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東京地方裁判所 平成11年(ワ)18752号 判決 2001年2月09日

原告

高柳真吾

被告

宇賀神保

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、一一二万六九八六円及びこれに対する平成一一年二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、自動車レース用のサーキットにおいて、スポーツ走行を行っていた自動車が、コースを外れ、コース外に停車していたところへ、同じくスポーツ走行をしていた自動車がコースを外れて、衝突した事故において、コース外に停車していた自動車の所有者が、コースを外れて衝突してきた自動車の運転者に対して民法七〇九条に基づいて損害賠償を請求した事案である。

なお、立証は、記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。

二  争いのない事実等

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成一一年二月二八日午前九時五二分ころ

(二) 場所 栃木県芳賀郡茂木町大字桧山一二〇番地一ツインリンクもてぎロードコース内(以下「本件コース」という。)、第一コーナーから第二コーナー付近。

(三) 事故車両

(1) 被告車 普通乗用自動車(栃木三三ほ三七八三)

運転者 被告

(2) 原告車 小型乗用自動車(足立五四は一二四八)

運転者・所有者 原告

(四) 事故態様 原告が原告車を運転して、本件コース内を走行していたが、第一コーナー付近でコースアウトして、コース外に停止していたところへ、同じく、被告車を運転して本件コース内を走行していた被告が、第一コーナー付近でコースアウトして、停車中の原告車に衝突したもの。

2  ツインリンクもてぎクラブースポーツ(略称TRMC―S)会員規約

前記ツインリンクもてぎロードコースを走行するためには、ツインリンクもてぎクラブースポーツ(略称TRMC―S)に入会しなければならず、原告及び被告は、右会に入会している。

(一) 安全の諸規則

右会に入会するに際しては、「ツインリンクもてぎ安全の諸規則」を遵守することを誓約しなければならない。右安全の諸原則として、以下のとおり定められている。

(1) フラッグ規定(信号旗)

(ア) 黄旗の一本の振動表示

・近くにトラブル地点あり。

・危険、障害物あり、注意して走行。

・減速、追い越し禁止区間。

(イ) 黄旗の一本の不動表示

・前方のコース上やセフティゾーンでトラブル発生。

・危険、注意して走行。

(ウ) 走路上などの危険物が除去されない時

・状況が永久的になったと見なし、二ラップ通過後、不動状態の黄旗は撤回し、振動状態は不動に切り替え、その後二ラップで撤回される。

(2) 点滅灯(コーションランプ)

(ア) 黄灯の一灯が点滅の時

・黄旗の一本の振動と同じ意味。

(イ) 黄灯の一灯が点灯の時。

・黄旗の一本の振動と同じ意味。

(二) ツインリンクもてぎ共済会及び損害賠償権の相互放棄

(ア) ツインリンクもてぎクラブースポーツのクラブ員は、ツインリンクもてぎ共済会に入会しなければならないとされている。

(イ) 右共済会規約二八条には、スポーツ走行中に発生した事故に関し、故意または重大な過失による場合のほかはその原因の如何に関わらず相互に損害賠償を請求しないこととする旨が規定されている。

3  本件事故前後の信号旗及び点滅灯

(一) 午前九時三五分ころ(原告車両コースアウト)

黄旗一本振動、黄灯一灯点滅

(二) 三ラップ終了後

黄旗一本不動、黄灯一灯点灯に変更

(三) 午前九時五二分ころ(本件事故)

黄灯一本不動、黄灯一灯点灯

三  損害についての原告の主張

本件事故により、原告車は破損し、修理費として一一二万六九八六円の損害を被った。

四  争点

被告の重過失の有無

第三裁判所の判断

一  当事者の主張

1  原告の主張

原告は、本件においては、被告は、監視員による信号旗及び点滅灯による警告を認識したのであるから、減速し、注意して走行する注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、減速することなく漫然と高速度でコーナーに進入した重大な過失がある。

2  被告の主張

被告は、事故発生時には監視員の警告に従いスピードを減速し、事故現場である第一コーナーから第二コーナー付近においては、時速約四〇キロメートルに減速して走行していた。しかるに、被告車に他の車両がイン側から幅寄せをしてきたため、同車両との衝突を避けようとしてアウト側に逃げたがコース上に砂利があったため、コースアウトし、原告車と衝突したものであり、被告に重過失はない。

二  裁判所の事実認定

1  証人和気章雄(以下「証人和気」という。)の証言、被告本人の本人尋問の結果、甲第五号証、第六号証、乙第三号証の一及び二、第五号証、第七号証によれば、本件事故について、以下のような事実を認定することができる。

2  被告は、被告車を運転して、本件コースをスポーツ走行していたが、第一コーナーから第二コーナー付近において、後方を走行してきて、被告車と並んで走行していた証人和気の運転の黒色車両が横滑りをしたため、幅寄せをする格好になり、これを避けるために、アウト側に寄り、コースアウトして原告車にかすめる形で衝突した。この点については、原告は本人尋問において、全く異なる供述をしているが、証人和気の証言内容には特に不自然不合理なところはなく、当事者と全く利害関係はなく、自分自身提訴される危険のある証人和気において、被告本人と符合する証言をしている以上これによるほかない。

3  第一コーナーから第二コーナー付近を走行していた際の被告車の速度については、被告本人は、時速四〇ないし四五キロメートルであったと述べている。しかし、証人和気は、時速六〇ないし八〇キロメートルで走行していた自分の車両と大差ない速度で走行していたと述べており、甲第二号証のビデオによれば、被告車は、原告車と衝突した後も、相当な距離を走ったことが窺われる。したがって、被告車の速度については、証人和気運転の車両よりもやや遅く、時速五〇ない七〇キロメートルで走行していたと認定できる。

三  重過失の有無

以上の事実を前提とすれば、本件事故は、被告車が、本件コースの第一コーナーから第二コーナー付近を、その後方からきて被告車と並んで走行していた、証人和気運転の黒色車両が、横滑りをして幅寄せをする形になったために、被告車が急にアウト側に寄るという運転を余儀なくされたために生じた蓋然性が高く、被告に重過失を認定する事はできない。なお、被告車の速度は、被告主張とは異なり、時速五〇ない七〇キロメートルと認められるが、それでも、本件コースを通常走行する速度よりも相当程度低く(原告は、本人尋問において時速一一〇キロメートルで走行していてコースアウトしたと認めている。)、被告の重過失を認定できないという右結論を左右するものではない。

第四結語

よって原告の請求は、その余について判断するまでもなく理由がないので、これを棄却し、訴訟費用について民訴法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 馬場純夫)

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