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東京地方裁判所 平成11年(ワ)11409号 判決 1999年10月29日

原告

破産者

株式会社イメージボックス

破産管財人

加藤貞晴

被告

アストロ・システム・ジャパン株式会社

右代表者代表取締役

大塚清子

右訴訟代理人弁護士

鈴木忠正

主文

一  被告は、原告が株式会社ピーエスジーに対し、別紙目録記載の著作物に関する著作権のうち二分の一の持分を譲渡することに同意せよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文第一項同旨

第二  事案の概要

本件は、株式会社イメージボックス(以下「イメージボックス」という。)の破産管財人である原告が、イメージボックスが被告と共有していた別紙目録記載の著作物(以下「本件著作物」という。)に関する著作権(以下「本件著作権」という。)の共有持分を株式会社ピーエスジー(以下「ピーエスジー」という。)に譲渡しようとしたところ、共有者である被告が右譲渡に対する同意を拒んだため、原告が、被告に対し、同意を求めるものである。

一  争いのない事実

1  イメージボックスと被告は、本件著作権を持分各二分の一で共有していた。

2  イメージボックスは、平成一〇年七月三〇日、破産宣告を受け、原告が破産管財人に選任された(以下「本件著作権の共有持分権のうち、イメージボックスが有していた持分を「破産者持分」という。)。

3  原告とピーエスジーとの間で、平成一一年五月、破産者持分を三六〇万円で売り渡す旨の契約が成立し、同月、その換価について裁判所の許可を得た。

4  原告が、ピーエスジーに対して、破産者持分を譲渡するには、著作権法六五条一項により、本件著作権の共有者である被告の同意を要するところ、被告は右同意を拒んでいる。

二  争点

1  原告からピーエスジーに対する破産者持分の譲渡が無効なものであるかどうか

(被告の主張)

共有著作権の持分の譲渡について共有者全員の同意が必要とされているのは、著作権の一体的利用を確保する要請があるためであるから、共有著作権の持分を譲渡する者は、他の共有者の同意を得るための努力をすべきである。

原告は、被告に対し、平成一一年四月、破産者持分を買い受けるかどうかを問い合わせるファクシミリを送信し、同年五月六日、三六〇万円で買い受けたいという申出があるから、譲渡に同意されたい旨の通知をしただけである。

被告は、原告の右通知に対し、被告の知らない会社が本件著作物を販売していること、その販売価格は表示価格を無視した廉価なもので市場に混乱を与え、消費者にも誤解を与えていること、これらの混乱や誤解を除去するためには、著作権を分散させずに信頼を回復する必要があることを回答した。

しかし、原告からは、何らの返答もなく、本件訴訟が提起されたのであるから、原告が共有者である被告の同意を得るための努力をしたとはいえず、原告からピーエスジーに対する破産者持分の譲渡は著作権法六五条一項の手続を履践していない無効なものである。

(原告の主張)

仮に、被告の主張するように、原告が被告の同意を得るべく努力することを怠ったという事実があったとしても、そのことから原告のピーエスジーに対する破産者持分の譲渡が無効であるということはできない。また、本件では原告は被告の同意を得るべく十分な努力をしてきた。

2  原告からピーエスジーに対する破産者持分の譲渡について、被告が同意を拒む正当な理由があるかどうか

(被告の主張)

原告が、破産者持分を売り渡したピーエスジーは、被告の知らないうちに本件著作物を販売していた会社の一つであった。

ピーエスジーは、被告が知らないうちに、原告との間で破産者持分を買い受ける協議を行い、平成一一年五月に、代金三六〇万円を支払って、破産者持分を買い受けた。

被告は、ピーエスジーがいまだ破産者持分を買い受けていないと思い、平成一一年六月一〇日、同社と本件著作権の一体的利用について協議したが、同社は、既に代金を支払って破産者持分を取得したことを理由に協議に応じなかった。

被告は、本件訴訟手続中にも、ピーエスジーと本件著作権の一体的利用について協議したが、同社が、既に代金を支払って破産者持分を取得したと主張したことから、まとまらなかった。

本件著作物が無断で販売されることを防止し、本件著作物の販売価格の統一を図ることが必要であるが、それらに、被告は、ピーエスジーとは一体となって対応できない。

したがって、被告には、破産者持分の譲渡について同意を拒否する正当な理由がある。

(原告の主張)

ピーエスジーは、イメージボックスから許諾を受けて本件著作物を販売していた。被告が右事実を知らなかったことについては争う。

被告は本件著作権の共有者ではあったが、実際はイメージボックスが本件著作権の行使を担当してきたのであり、このようなイメージボックスと被告の関係からみて、イメージボックスが被告に事前に通告することなく本件著作物をピーエスジーに利用許諾し、その結果、ピーエスジーが本件著作物を販売していたことをとらえて、同意を拒む正当な理由があるとすることはできない。また、被告は、事後的に、ピーエスジーによる本件著作物の販売を許諾し、ピーエスジーは被告に対して使用料として一五〇万円を支払っている。

ピーエスジーは、本件著作権の一体的利用について、原告との協議を拒否したことはない。

したがって、被告には、破産者持分の譲渡について同意を拒む正当な理由がない。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1 共有著作権者が、その持分を譲渡する際に、他の共有者の同意を得るための努力をすることが、持分譲渡の要件となっていると解すべき法的根拠は認められないから、原告が共有者である被告の同意を得るための努力をしなかったからといって、原告からピーエスジーに対する破産者持分の譲渡が無効になるものではない。

