東京地方裁判所 平成11年(ワ)10460号 判決 2001年5月29日
原告(反訴被告)
鈴木弥生
被告
宍戸裕悦
被告(反訴原告)
協和エンタープライズ株式会社
主文
一 被告らは、各自、原告に対し、二〇八万二九九六円及びこれに対する平成六年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴被告は、反訴原告に対し、四八万五三七四円及びこれに対する平成六年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告及び反訴原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用はこれを三分し、その一を原告・反訴被告の負担とし、その余を被告(反訴原告)らの負担とする。
五 この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。
※当事者の略称
以下、原告・反訴被告鈴木弥生を「原告」と、被告宍戸裕悦を「被告宍戸」と、被告・反訴原告協和エンタープライズ株式会社を「被告会社」と略称する。
事実及び理由
第一請求
一 本訴請求
被告らは、各自、原告に対し、三九四万六五〇三円及びこれに対する本件事故発生の日である平成六年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴請求
反訴被告は、反訴原告に対し、二三三万六八七一円及びこれに対する本件事故発生の日である平成六年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)において、原告が運転し所有する普通乗用自動車と、被告宍戸が運転し被告会社が所有する大型貨物自動車とが出会い頭に衝突した交通事故に関し、原告が被告らに対し、民法七〇九条、七一五条、自賠法三条に基づき人損及び物損の賠償を求める本訴を提起し、他方、被告会社が原告に対し、民法七〇九条に基づき物損の賠償を求める反訴を提起した事案である。
一 前提となる事実(証拠を掲げた事実以外は、争いがない。)
(一) 本件事故の発生
(1) 日時 平成六年一二月一三日午前二時三〇分ころ
(2) 場所 東京都江東区潮見一―二八先路上
(3) 原告車両 原告が運転し、所有する普通乗用自動車(原告所有の事実につき、甲一一、弁論の全趣旨)
(4) 被告車両 被告会社の従業員である被告宍戸が運転し、被告会社が所有する大型貨物自動車
(二) 本件事故の態様(甲二)
本件事故現場は、幅員約二一・一mで片側三車線の東西道路と、幅員約九mの南北道路とが交わる交差点(本件交差点)である。原告は、原告車両を運転して南北道路を北進し、南側から本件交差点内に進入した。一方、被告宍戸は、大型一〇トン車である被告車両を運転して東西道路を東進し、本件交差点停止線辺りで信号待ちをした後、本件交差点内に進入した。
原告車両と被告車両は、本件交差点のほぼ中央付近で、原告車両の前部が被告車両の側面に衝突する形で、出会い頭に衝突した。
(三) 原告の受傷及び入通院の経過(甲五の一、甲六の一、二、甲七の一)
原告は、本件事故により、頸椎捻挫、両膝打撲(ないし全身打撲)の傷害を負った。原告は、本件事故当日、鈴木外科病院に搬入され、平成六年一二月一五日に昭和大学附属豊洲病院に通院し、同月一六日から同月二四日まで九日間、同病院に入院した。原告は、同病院を退院後、平成七年五月一九日まで同病院に通院した。
二 争点
(一) 本件事故発生の責任(過失割合)
(1) 原告の主張
被告宍戸は、本件事故当時、交通閑散であることから、交差道路より本件交差点に進入してくる車両はないものと軽信し、左右方向の車両及び対面信号には全く注意を払わず、交差道路の歩行者用信号のみを見て、それが赤色に変わったことから本件交差点を通過しようとしたものである。
一方、原告は、本件交差点の停止線の手前一〇・三mで対面信号が黄色になったのを確認したが、直ちに急停止しても本件交差点内に停車することから、その危険を回避するため、本件交差点を通過しようとした。交差点直前で対面信号が黄色に変わり、交差点の手前で停止できないような場合には、交差点への進入が禁止されないから(道路交通法施行令二条一項参照)、原告については青色信号で進入したのとほぼ同視することができ、本件事故発生について原告に過失はない。
