東京地方裁判所 平成11年(ワ)14717号 判決
原告 有限会社東京サービス
右代表者代表取締役 須田一造
右訴訟代理人弁護士 雨宮眞也
同 小幡葉子
同 板垣眞一
同 本山健
被告 株式会社野田学園
右代表者代表取締役 川原洋一
右訴訟代理人弁護士 緒方道夫
主文
一 被告が原告に賃貸している別紙物件目録記載の建物の賃料は、平成一〇年一一月一九日以降一か月三三五万八五〇〇円であることを確認する。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に賃貸している別紙物件目録記載の建物の賃料は、平成一〇年一一月一九日以降一か月二〇六万四二六〇円であることを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、平成九年四月一五日、原告に対し、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を、次の約定により賃貸し(以下この賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)、本件建物を引き渡した。
賃貸期間 平成九年四月一五日から平成一九年四月一四日まで一〇年間
賃料 一か月三七五万三二〇〇円(一坪当たり二万円)
2 原告は、平成一〇年一一月一六日、被告に対し、内容証明郵便により本件建物の賃料を同日以降一か月二〇六万四二六〇円(一坪当たり一万一〇〇〇円)に減額するとの意思表示をし、この内容証明郵便は、同年一一月一八日、被告に到達した。
3 以下の事実があるから、第1項記載の本件建物の賃料は、前項の内容証明郵便の到達した平成一〇年一一月一八日の時点(以下「基準時」という。)では、不相当となった。
(一) 本件賃貸借契約が締結された平成九年四月頃と比較して、基準時頃までに、さらには現在に至るまで、地価、建物価格、物価等が下落し、それに伴って賃料も下落するなど、経済事情が変動した。
(二) 本件建物の所在する八重洲地区に隣接する京橋地区において、同種の店舗用建物の賃料を見ると、地下一階部分ではあるものの一坪当たり一万二〇〇〇円で募集されている物件が存在する。
(三) 従前の賃料が決定された平成九年四月から基準時までに約一年七月が経過している。
(四) 本件建物は、昭和三八年三月に建築されたもので、基準時までに老朽化が顕著であり、また、本件建物の所在地は路地裏で人通りが少ない。
4 前記2の事情の下では、本件建物の適正賃料としては、一か月二〇六万四二六〇円が相当である。
5 よって、原告は、被告に対し、本件建物の賃料が平成一〇年一一月一九日以降一か月二〇六万四二六〇円であることの確認を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の各事実は認める。
2 請求原因3の(一)ないし(四)の各事実は否認し、柱書の主張は争う。
借地借家法三二条一項による賃料増減額の請求のためには、相当期間が経過したことを要するが、本件では相当期間が経過していないから、本件賃料減額請求は認められるべきではない。また、本件において、契約締結時に予見し難い事情の変更があったとはいえず、賃料が不相当となったとはいえない。
3 請求原因4の事実は否認する。
理由
一 請求原因1、2の各事実は、当事者間に争いがない。
二 甲第二号証の一ないし五、第三号証、第六、第七号証の各一ないし三、第八号証、鑑定の結果と前記争いがない事実に当裁判所に顕著な国土庁土地局作成の各年版土地白書と弁論の全趣旨を総合すれば、請求原因3の(一)ないし(四)の各事実を認めることができ、乙第一号証中この認定に反する部分は採用することができず、他にこの認定に左右するに足りる証拠はない。
三1 前記認定事実の下で、本件賃貸借契約における賃料が不相当となったかどうかについて検討する。
2 甲第二号証の一ないし五、第八号証、鑑定の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件建物の属する地域は、東京駅(八重洲口)の北東側至近にあり、都道外堀通り東側の直背地に所在し、この周辺一帯の街路は東西、南北方向に整然と配置され、外堀通りの外、さくら通り、八重洲仲通り等を経て、八重洲通り及び永代通りに通じて、系統、連続性は良好であるが、各街区の中に通じている街路は四メートル未満のものが多く、小規模飲食店舗、遊技場、事業所等用の街路として機能し、地域における標準的使用は飲食店舗又は事務所であること、本件建物は、昭和三八年三月新築で、鉄筋コンクリート造の地下一階付地上四階建の建物で、建物自体は古く経年相応の減価を生じているが、現況は内装がきれいに施行されているため、通常の店舗相当であり、保守管理も良好であること、鑑定人中込祐次は、本件建物の基準時における新規賃料(鑑定事項一)の鑑定評価に当たっては積算賃料と比準賃料とを関連付けて評価額を決定する方針の下に、また、本件建物の基準時における継続賃料(鑑定事項二)の鑑定評価に当たっては差額配分法による賃料、利回り法による賃料、スライド法による賃料及び比準賃料を関連付けて評価額を決定する方針の下に、本件建物の位置と近隣の状況の地域分析結果、平成一〇年から平成一一年までの全国及び本件建物がある東京都中央区の公示価格の推移、本件建物周辺土地の公示価格及び基準地価格の対前年比、平成一〇年度の全国的な賃料