東京地方裁判所 平成11年(ワ)15587号 判決
原告 橋本新二郎
原告 今井昭子
原告 橋本薫
右三名訴訟代理人弁護士 小林政秀
被告 青山久子
被告 橋本公秀
被告 橋本昌明
被告 橋本次右
被告 青山晢
被告 尾中燿子
主文
一 原告橋本薫の被告らに対する本件訴え並びに原告橋本新二郎の被告青山晢及び同尾中燿子に対する本件訴えをいずれも却下する。
二 東京地方裁判所平成九年(ケ)第四九七〇号、第四九七一号不動産競売事件について平成一一年七月八日に作成された配当表の「配当」の欄のうち、被告青山久子への配当額が一一八九万五〇九八円とあるを一一六八万二四五五円に、被告橋本公秀、同橋本昌明及び同橋本次右への各配当額が二一七四万七六三〇円とあるを被告橋本公秀及び同橋本昌明についてはいずれも一八〇六万一八一〇円、被告橋本次右については一八〇六万一八〇九円に、被告青山晢及び同尾中燿子への各配当額が五九四万七五五〇円とあるをいずれも五八九万四八八六円に、原告橋本新二郎及び同今井昭子への各配当額が二九四万三四一〇円とあるをいずれも八六三万一一二六円にそれぞれ変更する。
三 訴訟費用は、これを三分し、その一を原告橋本薫及び原告橋本新二郎の負担とし、その余は被告らの負担とする。
事実及び理由
第一原告らの請求
東京地方裁判所平成九年(ケ)第四九七〇号、第四九七一号不動産競売事件について平成一一年七月八日に作成された配当表の「配当」の欄のうち、被告青山久子への配当額が一一八九万五〇九八円とあるを一一二九万六三九二円に、被告橋本公秀、同橋本昌明及び同橋本次右への各配当額が二一七四万七六三〇円とあるをいずれも一一三七万〇〇四四円に、被告青山晢及び同尾中燿子への各配当額が五九四万七五五〇円とあるをいずれも五六四万八一九六円に、原告橋本新二郎及び同今井昭子への各配当額が二九四万三四一〇円とあるをいずれも八六三万一一二六円に、原告橋本薫への配当額が一一七四万九七五八円とあるを二八五一万三五五〇円にそれぞれ変更する。
第二事案の概要
本件は、原告らが、原告らと被告らが共有していた土地建物の不動産競売事件(いわゆる形式的競売事件)について東京地方裁判所が作成した配当表は、同事件で売却された建物に法定地上権が成立することを前提として作成されているが、同建物に法定地上権は成立しないとして、右配当表の原告ら及び被告らへの各配当額の変更を求めた事案である。
一 前提となる事実(以下の事実は、いずれも末尾に掲記された証拠等により、これを認めることができる。)
1 東京地方裁判所は、平成三年一〇月三〇日、別紙一物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)を競売に付し、その売得金から手続費用を控除した残額を、橋本新平(以下「新平」という。)に三分の一、原告橋本薫(以下「原告薫」という。)、青山貞子(以下「貞子」という。)、玄間和枝(以下「和枝」という。)、被告青山久子(以下「被告久子」という。)、被告橋本公秀(以下「被告公秀」という。)、被告橋本昌明(以下「被告昌明」という。)及び被告橋本次右(以下「被告次右」という。)に各二一分の二ずつの各割合で分割して配当することを命ずる旨の判決を言い渡し(同裁判所平成三年(ワ)第六七三一号土地建物共有物分割請求事件)、同判決はその後確定した(甲二一及び弁論の全趣旨)。
2 また、東京地方裁判所は、平成六年八月二五日、別紙一物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)を競売に付し、その売得金から手続費用を控除した残額を、貞子及び被告久子に各二一分の二ずつ、被告公秀、被告昌明及び被告次右に各五〇四分の九七ずつ、和枝及び玄間道雄(以下「道雄」という。)に各二一分の一ずつ、原告橋本新二郎(以下「原告新二郎」という。)及び原告今井昭子(以下「原告昭子」という。)