東京地方裁判所 平成11年(ワ)19607号 判決 2000年2月25日
原告
日本レストランシステム株式会社
右代表者代表取締役
A
右訴訟代理人弁護士
麦田浩一郎
被告
株式会社遊食綜合企画
右代表者代表取締役
B
右訴訟代理人弁護士
床井茂
同
古川健三
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、飲食店の経営に関し、別紙標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を付した宣伝用看板を掲示してはならない。
二 被告は、飲食店の経営に関し、被告標章を付した広告物を展示し又は頒布してはならない。
三 被告は、飲食店の経営に関し、被告標章を付した箸袋、メニュー、マッチ及びコースターを使用してはならない。
四 被告は、被告標章を付した宣伝用看板、広告物、箸袋、メニュー、マッチ及びコースターをそれぞれ破棄せよ。
五 被告は、原告に対し、金三四〇万円及びこれに対する平成一一年九月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実等
1 原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有している。
登録番号 第三二三九九三三号
出願日 平成四年九月三〇日
公告日 平成八年三月一三日
登録日 平成八年一二月二五日
商品及び役務の区分 第四二類
指定役務 惣菜を主とする飲食物の提供
登録商標 別紙登録商標目録のとおり
2 被告は、平成一〇年四月ころから、東京都新宿区<以下略>において、海鮮料理及び焼鳥等を提供する飲食店を経営しており、看板、広告物、箸袋、メニュー、マッチ及びコースターに被告標章を付して右店舗の営業を行っている(乙一の一、二、五、乙三、四、乙五の一ないし三、乙六の一ないし四、弁論の全趣旨)。
二 本件は、本件商標権を有する原告が、被告標章を使用する被告に対し、被告標章の使用が本件商標権を侵害すると主張して、前記第一の一ないし四のとおり被告標章の使用の差止等を求めるとともに、不法行為による損害賠償を求める事案である。
第三争点と当事者の主張
一 被告標章は、本件商標と類似するかどうか。
1 原告の主張
(一) 本件商標の「大皿惣菜」及び「居酒屋」の部分は、居酒屋の属性・機能に関連する用語で、付飾的・付記的な部分であり、識別力がないから、本件商標の要部は、「遊」という文字部分である。
被告標章の「遊食市場」は、「遊」の文字が図形によって囲われているため、「遊」の文字と「食市場」の文字とは分離し、異なった記憶、イメージを与えるものである。そして、被告標章のうち、「食市場」及び「海鮮。焼鳥処」の部分は、右と同様、居酒屋の属性・機能に関連する用語で、付飾的・付記的な部分であり、識別力がなく、また、帆船を図案化した絵の部分は、他の文字と比べて小さく、目立たないもので、識別力に乏しいから、被告標章の要部も「遊」という文字部分である。
(二) 本件商標と被告標章の要部は、いずれも「遊」という文字部分であるから、その称呼及び観念は同一であり、また、双方とも「遊」の文字が図形によって囲われ、その字体及び色彩(赤みがかった茶色)も類似しているから、その外観は類似する。したがって、本件商標と被告標章は類似する。
2 被告の主張
(一) 本件商標のうち、「遊」の部分は、飲食店の営業表示として好まれる、ごくありふれた名称であるから、単独で識別力を有するものではなく、「大皿惣菜居酒屋」という一定の営業形態を示す語句及び商標全体の外観とが一体となってはじめて識別力を生ずるものである。
したがって、本件商標は、「大皿惣菜居酒屋 遊」の全体が、商標の外観(色彩を含む。)と一体となって識別力を有するものとなっている。
これに対し、被告標章は、「遊食市場」を不可分一体の語句として使用しており、この「遊食市場」の部分が被告標章の要部である。
(二) 本件商標と被告標章の要部を対比すると、両者は、外観、称呼及び観念がいずれも異なっているから、本件商標と被告標章とは類似しない。
二 原告の損害
1 原告の主張
被告は、平成一〇年四月の開店時から平成一一年八月までの一七か月間に、毎月少なくとも一〇〇〇万円の売上高を得ているところ、本件商標の使用に対して通常受けるべき金銭の額は、右売上高の二パーセント(一か月二〇万円)であるから、原告は、被告に対し、合計三四〇万円(二〇万円×一七)の損害賠償請求権を有する。
2 被告の主張
原告が損害を被ったとの主張を争う。
第四当裁判所の判断
一 争点一について
1 本件商標
