東京地方裁判所 平成11年(ワ)14246号 判決
原告 関東管財株式会社
右代表者代表取締役 土屋主税
被告 株式会社やましょう
右代表者代表取締役 石田臣
右訴訟代理人弁護士 五藤昭雄
主文
一 被告は、原告に対し、金一一四万八〇〇〇円及びこれに対する平成一一年四月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその他の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを四分し、その一を被告の負担とし、その他を原告の負担とする。
四 この判決の第一項は、仮に執行することができる。
事実
第一原告の請求
一 被告は、原告に対し、金四三二万円及びこれに対する平成一一年三月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 仮執行宣言
第二当事者の主張
一 原告の請求原因
1 被告の従業員である島田禮子は、平成一〇年九月二五日午前九時ころ原告を来訪し、被告を辞めて原告に入社したい旨の意思表示を行った。
2 原告代表者土屋(以下では、この意味において単に「土屋」ということがある。)は、基本的にはその場で承諾を与えた。その後、土屋は島田との間の基本契約の内容を煮詰め、一〇月二四日までには成案を得たので、これを島田に示し、若干の修正を経て、同年一一月一二日土屋と島田はこの契約書(甲三)に調印した。なお、この契約では、発効の日は平成一一年一月一日とされていた。
3 ところで、平成一〇年九月二五日に原告が島田の申入れに対し内諾した際、島田は、早速何かよい物件がないかと訊くので、土屋は、丁度前の日に話が持ち込まれたばかりの千場京子所有の古家付宅地の売却物件(宅地は、新座市栗原五丁目七三番一五外二筆であり、以下この宅地を「本件土地」という。)。の話をした。すると、島田は、その資料が是非ほしいと言うので、島田が帰った後、元付業者に連絡して資料(甲一)をファックスで送ってもらい、翌九月二六日に原告の帯を付けた資料(甲二)を島田に手渡した。
4 島田は、平成一一年一月一日以降は原告に出勤し、本件土地等の営業活動に従事した。そして、本件土地の商談は、同年二月四日までには実質的に契約成立の合意をみた。
ところが島田は、その事実を原告に秘して、売買契約の正式調印の頃合いを見計らい、突如二月一三日付けで、同月一四日をもって原告を退職する旨の届(甲五)を原告に提出し、同月一五日に一切の私物を搬出して原告の事務所を退去した。
5 島田は被告に復職し、被告の業務として本件土地に関する契約書への調印等の要式行為を完了させ、被告及び島田は巨額の利益を獲得した。
6 右の事実経過によれば、被告と島田は、島田が原告に社員として入り込み原告の客と物件とを盗み出して利益を得ることをあらかじめ共謀し、原告が売却依頼を受けた千場京子所有の本件土地をあたかも原告の営業として仲介するように装って営業を行い、平成一一年二月四日ころまでに実質的に仲介が成立していたにもかかわらず、二月一四日をもって退職し、その後被告の営業として仲介行為を行って売買契約を成立させて利益を得、これによって原告に損害を与えたものというべきである。
7 被告及び島田の不法行為によって、原告は、本来であれば原告が得たはずの仲介手数料相当額の損害を被った。被告らの不法行為がなければ、原告は、売買代金額七〇〇〇万の三パーセントの金額に六万円を加算した二一六万円の二倍の金額である四三二万円の仲介手数料を得ることができたはずである。
8 よって、原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、四三二万円とこれに対する不法行為後である平成一一年三月一日以降の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する被告の認否
1 請求原因1から3の事実は知らない。
2 同4のうち、島田が平成一一年一月七日ころから同年二月一二日ころまで歩合給営業ウーマンとして原告に在籍したことは認めるが、その他の事実は知らないか争う。
3 同5から7の事実は知らないか争う。
三 被告の主張
1 被告は、千場京子所有の本件土地の売買に仲介業者として関与したが、その経緯は次のとおりである。
