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東京地方裁判所 平成11年(ヨ)21193号 決定

債権者 笹倉多津子

債権者 柴育濱こと 柴知見

右債権者ら代理人弁護士 吉田健

債務者 株式会社エープライ

右代表者代表取締役 大久保嘉代

右代理人弁護士 大西清

同 高橋幸二

主文

一  債務者は、債権者笹倉多津子に対し、平成一二年五月から平成一三年四月まで、毎月二五日限り金二三万円を仮に支払え。

二  債務者は、債権者柴知見に対し、平成一二年五月から平成一三年四月まで、毎月二五日限り金一八万円を仮に支払え。

三  債権者らのその余の申立てを却下する。

四  申立費用は債務者の負担とする。

理由の要旨

第一申立て

一  債権者らが債務者に対し、労働契約上の労働者の地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、債権者笹倉多津子に対し、金八万三二〇〇円及び平成一一年九月から本案判決確定に至るまで毎月二五日限り金二三万三九八八円を仮に支払え。

三  債務者は、債権者柴知見に対し、金一七万九二三三円及び平成一一年九月から本案判決確定に至るまで毎月二五日限り金二二万五五二三円を仮に支払え。

第二事案の概要

本件は、債務者から解雇された債権者らが、解雇の無効を主張して、債務者に対し、労働契約上の地位にあることの仮の確認及び賃金の仮払いを求める事案である。

一  争いのない事実(適宜疎明資料も摘示する。)

1  当事者

(一)  債務者

債務者は、各種工業用及び家庭用電気機械器具の販売及び設置工事等を業とする株式会社である。債務者は、肩書地に本社兼東京事業所を置くほか、神奈川県相模原市に相模原事業所兼相模原工場を、また、福岡県福岡市に九州事業所を置いている。

債務者の主力商品は空調機であり、特に、日本道路公団と共同開発した高速道路の料金所空調システムは大きなシェアを有する。

(二)  債権者ら

債権者笹倉多津子(以下「債権者笹倉」という。)は、平成七年一〇月一七日、営業事務及び総務・経理の担当者として債務者に雇用され、相模原事業所に勤務していた。

債権者柴知見(以下「債権者柴」という。)は、平成八年三月、アルバイトとして、その後平成九年四月一日からは正社員として、それぞれ債務者に雇用された。担当業務は、債務者が行っていた中国国営企業との合弁事業関連であったが、正社員として雇用された後にはこれに経理業務が付加された。日本における勤務場所は相模原事業所である。

なお、債権者柴は中国国籍であったが、平成一一年一〇月日本国に帰化した。

債権者笹倉及び同柴は、東京東部労働組合エープライ支部(以下「本件労働組合」という。)に加盟している。

2  債権者らの解雇等

(一)  平成一一年八月六日、債務者は債権者柴に対し、同日付けで解雇する旨通知した(以下「債権者柴に対する本件解雇」という。)。右解雇の通知書には、解雇の理由として次のとおりの記載がある。

「1 提出された在留期間許可印コピーが貴殿より偽造された物と判明。就業規則五四条(1)

2  上記の事実確認をする業務命令を拒否。就業規則四〇条(11)

3  一週間自宅待機を無視。就業規則四〇条(11)

4  東京都地方労働委員会協定書二を無視。就業規則五四条(10)」

(甲一一)

(二) 平成一一年八月二三日、債務者は債権者笹倉に対し、同日付けで解雇する旨通知した(以下「債権者笹倉に対する本件解雇」という。また、債権者柴に対する本件解雇と債権者笹倉に対する本件解雇を併せ、以下「本件各解雇」という。)。右解雇の通知書には、解雇の理由として次のとおりの記載がある。

「1 会社業務運営を妨げ、著しく協力しない(就業規則四〇条一一項)

2 無断欠勤引き続き七日以上(就業規則五四条七項)」

(甲一〇)

(三) なお、債務者は、債務者の従業員出水誠、同鈴木京子及び同山下裕暢についても、債権者笹倉に対する本件解雇と同日に、同じ理由をもって解雇したが、その後同解雇の意思表示を撤回した。

(乙一五の一ないし三)

3  就業規則の定め(本件に関係する規定のみ抜粋する。)

