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東京地方裁判所 平成11年(ワ)13715号 判決

原告 A

右訴訟代理人弁護士 中田直介

被告 新生開発株式会社

右代表者代表取締役 高木滋夫

右訴訟代理人弁護士 木下貴司

右同 杉本俊明

右同 國政直子

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一六二二万八〇〇〇円及びこれに対する平成六年七月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成六年五月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  被告は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成七年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二事案の概要

一  はじめに

本件は、原告が、被告に対し、

<1>  売買代金一六二二万八〇〇〇円及びこれに対する支払約定日の翌日である平成六年七月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金、

<2>  立替払金二〇〇〇万円及びこれに対する原告が被告を退社した日の翌日である平成六年五月二一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金、

<3>  不法行為に基づく損害賠償金五〇〇万円及びこれに対する告訴の事実が確認された日である平成七年一〇月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

の各請求をした事案である。

二  前提となる事実(弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)

1  当事者等

(一) 被告(平成七年一一月までの商号は株式会社千歳商会)は、石油類販売のほか不動産賃貸、売買、管理等を目的とする株式会社である。

(二) 原告は、昭和三五年に被告に入社し、昭和五三年二月に住宅事業部に配属され、昭和六三年二月には同部次長、平成元年四月には同部副部長になった。原告は、同部において、土地の購入、宅地造成並びに販売、土地建物の賃貸等の業務に就いていた。

被告は、平成六年五月、原告を解雇した。

(三) 古屋守朗(以下「古屋」という。)は、平成三年当時、被告常務取締役兼住宅事業部長であり、原告の上司であった。

2  被告は、昭和六三年ころから神奈川県真鶴町真鶴字横吹にマンション建築分譲計画を立て、原告は右計画の担当者として、計画予定地に当たる一体の土地を被告のために買収したが、原告は、右買収土地に隣接する別紙物件目録一及び二記載の土地(以下「本件土地」という。)を原告名義で取得した。

3  告訴について

(一) 被告は、平成六年一二月一二日、原告を業務上横領罪で神奈川県警察本部刑事部第二課に告訴し(以下「本件告訴」という。)、厚木警察署において捜査がなされたが、告訴事実の概要は次のとおりである。

(1)  告訴事実<1>

原告は、被告の一〇〇パーセント子会社である中央ハウジング株式会社(以下「中央ハウジング」という。)の取締役として、同社の不動産開発事業及びこれに関連する事務全般を統括処理していたところ、平成四年一月二三日、同社の取引先に対する決済資金として金一〇〇〇万円を業務上保管中、ほしいままにこれを着服して横領した。

(2)  告訴事実<2>

原告は、被告住宅事業部副部長として被告の不動産開発事情及びこれに関連する事務全般を統括処理していたところ、千代田ハウジング株式会社(以下「千代田ハウジング」という。)から同社の所有にかかる土地を、被告のために所有権移転登記に必要な一切の書類とともに譲り受け、右土地を被告のために業務上預かり占有中、ほしいままに自己が代表取締役に就任している中央拓地株式会社(以下「中央拓地」という。)への所有権移転登記を経由させ、もって右土地を横領した。

(二) 横浜地方検察庁は、平成九年一〇月、右告訴事実について原告を不起訴処分とした。

二  争点

1  原告と被告との間で、本件土地についての売買契約が締結されたか。

【原告の主張】

原告は、被告の代理人である畑下稲造(以下「畑下」という。)を通じて被告に対して本件土地の買取を申し入れ、平成六年五月二六日、畑下から売買契約書案がファックスで送られてきたことにより、被告との間で、以下の条件で本件土地を被告が買い受ける旨の売買契約を締結した(以下「本件売買契約」という。)。

(1)  売買代金は、一六二二万八〇〇〇円(原告の買取価格に仲介手数料・登記費用を加算したもの)とする。

(2)  平成六年六月末日に代金支払及び所有権移転登記に必要な書類の交付を行う。

【被告の主張】

否認ないし争う。

被告は、原告との間で、本件土地についての売買契約を締結していない。

被告は、原告から、本件土地を買い取って欲しいとの申し出を受け、本件土地の購入を検討することとし、畑下を交渉役として、原告と購入金額等の打ち合わせを始めたが、結局合意に至らなかった。

