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東京地方裁判所 平成11年(ワ)22139号 判決

原告 藤原幸子

原告 鶴岡純子

原告 濱田浩子

原告 藤原祥之

右原告ら訴訟代理人弁護士 原和良

同 金井克仁

被告 学校法人日本医科大学

右代表者理事 大塚敏文

右訴訟代理人弁護士 加藤済仁

右訴訟復代理人弁護士 桑原博道

同 岡田隆志

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告藤原幸子に対し、金七五〇万円、原告鶴岡純子、原告濱田浩子及び原告藤原祥之に対し、それぞれ金二五〇万円及び右各金員に対する平成九年一〇月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、藤原政隆(以下「政隆」という。)が被告の開設する日本医科大学付属第二病院(以下「被告病院」という。)において食道がんの治療のため食道の切除手術を受けた際、政隆及びその妻子である原告らが、被告病院の医師から、政隆ががんであるとの説明を受けず、そのため政隆が右手術を受けるか否かについての自己決定権を侵害されたなどと主張して、原告らが、被告に対し、慰謝料を請求するものである。

一  争いのない事実等(認定事実については証拠を掲記する。)

1(一)  被告は、被告病院を開設する学校法人であり、被告病院は、内科、外科、脳神経外科など一四の科と消化器センター、リハビリテーションセンターを設置する総合病院である。

(二)  原告藤原幸子(以下「原告幸子」という。)は、政隆の妻であり、原告鶴岡純子(以下「原告純子」という。)、原告濱田浩子(以下「原告浩子」という。)及び原告藤原祥之(以下「原告祥之」という。)は、政隆と原告幸子の子である。

政隆は、被告病院で食道を切除する手術を受けた後、平成八年一〇月一一日、急性腎不全、肝不全、呼吸不全の合併症により、六八才で死亡した(甲七)。

2(一)  政隆は、平成八年七月一八日、健康診断で食道異常の疑いを指摘され(甲三)、埼玉県所沢市内の吉川病院で内視鏡による検査を受けた結果、食道にポリープが発見され、手術を勧められた(甲一二、原告藤原幸子)。

(二)  政隆は、同年九月六日、知人の大日方邑次医師(以下「大日方医師」という。)の紹介により、被告病院で内視鏡による検査を受けた。

(三)  被告病院消化器センター部長の馬越正通医師(以下「馬越部長」という。)は、同月九日、来診した政隆に対し、入院して手術する必要があることを説明した。

(四)  被告病院の渡邉昌則医師(以下「渡邉医師」という。)は、同月一四日、来診した政隆に対し、同月一八日に入院し、同年一〇月二日に手術を行う予定であることを告げた上、食道潰瘍で手術が必要であることや手術の内容を説明した。

(五)  政隆は、同月一八日から、被告病院に入院した。

(六)  渡邉医師は、政隆及び原告幸子に対し、同月三〇日、手術内容、所要時間、術後管理等につき説明をした。

(七)  政隆の手術は、事前の予定通り同年一〇月二日に実施され、術後、渡邉医師は、原告らに対し、政隆の食道の切除標本を見せながら、進行がんと診断したことなどを説明した。

(八)  政隆は、同月一〇日午前七時ころ心拍停止の状態になり、同月一一日に死亡した。

二  原告の主張

1  政隆は、被告病院で検査を受けた結果、食道潰瘍と診断され、食道潰瘍の摘出手術を承諾したものであるが、政隆及び原告らは、渡邉医師から、食道潰瘍の手術で生命の危険のない手術であり、失敗例がないと説明されており、食道がんの手術であること、生命に危険のある手術であること、予後が大変厳しいものであることの説明は受けなかった。

原告らは、手術後の渡邉医師の説明により、政隆の病気が進行性の食道がんであり、右手術がその治療のためのものであったことを初めて知らされた。

2  診療契約上の説明義務

(一) 医師は、診療契約上、患者が治療に関する自己決定権を有することからして、患者に対し、病気の内容、それに対する治療方法、期待される治療効果などを説明する義務がある。