に各八四分の一ずつ、原告薫に八四分の六、橋本しげに七二分の三の各割合で分割して配当することを命ずる旨の判決を言い渡し(同裁判所平成五年(ワ)第二四六一五号建物共有物分割請求事件)、同判決に対し控訴の申立てがされたが、東京高等裁判所は、平成七年六月二七日、右判決を相当とし控訴は理由がないと判断したものの、橋本しげが平成六年九月五日に死亡しその相続人が訴訟承継をしたことから、右判決の主文を変更し、本件建物を競売に付し、その売得金から手続費用を控除した残額を、貞子及び被告久子に各七〇五六分の七一四ずつ、被告公秀、被告昌明及び被告次右に各七〇五六分の一四〇〇ずつ、原告新二郎及び原告昭子に各七〇五六分の一〇五ずつ、和枝に七〇五六分の三七八、道雄に七〇五六分の三三六、原告薫に七〇五六分の五〇四の各割合で分割して配当することを命ずる旨の判決を言い渡し(同裁判所平成六年(ネ)第三五九六号建物共有物分割請求控訴事件)、同判決はその後確定した(甲二二、二三及び弁論の全趣旨)。
3 新平は平成四年九月一六日に死亡し、同人の妻である原告薫、子である原告新二郎及び原告昭子がこれを相続し、貞子は平成八年三月一五日に死亡し、同人の子である被告尾中燿子(以下「被告燿子」という。)及び被告青山晢(以下「被告晢」という。)がこれを相続したことから、本件土地については、原告新二郎及び原告昭子が各八四分の七、原告薫が八四分の二二、被告久子、被告公秀、被告昌明、被告次右及び和枝が各八四分の八、被告晢及び被告燿子が各八四分の四の割合による持分を有し、本件建物については、原告新二郎及び原告昭子が各一〇〇八分の一五、原告薫が一〇〇八分の七二、被告久子が一〇〇八分の一〇二、被告公秀、被告昌明及び被告次右が各一〇〇八分の二〇〇、被告晢及び被告燿子が各一〇〇八分の五一、和枝が一〇〇八分の五四、道雄が一〇〇八分の四八の割合による持分を有していた(弁論の全趣旨)。
4 和枝は、平成九年一一月二八日、東京地方裁判所(執行裁判所)に対し、右各確定判決に基づき本件土地建物について不動産競売(形式的競売)の申立てをし、同裁判所は、同年一二月二五日、本件土地建物について換価のための競売手続を開始し、これを差し押える旨の決定をした(同裁判所平成九年(ケ)第四九七〇号、第四九七一号)(甲二四の1、2、二五及び弁論の全趣旨)。
5 株式会社富士銀行は、本件土地建物について、昭和四〇年三月一五日銀行取引契約昭和四一年五月七日設定を原因とし、債権極度額を五〇〇万円、債務者を株式会社佃岩商店、根抵当権者を同銀行とする東京法務局同年六月一五日受付の根抵当権設定登記を経由していたが、平成一〇年六月二〇日、執行裁判所に対し、右根抵当権にかかる被担保債権はない旨の申出を行っており、他に本件土地建物を目的とする抵当権等は設定されていなかった(甲四ないし六)。
6 執行裁判所から本件土地建物の評価を命じられた評価人は、平成一〇年八月一四日、同裁判所に対し、本件土地に本件建物のための法定地上権が成立することを前提とし、法定地上権を建付地価格の八五パーセントと評価した上、本件土地の評価額を一二五五万円、本件建物の評価額を七二〇九万円とする評価書を提出し、これを受けて、同裁判所は、同年一〇月一六日、本件土地についての不動産競売事件(同裁判所平成九年(ケ)第四九七〇号事件)と本件建物についての不動産競売事件(同裁判所平成九年(ケ)第四九七一号事件)を併合した上、本件土地の最低売却価額を一二五五万円、本件建物の最低売却価額を七二〇九万円、本件土地建物の一括売却価額(最低売却価額)は八四六四万円とする旨決定した(甲三、七、一〇ないし一二、一四)。
その後、執行裁判所は、平成一一年二月一七日、本件土地建物について株式会社堅城がした一億二〇五〇万円での最高価買受申出に対し、売却を許可する旨の決定をした(甲一六)。
7 執行裁判所は、平成一一年七月八日の右事件の配当期日において、別紙二案分計算結果一覧表のとおり、一括売却代金一億二〇五〇万円を本件土地建物の各最低売却価額に基づいて本件土地の売却代金一七八六万七一四三円と本件建物の売却代金一億〇二六三万二八五七円に案分した上、右代金額から手続費用として一九三万五二三五円(本件土地についての手続費用として六四万二七〇二円、本件建物についての手続費用として一二九万二五三三円)を控除した残額(本件土地についての配当原資残額は一七二二万四四四一円、本件建物についての配当原資残額は一億〇一三四万〇三二四円)を、別紙三配当表(以下「本件配当表」という。)のとおり、本件土地建物について原被告らが有する前記各持分の割合で配当する旨の配当表を作成した(甲一七ないし一九)。