四〇条(解雇)

つぎの各号の一に該当するときは解雇する。ただし、会社の都合によっては解雇しない場合がある。

一一号 会社業務運営を妨げまたは著しく協力しないとき。

五四条(懲戒解雇)

社員がつぎの各号の一に該当するときは、懲戒解雇に処する。ただし、情状酌量の余地があるときは、出勤停止もしくは譴責にとどめることがある。

一項 氏名または重要な経歴を偽って雇入れられ、その他会社に対し偽りの行為があったとき

七項 正当な理由なしに無届欠勤引き続き七日以上におよんだとき。

一〇項 その他前各号に準ずる程度の特に不都合な行為があったとき。

(甲一四)

4  債権者らの賃金等

債務者における賃金の支払日は各月二五日であり、債権者笹倉に対する本件解雇前の債権者笹倉の平均賃金は二三万三九八八円、債権者柴に対する本件解雇前の債権者柴の平均賃金は二二万五五二三円であった。

二  争点

1  本件各解雇の有効性(債務者の主張する本件各解雇の解雇事由の存否)

2  保全の必要性

三  当事者の主張

1  債務者の主張

(一)  債権者笹倉について

(1)  無断欠勤

債権者笹倉は、平成一一年八月一七日から正当な理由なく出社せず、債務者が出社を促すもののこれに応じなかった。この事実は就業規則五四条七項の懲戒解雇事由に該当する。

債権者笹倉は、この職場放棄に関してストライキと称しているが、その行動は次のとおり正当性を欠く。

ア 債権者笹倉その他本件労働組合の組合員は、平成一一年八月一七日午前八時四五分、債務者に対して全くの予告なく突然ストライキを通告して職場を放棄した。これに対し、債務者の従業員は、業務運営に多大な障害が生ずるので話合いをするよう諭したが、債権者笹倉らはこれを無視してそのまま退社し、その後も欠勤を続けた。

平成一一年八月一七日は夏期休暇明け当日であり、業務が多忙、繁雑を極める時期である。しかも、債権者笹倉らの担当業務で債権者笹倉らしか知らない工事の存在が後に明らかになって、納期に間に合わないという事態となり、取引先に多大な迷惑をかけ、債務者の信用が失墜した。その他、債権者笹倉らが不在のため資料が発見できず、取引先に対し社内管理の不信感を露呈するなどの事態も生じた。

以上の点から明らかなとおり、債権者笹倉らはストライキの予告が可能であるのに、意図的に抜き打ちで職場を放棄したのである。

イ 債権者笹倉その他の者は、右ストライキを継続しながら、債務者が暴力団風の男を使って強迫まがいの行為をしているなどと記載したビラを配布したり、債務者の主たる取引先である日本道路公団に対して国会議員を赴かせた上で、債務者の内紛を知らしめるなどの行動を行っている。これにより、債務者は同公団との取引がほとんど見込めない状況となるなどの打撃を被っているのであって、債権者笹倉らの行為は、労働組合活動の名目を借りて債務者の業務を妨害しているというほかない。

ウ さらに、債権者笹倉は、ストライキ名目の行為を通じて、後記(2) のとおり債務者の会社つぶしに加担した。

(2)  業務運営妨害行為

債権者笹倉は、ストライキ名目の各行為を通じて、債務者の会社つぶしに加担した。この事実は就業規則四〇条一一項に該当する。

すなわち、債務者の元従業員吉松博之(以下「吉松」という。)は、債務者に在職中の平成一一年六月、債務者と定款の目的事項がほとんど同一である株式会社ファルコンの発起人兼株主となり、債務者の会社つぶしを企図したが、債権者笹倉は債務者に在職しながらこれに加担したのである。

(3)  東京事業所への異動及び自宅待機に関する各業務命令についての違反

債権者笹倉は、相模原事業所の閉鎖に当たり、債務者から平成一一年四月一日付けで東京事業所への異動を命ぜられたが、これを無視し、相模原事業所への出社を継続した。また、債務者から、平成一一年七月一二日付けで自宅待機命令(上司の指示及び命令を一切無視したことなどを理由とするもの)を発せられたが、これにも違反して無断出社を続けた。

