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東京地方裁判所 平成11年(ワ)20375号 判決

原告 発地祐治

被告 吉實洋二

右訴訟代理人弁護士 高木宏行

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、一六六万一一〇〇円及びこれに対する平成一一年三月八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

原告は被告の所有するビルの二階を賃借していたものであるが、右賃貸借契約の終了に際し、被告に対し原状回復義務の履行に替えて被告が施工する原状回復工事の費用として一六六万一一〇〇円を支払ったが、被告は何らの原状回復工事をすることなく新賃借人に賃借したことから、被告は原告が支払った工事費用を何らの法律上の原因なく不当に利得しているとして不当利得に基づき右支払った費用の返還を求めている。

一  争いのない事実等(争いがないか掲記の証拠により容易に認められる事実)

1  原告は、平成五年一一月一日、東京都港区所在の被告所有ビルの二階部分(以下、「本件建物」という。)を賃借し(以下、「本件賃貸借」という。)、原告自ら本件建物に内装及び造作を施した上で、鉄板焼・お好み焼店を経営していたが、平成一一年三月八日付で本件賃貸借は解除された。

原告は、本件建物を退去するに際し、右内装や造作等の原状回復工事をしなかった。(弁論の全趣旨)

2  そこで、原告と被告は、平成一一年四月一四日、本件賃貸借を平成一一年三月八日付にて解約したこと、並びに被告は、保証金五〇〇万円から償却費一〇〇万円、延滞賃料八〇万二四〇三円、電気・水道料金三万二七四四円及び原状回復費(詳細は別紙見積書に依る)として一六六万一一〇〇円を差し引いた残金一五〇万三七五三円を原告に返還すること、原告被告間にはその他の債権債務がないことを確認する内容の「店舗解約確認書」を作成した(甲二の一)。

3  本件賃貸借契約書一五条には、「賃借人が本件建物、本件建物設備、諸造作等を毀損または滅失したときは、賃借人は直ちにこれを原状に回復しなければならない。この場合、賃貸人の計算に基づく賠償金をもって原状回復にかえることができる。」との規定、二〇条には、「賃貸借契約が終了したときには、賃借人は直ちに賃貸借物件を原状に回復して、これを賃貸人に返還しなければならない。もし、賃借人が原状回復をしない場合賃貸人は賃借人の負担においてこれを施工した上、その費用を保証金と相殺し、尚不足の場合には、賃借人に対しその支払いを請求できる。」旨の規定がある(甲一)。

4  被告は、原告が退去後、本件建物に原状回復工事を施工することなく、新たな賃借人を入居させた。

二  争点 不当利得の有無

(原告の主張)

原告が、被告に対し、一六六万一一〇〇円を支払ったのは、被告が原告に代わって原状回復工事をするのでその工事費用を負担するように言われたから支払いを了承したのであり、被告は本件建物につき現実には何らの原状回復工事を行わないまま次の賃借人に賃貸したのであるから、原状回復工事費用を支出していない以上、原告が被告に支払った工事費用はその負担の根拠を欠き不当利得にあたる。

また、被告主張のように原告が原状回復義務の履行に替えて金銭賠償をした趣旨であるとすれば、原告にはそのような意思はなかったことから右支払い合意は錯誤にあたり無効であるからやはり被告には不当利得の返還義務がある。

(被告の主張)

原告は、原状回復義務を履行しないまま本件建物から退去したことから、被告は、原状回復のための見積を取った上で、被告としてもすぐに工事に取りかかれない事情があったために右見積額より大幅に減額した金額を支払うことにより原状回復義務の履行に代えることを申し入れたところ、原告はこれを了承し、右金銭の支払いは保証金より精算処理することで合意をしたのである(和解契約)。

第三当裁判所の判断

一  証拠(甲一、甲二の一及び二、乙一、乙三、乙四、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

原告が本件建物を賃借した当時は前の借主の造作がそのままになっていたところ、原告は、被告の承諾を得た上で自らの費用でおおよそ以下のような内装及び造作工事を施工した。すなわち厨房を作り、厨房の床面にコンクリートを張って二〇センチほど床面を高くし、排気設備を設置し(その際に外壁にダクトの穴を開けた)、ガスの引き込み工事を施工し、床面をクッションフロアーにした(そのために床にビスを打った)他、客席を変更し、窓枠も変更するなどした。

甲第二号証の二の見積書は、被告が、原告の施工した造作部分の撤去等原状回復のために業者に見積を依頼したものであり、合計金額は二五七万〇九六七円となっているが、右見積書中で原告が一六六万一一〇〇円の支払いを承諾した際に、原告の負担となった項目は、厨房の床コンクリート部分、給水配管、排気設備等の撤去解体工事費用一式二〇万円、養生費二万円、発生残材搬出処分費一二万円、厨房及び座敷部分の床、壁、天井下地造作の補修工事一式一八万円、材料費一式一三万円、四枚折戸取付工事一式一二万円、玄関入口ガラスドア交換取付工事一式一五万円、サッシ窓木枠・ドアー塗装工事一式一二万円、電灯・スイッチ・コンセント増設移設配線工事一式八万円、天井ダクトファン交換取付工事一四万円、クリーニング一式八万円、天井カセット埋込エアコンオーバーホール一〇万円、厨房排気ダクト外壁穴補修工事四万円、運搬・諸経費の半額九万円及び消費税のうち七万九一〇〇円であり、その合計は一六四万九一〇〇円である(従って、一六六万一一〇〇円は計算違いであったと思われる。)

二  右項目はいずれも原告が施工した造作部分の撤去改修工事に関するものか、原告が汚損あるいは毀損した部分の回復・清掃等の費用でありいずれも原告が原状回復義務を負担しているものと認められる。この点は、原告本人も、店舗解約確認書(甲二の一)作成時に見積書(甲二の二)を示され右項目については工事をするのであれば原告が負担せざるを得ないと思って右負担を了承したと供述しており、右項目については自ら原状回復義務があることを認めている。

そうすると、原告は、被告に原状回復の内容と金額を示されてその内容と金額を納得して自ら原状回復工事を実施しないかわりに一六六万一一〇〇円を支払うことを承諾したのであり、その内容及び金額はいずれも原状回復としては妥当なものであったことが認められることから、右承諾につき原告に錯誤があったとは認められない(被告が、現実に工事をしたかどうかは原状回復義務の存否には関係がない。)。

よって、原告が原状回復義務として右金額の債務を負っていることは明らかであるから被告には不当利得はない。

三  以上によれば、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 本間陽子)

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