東京地方裁判所 平成11年(ワ)23043号 判決 2001年6月05日
原告
山谷猛
原告
堀内日出男
原告ら訴訟代理人弁護士
水野英樹
同
荒木昭彦
被告
十和田運輸株式会社
代表者代表取締役
小笠原清一
訴訟代理人弁護士
足立武士
同
小関勇二
同
南栄一
弁護士足立武士訴訟復代理人弁護士
洞澤美佳
主文
1 本件訴えのうち、原告らが被告に対し本判決確定の日の翌日以降の賃金の支払を求める部分をいずれも却下する。
2 原告らが、被告に対し、雇用契約に基づく権利を有する地位にあることを確認する。
3 被告は、原告山谷猛に対し、
(1) 金一八七万三五〇〇円を支払え。
(2) 平成一一年一〇月以降本判決確定に至るまで、毎月二五日限り次の割合による金員を支払え。
ア 一か月当たり金三〇万円
イ 前月二六日から当月二五日までの日数から、次の日数を差し引いた日数に、一日当たり金五〇〇円を乗じた金員
(ア) 日曜日
(イ) 祝日
(ウ) 一二月三一日から一月四日まで
(エ) 七月二六日から八月二五日までのうちの四日
4 被告は、原告堀内日出男に対し、
(1) 金一六八万七五〇〇円を支払え。
(2) 平成一一年一〇月以降本判決確定に至るまで、毎月二五日限り次の割合による金員を支払え。
ア 一か月当たり金二六万九〇〇〇円
イ 前月二六日から当月二五日までの日数から、次の日数を差し引いた日数に、一日当たり金五〇〇円を乗じた金員
(ア) 日曜日
(イ) 祝日
(ウ) 一二月三一日から一月四日まで
(エ) 七月二六日から八月二五日までのうちの四日
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 この判決は、第3及び第4項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文第2ないし第4項同旨。ただし、主文第3項(2)及び同第4項(2)の「本判決確定に至るまで」を除く。
第二事案の概要
1 前提となる事実(証拠番号等の摘示のない部分は当事者間に争いがない)
(1) 当事者等
ア 被告
被告は、平成八年一〇月に設立され、肩書地等において貨物運送等を業とする株式会社であり、資本金は一〇〇〇万円、従業員数は約二七名である。
被告代表者小笠原清一(以下「小笠原」という)は、昭和四五年ころから昭和六一年ころまでの間、十和田運輸株式会社(被告と同名であるが、別会社である。以下「旧十和田運輸」という)の代表取締役であったが、同社は被告と全く同様の業務を行っていた。同社は、昭和六一年ころ経営不振に陥って解散となったが、その営業は三越運輸株式会社(以下「三越運輸」という)に譲渡され、旧十和田運輸が行っていた業務は従業員を含めそのまま承継された。小笠原は、三越運輸において所長として就労した。
小笠原は、平成八年一〇月、被告を設立し、三越運輸から、旧十和田運輸が行っていた業務の範囲の営業を、従業員を含めて譲り受けた。
イ 原告ら
(ア) 原告山谷猛(以下「原告山谷」という)は、昭和四五年ころから昭和五五年ころまで、旧十和田運輸において勤務し、さらに、平成三年ころ以降は三越運輸及び被告において勤務した。被告設立時には、被告との間で雇用契約(期間の定めのないもの)を締結した。
原告堀内日出男(以下「原告堀内」という)は、平成三年八月一〇日ころ、三越運輸に入社し、以後被告においても引き続き勤務した。被告設立時には、被告との間で雇用契約(期間の定めのないもの)を締結した。
(イ) 原告らは、全国一般・全労働者組合(以下「全労」という)傘下の全国一般・全労働者組合十和田運輸分会(以下「本件分会」という)に加入している。
(ウ) 原告らの業務は、松下電器産業株式会社(以下「松下電器」という)の家電製品を各小売店に配送する業務であり、具体的には、朝出勤し、被告の配送車を運転して、松下電器の家電製品が保管されている神奈川県川崎市所在の倉庫に赴き、当日配送する家電製品を受け取り、それを各小売店に配送し、帰社するというものであった。
(2) 懲戒解雇
ア 被告は、平成一一年三月一六日、原告山谷及び被告の従業員宇ツ木睦夫(以下「宇ツ木」という)に対し、それぞれ内容証明郵便にて「懲戒解雇通知書」を発し、これは同月一七日に両名に到達した(原告山谷に対するものを、以下「原告山谷に対する本件解雇」という)。また、被告は、同月二九日、原告堀内に対し、同様に「懲戒解雇通知書」を発し、これは同月三〇日に同原告に到達した(以下「原告堀内に対する本件解雇」という。また、原告山谷に対する本件解雇と併せ、以下「本件各解雇」という)。
