東京地方裁判所 平成11年(ワ)14044号 判決 2001年3月28日
原告
吉川元宏
被告
三橋義人
主文
一 被告は、原告に対し、一億〇七〇二万一二二四円及びこれに対する平成四年八月一七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その四を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金一億三七五三万一〇四四円及びこれに対する平成四年八月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、信号機が設置されている交差点で、被告運転者車両の対面信号が赤色を表示していたにもかかわらず、左折可の青色矢印信号に変わったのを直進できるものと見誤り、被告が車両を発進させて直進したことから、同交差点を青色信号に従って右折進行してきた原告運転の自動二輪車と被告車両を衝突させた事故につき、原告が、被告に対し、車両の運転者として民法七〇九条により、また、車両の保有者として自動車損害賠償保障法三条により、損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実
(一) 事故の発生
次の交通事故が発生した(以下「本件交通事故」という。)。
ア 事故日 平成四年八月一七日 午前一時二〇分ころ
イ 事故現場 川崎市高津区子母口五一六番地先交差点(以下「本件交差点」という。)
ウ 加害車両 被告運転・保有の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)
エ 被害車両 原告運転の自動二輪車(以下「原告車」という。)
オ 態様 被告車が信号機が設置されている交差点で、対面信号が赤色を表示していたにもかかわらず、左折可の青色矢印信号に従ったのを直進できるものと見誤り、同交差点に進入し、同交差点を青色信号に従って右折進行してきた原告車と衝突させた。
カ 結果 原告は、本件交通事故により、右大腿・膝・下腿骨開放骨折、骨盤骨折、前胸部挫創、右結膜下出血、出血性ショック、右腓骨神経麻痺等の傷害を負った(甲二の一、二、四)。
(二) 損害のてん補
ア 原告は、自動車損害賠償責任保険から後遺障害にかかる損害賠償金として一八八九万円の支払いを受けた。
イ 安田火災海上保険株式会社が本件交通事故に関する賠償金として支払った金額は以下のとおりである。
(ア) 各病院に計七二三万一九〇九円
(イ) 健康保険組合に八九四万八二二九円
(ウ) 原告に一九七万六三一五円
(エ) タクシー会社に一六五万七一二〇円
(オ) 装具会社に一一九万五一四一円
二 争点
(一) 過失相殺
ア 被告の主張
本件衝突時の被告車の速度は時速一五キロメートルであり、被告は、衝突前には原告及び原告が運転する自動二輪車に気づいていない。そして、原告が受けた傷害は、第二(事案の概要)の一(一)カ(結果)で認定したとおりの重傷である。これらの事情を総合すると、原告の運転していた自動二輪車は、制限速度を大きく超える高速で走行していたものと推認される。
原告には、このように高速で走行していた過失があるから、損害額の算定に当たり、この過失が十分斟酌されるべきである。
イ 原告の主張
本件交通事故は、被告が本件交差点に進入するに際し、直進方向の信号が赤色であるにもかかわらず、左折矢印が青色に変わったのを見て直進できるものと誤信して本件交差点に進入した結果、本件交差点に青色信号に従い進入した原告車と衝突したものである。
本件交通事故は、被告の一方的過失により発生したもので、原告には一切過失はない。
(二) 損害
ア 原告の主張
本件交通事故により原告は以下のとおり損害を被った。
(ア) 付添看護費 一〇九万二〇〇〇円
原告の近親者は、事故日である平成四年八月一七日から平成五年二月一四日までの一八二日間付添看護をし、一日あたりの付添看護料六〇〇〇円が相当であるから、付添看護料は一〇九万二〇〇〇円となる。
