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東京地方裁判所 平成11年(ワ)13263号 判決

原告 岩野英世

右訴訟代理人弁護士 宮原功

被告 渡邉省二

被告 渡邉晴子

被告 渡邉裕二

右三名訴訟代理人弁護士 武内秀明

主文

一  被告渡邉省二及び渡邉晴子は、原告に対し、連帯して、金八四〇万円及びこれに対する平成二年六月一日から支払済みまで年三〇パーセントの割合による金員を支払え。

二  被告渡邉省二は、原告に対し、金四八〇万円及びこれに対する平成二年六月一日から支払済みまで年三〇パーセントの割合による金員を支払え。

三  原告の被告渡邉裕二に対する請求を棄却する。

四  訴訟費用のうち、原告に生じた費用の二分の一と被告渡邉省二に生じた費用は、被告渡邉省二の負担とし、原告に生じた費用の三分の一と被告渡邉晴子に生じた費用は、被告渡邉晴子の負担とし、その余の費用は原告の負担とする。

五  この判決は、第一項、第二項及び第四項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  主文第一項及び第二項同旨

二  被告渡邉裕二は、原告に対し、(主文第二項の被告渡邉省二と連帯して)四八〇万円及びこれに対する平成二年六月一日から支払済みまで年三〇パーセントの割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  被告渡邉省二(以下「被告省二」という。)は、訴外渡邉英夫(平成六年一一月一日死亡、以下「亡英夫」という。)の長男、被告渡邉裕二(以下「被告裕二」という。)は、亡英夫の二男、被告渡邉晴子(以下「被告晴子」という。)は、亡英夫の妻である。

2  亡英夫及び被告らは、昭和六〇年ころ、東京都台東区寿四丁目一四番七号所在の五階建建物の一階で「丸富士」の屋号で弁当の製造販売をしていた。

3  昭和六二年三月三日、亡英夫と被告らは右場所を本店所在地として、弁当の製造販売を目的とする訴外株式会社丸富士(以下「訴外会社」という。)を設立し、被告省二が代表取締役、亡英夫、被告裕二が取締役に就任した。

4  原告が、平成元年三月一六日に、亡英夫に対し、五五〇万円を次の条件で貸し渡し、被告省二と被告裕二が亡英夫の右消費貸借契約上の債務を連帯保証した旨の金銭消費貸借契約公正証書(甲一の1)と金銭消費貸借契約証書(甲五)が存在する(以下、右の契約を「本件一の契約」という。)。

(一) 元金は、平成元年四月二〇日を初回とし、毎月二〇日限り一〇万円あて割賦返済する。

(二) 利息は年一〇パーセントとし、毎月二〇日限り経過分を支払う。

(三) 損害金は年三〇パーセントとする。

(四) 割賦金の支払を一回でも怠ったときは、当然に期限の利益を喪失する。

5  原告が、平成元年三月一六日に、亡英夫に対し、五五〇万円を次の条件で貸し渡し、被告省二と被告晴子が亡英夫の右消費貸借契約上の債務を連帯保証した旨の金銭消費貸借契約公正証書(甲二)と金銭消費貸借契約証書(甲六、ただし、損害金の率は未補充)が存在する(以下、右の契約を「本件二の契約」という。)。

(一) 元金は、平成元年四月一〇日を初回とし、毎月一〇日限り一〇万円あて割賦返済する。

(二) 利息は年一〇パーセントとし、毎月一〇日限り経過分を支払う。

(三) 前記4(三)及び(四)と同じ

6  原告が、平成元年六月一〇日に、被告省二に対し、一〇〇万円を次の条件で貸し渡し、亡英夫と被告晴子が被告省二の右消費貸借契約上の債務を連帯保証した旨の債務弁済契約公正証書(甲三の1)と金銭借用証書(甲七、ただし、損害金の率は未補充)が存在する(以下、右の契約を「本件三の契約」という。)。

(一) 元金は、平成元年七月一〇日を初回とし、毎月一〇日限り五万円あて割賦返済する。

(二) 利息は年八・四パーセントとし、平成三年二月一〇日限り経過分を支払う。

(三) 前記4(三)及び(四)と同じ

7  原告が、平成元年六月二六日に、被告省二に対し、三〇〇万円を次の条件で貸し渡し、亡英夫と被告晴子が被告省二の右消費貸借契約上の債務を連帯保証した旨の債務弁済契約公正証書(甲四)と金銭借用証書(甲八、ただし、損害金の率は未補充)が存在する(以下、右の契約を「本件四の契約」という。)。

