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東京地方裁判所 平成11年(ワ)21173号 判決

原告 新田守

右訴訟代理人弁護士 小澤彰

被告 横山京子

被告 並木一夫

被告 川村繁

右被告ら三名訴訟代理人弁護士 山下一雄

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは原告に対し、各自金二〇〇万円及びこれに対する平成一一年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、文京区に勤務する地方公務員である被告らが、同じく文京区に勤める地方公務員である原告に対し、職場内で種々のいやがらせをし、原告の通勤災害認定請求を妨害し、また日常の勤務において原告に著しい精神的苦痛を与えたとして、原告が被告らに対し、共同不法行為を理由として慰謝料の支払いを求めた事案である。

被告らは、原告が不法行為と主張する事実は、いずれも被告らが文京区の職員として行った公務としての行為であり、国家賠償法一条により公務員である被告らは個人としては損害賠償責任は負わないとして争っている。

二  前提となる事実(証拠で認定した事実については、各項の末尾の括弧内に当該証拠を表示した。)

1  当事者

原告は、昭和四八年四月に東京都に採用され、昭和五二年四月以降は、文京区で勤務し、平成六年四月から平成八年三月までは都市計画部指導課に、平成八年四月から平成一一年三月までは建築環境部営繕課に配属され、平成一一年四月以降は都市計画営繕課に配属されている地方公務員である。

被告横山は、昭和四九年四月一日に文京区に採用され、平成六年四月一日から平成九年三月三一日までは、文京区総務部職員課安全衛生担当主査の職にあった地方公務員である。当時の被告横山の職務は、「職員の安全衛生に関する事」と「職員の公務災害補償に関する事」であり、後者については、文京区の職員の公務災害又は通勤災害等に関し区長のなすべき事務の補助執行として、被災職員からの認定請求を受け付け、認定請求に必要な証明をし、当該請求についての任命権者の意見を付す等の事務を担当していた。

被告並木は、昭和四五年四月に東京都に採用され、平成六年四月から平成九年三月までは文京区都市計画部指導課長の職にあった地方公務員で、この間は原告の上司であると共に、被告川村の上司でもあった。

被告川村は、昭和四三年四月に東京都に採用され、昭和四九年四月以降は文京区で勤務し、平成二年四月一日から平成八年三月までの間は文京区都市計画部指導課建築防災担当主査の職にあった地方公務員であり、原告が平成六年四月に都市計画部指導課に配属されて以降は、原告の上司であった。

(甲四、乙三ないし乙六、弁論の全趣旨)

2  原告の通勤途上の事故と通勤災害の認定請求

原告は、平成七年一一月三〇日、自宅から文京区役所への通勤の途中、営団地下鉄丸ノ内線の池袋駅に停車中の車両内において、発車間際に駆け込み乗車してきた数名の乗客のうちの一人が持っていたと思われるアタッシュケース様の物が原告の腰背部に当たり(以下「本件事故」という)、その結果受傷したとして、三楽病院で診療を受けるとともに、同年一二月四日、被告横山のもとに通勤災害の認定請求手続のために出向き、認定請求のために必要な用紙を受け取った。被告横山は、その際、原告の上司である被告川村に事故発生の確認の電話をしたところ、その時点では被告川村は原告から事故の報告を受けていなかったため、上司である被告並木に相談した結果、被告並木が原告の認定請求手続に関与することになり、同月六日、被告並木は、原告とともに三楽病院に出向き、担当の医師から原告の症状について説明を受けた。

その後、平成八年二月二日付けで、原告から地方公務員災害補償基金東京都支部長(以下「基金東京都支部長」という)に対し、通勤災害の認定を求める請求がなされた。しかし、右請求は非該当とされたため、原告は、同年五月二五日、審査請求をしたが、同年一一月二一日に棄却となり、さらに再審査請求も平成九年七月九日棄却となっため、東京地方裁判所に審査会の裁決の取り消しを求めて訴えを提起し、同訴えは、現在も継続中である。(甲一、甲二、甲三の一、二、甲四、乙二、乙四ないし六、弁論の全趣旨)

