東京地方裁判所 平成11年(ワ)22359号 判決
原告 牛尾治朗
右訴訟代理人弁護士 服部秀一
同 佐藤道夫
同 緒方重威
同 古賀政治
右訴訟復代理人弁護士 大塚幸太郎
被告 朴良浩
右訴訟代理人弁護士 小池通誉
被告 白倉康夫
主文
一 被告らは、原告に対し、自ら左記の行為をしてはならず、かつ、使用人又は第三者をして同行為をさせてはならない。
記
次の<1>から<4>までの範囲内において、街頭宣伝車等の車輛又は拡声器などを用い、原告に関し原告の兄牛尾吉朗の行為等に基づき、経済人としての原告の人格、職務、適格性について誹謗中傷する抗議文の朗読、頒布若しくは演説をし、テープを放送し、又は音楽を発すること。
<1>東京都千代田区大手町二丁目六番一号朝日東海ビル一階入口を中心とする半径二〇〇メートルの範囲内(別紙地図第一の円内)
<2>東京都大田区田園調布一丁目五〇番三号原告の自宅南西角を中心とする半径二〇〇メートルの範囲内(別紙地図第二の円内)
<3>東京都千代田区丸の内一丁目一番一号パレスビル一階入口を中心とする半径二〇〇メートルの範囲内(別紙地図第三の円内)
<4>兵庫県三木市志染町七番地三廣野ゴルフ倶楽部クラブハウス入口を中心とする半径一〇〇〇メートルの範囲内(別紙地図第四の円内)
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
第一原告の請求
主文と同じ
第二事案の概要
一 本件は、被告らの街頭宣伝行為により人格権が侵害されたとして、原告が被告らに対して街頭宣伝行為等の差止めを求める事案である。
二 前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠と弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
1 当事者
(一) 原告は、ウシオ電機株式会社の代表取締役であり、平成七年四月から平成一一年四月まで社団法人経済同友会の代表幹事、平成一一年五月から同会の特別顧問である。なお、ウシオ電機株式会社は、昭和二四年三月二六日設立された資本金一九五億五六三二万六三一六円、従業員約一二五〇名、年間売上約三九〇億円の光源及び電気機械の製造販売並びにこれに附帯する業務を目的とする株式会社であり、本店所在地は東京都千代田区大手町二丁目六番一号朝日東海ビル一九階、東京証券取引所一部上場会社である。
(二) 被告朴良浩(以下被告「朴」という。)は、株式会社富貴グループを営む者である。
(三) 被告白倉康夫(以下被告「白倉」という。)は、肩書住所地において敬天新聞社を営み、街頭宣伝車を保有してしばしば街頭宣伝行為を行っている。
2 原告は、原告を債権者、被告らを債務者として東京地方裁判所平成一一年(ヨ)第四二七六号街頭行為禁止仮処分を申し立て、平成一一年八月三日同仮処分決定を得た(甲第二三号証)。
被告朴は、民事保全法三七条一項に基づき、起訴命令を申し立て(東京地方裁判所平成一一年(モ)第五七二四五号)、平成一一年九月一三日同決定を得た(甲第二四号証)。
三 争点
1 被告らの行為は、原告の人格権を侵害するものか。
2 被告らに対する差止請求の当否
第三争点に対する判断
一 証拠(甲第一一、一二号証、第一三号証の一ないし三、第一四ないし第二二号証、第二六号証、第二八号証、第三〇ないし第三四号証)と弁論の全趣旨に前記前提事実を総合すれば、以下の事実が認められる。なお、以下、日時は特に明記しない限り平成一一年であるので、その記載を省略する。