これらの事実は就業規則四〇条一一項に該当する。

(二)  債権者柴について

(1)  在留許可印の偽造コピー文書の作成及び提出

債権者柴は、債権者柴に対する本件解雇のころ中国国籍者であり、日本国在留資格について許可が必要な身分であったところ、在留許可印を偽造したコピー文書を作成し、平成一一年三月ころ、債務者に対してこれを提出した。同文書は、在留許可印の許可番号及び許可年月日の部分を削除されており、一般人をして削除が一見して判明しないものとなっている。

許可番号、許可年月日は、債権者柴の日本国在留資格の有無を特定するための重要な項目である。しかも、債務者が右偽造文書提出行為に気付いた平成一一年七月までの四か月近くにわたり、債権者柴は債務者に対して偽りの行為を続けていたのである。

これは、就業規則五四条一項の「会社に対し偽りの行為があったとき」に該当する。

(2)  在留許可印の偽造コピー文書提出に関する事実確認の拒否

債権者柴が在留許可印の偽造コピー文書を作成し提出した件に関し、債務者は債権者柴に対し、入国管理局(東京入国管理局横浜支局川崎出張所)に同道の上事実確認を行うことを指示する業務命令を発したが、債権者柴はこれを拒否した。

すなわち、債務者は、中国国籍者であった債権者柴を入国管理局で在留許可を受けた者として雇用している上、入国管理局に対し、債権者柴が提出したような在留許可印があるかについて確認作業を行っていたから、同局に対し、事実の経過、疑問点等について債権者柴本人を交えて確認し、報告する必要があった。債権者柴は、債務者に対し、平成一一年七月一三日にパスポートの原本及び写しを提出したが、肝心の入国管理局に対する事実確認及び同局への同行については拒否した。

このような債権者柴の行為は就業規則四〇条一一項に該当する。

(3)  一週間の自宅待機命令の無視

在留許可印の偽造コピー文書を作成し提出した件及び入国管理局への事実確認等を拒否した件に関し、債務者は債権者柴に対し、平成一一年七月一二日、同日から一週間の自宅待機命令を発したが、債権者柴はこれに従わず出社を続けた。自宅待機命令が発せられたことを知っている他の社員の迷惑や困惑を全く度外視して居座り続け、電話の取り次ぎなどをすること自体、会社業務の運営を妨げるものである。

以上の事実は就業規則四〇条一一項に該当する。

(4)  協定を無視した言動

債務者と債権者柴とは、東京都地方労働委員会において、平成一一年三月二日付けで協定を締結したが、その協定には、「柴は、不穏当な発言等について会社に謝罪し、今後、このような行為を繰り返さないよう留意する。」との事項が定められている。ところが、債権者柴は、同協定締結後も反省の色を見せず、社内で横柄な態度を取り、上司を「うそつき」、「おまえ」呼ばわりし、さらには、社内で「こんな会社つぶしてやる」などと口汚く息巻くなど、礼節を欠く不穏当な発言を終始行った。

この事実は就業規則五四条一〇項に該当する。

2  債権者らの主張

(一)  債権者笹倉について

(1)  無断欠勤について

債権者笹倉を含む本件労働組合の組合員は、平成一一年八月一七日以降ストライキを行って業務に就かなかったが、この欠勤を理由にして懲戒解雇を行うにはこのストライキが違法であることが前提となる。しかし、債務者のストライキの違法に関する主張は法的主張の体をなしていない。

債務者は、右ストライキが抜き打ちで行われた旨主張するが、労働組合の争議戦術としていつストライキを行うかは労働組合が自由に決すべきことであり、争議協定による予告義務等がある場合にのみ問題になるにすぎず、本件でこれが問題となる余地はない。

また、債務者が主張する、ストライキによる業務阻害に関する事実は知らない。仮にこれがあったとしても、ストライキである以上当然のことである。なお、業務資料の所在は東京事業所所長及び次長が当然知っており、発見できなかったということはあり得ない。

