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東京地方裁判所 平成11年(ワ)10320号 判決

原告 レスタービル保有株式会社

右代表者代表取締役 北澤豪

右訴訟代理人弁護士 辰野守彦

同 八代英輝

同 小高賢

同 武澤朋子

被告 株式会社京たこ

右代表者代表取締役 長谷川浩

右訴訟代理人弁護士 中尾正信

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録二記載の建物を収去して同目録一記載の土地を明け渡せ。

二  被告は、原告に対し、平成一一年三月二五日から右明渡し済みまで一か月一八九万円の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

主文同旨

第二事案の概要

一  本件は、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)の所有者であり賃貸人である原告が、本件土地の賃借人である被告に対して、原告と被告との間の賃貸借契約が一時使用の目的であって借地借家法の適用がなく、原告被告間の賃貸借契約は、原告の被告に対する契約終了の予告通知によって平成一一年三月二四日をもって終了したとして別紙物件目録二記載の建物(原告主張によれば構築物であるが、登記可能な建物と認定されているので、以下「本件建物」という。)を収去して本件土地の明渡しを求めるとともに、約定に基づいて賃貸借契約終了から右明渡しまでの間の賃料の二倍相当額の損害金の支払を求める事案である。

二  前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠と弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

1  原告は、本件土地を所有する株式会社であり、被告は、平成五年五月に、たこ焼店の経営、その経営に関するフランチャイズチェーン店の加盟募集等を目的として資本金三〇〇〇万円(平成九年に一億五〇〇〇万円にまで増加された。)で設立された株式会社である。

2  原告は、平成六年三月二五日、被告に対し、本件土地を次の約定のある書面を交わして貸し渡した(甲第二号証。以下この契約書を「本件賃貸借契約書」といい、この契約を「本件賃貸借契約」という。)。なお、賃料は、平成七年八月分から月額九〇万円及び消費税に減額された。

賃貸借期間 平成六年三月二五日から同年六月二四日までの三か月

更新 期間満了の一か月前までに、相手方に更新拒絶の通知をしないときは、更に一か月間更新される。

賃料 月額一一〇万円及び消費税

使用目的 被告は本件土地を撤去、移動が可能なたこ焼店の目的のみに使用するものとし、その他の目的に使用してはならない。

明渡遅延の損害賠償 被告が契約終了と同時に本件土地を明け渡さないときには、被告は契約終了の翌日から明渡しに至るまでの賃料の倍額の損害金及び諸費用相当額を原告に支払う。

3  被告は、平成六年四月二日までに、本件土地上にたこ焼店の店舗として本件建物を建て、本件建物に給排水工事等を施した上営業許可を受けるなどして、同日からたこ焼店の営業を開始し(乙第二号証の一ないし二四、第三号証の一ないし三、第四号証、第一〇号証、第一二号証の四ないし八、第一三号証)たが、同年四月一日渋谷区建築部建築課による本件建物の現地調査を受け、建築基準法二条一号に規定する建築物に該当するとの認定を受け(乙第一一号証の一ないし三)、平成一〇年七月二八日、平成六年三月二二日新築を登記原因として、本件建物につき建物としての所有権保存登記を経由した。

4  原告は、平成一一年二月一日、被告に対し、本件賃貸借契約が平成一一年一月二九日付書面到達の日から一か月の経過をもって終了する旨を通知した。

5  平成一一年七月一六日、本件土地を含む原告の所有の土地について、競売開始決定がされた(甲第一一号証)。

三  争点

本件賃貸借契約は一時使用のためであるか。

四  争点に関する当事者双方の主張

1  原告の主張

(一) 本件賃貸借契約が一時使用目的のものであり、被告は、移動が可能なたこ焼店の目的にのみ本件土地を利用しうることは、本件賃貸借契約書上も明記されていたところである。

(二) 本件構築物(本件建物のことであるが、原告は構築物と主張するので、以下の原告の主張の項においては「本件構築物」と表示する。)は、永続的な建物とはいえない。

(1) 本件構築物は、一部を地面に固定しているとはいえ、物理的に容易に撤去、移設可能な構造であり、いわば大型の屋台にほかならない。

(2) 本件構築物の設置コストは、被告の主張によってさえも全部で七〇〇万円であり、一坪の地価の二分の一にすぎない。このような建物が一坪一三〇〇万円を超える約一三坪の土地に永続的に設置されるものとはいえない。