1 四月上旬、神戸の市川と名乗る男性から、ウシオ電機株式会杜(以下「ウシオ電機」という。)に電話があり、同社秘書室の担当者小松に対し、その男性から、原告の兄である牛尾吉朗の廣野ゴルフ倶楽部の株券を持っているので話したい旨の申入れがされた。小松は、吉朗は亡くなったと聞いており、吉朗はウシオ電機の役員であったこともなく、ウシオ電機の業務とは関係ないことのようであったため、その旨説明をして電話を切った。
2 五月一二日、株式会社富貴グループ(以下「富貴グループ」という。)米井幹夫と名乗る人物からウシオ電機に電話があり、小松に対して、被告朴は、吉朗から生前、被告朴の入会が承認されるという前提で廣野ゴルフ倶楽部株券を買い取り、吉朗は、被告朴に対して廣野ゴルフ倶楽部が被告朴を会員と認める承認印のある株券を交付した、しかし、この承認印は偽造のもので、結局、被告朴は廣野ゴルフ倶楽部の会員となることができなかったと説明し、被告朴が被害を受けているので原告に取り次いでほしいと要求した。これに対し、小松は、吉朗が死去していること、吉朗はウシオ電機と関係ないことを説明して取次ぎを拒否した。米井は、その後同日、小松に対し、被告朴の所持する右の株券の写しをファクシミリで送付した。
3 同月一九日、神戸の新井と名乗る人物からウシオ電機に電話があり、小松に対して、廣野ゴルフ倶楽部の会員になりたいがなれそうもないので、廣野ゴルフ倶楽部の株券を原告に買い取ってほしいと要求し、さらに、原告について、経済界で活躍されている人だから牛尾家に汚点を残すことになる、それでも駄目ということになれば何かにおもしろおかしく発表し、記事になるなどと言って、廣野ゴルフ倶楽部の株券の買取りを執拗に求めた。
4 六月二七日付サンケイスポーツ朝刊「情報深海艇」と題するコラムに、「姫路の名門・牛尾家の奇怪な話」という見出しのもと、吉朗が二億円近い貸金を踏み倒したこと、吉朗から渡された廣野ゴルフ倶楽部の会員券の名義変更の印鑑が偽物であったこと等を理由として原告の責任を追及する趣旨の記事が掲載された。
5 同月二八日、神戸の市川と名乗る人物から社団法人経済同友会(以下「経済同友会」という。)に電話があり、広報担当の藤巻に対して、昭和五九年頃吉朗に廣野ゴルフ倶楽部の株券で融資したが、それに使われている印が偽造であることが判った、ウシオ電機に原告との面会を申し入れているが取り合わない、経済同友会の方で会わせるようにしてほしい、経済同友会の特別顧問の兄がこういうことをしたことを雑誌に掲載されたら、経済同友会にも影響があるだろうなどと言った。
6 七月一二日、被告白倉は、ウシオ電機を訪れて小松と面会し、神戸の方から、原告の実兄吉朗に三〇〇〇万円貸したが、吉朗の廣野ゴルフ倶楽部の株券の裏書の印が偽造であるため、廣野ゴルフ倶楽部でのプレーができないことについて、援助を頼まれた、原告に会って事実関係を確かめたいし、街宣をかけるので仁義を切りに来た、原告は経済団体である経済同友会の特別顧問をやっているので、本日午後街宣する、このほかに原告の自宅、廣野ゴルフ倶楽部の三か所で行うことにしている、頼まれて何もしない訳にはいかない、自分の新聞にも書くつもりであるなどと述べた。その後しばらくして、経済同友会が入っている日本工業倶楽部ビル前において、四台の街頭宣伝車により、演説が行われ、軍歌や演歌などの音楽が大音響で流された。
7 同月一三日、午後〇時から午後一時にかけて、日本工業倶楽部ビル前において、「敬天新聞社」という表示のある四台の街頭宣伝車により、「小林代表幹事は牛尾を顧問にしたのはけしからん」等の演説が行われ、音楽が大音響で流された。