(2) 被告らの主張
被告宍戸は、本件交差点の停止線付近で赤色信号に従って信号待ちをしていたが、交差道路の歩行者用信号が赤色表示に変わったため、ブレーキを外し、クラッチを徐々につないでノロノロと進行を開始した。そして、本件交差点内に進入する手前で交差道路の車両用信号が赤色に変わったことを確認してアクセルを踏み、対面信号が青色となった後に本件交差点に進入したところ、右側から、酒気を帯び、赤色信号を無視して本件交差点に高速で進入してきた原告車両が、被告車両右側中央付近に衝突してきたものである。
以上のとおり、本件事故は、被告車両が青色信号で交差点に進入したのに対し、原告車両が赤色信号で交差点に進入したために発生したものであり、専ら原告の過失に基づくものである。
(二) 原告の損害額(原告の主張)
(1) 治療費 合計一三万九一二五円
ア 鈴木外科病院 通院一日 四万三六八〇円
イ 昭和大学附属豊洲病院 入院九日、通院一四日 九万三九三五円
ウ 枝川調剤薬局 一五一〇円
(2) 入院付添費 一万八〇〇〇円
六〇〇〇円/一日×三日=一万八〇〇〇円
この三日間は、首・腰の牽引治療が行われたため、ベット上に固定され、食事の介護、排泄、身の回りの世話を原告の母が行った。
(3) 通院交通費 四万四二八〇円
昭和大学附属豊洲病院まで往復二四六〇円として、合計一八日分(入退院二日通院一五日、文書受取り一日)に要した交通費である。
(4) 入院雑費 一万一七〇〇円
一三〇〇円/一日×九日=一万一七〇〇円
(5) 医師等への謝礼 一〇万〇〇〇〇円
昭和大学附属豊洲病院の医師及び看護婦にした謝礼である。
(6) 休業損害 二五万〇二八三円
二三四万二四〇〇円(年齢別給与表・一九歳女子年収)÷三六五日×三九日(休業日数)=二五万〇二八三円
(7) 入通院慰謝料 七三万一四六五円
原告が入院九日間、実通院一五日間を要する傷害を負ったことのほか、相手方が、赤信号無視による交差点進入であるのにこれを秘し、虚偽の指示説明をするなど、著しく不誠実であることを考慮し、七三万一四六五円の慰謝料を請求する。
(8) 文書料等の手続費用 一万五二四〇円
(9) 車両修理費用 一二五万二一四〇円
(10) 代車購入費 三〇万〇〇〇〇円
(11) 車両保管料及び廃車費用 七三万四二七〇円
原告は、被告車両の加入する任意保険会社(以下「被告保険会社」という。)が一方的に示談交渉を放置してしまったため、被告側と原告車両を修理するか否かの交渉すらできないまま、本件解決のための重要な物的証拠として原告車両を吉田自動車及び高橋京子方駐車場に保管し、中古車を代車として購入して使用しつつ、本件の解決を待っていたものであり、(一〇)、(一一)の金員の支払を請求する。
(12) 弁護士費用 三五万〇〇〇〇円
(13) 合計 三九四万六五〇三円
(三) 被告会社の損害額(被告会社の主張)
(1) 車両修理費用 一六〇万〇三一一円
(2) 休車損 五二万六五六〇円
被告会社は、被告車両の損傷の修理に一二日間を要し、この間、被告車両を営業に使用することができなかった。被告会社は、本件事故直前である平成六年九月一日から同年一一月三〇日までの九一日間に、被告車両を用いて三九九万三一一四円の営業利益を上げ、その一日当たりの平均利益額は四万三八八〇円となる。したがって、被告会社の本件事故による休車損は、次のとおり五二万六五六〇円となる。
四万三八八〇円×一二日=五二万六五六〇円
(3) 弁護士費用 二一万〇〇〇〇円
(4) 合計 二三三万六八七一円
第三争点に対する判断
一 本件事故発生の責任(過失割合)について
(一) 原告は、本件交差点停止線の手前一〇・三mで対面信号が黄色になったのを確認したが、直ちに急停止しても本件交差点内に停車することから、その危険を回避するため、本件交差点を通過しようとしたと主張する。原告は、捜査段階(甲三の二、三)から当裁判所での本人尋問に至るまで、一貫して、黄色信号で本件交差点に進入したと供述している。
(二) これに対し、被告らは、本件事故は、被告車両が青色信号で本件交差点に進入したのに対し、原告車両が赤色信号で本件交差点に進入したために発生したものであり、原告の過失に基づくものであると主張する。