以上のとおり、右ストライキには何ら瑕疵はなく、このストライキ参加行為を懲戒解雇の理由とすることはできない。

(2)  業務運営妨害行為について

債務者は、吉松の行為と債権者笹倉との関係について疎明しておらず、債権者笹倉が債務者の会社つぶしに加担した旨の債務者の主張は失当である。

(3)  東京事業所への異動及び自宅待機に関する各業務命令についての違反について

ア 東京事業所への異動命令違反について

債権者笹倉は、本件労働組合とともに、相模原事業所の突然の閉鎖通告について説明を求めており、その説明次第では異動を十分考慮する用意があった。しかし、債務者はこの点に関する説明を極めて抽象的にしか行わず、債権者笹倉ら従業員の納得を得ようとする姿勢を全く見せなかった。このため、債権者笹倉その他の従業員は相模原事業所への出勤を続けたのである。なお、債務者の管理職は強行に異動を主張することをせず、債権者笹倉が日常業務を行うのに対しても何ら注意をしていない。

イ 一週間の自宅待機命令違反について

債権者笹倉は、債務者から平成一一年七月一二日付けで自宅待機命令を発せられたが、その後も出社を続けた。しかし、この自宅待機命令は根拠を欠くため、債権者笹倉はその有効性を争っていたのであって、その意思を表すために出社したのである。

しかも、債権者笹倉は何らの支障もなく平常どおり業務に就いており、債務者側がこれを制止することもなかったのであって、そのような状況の下での出社を解雇理由とすることはできない。

(二)  債権者柴について

(1)  在留許可印の偽造コピー文書の作成及び提出について

債権者柴は、平成一〇年三月一日に在留期間更新の許可を得たが、その許可印をいったんコピーした上で、許可番号と許可年月日欄を折り曲げて隠して同印の写しを作成し、これを債務者に提出した。しかし、債権者柴は実際に在留許可を得ていたのであり、隠したのは許可番号と許可年月日のみである。すなわち、入国管理局で在留許可を得ていることに何ら偽りはないのである。

このコピー文書の提出によって債務者の事務に混乱を来したことはない。そのことは、債務者が四か月も許可番号等が削除されていることに気付かなかったことからして明らかである。

なお、右許可番号は、これが不明でも入国管理局に対する問い合わせは可能であるし、在留期間についても、許可年月日とは無関係である上このコピー文書にも在留期限自体の記載がある。

以上のとおりであって、この事実は懲戒解雇事由に該当するものではない。

(2)  コピー文書提出に関する事実確認の拒否について

債権者柴は、債務者から入国管理局に行くように命ぜられたものの、これを拒否した。しかし、この出頭命令はそもそも債務者の本来の業務とは無関係であり、債権者柴に対する嫌がらせ以外の何ものでもなかったから、債権者柴がこれに従わなかったからといって何らその責任を問われるべきいわれはない。

債権者柴は、パスポートの原本を東京事業所所長らに見せており、このことで在留許可印のコピー文書の真偽について問題の整理はついていた。したがって、その確認の必要はなかったし、その確認をしに入国管理局に赴く必要も全くなかった。

よって、この点も解雇理由とされるべきものではない。

(3)  一週間の自宅待機命令の無視について

債権者柴は、債務者から平成一一年七月一二日付けで自宅待機命令を発せられたが、その後も出社を続けた。しかし、この自宅待機命令はその根拠を欠くため、債権者柴はその有効性を争っていたのであって、その意思を表すために出社したこと、債権者柴は何らの支障もなく平常どおり業務に就いており、債務者側がこれを制止することもなかったこと、以上の点は債権者笹倉に関する前記(一)(3) イと同様であって、そのような状況の下での出社を解雇理由とすることはできない。