(イ) 入院雑費 六〇万五八〇〇円
原告の入院に伴う入院雑費は一日あたり一三〇〇円が相当であり、全入院期間四六六日であるから、入院雑費は六〇万五八〇〇円となる。
(ウ) 将来の治療費
a カップ置換手術 三六二万九二四六円
(a) 原告の右大腿部には骨頭カップが留置されているが、同カップの耐用年数は一五年であり、原告は、平均余命までの間に少なくとも三回はカップを置換する手術を受ける必要がある。そして、上記手術一回分に伴う損害は以下のとおり合計四四〇万七一〇〇円である。
<1> 手術費及び入院治療費 九〇万円
<2> 入院付添費 三〇万円
上記手術には五〇日間の入院が必要であり、一日あたりの入院付添看護費は六〇〇〇円が相当であるから、上記手術に伴う入院付添費は三〇万円である。
<3> 入院雑費 六万五〇〇〇円
上記入院に伴う入院雑費は一日あたり一三〇〇円が相当であり、入院五〇日間の雑費合計は六万五〇〇〇円である。
<4> 休業損害 九四万二一〇〇円
平成九年賃金センサス大卒男子全年齢平均の年収が六八七万七四〇〇円(一日あたり一万八八四二円)であるから、上記入院五〇日に伴う休業損害は九四万二一〇〇円である。
<5> 慰謝料 二二〇万円
上記手術及びその後の治療に伴う入院期間は五〇日、通院期間は三年であり、慰謝料額は二二〇万円が相当である。
(b) 中間利息控除後の金額
前記一回の手術に伴う損害合計額四四〇万七一〇〇円から、それぞれの手術時までの中間利息(年五分)を控除した額は以下のとおりである。
<1> 一五年後の手術費 二一一万九八一五円
四四〇万七一〇〇円×〇・四八一〇(複利原価表)=二一一万九八一五円
<2> 三〇年後の手術費 一〇一万九三六二円
四四〇万七一〇〇円×〇・二三一三(複利原価表)=一〇一万九三六二円
<3> 四五年後の手術費 四九万〇〇六九円
四四〇万七一〇〇円×〇・一一一二(複利原価表)=四九万〇〇六九円
b スクリュー、髄釘等の抜去手術 二三五万九八一四円
原告の右大腿部には上記カップのほか、臼蓋スクリュー、プレート等が残置され、また右下腿部には髄内釘、プレート、スクリュー等が残置されているが、上記残置物を抜去する手術を行う必要がある。そして、上記手術に伴う損害は以下のとおりである。
(a) 手術費及び入院治療費 三〇万円
(b) 入院付添費 一二万六〇〇〇円
上記手術に際しては、二一日間の入院が必要であり、一日あたりの入院付添看護費は六〇〇〇円が相当であるから、上記手術に伴う入院付添費は一二万六〇〇〇円である。
(c) 入院雑費 二万七三〇〇円
上記入院に伴う入院雑費は一日あたり一三〇〇円が相当であり、入院二一日間の雑費合計は二万七三〇〇円である。
(d) 休業損害 二〇万六五一四円
原告の年収は三五八万九五九五円(一日あたり九八三四円)であるから、上記入院二一日間に伴う休業損害は二〇万六五一四円である。
(e) 慰謝料 一七〇万円
上記手術及びその後の治療に伴う入院期間は二一日、通院期間は六か月であり、慰謝料額は一七〇万円が相当である。
c 右下肢に対する矯正骨切り手術 三六四万五一七四円
原告の右下肢部分は内反している状態にあるが、この下肢内反に対しては矯正骨切り手術を行う必要がある。そして、上記骨切り手術に伴う損害は以下のとおりである。
(a) 手術費及び入院治療費 六〇万円
(b) 入院付添費 三六万六〇〇〇円
上記手術に際しては、六一日間の入院が必要であり、一日あたりの入院付添看護費は六〇〇〇円が相当であるから、上記手術に伴う入院付添費は三六万六〇〇〇円である。
(c) 入院雑費 七万九三〇〇円
上記入院に伴う入院雑費は一日あたり一三〇〇円が相当であり、入院六一日間の雑費合計は七万九三〇〇円である。
(d) 休業損害 五九万九八七四円
原告の年収は、三五八万九五九五円(一日あたり九八三四円)であるから、上記入院六一日間に伴う休業損害は五九万九八七四円である。
(e) 慰謝料 二〇〇万円