この点に関し、被告宍戸は、乙五の陳述書において、「本件交差点手前の停止線付近に停車して信号待ちをしていたが、交差道路の歩行者用信号が赤色に変わったのを見てギアを入れ、クラッチを徐々に繋いで半クラッチ状態で待機した。その時には、徐々にトロトロと若干進み始めていた。そして、被告車両の先端が交差点手前約一〇mの横断歩道に掛かる辺り、すなわち停車位置から三、四mほど進んだ時、交差道路の車両用信号が赤色に変わったのを確認してクラッチを完全に繋ぎ、発進した。自分が交差点に入った時には、対面信号は当然に青色になっていると思った。」旨を供述しており、当裁判所での本人尋問においても、ほぼ同趣旨の供述をしている。なお、本件事故当日に作成された平成六年一二月一三日付けの警察官に対する供述調書(甲三の五)には、「対面信号が青色に変わったので発進した」旨の記載があるが、これは被告側の主張とも異なる内容である。
ところで、被告宍戸は、本件事故から二週間余りが経過した平成六年一二月二九日付けの警察官に対する供述調書(甲三の六)では、「交差道路の歩行者用信号が赤に変わったので、対面する信号を見ないで発進した。この事故の原因は、自分が赤信号なのに発進したことである。」と、事故当日にした前記供述を変更している。これは、被告宍戸が本人尋問において供述するように、「発進した時は対面信号は赤色であった」という限りにおいて、必ずしも被告側の主張に反するものではないが、この供述調書には、被告宍戸が交差道路の車両用信号が赤色に変わったのを確認して進行したとの事実は記載されておらず、交差道路の歩行者用信号が赤色に変わったことの確認しかしていない趣旨の供述内容と解される。
このような供述調書が作成された理由について、被告宍戸は、乙五及び当裁判所での本人尋問において、警察官から、「いつまでたってもこんなんじゃ帰れないよ。」と言われたり、三〇cmくらいの物差しで机をパンパン叩くなどの威圧的な取調べを受け、また、何度も警察の呼出しを受けると忙しい時に仕事ができなくなるから、やむを得ず供述調書に署名押印したと供述する。しかしながら、<1> 警察官が、被告宍戸において信号無視をしたとの偏見・予断を持って強引な取調べをしたというような事情は窺われない(かえって、事故時に飲酒をしていた原告の方が、信号無視を疑われて然るべき状況であったといえる。)、<2> 仮に、本件のような在宅の交通事件で警察官から執拗な追及を受けたとしても、本件事故当時三六歳の男性であった被告宍戸が事実と異なる内容の調書に簡単に署名をするとは考えにくい、<3> 当時の警察における取調べの状況について、被告らから特段の立証もない。そうすると、「被告宍戸が交差道路の車両用信号が赤色に変わったのを確認して交差点に進入した」との乙五及び本人尋問における被告宍戸の供述部分は、前記甲三の六の供述調書の内容に照らして採用し難い。
(三) また、甲三二、証人石井啓二郎の証言によれば、西濃エキスプレスに勤務する運転手であった石井は、本件事故当夜、原告の家族の経営するラーメン屋台で夜食をとった後、原告車両の五〇mほど後を追随して走行していたが、信号の表示が黄色から赤色に変わる直前に原告車両が本件交差点に進入し、本件事故が発生したのを目撃したと述べる。本件事故は夜間に発生したものであり、石井が供述した時点では、本件事故から五、六年が経過していることもあって、石井の供述には明確を欠く部分がないではないが、特にその証言の信用性に疑問を差し挟むべき理由は見いだし得ない。
(四) そのほか、甲二一、二五の一によれば、本訴提起前の事前交渉の段階において、被告保険会社の代理人は、原告三〇:被告宍戸七〇の過失割合に基づく示談案を提示したが、被告車両が青色信号で交差点に進入したと強く主張する被告会社の意向もあって、示談は不調に終わったことが認められる。
(五) 以上によれば、原告車両は、黄色信号で本件交差点に進入したものであり、被告車両との衝突時には、その対面信号の表示は赤色に変わっていたこと、一方、被告宍戸は、交差道路の歩行者用信号の表示が赤色に変わったのを見て発進し、本件交差点に進入したものであり、原告車両との衝突時には、その対面信号はいまだ赤色を表示していたことが認められる(ちなみに、本件事故当時における本件交差点の信号サイクルは明らかではないが、弁論の全趣旨によれば、原告側が平成一二年一二月一三日に計測したところでは、被告宍戸進行道路の交差道路の歩行者用信号の表示が赤色に変わった後、対面信号が青色を表示するまでには、八秒を要する。一方、乙四では、「全赤」の時間は、原告側が計測した三秒ではなく、四秒とされている。)。
