東京地方裁判所 平成11年(ワ)15111号 判決
原告 株式会社三和銀行
右代表者代表取締役 佐伯尚孝
右訴訟代理人弁護士 小沢征行
同 秋山泰夫
同 香月裕爾
同 露木琢磨
同 北村康央
同 小野孝明
同 安部智也
同 御子柴一彦
同 上野和哉
同 山崎篤士
同 平賀敏秋
被告 千葉順
被告 千葉勝子
右両名訴訟代理人弁護士 平田達
同 小松美喜男
同 守谷俊宏
主文
一 被告らは原告に対し各自三五三一万四七一七円及びうち三二〇七万八二九九円に対する平成一一年六月二一日から支払済みまで年一四パーセントの割合(年三六五日の日割計算)による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文と同旨。
第二事案の概要
本件は、原告が、被告らに対し、貸金返還債務の履行及び同債務の保証債務の履行を請求したのに対し、被告らが、右貸金は原告が提携紹介した海外不動産物件への投資のための借り入れであり、同不動産価額の低下による損害は原告の説明義務違反に起因するとして、債務不履行または不法行為による損害賠償請求権を自働債権とする相殺を主張する事案である。
一 争いのない事実
1 原告と被告千葉順(以下「被告順」という。)は、平成二年一月一五日、銀行取引を開始し、その際、債権保全を必要とする相当の事由が生じたときには、原告は、被告順に対する請求によって一切の債務の期限の利益を喪失させることができるとの特約をした。
2 原告は、被告順に対し、平成二年九月二五日、次のとおり定めて、三二五七万八四〇〇円を貸し付けた(以下「本件消費貸借契約」という。)。
<1>利息 年八・五パーセント(年三六五日の日割計算)
但し、長期プライムレート(以下「基準利率」という。)を基準として、今後の基準利率の変動に伴い、変動幅と同一幅で引き下げ又は引き上げられる。
<2>返済方法 (元金) 平成一二年八月三一日に一括返済
(利息) 借入日にその日から平成二年九月三〇日までの利息を支払い、同月以降は毎月末日ごとにその翌日から次回利息支払日までの利息を支払う。
<3>遅延損害金 年一四パーセント(年三六五日の日割計算)
3 被告千葉勝子は、原告に対し、平成二年九月二五日、被告順が原告に対して現在及び将来負担する一切の債務につき、被告順と連帯して保証する旨約した。
4 原告は、被告順が代表取締役を務めていた株式会社アビック(以下「アビック」という。)が平成一〇年九月二四日に第一回の不渡りを出したため、同年一〇月一四日到達の書面により、被告順に対し、本件消費貸借契約の期限の利益を喪失させる旨通知した。
5 原告は、被告順に対し、平成一一年六月二〇日到達の書面により、本件消費貸借契約に基づく債権をもって、被告順が原告に対して有する債権合計五〇万〇一〇一円と対当額で相殺する旨の意思表示をした。
6 本件消費貸借契約に基づく債権の残額は右相殺により次のとおりとなった。
<1>貸付残元金 三二〇七万八二九九円
<2>確定遅延損害金 三二三万六四一八円
三二五七万八四〇〇円に対する期限の利益喪失日の翌日である平成一〇年一〇月五日から平成一一年六月二〇日まで年一四パーセントの割合(年三六五日の日割計算)による遅延損害金
<3>未確定遅延損害金
<1>に対する同月二一日から支払済みまで年一四パーセントの割合(年三六五日の日割計算)による遅延損害金
7 投資者が、マンション、オフィスビル、ホテルなどの不動産から得られる利益(賃料、売却益)を収受する目的で、不動産の区分所有権や共有持分権又は金銭などを不動産を運用する事業者に提供し、不動産を一括運用する事業者から運用利益の分配を受ける不動産共同投資事業のうち、右区分所有権等の提供方法として、不動産事業者から区分所有権等を購入する買主が区分所有権等を出資して民法上の組合を設立し、多くは不動産事業者の関連会社が業務執行組合員となって組合業務を担当して、不動産を不動産業者に一括賃貸し、不動産業者がテナントを入居させて賃料収入を得て、組合に賃料を支払い、組合員が組合から運用期間中は賃料収入を、同期間経過後に不動産が処分されれば売却益をそれぞれ分配されるものを組合型という。
