大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成11年(ワ)22028号 判決 2000年6月30日

原告

帝人株式会社

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

鈴木和夫

鈴木きほ

右補佐人弁理士

【B】

【C】

【D】

被告

有限会社ケーズビス

右代表者代表取締役

【E】

被告

有限会社ミュージックプラザ

右代表者代表取締役

【F】

被告ら訴訟代理人弁護士

秀平吉朗

高木陽一

被告ら補佐人弁理士

【G】

【H】

【I】

【J】

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、別紙被告標章目録(1)ないし(3)記載の標章を、被服並びにその包装、店舗ディスプレイ、宣伝用カード等の広告及び領収証等の取引書類に付してはならない。

二  被告らは、前項記載の標章を付した被服を譲渡し、引き渡し、輸入し又は譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。

三  被告らは、第一項記載の標章を付した被服並びにその包装、店舗ディスプレイ、宣伝用カード等の広告及び領収証等の取引書類を廃棄せよ。

四  被告らは、原告に対し、連帯して金四億四〇〇〇万円及び被告有限会社ケーズビスは平成一一年一〇月八日から、被告有限会社ミュージックプラザは平成一一年一〇月九日から、いずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要及び本件の争点

一  争いのない事実等

1  当事者

(一) 原告は、人造繊維及びその原料副産物並びに織布等の製造、加工、売買、繊維原料及び繊維製品の売買等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。

(二) 被告有限会社ケーズビス(以下「被告ケーズビス」という。)は、衣料用繊維製品の原料及びその製品の売買、売買仲介並びに委託売買等を目的とする有限会社である。

被告有限会社ミュージックプラザ(以下「被告ミュージックプラザ」という。)は、衣料品の卸し及び小売販売を目的とする有限会社である。

被告ケーズビスは、被告ミュージックプラザの指示承認の下で、被告被服を製造販売している。

(以上の事実は争いがない)

2  原告が有する商標権

原告は別紙商標権目録(一)ないし(三)記載の商標権を有している(甲一の一ないし三、甲二の一ないし三、甲三、以下、別紙商標権目録(一)記載の商標権を「本件商標権(一)」といい、同目録(二)記載の商標権を「本件商標権(二)」といい、同目録(三)記載の商標権を「本件商標権(三)」といい、これらの権利を併せて「本件各商標権」という。また、同目録(一)記載の商標を「原告商標(1)」、同目録(二)記載の商標を「原告商標(2)」、同目録(三)記載の商標を「原告商標(3)」といい、これらを併せて「原告各商標」という。)。

3  被告らによる標章の使用

(一) 被告らは、共同して、織りネーム及び包装袋に別紙被告標章目録(1)記載の標章(以下「被告標章(1)」という。)を、その添付ラベルに別紙被告標章目録(2)記載の標章(以下「被告標章(2)」という。)をそれぞれ付した被服(婦人用衣料品)を被告らが経営する各店舗において、それぞれ販売している(以上の事実は争いがない)。

(二) 被告らは、共同して、被告らが経営する店舗のショーウインドウ等に、右被服を広告するため、被告標章(1)及び同(2)を表示し、かつ、同店舗内において、被告標章(1)及び同(2)を付した宣伝用カードを頒布している(以上の事実は争いがない)。また、被告らは、共同して、被告らが経営する店舗(渋谷一〇九店)のショーウインドウに、右被服を広告するため、別紙被告標章目録(3)記載の標章(以下「被告標章(3)」といい、被告標章(1)及び同(2)と併せて「被告各標章」という。)を表示した(甲七の二、弁論の全趣旨)。

(三) 被告らは、共同して、右被服の販売の際、被告標章(3)を付した領収証を発行した(甲九の一ないし三、弁論の全趣旨)。

二  事案の概要

本件は、原告が被告らに対し、被告らが使用する被告各標章が、原告各商標権(一)ないし(三)に類似しているとして、本件各商標権に基づき被告各標章の使用差止及び廃棄を求めるとともに、本件商標権(三)に基づき損害の賠償を請求する事案である。