そうすると、本件事故発生についての過失割合は、原告二〇:被告宍戸八〇と認めるのが相当である。なお、原告が本件事故前夜にビールを飲んでいたことは原告本人も認めるところであるが、その飲酒の程度は酒気帯び運転に当たるものとは認められないし、これが本件事故の発生に影響を与えたとの事実も窺われず、したがって、原告の飲酒の点は、本件の過失割合に影響を与えるものではない。
二 原告の損害額について
(一) 治療費 合計一三万九一二五円
原告の治療費は、鈴木外科病院が四万三六八〇円(甲五の二ないし四)、昭和大学附属豊洲病院が九万三九三五円(甲六の二、甲七の一ないし一二)、枝川調剤薬局が一五一〇円(甲八の一ないし三)であると認められる。なお、甲六の二によれば、原告は、平成六年一二月二九日から平成七年四月一一日までの間は通院していないことが認められるが、原告本人は、「用事で行けなかったり、お金がなかったから病院に行かなかったが、四月になって痛みがひどくなったのでまた通院を始めた」旨を供述しているところであって(ちなみに、本件においては保険会社から治療費が全く支払われていないことは、後記のとおりである。)、これをもって平成七年四月一一日以降の通院治療の必要性、相当性を否定することはできない。
(二) 入院付添費 一万八〇〇〇円
入院当初の痛みのひどかった三日間については、原告の母が付添看護をしたものであり(甲二九、原告本人)、入院付添費として一日当たり六〇〇〇円を相当と認める。
(三) 通院交通費 四万四二八〇円
入退院二日、通院一五日、文書受取り一日の合計一八日分の通院交通費として、一日当たり往復二四六〇円を相当と認める(弁論の全趣旨。鈴木外科病院への通院交通費は明らかではないが、昭和大学附属豊洲病院への通院交通費に準じて算定をする。)。
(四) 入院雑費 一万一七〇〇円
原告は、昭和大学附属豊洲病院に九日間入院したものであり(甲六の二)、この間の入院雑費として一日当たり一三〇〇円を相当と認める。
(五) 医師等への謝礼 五万〇〇〇〇円
前記のとおり、原告が本件事故により九日間の入院治療を受けたこと等の事情を考慮し、原告が支払った医師等への謝礼のうち五万円をもって、本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
(六) 休業損害 四万五〇〇〇円
甲一七、一九、二九、原告本人によれば、原告は、本件事故当時、家業のラーメン店の手伝いをして一日五〇〇〇円を受け取っていたことが認められる。原告の休業損害については、本件事故前の原告の実収入を基礎とすべきであり、本件において、統計上の平均収入を用いるべき理由はない(なお、原告は、上記以外にも、母から食費、家賃、衣類代等の支給を受けていたことが認められるが、これらに関して本件事故による減損が生じたものとは認め難い。)。そして、原告本人によれば、入院期間中の九日間については原告は上記五〇〇〇円を受け取っていなかったと認められるから、この九日分四万五〇〇〇円は本件事故による休業損害と認められる。これに対し、通院期間中に原告に減収があったか否かは明らかでなく、原告本人は「通院期間中は病院代として受け取っていた」と供述しているところでもあるから、通院期間については休業損害の発生を認めるに足りない。
(七) 入通院慰謝料 六五万〇〇〇〇円
前記のとおり、原告が入院九日間、実通院一五日間の治療を要する傷害を負ったことのほか、本件事故後の被告側の誠意を欠く対応、取り分け、被告会社が被告宍戸の過失の存在を強く争ったため、原告に対しては、現在に至るまで、治療費を含めて全く損害の填補がされていないこと、また、被告車両の修理に関しても、被告会社は、原告側の要求にもかかわらず、原告側に損傷箇所の確認をさせたり損傷箇所の写真を送付したりすることなく、一方的に修理を終えてしまったこと、その他本件に現れた諸般の事情を考慮し、入通院慰謝料として六五万円を相当と認める。
(八) 文書料等の手続費用 一万五二四〇円
甲九の一、二、甲一〇、弁論の全趣旨によれば、原告は、手続費用として、事故証明書代(二通)一二六〇円、昭和大学附属豊洲病院発行の診断書・レセプト代五一五〇円、刑事事件記録の取寄費用八八三〇円の合計一万五二四〇円を要したことが認められる。