8 被告順は、本件消費貸借契約により原告から交付された金員をもって、ハセコー(カリフォルニア)インクからアメリカ合衆国バーリントン所在のビルの共有持分を、ハセコー(コンバージョン)インクから同国コロラド所在のビルの所有権を有する同国ニューヨーク州法に基づき組織されたザ・コロラド・パートナーシップのパートナーシップ(その取得により右コロラド所在のビルの共有持分を取得する。)を買い受け(以下「持分売買契約」という。)、他の持分買受人とともに本件持分をロイヤル・インベストメント・システム・パートナーシップ(13)(組合)に出資した(以下「組合契約」という。)。組合契約によれば、組合はビル全体を一括して管理運営し、居住用アパートメント及び店舗としての利用及び売買により得た利益を組合員に分配する旨定められ、また、持分売買契約と組合契約は不可分一体とされ(以下、持分売買契約と組合契約により構成される不動産投資を「本件投資」という。)、本件投資は右組合型の不動産共同投資に該当する。
9 被告順は、原告に対し、平成一一年一一月一七日の本件弁論準備手続期日において、後記二1記載の損害賠償債権をもって、本訴原告請求債権と対当額で相殺するとの意思表示をした。
二 争点
原告が被告順に対し本件投資についての説明義務違反に基づき損害賠償義務を負うかどうか。
1 被告らの主張
(一)(1) 被告順は、昭和五五年、アビックを設立し、原告本所支店と取引をしていた。平成二年六月ころ、原告本所支店の児玉圭太(以下「児玉」という。)がアビックを訪れ、被告順に対し、<1>原告から資金を借り入れ、前記バーリントンとコロラドの物件(共有持分)を購入し、同物件を賃貸して運用する、<2>元金は同物件を担保とし、五年後に予定される物件売却時に返済する、<3>借入金の利息は物件売却時まで変動利率により支払う、<4>借入れによる戻り税、配当金及び物件売買の差益があるのでトータルで利益が出る、絶対に損失は発生しないとして、本件投資を勧誘した。被告順はそのような投資に興味がなく、損をするかもしれないから嫌だと言って再三断ったが、児玉は勧誘を続けた。
(2) 児玉は、その辺のいい加減な業者がやることではなく、原告と株式会社長谷工コーポレーション(以下「長谷工」という。)の企画商品だから絶対間違いはない、確実に五〇〇万円以上の利益が出る、銀行との付き合いと思ってやって下さい、やった方が銀行に対する信用も高まるなどと述べ、建物は償却資産で徐々に価値が目減りするから、五年後に売却しても利益は出ないのではないかとの被告順の質問に対し、アメリカでは、土地は二束三文でも、建物は価値があるから、償却があってもそれだけの目減りはしない、原告と長谷工でもその点は計算していて絶対間違いない、本所支店の山本支店長は原告の中でも海外投資に関してトップクラスの人間だから、その辺のことは全部わかっていると答えた。
(3) 被告順は、児玉から原告と長谷工が綿密な計算をしているから絶対に損は出ないと繰り返し言われたため、損が出ないならば取引銀行との付き合いとして仕方ないだろうと考え、児玉の右勧誘に応じることにした。
(4) 児玉は、約二か月間に四、五回ほど本件投資の勧誘のために来ていたが、長谷工関連者の同席や本件投資のシステムやリスク、具体的な数字の説明はなく、パンフレットその他の文書を交付されたこともなかった。
(二) 右のとおり、原告は、被告順に対し本件投資を積極的に提案し、その勧誘の当初から借入金による戻り税(還付金)を収益の一部として説明しており、持分売買契約上も融資を受けることが事実上の前提とされ、本件投資の勧誘に長谷工の従業員が一切関与せず、全て原告従業員がしたことに照らせば、本件消費貸借契約と本件投資は不可分一体であって、原告は、本件投資について単に融資者の地位を超え、長谷工と共同の事業主体の地位にあったといえ、また、原告は、被告順経営の会社の長年の取引銀行であり、被告順が相当の信頼を抱く関係にあったところ、本件投資の内容やリスクについてほとんど何も説明せず、かえって少なくとも五〇〇万円以上確実に儲かる旨の事実に反する説明をしたのであるから、原告は、本件投資の基本的なシステム、運用の方法及びリスクについて詳細な説明をすべき義務を尽くさなかったというべきである。
(三) 被告順に生じた損害 三八六四万五一九五円
(1) 本件消費貸借契約に基づく借入金の残額三二〇七万八二九九円
(2) 被告順が原告に支払った利息一二七四万一七〇三円から還付金及び配当金六一七万四八〇七円を控除した六五六万六八九六円
2 原告の主張
(一) 本件投資は長谷工が単独で開発した商品であり、原告はその企画に関与しなかった。原告と長谷工の間には、原告が被告順その他の顧客から本件投資のための融資を要請されれば、審査の上、これに応じるという関係があったに過ぎない。融資する金融機関は売主指定の金融機関に限定されず、原告は指定金融機関とされていなかった。