(一) 被告は、平成一〇年三月ころ千場から本件土地について、これを売却した場合と賃貸した場合の税務相談を含む収支の相談を受けた。その際、相談を担当した島田禮子が千場に対し、本件土地を売却する場合には是非被告に仲介させてほしいと要請し、同年一〇月四日には、被告は千場との間で一般媒介契約を締結していた。
(二) 千場は、平成一〇年一〇月ころまでの間には、本件土地の売却について、被告のほか、三井リハウス、西武不動産、住友不動産販売などにも代金七三五〇万円で売却の仲介の依頼をしていたが、同価格での買受けの引合いがなく、千場は同年一二月末ころにはその売却を断念していた。
(三) 島田は、平成一〇年一二月末に被告を退職し、平成一一年一月七日から原告の歩合給営業ウーマンとして勤務することになった。しかし、島田は二月一二日に原告代表者の土屋との間で原告の営業方針をめぐって対立し、同日付けで原告から解雇通知を受け、島田も同月一三日付けで原告に退職届を提出して原告を退職し、同月一五日からは被告に復職して被告の営業に再び従事し、現在に至っている。
(四) 島田は、平成一一年一月三〇日ころ、被告の関連会社である株式会社ワイ・エム・エーの大野泰宏から千場所有の本件土地を六八〇〇万円で買い取る希望者がある旨の連絡を受けた。そこで、島田は、千場にその旨を連絡したところ、二月五日ころ千場から七〇〇〇万円でなら売却する旨の回答があり、島田は買主側の大野に対し売主の意向を伝えた。
これに対し大野から、二月一一日に、代金は五〇万円値上げするかわりに本件土地上の建物解体費用約一〇〇万円は売主の負担とするとの買主の意向が伝えられた。
(五) 島田は、二月一五日から被告に復帰したものであるが、その当時、本件土地の仲介業務は売買条件が折り合わず、事実上破談状態にあった。島田は、千場から、二月一七日夜に千場の希望どおり解体費用約一〇〇万円は買主が負担することにして六八五〇万円で売却することを求められ、進退窮まって翌日被告に出社して事情を被告代表者に打ち明けたところ、被告代表者から打開策として解体費用約一〇〇万円は仲介業者が折半して負担し、代金は六八五〇万円でまとまるのではないかと言われ、買主側の仲介業者の大野と折衝した結果、二月二〇日付けで売買が成約するに至ったのである。
したがって、この経緯に照らせば、被告には原告の業務を不法に横取りしたなどという認識は一切なく、かつ、この認識をしなかったことについても過失は全くない。
(六) その後右売買契約は、若干の紆余曲折を経て最終的には平成一一年四月八日に実行され、右同日、被告は売主千場側の仲介業者として千場から二一一万五〇〇〇円(領収金額二二二万〇七五〇円には、消費税相当額の一〇万五七五〇円が含まれている。)を受領したが、そのうち四七万五〇〇〇円は解体費用として深澤工業株式会社に支払い、差額の一六四万円のうち、その四五パーセントに相当する七三万八〇〇〇円は島田に歩合給として支払った。したがって、被告が本件仲介業務の手数料として取得した金額は九〇万二〇〇〇円である(乙五から八、一〇)。
ちなみに、島田が原告方において本件仲介業務を処理した場合、原告が受領可能な手数料の額は、仲介手数料二一一万五〇〇〇円から解体費用四七万五〇〇〇円を控除した差額一六四万円の三〇パーセント(残七〇パーセントは島田の歩合給)に相当する四九万二〇〇〇円である。
2 以上の次第であるから、被告は原告から損害賠償請求を受ける筋合いはない。
四 被告の主張に対する原告の反論
被告の主張は争う。
被告は、本件土地の売買は、破談状態に陥っていたところを、被告からの解体費用の仲介業者負担の新提案によって成約に至ったものであるから、原告には無関係であると主張するが、そのようなことは商談進行過程における紆余曲折の一面に過ぎない。右売買契約は原告からの引継継続の案件にほかならず、しかも島田は、原告に所属していた時から終始一貫本件土地売買にタッチして商談を進めており、成約寸前になって原告との契約を破り、この商談を持ち逃げして被告に走り、わずか五日後に成約を果たし利益を得たもので、その行為は、被告と島田との事前の用意周到な共謀による不法行為以外の何物でもない。
第三証拠関係
本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 事実経過
証拠(甲一から五、九、乙一から一〇、証人島田禮子、同千場京子、原告代表者、被告代表者、調査嘱託の結果)によれば、次の事実を認めることができる。乙九、一〇中及び証人島田の証言及び被告代表者の供述中のこの認定に反する部分は、いずれもその他の各証拠に照らし採用することができない。