(3) 本件構築物は、全体の土地から見て道路との接道部分にあり、かつその余の部分は駐車場として使用されているのであるから、その構築物が永続的なものなら、他の土地の接道部分を狭くし、全体の価値を大きく減殺する。

(三) 本件土地には、平成六年の時点で、既に債権額合計一七〇億円の三件の抵当権が設定されており、抵当権者に対抗できるのはたかだか短期賃貸借の範囲の賃貸借であるが、期間の定めのない建物所有目的の賃貸借はそもそも抵当権者に一切対抗できないとするのが判例である。本件賃貸借契約は、物件売却までの典型的な一時利用関係である。

(四) 都心の土地における長期間賃貸の新規設定においては、高額の保証金等を要することが経験則であるが、本件賃貸借契約の保証金を三か月分としたことは本件賃貸借契約の当初期間と整合し、長期間の契約でないことを示している。賃料も、建物所有目的の長期賃貸よりも短期のイベント目的使用等の一時土地使用の方が比較的高額な賃料の授受がされているのが実態であり、本件はその水準で定められた賃料である。

(五) 原告は、本件土地をいわゆるバブル経済絶頂期に現在の実勢価格をはるかに上回る借入により購入したため、これを可能な限り有利な条件で売却する方向で検討しており、被告に対してこの方針を告知し、そのため一時使用契約としている旨をも伝えた。

2  被告の主張

(一) 本件店舗(本件建物のことであるが、以下の被告の主張の項においては「本件店舗」という。)は、その外観、内外部の構造、付属設備、使用方法等からして永続的な建物である。

(1) 本件店舗は、平成六年四月二日に開店した被告の「京たこ渋谷公園通り店」であって、被告の主力直営店舗の一つである。

(2) 本件店舗は、基礎を有し本件土地部分に定着された軽量鉄骨造の建物である。

(3) 本件店舗の前面の土台、柵に囲まれたテント内の来客用スペース等の部分の全体にコンクリートの基礎が打たれ、本件店舗の軽量鉄骨柱がその基礎に固定されて定着している。

本件店舗の天井四角の柱は堅固に固定されており、床がコンクリートの基礎で固められ、とりわけ永続的な店舗にしか施設されないグリストラップが基礎の内部に設置されている。

(二) 本件店舗は、本件賃貸借契約締結のころから存在し、本件賃貸借契約はそれを前提とした契約であった。

(1) 本件賃貸借契約が締結された平成六年三月二五日以前に、原告被告間で場所、範囲、地代、保証金額等の賃貸借の基本的な条件の合意ができており、被告は、同年四月二日に本件店舗を開店するスケジュールで、原告の了解のもと、同年三月中旬頃から、本件店舗の建築、付属設備の設置、営業許可申請、広告宣伝等の準備に入った。

(2) 被告は、右準備段階から仮設の臨時的施設ではなく、基礎を備え、永続的な給排水、電気、ガス設備を施した建物を想定し、これを原告に伝えていた。特に、本件土地は、防火地域にあるため不燃物の仮設の構築物による店舗は消防署の許可が得られず、また永続的な給排水等の設備のない店舗は保健所の許可が得られない見通しであったため、本件店舗は永続的な設備を備えた耐火構造の建物でしかあり得ず、原告もそのことを認識し容認していた。

(三) 本件賃貸借契約書の「一時使用」等の文言は形式的なものにすぎず、本件賃貸借契約は実質的に当初から期間の定めのない契約であった。

(1) 原告は、本件店舗が永続的な建物であることを容認し、これを前提として本件賃貸借契約を締結しているのであるから、本件賃貸借契約書の表題の「一時使用」、第一条の「一時賃貸」、第二条の「移動が可能な」という文言は形式的なものである。また、本件契約書第三条、第四条の賃貸借期間が当初三か月、その後一か月ごとの更新とされている文言も形式的である。

(2) 被告は、本件賃貸借契約の締結前、当時の常務取締役長坂雅裕の名義で所轄の渋谷区保健所に本件店舗の営業許可申請をし、本件賃貸借契約直後の平成六年四月一日、期間を三か年とする営業許可を得た。

