東京地方裁判所 平成11年(ワ)20779号 判決
原告 A
右訴訟代理人弁護士 堀敏明
同 佃克彦
被告 国
右代表者法務大臣 保岡興治
右指定代理人 黒澤基弘
同 栗原壯太
同 曳地文夫
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金一二六万円及びこれに対する平成八年九月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、松山地裁において、刑事事件の判決言渡しに際して判決要旨が司法記者クラブ加盟の記者には交付されたのに原告への交付が拒否されたが、これは、報道の自由、取材の自由を侵害するもので憲法二一条一項に違反する、ないしは司法記者クラブ加盟の記者らとそれ以外のジャーナリストを差別するもので憲法一四条一項に違反するところ、原告はこれによって精神的苦痛を被ったなどと主張して、被告に対し、国家賠償法一条一項に基づき慰謝料金一〇〇万円及び弁護士費用金二六万円(合計金一二六万円)等の支払を求めるものである。
一 争いのない事実等
1 愛媛県警生活安全部生活保安課銃器薬物対策室所属の三名の警察官が、旧知の暴力団関係者を通じて自らけん銃三丁を購入し、それらを職場の机の引き出しやロッカーに保管していたとして、銃砲刀剣類所持等取締法違反容疑で起訴され、平成八年九月一九日、松山地裁において、右事件の判決言渡しが行われた。
2 原告は、判決公判の終了後、松山地裁の総務課長菰田斎(以下「菰田」という。)に対し、ジャーナリストである旨を告げて、判決要旨の交付を求めたところ、菰田は、司法記者クラブ加盟の記者以外には渡せないとしてこれを断った。
3 その後、原告が重ねて菰田に対して判決要旨の交付を求めたところ、菰田は、原告に対し、いったんは、今回は正確な報道を期するため特に配慮して判決要旨を渡すこととする旨伝えた。しかし、その後、菰田は、松山地裁に赴いた原告に対し、上司と相談した結果、やはり司法記者クラブ加盟の記者以外には交付できないと伝え、判決要旨を交付しなかった。
二 争点
1 原告に対して判決要旨を交付しなかったことが、原告の報道の自由、取材の自由を侵害し、憲法二一条一項に違反する違法なものといえるか。
(原告の主張)
報道は、民主主義社会において国民が国政に関与するにつき重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものであり、この報道が正しい内容を持つためには、その報道のための取材の自由も保障される必要がある。報道の自由及び取材の自由は、表現の自由を規定した憲法二一条一項によって保障されるものであり、この自由の制約の合憲性は極めて厳格な基準によって判断されるべきもので、制約を課した被告においてその合理性を主張立証すべきである(特に本件の取材・報道の対象は、現職警察官によるけん銃の不法所持の事案であり、主権者たる国民に広く知らせる必要がとりわけ高い事柄なのである。そして、判決要旨は、刑事事件を報道する際、その報道の正確性を期するため、不可欠のものである。)。
ところで、本件において問題とされる菰田の行為は、判決要旨の交付をいったん約束しておきながら、あえてそれを撤回するという作為である。このように刑事事件の正確な報道にとって不可欠である判決要旨をことさらに交付しないという行為(作為)は、原告による当該刑事事件の正確な報道を不可能にするものであって、原告の報道の自由、取材の自由を侵害するものであるところ、被告は、右のような制約を加えたことの合理性を何ら主張、立証していないものである。
(被告の主張)
判決の言渡しは公開の法廷で行われ、原告も言渡しを傍聴していたのであるから、本件で原告の報道の自由、取材の自由が侵害されたということはない。そもそも原告は判決要旨の交付を請求する権利を有しているものでないところ、菰田がした判決要旨交付の約束はあくまで事実上の交付を約束するものにすぎないのであって、これにより原告が裁判所に対し判決要旨の交付を請求する権利を取得するという性質のものではない。また、右約束により、原告にその旨の一定の期待が生ずることがあったとしても、右約束が、原告に対し、記者クラブ加盟の記者と同等の地位を与えるとの趣旨を含むものでないことはもちろん、それが直ちに法的保護に値するものでもないことは、判決要旨交付の性質からみて明らかである。判決要旨交付の約束の撤回が原告の報道の自由、取材の自由を侵害したということはできない。