(九) 車両時価相当額 七一万〇〇〇〇円
原告は、原告車両の修理見積額が一二五万二一四〇円(甲一二の一、二)であると主張し、これをもって損害と主張する。しかし、甲二〇の三によれば、本件事故当時の原告車両(トヨタクラウン・スーパーエディション)の時価は七一万円と認められるから、原告車両はいわゆる経済的全損となったものであり、その損害は時価相当額七一万円となる。
(一〇) 代車使用料 三〇万〇〇〇〇円
本件のように被害車両が経済的全損となった場合には、代車使用料が認められるのは、買替えに要する相当期間についてであるが、これには買替え自体に要する期間のほか、事情に応じ、見積りその他の交渉をするのに必要な期間が含まれるものと解される。そして、加害者に代わって損害賠償の交渉を行う保険会社の担当者としては、被害者に対して、修理が可能かそれとも経済的全損として買替えが必要か等について、十分な説明をし、被害者の理解を得るように真撃な努力をすべきものであり、そのために通常必要とされる交渉期間内は、加害者において代車使用料を負担すべきものである(東京地裁平成一二年三月一五日判決・週刊自動車保険新聞一七〇二号参照)。
甲一二の一、二、甲一六の一、二、甲三一、三四の二、乙一、証人吉田四郎、弁論の全趣旨によれば、本件事故後の交渉経緯に関し、<1> 本件事故当日、吉田四郎が経営する吉田自動車の工場に原告車両が運ばれてきたこと、<2> 原告の父木村勉は、吉田に対し、本件事故についての被告会社との交渉を委任したこと、<3> 吉田は、被告会社の担当者である安沢正勝に連絡し、互いに相手方車両の損傷箇所を確認した上で、修理費用の見積書を交換することを申し入れたこと、<4> 平成七年一月一四日、吉田が見積りを依頼した有限会社古瀬自動車から、原告車両の修理費を一二五万二一四〇円とする見積書が提出され、吉田は、同月二〇日、これを安沢にファックス送信したこと(甲一二の一、二)、<5> 一方、被告会社は、原告車両が任意保険に入っていなかったことから、吉田ら原告側に被告車両の損傷箇所を確認させることなく、平成六年一二月二四日には被告車両の修理を終えていたこと(乙一)、<6> 平成七年一月二六日、被告保険会社の関連会社に勤める小松信秀アジャスターが、吉田自動車に出向いて原告車両の被害状況を調査したこと、その際、吉田が協定の締結を申し入れたが、小松アジャスターは、これには応じず、会社に戻って返事をすると答えたこと、<7> その後、同年二月二七日、被告保険会社は、被告宍戸に過失はないと原告側に通告し、保険金を支払わない態度を明らかにしたこと、<8> 同年三月一三日、被告会社(被告保険会社)の委任を受けた小川征也弁護士は、本件事故は原告の一方的過失によるものであるとして、被告車両の修理費等二一二万六八七一円の支払を求める内容証明郵便を原告に送付してきたこと、が認められる。
以上によれば、被告保険会社の担当者から原告車両の時価に関する資料が示されて、その修理費が時価を上回るとの説明がされた形跡は存しないし、平成七年一月一四日に原告車両の修理費の見積額が判明した時点では、必ずしも原告車両が経済的全損に当たることが明らかであったともいえない。しかしながら、被告保険会社が、被告宍戸に過失はないと原告側に通告し、保険金を支払わない態度を明らかにした後は、当面、交渉による解決は期待し難い状況となったのであるから、原告側の判断において、修理か買替えかを決すべきであったと考えられる。そうすると、前記の意味における買替えに要する相当期間は、被告保険会社が最終的に保険金を支払わない態度を明確にした後である同年三月中旬ころまで(事故時から三か月間)と認めるのが相当である。
そして、甲二九、三〇、原告本人によれば、原告の家族は、夜間、東京都江東区において屋台のラーメン店を営み、原告がこれを手伝っていたことが認められるから、車両を買い替えるまでの期間中も、事故前のように、原告らが居住していた千葉市花見川区から東京都江東区への通勤用のほか、仕入れの手伝い、不足品の買い出し等に使用するために代車が必要であったものと認められ、この認定を左右する証拠はない。原告がこの期間中レンタカーを使用していたとすれば、その費用は三か月間で三〇万円(原告が代車購入費として請求する金額)を下回らないものと判断されるから、この三〇万円をもって代車に関する原告の損害と認める。
