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東京地方裁判所 平成11年(ワ)21244号 判決

原告 A

右訴訟代理人弁護士 坂本誠一

被告 協栄生命保険株式会社

右代表者代表取締役 大塚昭一

被告 新井洋

右二名訴訟代理人弁護士 関口保太郎

同 冨永敏文

同 古館清吾

同 吉田淳一

同 脇田眞憲

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは原告に対し、各自五〇〇〇万円及びこれに対する平成九年二月一三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、亡Bが被告協栄生命保険株式会社と生命保険契約を締結し、亡Bの妻である原告が委託を受けて保険料を支払っていたところ、被告協栄生命保険株式会社の従業員である被告新井洋から保険料の支払について誤った教示を受けたため、右保険料支払の機会を失い、右保険契約が失効した後に亡Bが死亡した結果、五〇〇〇万円の保険金支払請求権を喪失し、右同額の損害を被ったと主張し、被告新井洋に対しては民法七〇九条に基づき、被告協栄生命保険株式会社に対しては民法七一五条に基づき、五〇〇〇万円の損害賠償及び亡Bの死亡日である平成九年二月一三日から支払済みまでの商事法定利率年六分の遅延損害金の連帯支払を請求する事案である。

一  前提事実

1  当事者

原告と亡B(以下「亡B」という。)は夫婦である。

被告新井洋(以下「被告新井」という。)は、被告協栄生命保険株式会社(以下「被告会社」という。)東京団体支社団体営業主幹の職にあった。

2  保険契約の締結

亡Bと被告会社は、平成四年九月一日、左記内容の保険契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

死亡保険金 五〇〇〇万円

保険料 月額二万三六二〇円

保険料払込方法 月払

保険契約者 亡B

被保険者 亡B

保険金受取人 原告

保険期間の始期 平成四年九月一日

保険期間の終期 平成九年八月三一日

本件契約の保険料の払込方法は月払であり、月ごとの契約応当日(本件契約では毎月一日)の属する月の初日から末日までの期間内に支払うことを要し、右期間内に一か月分の保険料が支払われなかったときは、右期間経過後の翌月の初日から末日までの間(猶予期間)に右延滞保険料を支払うことが認められているが、右猶予期間中に延滞保険料が支払われなかったときは、保険契約は猶予期間の満了日の翌日から効力を失う旨約款に規定されている。

また、本件契約は、全国商店街振興組合連合会の所属員を被保険者とする集団契約であり、保険料は右連合会の代表者を経由して被告会社に払い込まれるものであるが、右代表者は株式会社三栄収納サービス(以下「三栄」という。)に右保険料の徴収業務を委託しているため、三栄が保険契約者が開設した口座から毎月二二日(金融機関休業日の場合は翌営業日)に翌月の保険料相当額を振り替えして収納し、被告会社に保険料を支払う方式となっている。

3  本件契約の失効

本件契約の平成八年一二月分の保険料は同年一一月二二日に預金不足のため亡Bの預金口座から引き落とされず、保険料払込期間である同年一二月一日から同月末日までの間に支払われず、さらに猶予期間である平成九年一月一日から同月末日までの間にも支払わなかったため、本件契約は同年二月一日に失効した(なお、右保険料不払が被告新井の誤った教示によるものであるか否かが争点である。)。

4  亡Bの死亡

亡Bは、平成九年二月一〇日に家出し、同月一三日ころ縊死した。

二  争点

被告新井に保険契約を失効させないようにする注意義務違反があったか。

1  原告の主張

(一) 被告新井は保険料徴収業務に従事する者であるから、保険料徴収に際しては、右徴収に遺漏なきよう注意することはもとより、保険料徴収についての約款の内容をよく理解して、保険契約者である亡B及び亡Bから保険料支払の委託を受けていた原告に対しては、保険料徴収に関する質問に対して約款の内容に従って回答し、誤った教示をすることなどによって保険料の支払遅延によって保険契約を失効させることのないように配慮すべき業務上の注意義務がある。

(二) 本件契約においては、数か月分の保険料の遅滞がある場合であっても、一か月分の保険料のみの支払が可能であったにもかかわわず、被告新井は、平成八年一二月一六日、原告に対して同年一一月分及び一二月分の保険料の支払の督促を行ったところ、原告が一か月分でも支払いたい旨申し出たのに対して、二か月分まとめて支払わなければ受け取れない旨述べて原告の申出を拒絶し、さらに、平成九年一月一六日、原告に対し、平成八年一一月分、一二月分、平成九年一月分の保険料の督促を行ったところ、原告が一か月分でも支払いたい旨述べたのに対して、右と同様の理由でこれも拒絶した。本件契約は、平成八年一二月分の保険料が支払われれば平成九年二月一日に失効することはなかったのであるから、被告新井の誤った教示により原告の保険料支払の機会が奪われて失効したものである。よって、原告は、被告新井の前記注意義務違反によって、保険金相当額の損害を被った。

2  被告らの主張

(一) 生命保険契約は、保険契約者が保険料支払義務を負い、保険者は保険料を対価として保険金支払義務を負うものであるから、保険契約の一方当事者にすぎない保険者たる被告会社は反対当事者である保険契約者の利益を保護すべき義務を負担しない。

また、被告会社は亡Bに対して、「ご契約のしおり・約款」と題する冊子を送付しており、右冊子には生命保険契約における重要な事柄が約款の中から抜粋して大きな活字でわかりやすく説明されているから、被告会社は右冊子を亡Bに対して送付することで保険料の支払について十分説明したといえる。