8 同月一四日、午後〇時五八分から午後一時四三分にかけて、日本工業倶楽部ビル前において、六台(なお、そのうち二台には「敬天新聞社」との表示があった。)の街頭宣伝車により、音楽が流され、通行人に対して七月二〇日号の「神戸・廣野ゴルフ倶楽部を舞台に牛尾吉朗(牛尾一族)が詐欺!!」と記載された敬天新聞が配付された。
9 同月一四日、午後一時四三分から午後二時にかけて、ウシオ電機の本社がある朝日東海ビル前の永代通り上に、「敬天新聞社」という表示のある四台の街頭宣伝車が横付けされ、音楽が流され、敬天新聞が配付された。
10 同月二一日、午後二時二〇分から午後二時四五分にかけて、日本工業倶楽部ビル経済同友会玄関口において、「敬天新聞社」との表示のある一台の街頭宣伝車により、「牛尾治朗の実兄牛尾吉朗が神戸の廣野ゴルフ倶楽部で印鑑を偽造した書類を作って詐欺をはたらいている。詐欺師の弟が経済同友会という我が国の企業のトップの団体の持別顧問を務めるのはお恥ずかしい限りだ。経済同友会の小林さん、本当によく考えてください。この日本の企業の頂点にある経済同友会の特別顧問を、詐欺師の弟であるウシオ電機会長牛尾治朗が果たして適任といえるか。」等の演説が行われ、音楽が流された。
11 同月二五日、午前一〇時五〇分から午後〇時一〇分にかけて、廣野ゴルフ倶楽部前のコースに沿っている公道において、七台(なお、そのうち二台には「敬天新聞社」との表示があった。)の街頭宣伝車により、「牛尾吉朗にだまされた。」、「私を会員にしてほしい。」、「こんな兄の弟、牛尾治朗はメンバーからはずせ。」等の演説が行われたが、同月二六日の午前一〇時五〇分から午前一一時五〇分にかけて同月二七日の午前一〇時五〇分から午前一一時五〇分にかけて、右と同様の演説が行われた。
12 その間、被告白倉は、同月一九日頃、廣野ゴルフ倶楽部理事長乾英文に対し、原告を廣野ゴルフ倶楽部から永久追放するように要求する抗議文を送付した。
13 同月二六日、市川と名乗る男性から、ウシオ電機に電話があり、小松に対して、「世間が騒いでいるようですね。その後、考えは変わりましたか。」、「要は牛尾さんが立ち直れなくなるように、杜会的に葬られるということだね。もう誰が相手にしますか。同友会にこれだけポンポン言ったらねえ。次は同友会をせめると同時にね、同友会に公表すると同時に、東京中を練り歩くという新聞社さんの方針らしいですから。」、「牛尾さん関係は全部ずっと街宣しながら世直しのつもりでやるとのことです。」、「会員にさせてほしいと。私が持っている原本を会員が駄目ならおたくに引き取ってもらうしかないですか。」、「今日もゴルフ場へ行っていますよ。敬天新聞はね。」、「同友会のえらいさんにも、こっちからも、敬天新聞の方からも、どんどんいっていますからね。」、「街宣だけじゃなくして、新聞社と同友会のほかのえらいさんに、個人的に連絡、話してるみたいですから。」などと言った。
14 八月一九日、被告白倉は、原告訴訟代理人弁護士服部秀一との電話の中で、「私はその市川さんという人とそんなにあれじゃなくて、たまたま人を介してね、こういう事でって言われて、人に頼まれて、はいはいってしている立場です」と述べた。
15 原告を債権者、被告らを債務者とする八月三日付け仮処分決定の後においても、黒田清史郎なる人物の発行する「清和イノベーション」なる雑誌に「実兄の不始末をどうする!?牛尾治朗氏」との見出しのもと、吉朗が二億円近い貸金を踏み倒したこと及び吉朗から渡された廣野ゴルフ倶楽部の会員券の名義変更の印鑑が偽物であったこと等を理由として原告の責任を追及するような記事が掲載されたが、その雑誌が原告宅へ送り付けられた。
16 また、被告白倉は、九月二〇日付け敬天新聞に、「名門・広野ゴルフ場に詐欺師現る!!」、「地に墜ちたり、ウシオ一族よ!」などの見出しのもと、原告を誹謗中傷する記事を掲載した。