上記手術及びその後の治療に伴う入院期間は六一日、通院期間は一年であり、慰謝料額は二〇〇万円が相当である。
(エ) 逸失利益
a 就職が一年間遅れたことによる逸失利益 三二二万八八〇〇円
原告は、本件交通事故当時、高等学校卒業後大学に進学すべく受験準備中であったが、本件交通事故により、当該年度の入学試験を受験することができず、翌年の入学試験を受験し、大学に入学したことにより、卒業が一年遅れとなり、これにより賃金センサス平成九年大卒男子二〇歳~二四歳の平均年収三二二万八八〇〇円の損害を被った。
b 後遺症逸失利益 一億一〇二四万〇二一〇円
(計算式)
基礎収入(六八七万七四〇〇円(賃金センサス平成九年大卒男子全年齢平均))×労働能力喪失率(九二%)×中間利息控除(一七・四二三二(稼働可能年数四二年に対応するライプニッツ係数))
(オ) 慰謝料
a 入通院慰謝料 四〇〇万円
b 後遺障害慰謝料 一六〇〇万円
(カ) 弁護士費用 一一六二万円
イ 被告の主張
(ア) 付添看護費
争う
(イ) 入院雑費
争う
(ウ) 将来の治療費
争う。仮に、スクリュー、髄釘などの抜去手術や矯正骨切り手術の損害が認められるとしても、ライプニッツ係数により、原価が算出されるべきである。
(エ) 逸失利益
a プレート除去や手術による改善
原告は、下腿のプレート除去と股関節カップの螺糸除去等の手術が予定されており、これらの除去や手術が行われれば、原告の後遺障害はさらに改善されるはずである。
b 原告の労働能力喪失率の程度
低度から高度まである労働能力の喪失率の中で、原告の労働能力喪失は中程度と解すべきであり、具体的にいえば五六%を限度とするものというべきである。
c 本件交通事故後に生じた二回の骨折による損害の除去
本件交通事故後の二回の骨折とも原告の不注意、過失によるものと言わざるを得ず、これによる損害は、逸失利益及び慰謝料から控除すべきである。
(オ) 慰謝料
争う。
(カ) 弁護士費用
争う。
第三裁判所の判断
一 争点一(過失相殺)について
(一) 上記第二の一(一)オで認定した事実及び甲五、乙四によれば、被告は、信号機により交通整理の行われている交差点において、対面信号が赤色を表示していたにもかかわらず、左折可の矢印信号が青色に変わったのを直進できるものと信号を見誤って、時速約一五キロメートルの速度で交差点に進入し、青色信号にしたがって右折進行してきた原告車と衝突したことが認められる。
(二) 被告は、本件衝突時の被告車の速度は時速一五キロメートルであり、被告は、衝突前には原告及び原告が運転する自動二輪車に気付いておらず、原告が受けた傷害は、第二(事案の概要)の一(一)カ(結果)で認定したとおりの重傷であることを総合すると、原告の運転していた自動二輪車は、制限速度を大きく超える高速で走行していたものと推認されると主張する。
しかし、被告が、衝突前に原告及び原告の運転する自動二輪車に気付いていないという主観的事実から原告の速度違反を推定することはできないし、被告の赤信号無視という過失が極めて大きい本件において、原告の請求につき過失相殺を認めるべき事情はない。
(三) 以上により、被告の過失相殺の主張は認められない。
二 争点二(損害)について
(一) 付添看護費 一〇九万二〇〇〇円
原告は、事故日である平成四年八月一七日から平成九年八月八日までの間に、四六五日入院した(退院日と次の病院の入院日が同一の場合はあわせて一日とする。)ことが認められる(甲二の一ないし二一)。さらに、前記の第二の一(一)カ(結果)で認定した原告の負った傷害の程度を勘案すれば、原告の近親者が事故日から平成五年二月一四日までの一八二日間につき付添看護の必要があったことが認められる。そして、付添看護費としては一日あたり六〇〇〇円が相当である。
(計算式) 六〇〇〇円×一八二日=一〇九万二〇〇〇円
(二) 入院雑費 六〇万四五〇〇円
入院雑費としては一日あたり一三〇〇円が相当である。
(計算式) 一三〇〇円×四六五日=六〇万四五〇〇円
