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東京地方裁判所 平成11年(ワ)14019号 判決

原告 中室實

原告 中室正則

原告 中室祥浩

右三名訴訟代理人弁護士 中村雅男

同 石田道明

同 高柳眞彦

同 榎本久司

被告 住友海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役 植村裕之

右訴訟代理人弁護士 児玉康夫

同 松村太郎

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告中室實に対し、金一五三一万一九二〇円、原告中室正則に対し、金五一五万二二一〇円、原告中室祥浩に対し、金五一五万二二一〇円及びこれらに対する平成一〇年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告中室實(以下「原告實」という。)の妻である中室貴美枝(以下「亡貴美枝」という。)運転の普通乗用自動車(同乗者は、右二人の子である中室崇之)が、衝突事故を起こし、亡貴美枝及び中室崇之(以下「亡崇之」という。)が死亡したが、亡貴美枝及び亡崇之の相続人である原告らは、亡崇之が記名被保険者として被告と契約していた自動車保険契約に基づいて保険金の請求をしたが、被告は、亡崇之と亡貴美枝は、自動車総合保険における運転者家族限定特約条項の同居の親族に該当しないとして支払を拒否したため、亡崇之が被告と契約を締結していた自動車保険契約の適用を求めて原告らは、保険金の支払請求等をなしたものである。

一  争いのない事実等

1  原告實は、後記2記載の交通事故で死亡した亡貴美枝の夫であり、同交通事故で死亡した亡崇之は、原告實、亡貴美枝の長男であり、原告中室正則は、次男、原告中室祥浩は、三男である(甲1ないし5)。

被告は、損害保険業等を目的とする会社である。

2  交通事故

(一) 日時 平成一〇年八月三日午前一一時四五分ころ

(二) 場所 北海道山越郡八雲町熱田四四番地先路上

(三) 被害車両 普通乗用自動車(千葉五三と三〇八九)

(四) 被害車両運転者 亡貴美枝

(五) 被害車両の保有者 亡崇之

(六) 加害車両 大型貨物自動車(函館八八か四七五)

(七) 加害車両運転者 児玉隆

(八) 加害車両の保有者 月寒運輸株式会社

(九) 事故態様 亡貴美枝は、被害車両を運転して、(二)の場所を函館方向から長万部方向へ走行中に、対向車線にはみ出したところを、反対車線を対向してきた加害車両と正面衝突し、亡貴美枝が外傷性ショック等により、平成一〇年八月三日午後五時〇五分に死亡し被害車両に同乗していた亡崇之も同日午後〇時三〇分に肺挫傷等により死亡した。

3  被害車両の保有者である亡崇之は、被害車両について被告との間において次の内容の自動車保険契約(以下「本件自動車保険契約」という。)を締結した。

(一) 保険の種類 自動車総合保険(PAP)

(二) 証券番号 一六七〇-四九一九五〇

(三) 保険期間 平成九年一二月二七日から平成一〇年一二月二七日

(四) 保険契約者 亡崇之

(五) 保険金額 対人無制限、対物二〇〇〇万円、自損事故一五〇〇万円、搭乗者傷害一〇〇〇万円

(六) 被保険自動車 千葉五三-と三〇八九

(七) 年齢条件 二一才以上担保

(八) 運転者家族限定 有(以下「本件運転者家族限定条項」という。)

二  争点

1  亡崇之を記名被保険者とする本件自動車保険契約において、亡貴美枝が本件運転者家族限定条項の同居の親族に該当するかどうか。

(原告らの主張)

本件運転者家族限定特約条項の「同居の親族」を被保険者とした理由は、「同居」の親族であれば、記名被保険者の承諾なくして自動車を日常的に使用する関係にあるからである。亡崇之は、神奈川県川崎市内に住民票上の住所があり、そこに寝泊まりしていたとはいえ、実家である亡貴美枝の住居に身の回りの品を置いており、また、実家には、週一、二回の割合で帰宅し、家族と共に食事をし、宿泊もしていたものである。また、亡崇之は、被害車両で被保険自動車と別の車両の二台を所有し、被告と締結した各自動車の保険契約の住所も実家の住所としていたものである。また、亡崇之は、本件交通事故当時、三三才で、コンピューターのネットワークの仕事に従事し、自費で種々の電子機材を購入して研究していたため、出費も多く、そのため、原告實が毎月四、五万円を援助することが多かった。したがって、亡貴美枝は、記名被保険者である亡崇之の承諾なくして被保険車を日常的に使用する関係にあったといえ、「同居の親族」に該当する。