三  本件の争点

1  原告各商標と被告各標章とは類似しているかどうか。

2  被告各標章について、先使用権(商標法三二条一項)が認められるかどうか。

3  原告が被った損害等。

第三本件の争点に関する当事者の主張

一  争点1について

(原告の主張)

以下に述べるとおり、原告各商標と被告各標章は、称呼、外観及び観念において共通しているから、類似するものである。

1 原告商標(1)と被告各標章との類似性

(一)(1) 原告商標(1)は、「XOXO」の欧文字のみから構成されており、「X」及び「O」の文字はそれぞれ意味を有するものの、全体としては特定の一連の単語を認識させるものではないから、その文字のアルファベット読み通り、「エックスオーエックスオー」又は「エクスオーエクスオー」と称呼される。

(2) 被告標章(1)は、ゴシック体の大きい「XOXO」の欧文字を左横書し、その下方に極小さいゴシック体の「kiss kiss」の欧文字を左横書して構成されているところ、上段の欧文字からすると、「エックスオーエックスオー」又は「エクスオーエクスオー」との称呼が自然に生じる。上段の文字である「XO」の読み方を下段の文字の「kiss」の読みにより特定されなければならないような事情は存在しない。そうすると、原告商標(1)と被告標章(1)とは称呼を共通にしている。

(3) 被告標章(2)は、上段の「XOXO」の欧文字からは、「エックスオーエックスオー」又は「エクスオーエクスオー」の称呼が、中段の「kiss kiss」の欧文字からは、「キスキス」の称呼が、下段の「Give a kiss,just a kiss.」の欧文字からは、「ギブ ア キス ジャスト アキス」の称呼がそれぞれ生じるところ、これらの各称呼間には一連又は一つの称呼に特定されなければならないような事情は存在しない。そうすると、原告商標(1)と被告標章(2)とはその称呼を共通にしている。

(4) 被告標章(3)の構成からすると、「エックスオーエックスオー」又は「エクスオーエクスオー」の称呼が生じるから、原告商標(1)と被告標章(3)は称呼を共通にしている。

(二)(1) 原告商標(1)は、商標の同一性のある限り、その書体を変更して使用可能とされる標準文字により登録を受けている。

(2) 被告標章(1)及び同(2)を構成する「XOXO」の文字は、いずれもデザイン化の程度が低く、看者の目を引くように配されているから、これらは、いずれも原告商標(1)と外観を共通にしている。

(3) 被告標章(3)は、「XOXO」の文字のみからなり、デザイン化されたものとはいい難いから、原告商標(1)と外観を共通にしている。

(三)(1) 原告商標(1)と被告標章(1)及び同(2)は、「XOXO」の文字から、ともにアルファベット「X」「O」「X」「O」の文字を認識させるから、観念において共通している。

(2) 被告標章(3)は、原告商標(1)と同一の構成文字のみからなり、ともにアルファベット「X」「O」「X」「O」の文字を認識させるから、観念を共通にしている。

2 原告商標(2)と被告各標章との類似性

(一)(1) 原告商標(2)は、「エクスオーエクスオー」の片仮名文字からなるものであり、「エクスオーエクスオー」とのみ称呼される。

(2) 被告各標章は、「エクスオーエクスオー」と称呼されるから、原告商標(2)と称呼を共通にしている。

(二)(1) 原告商標(2)は、片仮名文字からなるものであるが、アルファベットの「X」「O」「X」「O」の字音を表したことを容易に認識させる。

(2) 被告各標章を構成し、看者の目を引く部分である「XOXO」の文字は、原告商標(2)と観念を共通にしている。

3 原告商標(3)と被告各標章との類似性

(一)(1) 原告商標(3)の欧文字部分からは、「エックスオーエックスオー」又は「エクスオーエクスオー」、片仮名文字部分からは、「エキソツー」の称呼が生じる。これらの称呼間には一連に称呼されなければならないような事情は存在せず、一方の称呼に特定されるものともいえないから、複数の称呼が生じる。