2  したがって、原告が右のような努力をしなかったことを理由とする、原告からピーエスジーに対する破産者持分の譲渡が無効である旨の原告の主張は主張自体失当である。

二  争点2について

1  証拠(甲二ないし五、八、乙四ないし六)及び弁論の全趣旨によると、次の各事実が認められる。

(一) 被告は、平成一〇年八月六日ころ、イメージボックスの許諾を得て本件著作物を販売していたピーエスジーに対し、販売には被告の許諾が必要になることを通知した。その後、被告とピーエスジーの間で協議した結果、平成一一年四月二日ころ、ピーエスジーが被告に対して年間一五〇万円の使用料を支払うことで合意が成立し、ピーエスジーは、被告に対して、一五〇万円を支払った。

(二) 原告は、イメージボックスの破産管財人として、被告を含む関係者に対し、平成一一年四月一九日、同月二五日を回答期限として、破産者持分の買受けを募集するファクシミリを送信した。

(三) 右(二)の募集に対して、ピーエスジーが、買受金額三六〇万円で応募したので、原告は、被告に対し、平成一一年五月六日、通知書と題する書面を送付し、三六〇万円で買受けの応募があったことを連絡するとともに、この譲渡について同意することを求め、被告が三六〇万円で買い受けるのであれば、売却する用意がある旨通知した。

(四) 被告は、原告に対し、平成一一年五月七日、右(三)の通知書への返答として、「貴職は、当社がその著作権を保有することを理解しているにも拘わらず、且つ、著作権者に十分な説明もなくその権利を第三者に売渡したいとの希望に対し、当社は貴職に対し不信の念を持つと共に、次の理由により同意しないことを通知いたします。①当著作権は大陸書房(倒産会社)管財人より当社が独占的にその権利を買い取り所有しており、貴職の言う共同著作権者が倒産した現在、当社が唯一の著作権者である事。②既に一部の業者によって著作権法が無視され、販売された商品にて、当社に迷惑が生じている事、③その商品価格の正当な価格(表示価格)が無視され、市場に混乱を与えていると共に最終消費者に誤解を与えている事、④市場の混乱を収め、且つ消費者に誤解を与えない為には著作権を分散させず信頼を回復する必要がある事。」との書面を送付した。しかし、被告は、原告に対して、三六〇万円で破産者持分を買い受ける旨の申出はしなかった。

(五) その後、原告とピーエスジーとの間で、破産者持分を三六〇万円で売り渡す旨の契約が締結されたが、その契約の契約書第二条には、「物品の所有権は、代金の支払いがあった時に、甲から乙に移転するものとする(なお、東京地方裁判所の換価許可、共有者であるアストロシステムジャパン株式会社の同意又はこれに代わる判決があることを条件とする)。」と記載されている。

2  右1認定の事実に基づき、被告が、原告からピーエスジーに対する破産者持分の譲渡について同意を拒む正当な理由があるかどうかを判断する。

(一)  証拠(甲一、乙四、六)及び弁論の全趣旨によると、イメージボックスに対する破産宣告前においては、イメージボックスと被告との間における合意により、本件著作権の営業窓口がイメージボックスに統一されていたことが認められるから、ピーエスジーが本件著作物の利用についてイメージボックスから許諾を受けたことにより、本件著作物の利用に問題がないと考えたとしても何ら不自然ではない上、右1(一)の事実によると、ピーエスジーは、事後的に、被告の許諾を得て、その対価として一五〇万円を支払ったことが認められるから、ピーエスジーが本件著作物の販売を行っていたことが被告に対する関係で背信的な行為であるということはできない。

(二)  右1(二)ないし(四)認定の事実によると、被告は破産者持分を買い受ける機会があったにもかかわらず、それを逃したものと認められ、そのような被告に対して、ピーエスジーや原告が、破産者持分の売買契約についての協議やその締結を知らせるべきであったということはできないから、ピーエスジーと原告の間において、被告が知らないうちに、破産者持分の売却について協議が行われ、売買契約が締結されていたとしても、そのことをもって、被告に対する背信行為ということはできない。

(三)  証拠(乙五)と弁論の全趣旨によると、ピーエスジーの代表者である小林実(以下「小林」という。)は、平成一一年六月一〇日、被告代表者に対して、代金三六〇万円を支払った旨述べ、既に原告との間で売買契約を締結したことを前提として、被告との協議に臨んだことが認められるが、これは、事実をそのまま述べ、そのことを前提として協議に臨んだもので、不当な点は見られない。なお、被告は、同日の話合いにおいて、小林が、破産者持分を取得したことを理由に協議に応じなかったと主張するが、小林がそのようなことを述べた事実を認めるに足りる証拠はない(乙五にもそのような記載はない。)。右1(五)認定の事実によると、ピーエスジーと原告との間における破産者持分の売買契約は、被告の同意がない限り効力を生じないことは明らかであるから、このことに照らしても、小林が、破産者持分を取得した旨述べたとは認められない。

また、弁論の全趣旨によると、本件訴訟手続において、原告、被告、ピーエスジーの間において和解協議が行われたが、合意に至らなかったことが認められる。被告は、右協議は、ピーエスジーが、既に代金を支払って破産者持分を取得したと主張したことから、まとまらなかっと主張するが、ピーエスジーが、原告との間で売買契約を締結して、代金を支払ったことを前提として和解協議に臨むことに不当な点はなく、ピーエスジーが破産者持分を取得したと主張したことを認めるに足りる証拠はない。

(四)  本件著作物が無断で販売されることを防止し、本件著作物の販売価格の統一を図ることが必要であるとしても、それらについて、被告が、ピーエスジーと共に行うことができない事情が存するとは認められない。

(五)  以上述べたところを総合すると、被告が、原告からピーエスジーに対する破産者持分の譲渡について同意を拒む正当な理由があるとは認められない。

三  以上の次第で、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官森義之 裁判官榎戸道也 裁判官杜下弘記)

別紙目録<省略>

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