(一一) 車両保管料等 一七万二九〇〇円
事故の相手方が信号機の表示を争い、無過失を主張している場合には、衝突態様、交差点進入の先後関係等を明らかにする上で、事故車両は重要な証拠の一つである。しかし、通常は、写真をもって車両の破損状態を保全すれば足りるから、車両の保管料は、車両自体が事案の解明に不可欠であるような特段の事情があるのでない限り、事故と相当因果関係のある損害とは認められない。本件においては、このような特段の事情は認められない。
もっとも、事故車両を修理するか、廃車にして買替えをするかを判断するために必要な期間における保管料は、加害者の賠償すべき損害というべきである。本件においては、この期間は、(一〇)のとおり事故時から三か月間と認められる。そして、甲一三の一、二、証人吉田四郎の証言によれば、原告の請求額七三万四二七〇円のうち損害(別項目として認める廃車費用を除く。)と認められるのは、<1> 車両保管料一〇万五〇〇〇円(一か月三万五〇〇〇円の三か月分)、<2> 車両移動代四万五〇〇〇円、<3> 諸費用二万二九〇〇円の合計一七万二九〇〇円である。
(一二) 廃車費用 一万〇〇〇〇円
甲一四の一、二によれば、原告車両の廃車費用として一万円を要したことが認められ、この廃車費用も、本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。
(一三) 小計 二一六万六二四五円
(一四) 過失相殺
前記の過失割合に従い、過失相殺として(一三)の金額から二〇%を減額すると、残額は一七三万二九九六円となる。
二一六万六二四五円×(一-〇・二)=一七三万二九九六円
(一五) 弁護士費用 三五万〇〇〇〇円
本件事案の内容、本件訴訟の審理経過(特に、本件において主要部分に関する原告側の立証が成功したのは、原告代理人の綿密な訴訟活動によるところが大きいこと)、本件の認容額等を考慮し、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、三五万円をもって相当と認める。
(一六) 合計 二〇八万二九九六円
三 被告会社の損害額について
(一) 車両修理費用 一六〇万〇三一一円
乙一によれば、被告車両の修理費用の額は一六〇万〇三一一円であると認められ、この認定を左右する証拠はない(もっとも、原告側の要求にもかかわらず、原告側に損傷箇所の確認をさせたり損傷箇所の写真を送付したりすることなく、一方的に修理を終えてしまうというのは、誠実な態度とはいい難いから、前記のとおり、この点を原告の入通院慰謝料の増額事由の一つとして考慮することとした。)。
(二) 休車損 五二万六五六〇円
乙二、三の一ないし三によれば、被告会社は、平成六年九月一日から同年一一月三〇日までの九一日間に、被告車両を営業に使用して三九九万三一一四円の利益を上げ、その一日当たりの平均利益額は四万三八八〇円であったことが認められる。そして、乙一、六の一、二、乙七によれば、被告は、被告車両の損傷の修理に一二日間を要し、この間、被告車両を営業に使用することができなかったこと、また、被告会社に被告車両の代替車両はなかったことが認められる。そうすると、本件事故による被告会社の休車損は、五二万六五六〇円となる。
四万三八八〇円×一二日=五二万六五六〇円
(三) 小計 二一二万六八七一円
(四) 過失相殺
前記の過失割合に従い、過失相殺として(三)の金額から八〇%を減額すると、残額は四二万五三七四円となる。
二一二万六八七一円×(一-〇・八)=四二万五三七四円
(五) 弁護士費用 六万〇〇〇〇円
本件事案の内容、本件の認容額等を考慮し、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、六万円をもって相当と認める。
(六) 合計 四八万五三七四円
第四結論
以上によれば、原告の本訴請求は、被告らに対し、各自、二〇八万二九九六円及びこれに対する本件事故発生の日である平成六年一二月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとする。また、被告会社の反訴請求は、原告に対し、四八万五三七四円及びこれに対する前記平成六年一二月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 河邉義典)