(2) 被告各標章は、「エックスオーエックスオー」、「エクスオーエクスオー」又は「エキソツー」との称呼が生じるから、原告商標(3)と称呼を共通にしている。

(二)(1) 原告商標(3)を構成する「XOXO」の文字は、「エキソツー」の文字よりも大きく目立つように表示されている。

(2) 被告標章(1)は、「XOXO」の文字が「kiss kiss」の文字よりも特に大きく目立つように表示されている。また、被告標章(2)において、「XOXO」の文字は、黒文字でキスマーク上に顕著に表示されており、「kiss kiss」及び「Give a kiss,just a kiss.」の文字よりも特に大きく目立つように表示されている。さらに、被告商標(3)は、「XOXO」の文字のみからなる。しかも、被告各標章の書体は、原告標章(3)に同一に近く類似する。したがって、原告商標(3)と被告各標章は、外観を共通にしている。

(三) 原告商標(3)を構成する「XOXO」の文字と被告各標章を構成する「XOXO」の文字からは、ともに、アルファベットの「X」「O」「X」「O」の文字を認識させるから、原告商標(3)と被告各標章は観念を共通にしている。

(被告らの主張)

1 原告商標(1)及び同(2)と被告標章(1)及び同(2)との類似性について

(一) 原告商標(1)及び同(2)は、その各構成文字に相応して「エクスオーエクスオー」の称呼が生じるのみで、格別の語義、観念の生じない造語であると理解される。

(二) 被告標章(1)及び同(2)は、上下二段に「XOXO」と「kiss kiss」の欧文字をまとまりよく一体に横書きしてあるもので、右原告商標と右被告標章とは、その外観において相違する。また、需要者、取引者において、「XOXO」の欧文字は、「キスキス」の称呼をもって親しまれており、原告主張のような「エックスオーエックスオー」又は「エクスオーエクスオー」という称呼は生じない。

2 原告商標(3)と被告標章(1)及び同(2)との類似性について

(一) 原告商標(3)のうち、下段の「XOXO」の部分が単独で欧文字であるとは理解できない。上段に配された片仮名文字の部分は、下段の「XOXO」の読みを特定したものである。したがって、原告商標(3)は、「エキソツー」の称呼が生じるのみである。また、原告商標(3)は、格別の語義、観念を生じない。

(二) 被告標章(1)及び同(2)は、下段の「kiss kiss」の欧文字の部分と一体不可分となって理解される構成になっており、「エキソツー」の称呼が生じることはなく、また、原告商標(3)とは、その外観構成において顕著に相違している。

二  争点2について

(被告らの主張)

被告各標章が原告各商標と類似しているとしても、本件商標権(一)及び(二)について、次のとおり先使用権が成立する。

1(一) 本件商標権(一)及び(二)は、いずれも平成一〇年四月一六日に出願されたところ、被告らは、右出願時以前より、不正競争の目的なく、被告標章(1)及び同(2)を使用していた。

(二) 被告標章(3)は、雑誌等のマスコミによって、平成九年時点において、被告標章(1)(「XOXO/kiss kiss」)を示す略記として定着していた。

2 被告各標章は、以下述べるとおり、本件商標権(一)及び(二)の出願時において、需要者の間に広く認識されていたというべきである。

(一) 被告商標(1)は、平成五年八月二五日、新宿スタジオアルタ店開店と同時に使用を開始し、また、被告標章(2)は、同年九月から被告商品に付すラベルに表示して使用している。

