東京地方裁判所 平成11年(ワ)11425号 判決
原告 有限会社ズー・プランニング
右代表者代表取締役 鈴木陽子
右訴訟代理人弁護士 石田省三郎
同 鎮西俊一
被告 大城俊夫
右訴訟代理人弁護士 美村貞直
主文
一 被告は原告に対し、金一五〇万円及びこれに対する平成一一年六月二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は原告に対し、一九九万五〇〇〇円及びこれに対する平成一一年六月二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告から書籍の出版の企画・制作を請け負った原告が、被告は理由なく同請負契約を解除したと主張して、請負代金もしくは民法六四一条の損害賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実等
1 原告は、広告物・出版物の企画・制作等を業とする会社であり、被告は、「オオシロクリニック」を経営する医師であり、特にレーザー医療の分野を専門としている。
2 原告は、平成九年一二月頃、被告から被告が行うレーザー美容に関する宣伝・広告を目的とする書籍(以下「本件書籍」という。)の出版の企画・制作業務を請負代金一九九万五〇〇〇円(消費税を含む。)で請け負い(以下「本件請負契約」という。)、以後、その企画・制作に着手した(甲二、証人小林健次、原告代表者)。
3 被告は、平成一〇年一月二〇日頃、原告に対して本件書籍出版を中止する旨を通告して、本件請負契約を解除した(証人小林健次、原告代表者)。
二 争点
争点は、(1) 被告が原告に対し、本件請負契約の業務の完成による請負代金の支払義務もしくは民法六四一条の損害賠償義務を負うか、(2) 被告が民法六四一条に基づく損害賠償義務を負う場合の損害額はどれだけか、である。
1 原告の主張
(一) 原告は、被告が本件請負契約の解除を通告した時点で、本件書籍の出版企画・制作業務のほとんどを完成していたから、原告は被告に対して、請負代金の請求をすることができる。仮にそうでないとしても、被告のした本件請負契約の解除は何らの理由のないものであるから、被告は民法六四一条により原告の被った損害を賠償する義務があり、その損害額は右請負代金相当額である。
よって、原告は被告に対し、請負代金もしくは損害賠償として、一九九万五〇〇〇円及びこれに対する平成一一年六月二日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(二) 被告が原告の債務不履行により本件請負契約を解除したと主張する点については、本件請負契約に際して、被告は、「大手出版社から出せるのであれば五〇〇〇部を買い取る」旨の条件を示しており、原告がこの条件に沿って各出版社にあたった結果、最終的に「読売出版社」から出版することで企画を進めており、原告には何ら債務不履行はない。また、原告が被告から請け負った業務は、いわゆる「PR本」の出版企画・制作業務であり、本件書籍が「売れる」ことまで請け負ったものではない。さらに、本件書籍は発売日が三月二〇日と予定されており、被告が一方的に中止を通告した同年一月二〇日頃の時点では原稿は大半の作業を終えており、この点でも原告に債務不履行はない。また、本件書籍に載せるイメージカットは被告の了解を得て発注したものである。
2 被告の主張
(一) 本件請負契約にかかる原告のなすべき出版企画・制作業務は未完成であるから、請負代金債権は生じていない。
(二) 原告には、次のような契約違反があり、被告はこの債務不履行を理由として解除したものであり、民法六四一条によって解除したものではないから、損害賠償義務を負わない。すなわち、原告と被告の間では、本件書籍は平成一〇年一月末に「売れる本」として完成し、「主婦と生活社」から出版するとの約定であった。ところが、同社からの出版は取り止めとなり、次いで「パル出版」からの出版も取り止めとなり、最後に「読売新聞社」からの出版という話になったが、これも平成一〇年一月一九日に至っても確定していなかった。そのうえ、原告の用意した原稿も、加筆・修正もできないもので、「売れる本」を制作するという目的に全く合致していなかった。更に、原告は、本件書籍に載せるイラストも被告に示すことなく発注した上、原稿やイラストも未完成で、完成・出版は期限よりも遅れることが予測されたことから、被告は、原告のこれらの債務不履行を理由に本件請負契約を解除したものである。
また、仮に、被告が民法六四一条所定の損害賠償義務を負うとしても、その額は、請負代金額にはとうてい及ばない額である。
第三争点に対する判断