2 原告に対して判決要旨を交付しなかったことが憲法一四条一項の平等原則に違反する違法なものといえるか。
(原告の主張)
(一) 判決要旨の交付は司法行政上の便宜供与の問題であるとしても、それが国民の知る権利に奉仕する機能を有する報道の自由、取材の自由に関わる以上、平等原則違反の有無は極めて厳格な基準によって判断されるべきである(司法行政上の裁量の幅は極めて狭く、その行使は厳格に羈束されるというべきである。)。
(二) そして、判決要旨の交付対象を司法記者クラブ加盟の記者に限定する取扱いは、以下のように、目的の合理性も目的達成手段の合理性もないというべきである。
(1) すなわち、被告は、速報性を重視して判決要旨の交付先を司法記者クラブ加盟の記者に限定したというが、報道には日報的な事実報道もあれば、継続的な取材に基づく調査報道など様々な態様があり、これらはいずれも、国民の知る権利の充足にとって不可欠のものである。むしろ国民の知る権利の充足という観点からは、日報的な報道よりもむしろ継続的な取材に基づき社会的事象の本質を掘り下げる調査報道の方が寄与するところが大であるとすらいえるのであり、被告のいうように速報性という機能のみを重視する合理性は全くない。また、記者クラブ加盟の記者の所属する新聞社等がする報道はほとんどが単なる結論の伝達等にとどまるものであり、このような速報の内容に照らしても、速報性のみを重視することは不合理で、目的の合理性はない。
(2) 仮に目的の合理性が認められたとしても、速報をしているのは記者クラブ加盟の記者所属の報道機関ばかりではないのであり(雑誌の場合も十分に速報性を有するし、その日又は翌日に日報的な報道をしている新聞社等の記者で記者クラブに加盟していない者もいる。)、記者クラブ加盟の記者のみを区別して取り扱うことは目的達成手段としての合理性がない。
(3) また、判決は判例雑誌等の公刊物に登載されるとは限らないし、仮に掲載されるとしても、それは通常半年から一年以上も経過した後であるから、本件のような取扱いが許されるとするならば記者クラブ加盟の記者以外は判決内容を正確に把握する方法は一切ないことになることになって、生じる差異は著しいものとなり、この観点からしても、平等原則違反が基礎づけられる。
(4) 交付することによって生ずる弊害と不交付によって原告の被る不利益との比較衡量の観点からしても、松山地裁は余分にもう一部判決要旨を用意すれば足りたのであり、原告に判決要旨を交付することは極めて容易であったのに対し、原告としては判決要旨の交付を受けない限り、判決の正確な内容を入手する途はー切なく、不交付により被る不利益は著しいものであり、原告に判決要旨を交付することを拒むことに合理性がないことは明らかである。
(5) なお、菰田が原告にいったんは判決要旨を交付する旨申し向けていることからして、松山地裁側も、判決要旨の交付が十分に可能であり、そうすることが妥当であると認識していたものであるといえる。また、原告はいったん判決要旨の交付を約束され、記者クラブ加盟の記者と同等の利益を保障された状態になったのであるから、この状態からあえて原告の利益のみを剥奪するという対応が許されるというためには、そうすることがやむを得ないといえるほどの強度の合理性がいるところ、本件ではそのような強度の合理性があったとは認められないのである。
(6) そもそも、松山地裁司法記者クラブなるものは存在しないのであり、存在するのは愛媛県警記者クラブであるところ、右クラブと松山地裁との関係(特段の関係がないという関係にある。)は、原告と松山地裁との関係と変わらないというべきである。また、仮に司法記者クラブが存在するとしても、それは全くの私的な団体であり、その加盟の可否はクラブ加盟のメンバーの意思によって左右され、当該ジャーナリストの活動内容等によって決められるのではないものであり、「速報性」は要件となっていない。これらの点からしても、判決要旨の交付を松山地裁司法記者クラブ加盟の記者に限ることに合理性がないことは明らかである。
(被告の主張)