(一) 元金は、平成元年七月二七日を初回とし、毎月二七日限り五万円あて割賦返済する。

(二) 利息は年八・四パーセントとし、平成六年六月二七日限り経過分を支払う。

(三) 前記4(三)及び(四)と同じ

二  争点

1  原告の主張

(一) 亡英夫及び被告らは、家族全員で訴外会社の営業を行っており、亡英夫が高利貸しから運転資金の借入れをしていたため、原告は、被告らの家業を助けるため、被告ら全員で責任を持って返還してくれることを条件として本件一ないし四の契約による貸付けをしたものである。また、原告は、昭和六三年一〇月に長女が交通事故で死亡したために得た損害賠償金を原資として、右貸付けをしたものである。

(二) 本件一ないし四の契約の各証書(甲五ないし八)は、被告らが各自署名し、実印を押したものである。そして、その金銭消費貸借契約に基づき、亡英夫が、被告らの代理人として、それぞれの印鑑証明書を持参して、各公正証書(甲一の1、二、三の1、四)を作成した。被告らは、それぞれ亡英夫に対し、その代理権を授与した。

仮に、本件一の契約の証書(甲五)が、被告裕二自身が署名押印したものでなかったとしても、被告裕二は、亡英夫に、その署名押印の代行権限を授与した。

(三) 原告は、平成二年五月一五日、本件一ないし四の契約につき、既に弁済期が到来していた平成元年一一月分以降の割賦金の返済を平成二年五月末日まで猶予する旨の意思表示をした。そして、同日が経過したため、各契約条項の期限の利益喪失の約定に基づき、亡英夫と被告らは、期限の利益を喪失した。

(四) よって、原告は、次のとおりの請求をする。

(1)  被告省二及び被告晴子に対しては、本件二の契約の残元金四八〇万円、本件三の契約の残元金八〇万円、本件四の契約の残元金二八〇万円の合計八四〇万円とこれに対する返済猶予期限の翌日である平成二年六月一日から支払済みまで年三〇パーセントの割合による約定遅延損害金を連帯して支払うよう求める。

(2)  被告省二及び被告裕二に対しては、本件一の契約の残元金四八〇万円とこれに対する右同日から支払済みまで年三〇パーセントの割合による約定遅延損害金を連帯して支払うよう求める。

(五) 被告省二の免責の主張(後記2(二))について

原告は、被告省二の破産申立てについては、何らの通知を受けておらず、原告の請求権は債権者名簿に記載されていないため、免責の効力は及ばない。

(六) 消滅時効の主張について(後記2(三))について

(1)  被告英夫は、本件一及び二の契約につき、平成元年四月分から同年一〇月分までの割賦金の返済をした。

(2)  被告省二は、本件二及び三の契約につき、平成元年七月分から同年一〇月分までの割賦金の返済をした。

(3)  本件訴えの提起は、平成一一年六月一五日である。

2  被告の主張

(一) 各契約の成立について

(1)  被告省二及び被告晴子について

本件一ないし四の契約の各証書(甲五ないし八)及び各公正証書作成のための委任状の被告省二及び被告晴子の署名が右各被告の筆跡であること、及び各名下の印影が右各被告の実印によるものであることは認めるが、右署名押印の当時、原告は同席していなかったし、金額欄も空白のままであった。右被告らは、強権的、家父長的存在であった亡英夫に強く言われ、目的も分からず、契約締結の相手方、契約内容、金額について知らされないまま、右各署名押印をしたものである。

また、右のとおりであるから、右各金銭消費貸借契約ないしその連帯保証契約締結の意思表示は、その要素に錯誤がある。

(2)  被告裕二について

本件一の契約の金銭消費貸借契約証書(甲五)の被告裕二の署名は同被告が書いたものではないし、印影も被告裕二の印章によるものではない。当時亡英夫は、被告裕二の了解を得ることなく、同被告の印鑑を作成して、印鑑登録をしていた。被告裕二が、亡英夫に対し、署名押印の代行権限を授与したことはない。

被告裕二が、亡英夫に対し公正証書作成のための代理権を授与したことはないし、そのための印鑑証明書を交付したこともない。

(二) 免責

被告省二は、平成七年一〇月二日、当裁判所に対し破産の申立てをし、同年一二月二二日午後五時破産宣告を受け、同日同時廃止となるとともに(平成七年(フ)第二九一三号)、平成八年四月一日免責決定を受けている(平成七年(モ)第八三〇七六号)。

(三) 消滅時効

(1)  本件一ないし三の契約が締結された平成元年三月一六日及び同年六月一〇日から一〇年が経過した。

(2)  被告らは、平成一二年六月二〇日の本件第五回口頭弁論期日において、右消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