8 しかし、右配当期日において、原告新二郎は、本件配当表記載の被告久子、被告公秀、被告昌明及び被告次右への各配当額について、原告昭子は、右各被告らの配当額の他、和技、原告新二郎、原告薫、被告晢、被告燿子及び道雄への各配当額について異議がある旨の配当異議の申出をしたが、原告薫は右期日に出頭せず、配当異議の申出をしなかった(甲一七)。
二 争点
本件建物について法定地上権が成立するか否か。
三 争点に対する当事者の主張
(原告らの主張)
1 本件建物に法定地上権が成立することを前提とする本件配当表は正当でない。
本件における競売の申立ては形式的競売と呼ばれるものであって、そもそも法定地上権の成立を予定すべきものではない(なお、本件土地建物の担保権は否定されているので問題にならない。)。
また、本件土地建物は完全に一つの売却単位として考えるべきであり、土地建物を別個の不動産として扱うことを前提とする法定地上権は考慮すべきでない。
2 本件建物に本来の相続人以外の共有持分権者が存在するとしても、本件における競売申立ては形式的競売であり、これは不動産を一括して処分し、持分権を換価することのみを目的とするものであって、本件では第三者の保護のために法定地上権の存在を予定していないというべきから、本件建物に法定地上権が成立するとの被告公秀、被告昌明及び被告次右の主張は理由がない。
(被告公秀、被告昌明及び被告次右の主張)
本件の場合には、道雄は本件建物の持分の上に法定地上権を成立させる独自の権利を有しているものというべきであるから、本件建物に法定地上権が成立することを前提とする本件配当表は正当である。
四 補足説明
1 原告薫は本件訴訟の前提となる配当異議の申出をしておらず、原告新二郎も被告晢及び被告燿子への配当額については配当異議の申出をしていないから、原告薫の被告らに対する本件訴え並びに原告新二郎の被告晢及び被告燿子に対する本件訴えは、いずれも原告適格を欠く不適法なものであり、却下を免れない。
2 また、本件のように、土地と建物を一括売却した場合において、土地及び建物の最低売却価額の総額に不服はないが、建物について法定地上権が成立するかどうかの執行裁判所の認定について不服があり、これを理由として配当表に対する異議の申立てがされたときは、これを適法な配当異議として取り扱うのが相当である。
3 さらに、本件では、被告晢及び被告燿子は、本件口頭弁論において原告らの主張した事実を争うことを明らかにせず、被告久子については、本件配当表は正当であり、裁判の必要はないなどと記載のある答弁書が陳述擬制されているのみである。
第三当裁判所の判断
一 本件建物についての法定地上権の成否
本件土地建物に対する競売はいずれも前記各共有物分割請求事件の確定判決に基づいて行われたものであり、民法二五八条二項の規定に基づくものであることは明らかであって、同規定による競売については、民事執行法一九五条、一八八条の規定により同法八一条の法定地上権に関する規定の適用はなく、また右競売開始時には本件土地建物がいずれも有効な抵当権等の目的となっていなかったことは前記のとおりであるから、民法三八八条が適用されるものではなく、他に本件建物について法定地上権が成立するものと認めるに足りる証拠はない。したがって、本件建物について法定地上権は成立しないというべきである。
二 配当表の変更
以上のとおりであり、本件の場合には、本件建物について法定地上権が成立しないことを前提として配当表を作成すべきである。