判決要旨については、裁判所に対し、一定の者にこれを交付すべきことを義務づける法令の規定があるわけではなく、司法行政上の便宜供与の問題にすぎないから、裁判所がこれを交付するか否か、どの範囲の者に交付するかは、裁判所の判断にゆだねられている性質のものである。そして、判決要旨が、裁判の結果を迅速かつ正確に報道するという報道機関の公共性を考慮し、現にかかる報道を行っている新聞、テレビ等の報道機関に対して交付することを予定して作成されるものであることから、裁判所は、速報性を重視して報道活動を行っているとみられる記者クラブ加盟の記者に対して司法行政上の便宜措置として判決要旨を交付するという取扱いをしているものであり、このような取扱いは、合理性を欠く措置ということはできず、憲法一四条一項に違反するものではない。
第三当裁判所の判断
一 前記争いのない事実等並びに関係証拠(甲第一ないし第一四号証、乙第一ないし第三号証)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
1 原告は、フリーのジャーナリストとして、週刊誌を主な発表の場として、警察の不正・腐敗問題を中心に取材、執筆活動を行っている。特に、近時、警察官が銃器捜査にあたり、暴力団関係者にけん銃等をあらかじめ用意させ、これを捜査の過程で発見、押収したように見せかけて銃器を摘発したこととする、いわゆる「やらせ押収」事件が全国で発覚したため、この種事件を取材し、報道にあたってきた。
2 その一環として、原告は、愛媛県警生活安全部生活保安課銃器薬物対策室所属の三名の警察官が、旧知の暴力団関係者を通じて自らけん銃三丁を購入し、それらを職場の机の引出しやロッカーに保管していたとして、銃砲刀剣類所持等取締法違反容疑で松山地裁に起訴された刑事事件(以下「本件事件」という。)の公判の取材を行ってきた。
3 平成八年九月一九日、本件事件の判決公判が開かれ、原告は、判決言渡しを傍聴席にて傍聴した(なお、刑事事件の判決の宣告においては、主文及び理由が朗読され又は主文の朗読と同時に理由の要旨が告げられることになっている《刑事訴訟規則三五条参照》。)。
4 本件事件については、あらかじめ、松山地裁の司法記者クラブの幹事の記者から判決要旨交付の希望があった。そこで、広報事務を担当する松山地裁総務課において、判決言渡後、幹事社の記者に、用意しておいた司法記者クラブ加盟の記者の所属する報道機関の数に見合う判決要旨の写しを一括して交付した。なお、松山地裁においては、司法記者クラブの幹事の記者から交付要請があったときは、司法行政上の便宜供与として、判決要旨を作成し、判決言渡し後、総務課長が交付申請した幹事の記者にこれを交付するという取扱いになっている。交付する部数は、原則として一部であり、他の司法記者クラブ加盟の記者にはコピーをしてもらう扱いである。ただし、例外的に判決要旨が大部であるとか、時間的に切迫していて判決要旨をコピーする時間的余裕がないという場合には、司法記者クラブ加盟の記者の所属する報道機関の数だけ判決要旨を作成して交付することもある。
なお、判決要旨は、判決において示された重要な判断部分をピックアップして簡潔に示すものであって、それにより判決内容の理解を容易にする役割を果たすものである。この判決要旨の作成については、これを法令上義務づける規定があるわけではないが、社会的関心を引く事件などについては、司法行政上の措置として、裁判の結果を迅速かつ正確に報道するという報道機関の公共性を考慮し、かかる報道機関の便宜を図る目的で、現にかかる報道を行っている新聞、テレビ等の報道機関にこれを作成して提供するという取扱い(いわゆる便宜供与)がされることがあるものである。
5 本件事件の法廷において、裁判長が、判決要旨を希望する報道機関の者は後で取りに来るように言ったため、原告は、判決公判終了後の同日午前一一時ころ、松山地裁内において、菰田に対し、判決要旨を交付してもらいたい旨要望した。しかし、前記のように、従来、判決要旨は司法記者クラブ加盟の記者にのみ交付するという取扱いであったため、菰田は、判決要旨は地元の司法記者クラブ加盟の記者以外には渡せないとしてこれを断った。