そして、右義務を果たすに当たっては、右説明が治療に影響を与えることから、患者の病状に応じて診療機関が判断することが相当であるので、説明の相手方、時期、内容及びその程度などにつき、医師の裁量が認められ、特に、進行性のがん患者に対するがんの告知の可否、時期、相手方などについては、診療経過、病状、必要な検査・治療とそれに対する患者の対応、患者の年齢、性格、精神状態、家族環境、病名を知らせることによる影響、告知後の患者の心理面を支える態勢などの諸事情を考慮し、医師の合理的裁量に委ねられているが、がんの告知を行わなかったことにより患者の自己決定権を侵害する場合には、医師の合理的裁量を逸脱し、説明義務違反に当たり、医師や診療機関は、診療契約上の債務不履行及び不法行為による責任を負う。

(二) また、仮に、患者本人に対して、病気の内容などを説明しないことが相当であるとされる場合であっても、医師は、患者に対する説明と異なり、患者の家族に対して説明することが医師の治療行為の妨げになるものではないことから、特段の事情のない限り、診療契約上、患者の家族に対して、患者の病名、治療行為の意義や効能等について説明する義務があり、その説明をしない場合には債務不履行及び不法行為責任を負う。

3  手術の違法性阻却事由としての承諾の前提となる説明義務

生命身体に対する侵害行為となる手術については、説明義務を尽くした上での患者の有効な承諾があって初めて違法性が阻却される。医師の説明がないまま、又は不十分な説明により、若しくは誤った説明により、患者が承諾をしても、有効な承諾に当たらず、手術の違法性は阻却されず、この場合、医師や診療機関は、債務不履行及び不法行為による責任を負う。

4  本件診療行為の違法性

(一) 本件では、渡邉医師は、政隆及び原告らに対し、政隆ががんであることや手術の危険性、予後の大変さなどを告げず、単なる食道潰瘍の摘出手術であり、生命に全く危険がないものであると説明したことは、医師の合理的裁量を逸脱し、説明義務に違反している。

政隆は、被告から、前記手術前に、政隆の病名、健康状態、手術可能性及び手術を拒否した場合の余命等について説明を受けていれば、手術を受けるかどうかを検討し、万一の場合に備えた対応もできたはずであるのに、被告から簡単な潰瘍手術であるとの説明しか受けていなかったため、右対応ができず、予期しない死により精神的に重大な損害を被り、右損害を慰謝するには一五〇〇万円を下らない。

(二) また、説明義務に違反した渡邉医師の右のような説明により、政隆は、生命の危険性の全くない食道ポリープの摘出手術であるとの前提で手術に承諾したものであり、被告は、食道がんの摘出手術については、有効な承諾を得ていない。

違法な右手術による政隆の精神的苦痛を慰謝するという観点からも、その損害額は一五〇〇万円を下らない。

5  よって、原告らは、被告に対し、政隆から法定相続分に応じて相続した診療契約上の債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき、原告幸子において七五〇万円、原告純子、原告浩子及び原告祥之においてそれぞれ二五〇万円及び右各金員に対する政隆の死亡した日の後である平成九年一〇月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  被告の主張

1(一)  渡邉医師は、政隆及び原告幸子に対し、平成八年九月一四日に政隆を診察した際、政隆の手術について、食道の手術が消化器外科領域では膵臓の手術と一、二を争う難しい手術であり、術後管理が極めて大変であることなどを説明した。

(二)  また、渡邉医師は、政隆に対し、同月二〇日の午後、同月六日の内視鏡検査のときに採取した潰瘍の部分の組織を顕微鏡で調べたところ、一部に悪性の細胞が認められたことを説明し、手術前に政隆ががんであることを告知した。

(三)  さらに、渡邉医師は、政隆及び原告幸子に対し、同月三〇日、病巣の部位、切除部分、術後の措置等を説明するとともに、政隆の手術が同年一〇月二日午前九時から始まり、七時間くらいかかること、術前検査ではコリンエステラーゼが異常に低いので手術には筋を弛緩させる薬を使うが、その効果の予測が困難であり、効果が遷延する可能性があることなどを説明した。