3  通勤災害の認定請求手続

地方公務員災害補償法、同法施行規則及び地方公務員災害補償基金業務規程によれば、通勤災害の認定請求がなされた場合には、地方公務員災害補償基金(以下「基金」という)は、認定をするにあたっては、災害を受けた職員の任命権者の意見をきくものとするとともに、その結果を任命権者に通知しなければならないと規定されていること(地方公務員災害補償法四五条)、公務災害の認定の請求書は任命権者を経由して基金に提出しなければならないと規定されていること(同法施行規則三〇条)、任命権者は、補償を受けるべき者が、事故その他の理由により、みずから補償の請求を行うことが困難である場合には、その手続を行うことができるよう助力しなければならないと規定されていること(同法施行規則四九条)、基金の支部長に提出する災害の認定の請求書の記載事項(職員の氏名、所属等のほか、災害発生の日時及び場所、傷病の部位及び程度、災害発生の状況)については職員の所属部局の長の証明を受けなければならないと規定されていること(地方公務員災害補償基金業務規程七条)が認められる。

三  本件の争点

原告が被告らの不法行為であると主張する次の行為につき国家賠償法一条の適用があり、被告らは個人責任を負わないと言えるか。

(被告横山)

<1> 原告が本件事故による受傷を理由として、通勤災害の認定の請求手続をとったにもかかわらず、これに非協力的であった。

<2> 原告の同意なく三楽病院から原告のレントゲン写真を借り出し、原告の通勤災害の認定につき不利益になる処理をした。

(被告並木)

<3> 平成七年一二月六日、原告とともに三楽病院に行き、医師から同日付けの診断書をもらったにもかかわらず、これを基金東京支部長に提出せず、原告に不利益な扱いをした。

<4> 三楽病院で撮った原告のレントゲン写真のコピーを原告に無断で基金東京支部に提供し、後に基金東京支部から原本を提出するように言われた際に、再び原告の承諾なしにレントゲン写真を借り出して基金東京支部に提出した。

<5> 原告が受傷後、身体の具合が良くないのを知りながら、療養治療につき嫌がらせをして適正な休暇手続を制限した。

(被告川村)

<6> 原告が、本件事故による受傷について文京区役所あてに提出した三楽病院の医師作成の平成八年一月一〇日付診断書(甲第二号証)を故意に手元に保管し、原告の通勤災害の認定の請求手続につき不利益になるように処理した。

<7> 平成九年四月、職場において、原告の面前で、「(役所を)やめろ」と言って原告を侮辱した。

<8> 平成一〇年一二月二日、当時係長の昇進試験を受けていた原告に対し、「試験に落ちろ」と言った。

<9> 平成一〇年一二月三日と平成一一年二月二六日、他の職員らとともに「(原告に対する対応は)差別ではなく、区別だ」とわざと原告に聞こえるように話した。

<10> 平成一一年二月二六日、他の職員に対し、原告のことは「差別ではなく区別だ」と原告に聞こえよがし言った。

<11> 平成一一年一〇月八日、他の職員とともに原告のことを話題にして、「アヒルは白鳥にはなれない」などと原告のことをばかにした会話をしていた。

第三争点に対する当裁判所の判断

一  原告が被告らの不法行為にあたると主張する行為について、被告らは、被告らのした行為が違法であるとの点を争うとともに、原告の主張する行為は、公務員である被告らの公務としての行為であり、国家賠償法一条でいう「公権力の行使」に該当し、被告らは個人責任を負うものではないと主張して争っているので検討する。

1  国家賠償法一条にいう「公権力の行使」の要件と通勤災害の認定の請求手続に関与する公務員の行為の性質について

国家賠償法一条にいう「公権力の行使」の要件には、国または公共団体がその権限に基づく統治作用としての優越的意思の発動として行う権力作用のみならず、国または公共団体の純然たる私経済作用と国家賠償法二条に規定する国の営造物の設置管理作用を除く、国または公共団体の非権力的作用も含むと解すべきである。そうであるとすれば、本件において問題とされる、公務員の通勤災害の認定の請求手続に関与する公務員の行為は、前提事実3で認定したところからも明らかなとおり、右の意味での公権力の行使の要件に該当する(公務性を有する)というべきである。そこで、以下、この見解を前提に被告らの個々の行為について検討する。

なお、この点に関し、原告は、通勤災害の認定に関する基金への請求手続は、任命権者を介して手続を行うことになってはいるが、この任命権者の活動は全く行政の内部的なものであり、あくまでも被害者である公務員の救済のためのものであって、その窓口や助力者として関与する公務員の行為は、行政の内部の処理手続に過ぎず、「公権力の行使」の要件に該当しないと主張するが、独自の見解と言わざるを得ず、採用できない。