イ 上記各「懲戒解雇通知書」には、次の記載がある(本件に関係する部分のみ抜粋する。用語を一部訂正した部分がある)。
「貴殿は通知会社(注・被告)に勤務し、家電製品等の運送業務に従事しておりますが、今般長年にわたり運送先の店舗より家電製品の払下げを受け、有限会社福田ギャラリー・リサイクル部に搬入し代価を受けていたことが判明致しました。貴殿の右の行為は、勤務時間中に行っていた行為であり、かつ通知会社の車両を使用して行っていたものであります。
右の行為は、被使用者の職務専念義務に違反するものであり、通知会社の就業規則二四条・同二七条に違反し、第二九条の懲戒解雇に該当するものであります。
よって、通知会社はここに貴殿を懲戒解雇致します。
今後出社する必要はありませんので、念のため申し添えます」
(書証略、弁論の全趣旨)
(3) 原告らの賃金額等
ア 原告山谷に対する本件解雇当時の同原告の月例賃金額は、次のとおりである(合計三〇万円)。
(ア) 基本給 九万円
(イ) 時間外手当 四万円(残業時間数に関わりなく、毎月支払われていた)
(ウ) <特>手当 三万円
(エ) 家族手当 一万円
(オ) 無事故手当 二万五〇〇〇円(交通事故あるいは商品に関する事故を起こすと、この手当の支給はない)
(カ) 特別手当 九万五〇〇〇円
(キ) 住宅手当 一万円
このほか、出勤手当として日額五〇〇円が支給されていた。
イ 原告堀内に対する本件解雇当時の同原告の月例賃金額は、次のとおりである(合計二六万九〇〇〇円)。
(ア) 基本給 八万円
(イ) 時間外手当 四万五〇〇〇円(残業時間数に関わりなく、毎月支払われていた)
(ウ) 無事故手当 二万五〇〇〇円(交通事故あるいは商品に関する事故を起こすと、この手当の支給はない)
(エ) 特別手当 一〇万九〇〇〇円
(オ) 住宅手当 一万円
このほか、出勤手当として日額五〇〇円が支給されていた。
ウ 原告らに対する賃金支払は、毎月二五日締めの同日払いであった。
エ 被告の従業員は、(ア)日曜日、(イ)祝日、(ウ)一二月三一日から一月四日まで及び(エ)七月二六日から八月二五日までのうちの四日を休日として付与されていた。
(証拠略)
2 争点
(1) 就業規則の効力等
ア 被告が本件各解雇の根拠であるとする就業規則(書証略)(以下「本件就業規則」という)は、原告らに対して効力を有するものか。
イ 仮にアが認められないとして、本件各解雇について普通解雇とみることができるか。
(2) 本件各解雇の有効性
(3) 本件各解雇の不当労働行為性
3 当事者の主張
(1) 争点(1)(就業規則の効力等)について
(被告の主張)
ア 被告は、三越運輸から営業の一部を譲り受けたから、三越運輸とその従業員との間の労働契約に基づく権利義務関係についても承継している。したがって、その労働契約の内容である就業規則の承継も受けたのであって、被告には設立当時から就業規則(書証略)(本件就業規則)が存在していた。
また、被告は、その設立に際して、本件就業規則をそのまま利用することを従業員に対して口頭で周知した。
したがって、被告と被告の従業員の間の労働条件について本件就業規則が適用されることとなったというべきである。
イ 仮に本件解雇当時被告に就業規則が存在していなかったとしても、被告は原告らに解雇の意思表示をしているから、本件解雇は普通解雇として有効である。
(原告らの主張)
ア 被告は、本件各解雇において、その根拠として就業規則の条項を挙げるが、ここでいう就業規則は原告らを含む被告の従業員には示されていない。したがって、本件就業規則は原告らに対して効力を有するものではないから、これに基づく本件各解雇は無効である。
被告は、三越運輸からの営業譲渡に伴い、三越運輸の就業規則を承継した旨主張する。しかし、仮に三越運輸から被告に営業譲渡がされたとしても、当時の三越運輸の従業員はいったん同社を退職し、その後原告らを含む被告の従業員と被告とが新たな雇用契約を締結したと解されるから、被告の主張は失当である。