(被告の主張)

亡貴美枝は、本件自動車保険契約における記名被保険者である亡崇之の「同居の親族」とはいえない。すなわち、亡崇之は、平成八年四月から、神奈川県川崎市宮前区宮前平一丁目七番一七号レクタングル宮前平三〇五号に居住していた。住民票も同所に移した。亡貴美枝は、千葉市花見川区検見川町五丁目二二〇九番地の一八に居住しており、亡崇之の居住していたマンションに居住していない。亡貴美枝が、記名被保険者の家屋に一緒に居住していた事実がない以上、亡貴美枝は、本件運転者家族限定特約における「同居の親族」には該当しない。

2  被告が、亡貴美枝が亡崇之の「同居の親族」に該当しないと主張することは信義則に違反するか否か。

(原告らの主張)

仮に、亡貴美枝と亡崇之が「同居の親族」とはいえないとしても、被告及び被告の取扱代理店であるNECファシリテイーズ(本社)は、本件自動車保険契約の締結以前から、亡崇之が神奈川県川崎市宮前区宮前平一丁目七番一七号レクタングル宮前平三〇五号室に居住していることを知りながら、同所を本件自動車保険契約上の住所とすることを指導または要求することもなく、実家である千葉市花見川区検見川町の住所を亡崇之の住所とすることを認め、右住所に亡崇之の同居の親族がいることを前提として運転者家族限定特約付きの本件自動車保険契約を締結することを認めてきたものである。右のような経緯を考えると、被告が「同居」の親族でないと主張することは信義則に反し許されない。

(被告の主張)

本件自動車保険契約における、記名被保険者亡崇之の住所を千葉市花見川区検見川町の住所としたのは、亡崇之が保険申込に際して使用したので保険証券にその旨表示されているだけのことである。本件自動車保険における本件運転者家族限定特約条項の適用において、本件交通事故発生時における真実の住所を被告が主張することは信義則に反するものではない。

また、被告及び保険代理店が契約時に亡崇之の住所の実際を知っていることはなく、保険代理店は、保険商品を募集・販売する独立の商人であって、契約締結権限は有するが、約款の解釈、適用あるいは変更についてなんらの権限も有していないものである。

3  本件において、死亡保険金に重ねて医療保険金の支払を求めることができるか否か。

(原告らの主張)

本件自動車保険契約における自動車総合保険普通保険約款第四章一〇条二項(以下「本件約款第四章一〇条二項」という。)は、死亡保険金を支払う場合に、既に支払った医療保険金がある場合には、これを控除する旨規定している。しかしながら、右規定は、不合理であり、死亡保険金はあくまでも死亡という事故について支払われるものであり、傷害(による加療という)事故について支払われるものではないから、二つの事故が発生した以上、それぞれの保険金が支払われるべきである。したがって、右約款は無効である。

(被告の主張)

保険約款に定められた条項は、強行法規に触れない範囲において、各当事者の意思、知・不知にかかわらず拘束力を有することは確定した判例であり通説である。したがって、本件約款第四章一〇条二項が、無効であるとはいえないし、死亡保険金と医療保険金とを競合して支払えとの原告らの主張は保険金額を超えて支払えというものであって、保険法理論の基本に反するものである。

4  自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条の損害賠償責任が認められる場合には、自損事故保険金を請求することができるか否か。

(原告らの主張)

前記約款第二章一条一項は、自賠法三条による損害賠償請求権が発生している場合は、自損事故保険金を請求できない旨規定している。しかしながら右規定は不合理である。そもそも、自損事故保険制度の趣旨は、自損事故被害者の救済ということにあり、自賠法上の損害賠償によって僅かな(自損事故保険金の額にくらべて)被害回復しかできない場合に、自損事故保険金の支払が全く認められないという事態を容認することになるような考えは採用できない。被害者の過失がそれほど大きくなく、加害者の過失と相まって事故が発生したが、しかも被害者の過失割合が大きい場合には、自賠法三条による賠償額が過失相殺によって小額となり、僅かな補填しかされない場合がある。しかし、過失がより少ない者の損害の補填がより少なくなるという、このような事態は権衡を失しており、被害の回復を図るという保険制度の趣旨からして容認しがたい。よって、前記約款第二章一条一項は無効である。

(被告の主張)