右新宿店は、「キスキスオープン」として、繊研新聞に紹介された。また、平成六年三月一九日の繊研新聞の記事では、「XOXOと書いてキスキスと読む。」と紹介され、同年四月一九日の同記事では「キスキスが月商四千万円を売り上げて絶好調だ。」と紹介されている。さらに、雑誌「RAY」や「ViVi」等に被告各標章を使用して被服が紹介され、その広告の索引欄には各企業や各店舗名が五十音順に整理して掲載されているところ、「XOXO」と略記された被告らの店舗等は、「キ」の項に分類されている。

(二) 被告らが、被告標章(1)及び(2)の使用を開始した後である平成五年九月から平成一〇年三月までの、被告ら経営に係る五店舗における売上総額は、二五億八〇一五万円余りである。

(原告の主張)

被告標章(1)及び(2)が、平成一〇年四月一六日以前に需要者の間において広く認識されていたとはいえない。

1 新聞記事や雑誌の記載は限られたものであり、そのほとんどすべてが「XOXO」又は「XOXOキスキス」として紹介されており、被告標章(1)及び同(2)の使用に関しては記載がない。

2 被告らは、被告標章(1)と原告商標(3)が特許庁において類似すると認定されたことを知りながら、被告各標章の使用を継続しているから、その使用は、「不正競争の目的」によるものである。

三  争点3について

(原告の主張)

1 使用料相当損害金 四億二〇〇〇万円

被告らは、原告商標(3)と類似する被告各標章を使用して被服を販売していたところ、平成五年一月一日から同一一年八月三一日までの間の売上げは、少なくとも四二億円であり、その使用料としては、少なくともその販売価額の一〇パーセントが相当である。

なお、原告は、原告商標(3)を、登録以来継続して使用している。

2 弁護士費用 二〇〇〇万円

3 被告らは、その経営する店舗において、原告各商標と類似する被告各標章を被服等に付して使用し又は使用するおそれがある。

(被告らの主張)

1 原告らの主張は、いずれも争う。

2 原告は、原告商標(3)を、その指定商品である被服等について、登録以来一切使用していない。したがって、被告らが被告各標章を使用したことによって、原告商標(3)についての損害は一切生じていないから、原告の損害賠償請求権は存在しない。

3 被告標章(3)については、過誤の場合を除いて使用しておらず、現在も使用していない。

第四当裁判所の判断

一  被告らによる標章の使用事実について

1  前記第二の一3の事実(被告らによる標章の使用)に証拠(甲四の一ないし三、甲五、六、甲七の一ないし五、甲八、甲九の一ないし三、乙一の一ないし四、乙二の一ないし九、乙三の一ないし四、乙四の一ないし四、乙五の一ないし八、乙六の一ないし三、乙一二の一ないし三、乙一三、一四、一八ないし三一)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一)(1) 被告らは、平成五年八月二五日に、新宿アルタスタジオ店を開店させたのを初めとして、平成七年三月ころ、上野ABAB店を、平成九年二月ころ、横浜JOINUS店を、同年三月ころ、渋谷一〇九店を、同年九月ころ、池袋YOU店を、それぞれ開店させた。

被告らは、各店において、ショーウィンドーディスプレイ、商品(被服)の織りネーム及び包装紙に被告標章(1)を付し、商品(被服)の添付ラベルに被告標章(2)を付して使用してきた。ただし、渋谷一〇九店のショーウィンドーディスプレイには、「Give a kiss,just a kiss.」とともに被告標章(3)が使用されていた。

また、被告らは、各店において、被告標章(1)及び同(2)を付した宣伝用カードを頒布してきた。

(2) 被告らの各店の領収証に、平成一〇年から平成一一年にかけて被告標章(3)が使用されたことがあった。

(3) 右各店舗は、「大人っぽいカジュアル」を基本的なコンセプトとし、主に二〇代前半の女性を対象とした商品を販売しているが、若い女性に好評で、売上げも増加している。

(二)(1) 若い女性が主たる読者層の雑誌である「ViVi」の平成八年一二月号には、新宿アルタスタジオ店で販売されている商品について、「XOXOキスキス」と紹介した記事が掲載されている。

