東京地方裁判所 平成11年(ワ)20949号 判決 2001年5月28日
原告
冨山長彦
被告
花形幸弘
主文
一 被告は、原告に対し、金一五三万三七四二円及びこれに対する平成一一年一〇月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その七を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、六〇七万七〇二七円及びこれに対する平成一一年一〇月三日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、交通事故により負傷した原告が、被告に対し、自賠法三条に基づき損害賠償を内金請求している事案である。
一 争いのない事実
(一) 本件事故の発生
ア 日時 平成一〇年三月二二日午後五時ころ
イ 場所 東京都江東区塩浜二丁目五番二〇号先路上
ウ 原告車両 原告が乗車していた普通乗用自動車
エ 被告車両 被告が運転し、保有する普通乗用自動車(足立五三つ八七六五)
オ 事故態様 被告は、原告車両を含む四台の車両に玉突き事故を発生させた。
(二) 責任原因
被告は、自己のために被告車両を運行の用に供していたから、原告に対し、自賠法三条に基づく損害賠償責任を負う。
二 争点(損害額)
(原告の主張)
原告は、本件事故によりむちうち症になった。
<1> 治療費 四万五五三〇円
<2> 文書費 三万九五〇〇円
<3> 通院交通費 六万六六〇〇円
<4> 休業損害 七九万一四一六円
原告の日収は一万三〇〇〇円、勤務可能日数は七一日であり、当該期間中の給与は一三万一五八四円であった。
一万三〇〇〇円×七一日-一三万一五八四円
<5> 後遺症による逸失利益 二〇〇万七四〇〇円
平均賃金 給与二四万九八〇〇円×一二月+賞与一〇二万五六〇〇円=四〇二万三二〇〇円
四〇二万三二〇〇円×〇・一四×三・五六四
<6> 通院慰謝料 一六七万円
<7> 後遺症慰謝料 三三六万円
<8> 小計 七九八万〇四四六円
<9> 既払金(自賠責) 一七九万五七八三円
<10> 損害額合計 六一八万四六六三円
(被告の主張)
原告主張の損害額は高すぎる。事故当日の診断書では全治一週間であったのに、一年以上通院するのは長すぎる。
第三争点に対する判断
一 前記争いのない事実並びに証拠(甲一ないし五、七、八の一ないし三、九、一二ないし一七、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 被告は、平成一〇年三月二二日午後五時ころ、脇見運転により、被告車両を駐車車両に衝突させ、同車両が先行車両に追突し、更に同車両が先行の原告車両に追突し、原告車両が先行車両に追突するという玉突き事故を発生させたが、逃走した。原告(昭和四五年一月一七日生。事故時二八歳)は、原告車両を停止させており、シートベルトをしていなかった。
(二) 原告は、事故当日、救急車で鈴木外科病院に搬送され、頸椎・頭部X線検査が施行され、頸椎捻挫・頭部打撲と診断されて、平成一〇年三月二四日まで通院した(通院実日数三日)。原告は、三月二四日、自宅近くの昭和大学附属豊洲病院に転医し、頸部挫傷と診断され、一〇月一六日まで投薬、牽引等が続けられた(通院実日数二七日)。また、原告は、四月七日、同僚の勧めで浜中医院を受診し、頸椎捻挫と診断され、九月二四日まで通院した(通院実日数一〇〇日)。
(三) 原告は、平成一〇年九月二四日、症状固定と診断されたが、後遺障害診断書には、自覚症状として、両手に力が入らず重い物が持てない、首の痛みがあるなどと記載され、他覚症状として、頸椎に可動域制限あり、可動時痛あり、神経所見として、右上肢知覚異常、運動障害ないが握力が低下している、反射異常なしなどと記載されている。原告の頸部痛・両上肢の脱力感等の症状については、自賠責保険後遺障害等級一四級と認定された。原告は、一二級以上に該当する旨主張したが、平成一二年一月二六日付けで、画像からは外傷に起因する異常所見は認め難く、医学的に証明し得る神経学的所見は認められないとする旨の通知が届いた。