の動向を検討し、本件建物及びその敷地についての個別的状況を分析して検討した上、鑑定事項一について、基準時を評価時点として、本件建物の敷地の価額を算定し、本件建物は経年により市場交換価値は失われているものの場所的利益に相応する価値を認められるとして、これらを加えて基礎価格を査定し、期待利回りにより還元して純賃料を算定し、相当必要諸経費を加えて月額三九九万円の積算賃料を求め、賃貸事例に基づき月額三四二万円の比準賃料を試算し、双方のウエイト配分により月額三五三万四六〇〇円の新規実質賃料を求め、保証金の運用益を控除して月額三四四万〇八〇〇円の新規支払賃料を決定したこと、同鑑定人は、鑑定事項二について、まず、差額配分法においては、前記のとおり求めた新規実質賃料が現行の実際実質賃料より低額のため適用困難であることを導いた後、利回り法による賃料の試算として、従前賃料が決定された平成九年四月時点での土地建物の基礎価格を査定し、その時点での実質賃料から必要諸経費を控除して純賃料を査定し、後者を前者で除して継続賃料利回りを求め、基準時での基礎価格にこれを乗じ、必要諸経費を加えて、月額三六九万七〇〇〇円の賃料を試算し、スライド法による賃料試算として、平成九年四月時点の純賃料に、土地価格等の各種指数から求めた変動率を乗じ、必要諸経費を加えて、月額三七五万二七〇〇円の賃料を試算し、比準賃料として、近隣の賃貸事例に各種補正を加えて単位面積当たり賃料を求め、これに階差による修正を施して総計することにより月額三二七万〇七〇〇円の賃料を求め、これらの各算定方法の性格を考慮した上で、各賃料のウエイト付けをして、基準時の継続賃料を月額三三五万八五〇〇円と算出したことが認められる。
この認定事実によれば、鑑定人中込祐次の鑑定において、本件建物の継続賃料の算定は、差額配分法による賃料、利回り法による賃料、スライド法による賃料、比準賃料を関連付けて総合的に行われていることが明らかであり、その鑑定手法は相当であり、その鑑定経過に不合理な点、経験則に反する点は全くなく、その鑑定判断の結果は正当なものとして首肯することができ、本件全証拠によってもこの鑑定判断の結果を左右するに足りる事実を見出すことはできないから、基準時における本件建物の継続賃料は、月額三三五万八五〇〇円と認めるのが相当である。
3 前記2及び前記二の認定事実によれば、平成九年四月一五日に締結された本件賃貸借契約における前記賃料は、それから約一年七か月を経過した基準時においては、地価の下落等の経済事情の変更により、高きに失するにまでなり、当事者の予見の有無にかかわらず、これによって当事者を拘束することが公平に反するに至ったということができるから、前記賃料は不相当になったというべきである。
4 なお、被告は、借地借家法三二条一項による賃料増減額の請求のためには相当期間が経過したことを要するが、本件では相当期間が経過していないから、本件賃料減額請求は認められるべきではないと主張する。
しかしながら、建物の賃料増減額請求において、現行の賃料が定められたときから一定の期間を経過しているか否かは、賃料が不相当となったか否かを判断する一つの事情にすぎず、現行の賃料が定められたときから一定の期間を経過していないことを理由として、その間に賃料が不相当となっているにもかかわらず、賃料の減額請求を否定することは、同条項の趣旨に反すると解すべきである(最高裁平成三年一一月二九日第二小法廷判決判時一四四三号五二頁参照)。
本件においては、前記3において認定したとおり、本件賃貸借契約における賃料は基準時において不相当になったと認められるから、被告の右の主張は採用することができない。
四 以上によれば、原告の請求は、本件賃料が、基準時の翌日である平成一〇年一一月一九日以降一か月三三五万八五〇〇円であることの確認を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法六四条本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 成田喜達)
物件目録
一 一棟の建物の表示
所在 中央区八重洲一丁目一〇五番地二
構造 鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付四階建
床面積 一階 一三九・五四平方メートル
二階 一三八・〇五平方メートル
三階 一一四・一七平方メートル
四階 九二・〇三平方メートル
地下一階 一三一・六四平方メートル
(合計 六一五・四三平方メートル)
(契約書上の床面積 六二〇・三六一平方メートル)
二 専有部分の建物の表示
1 家屋番号 八重洲一丁目一〇五番二の六
種類 校舎
構造 鉄筋コンクリート造地下一階付一階建
床面積 一階部分 六・〇六平方メートル
地下一階部分 一〇三・六二平方メートル
2 家屋番号 八重洲一丁目一〇五番二の八
種類 事務所
構造 鉄筋コンクリート造一階建
床面積 三階部分 八一・一三平方メートル
3 家屋番号 八重洲一丁目一〇五番二の九
種類 校舎
構造 鉄筋コンクリート造一階建
床面積 四階部分 六五・六八平方メートル
4 家屋番号 八重洲一丁目一〇五番二の一〇
種類 校舎
構造 鉄筋コンクリート造一階建
床面積 一階部分 九一・六七平方メートル
5 家屋番号 八重洲一丁目一〇五番二の一一
種類 校舎
構造 鉄筋コンクリート造一階建
床面積 二階部分 九八・一四平方メートル