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東京地方裁判所 平成11年(レ)443号 判決 2000年4月26日

控訴人(原告) エヌ・ティ・ティ移動通信網株式会社

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 永石一郎

同 土肥將人

同 渡邉敦子

同 中村知己

被控訴人(被告) Y

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴人の当審における予備的請求を棄却する。

三  当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  主位的請求

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、11万1,869円及び別表<省略>の各料金に対する各支払期日の翌日から完済の日の前日まで年14.5パーセントの割合による金員を支払え。

二  当審において追加された予備的請求

被控訴人は、控訴人に対し、11万1,869円及びこれに対する平成12年2月7日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、控訴人が被控訴人に対し、主位的に、控訴人と被控訴人との間で携帯電話契約が締結されたと主張し、右契約に基づいて平成10年8月分から同年11月分までの未払料金合計11万1,869円及び遅延損害金の支払を請求し、当審において予備的に、被控訴人が国民健康保険被保険者証の管理義務を怠った過失により、何者かによって被控訴人の身分証明書としての機能を利用されて右携帯電話契約が締結され、控訴人が携帯電話サービスを提供した結果、右料金相当額の債権回収が困難な状況になったと主張して、民法709条に基づいて未払料金元本相当額の損害賠償及び遅延損害金の支払を追加して請求する事案である。

一  前提事実

1  平成10年7月16日、被控訴人名義で、左記内容の携帯電話契約(以下「本件契約」という。)が控訴人との間で締結された。

① 携帯電話番号 <省略>

② 遅延損害金 年14.5パーセント

③ 支払期日 当月末日(ただし、末日が土曜日、日曜日及び祝日に当たる場合は翌営業日を支払期日とする。)

右契約締結に際し、控訴人に対して、被控訴人を被保険者とする国民健康保険被保険者証(以下「被保険者証」という。)と、ガス料金等領収証が併せて提示されるとともに、料金支払方法について預金口座からの振替が選択され、右料金支払口座として被控訴人名義の口座(富士銀行池袋西口支店 普通預金口座 口座番号<省略>が指定された(<証拠省略>)。

2  控訴人は、被控訴人に対し、同月18日、本件契約の内容確認のために「お知らせ」を発送し、その後、数回料金を請求したが支払われなかったので、同年10月16日に「自動車・携帯電話契約解除予告兼解除通知書」を、同年11月16日に「法的措置予告通知書」を送付するなどして請求し、被控訴人はこれらをいずれも受け取ったが、右料金は支払われなかった(<証拠省略>)。

3  被控訴人は、同月24日、控訴人に対し、本件契約をした覚えがない旨連絡し、同月25日、契約無効届出書を提出した(甲15、16)。

二  争点

1  本件契約が被控訴人自身又は使者によって締結されたか。

2  本件契約が被控訴人の代理人によって締結されたか。

3  本件契約が無権代理行為であるとして、被控訴人が右行為を追認したか。

4  被控訴人に被保険者証の管理義務を怠った過失が認められるか。

第三当裁判所の判断

一  争点1について

控訴人は、本件契約締結の際、被控訴人名義の被保険者証及びガス料金等領収証が提示されたことから、被控訴人自身又は使者によって本件契約が締結されたと主張する。

しかし、<証拠省略>によれば、本件契約締結の際に提示された被保険者証は、被控訴人が本件契約前に紛失したものであって、被控訴人の申請により再交付されたものではない上、ガス料金等領収証についても、被控訴人がその支払を行って交付を受けたものと認めるに足りる証拠はない。さらに、前掲各証拠によれば、本件契約の料金支払口座は被控訴人が開設したものではなく、被控訴人はこれを一度も使用したことはないこと、本件契約申込書(甲1)に記載された被控訴人の住所、電話番号等が真実の被控訴人のものと異なることなどが認められる上、被控訴人は、免許証を普段から携帯しており、被控訴人が現在所有している携帯電話を取得する際には右免許証を使用しているにもかかわらず、本件契約に際してあえて被保険者証及びガス料金等領収証を使用しなければならない理由も見い出し難いし、被控訴人は既に携帯電話を所有しているのにこれを使用していないが、それにもかかわらず被控訴人が更に携帯電話を所有すべく本件契約を締結するような事情もうかがわれないなどの事情を考えあわせれば、本件契約が被控訴人自身又は使者によって締結されたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。よって、控訴人の右主張は理由がない。

二  争点2について

控訴人は、本件契約が被控訴人の代理人によって締結されたと主張するが、代理行為により本人に法律行為の効果が帰属するためには、本人から代理権を授与された代理人が当該法律行為をすることが必要であるところ、本件において何ら右代理権授与の事実を認めるに足りる証拠がないから、本件契約が被控訴人の代理人により締結されたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。よって、控訴人の右主張は理由がない。

三  争点3について

控訴人は、被控訴人に「お知らせ」が送付され、被控訴人が本件契約の存在を知ってから、控訴人に本件契約をした覚えがない旨連絡するまでの間、4か月以上にもわたって控訴人から再三料金を請求されているにもかかわらず、控訴人に対し、何ら意思表示をしなかったことから、被控訴人が本件契約の無権代理行為を黙示的に追認したと主張する。

追認の意思表示が黙示的に認められるには、無権代理行為について代理権を授与したものと同様に扱うという本人の意思を認めるに足りる事情が必要となるところ、<証拠省略>によれば、被控訴人には、平成10年8月ころから控訴人以外の携帯電話会社4社、信販会社等からも料金の請求が相次ぐようになったが、いずれの会社にも契約をした覚えがない旨連絡し、請求に応じていないこと、被控訴人にも最初の料金請求があったころから頻繁に連絡していたが、連絡が付かなかったことなどが認められるから、右諸事情にかんがみれば、本件契約の無権代理行為について代理権を授与したものと同様に扱うという被控訴人の意思を認めるに足りる事情は認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。よって、控訴人の右主張は理由がない。

四  争点4について

控訴人は、被控訴人が被保険者証の管理義務を怠ったことから、これが控訴人の身分証明に利用されて本件契約が締結された結果、料金相当額の損害を被ったと主張するが、被保険者証は、本来、被保険者が健康保険を利用するために使用されるにすぎず、紛失又は盗難によってそれ自体が直接に控訴人に対して財産上の損害を与える危険性を有する性質のものではないから、被保険者に対し、他人によって被保険者の身分証明証として利用されることまで想定して紛失あるいは盗難に遭わないように管理する義務があるとまで認めることはできない。そうすると、被控訴人には控訴人に対する関係で被保険者証を管理すべき義務はないから、控訴人の右主張はその前提を欠き、理由がない。

五  以上により、控訴人の主位的請求は理由がないから、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、当審において追加された予備的請求も理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 都築弘 裁判官 土田昭彦 伊藤清隆)

<以下省略>

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