(四) 原告は、平成一〇年三月一二日、コーナンフリート株式会社との間で、時給一〇〇〇円、勤務時間は六時から一五時(ただし、一九時まで勤務延長できる)、休日は日曜日・祝日等の約定で労働契約を締結し、ガソリンスタンドでアルバイトとして働き始め、三月一二日及び一四日の二日分として一万八二五〇円が支給された。事故当日は社員寮への引越日であり、原告は、三月二三日から四月五日まで一二日間欠勤したが、勤務先の要請で四月六日から仕事に出た。原告は、その後、五月二八日から七月五日まで欠勤し、八月一五日までは通院等のため残業等ができず、一二月一五日に支給された賞与は三万六〇〇〇円減額された。原告は、四月一六日ころから正社員となったが、六月から八月までの間に計二八万二一九九円の給与減額がされており、また、九月から一一月までに支給された給与の平均は二六万三三二〇円、残業手当の平均は六万二六七一円であるところ、五月から八月までに実際に支給された残業手当の合計は六万三二八六円であり、六月から八月までは皆勤手当五〇〇〇円が支給されていない(甲一六)。
二 損害額
<1> 治療費 四万五五三〇円
証拠(甲三、四)及び弁論の全趣旨により認められる。
<2> 文書費 三万九五〇〇円
証拠(甲一一の一ないし五)及び弁論の全趣旨により認められる。
<3> 通院交通費 六万六六〇〇円
証拠(甲六の一ないし三)及び弁論の全趣旨により認められる。
<4> 休業損害 六三万〇〇九七円
前記認定事実によれば、原告の休業損害は次のとおり認めるのが相当である。
ア アルバイド分 一〇万九五〇〇円
一万八二五〇円÷二日×一二日
イ 正社員分 計五二万〇五九七円
a 給与減額分 二八万二一九九円
b 賞与減額分 三万六〇〇〇円
c 得べかりし残業手当 一八万七三九八円
六万二六七一円×四月-六万三二八六円
d 得べかりし皆勤手当 一万五〇〇〇円
五〇〇〇円×三月
<5> 後遺症による逸失利益 五四万七七九八円
前記認定事実によれば、原告は、本件事故により頸椎捻挫等の傷害を受けたが、他覚的所見はなく、本件事故後約六か月後である平成一〇年九月二四日に症状固定し、原告の後遺障害は、頸部等の局部に神経症状(後遺障害等級一四級一〇号)を残したものということができるが、局部に頑固な神経症状を残すものとまではいえないというべきであり、原告はその労働能力を五パーセント三年間にわたり喪失したものとみるのが相当である。基礎収入については、原告の平成一〇年九月から一一月までの平均月収が原告主張の平均賃金の月収とほぼ同程度であるので、原告主張の平均賃金を基礎収入として、ライプニッツ方式により中間利息を控除して算定すると、上記金額となる(円未満切捨て)。
四〇二万三二〇〇円×〇・〇五×二・七二三二
<6> 通院慰謝料 一〇〇万円
前記認定の傷害の部位、程度、通院期間、原告が本件事故後二週間で勤務に復帰せざるを得なかった事情等を総合すれば、上記金額が相当である。
<7> 後遺症慰謝料 一〇〇万円
前記認定の後遺障害の部位、程度、内容等に照らすと、上記金額が相当である。
<8> 小計 三三二万九五二五円
三 損害の填補
弁論の全趣旨によれば、既払金は一七九万五七八三円であることが認められるから、これを控除すると一五三万三七四二円となる。
第四結論
以上によれば、原告の本訴請求は、被告に対し、一五三万三七四二円及びこれに対する不法行為の日の後である平成一一年一〇月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却する。
(裁判官 鈴木順子)