(2) 同じく若い女性が主たる読者層の雑誌である「Ray」の平成九年一一月号には、「ただいま人気絶好調 XOXOをクローズアップ」との見出しで、渋谷一〇九店の紹介記事が掲載されている。同記事には、被告標章(1)を付したタグに関して、「ショップのオリジナルアティムもあります。このタグを見つけたら要チェック!!」と記載されている。

(3) その他、平成九年七月号、一〇月号、一一月号、平成一〇年一月号、二月号、三月号及び五月号の「egg」(若い女性が主たる読者層の雑誌)、平成九年七月号、八月号、一二月号、平成一〇年一月号の「Cawaii」(同じく若い女性が主たる読者層の雑誌)、平成九年四月号の「J・J」(同じく若い女性が主たる読者層の雑誌)には、被告らの店舗や同店で販売されている商品が、「XOXO」又は「XOXOキスキス」の表示とともに紹介されている。

(三) 被告らの右五店舗の平成一〇年三月までの売上総額は、約二六億円である。

2  右1の事実によると、被告らは、平成五年八月に新宿アルタスタジオ店を開店して以来、被告標章(1)及び(2)を使用していること、被告の商品はその顧客層である若い女性に好評で、売上げは増加し、若い女性を読者層とする雑誌にも、しばしば取りあげられていること、以上の事実が認められる。以上の事実によると、平成九年ころには、被告標章(1)及び(2)は、需要者の間で広く知られ、被告らについて使用される「XOXO」は、一般に「キスキス」と呼ばれていたものと認められる。

二  原告各商標と被告各標章との類否について

1  原告各商標

(一) 原告商標(1)は、「XOXO」の欧文字を横書きして構成された商標であり、「エックスオーエックスオー」の称呼を生じるものと認められるが、特段の観念を生じるとは認められない。

(二) 原告商標(2)は、「エクスオーエクスオー」の片仮名文字を左横書して構成された商標であり、「エクスオーエクスオー」の称呼を生じるものと認められるが、特段の観念を生じるとは認められない。

(三) 原告商標(3)は、ゴシック体の「XOXO」の欧文字と、その上部に欧文字より細く小さなゴシック体の「エキソツー」の片仮名文字を、ともに左横書して構成された商標である。「エキソツー」は、「XOXO」の上部にあって、「XOXO」より細く小さな文字で記されていること、「エキソツー」という言葉は、「エックスオー、エックスオー」という言葉を短縮した呼び方であると考えられることからすると、右「エキソツー」は、その下部にある「XOXO」の読みを特定したものであると認められる。そうすると、原告商標(3)は、「XOXO」と「エキソツー」を併せて一体不可分として認識されて「エキソツー」との称呼を生じるものと認められ、それ以外の称呼が生じるとは認められない。「XOXO」も「エキソツー」も、特段の観念を生じるものではないから、原告商標(3)から特段の観念を生じるとは認められない。

2  被告各標章

(一) 被告標章(1)は、ゴシック体の大きい「XOXO」の欧文字を左横書し、その下方に小さいゴシック体で「kiss kiss」の欧文字を左横書して構成されたものである。右一で認定した事実からすると、被告らが使用する被告標章(1)については、遅くとも平成九年ころには、「キスキス」の称呼のみが生じていたものと認められる。「XOXO」の部分からは特段の観念は生じないが、「kiss kiss」の部分からは、「キス、くちづけ、接吻」といった観念が生じるものと認められる。