2  被告横山について

前提事実で認定したとおり、被告横山は、本件事故当時、文京区役所の職員の公務災害又は通勤災害に関し文京区長のなすべき事務の補助執行として、被災職員からの認定請求を受け付け、認定請求に必要な証明をし、当該請求についての任命権者の意見を付す等の事務を担当していたのであるから、原告の主張する<1>及び<2>の行為に公務性があることは、前提事実3で認定した通勤災害の認定請求手続に関する任命権者(文京区長)の職務権限に照らしても明らかというべきである。

3  被告並木について

被告並木は、被告の所属する文京区都市計画部の指導課長の職にあり、被告の上司であったのであるから、前提事実3で認定したとおり、法規上、通勤災害の認定請求をした職員(原告)の所属部局の長が、職員の氏名、所属等のほか、災害発生の日時及び場所、傷病の部位及び程度、災害発生の状況について証明する必要があることに照らすと、原告の主張する<3>及び<4>の行為に公務性があることは明らかというべきである。そして、原告の主張する<5>の行為も、被告並木が原告の上司である以上、公務性があると認めるべきである。

4  被告川村について

被告川村は、文京区都市計画部指導課建築防災担当主査の職にあり、被告並木と同じく原告の上司であったのであるから、原告の主張する<6>の行為に公務性があることは明らかというべきである。さらに原告の主張する<7>ないし<11>の行為については、被告川村はそのような行為あるいは発言をしたこと自体を否定しているところ、仮にそのような行為ないしは発言が認められたとしても、弁論の全趣旨に照らすと、これらの行為ないしは発言は、原告の主張する発言内容、発言時の場所や状況に照らしても、本件通勤災害の認定請求手続についての被告川村の関与あるいはこれに伴う被告川村の原告に対する認識と切り離すことはできないから(原告も準備書面(五)で被告川村の嫌がらせの言動は本件通勤災害の認定請求を境として始まったと主張している。)、結局これらの行為を全体としてみる限り、公務に付随しあるいはその延長上の行為として、公務性を肯定することができるというべきである(本件紛争は、原告が本件事故による傷害につき通勤災害の認定請求をしたことに端を発しており、原告は、基金東京支部の対応につき審査請求を行い、さらにその裁決について別訴で処分の取り消しを求めた後に、本訴を提起し、右認定請求手続に関与した被告らの行為の違法を主張していることからすると、職場内でのいじめであると原告が主張する被告川村による発言等も、仮にそのような事実が認められるとした場合でも、表現の妥当性はともかくとして、職場内での原告の評価に関する言動とみる余地はあるし、いずれにしても本件通勤災害の認定請求についての被告川村の関与の延長上の行為とみるべきであって、これを通勤災害の認定請求手続に関与した被告川村の行為と切り離して、別個独立にその違法の有無を判断するのは相当とは言えないと考える。)。

二  なお、原告は、被告らによる原告の通勤災害の認定請求に対する関与自体が、原告の通勤災害認定請求を妨害し、原告に精神的苦痛を与える意図をもってなされたものであると主張しているが、仮に被告らの主観面において、そのような事実が認められた場合には、行為自体の違法性あるいは国家賠償法一条二項でいう当該公務員の故意ないしは重過失を推認させることになる可能性はあるとはいえ、被告らが本件通勤災害の認定請求に関与した行為を客観的にみるかぎりは、職務執行としての外形を備えていることは明らかであって、公務としての側面を否定することはできないというべきである。

三  以上のほか、原告は、平成八年四月から平成一一年三月まで所属していた建築環境部営繕課及び平成一一年四月以降所属している都市計画営繕課において、被告川村による原告に対する嫌がらせがエスカレートした結果、被告川村以外の上司あるいは同僚の職員からも、昇進試験のことや本件通勤災害の認定の請求に関し誹謗あるいは中傷を受けたと主張するが、これらの行為は、主張自体からも被告川村の行為との関連性が不明であるし、そのような職場全体での原告に対する嫌がらせがあったからといって、そのことから直ちに被告川村の前記各行為の公務性が否定されるものではないと考える。

第四結論

以上の事実によれば、原告が被告らの不法行為であると主張する行為については、いずれも公務性が認められるというべきであって、被告らに対して直接個人責任を問い、損害の賠償を求めることはできないから、その余の点につき判断するまでもなく原告の請求はいずれも理由がない。よって、原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決をする。

(裁判官 西岡清一郎)

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