さらに、被告新井が原告に対して延滞保険料を請求する際に、延滞分全額を請求することは当然であり、何ら違法性を有しない。

(二) 原告が、被告新井の保険料支払請求に対して、一か月分だけでも支払いたい旨申し出たことはない。

第三当裁判所の判断

一  まず、被告新井が負担すべき注意義務について検討するに、前提事実及び証拠(乙三、被告新井洋本人)によれば、本件契約の保険料の払込方法は月払であり、月ごとの契約応当日(本件契約では毎月一日)の属する月の初日から末日までの期間内に支払うことを要し、右期間内に一か月分の保険料が支払われなかったときは、右期間経過後の翌月の初日から末日までの間(猶予期間)に右延滞保険料を支払うことが認められているが、右猶予期間中に延滞保険料が支払われなかったときは、保険契約は猶予期間の満了日の翌日から効力を失う旨約款に規定されていること、実際の支払は三栄が前月の二二日(金融機関休業日の場合は翌営業日)に右保険料相当額を亡Bの口座から振り替えて収納し、被告会社に支払う方式となっており、原告が亡Bの委託を受けて保険料相当額を右口座に入金するなどして支払ってきたこと、被告新井は、被告会社東京団体支社団体営業主幹として、右口座振替ができなかった契約者に対して、次の振替日までに振替口座への入金を依頼するなどの業務を行っており、原告に対しても、平成八年九月以降延滞保険料の入金を依頼し、同年一〇月二五日には原告方に赴いて同年九月分、一〇月分、一一月分の延滞保険料を現金で集金していることなどが認められるから、右認定事実に照らせば、被告新井は、原告に対して、少なくとも原告の保険料徴収に関する質問に対して約款の内容に従った回答をし、誤った教示をすることなどによって保険料の支払を遅延させ、保険契約を失効させることのないように配慮すべき注意義務を負うと解するのが相当である。

二  そこで、次に被告新井に右注意義務違反があったか否かについて検討するに、前提事実及び証拠(甲八、一〇、一三、乙三、証人斉藤喜代子、原告本人、被告新井洋本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  亡Bと被告会社は、平成四年九月一日、本件契約を締結した。

2  被告新井は、亡Bの平成八年九月分以降の保険料が預金不足により振り替えられなくなり、電話によって入金を依頼しても入金されなかったため、同年一〇月二五日に原告の依頼を受けて原告方に赴き、同年九月分、一〇月分、一一月分の保険料を現金で集金した。

しかし、同年一一月二二日、同年一二月分の保険料が預金不足により振り替えられなかったので、被告新井は、同年一二月一六日、原告に電話をかけ、同年一二月分と平成九年一月分の保険料を預金口座に入金してもらいたい旨述べたところ、原告は、はい分かりましたとの旨答えたが、その後も入金されず、平成八年一二月二四日に同年一二月分及び平成九年一月分の保険料が振り替えられなかった。そこで、被告新井は、同年一月一六日、原告に電話をかけ、平成八年一二月分、平成九年一月分、同年二月分の保険料を入金してもらいたい旨述べたところ、原告は、はい分かりましたとの旨答えたが、その後も入金されず、同年一月二二日に平成八年一二月分、平成九年一月分、同年二月分の保険料が振り替えられなかった。

3  その結果、平成八年一二月分の保険料が平成九年一月末日まで支払われなかったため、本件契約は平成九年二月一日に失効した。

右認定によれば、被告新井が前記のような注意義務に違反したと認めることはできない。

これに対して、原告は、平成八年一二月一六日及び平成九年一月一六日に被告新井が原告に保険料の入金を請求した際、原告が一か月分だけでも支払いたい旨申し出たのに対し、延滞保険料全額でなければ受け取れない旨述べて原告の申出を拒絶したと主張し、それに沿う原告の供述及び陳述(甲一三)並びに証人斉藤喜代子(以下「証人斉藤」という。)の供述及び陳述(甲八)がある。

しかし、原告は、被告新井が平成八年一二月一六日に同年一一月分及び一二月分を、平成九年一月一六日に平成八年一一月分、同年一二月分、平成九年一月分の請求をした旨供述及び陳述しているところ、証拠(甲一〇、乙三、被告新井本人)によれば、平成八年一一月分の保険料は平成八年一〇月二五日に被告新井が現金で集金していると認めることができ、被告新井が平成八年一一月分を請求することなどあり得ず、また、仮に同月分が未納であれば本件契約は平成九年一月一日に失効するはずであるから、右供述及び陳述は事実に反するのである(もっとも、原告は、右平成八年一〇月二五日の集金は平成八年八月分、九月分、一〇月分かもしれない旨供述するが、これは甲一〇に反するばかりか、右八月分が未納であれば、本件契約は同年一〇月一日に失効しているはずであるから、右供述が採用できないことは明らかである。)。また、原告の供述及び陳述によれば、被告会社は、これまで延滞保険料については全額ではなく一か月分の支払にも応じてきたし、被告新井も平成八年一〇月二五日の時点ではそのように述べていたというのであるから、被告新井が同年一二月一六日の電話で全額でなければ受け取れないと述べたというのであれば、それに対し原告が納得できる変更理由を尋ねるとか、被告新井の上司に確認するなど一か月分の保険料の支払に向けて努力をしてしかるべきであるのに、何らそのような形跡はうかがわれない。このように、原告の供述及び陳述は、被告新井から請求された延滞保険料の範囲自体につき曖昧であること、また、仮に被告新井の教示に誤りがあったとするならば、それに対して通常人がとるような行動をとっていないなど不自然であること、その他前記認定事実に照らし、にわかに措信し難い。さらに、証人斉藤の被告新井からの電話内容に関する供述及び陳述は、具体的内容に乏しく、推測にわたる部分が多いこと及び前記認定事実に照らし、にわかに措信し難い。

三  以上によれば、その余の点を判断するまでもなく原告の請求はいずれも理由がないから棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 都築弘 裁判官 土田昭彦 裁判官 伊藤清隆)

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