第三争点に対する判断

一  原告と被告省二及び被告晴子との間の契約の成立について

1  本件一ないし四の契約(ただし、被告晴子との関係では、本件一の契約は除く。)を記載した公正証書(甲一の1、二、三の1、四)が存在し、その作成のための委任状(甲一三ないし一六の各1)には、被告省二及び被告晴子の署名がされ、その登録された印影(甲一三の2、一四の3)の印鑑(実印)による押印がされているほか、右契約の内容を記載した証書(甲五ないし八、ただし、甲六ないし八には、損害金の率が補充されていない。)にも、右被告らの署名がされ、その実印が押印されていることは、右被告らと原告との間で争いがない(前記第二、二2(一)(1) )。そのため、右の公正証書作成のための委任状と右証書は、いずれも右被告らの意思に基づき作成されたものと推定され、これらによれば、本件一ないし四の契約(ただし、被告晴子との関係では、本件一の契約は除く。)が、右被告らの意思に基づき締結されたことが認められる。

なお、証拠(甲一七、原告本人)によれば、右各契約が、亡英夫の意思に基づくものであったことも、認められる。

2  これに対し、まず、被告裕二は、その陳述書(乙一〇)において、原告が本件一ないし四の契約の貸付金の原資としたと主張している原告の長女が交通事故で死亡した際の損害賠償金について、原告は「損害賠償金は手に入らなかった。」と言っていたとの記載をしている。

しかし、証拠(甲一八、一九、原告本人)と弁論の全趣旨によれば、原告の長女が昭和六三年一〇月二一日に交通事故で死亡し、原告と訴外岩野早苗が合計二五〇〇万円の自賠責保険金を受領することになったが、原告は右岩野早苗の承諾を得て、右二五〇〇万円の全額を受領したことが認められるから、原告は、平成元年当時、本件一ないし四の契約による貸付けの原資を得ていたものと認められる。

3  次に、被告省二は、その本人尋問において、亡英夫から前記1の委任状や証書に署名押印するように言われ、父の命令は「絶対」であったため、契約の相手方や、金額について記載のない状態で、これらについての認識がないまま、署名押印したにすぎないという趣旨の供述をしている(本人調書二ないし七ページ)。

しかし、被告省二は、右証書(甲五ないし八)に署名する際に、金銭消費貸借契約の証書であることは分かっていたこと、署名すればどうなるかも分かっていたとの供述をしているから(本人調書四ページ)、誰からいくら借りるのかを確認しなかったということは通常考えにくく、金額や契約の相手方について認識がなかったという趣旨の右の供述は直ちに信用することができない(したがって、「錯誤」の主張は理由がない。)。また、父の命令が「絶対」であったとしても、それだけでは、本件一ないし四の契約が、意思に基づかない契約であったということまではできない。

4  そして、ほかに右1の認定を覆すに足る証拠はない。

二  原告と被告裕二との間の契約の成立について

1  本件一の契約を記載した公正証書(甲一の1)が存在し、その作成のための委任状(甲一三の1)と、金銭消費貸借契約証書(甲五)には、それぞれ被告裕二名義の署名と押印がされている。

2  しかし、被告裕二は、右の署名は自己が記載したものではないとの供述をし、また、右の押印に使用された印鑑は、亡英夫が被告裕二の承諾を得ることなくその印影を登録したもので、右の押印も承諾していないとの供述をしている(本人調書二ないし五ページ、一二、一三ページ、一九ないし二一ページ)。

3  そして、被告裕二の本人調書添付の本人の筆跡と右の委任状(甲一三の1)及び金銭消費貸借契約証書(甲五)の被告裕二名義の署名の筆跡とを対照してみても、同一人のものであるとの判断をすることはできない。

この点について、原告は、被告裕二が出産費用三〇万円を原告から借りるために原告の面前で署名したという金銭借用証書(甲一二)を提出しているが、被告裕二は、右の金銭借用証書の署名を行ったことも否定している上(本人調書三ページ)、この被告裕二名義の署名の筆跡も、本人調書添付の本人の筆跡並びに右の委任状及び金銭消費貸借契約証書の同被告名義の署名の筆跡と対照しても、同一人のものであるとは認め難い。

なお、右の委任状及び金銭消費貸借契約証書の被告裕二の署名について、亡英夫が代行して行ったとの認定をするに足る証拠はない上、被告裕二が亡英夫に対し、その代行権限を授与したことを認めるに足る証拠もない。