6 原告は、これに納得せず、最高裁判所に問合せをするなどした上、菰田に対し、判決要旨の交付をねばり強く求めた。菰田は、事務局長と対応を協議したところ、事務局長は、原告にはあくまで例外であることを告げて判決要旨を渡すよう指示した。そこで、同日午後四時三〇分ころ、菰田は、原告に対し、電話で、「正確な報道を期するため、今回は特別に配慮して要旨を渡します。」と伝えた(以下これを「本件発言」という。)。しかし、その後ほどなくして、事務局長から、菰田に対し、再考した結果、便宜供与の本来の趣旨に照らし、原告を例外扱いするわけにはいかないので、先の連絡を取り消して、判決要旨の交付を断るようにとの指示があった。そこで、菰田は、同日午後五時ころ、松山地裁に来庁した原告に対し、電話では交付すると言ったが、その後、更に上司とも相談した結果、記者クラブ加盟の記者以外には交付しないということになった旨伝え、結局、原告に対して判決要旨を交付しなかった。
7 松山地裁には司法記者クラブが存在するが、そのメンバーは愛媛県警本部内に部屋の提供を受けてそこに常駐している県警記者クラブのメンバーと重複しており、記者らは松山地裁内に常駐しているわけではない。なお、記者クラブとは、公的機関などを取材対象とする報道機関に所属し、その編集責任者の承認を得て派遣された記者によって構成される組織であり、公的機関が保有する情報へのアクセスを容易にする取材拠点として、機能的な取材、報道活動を可能にし、国民にニュースを的確迅速に伝えることを目的とするものであって、これまで我が国の報道の分野で一定の役割を果たしてきた(公知の事実)。その構成員は、日本新聞協会の加盟社及びこれに準ずる報道機関から派遣された記者によって構成されるものであり、松山地裁の司法記者クラブの場合、朝日新聞、愛媛新聞、産経新聞、毎日新聞、読売新聞、共同通信、時事通信、日本経済新聞、高知新聞、NHK、南海放送、テレビ愛媛、あいテレビ及び愛媛朝日テレビ各社の記者が加盟している。
二 以上の事実関係を前提に判断する。
1 争点1について
(一) 報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものであるから、事実の報道の自由は憲法二一条によって保障され、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道のための取材の自由も、憲法二一条の精神に照らし、十分尊重に値するものというべきである(最高裁昭和四四年(し)第六八号同年一一月二六日大法廷決定・刑集二三巻一一号一四九〇頁)。しかしながら、この取材の自由は、いわゆる消極的自由、すなわち報道機関の取材行為に国家機関が介入することからの自由を意味するものであり、この取材の自由から国に対して一定の行為を請求する積極的な権利まで当然に導き出されるものではない。報道機関が裁判所に対し判決要旨の交付を請求する権利が取材の自由に含まれるものでないことは明らかである。したがって、判決要旨の交付を受けられなかったからといって、直ちに取材の自由の侵害を云々することはできないし、報道の自由の侵害の問題も生じないというべきである(なお、裁判については、憲法八二条一項により、その公開が保障されて、傍聴が認められ、その内容を知る機会が与えられているのであり、前記のように、原告は、現に本件事件の判決公判を傍聴しているのである。そして、前記のように、判決要旨自体は、判決の内容の理解を容易にするという補助的な役割を果たすものにすぎない。)。
(二) もっとも、本件では、前記認定のように、菰田がいったんは本件発言をし、その後これを撤回し、結局、原告は判決要旨の交付を受けられなかったという事実経過があるが、以下の点を考えると、このような事実経過があるからといって国家機関である裁判所が原告の取材活動に介入し、その取材の自由を侵害したということはできないというべきである。すなわち、<1>前記のとおり、判決要旨の交付を請求する権利が憲法上保障されているものではないし、憲法以外の法令においても判決要旨の交付を義務づける規定は存在せず、報道機関に対する判決要旨の交付は、純然たる事実上の措置でしかなく、報道機関側に交付を受ける権利を付与するような性質のものではない(原告もこれを認めるところである。)のであるから、菰田の本件発言も事実上交付を約束するという意味しか持たないうえ、右発言はすぐに撤回されたことを考えると、右の事実経過から、取材活動上、原告は結局判決要旨の交付を受けられなかったということ以上の不利益を被ったとは認められない。<2>菰田の本件発言は好意からされたもので、本件発言とその撤回は、原告の取材活動を混乱させるとか、妨害するという意図でなされたものではない。