(二) 平成二年六月ころ、原告本所支店の外交担当者児玉は、集金等の業務のため頻繁にアビックを訪れ、その際、投資に興味があれば説明する旨被告順に伝え、本件投資に関するパンフレットを交付したところ、被告順が興味を示したので、上司に報告し、同支店の上野昌夫支店長(以下「上野支店長」という。)がより具体的な説明をした。被告順はその説明に対し拒否しなかった。右当時、児玉は原告入行後二年余りしかたっておらず、パンフレットに記載されているような概略は説明できても、詳しい説明をする知識は有していなかった。
(三) アビックも含めて被告らと原告の取引歴は浅く、被告らは他行とも取引しており、原告が被告順に対し無理に本件投資を勧める理由はなかった。
(四) 山本本所支店長は、平成元年一月に本所支店から異動しており同支店における本件投資の勧誘に関与したことはない。
(五) 上野支店長と児玉は、被告順に対し、本件投資に関し、<1>被告順がアメリカ所在の不動産の共有持分を購入し、これを任意組合に出資して、同組合が右不動産を管理運用する、<2>右共有持分購入のため借入れをする場合、原告に協力する用意がある、<3>右組合発足後五年あるいは九年経過したとき、理事長の判断で右不動産を売却し、被告順は同組合から出資金の分配を受ける、<4>最終的に本件消費貸借契約に基づく債務を返済する、<5>アメリカでは日本に比べ建物の資産価値が大きく、その償却率が高いため、日本国内において収入からの控除額を大きくすることができ、所得税の軽減効果を生むと説明したが、右<3>の分配金を右<4>の債務の返済原資にすると説明したことはない。右分配金は原告にある被告順名義の預金口座ではなく、被告順が大和銀行東京営業部に作成した専用の預金口座に振り込まれる予定であった。また、<5>について、どの程度の節税効果が生じるかを事前に具体的な数値で示すことは困難であり、「少なくとも五〇〇万円以上利益が出る」「絶対に損失は発生しない」との説明をしたことはない。
(六) 本件投資に伴い生じうる具体的なリスクとしては、<1>本件消費貸借契約の貸出金利の上昇、<2>購入時と売却時の為替の変動、<3>不動産価額の下落、<4>将来の税制変更が考えられ、上野支店長はこれらのリスクについて説明し、<2>の危険の回避のため、ドル建てでの借入れを被告順に勧めた。
(七) アビックは平成当初業績が順調に拡大し、被告順の収入も平成元年度は一二〇〇万円、平成二年度は一五〇〇万円、平成三年度は一八〇〇万円と伸長し、被告順は節税対策を施すべき理由を十分有していた。
(八) 長谷工の本件投資の担当者酒井守(以下「酒井」という。)は、平成二年八月三一日、本件持分につき、物件概要説明書、売買契約書及び組合契約書を口頭で読み上げて確認し、組合契約において元本保証がないこと及び中途解約ができないことを説明した。
(九) 被告順は、上野支店長及び児玉の右(五)(六)並びに酒井の右(八)の説明を受けた上、平成二年八月三一日、本件持分の売買契約及び組合契約を締結し、同年九月二五日、本件消費貸借契約を締結したのであって、被告順による本件投資は自らの判断によるものであって、原告の利益誘導(断定的判断・虚偽説明)や執拗な勧誘があったことに基づくものではない。
第三争点に対する判断
一 証拠(甲13ないし16、18ないし26、乙1、2、4ないし11、証人児玉圭太、同上野昌夫、同酒井守、被告千葉順)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
1 被告順は、昭和一二年生まれで、昭和五四年、ニット製品の製造販売を仕事を始め、昭和五五年にニット製品の製造販売を業とするアビックを設立し、その代表取締役となり、平成二年当時もその地位にあった。アビックは、昭和六二年ころから原告本所支店と取引を始めていたが、平成二年当時のメイン銀行は株式会社三菱銀行であった。アビックは、平成当初業績が順調に拡大し、被告順がアビックから受ける一年間の報酬は、平成元年度には一二〇〇万円、平成二年度には一五〇〇万円、平成三年ないし五年度には各一八〇〇万円であり、その後減少に転じた。
2 長谷工は、昭和六二年一月ころ、株式会社大和銀行と提携して開発した海外不動産投資商品(RIS)の第一回分の販売を始め、その後第一五回分まで販売した。本件投資の対象はその第一三回分(RIS(13))として販売されたものであり、その購入代金は一口三六万米ドル(一米ドルを一四九・九〇円で換算すると五三九六万四〇〇〇円)であった。原告が右RISの開発に提携関与したことはなかった。本件投資の持分売買契約においては、一四万四〇〇〇米ドルの融資を受けることが必須とされ(提携融資)、その提携融資金融機関は大和銀行ロサンゼルス支店及びニューヨーク支店であり、そのほかに売主の指定する別担金融機関も設けられていたが、原告は売主の指定する金融機関とはされていなかった。