(三) 将来の治療費 一六四万一一五〇円
(ア) カップ置換手術 (七四万一一五〇円)
甲八によれば、一五年ごとのカップの置換治療が必要であり、一回の治療につき治療費として九〇万円が必要であることが認められる。
治療に必要な期間として、甲八によれば、上記治療に必要な入院期間は五〇日、必要な入院日数及び通院期間は三年程度とされており、漠然とした感は否めないこと、後記のとおり、大幅な労働能力喪失に基づく後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料が認められることに鑑み、上記治療に基づく入院付添費、入院雑費、休業損害、慰謝料は認めることはできない。
治療費につき、中間利息を控除すると以下の金額になる。
a 一五年後の治療費
(計算式)九〇万円×〇・四八一〇(複利原価表)=四三万二九〇〇円
b 三〇年後の治療費
(計算式)九〇万円×〇・二三一三(複利原価表)=二〇万八一七〇円
c 四五年後の治療費
(計算式)九〇万円×〇・一一一二(複利原価表)=一〇万〇〇八〇円
(イ) スクリュー、髄釘等の抜去手術 (三〇万円)
甲八によれば、上記抜去手術として、三〇万円の治療費が必要であることが認められる。
入院付添費、入院雑費、休業損害、慰謝料としては、上記と同様に認めることはできない。
なお、現在において、上記治療の必要が認められるので、中間利息を控除することは妥当ではない。
(ウ) 右下肢に対する矯正骨切り手術 (六〇万円)
甲八によれば、上記手術の治療費として六〇万円が必要であることが認められる。
入院付添費、入院雑費、休業損害、慰謝料としては、上記と同様に認めることはできない。
なお、現在において、上記治療の必要が認められるので、中間利息を控除することは妥当ではない。
(四) 逸失利益
(ア) 就職が一年間遅れたことによる逸失利益
逸失利益としては観念することはできず、休業損害として考慮する。
(イ) 後遺症逸失利益 九四六六万二七八九円
a 労働能力喪失率について
甲四によれば、原告は、自動車保険料率算定会において、右下肢短縮(八級五号)、右股用廃(八級七号)、右膝機能障害(一二級七号)、右足機能障害(一二級七号)、右第一、二趾用廃(一二級五号)、骨盤骨変形(一二級五号)の後遺障害が認められ、等級としては併合四級と認定されていることが認められる。
一方、甲六、七の一ないし三によれば、原告は、平成一〇年度において、三五八万九五九五円の収入を得ていることが認められる。
これによれば、原告の労働能力喪失率として、後遺障害等級四級相当の九二パーセントの割合により労働能力が喪失したとすることについては疑問が残る。
しかし、甲九、原告本人尋問の結果によれば、原告は、通勤に際して、最寄り駅まで母親の送迎が必要なこと、通勤や勤務においても相当の制限を受けていることが認められる。
以上によれば、原告は、「特に軽易な労務以外の労務に服することができなくなった」ものとして、後遺障害等級五級相当の七九パーセントの割合により、労働能力を喪失したものと認定するのが相当である。
なお、被告は、原告が下腿のプレート除去と股関節カップの螺糸除去等の手術を受けることが予定されており、これらの手術を受ければ、原告の後遺障害はさらに改善されるはずであるとするが、具体的にどのような後遺障害がどの程度改善されるかについては具体的な主張がないので、この点に関する被告の主張を採用することはできない。
b 事故後の二回の骨折事故の考慮について
原告は、本件交通事故後の平成七年八月七日、ハワイ旅行中に転倒し骨折する事故を起こしていること(乙二)、さらに、平成九年七月一二日にビル内のスロープ上廊下を歩行中(サンダルを履いていた)、雨で床が濡れていたことから転倒し、骨折する事故を起こしていること(乙三)が認められる。
まず、被告は、平成七年の事故につき、慣れない生活を余儀なくされる海外旅行は早すぎたのではないか、仮に早すぎたのでなければ、転倒は原告の不注意によるものと主張している。