2  原告は、被告のために、国際開発株式会社に対し、二〇〇〇万円を立替払いしたか。

【原告の主張】

(一) 被告は、昭和六二年八月の土地取引の際、地主から二億円の裏金を要求され、国際開発株式会社(以下「国際開発」という。)に支払う工事代金に上乗せする方法で会計上の処理をしたが、平成三年六月、税務調査の際に右二億円の上乗せが発覚して一億二〇〇〇万円の追徴課税を受けた国際開発から、課税分のうちのいくらかを負担するように要求された。

(二) 被告の専務取締役である古屋は、右の要求を受けて、被告が、国際開発に対し、六〇〇〇万円を支払うことを了承した。

(三) 古屋は、原告に対し、右六〇〇〇万円のうち二〇〇〇万円を被告のために立替え払いするよう依頼し、原告は、右二〇〇〇万円を立替払いした。

【被告の主張】

否認ないし争う。

(一) 被告は、国際開発から追徴課税分の負担を求められたことはなく、これに関する国際開発への支払いを了承したことはない。

(二) また、原告の国際開発に対する二〇〇〇万円の支払いは、被告の債務の立替払いとしてなされたものではない。

3  被告の本件告訴は不法行為を構成するか。

【原告の主張】

本件告訴は次のとおり事実無根であって、原告を害せんがためになされた違法な行為である。

告訴事実<1>については、横領したとされている一〇〇〇万円は、古屋が国際開発への支払いのために使用したものであり、横領は事実無根である。

また、同<2>については、被告のための保全行為であって横領行為でないことは当初から明らかである。

【被告の主張】

被告は、千代田ハウジングの代表取締役小金沢義典(以下「小金沢」という。)ら関係者の証言及び証拠書類等に基づいて、原告が横領したと確信し、弁護士に相談のうえ、告訴に及んだのであり、右告訴は十分に合理的であり、被告には何ら過失は認められない。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠(甲一、甲二、乙一、証人畑下の証言)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 畑下は、平成六年三月、被告との間で、被告の不動産事業部の廃止に伴う開発用不動産の処分等の整理業務についての業務委託契約を締結し、現在まで右業務を継続している。

(二) 畑下は、同年五月、当時被告の管理部長であった鷹野肇(以下「鷹野」という。)から、原告が、被告に対し、被告が開発を予定していた真鶴の土地の隣接地(本件土地)を買い取って欲しいと要望しており、被告としても買取を検討したいので、原告との交渉窓口となって希望を聴取して、買取条件のたたき台を作成するよう依頼を受けた。

右依頼の時点では、原告が被告による買取りを希望している物件自体の特定も不十分で、土地の地番、総面積も明らかではなく、買取価格も定まっていなかった。

そこで、畑下は、原告から、右物件の特定や土地を購入した際の購入価格について説明を受けるべく、交渉に着手しようとした。

(三) その矢先の同年五月下旬、原告が被告を退社し、畑下は被告の社内で原告と会う機会がなくなったので、とりあえず物件表示の一部や売買代金などを空欄にした契約書案(甲一の二)を作成し、右各空欄等にかかる条件について原告の希望をうかがいたい旨を伝えて、同月二六日、右契約書案(甲一の二)を原告宛送付した。

(四) 数日後、原告は、畑下に対し、契約書案に手直しをして送付する旨を電話で伝えたが、その際、原告は、売買代金や物件の地番等について特に言及していなかった。

(五) その後、原告から畑下に対する連絡はなく、畑下も原告に連絡を取らなかったところ、畑下は、鷹野から交渉を中断するよう指示を受けた。

2  右認定事実によれば、原告と被告との間では、いまだ本件土地についての売買契約が締結されたということはできないというべきである。

これに対し、原告は、<1>畑下から買取代金の支払日が六月三〇日になったからファックスを送るといわれた、<2>その後、原告は、売買代金として一六二二万八〇〇〇円と書き入れてある契約書(甲二)を作成し、これを被告の代理人である押切弁護士及び畑下に交付したところ、畑下は、これならいいだろうといったと供述し、畑下を代理人として、被告との間で、本件土地についての売買契約が締結されたと主張する。