すなわち、本件土地については、その更地価格は一平方メートル当たり八〇万七〇〇〇円であるから、本件の場合には一〇パーセントの建付減価を行い、これに敷地面積を乗じ、更に競売市場修正として三〇パーセントの減価をした価格である八三六八万円(なお、一万円未満は四捨五入する。以下同じ。)をもって本件土地の個別価額、本件建物については、その建物積算価格は二〇九万円であるから、これに競売市場修正として三〇パーセントの減価をし、更に占有を回復するための手続的な費用等の調整を占有減価として五〇万円を控除した価格である九六万円をもって本件建物の個別価額と認めるのが相当である(甲一〇、一一)。
このように、修正された本件土地建物の各個別価額を前提として、本件土地建物の売却代金一億二〇五〇万円を右各個別価額に応じて案分し直すと、本件土地の売却代金は一億一九一三万三二七〇円となり、これから本件土地に関する手続費用六四万二七〇二円を控除した本件土地についての配当原資残額は一億一八四九万〇五六八円、本件建物の売却代金は一三六万六七三〇円となり、これから本件建物に関する手続費用一二九万二五三三円(なお、本件配当表記載の手続費用については当事者間に異議なく確定している。)を控除した本件建物についての配当原資残額は七万四一九七円となる。
そこで、右各配当原資残額及び原被告らの本件土地建物についての前記各持分を前提として計算すると、本来、原告新二郎及び原告昭子への配当額は各九八七万五三一八円(本件土地についての配当額九八七万四二一四円と本件建物についての配当額一一〇四円の合計額)、被告久子への配当額は一一二九万二三二四円(本件土地についての配当額一一二八万四八一六円と本件建物についての配当額七五〇八円の合計額)、被告公秀、被告昌明及び被告次右への配当額は各一一二九万九五三八円(本件土地についての配当額一一二八万四八一六円と本件建物についての配当額一万四七二二円の合計額)、被告晢及び被告燿子への配当額は各五六四万六一六二円(本件土地についての配当額五六四万二四〇八円と本件建物についての配当額三七五四円の合計額)となるところ、本訴において、原告新二郎及び原告昭子は本件配当表について同原告らへの配当額が各二九四万三四一〇円とあるを各八六三万一一二六円に変更することを求めているから(したがって、同原告らの請求は一部請求となる。)、原告新二郎及び原告昭子に配当すべき右各金額(同原告ら請求にかかる各金額)と本件配当表記載の各配当額との差額である各五六八万七七一六円を、原告新二郎については同原告と被告久子、被告公秀、被告昌明及び被告次右との間で、原告昭子については同原告と被告久子、被告公秀、被告昌明、被告次右、被告晢及び被告燿子との間で、右各被告らに対し、それぞれ被告らが本来受けるべき右各配当額と本件配当表記載の各配当額との差額に応じて案分負担させることにより調整することとなる。
そうすると、本件配当表は、その「配当」の欄のうち、被告久子への配当額が一一八九万五〇九八円とあるを一一六八万二四五五円に、被告公秀、被告昌明及び被告次右への各配当額が二一七四万七六三〇円とあるを、被告公秀及び被告昌明についてはいずれも一八〇六万一八一〇円に、被告次右については一八〇六万一八〇九円に、被告晢及び被告燿子への各配当額が五九四万七五五〇円とあるをいずれも五八九万四八八六円に、原告新二郎及び被告昭子への各配当額が二九四万三四一〇円とあるをいずれも八六三万一一二六円にそれぞれ変更すべきものである。
第四結論
以上の次第であり、原告薫の被告らに対する本件訴え並びに原告新二郎の被告晢及び被告燿子に対する本件訴えはいずれも不適法であるからこれを却下することとし、原告新二郎のその余の被告らに対する請求及び原告昭子の被告らに対する請求はいずれも理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 村田渉)
(別紙一) 物件目録
一 所在 中央区日本橋浜町二丁目
地番 七二番一
地目 宅地
地積 一六四・五九平方メートル
二 所在 中央区日本橋浜町二丁目七二番地
家屋番号 七二番九
種類 居宅
構造 木造瓦葺二階建
床面積 一階 一〇六・六一平方メートル
二階 五九・五〇平方メートル