(二) 被告標章(2)は、ゴシック体の大きい「XOXO」の欧文字と、その下方に小さいゴシック体の「kiss kiss」の欧文字をキスマークの図柄に重ねて左横書し、さらにその下方に、右「kiss kiss」よりも小さいゴシック体の「Give a kiss,just a kiss.」の欧文字を左横書して構成されたものである。右一で認定した事実からすると、被告らが使用する被告標章(2)については、遅くとも平成九年ころには、「XOXO」と「kiss kiss」の部分からは、「キスキス」の称呼のみが生じていたものと認められる。また、「Give a kiss,just a kiss.」の部分からは、「ギブ ア キス ジャスト ア キス」の称呼が生じるものと認められる。「XOXO」の部分からは特段の観念は生じないが、「kiss kiss」の部分及びキスマークの図柄からは、「キス、くちづけ、接吻」といった観念が生じ、「Give a kiss,just a kiss.」の部分からも、その英文に相当する観念を生じるものと認められる。

(三) 被告標章(3)は、ゴシック体の「XOXO」の欧文字を左横書して構成されたものである。右一で認定した事実からすると、被告らについて使用される「XOXO」は、遅くとも平成九年ころには、一般に「キスキス」と呼ばれていたものと認められるから、右一1(一)(1)(2)で認定した被告が使用する被告標章(3)は、「キスキス」の称呼のみを生じると認められる。被告標章(3)から特段の観念を生じるとは認められない。

3  原告各商標と被告各標章との類否

(一) 原告商標(1)と被告各標章との類否

(1) 原告商標(1)は、「エックスオーエックスオー」の称呼が生じるのに対して、被告標章(1)は、「キスキス」の称呼のみが生じるから、両者は称呼を異にする。また、原告商標(1)は、「XOXO」のみで構成されているのに対して、被告標章(1)は、「XOXO」と「kiss kiss」を二段に横書きしてなるものであり、しかも、「kiss kiss」の部分は、被告標章(1)の称呼として広く知られているのであるから、「XOXO」と一体のものとして認識され、「XOXO」に比べて、看る者の注目をひかないとはいえない。そうすると、原告商標(1)と被告標章(1)は、外観も異にする。さらに、原告商標(1)からは特段の観念を生じないが、被告標章(1)からは、「キス、くちづけ、接吻」といった観念が生じる点も異なる。

以上述べたところを総合すると、原告商標(1)と被告標章(1)が類似するとは認められない。

(2) 原告商標(1)と被告標章(2)については、右の原告商標(1)と被告標章(1)の対比と同様の違いが認められるうえ、被告標章(2)には、キスマークの図柄や「Give a kiss,just a kiss.」の文字が存するから、称呼、外観、観念のいずれについても違いは更に大きいということができる。したがって、原告商標(1)と被告標章(2)が類似するとは認められない。

(3) 原告商標(1)から「エックスオーエックスオー」の称呼が生じるのに対して、被告標章(3)からは、「キスキス」の称呼のみが生じる。しかし、原告商標(1)と被告標章(3)は、いずれも「XOXO」のみから構成されるから、外観は同一といってよく、このことからすると、右のような称呼の違いがあるとしても、原告商標(1)と被告標章(3)は類似するものと認められる。

(二) 原告商標(2)と被告各標章との類否

(1) 原告商標(2)は、「エクスオーエクスオー」の称呼が生じるのに対して、被告標章(1)は、「キスキス」の称呼のみが生じるから、両者は称呼を異にする。また、原告商標(2)は、「エクスオーエクスオー」の片仮名文字で構成されているのに対して、被告標章(1)は、「XOXO」と「kiss kiss」を二段に横書きしてなるものであるから、外観を異にする。さらに、原告商標(2)からは特段の観念を生じないが、被告標章(1)からは、「キス、くちづけ、接吻」といった観念が生じる点も異なる。したがって、原告商標(2)と被告標章(1)が類似するとは認められない。

(2) 原告商標(2)と被告標章(2)については、右の原告商標(1)と被告標章(1)の対比と同様の違いが認められるうえ、被告標章(2)には、キスマークの図柄や「Give a kiss,just a kiss.」の文字が存するから、称呼、外観、観念のいずれについても違いは更に大きいということができる。したがって、原告商標(2)と被告標章(2)が類似するとは認められない。