なお、本件各解雇に係る解雇通知書には、懲戒解雇の根拠条項として、就業規則二四条、二七条、二九条が挙げられているが、本件就業規則の同各条項は懲戒解雇の根拠となる条項ではなく、この点でも本件各解雇は懲戒解雇として根拠となる就業規則を欠くというべきである。
イ なお、被告は本件各解雇が懲戒解雇として無効であっても、普通解雇として有効である旨主張するが、普通解雇は懲罰として行われる懲戒解雇とは明確に区別されるべきであり、このような無効行為の転換を認めるべきではない。
(2) 争点(2)(本件各解雇の有効性)について
(被告の主張)
ア 被告は、松下ロジステックマネジメント株式会社との間で締結した契約に基づき、松下電器の家電製品を各小売店に配送する業務を行っており、原告ら及び宇ツ木はこの業務に従事していた。ところが、原告ら及び宇ツ木は、各小売店から家電製品を無償で譲り受け、これを有限会社福田ギャラリー(以下「福田ギャラリー」という)まで運んで売却するというアルバイト行為(以下「本件アルバイト行為」という)を、小笠原の承諾を得ることなく行っていた。
イ 原告ら及び宇ツ木が福田ギャラリーに家電製品を持ち込んだ日にちについて、被告が把握できるのは、福田ギャラリーのノート(書証略)(以下「本件ノート」という)に記載のある次の各日である。
(ア) 原告山谷
平成一〇年八月五日、同月六日、同月二四日、同月二六日、同月二八日、同月三〇日、同年九月九日、同月二四日(二回)、同月二七日、同年一〇月一日、同月二日、同月四日(三回)、同月六日、同年一一月二日(原告堀内とともに)、同年一二月一九日、同月二一日、同月二五日、同月三一日、平成一一年一月九日、同月一五日、同月一六日、同月二〇日、同月二五日、同月二八日、同年二月六日、同年三月二〇日
(イ) 原告堀内
平成一〇年八月一六日、同年九月二四日、同年一一月二日(原告山谷とともに)、同月七日、同月七日から同月九日の間の一日、同月三〇日、同年一二月三日、同月一五日、平成一一年一月一六日、同月二八日、同年三月一日
(ウ) 宇ツ木
平成一〇年一一月七日、同月九日、同月一四日、同月一六日、同月一八日、同月一九日
ウ 以上のとおり、原告らは、本件各解雇直前の約半年間だけでも、原告山谷にあっては二九回、原告堀内にあっては一一回と、相当数のアルバイト行為を行っている。しかも、これらは原告らが行ったことの一部にすぎず、原告山谷は平成六年六月ころからの約五年間、原告堀内は平成七年六月ころからの約四年間、これを行っていたのである。小笠原が平成一一年三月一日及び同月二日の両日にわたり、福田ギャラリーに出入りしている原告山谷を目撃していること、原告らは、福田ギャラリーから直接連絡が入り、荷下ろし作業を手伝ってもらうことを依頼されていたこと等からすれば、原告らと福田ギャラリーとのつながりは深く、原告らが福田ギャラリーに頻繁に通っていたことがうかがわれる。
エ 原告らの本件アルバイト行為は、本件就業規則四九条八号の「職務上の地位を利用して私利を図ったもの」及び同条一〇号の「許可なくして他の職業に従事したとき」に該当する。
すなわち、原告らが家電製品を引き取っていたのは、被告の顧客である配送先の小売店であったこと、配送を終えた後帰社する前に福田ギャラリーに立ち寄って、家電製品を持ち込んでいたことからすれば、原告らの行為は職務行為を利用したものであるということができ、しかも、被告の従業員として業務外の、全くの私的行為であり、自らの利益のためにしたものであるということができるのであって、上記四九条八号の事由に該当する。
また、上記のとおり、小笠原は原告らの行為について承諾したことはないから、本件アルバイト行為は上記四九条一〇号の事由に該当する。
オ そして、本件アルバイト行為が職務専念義務に違反し、被告に対して背信的なものであること、本件アルバイト行為は、顧客からみて、真の職務行為と私利を図る行為との区別がつかない態様で行われたものであること、本件アルバイト行為が被告の保有する車両を利用して行われたこと、上記のとおり原告らは多数回にわたってこれを行ったこと、配送を終えた後の行為であるとしても、休憩時間中の行為であるとはいい難いこと、以上の事情に併せ、運送業のように企業の従業員に対する管理が行き届きにくい職種では、通常の企業に比べてより高度な信頼関係の下に労使関係を築かなければならないことをも考慮すれば、本件アルバイト行為は被告との信頼関係を喪失させるに十分な行為であった。
