとみるべきであり、前述した1及び2の本件諸事情を考慮すれば、基本事件は、民事訴訟法一七条にいう「訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要がある」場合に該当するものとして、盛岡地方裁判所宮古支部に移送することが相当である。

四 ところで、民事訴訟法一七条の申立てがあったときは、裁判所は、相手方の意見を聴いて決定するのが本則である(民事訴訟規則八条一項)。

しかしながら、相手方は、当裁判所の求めにもかからわず、二箇月近く経過した現在に至るまで、移送申立てについて何ら意見を述べない。このように、相手方は、民事訴訟規則八条一項に定める意見表明の機会を与えられているのにかかわらず、意見を述べないのであるから、この段階で移送決定をしたとしても、手続保障に欠けるところはないと考える。

五  以上によれば、申立てには理由があるので、主文のとおり決定する。

(裁判官加藤新太郎)

別紙物件目録<省略>

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