1 原告及び被告は、いずれも宅地建物取引業等を業とする株式会社である。
島田禮子は、平成一〇年当時、被告の歩合給の従業員(営業ウーマン)であった。
2 千場京子は、その所有する本件土地の売却を考えていたことから、いくら位で売却できるのかの見当をつける軽い気持ちで、平成一〇年三月ころ被告の店舗を飛込みで訪れた。島田が応対に出て、若干のやりとりが行われたが、千場が本件土地の売却を明言することもなく、島田が、本件土地を売却するときには仲介をさせてほしいとの要請を千場にした程度であった。
3 島田は、同年九月二五日に原告を訪ね、代表者の土屋に対し、被告を辞めて原告に移りたいとの希望を述べた。土屋は、かねて島田とは面識もあり、島田が有能な人材であると思っていたので、正式な契約書を後日作成する前提で島田の申入れを内諾した。その際、島田が何か良い物件はないかなどと尋ねるので、土屋は前日西武不動産販売株式会社から話のあった物件である本件土地のことを話したところ、島田は資料の提供を希望した。
4 これより前の九月二四日、本件土地の話が西武不動産販売から原告に持ち込まれた。本件土地は、原告の居住する土地の一つ置いて隣であったことから、当初原告は買取りを打診されたが、値段が折り合わず、原告はこの件を西武不動産販売を元付業者とする一般仲介として取り扱うことになった。そこで、土屋は島田に対し本件土地のことを話したものであった。
土屋は、島田が帰った後早速本件土地の資料(甲一)を西武不動産販売からファックスで取り寄せ、これを元に原告が客付業者であることを示す原告の帯を付して資料(甲二)を作成し、九月二六日に島田にこれを交付した。その際、土屋は、島田(法律的には島田の所属する被告)の仲介で本件土地の売買契約が成立した場合には業界の慣習により仲介手数料を被告と折半することになるものと考えていた。
5 一方、これより先、千場は西武不動産販売、住友不動産販売等の仲介業者に本件土地の売却の仲介を依頼しており、西武不動産販売に対する依頼が同会社から原告に回ってきたものであった。島田は、この資料を見て、物件がかつて島田自身が相談を受けた千場の物件であることを認識し、早速買客を探してその話を千場に持ち込んだ。千場は島田の話を聞いて、島田が持ち込んだ当該特定の買客との売却交渉を進めるため、一〇月四日付けで当時島田が属していた被告との間で一般媒介契約書(有効期間は平成一一年一月三日までの三か月)を取り交わした。しかし、その買客との売買は成約するに至らず、これにより千場と被告との間の仲介依頼の契約関係は実体的には終了した。
6 ところで、原告と島田とは、同年一一月一二日に「委任契約書」を取り交わした(以下この契約を「本件委任契約」という。)。その主な内容は次のとおりである。
<1> 島田は、対外的には原告の名で営業活動をし、物件売買の仲介により成約させることを主要な業務とするが、契約の締結行為は原告の責任と名において原告が行う(一条、二条。以下本件委任契約における島田の地位を「歩合給社員」という。)。
<2> 島田の右業務に起因して成約した手数料収入は、その総額の七〇パーセントを島田が取得し、原告の取分は残りの三〇パーセントとする(三条)。
<3> 原告に持ち込まれた情報や物件についてはもちろん、原告の商号、信用、存在、立地、宣伝(ただし、島田が自費で行った広告を除く。)等、直接間接を問わず成約の端緒が原告に起因した物件の契約に対する手数料収入については、その七〇パーセントを原告が取得し、島田は残りの三〇パーセントを取得する(六条)。
<4> 本契約は、平成一一年一月一日から発効する(七条)。
<5> 本契約は六か月毎に契約解除を含めて見直しをし、異議がなければさらに六か月更新し、以後も同様とする(八条)。
7 島田は、平成一〇年一二月末に被告を退職し、平成一一年一月七日から原告の事務所を使用して原告の歩合給社員として営業活動を始めた。ところが間もなく島田と土屋との間で感情的な行違いが生じて次第にそれが増大し、二月一一日夜には両者の関係は決定的に悪化した。ここに至って土屋は島田との契約を解消する意思を固め、他方島田も同月一三日に土屋に対し退職届を提出したので、これをもって本件委任契約に基づく原告と島田との契約関係は解消された。島田は、その後同月一五日に被告代表者と話をして被告に復帰することになり、一六日から被告で仕事をするようになった。