前記約款第二章一条の自損事故条項は、被保険者に生じた損害に対して、自賠法三条に基づく損害賠償請求権が発生しない場合を担保危険とする保険であり、自賠責保険による救済が受け入れられない場合に、いわばその肩代わりとなって被保険者を救済する保険であって、合理的なものである。

原告らの主張は、自賠責保険による救済を超えた利益を追求しようとするものであり、かえって不合理な主張である。

第三争点に対する判断

一  争点1(亡崇之を記名被保険者とする本件自動車保険契約において、亡貴美枝が本件運転者家族限定条項の同居の親族に該当するかどうか。)について

1  前記第二、一の争いのない事実等、証拠(甲11ないし15、20ないし25、27、乙1ないし3、原告實本人)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

(一) 原告實は、後記(二)記載の交通事故で死亡した亡貴美枝の夫であり同交通事故で死亡した亡崇之は、原告實、亡貴美枝の長男であり、原告中室正則は、次男、原告中室祥浩は、三男である。

(二) 交通事故の態様は次のとおりである。

(1) 日時 平成一〇年八月三日午前一一時四五分ころ

(2) 場所 北海道山越郡八雲町熱田四四番地先路上

(3) 被害車両 普通乗用自動車(千葉五三と三〇八九)

(4) 被害車両運転者 亡貴美枝

(5) 被害車両の保有者 亡崇之

(6) 加害車両 大型貨物自動車(函館八八か四七五)

(7) 加害車両運転者 児玉隆

(8) 加害車両の保有者 月寒運輸株式会社

(9) 事故態様 亡貴美枝は、被害車両を運転して、(2)の場所を函館方向から長万部方向へ走行中に、対向車線にはみ出したところを、反対車線を対向してきた加害車両と正面衝突し、亡貴美枝が外傷性ショック等により、平成一〇年八月三日午後五時〇五分に死亡し被害車両に同乗していた亡崇之も同日午後〇時三〇分に肺挫傷等により死亡した。

(三) 被害車両の保有者である亡崇之は、被害車両について被告との間において本件自動車保険契約を締結した。

(1) 保険の種類 自動車総合保険(PAP)

(2) 証券番号 一六七〇-四九一九五〇

(3) 保険期間 平成九年一二月二七日から平成一〇年一二月二七日

(4) 保険契約者 亡崇之

(5) 保険金額 対人無制限、対物二〇〇〇万円、自損事故一五〇〇万円、搭乗者傷害一〇〇〇万円

(6) 被保険自動車 千葉五三-と三〇八九

(7) 年齢条件 二一才以上担保

(8) 運転者家族限定 有

(四) 亡崇之は、昭和四〇年七月二二日生まれで、平成二年三月に大学を卒業後直ぐに、NEC情報システムズに就職し、実家である千葉市花見川区検見川町の自宅から通勤していた。平成八年四月に、神奈川県川崎市にあるNECの中央研究所に異動となったため、通勤と仕事の便宜のため神奈川県宮前区宮前平一丁目七番一七号レクタングル宮前平三〇五号を平成八年四月から賃借することにし、そこに居住するようになった。

(五) 亡崇之は、被害車両であり保険車両(以下「本件自動車」という。)を平成三年ころ購入し、勤務していた会社の関連会社であるNECファシリテイーズが自動車保険の代理店となって、被告の自動車保険に加入し、本件自動車保険契約を締結した。本件自動車保険契約における亡崇之の保険証券上の住所は一貫して実家である千葉市花見川区検見川町としていた。また、亡崇之は、本件自動車とは別の自動車を、平成六年に所有するようになったが、別の自動車についても、実家の住所を亡崇之の保険鉦券上の住所として被告と自動車保険契約を締結していた。

(六) 亡崇之は、平成八年四月から神奈川県川崎市内に居住するようになったが、家具等の生活必需品はできるだけ少なくし、また、週末には実家である千葉市花見川区検見川町の家に帰宅することが多く、原告ら及び亡貴美枝とともに食事をしたり、宿泊もしていた。亡貴美枝は、月に一、二度くらいの割合で亡崇之の神奈川県川崎市内の家を訪れ、崇之の衣類の洗濯をしたり、二、三日分の食事を作って冷凍保存をし、宿泊をしたりしていた。