3 長谷工において右RISの販売を担当する酒井は、平成元年ころから顧客紹介の依頼のために原告の本所支店を頻繁に訪れていた。そして、平成二年六月ころ、原告の本所支店その他の支店に対し、右RISのパンフレットを交付して、優良顧客の紹介を依頼した。その際、右RISについて、<1>所得税の節税を目的とした商品であること、<2>顧客がアメリカのニューヨークとロサンゼルスにある不動産(マンション)の共有持分を購入し、その持分を他の購入者と共同で結成する任意組合に出資し、任意組合が不動産の費用収益等を管理分配し、最終的には不動産を売却して清算する商品であることを説明した。酒井が右RISにつき顧客の紹介を依頼した平成二年当時の原告本所支店の支店長は上野支店長であった。
4 RIS(13)のパンフレットには、「RIS(13)ご購入者収支予想」として、為替レート一四九・九〇円/ドル、自己資金〇、提携ローン(ドル建)一四万四〇〇〇ドル(利率九・七五パーセント 元本据置)、別担保ローン三二三七万八〇〇〇円(利率七・九〇パーセント 元本据置)を条件とする、申告所得一〇〇〇万円、二〇〇〇万円及び三〇〇〇万円の場合の一九九〇年から二〇〇〇年までの不動産所得の計算(収入、支出、営業利益、金利支払、減価償却費、不動産所得)とキャッシュフロー(購入者分配額、金利支払、金利支払後収支、所得額減税額、キャッシュフロー)の表の記載があり、その記載によれば、キャッシュフローの一九九〇年から二〇〇〇年までの合計額は、申告所得一〇〇〇万円の場合は三五五万五〇〇〇円、申告所得二〇〇〇万円の場合は七五五万円、申告所得三〇〇〇万円の場合は一一二〇万二〇〇〇円とされているが、右表の下部には「注 この表は一九九〇年七月現在の物件運営状況及び税法等に基づき試算したもので、税制の改正、為替の変動等により実際と異なる場合があります。」と記載されている。
5 児玉は、昭和六三年四月、原告に入行し、同年七月、本所支店に配属され、右3の当時、同支店で外交(営業)を担当していた。児玉は、平成二年六月ころから、担当していた取引先にRIS(13)のパンフレットを交付し、同商品の紹介説明をし、興味をもったと思われる取引先については、上司にその旨を報告し、その報告に基づき、それらの取引先に対しては、取引先課長、次長あるいは支店長がさらに税制等について詳しい説明をすることにしていた。
アビックないし被告順は児玉の担当する取引先であり、児玉は、被告順に対しても、他の取引先と同様にRIS(13)の紹介説明をし、そのために四、五回、被告順を訪ねるとともに上司に被告順が本件投資に興味を持った旨報告した。その報告を受けて、原告本所支店の上野支店長が説明のために一度被告順を訪ねた。
6 児玉及び上野支店長は、被告順に対し、RIS(13)ないし本件投資に関し、RIS(13)のパンフレットに基づき、被告順がアメリカ所在の不動産の共有持分を購入し、これを任意組合に出資して、同組合が右不動産を管理運用する、右組合発足後五年を経過したとき、理事長の判断で右不動産を売却し、被告順は同組合から出資金の分配を受ける、最終的に被告順は本件消費貸借契約に基づく債務を返済する、アメリカでは日本に比べ建物の資産価値が大きく、その償却率が高いため、結果として日本国内における収入からの控除額を大きくすることができ、本件投資の目的は所得税の軽減にあると説明するとともに、被告順が共有持分購入のため借入れをする場合には、原告が融資する、その利息は変動利率により支払うと説明した。また、上野支店長は、本件投資に伴い生じる可能性のある具体的なリスクとして、本件消費貸借契約の貸出金利の上昇、購入から売却までの為替の変動、不動産価額の下落及び将来の税制変更について説明し、右為替の変動による危険の回避のため、ドル建ての借入れを被告順に勧めたが、本件消費貸借契約は円建てでなされ、ドル建てのインパクトローンへの変更もされなかった。
7 右6記載の不動産売却による被告順に対する分配金は、原告にある被告順名義の預金口座ではなく、被告順が大和銀行東京営業部に作成した預金口座に振り込まれる予定であった。