(3) 本件賃貸借契約が締結された際、原告及び原告の親会社である北沢商事株式会社(以下「北沢商事」という。)は、本件賃貸借契約書の期限が形式的である旨を認める発言をした。

(四) 本件店舗には高額な建築費等が支出され、本件賃貸借契約では、高額な地代、保証金が授受されている。

(1) 本件店舗の建築及び設備の設置には、総額約七〇〇万円もの高額な費用が投じられている。

(2) 本件賃貸借契約では、三三〇万円という高額な保証金が授受されているほか、原告の系列会社で本件土地を管理している四谷ビル管理組合株式会社に約六二万円のまとまった金額の仲介料が支払われている。

(3) 被告は、原告に対し、本件賃貸借契約の地代として、本件契約当時、消費税別途で月額一一〇万円を支払っていた。

(五) 原告は一時使用契約の前提となるような短期間後における本件土地の具体的な利用計画を被告に提示したことはなかった。

第三争点に対する判断

一  証拠(甲第一号証の一ないし三、第二ないし第四号証、第五号証の一、二、第一一ないし第一四号証、乙第二号証の一ないし二四、第五号証の一ないし四、第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証、第一一号証の一ないし三、第一二号証の一ないし八、第一三、第一四号証並びに証人高橋正好、同吉岡季作及び同長坂雅裕の証言。ただし、乙第一三、第一四号証及び証人吉岡季作及び同長坂雅裕の証言のうち後記採用しない部分は除く。)と弁論の全趣旨に前記前提事実を総合すれば、以下の事実が認められ、乙第一三、第一四号証及び証人吉岡季作及び同長坂雅裕の証言のうち、この認定に反する部分は採用できない。

1  株式会社タイムシェアインターナショナル(以下「タイムシェア」という。)と株式会社第一ベンチャー(以下「第一ベンチャー」という。)は、土地転売のプロジェクトを組んでいたところ、昭和六二年六月二九日、右の二社は、株式会社住宅信販から本件土地を含む東京都渋谷区神南一丁目三四番七、八及び九の土地(以下「本件土地等」という。)を総額一二六億三四四〇万円(一坪あたり一億三〇〇〇万円)の代金で購入した。本件土地は、東京都渋谷区の都心の商業地域にあり、非常に地価の高い区域に位置している。

タイムシェアと第一ベンチャーは、タイムシェアの完全子会社である原告に右の売買契約の買主の地位を承継させることに合意していたが、その後、本件土地等の転売の計画が実現せず、右の土地転売のプロジェクトは頓挫した。

そして、昭和六三年七月三〇日、原告が本件土地の所有権を取得し、平成元年九月二一日には、原告の金融機関に対する合計一七〇億円にのぼる債務を担保するために本件土地等に一番抵当権から三番抵当権までが設定された。

2  その後、本件土地等をめぐって賃借権の存否、境界紛争など様々な紛争が発生し、いずれの紛争も長期化し、その間にいわゆるバブル経済が崩壊したため、タイムシェアは、本件土地等の事業化の機会をも失い、それを諦めて、本件土地等の売却先を探すこととした。

しかし、本件土地等の売却計画も、境界紛争等を原因として思うように進まなかったため、タイムシェアは、売却先が見つかるまでの間に何らかの収益を上げる必要に迫られ、本件土地等を使って平成五年から関連会社である四谷ビル管理株式会社(以下「四谷ビル管理」という。)による駐車場経営を始めた。

3  平成六年一月頃、被告の担当者吉岡秀作から四谷ビル管理の担当者に対し、本件土地等の一部を屋台店舗として使用するために、一坪一〇万円くらいの条件で借りたいとの申入れがされ、この申入れはタイムシェアの親会社である北沢商事に伝えられた。

北沢商事においてその申入れについて検討した結果、被告に本件土地等の一部を一時使用により賃貸すれば駐車場経営よりも若干有利な収益をあげることができるとの判断に至ったため、被告に対して本件土地等の一部を賃貸する方向で話しが進められた。その賃貸については、本件土地等の抵当権者からも一時使用とする条件の下で承認が得られた。

