大判例

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東京地方裁判所 平成11年(ワ)14742号 判決

②事件

原告

株式会社富士銀行

右代表者代表取締役

山本惠朗

右訴訟代理人弁護士

今井和男

伊藤治

大越徹

小西一郎

被告

株式会社一石

右代表者代表取締役

三浦勝太郎

右訴訟代理人弁護士

北川雅男

主文

一  被告は、原告に対し、金二二八〇万円を支払え。

二  被告は、原告に対し、平成一二年三月から同年八月までの毎月末日に各金一二〇万円を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文と同旨

第二  事案の概要

本件は根抵当権に基づく物上代位として建物の賃料債権を差し押さえた原告が賃借人である被告に差押命令送達後に弁済期が到来する賃料合計三〇〇〇万円の支払いを求めたのに対し、被告が、差押前の相殺予約に基づき賃料と敷金返還請求権を相殺したとして争った事案である。

一  前提事実(当事者間に争いがない。)

1  別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)は、三洲産業株式会社(以下「三洲産業」という。)の所有である。

2  原告は、平成元年六月二八日、三洲産業から本件建物につき左の内容の根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)の設定をうけ、東京法務局渋谷出張所同月二九日受付第一九〇九五号の根抵当権設定登記を経た。

極度額 三億三〇〇〇万円

債権の範囲 銀行取引、手形債権、小切手債権

債務者 三洲産業

根抵当権者 原告

3(一)  三洲産業は、平成八年五月三一日、被告に対し、本件建物を賃料月額一三〇万円、毎月末日に翌月分前払の約定で賃貸し、引き渡した(以下「本件賃貸借契約」という。)。

(二)  三洲産業と被告は、平成一〇年一月三一日、本件賃貸借契約の賃料を同年一月から月額一二〇万円に変更する旨合意した。

4(一)  原告は、平成一〇年七月、東京地方裁判所に対し、別紙請求債権目録記載の債権の弁済に充てるため、本件根抵当権に基づく物上代位として、三洲産業の被告に対する本件賃貸借契約に基づく賃料債権のうち差押命令送達の日以降に支払期の到来する分から三〇〇〇万円に満つるまでのものについての差押えを申し立て、同月二三日、その差押命令(以下「本件差押命令」といい、これによる差押えを「本件差押え」という。)を得た。

(二)  本件差押命令は、平成一〇年七月二五日に第三債務者である被告に、同月三〇日に債務者である三洲産業に、それぞれ送達された。

5  原告は、被告に対し、平成一〇年八月分以降の本件建物の賃料の支払を求めたが、被告は、これに応じない。

二  争点

被告は、三洲産業との間で合意した本件建物の賃料債権と敷金返還請求権との相殺の予定に基づく相殺をもって原告に対抗できるか

三  争点に関する当事者の主張

1  被告の主張

(一) 東栄企画興業株式会社は、昭和五九年四月一日、三洲産業から本件建物を賃借し、三洲産業に対し、敷金として三〇〇〇万円を交付した。

(二) 株式会社トウコウ・インは、平成二年三月三一日、三洲産業の承諾を得て、東栄企画興業株式会社から本件建物の賃借権を譲り受け、三洲産業に対し、敷金として右三〇〇〇万円に一〇〇〇万円を加えた四〇〇〇万円を交付した。

株式会社トウコウ・インは、三洲産業に対し、追加の敷金として、平成五年一二月七日に三〇〇〇万円を同月一〇日に三〇〇〇万円を交付し、敷金合計は、一億円となった(以下「本件敷金」という。)。

(三) 被告は、平成八年五月三一日、三洲産業の承諾を得て、株式会社トウコウ・インから本件建物の賃借権を譲り受け、その際、三者間で、被告が株式会社トウコウ・インに一億円を支払い、本件敷金を被告と三洲産業間に承継する旨合意した。

(四) 被告は、平成一〇年一月二三日、三洲産業との間で、同社が本件建物につき差押えを受けた場合、被告が本件建物賃料債権と本件敷金返還請求権を相殺できる旨の予約(以下「本件相殺予約」という。)をした。

(五) 三洲産業は、平成一〇年七月二七日、原告の申立てに基づき東京地方裁判所から本件建物の競売開始決定を受けた。

(六) 被告は、平成一〇年八月末日以降に弁済期が到来した同年九月分以降の本件建物賃料につき、弁済期の都度、三洲産業に対し、各月の賃料債権と本件敷金返還請求権について、その対当額において相殺予約を完結する旨の意思表示をした。

(七) 以上のとおり、被告は、本件差押命令の送達前に取得した敷金返還請求権をもって差押えにかかる賃料債権と対当額において相殺したから、その支払義務はない。

2  原告の主張

(一) 被告の主張(一)(東栄企画興業株式会社の賃借及び敷金の交付)の事実は知らない。

(二) 被告の主張(二)及び(三)(株式会社トウコウ・イン及び被告の賃借権譲受及び敷金の交付)の事実は知らないが、三洲興業、株式会社トウコウ・イン及び被告は、役員関係及び経済関係において互いに密接に関連する会社であるから、真実右主張の事実があったことについては疑問がある。

(三) 被告の主張(四)(相殺予約)の事実は知らない。

(四) 被告の主張(五)(競売開始決定)の事実は認める。

(五) 被告の主張(六)(相殺予約の完結)の事実は争う。

(六) 被告の主張の本件相殺予約は、本件根抵当権が設定され、その登記がされた後にされたものであるから、本件根抵当権に基づく物上代位としてされた本件差押えに対し、右予約に基づく相殺をもって対抗することはできない。

第三  争点に対する判断

一  建物賃貸借契約における敷金の返還請求権は、賃貸借契約終了後建物明渡完了の時においてそれまでに生じた被担保債権を控除しなお残額がある場合に、その残額につき具体的に発生するものであるから、賃貸借契約の継続中においては、借主は、特段の合意がない限り、敷金の返還請求権をもって貸主の賃料債権と相殺することはできない。

二  被告は、本件差押えに先立つ本件相殺予約によって、三洲産業との間で、本件敷金の返還請求権と本件建物の賃料債権とを相殺することができる旨合意したのであるから、本件敷金の返還請求権は、本件差押えの前に取得した債権というべきであると主張する。

しかしながら本件差押えは、本件根抵当権に基づく物上代位としてされたものであり、本件根抵当権は、被告が本件相殺予約をしたという平成一〇年一月二三日に先立つ平成元年六月二八日に設定され、翌二九日にその登記がされたものであるところ、抵当権の目的である不動産の賃借人は、抵当権の設定及びその登記後にされた賃貸人との間の合意に基づく敷金返還請求権と賃料債権との相殺をもって、抵当権に基づく物上代位として賃料債権を差し押さえた抵当権者に対抗できないと解すべきである。なぜなら、仮にこれを積極に解すると、抵当権の目的である不動産の所有者は、抵当権に基づく物上代位としての賃料債権の差押えを容易に回避できることになり、抵当権に基づく物上代位権の実効性を失わせることとなる一方、これを消極に解しても、抵当権の存在は登記により公示されているから、賃借人に不測の損害を与えることはないからである。

三  よって、本件相殺予約に基づく相殺をいう被告の主張は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

第四  結論

以上の次第により、原告の請求は理由があるから主文のとおり判決する。

(裁判官鈴木健太)

別紙物件目録、請求債権目録<省略>

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