しかしながら、畑下がファックスで送付した契約書案(甲一の二)には、土地の特定、面積の記載のほか売買契約の重要な要素である代金額が空欄の未完成なものであり、右契約書案の送付をもって売買契約の承諾があったとみるのは困難であること、原告が作成した金額を入れた契約書(甲二)には、被告も原告も署名押印をしていないことに鑑みると、前記認定に反する原告の供述は採用できず、他に売買契約の成立を認めるに足りる証拠はない。

3  したがって、原告の売買代金請求等(請求<1>)は理由がない。

二  争点2(本件立替払契約の成否)について

1  証拠(甲二五、二六、乙三、証人古屋の証言、原告本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 被告は、昭和六二年八月、東京都町田市本町田の土地を池和田治三郎より代金約一四億三八〇〇万円で購入したが、その際、右池和田から右土地の担保権等を抹消するため二億円を簿外で支払うよう要求された。

そこで、被告の担当者であった原告は、国際開発の担当者と相談のうえ、国際開発が右池和田に対し簿外で右の金員を支出し、被告が国際開発に対し工事代金に右金員を上乗せした金額を支払う旨の合意をした。

(二) 国際開発は、平成三年六月、税務調査を受け、一億二〇〇〇万円の追徴課税を受けたが、国際開発は、右追徴課税は前記簿外処理に原因があるとして、原告に対し、追徴課税分の一部を被告が負担するように要求した。

(三) 原告は、上司である古屋に相談したところ、古屋は、右金員の支出については被告の承諾が得られないと考え、被告には報告しないほうがよいといったので、原告もこれに同意した。

その後、古屋及び原告と国際開発側との間で、話し合いがなされ、結局、古屋及び原告の側で四〇〇〇万円を負担することになり、そのうち、古屋が一〇〇〇万円、原告が二〇〇〇万円、中央ハウジングが一〇〇〇万円を負担することで合意した。

なお、中央ハウジングは、被告の子会社であるが、当時古屋が代表取締役を、原告が取締役を務める会社であり、本町田の土地の宅地分譲事業に一部関与して利益を得ていた。

(四) 原告及び古屋は、平成三年から四年にかけて、数回にわたり、国際開発に赴き、前記負担割合に応じて、合計四〇〇〇万円を国際開発に交付した。

そのうち、平成三年一二月二四日及び同四年一月二三日には、いずれも原告の取引銀行である千葉興業銀行の額面一〇〇〇万円の小切手がそれぞれ国際開発に交付され、いずれも原告宛の領収証の交付を受けた(甲二五、二六)。

また、平成四年一月二三日には、一〇〇〇万円が中央ハウジングから、同年一月二八日には、一〇〇〇万円が古屋から、国際開発に対してそれぞれ交付された(乙三)。

(五) 前項の四〇〇〇万円の支払いについては、結局、原告の段階で被告の稟議に上げなかったし、原告は、古屋以外の役員には告げなかった。また、原告は、国際開発との交渉の経緯の一部を営業日報に記載していたが、二回にわたって原告名義でなされた一〇〇〇万円の支払い(小切手の交付)については、営業日報に記載していない。

2  立替払契約について

原告は、国際開発に対して支払われた金員のうち、被告の負担すべき二〇〇〇万円を原告が被告のために立替払いしたと主張し、これに沿った供述をしており、証人松下の証言もこれに沿ったものである。

しかしながら、前記認定事実によれば、国際開発からの追徴課税に関する金銭の支払要求及び右要求に関する国際開発への支払いについては、被告の稟議、報告に上げられておらず、原告とその上司である古屋のみで処理をしたというのであり、原告が国際開発に対して支払った二〇〇〇万円について、被告のために立替払いをしたとみるのは、いまだ困難であるといわざるを得ず、その他、原告が右二〇〇〇万円を被告のために立替払いをしたと認めるに足る証拠はない。

3  したがって、原告の立替払金請求等(請求<2>)は理由がない。

三  争点3(不法行為の成否)について

1  本件告訴に至る経緯

証拠(乙五の一ないし三、五ないし九、証人古屋の証言)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 告訴事実<1>について

(1)  平成六年八、九月ころ、千代田ハウジングの小金沢から、当時中央ハウジング代表取締役兼被告取締役財務部長であった鷹野に対し、中央ハウジングが千代田ハウジングの仲介で土地建物を購入した際の仲介手数料の請求があった。

