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東京地方裁判所 平成11年(ワ)12527号 判決

原告 太陽信用金庫

右代表者代表理事 豊島勝治

右訴訟代理人弁護士 西山鈴子

被告 太陽火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 蟹江紘宇

右訴訟代理人弁護士 原田策司

同 井野直幸

同 小林ゆか

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一〇二万〇六〇〇円及びこれに対する平成一一年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、訴外菅原久雄を被保険者とし、被告を保険者とする保険契約に基づく保険期間満了後の満期返戻金の払戻請求権についての債権仮差押決定及び債権差押命令を得た原告が、被告に対して、右満期返戻金の支払を請求する事案である。

二  争いのない事実等

1  平成一〇年一〇月一三日東京地方裁判所は、原告の訴外菅原久雄(以下「菅原」という。)に対する貸金の残元金二二三一万五八一二円のうち三二五万二六〇〇円についての請求債権の執行を保全するため、菅原の被告に対する左記各保険契約にかかる満期返戻金の払戻請求権を仮に差し押さえる旨の債権仮差押決定をした(平成一〇年(ヨ)第六八八七号。以下「本件仮差押決定」という。)。

(1)  保険の種類 満期戻総合保険(スーパ-ひまわり保険)

契約日 平成五年一〇月一四日

証券番号 N三〇四-二〇七五五八八号

保険期間 平成五年一〇月一四日午後四時から同一〇年一〇月一四日午後四時までの五年間

保険金額 一三五〇万円

保険者 被告

被保険者 菅原

満期返戻金予定額 一〇二万〇六〇〇円

(2)  保険の種類 満期戻総合保険(スーパーひまわり保険)

契約日 平成五年一一月二七日

証券番号 N三〇四-二〇七六〇一五号

保険期間 平成五年一一月二七日午後四時から同一〇年一一月二七日午後四時までの五年間

保険金額 三六〇〇万円

保険者 被告

被保険者 菅原

満期返戻金予定額 二二三万二〇〇〇円

2  平成一〇年一〇月一四日午前一一時、本件仮差押決定正本は、第三債務者である被告に送達された(甲2)。

3  平成一一年四月二一日東京地方裁判所は、本件仮差押決定の本執行として、前記1(1) (2) 記載の各保険にかかる満期返戻金についての債権差押命令を出し、同月二二日同命令正本は被告に送達された。

4  被告は、前記1(2) の保険契約にかかる満期返戻金を原告に対して支払ったものの、同1(1) の保険契約(以下「本件保険契約」という。)についての満期返戻金(以下「本件満期返戻金」という。)については、菅原に対して支払済みであるとして、原告に対する支払を拒否した。

三  争点

被告の原告に対する本件満期返戻金の支払義務の有無

(被告の主張)

被告は、本件保険契約の期間満了日の前日である平成一〇年一〇月一三日、本件満期返戻金及び契約者配当金合計一〇二万五二九〇円についての振込データを訴外さくら銀行に送信しており、本件仮差押決定正本の被告に対する送達以前に、右金員は菅原の預金口座に振込入金されている。

したがって、本件仮差押決定が被告に送達された時点で、既に、菅原の被告に対する本件満期返戻金の払戻請求権は、弁済により消滅していたものである。

(原告の主張)

被告の菅原に対する本件満期返戻金の支払は、下記の各事実に照らせば、信義則に反するものというべく、これをもって原告に対抗することはできない。

(1)  被告は、本件保険契約に基づく菅原の被告に対する保険金請求権に質権を設定していたが、その際、被告は、保険金請求権のみならず、満期返戻金の払戻請求権についても質権が及ぶ旨の記載のある正規の書式を用いず、質権が保険金請求権にしか及ばない形式の質権設定承認請求書を交付したため、原告の設定した右質権は本件満期返戻金の払戻請求権に及ばないこととなってしまった。

(2)  被告は、菅原との間で保険契約の更新を勧めていたが、原告が本件満期返戻金を取得すべく行動していることを知るや、これを止めて、菅原に対して右満期返戻金を送金した。

(3)  保険証券上、満期返戻金を取得するには、同証券が必要である旨の記載があるにもかかわらず、被告は同証券を所持していない菅原に対して、本件満期返戻金の払戻手続をした。

(4)  被告は、本件仮差押決定を無視し、本件満期返戻金の支払委託を取り消すための何らの行為をすることはなく、菅原に対して右返戻金の支払をした。

第三争点に対する判断

一  証拠(甲3、乙3の1及び2、6、調査嘱託)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  平成五年一〇月一四日、菅原は被告との間で本件保険契約を締結し、同日、原告は被告に対し、右保険金請求権について質権を設定することを承認するように請求し、同年一一月二日被告はこれを承認した。