(4)  協定を無視した言動について

債務者は、債権者柴が「礼節を欠く不穏当な発言を終始行っていた」ことの具体的内容について、疎明はおろか主張すらしていない。この点についても解雇理由にはなり得ない。

第三当裁判所の判断

一  本件各解雇の解雇形態について

債務者は、それぞれ単一の意思表示に基づく本件各解雇に当たり、就業規則上の適用法条として、債権者柴については五四条一項及び一〇項並びに四〇条一一項を挙げ、債権者笹倉については五四条七項及び四〇条一一項を挙げ、本件審尋手続においても同旨の主張をする。五四条は懲戒解雇の事由を定めた法条である一方、四〇条は原則として三〇日前の予告あるいは解雇予告手当の支給を手続要件とする解雇(いわゆる普通解雇)の事由を定めた法条である。懲戒解雇と普通解雇では、債務者が一方的な意思表示によって雇用契約を解除する点で共通性を有するものの、前者は債務者による懲戒処分の一種であること、前者の場合には原則として予告期間や予告手当の支給が不要であり、退職金の支給もないこと(甲一四。社員就業規則四二条、五三条、退職手当支給規則二条)等の性質上の明確な差異があるから、債務者が、懲戒解雇と普通解雇のいずれか一方に固執する趣旨、あるいは、懲戒解雇事由に該当する事実を普通解雇事由として挙げている趣旨にあると認められる特別の事情のない限り、債務者が債権者らに対してした解雇については、意思表示行為は単一のものではあっても、懲戒解雇及び普通解雇それぞれ別個の意思表示をしたものであると解するのが相当である。このように解すると、右特別の事情がない限り、例えば、普通解雇の有効性の判断に当たって懲戒解雇事由として挙げられた事実を考慮することができないことになるが、右の説示からすればそれはやむを得ないというべきである。

本件全疎明資料及び審尋の全趣旨によっても、右特別の事情の存在をうかがわせるものはない(かえって、債務者は、平成一二年四月五日付け準備書面(三)二頁及び一四頁において、債権者笹倉及び同柴に対して「懲戒解雇並びに通常解雇の通知をした」旨主張している。)から、以下、債務者の主張する本件各解雇の具体的事実について検討するに当たっては、懲戒解雇事由と普通解雇事由とは別個の判断対象とすることとする。

二  債権者笹倉に関する解雇事由について

1  無断欠勤について(懲戒解雇事由)

債務者は、債権者笹倉は平成一一年八月一七日以降債務者を無断で欠勤した、この事実は就業規則五四条七項の懲戒解雇事由に該当する旨主張する。

債権者笹倉が平成一一年八月一七日以降債務者の許可を得るなどすることなく欠勤したことは当事者間に争いがない。

次に、疎明資料(甲三〇ないし三二、四二、四三)によれば、債権者笹倉が加入する本件労働組合は、債務者に対し、平成一一年八月一七日の始業時から同月二五日の終業時までストライキを実施する旨通告し、実際にもストライキを実施したこと(このストライキを、以下「本件ストライキ」という。)、債権者笹倉が平成一一年八月一七日以降欠勤したのは、本件ストライキに参加したためであることが一応認められる(なお、甲第二九号証の二(債権者笹倉の陳述書)には、「平成一一年八月二三日株式会社エープライより提出された解雇通知の通知理由(1) 「会社業務運営を妨げ著しく協力しない(就業規則四〇条一一項)」につきまして、いっさい身に覚えのないことで、通常どおりの業務を遂行いたしておりました。」との陳述記載があり、右時期にストライキを行ったとの右認定とは矛盾するかにみえる。しかし、疎明資料(甲三二)によれば、債務者は平成一一年八月二三日に債権者笹倉に対して出社を命じていることが一応認められ、この事実と、右陳述記載の記載内容を併せ考えれば、右陳述記載は、債権者笹倉が債務者の業務運営を妨げていないことを述べたものにすぎないというべきであり、右認定と必ずしも矛盾しないと解することができる。)。

債務者は、本件ストライキには正当性が欠ける旨主張し、その具体的事情として、(一) 本件労働組合は全くの予告なしに本件ストライキを通告し、債権者笹倉ら同組合の組合員が職場を放棄したこと、(二) この職場放棄によって債務者の業務に支障を来したこと、(三) 本件労働組合あるいはその組合員は、このように債務者の業務に支障を来すことを意図して本件ストライキを敢行したこと、(四) 本件労働組合の組合員らが、ビラを配布したり、債務者の取引先に対して債務者における労使関係を暴露するなどの行為をしていること、(五) 債権者笹倉がストライキの名目の行為を通じて債務者の会社つぶしに加担したこと、以上の事情を挙げる。しかし、いずれの事情も、不法に債務者の自由意思を抑圧するような行為であるなど、本件ストライキの正当性が欠けることを根拠付けるものとはいい難い上、(二)及び(五)については、それらの事実を認めるに足りる疎明はない((五)については後記2参照)。債務者の右主張は採用できない。