(3) 原告商標(2)から「エクスオーエクスオー」の称呼が生じるのに対して、被告標章(3)からは、「キスキス」の称呼のみが生じる。また、原告商標(2)は、「エクスオーエクスオー」の片仮名文字で構成されているのに対して、被告標章(3)は、「XOXO」の欧文字で構成されているから、外観を大きく異にする。したがって、原告商標(2)と被告標章(3)が類似するとは認められない。

(三) 原告商標(3)と被告各標章との類否

(1) 原告商標(3)は、「エキソツー」の称呼が生じるのに対して、被告標章(1)は、「キスキス」の称呼が生じるから、両者は称呼を異にする。なお、被告標章(1)が広く知られるようになるより前の時期においては、被告標章(1)から「エックスオーエックスオー」の称呼が生じる可能性があるが、そうであるとしても、原告商標(3)とは称呼を異にするということができる。

また、原告商標(3)は、「XOXO」の欧文字と、欧文字より細く小さな「エキソツー」の片仮名文字を、ともに左横書して構成されたものであるところ、被告標章(1)は、「XOXO」と「kiss kiss」を二段に横書きしてなるものであって、「XOXO」の部分が共通であるが、原告商標(3)の「XOXO」は「エキソツー」と、被告標章(1)の「XOXO」は「kiss kiss」とそれぞれ一体のものとして認識されるから、外観を異にするということができる。なお、被告標章(1)から「エックスオーエックスオー」の称呼が生じる場合には、被告標章(1)の「XOXO」と「kiss kiss」は必ずしも一体のものとして認識されないが、そうであるとしても、一体のものとして認識された原告商標(3)と外観を異にするということができる。

さらに、原告商標(3)からは特段の観念を生じないが、被告標章(1)からは、「キス、くちづけ、接吻」といった観念が生じる点も異なる。

したがって、原告商標(3)と被告標章(1)が類似するとは認められない。

(2) 原告商標(3)と被告標章(2)については、右の原告商標(3)と被告標章(1)の対比と同様の違いが認められるうえ、被告標章(2)には、キスマークの図柄や「Give a kiss,just a kiss.」の文字が存するから、称呼、外観、観念のいずれについても違いは更に大きいということができる。したがって、原告商標(3)と被告標章(2)が類似するとは認められない。

(3) 原告商標(3)は、「エキソツー」の称呼が生じるのに対して、被告標章(3)は、「キスキス」の称呼のみが生じるから、両者は称呼を異にする。 なお、被告らによる被告標章(3)の使用については、右一1(一)(1)(2)の事実が認められるところ、右2(三)認定のとおり、これらが使用された時期において、被告標章(3)は、「キスキス」の称呼のみが生じるものと認められ、被告らによる被告標章(3)のその余の使用事実を認めるに足りる証拠はない。

また、原告商標(3)は、「XOXO」の欧文字と、欧文字より細く小さな「エキソツー」の片仮名文字を、ともに左横書して構成されたものであるところ、被告標章(1)は、「XOXO」を横書きしてなるものであって、「XOXO」の書体も明らかに異なるから、外観を異にするということができる。

したがって、原告商標(3)と被告標章(3)が類似するとは認められない。

4  以上によると、原告商標(1)と被告標章(3)は類似していると認められるが、その余の原告各商標と被告各標章は、いずれも類似しているとは認められない。

三  被告標章(3)に係る使用差止及び廃棄請求について

右一認定のとおり、被告らは、主に被告標章(1)及び(2)を使用してきたものであって、被告標章(3)については、使用された事実があるものの、弁論の全趣旨によると、被告らは、被告標章(3)については、既に使用を中止し、今後も使用する意思はないものと認められる。したがって、原告商標(1)に基づく被告標章(3)に対する差止請求は認められない。

四  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、いずれも理由がない。よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 内藤裕之 裁判官 杜下弘記)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例