8 ところで、本件土地に関する被告と千場との媒介契約は名実ともに平成一一年一月三日の経過をもって終了していたが、島田は原告の歩合給社員として働き始めた後も、独自に本件土地の買主を探していた。そのような中、平成一一年一月三〇日ころ、不動産仲介業者である株式会社ワイ・エム・エーの大野泰宏から島田に対し、本件土地を六八〇〇万円で買いたい客(石村順一ら)がいるとの連絡を受けた。島田が千場にこの件を伝えたところ、二月五日に千場から七〇〇〇万円なら売却するという意向が伝えられた。これに対し買客からは、同月一一日に六八五〇万円の提示があっだが、建物解体費用(当時の概算の見積で約一〇〇万円)は負担できない(つまり、売主が負担してほしい)という意向であり、その後島田において調整した結果、千場の方は、同月一七日夜に代金額が六九五〇万円であれば建物解体費用は自分が負担してもよいというところまで行った。しかし、結局実質一〇〇万円の差を埋めることができず、交渉は膠着状態になった。そこで、島田が被告に復帰した直後の二月一八日ころ、島田、被告代表者、大野が相談し、解体費用は仲介業者(被告及びワイ・エム・エー)が折半で負担することで意思統一し、二月二〇日に千場及び買客に被告事務所に来てもらい、島田らが千場に対し、代金を六八五〇万円とし、建物解体費用は仲介業者が負担することで売買契約を締結するよう説得した。千場は自己の希望の条件で契約が成立するものと思って被告事務所に来ていたことから、代金額が希望の六九五〇万円から六八五〇万円に下がることになかなか同意しなかったが、最終的にはこれを了承し、売買代金額を六八五〇万円とし、建物解体費用は仲介業者が負担して売買当事者には負担させないこととして、千場と石村らとの間で本件土地の売買契約が成立した。
9 被告は、右売買契約成立の日である平成一一年二月二〇日に本件土地の仲介について千場との間で専任媒介契約書を取り交わし、代金支払が実行された同年四月八日に、千場から仲介手数料として二一一万五〇〇〇円及び消費税一〇万五七五〇円、合計二二二万〇七五〇円の支払を受けた。そして、被告及びワイ・エム・エーは、本件土地上の建物の解体費用としてそれぞれ四七万五〇〇〇円ずつを負担した。
その後被告は、千場から受領した仲介手数料から負担した建物解体費用を控除した実質利益を基準として、あらかじめ決められた島田との配分比率に応じて島田に歩合給を支払った。
二 不法行為の成否
右認定の事実に基づき、原告の主張する不法行為の成否について判断する。
1 右一に認定の事実によれば、平成一一年一月三〇日にワイ・エム・エーの大野から島田にあった本件土地の売買の話は、千場と被告との間の媒介契約が平成一一年一月三日までに名実ともに終了した後に持ち込まれたものであり、その際島田は既に原告において原告の名と計算で不動産仲介をする歩合給社員の立場にあったから、この仲介に関する仕事は、本件委任契約上原告の名と計算において行う原告の不動産仲介業務に属するものであったと認められる。そして、右の仲介は、島田が原告との契約関係を解消する二月一三日までの間に島田や大野の仲介行為によって相当程度条件の開きが詰まってきていたものの成約にまでは至っていない状態であったところ、そのような状況下において、島田が被告に復帰した後の同月一八日に建物解体費用を仲介業者側が負担する妥協案を提示することで被告、島田、大野(ワイ・エム・エー)が意思統一し、二〇日に千場を説得した結果本件土地の売買契約が成立したものであったから、一月三〇日から契約成立の二月二〇日までの過程は、新たな買客(石村順一ら)が現れて交渉が開始され、紆余曲折の末ねばり強い仲介活動の結果成約に至ったという一連の過程であったと認めるのが相当である。証人島田及び被告代表者は、平成一一年一月三〇日から始まった石村順一らとの売買交渉は条件が合わずにいったん終了したものである旨供述するが、前記一の認定事実に照らし、そのように認めることはできない。したがって、本件委任契約上、千場所有の本件土地売買に関する仲介は、本来原告の仲介業務であることを前提として、島田において原告と契約関係を解消する時に原告に置いてくるか、原告の仲介業務という位置づけで活動を継続すべきものであったと解するのが相当である。
しかるに、島田は、被告に復帰した二月一六日以降この仲介活動を被告の仲介業務として続行して成約させ、被告に仲介手数料を取得させたものであるから、島田はこれによって原告の権利を侵害したものというべきである。そして、島田は右仲介活動の性格を認識していたものと認められるから、この権利侵害について故意があったと認めるのが相当である。