よって、債権者笹倉が平成一一年八月一七日以降七日以上無断欠勤したことをもって就業規則五四条七項(「正当な理由なしに無届欠勤引き続き七日以上におよんだとき」)に該当する旨の債務者の主張は理由がない。

2  業務運営妨害行為について(普通解雇事由)

債務者は、債権者笹倉は、ストライキ名目の行為によって債務者の会社つぶしに加担した、この事実は就業規則四〇条一一項に該当する旨主張する。

しかし、債務者の右主張中「債務者の会社つぶし」との主張の意味する具体的内容が明らかでない上、仮に吉松が「債務者の会社つぶし」を意図していたとしても、そのような意図を有していた吉松の行為に債権者笹倉が加担したとの事実を認めるに足りる疎明はない。

よって、債権者笹倉が債務者の会社つぶしに加担した旨の債務者の右主張は理由がない。

3  東京事業所への異動及び自宅待機に関する各業務命令についての違反について(普通解雇事由)

債務者は、債権者笹倉は、相模原事業所の閉鎖に当たり、債務者から平成一一年四月一日付けで東京事業所への異動を命ぜられたが、これを無視し相模原事業所への出社を継続した、また、債務者から、平成一一年七月一二日付けで自宅待機命令を発せられたが、これにも違反して無断出社を続けた、これらの事実は就業規則四〇条一一項に該当する旨主張する。

債務者の右主張に係る事実があったことは当事者間に争いがない。これらが業務命令に違反する行為であることは明らかであるが、このような行為が業務運営の妨害に当たることを認めるに足りる疎明はなく、また、業務運営に協力しない行為に当たることを認めるに足りる疎明もない。よって、債権者笹倉が異動命令及び自宅待機命令を無視したことが就業規則四〇条一一項(「会社業務運営を妨げまたは著しく協力しないとき」)に該当する旨の債務者の主張は理由がない。

三  債権者柴に関する解雇事由について

1  在留許可印のコピー文書の作成及び提出について(懲戒解雇事由)

債務者は、債権者柴が、在留許可印を偽造したコピー文書を作成し、平成一一年三月ころ債務者に対してこれを提出した、この事実は就業規則五四条一項に該当する旨主張する。

債権者柴が、自らの在留許可印の許可番号及び許可年月日の部分を削除した形で在留許可印のコピー文書(以下「本件コピー文書」という。)を作成し、平成一一年三月ころ、債務者に対してこれを提出したことは、当事者間に争いがない。従業員が会社に対して提出する文書につき、その一部であっても手を加えて変更することは、会社の業務運営上の誤りを生じさせるおそれがあるというべきであり、このことに照らせば、右事実は、就業規則五四条一項所定の「会社に対し偽りの行為があったとき」に該当するということができる。

もとより、債権者柴と債務者との関係に照らして、債権者柴が本件コピー文書を作成し提出することに合理的な理由があれば、右の判断を左右する余地もある。しかし、債権者柴は、本件コピー文書の作成及び提出についてそのような合理的な理由を説明するに至っていない(甲第四三号証(債権者柴の陳述書)には、債務者が、債権者柴の在留許可印の許可番号を読んで債権者柴に対して嫌がらせをしてくることを心配した旨の陳述記載があるが、本件コピー文書の作成及び提出に係る理由として合理的であるとはいい難い。)。

債権者らは、本件コピー文書の作成に当たって、債権者柴は許可番号と許可年月日とを隠してコピーしただけであり、債権者柴が入国管理局から在留許可を得ていることは何ら偽りではないこと、本件コピー文書の提出によって債務者の事務に混乱を来した事実はなかったこと、以上の点を主張する。しかし、少なくとも就業規則五四条一項の文言への該当性の判断に当たっては、右各主張に係る事実は、本件コピー文書の作成及び提出が右文言に該当するとの前記判断を左右するに足りるものではないというべきであり、債権者らの右主張は採用できない。

以上のとおりであり、本件コピー文書の作成及び提出が就業規則五四条一項(「会社に対し偽りの行為があったとき」)に該当するとの債務者の主張は理由がある。

2  本件コピー文書提出に関する事実確認の拒否について(普通解雇事由)