2  右質権設定承認書は、本件保険契約にかかる保険証書と一体となっているものであり、そこには、被告は、菅原が本件保険契約に基づく保険金請求権の上に質権を設定したことを承認し、被告が支払うべき保険金(未払保険料等があるときは、これを差し引いた残額)を保険金支払時の債務額を限度として、債務の弁済期前であっても直接質権者に対して支払う旨の記載がなされていた。

3  平成一〇年一〇月八日、菅原は被告に対し、本件満期返戻金及び契約者配当金についての送金依頼書を提出した。

4  平成一〇年一〇月一三日、被告は訴外さくら銀行に対し、本件満期返戻金及び契約者配当金合計一〇二万五二九〇円を菅原の預金口座に振込入金するよう依頼し、翌一四日午前八時三九分、右振込が行われた。

二1  前記争いのない事実等及び右認定事実によれば、被告は、本件保険契約の保険期間が満了する平成一〇年一〇月一四日午後四時に先立ち、菅原に対して本件満期返戻金等の払戻手続を行い、同日午前八時三九分には同人の預金口座への右金員の入金処理が行われたため、同日午前一一時に本件仮差押決定正本が被告に送達されたときには、既に、本件満期返戻金等の払戻請求権が消滅し、原告は右金員を保全することができなかったものと認められる。

2  そこで、原告は、前述のとおり、被告による右菅原に対する弁済は原告に対する関係で信義則に反する旨主張する。確かに、本件保険契約についての普通保険約款二八条二項(乙1)によれば、満期返戻金の支払は、特別の事由のない限り、保険期間が満了した日の翌日から起算して二〇日以内に行う旨規定されており、仮に、被告が本件生命保険の保険期間満了を待って、菅原に対する本件満期返戻金の払戻手続を行おうとしていたとすれば、原告は、右金員の支払を受けることができたものということができる。

3  しかしながら、保険金請求権のみならず、満期返戻金についても質権が設定されているような場合は格別、満期返戻金の払戻についての期限の利益は専ら保険者である被告のためにあるから、かかる利益を有する被告は、その期限の利益を放棄し、保険期間の満了を待たずにその払戻を行うことができるものということができ、仮に、被告による満期返戻金の払戻手続後、保険期間の満了までの間に保険事故が発生した場合であっても、保険金額から右払戻額を控除して支払をすることにより、実質的に満期返戻金を回収することができることに照らすと、かかる取扱が特に不合理であるということはできない。

また、原告は、被告が満期返戻金についても質権の効力が及ぶ旨の記載のある書式を用いなかったことが信義則に反する一事情である旨主張するところ、被告が使用する質権設定承認書の書式のうちには、設定される質権の効力が満期返戻金の払戻請求権に及ぶことが明示されているものがあり(乙9、10)、仮に、原告が前記質権の承認を被告に求めるにあたって、右書式が用いられていたとすれば、原告は、本件満期返戻金の支払を受けることができたとも考えられるが(乙9、10には、満期返戻金を直接質権者に支払う旨依頼する文言が記載されている。)、他方において、質権設定承認書は、保険証書と一体となった書類であること、原告が保険金請求権について質権を設定することを承認していた被告が、殊更に満期返戻金払戻請求権についてのみ、質権の対象となることを回避しようとしていたと考えるべき事実関係も認められないこと、被告にとって、満期返戻金を菅原あるいは原告のいずれに支払ったとしても、特にその利害に関係しないと思われることなどを総合すると、原告が質権を設定するにあたり、被告が、特に原告に不利益となる質権設定承認書の書式を選択するなどしていた事実を認めることはできない。

さらに、質権を設定した結果、保険証書を所持していなかった菅原に対して被告が本件満期返戻金等の払戻をしたことをもって、信義則に反するものということはできないし、本件満期返戻金について質権が設定されていない以上、菅原からその払戻請求を受けた被告は、同人に対して遅滞なく右払戻をなす債務を負っていたのであり、その結果、本件仮差押決定正本の送達を受ける以前に、被告が菅原に対して、本件満期返戻金の送金手続を行ったとしても、これが不当であるということはできないし、また、本件仮差押決定を無視したものということもできない。

三  そこで以上によれば、被告の菅原に対する本件満期返戻金等の支払が信義則に反し、これを原告に対して主張し得ない旨の原告に主張には理由がなく、右菅原に対する右支払は有効なものと認められる。

そうすると、本件仮差押決定正本が被告に対して送達された時点において、本件満期返戻金の払戻請求権は既に弁済により消滅していたものと認められる。

よって、原告の本訴請求には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 高宮健二)

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