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東京地方裁判所 平成11年(ワ)20965号 判決 1999年12月21日

原告

被告

日本電信電話株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

升永英俊

松添聖史

主文

一  本件訴え中「東京地方検察庁平成九年検第一九九八七号著作権違反について、平成九年一一月二五日に不起訴処分となった本件に新たに違反が行われたので確認する。」との請求に係る部分を却下する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  東京地方検察庁平成九年検第一九九八七号著作権違反について、平成九年一一月二五日に不起訴処分となった本件に新たに違反が行われたので確認する(以下、右不起訴処分を「本件不起訴処分」といい、この請求を「本件著作権侵害行為確認請求」という。)。

二  被告は、原告に対し、金四五四万四八九〇円を支払え。

第二  事案の概要

一  争いのない事実等

1  原告は、「古本情報」という書籍に別紙目録一記載の「古本物語」という漫画を掲載し、右漫画を、原告が出版を営んでいる「・・・・・ ・・・・・」という書籍に転載した(甲一の一及び二、乙一。右漫画の下半分のうち、最後の枠を除いた四枠を「原告漫画」という。)。

2  原告は、平成九年八月二日、被告を著作権法違反の罪名で告訴した(甲八)が、被告は、同年一一月、不起訴処分となった。

3  被告が平成一一年三月に発行したハローページ東京都渋谷区版の裏表紙の内側のページは、別紙目録二記載のとおりである(このうち、タウンページと記載されている三体のキャラクターがマンホールから出ている絵及び吹き出しの部分を「被告イラスト」という。)。

二  本件は、原告が、「被告イラストは、原告漫画に類似しており、原告漫画に依拠して製作されたものである。」と主張して、「本件不起訴処分となった本件に新たに違反が行われたので確認する」ことを求めるとともに、損害の賠償を求める事案である。

第三  争点及びこれに関する当事者の主張

一  争点

1  被告イラストによる原告の著作権侵害の有無

2  損害の発生及び額

二  争点に関する当事者の主張

1  争点1について

(原告の主張)

(一)(1) 原告漫画は、本を擬人化したキャラクターによって、起承転結のストーリーを表現したものである。原告漫画の、一段目の左の枠は、口を縦長にした古書が買われてきたという「起」を、一段目の右の枠は、右古書が、他の本に騒がれ苛められても沈黙している「承」を、二段目の左枠及び中枠は、右古書が泣きながら、苛められながらも、卒論を書いている「転」を、別紙目録一の最後の枠は、卒論が出来上がった「結」を表している。

原告漫画のキャラクターは、腕先の手を○形にした点、眉毛、目、口、腕等で表情を表現している点に特徴がある。

(2) 被告イラストは、本を擬人化したキャラクターによって、起承転のストーリーを表現したものである。

被告イラストにおいては、三体のキャラクターが道路のマンホールから飛び出ようとして、顔や手等を出し、左端のキャラクターが口を開け「僕らに知らない店はない。」と左手を上げている。また、中央のキャラクターは、口を閉じ、両手を道路に置き、タウンページを誇示している。右端のキャラクターは、左手を道路に置き右手を上げ眉毛をつけ、通行人に手を振っている。

このマンホールから出た所が「起」であり、「僕らに知らない店はない。」が「承」であり、「転」は、タウンページの利用者への販売促進である。

被告イラストのキャラクターには、腕先の手が○形のものがある上、眉毛、目、口、腕等で表情を表現している。

(3) したがって、被告イラストは、原告漫画に類似する。

(二) 被告イラストの作者であるジェイ・オット・セイボルドが活動を始めたのが「古本情報」が流通していた時期に近いこと、同人が昭和六一年から昭和六二年にかけて日本に来たものと推認されること、昭和五九年三月二〇日から二六日まで、東京都世田谷区三軒茶屋において、「三軒茶屋古本まつり」が開催され、「古本情報」が販売されていたところ、同人のマネージメント及び著作権管理をしている岩吉隆久は、当時三軒茶屋に自宅を有していたことからすると、ジェイ・オット・セイボルドが古本情報の原告漫画を見たことは十分に考えられるのであり、被告イラストは、原告漫画に依拠して製作されたものというべきである。

(被告の主張)

原告の右主張は否認する。

(一) 原告漫画のキャラクターと被告イラストのキャラクターには、以下のとおり、類似点は全く存在しない。

(1) 被告イラストのキャラクターは、平面的な顔にあえて斜めに目を配置することで、独自の立体感、動感を表しているところ、原告漫画のキャラクターは、単純に目を真横に並べただけである。