そして、同年二月下旬から三月上旬にかけて、被告に対して、本件賃貸借契約書と同様の内容の賃貸借契約書の案が渡された。

4  原告と被告は、同年三月二五日、本件賃貸借契約書を交わして本件賃貸借契約を締結した。原告側では、取締役営業部長である高橋正好らが立ち会い、被告側では吉岡、代表取締役社長であった草岡富士夫らが立ち会って契約に関与したが、高橋には宅地建物取引主任者の資格があり、草岡、吉岡は不動産業の経験者であった。

本件賃貸借契約書には、以下の記載がある。

すなわち、表題は、「神南1丁目 土地の一時使用賃貸借契約書」とされ、前文には、「土地の一時使用賃貸借契約を締結した。」と明記され、第2条(使用目的)には「本物件を撤去、移動が可能なたこ焼店の目的にのみ使用するものとし、その他の目的には使用してはならない。」との、第3条(契約期間)には「平成6年3月25日から、平成6年6月24日までの3ヶ月間」との、第4条(更新)には「期間満了の1ヶ月前までに、各々相手方に更新拒絶の通知をしないときは、更に1ヶ月間更新されるものとし、この規定は以後の更新にも同様に適用するものとする。」との各条項が置かれた。

(なお、賃料は、平成七年七月一九日、後記の覚書により、二〇万六〇〇〇円(消費税含む。)が減額され、一か月九二万七〇〇〇円とされた。)

被告は、原告に対し、本件賃貸借契約に際して、権利金を授受しておらず、保証金として三三〇万円を交付したが、本件賃貸借契約が解約された場合には、本件賃貸借契約に基づく被告の一切の債務を差し引いた上で、原告から被告に対して返還する旨の合意がされた。しかし、保証金償却の合意はなかった。

また、本件賃貸借契約締結の席上において、北沢商事の峰が、被告代表者草岡に対し、「不良債権の処理のために転売ということがあります。本件土地を売却する際には出ていくようにお願いすることになります。」と説明したのに対し、草岡は「借りているものだから、出るように言われればいつでも出ますよ。」と答えた。被告は、登記簿を見て本件土地等に抵当権が設定されていることを認識していた。

5  本件土地は防火地域に位置するため、その上に建築物を建てようとしても、耐火構造の建築物以外には建築許可を受けることはできない。また、たこ焼店の営業許可の関係では、排水設備として基礎を作り、桝排水できない場合、保健所長から営業許可を受けることは困難である。

被告は、本件賃貸借契約締結の約一週間前から本件土地上に本件建物の基礎工事に着手し、平成六年三月二五日の契約締結日を挾んで、一、二週間程度の短期間内に、本件建物の建築、営業設備の設置、給排水、電気、ガス工事を完成させ、常務取締役であった長坂雅裕の名で保健所長に対し食品衛生法に基づく営業許可を申請して同許可を受け、広告宣伝の準備を完了して、同年四月二日にたこ焼店の営業を開始した。

本件建物は、床面積一二・五七平方メートルの平家建の小さな店舗であり、軽量鉄骨造の耐火構造で、本件土地に打設されたコンクリート基礎上に存在し、その軽量鉄骨柱がその基礎に固定されて定着しているが、床面の大部分がコンクリート基礎むき出しで、壁も板材が軽量鉄骨柱に挟み込まれただけの簡易建物で、およそ居住に適する構造となっていない一方で、床面には排水中の油分を除去するためにグリストラップという桝排水の装置が施設されている。

なお、被告は、繁忙のため本件建物の建築許可申請を失念していたが、本件建物は、平成六年四月一日、渋谷区役所建築部建築課による現地調査を受け、同課から、建築基準法二条一号に規定する建築物に該当し、二条九号の三による準耐火建築物であるとの認定を受けた。

6  賃料等に関し原告被告間で交わされた平成七年七月一九日付覚書(甲第三号証)には、「土地の一時使用賃貸借契約書に関し」との文言があり、四谷ビル管理作成に係る平成六年三月二四日付メモ(乙第五号証の一)には、「渋谷区神南1丁目土地の一時使用賃貸借契約の件」との表題がつけられている。