(三) したがって、原告に対して判決要旨を交付しなかったことが憲法二一条一項に違反し、違法であるとの原告の主張は理由がない。
2 争点2について
(一) 憲法一四条一項の規定は、各人に対し絶対的な平等を保障したものではなく、合理的な理由なくして差別することを禁止する趣旨であって、それぞれの事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、何ら右規定に違反するものではない。ところで、前記のとおり、裁判所による判決要旨の交付は、何らの法的な義務に基づくものではなく、司法行政上の便宜供与として行われているものであるから、そもそも判決要旨を作成して交付するか否かについては裁判所の裁量にゆだねられているというべきである(判決要旨を作成しないことにしたとしても、それは何ら違法でない。なお、原告は、判決要旨の交付が報道の自由、取材の自由に関わるものである以上、裁判所は交付につき憲法二一条によって厳格に覊束される旨主張するが、前記のとおり、判決要旨を交付するか否かの問題は直ちに報道の自由、取材の自由の侵害をもたらすような性質のものではないのであって、判決要旨の交付につき裁判所に裁量がないとはいえない。)。このように判決要旨を交付するか否かの問題は憲法二一条一項の問題に直ちに関わらないもので、裁判所にはこれを交付するか否かについて裁量があること、裁判は原則として公開の法廷で行われ、これを傍聴すること等によりその内容を知る機会が与えられていること、前記のように、判決要旨は判決内容の理解を助けるという補助的な役割を果たすにとどまることなどの点を考慮すると、判決要旨の交付の問題について憲法一四条一項違反の有無を考えるに当たっては、判決要旨を交付する目的に合理的根拠があり、判決要旨をだれに交付するかの区別が右目的との関連で著しく不合理なものでなく、裁量判断の合理的な限界を越えていないと認められるか否かという観点からなされるべきである。
ところで、前記のように、判決要旨の作成交付は、裁判の結果を迅速かつ正確に報道するという報道機関の公共性を考慮し、裁判の内容理解を助けるという目的でおこなわれるものであって、その目的に合理的根拠がないとはいえない(その内容を精査検討する時間の十分ある報道機関より迅速な報道を要求される報道機関の方が判決要旨を必要とすることは明らかで、判決要旨を作成交付する目的を速報性のある報道機関への便宜供与においたことをもって合理性がないとは言い難い。)。そして、記者クラブは、前記のように、日本新聞協会の加盟社及びこれに準ずる報道機関から派遣された記者によって組織され、速報性のある新聞、放送等の分野の有力な報道機関の多くが加盟している組織で、我が国の報道分野において一定の役割を果たしているものであるから、松山地裁が松山地裁の司法記者クラブに判決要旨を交付することで足りるとし、それ以外の報道機関には特に交付はしないという取扱いをすることが、その目的との関連で著しく不合理なもので、裁量判断の合理的な限界を越えているとは言い難いというべきである。なお、本件では、菰田がいったんは本件発言をし、その後撤回したという事実経過があるが、本件発言は、前記のように、事実上のものでしかないもので、それにより原告の法的地位ないし法的な状態が変化するというものではない(本件発言により、原告に対し、司法記者クラブ加盟の記者と同様の法的利益が保障されたことになるなどとはいえない。)から、右事実経過があることは、右の結論を左右するものではない。
(二) したがって、原告に対して判決要旨を交付しなかったことが憲法一四条一項の平等原則に違反し、違法であるとの原告の主張も理由がない。
三 結論
よって、原告の本件請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大坪丘 裁判官 本間陽子 裁判官 辛島明)