本件商標は、別紙登録商標目録記載のとおり、黒色の長方形の中央に外周が八角形で内周が円形の囲み枠とその内側の円を配し、その中央にやや崩した書体で他の文字よりも大きい「遊」の文字と、円周に沿って、上側に「大皿惣菜」の文字を、下側に「居酒屋」の文字を「遊」を囲むように横書きし、以上の囲み枠、円及び文字を赤みがかった茶色としたものであり、文字、図形及び色彩を組み合せた商標である。
本件商標のうち、黒色の長方形の中央にある赤みがかった茶色の囲み枠の図形部分は、その外観上の構成(色彩を含む。)及び「大皿惣菜」、「居酒屋」の文字から、これに接する者をして、中央に「遊」の文字を配し、周囲に「大皿惣菜」及び「居酒屋」の文字を配した大きな皿を連想させ、そのようなものとして記憶されるものと認められる。
したがって、本件商標は、図形、文字及び色彩の組み合わせ全体が、右のような文字を配した大きな皿を連想、記憶させるものとして識別力を有するものと認められ、その構成から「おおざらそうざい ゆう いざかや」の称呼を生ずるものと認められる。
なお、原告は、「大皿惣菜」及び「居酒屋」の部分は識別力がなく、本件商標の要部は「遊」という文字部分であると主張する(前記第三の一1(一))が、証拠(乙七の一、二)によると、「遊」という名称を有する飲食店は多く存するものと認められるから、その文字自体の識別力が高いとはいえない上、右認定のとおり、「遊」、「大皿惣菜」及び「居酒屋」という各文字部分は、図形部分と組み合わされることにより、大皿の図案の一部になっているものと認められるから、「遊」という文字部分のみが要部であるということはできず、原告の右主張は採用できない。
2 被告標章
(一) 被告標章は、別紙標章目録記載のとおり、有色の長方形の左半面下方に白抜きで正方形の二重の囲み線を引き、その中の白抜きの正方形に「遊」の文字を大きく書き、長方形の右半面に「遊」の文字よりやや小さく「食」と「市場」の各文字を二段に横書きし、「場」の文字の上方に、更に小さく「海鮮。焼鳥処」の文字を縦書きし、その右に帆船の図形を配したものである。
被告標章のうち、「海鮮。焼鳥処」の文字は他の文字に比べてかなり小さく書かれている上、前記第二の一2のとおり、被告標章が使用されている被告店舗は、海鮮料理及び焼鳥等を提供する飲食店であるから、右文字は、被告店舗の業種を示すに過ぎないと認められる。また、帆船の図形も小さく描かれ、特に特徴のあるものとは認められない。
これに対し、「遊」、「食」、「市場」の各文字は大きく書かれ、これに接する者の注意を惹くものと認められる。このうち、「遊」の文字は正方形の枠に囲まれており、「食」、「市場」の各文字よりも幾分大きいが、「遊」の文字と「食」及び「市場」の各文字とは、一連のものとして「遊食市場」と認識することを妨げるほど文字の大きさが異なるわけではなく、この事実に、「遊」、「食」、「市場」の各文字の位置関係や「食市場」の部分のみでは全く意味のない言葉であることを総合すると、「遊」、「食」、「市場」の各文字は、一連のものとして「遊食市場」と認識されるものと認められる。さらに、証拠(乙一の二ないし五)によると、被告店舗の入口上部には、すべて同じ大きさの文字及び書体で書かれた「遊食市場」との大きな表示があり、また、入口横の壁面にある店舗の案内表示にも、すべて同じ大きさの文字及び書体で書かれた「遊食市場」との表示が存することが認められる。
以上の諸点を総合考慮すると、被告標章において識別力を有する要部は、「遊食市場」と認識される文字部分であると認められ、これは、「ゆうしょくいちば」との称呼を生ずるものと認められる。
原告は、被告標章の要部は「遊」という文字部分であると主張する(前記第三の一1(一))が、この主張を採用できないことは、右に述べたところから明らかである。
3 本件商標と被告標章との類否
右1、2を前提として本件商標と被告標章の要部を対比すると、両者は、右のとおり、その外観及び称呼がともに大きく異なっている。また、本件商標は、文字を配した大きな皿又は大きな皿で惣菜を出す居酒屋といった観念を生ずるのに対し、被告標章の「遊食市場」は、「遊んで食べる市場」といった観念を生ずるものと認められるから、両者は、観念においても異なる。
そうすると、本件商標と被告標章とは、外観、称呼及び観念がいずれも異なるから、類似するものとは認められない。
二 以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。
(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 杜下弘記)
<以下省略>