8 酒井は、原告本所支店から、被告順が右RIS(13)の購入に興味を持った旨の連絡を受け、同年八月三〇日、被告順と面談した。酒井は、右RIS(13)について、他の購入希望者に対する説明の場合と同様に、パンフレットに記載されている基本的な仕組み及び「RIS(13)ご購入者収支予想」の表の節税効果について説明したが、右表記載の節税効果の数値は一定のモデルケースであり、記載の金額どおりの節税効果が生じることを保証するものでないことも説明した。そして、組合契約には元本保証がなく、不動産価額の売却代金が低ければ、同売却代金から出資者に対して分配される配当額が購入代金額を下回る可能性があること、及び組合契約は中途解約ができないことを説明し、持分の売買契約書及び組合契約の写しを交付した。被告順は、同日、酒井に対し、児玉や上野支店長の説明と異なるなどの発言をすることなく、購入申込証に署名押印した。そして、酒井は、同月三一日、被告順に対し、物件概要説明書、売買契約書及び組合契約書を口頭で読み上げてその内容を確認し、被告順との間で、本件持分の売買契約及び組合契約を締結し、物件概要説明書、売買契約書及び組合契約書を交付した。その後、被告順と原告は、同年九月二五日、前記争いのない事実2記載の内容のとおり、本件消費貸借契約を締結した。
9 本件消費貸借契約に至るまでに被告順が原告に対し本件投資の内容が児玉らの説明と異なるなどと抗議したことはなかった。
二 以上によれば、被告順は、本件投資にあたり、為替の変動、不動産価額の変動、本件消費貸借契約の利息の利率の変動、本件不動産の運用利益の変動等の要因によって損失を被る可能性があることを認識した上で本件投資をするとの意思決定をしたと認められるのであって、原告従業員において被告順に対し本件投資のリスク等について説明すべき義務に違反する行為をしたために被告順が本件投資において損失が生じる危険があることを認識しないまま本件投資をしたと認めることはできない。
三 これに対し、被告らは、前記被告らの主張欄記載のとおり、児玉が、借入金の利息を支払っても、借入れによる戻り税、配当金及び物件売買の差益があるのでトータルで利益が出る、絶対に損失は発生しない、原告と長谷工の企画商品だから絶対間違いはない、確実に五〇〇万円以上の利益が出る、銀行との付き合いと思ってやって下さい、やった方が銀行に対する信用も高まるなどと述べ、また、アメリカでは建物に価値があるから、償却があってもさほどの目減りはしない、原告と長谷工でもその点は計算していて絶対間違いないと繰り返し言ったため、被告順としては、損が出ないならば取引銀行との付き合いとして仕方ないだろうと考え、本件投資の勧誘に応じたのであって、本件投資のシステムやリスク、具体的な数字の説明はなく、パンフレットその他の文書を交付されたこともなかったと主張し、被告順作成の陳述書及び同本人尋問ではこれらに副う記載及び供述がされている。
しかしながら、他方、被告順が、児玉に対し、建物は償却資産で価値が目減りするから、五年後に売却しても利益は出ないのではないかと質問したり、借入金の利息を支払うから、戻り税や賃料収入があっても収支としてはマイナスになるのではないかと言ったとするのであって、本件投資の仕組みやそのリスクとなる要因について何ら説明されなかったとすれば、右発言はされないのではないかとの疑問があり(あるいは、仮に本件投資の仕組みやリスクの要因について説明されなかったにもかかわらず、被告順が右質問等をできたとすれば、被告順には本件投資の仕組みやリスクの要因について詳細な説明を必要としない程度の知識があったともいえる。)、また、右記載及び供述によれば、被告順が本件投資をするとの判断をした理由は、原告の従業員児玉が原告及び長谷工の計算によれば絶対損が出ないと言ったことにあるとされるところ、もともと本件投資において損失が出るかもしれないという不安をもち、昭和六三年ころ、友人から同様の不動産投資で損失を被ったことを聞いて知っており、右記載のような疑問を児玉に呈していた被告順が、児玉のいう綿密な計算について何らその根拠等を確認せず、パンフレットすら見ることもなく、児玉の右言葉を信用したとして、約五四〇〇万円の不動産持分購入を決定したとは考えがたいことや前掲各証拠に照らせば、右陳述書の記載及び供述は採用できず、他に右事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
第四結論
よって、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 中川正充)