7  原告は、本件賃貸借契約当初以降、本件土地の抵当権者らからその任意売却の指示を受け、売却先を探していたが、価格と債務額との折合いが付かないでいたところ、抵当権者である株式会社共同債権買取機構から不良債権の処理のために本件土地等を早急に処分するにようにとの要請がされるようになった。そこで、平成一〇年六月二二日、高橋らは被告東京本部を訪れ、草岡に対して、金融機関の不良債権の処理のため本件土地の売却を進めざるを得ないことと約束どおり退去を求めることを伝えた。

被告は、その後約一か月を経た同年七月二八日に本件建物の保存登記を経由した。

8  原告は、平成七、八年頃、ドネルタイムという名の会社との間で、本件土地等の一部について、一時使用目的の賃貸借契約を締結し、ドネルタイムは、本件土地等の一部において、ドネルケバブを経営している。

原告は、ドネルタイムに対して、不良債権の処理がされるときは本件土地等から退去することを求め、ドネルタイムからその承諾を受けている。

9  本件建物において経営されているたこ焼店(渋谷公園通り店)の売上げは、平成九年には六一〇〇万円を超え、平成一〇年には五五〇〇万円を超えていた。

二  争点(本件賃貸借契約は一時使用のためであるか)について

1  土地の賃貸借が一時使用の賃貸借に該当するというためには、その対象とされた土地の利用目的、地上建物の種類、設備、構造、賃貸期間等諸般の事情を考慮し、賃貸借当事者間に、短期間に限り賃貸借を存続させる合意が成立したと認められる客観的合理的理由が存することを要する(最高裁判所昭和四五年七月二一日第三小法廷判決・民集二四巻七号一〇九一頁参照)。

そこで、前記一及び前記第二の二の認定事実の下で、本件賃貸借契約が一時使用のものであるかどうかを検討する。

2  地上店舗(本件建物)の建物性について

判断の前提として、まず、本件土地上の被告のたこ焼店舗(本件建物)が建物といえるかどうかを検討しておくと、前記認定事実によれば、この店舗は、全体的にコンクリートの基礎上に存在し、その軽量鉄骨柱がその基礎に固定されて定着しており、渋谷区によって建築基準法二条一号に規定する建築物に該当し、二条九号の三による準耐火建築物であると認定されていることが明らかである。

したがって、本件土地上の被告のたこ焼店舗(本件建物)は一応建物であることを肯定することができる。

3  本件賃貸借契約が一時使用のためのものかどうかについて

(一) 前記認定事実によれば、本件建物は、一、二週間で完成させられた小さな簡易建物でしかなく、居住には全く適さないもので、その撤去も容易であると推認できること、原告被告ともに株式会社であり、本件賃貸借契約締結に当たった双方の担当者は、不動産業の経験があるなどして不動産取引に通暁していたこと、本件賃貸借契約書には、本件土地の使用目的として「撤去、移動が可能なたこ焼店の目的にのみ」使用することが明記され、賃貸借契約の賃貸期間は三か月と記載され、更新に関する規定は存在するものの、更新後の賃貸借の期間は一か月にすぎず、更新料に関する定めは存在していないこと、本件賃貸借契約書を始めとする原告と被告の間でやり取りされた一連の書類において、本件賃貸借契約が一時使用のためであることが繰り返し明記されていること、被告もこれらの賃貸期間、更新に関する条件、賃貸借契約書の文言について十分に了解していたこと、元々、本件土地等には、合計一七〇億円にのぼる原告の債務を担保するため担保権が設定され、当初その売却が予定されていたものの、なかなか実現しなかったため、原告は売却までの間賃貸することによって多少なりとも収益をあげようとして本件賃貸借契約締結に至ったこと、被告は、本件賃貸借契約締結の際に、本件土地等に抵当権が設定されていることを認識し、原告から本件土地等が売却できた際には立ち退いてもらうことになる旨を伝えられてこれを了承しており、原告側の事情を知悉していたと推認されることが明らかにされている。

また、本件土地は地価の高価な都心部の商業地域に所在することから、一時使用でない通常の本件土地の賃貸借契約が締結されたとすれば、時価の半分をはるかに超えた評価を受ける借地権が発生するため、その対価として高額の権利金の授受がされるであろうことは経験則上明らかであり、殊に不動産取引の経験がある者にはこのことは顕著な事柄であるはずであるのに、本件証拠を精査しても、原告被告間でそのような権利金の授受がされた事実が認められないのはもちろん、その授受の交渉がされた形跡すら全く窺うことができない。