一 被告が原告に対して本件請負契約の解除を通告した時点で、本件書籍の出版企画・制作業務が完成していなかったことは証拠(乙一の1、2、証人小林健次、原告代表者)上明らかであるから、原告は被告に対して請負代金(仕事の完成による報酬)を請求することはできない。
二 次に、被告が原告に債務不履行があったために本件請負契約を解除したものであるから民法六四一条による損害賠償義務を負わないと主張する点について判断する。
1 証拠(甲二ないし六、乙一の1、2、二、三、証人小林健次、原告代表者)によれば、(1) 本件請負契約の締結にあたり原告から被告に交付され被告も了承した見積書(甲二)では、平成一〇年一月二〇日に入稿、同年三月二〇日に発売の予定とされていたところ、原告は、この予定に沿って、ライターである秋元真澄と共に被告から受けたレーザー治療についての説明をもとに原稿を仕上げ、これを平成一〇年一月一〇日頃に被告に提出し、これについて被告から加筆・修正を受け、これを新たな原稿として打ち直したものを同月一四日頃に被告に提出したこと、(2) 原告は、右の原稿について被告の了承を得た上で出版社に入稿し、更に出版社の要望なども受けて加筆・手直ししたり、説明用のイラストを組み入れたりして最終稿としていく予定であったが、その前に被告が本件書籍出版の中止を通告したため、これらの手続に入れなかったこと、(3) また、本件書籍に載せるイラストのうち、イメージカット一一枚は、平成九年一二月に被告の了解を得た上で発注し、平成一〇年一月にはできあがっており、説明用イラストについては、原稿の内容がほぼ定まらないと確定・発注できないことから、未確定となっていたが、被告が本件書籍出版の中止を通告した時点でこれらの原稿に関する作業が格別遅滞していたような事情はなかったこと、(4) 出版社については、本件請負契約を締結する当初から、被告は本件書籍五〇〇〇部を買い取ることを明言するとともに、なるべく大手の出版社から出したいとの希望を述べたことから、原告は、これを前提にして、読売新聞社出版局と折衝し、同社から出版することがほぼ決まっており、被告からの中止通告がなければ、右のとおり原告から加筆・修正された原稿を同社に提出して、原稿を最終稿に仕上げていく手はずとなっていたこと、(5) 原告としては、読売新聞社が原稿を見た段階で難色を示す場合に備えて、従来からつながりのある「主婦と生活社」及び「パル出版」とも話をしていたが、被告主張のように予定の出版社が変遷した事実はないこと、(6) 本件請負契約の締結に際しては、原告及び被告とも本件書籍が一般読者によく売れる書籍となることを目指していたが、この種の書籍がよく売れるかどうかは予測困難なところがあり、右のとおり原告が準備した原稿が、この後、更に出版社の要望も入れて加筆・修正されて出版された段階で売れる見込みがなく本件請負契約の趣旨に反するような品質・内容のものであったとは証拠上認められないこと、(7) そもそも、被告が原告代表者に本件書籍の出版の中止を通告した頃、被告は原告に契約違反があったため中止するとは述べておらず、原告と被告の間を仲介した電通パブリックリレーションズという会社との間で別のトラブルがありそのことに憤慨していたこと、が認められる。
2 右に見た事実関係に照らすと、被告が本件請負契約を解除したのは、被告主張のような原告の債務不履行によるものとはいえないから、被告は民法六四一条により、原告の被った損害を賠償する義務を負うものというべきである。
三 そこで、本件請負契約の解除によって原告の被った損害(請負契約が解除されなければ得たであろうと認められる利益を含む。)について判断する。
証拠(前項冒頭に挙示のもの)によれば、被告が本件請負契約を解除した時点で、原告は、<1>本件書籍の原稿の作成・編集については見積額一〇〇万円のうちの九割すなわち九〇万円相当額を仕上げていたこと、<2>イラスト料については見積額三〇万円のうち前記のとおり未完成であった説明用イラスト分を除いて二二万円相当額を支出していたこと、<3>打ち合わせ等のための雑費については、見積額一〇万円のうち八万円を要したこと、<4>プロモーション費は出版社との間を取り次ぎ、本件書籍を出版に至らせることへの報酬の趣旨の費用であり、見積額三〇万円が損害(本件請負契約が解除されなければ得たであろうと認められる利益)であること、が認められる。そうすると、原告は、本件請負契約の解除によって合計一五〇万円の損害を被ったものといえる。
四 以上によれば、原告の本訴請求は、右損害額一五〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判官 西村則夫)