2  説明義務違反について

(一) 医療行為は、高度の医学的判断に基づく医師の裁量行為であるから、医師の説明義務についても、当然、医師の裁量が認められるものであり、説明内容についても、医師が、当該医療行為の種別、内容、その必要性、危険性、緊急性等を総合的に勘案して決めるべきであり、医師は、その合理的裁量の範囲を逸脱しない限り、説明義務違反にはならない。

また、患者が、治療行為の内容を理解した上で治療行為を承諾した場合、仮に、治療行為の危険性や後遺障害発生の危険性等の考慮の対象となるその余の説明ないし情報の提供がなかったとしても、右承諾が当然に無効になるわけではなく、そうした説明や情報提供があったならば承諾をしなかったであろうという特段の事情があるときに限り、承諾が無効となるにすぎない。

(二) 本件において、渡邉医師は、政隆に対し、悪性の細胞が認められたことを説明し、手術内容についても具体的に説明した上で、手術についての承諾を得ているのであるから、食道がんであると明示的に説明しなかったとしても、医師としての裁量を逸脱し、説明義務に違反しているとはいえず、また、政隆の承諾が無効であるともいえず、被告は、債務不履行及び不法行為責任を負うものではない。

(三) また、医師及び診療機関が診療契約を締結する相手方は患者であること、医師の説明義務は患者の自己決定権を前提にするものであることからすれば、患者が自己決定権を行使できる能力がある場合、医師が、患者の家族に対し、患者の病名や治療方法などを説明する義務を負うものではない。

したがって、本件で、渡邉医師らが、原告らに対して、政隆ががんであることなどを説明していなかったとしても、説明義務違反にはならない。

3  さらに、医師が、患者又はその家族に対し、合理的裁量を逸脱してがんを告知、説明しなかった場合にどのような損害が生じるか明らかではなく、そのように損害が明らかでない主張は、主張自体失当である。

第三当裁判所の判断

一  前記争いのない事実に加え、証拠(後記のもののほか、甲一一、一二、一六、乙三、証人渡邉昌則、原告藤原幸子、原告鶴岡純子)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

1  政隆は、平成八年七月一八日、明治生命の健康診断において、食道異常の疑いがあるので内視鏡による検査を受けるように指示され(甲三)、埼玉県所沢市にある吉川病院において、内視鏡による検査を受けた結果、悪いものがあるとの診断を受け、手術を勧められた。

2  政隆は、同年九月六日、知人の大日方医師から被告病院消化器病センターの馬越部長を紹介され、被告病院において初めて受診し(このとき、診察を担当したのは伊藤正秀医師である。)、内視鏡による検査等を受けた。被告病院では、内視鏡検査により、政隆の病気について食道がん(隆起I型、広範囲にIIc型合併)と診断するとともに、右検査の際に採取した病理組織の検査を行った結果、扁平上皮がんとの所見に達した(甲八ないし一〇)。

3  馬越部長は、同月九日、来診した政隆に対し、入院して手術する必要性があることを説明し、政隆は、即日、被告病院に入院の予約をした上、術前検査の一部を受けた。

なお、一般に食道がんは予後が悪く、馬越部長らは、仮に、政隆の手術が成功したとしても、その余命は四、五年であろうと考えていた。

4  渡邉医師は、同月一四日、来診した政隆及び原告幸子に対し、同月一八日に入院し、同年一〇月二日に手術を行う予定であることを告げた上、術前検査として同月九日に実施した心電図、胸部X線撮影、血液検査所見から、心電図上、虚血性変化があることや、血糖値がやや高く、軽度の肝機能障害があることから、入院後、負荷心電図、糖負荷試験、肝予備能検査(ICG)などの精査が必要であることを説明した(乙一)。