以上の本件建物の構造及び性質、本件賃貸借契約に至る経緯、本件土地等の利用の目的、賃貸借契約期間など当事者間で交わされた契約書面の内容、賃貸借に当たって授受された金銭の種類及び額などを総合して考慮すると、原告と被告との間に本件土地の賃貸借契約を短期間に限り存続させる合意が成立したと認めるに足りる客観的合理的な理由があるということができ、本件賃貸借契約は、一時使用の土地賃貸借契約というべきである。

(二) もっとも、吉岡季作及び長坂雅裕は、証人尋問及び乙第一三、第一四号証において、甲第二号証の本件賃貸借契約書等の一連の書類に記された「一時使用」の文言は形式的なものでしかなく、本件賃貸借契約は一時使用ではなく、通常の賃貸借契約であったと供述する。

しかし、不動産業経験者が幹部に複数在籍していた被告においては、事前に原告から契約書の案が交付されていたのであるから、通常の賃貸借契約を予定し、本件土地上においてある程度継続的な期間にわたってたこ焼店の経営を予定していたというのであれば、本件のような契約書等一連の書類の文言に対して、抵抗を示したり、異議を申し述べたりするのが通常と思われるのに、本件全証拠によってもこれらの事実を見出すことができない一方で、証人吉岡季作及び同長坂雅裕は、契約書等一連の書類の文言について、原告から形式的な文言にすぎない、便宜的な条項にすぎないなどの説明を受けて納得したとの不自然な証言をもしており、いずれにしても、両人の右の供述は採用することができない。

(三) なお、確かに、本件建物は、耐火構造の建物であり、排水設備としてグリストラップが設置されていることが認められる。

しかし、本件建物がこれらの設備を具備しているのは、短期間であれあくまでも被告がたこ焼店を営業していく上で必要不可欠であるからにすぎないことが明らかであり、被告が特に長期の賃貸借を予定していたがために、右のような設備を備えるに至ったと認めるには足りず、本件証拠によっても、本件建物がそれ以上の設備を備えているとは認められない。

したがって、本件建物の構造のうち右の点を取り上げて、本件賃貸借契約の一時性を否定することはできない。

(四) さらに、本件賃貸借契約においては、被告から原告に対して賃料の三か月分の保証金が交付されていることが明らかにされている。

しかし、一方で、本件賃貸借契約に基づく被告の一切の債務を差し引いた上で、原告から被告に対して返還する旨の合意がなされていることが認められるし、そもそも、被告が主張するように本件において永続的な賃貸借契約が予定されていたとするならば、保証金として賃料の三か月分の金員のみが交付されているにすぎないことは一般的に低額であるといえる上に、賃借権の設定対価として権利金の授受がないのも不自然というべきである。

(五) また、被告は、本件建物に七〇〇万円近くの設備投資をしたことを本件賃貸借契約が一時使用のものでない理由として主張する。

しかし、本件のたこ焼き店舗は、一か月に五〇〇万円近く、一年間で五五〇〇万円から六〇〇〇万円程度の売上を記録する店舗であることが認められ、必ずしも永続的にたこ焼店を経営しなくとも短期間に十分に投資資金を回収することが可能といえる。そして、都心部の商業地域における借地権割合が土地の時価の七、八割に達することは公知であるから、記録中明らかな平成一一年度における本件土地等の価格合計一〇億六〇二七万〇二六〇円(九億四二八六万九一二〇円と八六七三万九四〇〇円と三〇六六万一七四〇円の合計)をその面積合計二六〇・七三平方メートルで除した一平方メートル当たり単価四〇六万六五四四円の地価に借地割合として控え目に〇・六を乗じた借地権単価二四三万九九二六円に本件土地の面積四三・〇〇平方メートルを乗じると本件土地の借地権価格は一億〇四九一万六八一八円となるが、それだけの財産権を取得する対価として七〇〇万円の投資はあまりに安価であり、これをもって本件賃貸借契約が一時使用のためであることを否定することは無理であるというほかはない。

三  以上によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民訴法六一条を、仮執行の宣言について同法二五九条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 成田喜達 裁判官 高宮健二 裁判官 阿閉正則)

物件目録<省略>

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