また、亡崇之の収入は手取りで約月二〇万円弱程度であったが、家賃、共益費、駐車場の合計額が毎月一三万七七五〇円であり、家賃については、勤務先から毎月七万円の補助が出ていた。亡崇之は、コンピューターのネットワークの仕事に従事しており、自主的に種々の電子機材などを購入して研究をしていたため、生活費以外の出費も多く、給料だけでは不足するため、原告實が、毎月四、五万円の生活費を援助していた。本件自動車とは別の自動車については、千葉市内の実家に置き、亡崇之以外の家族が利用していたが、本件自動車については、普段はもっぱら亡崇之が利用し、神奈川県川崎市内の亡崇之の家に駐車場も借りていたのでそこに駐車しておき、週末に千葉市内の実家に帰ったときには、家族も利用していた。

2  本件運転者家族限定特約条項にいう記名被保険者の「同居の親族」に該当するかどうかは、同条項の趣旨に即して考えるのが相当である。そして同条項は、記名被保険者と身分的、経済的に一体性が強く、被保険自動車の使用頻度の高いと考えられる一定範囲の親族に被保険者の地位を与えたものと解するのが相当である。したがって、同条項の記名被保険者の同居の親族とは、同一家屋に居住しているとみることができれば十分であって、同一生計を営んでいる必要はなく、扶養関係がある必要もないというべきである。そこで検討すると、前記認定した事実によると亡崇之は、昭和四〇年七月二二日生まれで、平成二年三月に大学を卒業後直ぐに、NEC情報システムズに就職し、実家である千葉市花見川区検見川町の自宅から通勤していた。平成八年四月に、神奈川県川崎市にあるNECの中央研究所に異動となったため、通勤と仕事の便宜のため神奈川県宮前区宮前平一丁目七番一七号レクタングル宮前平三〇五号を平成八年四月から賃借することにし、そこに居住するようになった。家具等の生活必需品はできるだけ少なくし、また、週末には実家である千葉市花見川区検見川町の家に帰宅することが多く、原告ら及び亡貴美枝とともに食事をしたり、宿泊もしていた。亡貴美枝は、月に一、二度の割合で亡崇之の神奈川県川崎市内の家を訪れ、崇之の衣類の洗濯をしたり、二、三日分の食事を作って冷凍保存をし、宿泊をしたりしていた。本件自動車とは別の自動車については、千葉市内の実家に置き、亡崇之以外の家族が利用していたが、本件自動車については、普段はもっぱら亡崇之が利用し、神奈川県川崎市内の亡崇之の家に駐車場も借りていたのでそこに駐車しており、週末に千葉市内の実家に帰ったときには、家族にも利用されていたというものである。

記名被保険者が亡崇之である本件においては、亡崇之の住所である神奈川県川崎市内の家に亡貴美枝が前記観点から同居の親族に該当するかを検討する必要があるが、亡貴美枝が、亡崇之の家に洗濯等月に一、二度の割合で行き宿泊もしていた事実が認められるものの、本件自動車については、駐車場を借りて普段は亡崇之が利用していたものであって、亡貴美枝が利用していたことをみとめることはできない事情を考慮するときは、亡崇之の住所において亡貴美枝が同一の家屋に居住しているとみることはできないのであって、右のように解することは本件特約条項が、記名被保険者の配偶者と未婚の子については、別居している者でも「家族」に含まれるが、同居の親族と限定していることとの調和という観点からも妥当であると解する。そうすると、亡貴美枝は記名被保険者亡崇之の同居の親族とはいえないので、本件自動車保険契約の適用はないことになる。

二  争点2(被告が、亡貴美枝が亡崇之の「同居の親族」に該当しないと主張することは信義則に違反するか否か。)について

被保険者の実際の住所が何処にあるかについては、自動車保険約款の適用が問題になった際の解釈の問題であるし、本件において、被告及び保険代理店であるNECファシリテイーズが亡崇之の実際の住所を明確に知っていたことを認めるにたりる証拠はない(なお原告實の本人尋問結果中には、亡崇之の実際の住所を右保険代理店が知っていた旨供述する部分があるが、その根拠は必ずしもはっきりせず、この部分は直ちには採用できない。)などのことからすれば、被告が、亡貴美枝が亡崇之の「同居の親族」に該当しないと主張することは信義則に反するとはいえない。

三  以上によれば、本件自動車保険契約の適用がないことになる本件においては、その余の点を判断するまでもなく本件請求は理由がないことになるから主文のとおり判決する。

(裁判官 浦木厚利)

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