その上で、渡邉医師は、政隆に対し、食道の中程に潰瘍があり、手術が必要であること、放置すると食道が狭窄し、食べ物が通らなくなること、手術では病巣を含めて食道のほとんどを切除する必要があること、右胸と腹部と左頚のところを切って手術すること、手術後、しばらくの間は集中治療室に入ること、退院まで手術後一か月から一か月半程度かかること、政隆の手術は消化器外科領域では膵臓の手術と並んで難しい手術であり、術後管理が極めて大変であること、手術では食道の切除後残った食道と胃袋を管のようにしてつなぐが、その部分が縫合不全を起こしやすく、退院まで三か月以上かかった症例もあることなどを説明した(乙一)。

渡邉医師は、政隆に付き添って説明を聴取した原告幸子が、非常に心配し、繰り返し不安を述べ、政隆から安心して医師にまかせるように言われていたことから、以後、原告幸子に対しては、政隆の病状などについて、厳しい説明をして原告幸子が取り乱すようなことがないように注意し、配慮することにした。

5  政隆は、同月一八日から被告病院に入院した。政隆は、入院当初、被告病院のA四西病棟の病室にいたが、同月二〇日、東側のB五病棟の病室に転室した。渡邉医師は、同日、右病室において、政隆に対し、潰瘍の部分の組織を調べたところ、一部に悪性の細胞が認められたことを説明した(乙二)。

この点につき、原告らは、渡邉医師が、政隆に対し、潰瘍の一部に悪性の細胞が認められた旨の説明をしたことはないと主張し、原告幸子、同祥之、同純子作成の各陳述書(甲一一、一二、一六)及び原告幸子、同純子の各供述中には右主張に沿う部分が存在し、特に、原告幸子は、同日の朝から夜まで、原告純子も同日の午後三時から午後八時ころまで政隆の病室に居たにもかかわらず、渡邉医師から右のような説明を受けたことはなかったと供述する。しかし、渡邉医師作成の陳述書(乙三)及び同証人の証言によれば、同医師が、政隆に対し、右説明をした際に、家族は在室していなかったというのであるから、原告幸子及び同純子が政隆の病室を不在にしていた時間帯があり得ることを考慮すると、原告らの主張に沿う右各証拠は、渡邉医師作成の右陳述書及び同証人の証言に抵触するものではない上、政隆に対して前記のような説明をした旨の証人渡邉の証言は、看護記録(乙二)の記載内容とも符号しており、十分に信用することができることからすれば、原告らの主張に沿う右各証拠によっても、右認定を左右するには足りない。

6  渡邉医師は、同月三〇日、政隆及び原告幸子に対し、術前検査の結果、病巣が食道中部に約五センチメートルの大きさで存在すること、手術は、食道を頚の方を少し残して切除し、下も胃に少し入ったところで切除するものであること、右切除は右胸を開いて行い、閉胸後開腹し、残った胃袋を土管状にして食道の代用になる胃管を作成し、その胃管を胸骨の後ろを通して頚まで挙上し、残った頚部の食道と胃管とをつなぎ合わせること、右つなぎ合わせは左頚を切開して行うこと、手術には約七時間を要することなどの手術の内容を説明した。

政隆は、右の説明を聞いた上で手術承諾書に署名捺印した(甲五)。

7  政隆の手術は、同年一〇月二日、馬越部長の執刀により、予定通り実施された。手術後、馬越部長は、原告らに対し、手術は無事終了したこと、血液中のコリンエステラーゼの値が低いため、集中治療室にて人工呼吸器による呼吸管理を行うことなどを説明した。

また、渡邉医師は、原告らに対し、食道の切除標本を見せながら、政隆の病巣ががんであり、そのがんが少し食道の壁の中まで浸潤していると疑う所見であったことから進行がんと診断したこと、進行がんではあるが理論的にはがんは取りきれており、手術自体は成功したと考えていること、がんの深さや転移の有無などについては病理で調べた結果によることなどを説明した。