4  また、証拠(甲一〇の1ないし4、一三の3)によれば、訴外会社設立の際に、被告裕二も発起人の一人とされ、発起人会議事録等の書類に押された被告裕二名義の印影は、登録された印影と同一のものであることが認められるから、被告裕二の印鑑登録は、訴外会社の設立された昭和六二年三月には既に行われていたことが認められる。

しかし、原告本人尋問の結果(本人調書一九、二〇ページ)によれば、訴外会社の設立手続に必要な書類の作成は、原告が行ったことが認められ、また、被告裕二本人尋問の結果(本人調書一三ページ)によれば、亡英夫が訴外会社の設立手続のため、被告裕二の印鑑登録をし、その後も亡英夫が登録印鑑を管理していたことが認められる。そして、被告裕二が右の登録印鑑の使用を亡英夫に任せていたと認定するに足る証拠はない。そのため、右の登録印鑑が、被告裕二が使用していた印鑑であると認めることはできず、右の印鑑による印影があるからといって、前記委任状(甲一三の1)及び金銭消費貸借契約証書(甲五)の被告裕二名下の印影が被告裕二の意思に基づくものであるとの推定をすることはできない。

5  なお、原告は、本件一の契約による貸付けを含む貸付けについて、弁当店を営む家族全員で保証してくれるならば貸す旨を被告裕二を含む被告らに話した上、各契約について間違いがない旨を直接確認をしたことがある旨の供述をしているが(本人調書七ページ、一四ページ)、その確認の日時や、具体的な話の内容はあいまいであり(本人調書三二ないし三四ページ)、右の供述を裏付ける証拠もないため、右の供述は直ちに採用することができない。

6  そして、ほかに前記委任状(甲一三の1)と金銭消費貸借契約証書(甲五)が被告裕二の意思に基づいて作成されたと認めるに足る証拠はなく、被告裕二が亡英夫に署名押印の代行権限を与えていたことを認めるに足る証拠もないから、本件一の契約における被告裕二の連帯保証の事実を認めることはできない。

三  被告省二の免責の主張について

証拠(乙八、被告省二本人)と弁論の全趣旨によれば、被告省二は、平成七年一〇月二日、当裁判所に対し破産の申立てをし、同年一二月二二日午後五時破産宣告を受け、同日同時廃止となるとともに(平成七年(フ)第二九一三号)、平成八年四月一日免責決定を受けたこと(平成七年(モ)第八三〇七六号)が認められる。

しかし、他方、証拠(被告省二本人(本人調書一〇ページ))によれば、被告省二は、原告の請求権について、債権者名簿に記載しなかったことが認められる。そして、前記一のとおり、本件一ないし四の契約が、被告省二の意思に基づくものであると認定される以上、被告省二は、右契約に基づく原告の請求権を知りながら、債権者名簿に記載しなかったものと認定せざるを得ない。

そのため、本件一ないし四の契約に基づく原告の請求権について免責の効力は及ばないというほかない。

四  消滅時効の主張について

本件訴えの提起が平成一一年六月一五日にされたことは当裁判所に顕著な事実である。また、原告が被告省二及び被告晴子に対し請求する債権は、前記第二、二1(三)のとおり、平成元年一一月以降に期限が到来する割賦金で、右被告らが期限の利益を喪失したというものである。ところで、債権の消滅時効は、その債権を行使し得るときから進行するから、被告省二及び被告晴子の消滅時効の主張は、右被告らが平成一一年六月一五日の一〇年前の平成元年六月一五日以前に期限の利益を喪失しているというのでなければ失当である。しかし、右被告らが、平成元年六月一五日以前に期限の利益を喪失していたことを認めるに足る証拠はない(原告は、平成元年一〇月分までの返済を受けたことを立証する書証を提出していないものの、原告が亡英夫から返済を受けていた可能性を否定することはできない。)。したがって、右被告らの消滅時効の主張は失当であるというほかない。

五  結論

以上の検討によれば、原告と被告省二及び被告晴子間の本件一ないし四の契約(ただし、被告晴子との関係では、本件一の契約は除く。)は有効であり、また、各割賦金のうち、平成元年一一月分の弁済期限が経過したことは顕著な事実であるから、右被告らは、遅くとも平成二年五月三一日までには期限の利益を喪失したということができるから、右契約に基づく、原告の被告省二及び被告晴子に対する本件請求は理由がある。しかし、本件一の契約について、原告と被告裕二間の連帯保証契約の成立は認められないから、原告の被告裕二に対する請求は理由がない。

(裁判官 都築政則)

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