中央ハウジングの帳簿上は、右手数料は平成四年一月二三日付で支払われたことになっており、これに対応する出金伝票、振替伝票、領収書、請求の申入書が存在したので、鷹野が小金沢を問い質したところ、右領収書及び申入書の記名・押印は小金沢が行ったが、右領収書に対応する金一〇〇〇万円の受領の事実はなかったことが判明した。

また、鷹野が、右出金伝票及び振替伝票を作成した経理課員である環敏朗に尋ねたところ、原告が右領収書を持ち込み、それに基づいて振替伝票を切ったことを話した。

(2)  鷹野は右の事実を被告に報告した。

(3)  領収書記載の一〇〇〇万円は、前記二1(4) 記載のとおり、国際開発からの要求を受けて支払われたものであるが、当時中央ハウジングの代表取締役であった古屋は、被告が原告に対して提起した別件訴訟(東京地方裁判所平成七年(ワ)第一五七二一号、一七六九三号事件)において証言するまで、右の事実を被告に話したことはなかった(乙二、四)。

(二) 告訴事実<2>について

(1)  千代田ハウジングと被告は、土地の所有権を被告に移転する旨の合意をし、平成二年一〇月上旬ころ、千代田ハウジングは原告に右土地の所有権移転登記に必要な一切の書類を交付した。

平成六年八、九月ころ、小金沢からの連絡で鷹野が右土地の登記簿謄本を確認したところ、平成二年一〇月一六日付で譲渡担保を原因とする千代田ハウジングから原告が代表取締役を務める中央拓地への所有権移転登記がなされていることが発覚した。

鷹野が小金沢に確認すると、小金沢は千代田ハウジングと中央拓地との間に譲渡担保設定の事実はおろか取引関係すらない旨述べ、その証拠として千代田ハウジングの税務申告書を示した。

(2)  鷹野は右の事実を被告に報告した。

(3)  被告が中央拓地に対して提起した別件訴訟の判決において、中央拓地に対する右土地について真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続請求が認容された(乙六)。

2  不法行為の成否

(一) たしかに、一般人が特定人を犯罪者として捜査機関に申告した場合、告訴された者は一応嫌疑を被りその人権を侵害される危険があるのだから、告訴にあたっては特に慎重さを要することはもちろんであって、告訴者が何らの合理的根拠がないのに単なる憶測に基づいて特定人を犯罪者として指摘し、その指摘されたものが後日無実であることが判明したときは、告訴者はその者が被った損害につき不法行為責任を負うべき場合があり得ることはいうまでもない。

しかしながら、告訴者は捜査機関と異なり、強制力を用いて犯罪の捜査をする権能を有しないのであるから、犯人を指摘するについては社会通念に照らし相当な理由に基づいてその者を犯人と信じて告訴に及んだ以上、後日その者の行為が犯罪を構成しないことが判明したとしても、その者が被った損害につき不法行為責任は成立しないというべきである。

(二) 以上を前提に検討すると、告訴事実<1>については、被告は、領収書、申入書、出金伝票、振替伝票等の書類等のほか、支払いの相手方である千代田ハウジングの担当者(小金沢)及び中央ハウジングの経理担当者(環)からの聴取内容に基づいて原告が金一〇〇〇万円を横領したと信じたものであり、被告は、社会通念に照らし相当な理由に基づいて右のとおり信じたと認めるのが相当である。

また、告訴事実<2>については、被告は、土地の元所有者である千代田ハウジングの担当者(小金沢)からの聴取内容及び土地登記簿謄本等の書類に基づいて原告が右土地を横領したと信じたものであり、しかも、後に、被告の中央拓地に対する民事訴訟の第一審において所有権移転登記手続請求を認容する旨の判決がされていることを考慮すると、被告は、社会通念に照らし相当な理由に基づいて右のとおり信じたと認めるのが相当である。

そうすると、被告が、本件告訴をしたことは、不法行為を構成しないというべきである。

3  したがって、原告の不法行為に基づく損害賠償請求等(請求<3>)は理由がない。

四  以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 土谷裕子)

物件目録

一 神奈川県足柄下郡真鶴町字横吹一二九番二

原野 一四五平方メートル

二 同所 一二九番五

雑種地 四八平方メートル

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