債務者は、本件コピー文書を作成し提出した件に関し、債権者柴に対し、入国管理局(東京入国管理局横浜支局川崎出張所)に同道の上事実確認を行うことを指示する業務命令を発したが、債権者柴はこれを拒否した、この事実は就業規則四〇条一一項に該当する旨主張する。

債務者の右主張に係る事実があったことは当事者間に争いがない。

一方、疎明資料(甲五〇、乙二)によれば、平成一一年七月八日、債権者柴は債務者の東京事業所の所長及び次長に対し、債権者柴のパスポートの前半部分のコピーを交付するとともに、パスポートの原本と外国人登録証を示したこと、同所長及び次長は三〇分程度にわたってこれらを見たこと、同日、同次長は、本件コピー文書を持参して入国管理局に赴いたこと、債権者柴は、同日午後四時、同所長から入国管理局に行くように命ぜられたこと、同月九日、債務者は債務者の代表取締役名義で、債権者柴に対し、債務者側とともに入国管理局に行って事実確認をすることを命じたことが一応認められる(債務者は、債権者柴は債務者に対し、平成一一年七月一三日にパスポートの原本及び写しを提出した旨主張し、これに沿う疎明資料もあるが(乙第一六号証(債務者の従業員岩本晃央の陳述書)。ただし、日付は同月一二日であるとされている。)、仮にそのとおりであるとしても、同月九日に右所長及び同次長がパスポートの原本等を見たとの前記認定事実と矛盾するものではない。)。

以上認定の事実によれば、債務者側としては、平成一一年七月八日の段階で既に債権者柴の在留許可印の原本を見て、原本と本件コピー文書との差異を確認していることが一応認められる。そうすると、債務者として、更に債権者柴を伴って入国管理局に赴き、事実確認をする必要があったとまでは認め難い。この点、債務者は、入国管理局に既に本件コピー文書のような在留許可印があるかの確認作業を行っていたから、同局に対し、事実の経過、疑問点等について債権者柴本人を交えて確認し、報告する必要があった旨主張する。仮に債務者が右のような事実確認を同局に対して行ったとすれば、債務者が事実の経過、疑問点等について同局に対して報告する必要があると判断すること自体は了解できるが、右認定、判断にかんがみれば、あえて債権者柴を伴って同局に赴くまでの必要は認め難いから、結局、債務者の右主張は採用できない。

したがって、債権者柴が、入国管理局に同道の上事実確認を行う旨業務命令を拒否したこと自体は、業務命令に反する行為であるが、右のとおり、入国管理局に同道の上事実確認をする必要性が認め難い以上、右行為をもって、就業規則四〇条一一項(「会社業務運営を妨げまたは著しく協力しないとき」)に該当する旨の債務者の主張は理由がない。

3  一週間の自宅待機命令の無視について(普通解雇事由)

債務者は、本件コピー文書を作成し提出した件及び入国管理局への事実確認等を拒否した件に関し、債権者柴に対し、平成一一年七月一二日、同日から一週間の自宅待機命令を発したが、債権者柴はこれに従わず出社を続けた、この事実は就業規則四〇条一一項に該当する旨主張する。

債権者柴が、平成一一年七月一二日に発せられた右自宅待機命令に反して出社を続けたことは、当事者間に争いがない。これが業務命令に違反する行為であることは明らかであるが、このように債権者柴が出社を続けたことが業務運営の妨害に当たることを認めるに足りる疎明はなく、また、業務運営に協力しない行為に当たることを認めるに足りる疎明もない。よって、債権者柴が自宅待機命令を無視したことが就業規則四〇条一一項(「会社に対し偽りの行為があったとき」)に該当する旨の債務者の主張は理由がない。

4  協定を無視した言動について(懲戒解雇事由)

債務者は、債権者柴は、平成一一年三月二日付け協定書の内容に反し、社内で横柄な態度を取り、礼節を欠く不穏当な発言を行った、この事実は就業規則五四条一〇項に該当する旨主張する。