しかし、同年の事故は、事故後三年を経過しようとする時期における事故であり、当時大学生であった原告が、それまで長期間の入院等により、辛い生活を送っていたことに鑑みれば、気候が穏やかなハワイにおいて静養しようとすること自体非難できるものではない。また、上記認定した原告が負った傷害の内容、後遺障害の程度に鑑みるならば、原告が通常の歩行をしている場合でも、多少の気の緩みにより転倒する可能性を否定することはできず、これをもって原告の過失と評価しうるものとは解されない。
次に、平成九年の事故は、原告がサンダルを履いていたことから、濡れた床ですべって転倒したものであり、被告は、原告が雨の日にサンダルを履いていたことを非難する。
しかし、原告本人尋問の結果によれば、原告が履いていたサンダルというのは、裏の素材がゴムで滑りにくいものであったということであり、また、足の甲の部分を二か所のベルトで固定し、さらに、かかとから甲の付け根の所までベルトで固定するもので、足の関節に負担をかけないものということである。
このようなサンダルを履いていたことをもって、原告の過失と評価することはできず、原告が転倒したのは、もっぱら本件交通事故に基づく後遺障害によるところが大きいものと評価することができる。
以上により、二回の骨折事故による損害を控除すべきであるとの被告の主張は採用することはできない。
c 以上により、原告の逸失利益は以下の計算式により算定することができる。
(計算式)
基礎収入(六八七万七四〇〇円(賃金センサス平成九年大卒男子全年齢平均))×労働能力喪失率(七九%)×中間利息控除(一七・四二三二(稼働可能年数四二年に対応するライプニッツ係数))=九四六六万二七八九円(一円未満切り捨て)
(五) 就職が一年遅れたことによる逸失利益(休業損害) 三二二万七一〇〇円
原告は、本件交通事故により、平成四年一〇月一日から平成五年二月一四日の期間は慶応義塾大学病院に入院している(甲二の三、四)から、平成五年度の大学入学試験は受験できる状態ではなかったことが認められる。そして、その後も平成五年七月三一日から同年八月七日まで大槻外科病院に(甲二の五)、同年九月一四日から同月二〇日まで稲田登戸病院に(甲二の六)、同月二〇日から同年一一月二八日まで慶應義塾大学病院に(甲二の七)入院し、平成六年四月、大学に入学している(原告本人尋問の結果)ことが認められる。
原告は、受験期間の大部分を入院治療に費やしながら、平成六年四月に大学に入学していることに鑑みれば、平成四年八月一七日の本件交通事故がなければ、平成五年四月に大学に入学していたとみることができる。
よって、原告には、一年間の就職遅れにより休業損害が認められ、その額は賃金センサス平成五年第一巻第一表の大卒二〇歳から二四歳の平均収入三二二万七一〇〇円とみるのが相当である。
(六) 慰謝料 一八六六万円
a 入通院慰謝料 (三一六万円)
原告の入通院期間等を考慮すると、入通院慰謝料としては三一六万円を相当と認める。
b 後遺障害慰謝料 (一五五〇万円)
原告の後遺障害の程度を考慮すると、後遺障害慰謝料としては一五五〇万円を相当と認める。
(七) 以上(一)ないし(六)の小計 一億一九八八万七五三九円
(八) 損害のてん補後の小計 九九〇二万一二二四円
上記(七)の金額から、上記第二(事案の概要)の一(二)(損害のてん補)のうち、自賠責保険から支払われた一八八九万円と安田火災海上保険株式会社が原告に支払った一九七万六三一五円につき、上記原告の損害から控除すると、九九〇二万一二二四円となる。
(九) 弁護士費用 八〇〇万円
本件の弁護士費用としては、八〇〇万円が相当である。
(一〇) 合計 一億〇七〇二万一二二四円
三 結論
よって、原告の請求は、被告に対し、一億〇七〇二万一二二四円及びこれに対する本件交通事故発生日である平成四年八月一七日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり判断する。
(裁判官 影浦直人)