17 さらに、一〇月六日当時掲示していた敬天新聞のホームページに「名門・広野ゴルフ場に詐欺師現る!!・・・地に墜ちたり、ウシオ一族よ!」という見出しのもと、吉朗が詐欺行為を行ったとして原告に経済同友会の特別顧問からの辞退を求める等原告を誹謗中傷する内容の記事が掲載された。
18 一二月二〇日付け敬天新聞に、「ウシオ一族の呆れた常識」、「身内のサギ的行為をも『無関係!』と主張する」などと原告を誹謗中傷する見出しが掲載された。
二 争点1 (被告らの行為は、原告の人格権を侵害するものか)について
1 被告白倉が行った街頭宣伝活動の態様は、前記一のとおりであって、街頭宣伝活動の内容は、ウシオ電機の代表取締役としての原告及び経済同友会の特別顧問としての原告の人格、職務及び適格性に無関係のことを理由として原告を誹謗中傷するものであって、原告の名誉及び信用を毀損し、原告の平穏な生活を妨げたことは明らかである。
2 また、前記一によれば、被告朴は、自らウシオ電機や経済同友会に対して電話をかけ、吉朗の廣野ゴルフ倶楽部の株券に関して、原告との面会を求めたこと、七月一二日、ウシオ電機を訪問した被告白倉が、街宣をかけるので仁義を切りに来た、本日午後街宣する等の発言をし、実際にその日に経済同友会が入っている日本工業倶楽部ビル前において街頭宣伝活動が行われていること、被告白倉による街頭宣伝活動が行われた後に、被告朴はウシオ電機に電話をかけ、街頭宣伝活動が今後も継続的に行われる予定であること及びその日に廣野ゴルフ倶楽部において街頭宣伝活動が行われていることを話しており、経済同友会に対して被告朴だけでなく被告白倉も働きかけている旨の発言をしていること、被告白倉がウシオ電機において、吉朗の廣野ゴルフ倶楽部の株券に関して神戸の方から援助を頼まれた、その日の午後に街宣すると発言していること、被告白倉は、原告訴訟代理人弁護士服部秀一との電話において、人に頼まれて街頭宣伝活動を行っている旨の発言をしていることが認められる。
したがって、被告朴は、廣野ゴルフ倶楽部の株券の買取名下に原告から金銭を喝取する目的で被告白倉と共謀の上、右街頭宣伝活動を行ったと推認することができる。
3 以上によれば、被告らの行為は、原告の人格権を侵害するものと認められる。
三 争点2 (被告らに対する差止請求の当否)について
1 被告らは、前記のとおり、共謀の上、ウシオ電機株式会社が所在する朝日東海ビル前、経済同友会が所在する日本工業倶楽部ビル前及び廣野ゴルフ倶楽部周辺において街頭宣伝活動を繰り返して行ったほか、仮処分決定がされたにもかかわらず、その後も、敬天新聞やホームぺージ等において、原告の人格権を侵害するような言動を繰り返しており、被告らにおいて将来も請求の趣旨記載の行為を繰り返す高度の蓋然性が認められる。
なお、原告の自宅の周辺において、被告らが街頭宣伝活動を行ったと認める証拠はないが、前記一によれば、被告白倉は、ウシオ電機を訪問した際に、原告の自宅周辺においても街頭宣伝活動を行う旨の発言をしていることが認められる。
したがって、被告らが、原告の自宅周辺において、将来、請求の趣旨記載の行為を行う蓋然性が認められる。
2 よって、原告は、被告らに対し、人格権に基づき街頭宣伝活動の差止めを求めることができる。
四 以上のとおり、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六五条一項本文を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 成田喜達 裁判官 高宮健二 裁判官 阿閉正則)
別紙<省略>