8  平成八年当時、渡邉医師は、がん患者に対し、その病名を説明するに際し、「がん」と明示する表現を使わず、「悪性」のものといった表現を使用していた。

二  説明義務違反について

1  政隆に対する説明義務違反について

(一) 原告らは、医師は、患者に対し、病名、治療方法、治療効果等を具体的に説明する義務があるところ、被告病院では、渡邉医師らが、政隆に対し、がんであることや手術の危険性、予後などについて説明しておらず、被告には右説明義務違反があると主張する。

たしかに、医師は、患者に対し、診療契約上、治療を行う前提として、患者が治療を受けるかどうかを適切に判断し得るように、患者に病気の内容や病状の軽重、治療の意義、内容、必要性等を具体的に説明する義務があるというべきであるが、病名、症状、治療内容の説明の方法や時期については、病状、従前の診療経過、患者の年齢、性格、精神状態、理解能力、医師と患者の信頼関係、病名告知が治療に及ぼす影響など様々な事情を総合的に考慮した上での医師の合理的裁量に基づく個別的な判断に委ねられていると解すべきであり、特に、患者が余命期間が限られることが予測されるがんに侵されていると診断された場合は、病名を告知された患者が受ける精神的打撃やそれに伴う治療への悪影響のおそれを十分に考慮して右判断を行う必要があるものというべきである。そして、患者に対する説明につき、医師に右のような裁量が認められることからすれば、説明の時期、相手及び説明内容などからみて、患者に対し、当該治療を受けるかどうかを判断することができる程度に説明が行われていれば、特段の事情がない限り、医師の合理的裁量を逸脱したものとはいえず、説明義務違反とはならないということができる。

(二) これを本件についてみると、前記認定によれば、政隆は、平成八年九月六日に被告病院で初めて診断を受けてから直ちに手術のために入院することが決定され、同年一〇月二日に手術が実施されており、自分の病気が緊急に手術を要するものであることを認識し得る状況であったこと、渡邉医師は、右のような状況下において、政隆に対し、病巣は食道中部に約五センチメートルの大きさで存在すること、手術内容は、右胸を開胸して、病変のみならず、食道のほとんどを切除するものであり、手術には約七時間を要し、難しい手術であることなどを説明し、さらに、食道の潰瘍の一部に悪い細胞があることも説明しているのである。渡邉医師は、政隆に対し、食道がんとの病名を明示的に使用して告げていないものの、悪性の細胞がある食道の潰瘍との表現で、政隆が手術を必要とする病状にあることを告げているものと評価できる上、手術の内容に関する説明は、具体的かつ詳細というべきであって、同医師は、政隆が手術を受けるかどうかを判断するのに必要かつ十分な説明をしたと認めるのが相当である。したがって、被告には、政隆に対する説明義務違反があったとは認められないし、また、政隆による手術の承諾が有効であることにも疑いを入れる余地はない。

2  原告ら家族に対する説明義務違反について

原告らは、医師には、患者との診療契約上、その家族に対しても患者の病名、手術内容及びその危険性などを説明する義務があるにもかかわらず、被告病院では、右義務に違反し、原告ら家族に対する説明を行っていないと主張する。

しかしながら、本件において問題とされている医師の説明義務のように、患者がある治療行為を受けるか否かを判断する前提として必要とされる説明については、医師が患者本人に対して直接説明するのが相当でないなどの特段の事情が認められない限り、医師は、患者本人に対して、右判断に必要とされる説明をすれば足り、それとは別に、患者の家族に対し、患者の病名や治療内容などを説明する義務があると解することはできない。

そして、本件では、渡邉医師は、政隆に対し、前記のとおり、政隆が手術を受ける際に必要な説明を行った上、政隆から手術の承諾を得ているのであるから、それとは別に、政隆の家族である原告らに対して政隆の病名や治療内容などを説明する義務が生じるような特段の事情があるとは認められない。したがって、渡邉医師らは、原告ら家族に対して、手術前に政隆の病名を説明しなかったものの、これにより、被告に、原告らに対する説明義務違反があったということはできない。

三  以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないので、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 綿引万里子 裁判官 生野考司 裁判官 餘多分宏聡)

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