疎明資料(甲二五)によれば、平成一一年三月二日、本件労働組合と債務者とは、東京地方労働委員会あっせん員の立会いの下、債権者柴に関し協定を締結したが、同協定には、「柴は、不穏当な発言等について会社に謝罪し、今後、このような行為を繰り返さないよう留意する。」との事項が定められていることが一応認められる。しかし、債権者柴がこの協定事項に反して、債務者の社内で横柄な態度を取り、あるいは、礼節を欠く不穏当な発言を行ったことを認めるに足りる疎明はない。

よって、債権者柴が右協定事項に反する行為を行ったとする債務者の右主張は理由がない。

四  小括(本件各解雇の有効性)

1  債権者笹倉について

債権者笹倉に対する本件解雇の各事由に関する債務者の主張はいずれも理由がなく、したがって、右解雇は無効である。

なお、債権者笹倉に関し、東京事業所への異動及び自宅待機に関する各業務命令についての違反(前記二の2。普通解雇事由)において、債権者笹倉は、債務者の行った二つの業務命令に反する行為をしていることが一応認められるが、これらの行為を総合考慮しても、普通解雇として解雇が相当であるとまではいえない。

2  債権者柴について

債権者柴に対する本件解雇の各事由のうち、本件コピー文書の作成及び提出の点については、債務者の主張は理由があり、その余の点については債務者の主張は理由がない。

そこで、本件コピー文書の作成及び提出の点(懲戒解雇事由)につき検討するに、本件コピー文書の提出後四か月ほど経過するまで債務者は本件コピー文書の問題点に気付かなかったことは当事者間に争いがなく、疎明資料(甲二六、乙一)によれば、債権者柴を雇用している債務者にとって重要であると考えられる在留期限については、本件コピー文書によって表示されていることが一応認められ、これらの事実及び審尋の全趣旨によれば、債権者柴のこの行為によって債務者の業務運営や労務管理に具体的な支障が生じたことはなかったものと一応認められる。そして、本件コピー文書の作成及び提出のみがここでの判断対象であることにもかんがみると、債権者柴の右行為をもって、労働者に与える結果が重大である懲戒解雇処分とするには、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上重きに失するものというべきである。

よって、債権者柴に対する本件解雇(懲戒解雇)は懲戒権の濫用に当たるというべきであり、結局、右解雇は無効であるというほかない。

なお、債権者柴に関し、本件コピー文書の提出に関する事実確認の拒否及び一週間の自宅待機命令の無視(前記三の2及び3。いずれも普通解雇事由)において、債権者柴が債務者の業務命令に反する行為をしていることが一応認められるが、これらの行為を総合考慮しても、普通解雇として解雇が相当であるとまではいえない。

3  以上のとおりであって、債権者らの申立てに係る被保全権利はいずれも認められる。

五  保全の必要性について

1  債権者笹倉について

証拠(甲三七の二)によれば、債権者笹倉には、同居者として、夫並びに専門学校生及び高校生の二人の子がいること、夫の収入として月額手取り三一万八〇〇〇円があること、所帯の生活費月額として五三万七〇〇〇円程度の支出が必要であることが一応認められる。以上の事実その他諸般の事情を考慮すれば、本件においては、毎月二三万円の限度で仮払いの必要性を認めることができるが、その期間としては、生活の状況等が時間の経過により変化を免れないことからして、平成一三年四月までとするのが相当である。なお、本件全疎明資料に照らしても、現時点において、平成一二年四月以前の賃金について仮払いを命ずる必要性は認められない。

2  債権者柴について

証拠(甲三七の三)によれば、債権者柴には同居の家族はなく、生活費月額として一四万七〇〇〇円程度の支出が必要であることが一応認められる。以上の事実その他諸般の事情を考慮すれば、本件においては、毎月一八万円の限度で仮払いの必要性を認めることができるが、その期間としては、生活の状況等が時間の経過により変化を免れないことからして、平成一三年四月までとするのが相当である。なお、本件全疎明資料に照らしても、現時点において、平成一二年四月以前の賃金について仮払いを命ずる必要性は認められない。

3  債権者らは債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの仮の確認も併せて申し立てているが、賃金の仮払いを認める以上、地位保全の仮の確認の必要性を認めることはできない。

六  以上のとおりであるから、担保を立てさせないで主文のとおり決定する。

(裁判官 吉崎佳弥)

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