他方、被告は、客観的には、原告の業務に属する仲介行為を島田に対し被告の業務として続行させて成約させ、仲介手数料全額を自己が取得しているのであるから、被告の行為は島田の行為と客観的に関連し共同した原告の権利を侵害する行為であったと認められる。そして、前記一の認定事実と証拠(乙一〇、被告代表者)を併せると、被告代表者は島田から、二月一八日の段階で、売主である千場の希望が七〇〇〇万円、買主側の希望が六八五〇万円で更地渡しという状態で交渉が難航していること、同月一七日夜に千場の条件が代金六九五〇万円、建物解体費用売主負担というものであったことを聞かされたこと、その際被告代表者は、千場がかつて被告と平成一〇年一〇月四日付けで一般媒介契約を締結し、その媒介が成約に至らなかったものであったことを認識していたことが認められる。そして、被告代表者が島田から聞かされた交渉の経過のうち、売主である千場の希望が七〇〇〇万円、買主側の希望が六八五〇万円で更地渡しという状態で交渉が難航していたのは、前記一に認定したように、島田が歩合給社員として原告に所属していた時以来のことであったし、そのような交渉が二、三日の短期間のものではなく、島田が原告の歩合給社員であったころからのものであることは容易に認識可能なものであったというべきである。したがって、被告には、原告の権利侵害について少なくとも過失があったというべきである。
そうすると、被告及び島田の右各不法行為は共同不法行為に該当し、被告は右不法行為によって原告に生じた損害を賠償する義務がある。
なお、原告は、島田が原告に社員として入り込み原告の客と物件とを盗み出して利益を得ることをあらかじめ共謀し、原告に対する不法行為を行ったと主張するが、前記一に認定の事実経過に照らし、そのように認めることはできない。
2 そこで次に、被告の不法行為による原告の損害について検討する。
前示のとおり、千場と石村との間の本件土地の売買契約は、仲介業者が建物解体費用を負担することで成約にこぎ着けたものであるが、その経済的実質は仲介手数料を建物解体費用負担額だけ減額したというものであるから、このような調整行為は、通常あり得る仲介行為の範囲内のものというべきである。よって、原告は、被告の不法行為によって、被告が現に取得した仲介手数料に係る利益の額のうち原告が取得できるはずであった利益の額に相当する損害を被ったものと認められる。この仲介手数料に係る利益の額は、被告が取得した仲介手数料額二一一万五〇〇〇円から被告が負担した建物解体費用四七万五〇〇〇円を差し引いた一六四万円になるところ、原告の損害としては、この額から原告が島田に支払うべき歩合給分を差し引くのが相当である。
しかるところ、前記一の認定事実によれば、本件土地の仲介活動に島田が関わるようになった原因は、平成一〇年九月二六日に原告から本件土地の資料を受領し本件土地が売りに出ているとの情報を得たことであり、被告と千場との間の同年一〇月四日付けの一般媒介契約締結も、平成一一年一月三〇日の大野からの買客の紹介も、すべて平成一〇年九月二六日の原告からの物件紹介の延長線上にあるものと評価するのが相当である。島田は、平成一〇年三月ころに被告を訪れた千場の応対をしたことがあったが、その際には千場から売却の意向は示されておらず、まして本件土地の売却仲介について被告と千場との間で合意が成立したものでもないから、その際の経緯が本件土地売却の仲介活動に島田が関与するに至った原因であるということはできない。したがって、平成一一年二月二〇日の本件土地の売買契約成立は、本件委任契約六条にいう「直接間接を問わず成約の端緒が原告に起因した物件の契約」に該当するから、原告が本来取得できるはずであった仲介手数料に係る利益は、右一六四万円の七〇パーセントに相当する一一四万八〇〇〇円であると認めるのが相当である。
そうすると、原告は被告に対し、損害賠償として一一四万八〇〇〇円の支払を請求できるというべきである。なお、被告が遅滞に陥ったのは、損害発生の時、すなわち仲介手数料が千場から被告に支払われた平成一一年四月八日と認めるのが相当である。
三 結論
以上の次第で、原告の請求は、損害賠償金一一四万八〇〇〇円とこれに対する平成一一年四月八日以降の民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その他は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 岩田好二)