(2) 被告イラストのキャラクターには、大きく鼻が描かれているのに対し、原告漫画のキャラクターには鼻が存在しない。

(3) 被告イラストのキャラクターは、本の中央から腕が生えているのに対し、原告漫画のキャラクターは、本の表紙、すなわち顔の面から、あたかも髭の様に手が生えている。また、被告イラストのキャラクターの手は黒く塗りつぶされた丸形で、通常の人間の腕と手のバランスに比べて非常に大きくデフォルメされているが、原告漫画のキャラクターの手は、何の色もなく、その大きさも通常の人間の腕と手のバランスに近い。

(4) 被告イラストのキャラクターは、足と脚部は一本の線で描かれているのに対し、原告漫画のキャラクターは、足は手と同様に白い囲みで表現され、足と脚部が明確に区別されている。

(5) 被告イラストのキャラクターの額にあたる部分にはタウンページという文字が描かれているが、原告漫画のキャラクターには何らの文字もない。

(二) 被告イラストには、起承転結のストーリーは認められない。

(三) 被告イラストの創作者であるジェイ・オット・シーボルドは、原告漫画に依拠して被告イラストを製作したものではない。

2  争点2について

(原告の主張)

東京都渋谷区の住民基本台帳世帯数は九万九三〇七世帯であり、事業者数は三万〇五四七である。

この世帯数及び事業者数の合計をハローページ東京都渋谷区版の発行部数と仮定し、この発行部数にハローページ東京都渋谷区版の定価三五〇円の一〇〇分の一〇である三五円を乗じた額である四五四万四八九〇円が、通常受けるべき著作権使用料相当額であり、これが原告の損害額となる。

(被告の主張)

損害の発生及び額については争う。

第四  当裁判所の判断

一  本件訴え中本件著作権侵害行為確認請求に係る部分について

本件著作権侵害行為確認請求は、確認を求める対象が特定されていないので、原告に対して、特定するよう命じたところ、原告は特定しないので、本件訴え中本件著作権侵害行為確認請求に係る部分は、不適法であって、却下を免れない。

二  争点1について

1  原告漫画のキャラクターと被告イラストのキャラクターには、次のような違いがあるものと認められるから、被告イラストのキャラクターが、原告漫画のキャラクターを複製又は翻案したものであるとは認められない。なお、原告漫画のキャラクターと被告イラストのキャラクターは、本を擬人化したという点は共通しているが、それ自体はアイデアであって、著作権法で保護されるものではない。

(一) 原告漫画のキャラクターの本の形状は、背表紙の付近が丸みを帯び、やや本が開いた状態のものもあるが、被告イラストのキャラクターの本は、全体的に角張っており、表表紙の上辺よりも裏表紙の上辺の方が長い独特の形状となっている。

(二) 被告イラストのキャラクターは、目が斜めに配置されているが、原告漫画のキャラクターは、目は真横に並べられている。

(三) 被告イラストのキャラクターには、大きく鼻が描かれているのに対し、原告漫画のキャラクターには鼻が存在しない。

(四) 被告イラストのキャラクターは、本の中央から腕が生えているのに対し、原告漫画のキャラクターは、本の表紙、すなわち顔の面から、腕が生えている。また、被告イラストのキャラクターの腕及び手は立体的で、手は黒く塗りつぶされた丸形である(別紙目録二記載の被告イラストに手が白い丸形のものが存するとは認められない。)が、原告漫画のキャラクターの腕及び手は立体的でなく、手も白い丸形である。

(五) 被告イラストのキャラクターの額にあたる部分にはタウンページという文字が描かれているが、原告漫画のキャラクターには何らの文字もない。

2  原告漫画には、ストーリーがあるものと認められ、それについて、原告が主張するように「起承転結」が存するとしても、被告イラストにおいては、原告が主張するような起承転のストーリーがあるとは認められないし、また、仮に、被告イラストに何らかのストーリーがあるとしても、そのストーリーは、原告漫画とは異なっている。

3  原告漫画も、被告イラストも、キャラクターの目、口、腕等で表情を表現しているということができるが、そのこと自体はアイデアであって、著作権法で保護されるものではなく、原告漫画と被告イラストとでは、キャラクターが異なることは、前示のとおりである。

4  以上述べたところを総合すると、被告イラストが原告漫画を複製又は翻案したものであるとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の損害賠償請求は理由がない。

三  よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 岡口基一

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