カ よって、本件各解雇は客観的にみて合理的な理由があり、社会通念上も相当な処分であったから、懲戒解雇として有効である。また、上記のとおり、本件アルバイト行為は職務専念義務に違反する行為であるから、本件各解雇は普通解雇としても有効である。
(原告らの主張)
ア 被告の主張する原告らの本件アルバイト行為は、三越運輸時代の平成六年ころ、中目黒の三越運輸の駐車場に廃棄物として放置してあった家電製品を見つけた福田ギャラリーの代表者福田利雄(以下「福田」という)が、たまたま駐車場にいた原告山谷に対し、家電製品を廃棄するのであればもらいうけたい旨話したことから始まった。原告山谷は、福田に対し、当時三越運輸の所長であった小笠原に了解を得るよう伝えたところ、福田は小笠原に了解を得、同駐車場に放置してある家電製品を運び出すようになった。
その後、原告山谷は、福田から、原告山谷が配送する小売店から廃棄物となった家電製品を引き取ってくれば買い取る旨言われたので、小売店に聞いてみたところ、小売店では廃棄物として処分すると処分費用がかかるので、原告山谷が引き取ってくれるのであれば小売店としても助かると言われ、顧客である小売店のためにもなるのであればということで、小売店から廃棄物となった家電製品を引き取り、福田ギャラリーに売却することを始めた。
原告山谷が福田ギャラリーへの売却を始めてから約一年後、原告山谷は、原告堀内ほかの三越運輸の従業員にも福田ギャラリーの話をし、原告堀内ほかの従業員も同様の行為を始めた。その後、原告山谷は福田からもっと商品を集めたいと言われたため、当時三越運輸の所長であった小笠原に、自分が小売店から廃棄物である家電製品を無料で引き取ってきて福田ギャラリーに売却していること及び福田ギャラリーが数を集めたいと希望していることを伝え、他の従業員にも声をかけることを提案した。その結果、小笠原は、配送員に対して廃棄物である家電製品を集めてくるよう声をかけ、その際会社の駐車場を保管場所として使用することも認めた。
この際、原告堀内は、小笠原に対し、同原告がすでに福田ギャラリーへの持込みをしていること、福田ギャラリーは帰社途中にあり、直接福田ギャラリーに製品を持ち込めるので、会社の駐車場を保管場所として使用する必要はないと伝えたところ、小笠原はこれについても了承した。
このように、原告山谷は、三越運輸時代に、小笠原に対し、福田ギャラリーのことを説明しており、小笠原もこれを了解し、積極的に勧めていた。
イ 被告が三越運輸の営業を譲り受けた後も、小笠原は、原告らが福田ギャラリーへ家電製品を持ち込んでいることを当然知っており、これを知りながら規制するということは全くなかったのであるから、小笠原もこれを承認していたというべきである。
原告らとしても小笠原が当然了解しているものと考えており、これが被告の規則に違反するなどの意識は全くなかった。
ウ もっとも、原告らが福田ギャラリーに家電製品を持ち込んだ回数は、被告が三越運輸の営業の譲渡を受けてからは急激に減少した。リサイクル業者であれば有償で買い取ってもらえることになったため、それまで原告らに家電製品を引き取らせていた小売店が、原告らに製品を譲るのではなくリサイクル業者にこれを持ち込み、換金するようになったからである。
被告が入手した本件ノート中、「ツジDK」等の記載は、製品を持ち込んだ小売店の名前を記載したものであり、これを原告らによるものであると読み替えることができるという根拠は全くない。かえって、ノートの記載をみれば明らかなように、福田ギャラリーにおいても、他のリサイクル業者と同様に小売店が家電製品を持ち込む例が圧倒的に多かった。
本件ノートの中で、原告山谷が持ち込んだ記録は一回のみであり(本件ノート書証略二枚目の一〇月四日の欄)、原告堀内にあってはそのような記録はない。ノートに記載のあるものでこの程度の回数であるから、被告が営業譲渡を受けてから、原告らが本件アルバイト行為をほとんど行なっていなかったことは明らかである。
原告山谷は、平成一〇年一一月ころ、それまで担当していたルートを変更させられたため、そのときから解雇時まで福田ギャラリーに家電製品を持ち込めなくなったという事情もあった。
エ 被告は、原告らのアルバイト行為を職務専念義務に違反する行為であるとも主張する。
しかし、被告の就業時間は、就業規則上の勤務時間の定めにもかかわらず、配送の業務が終了し、時間前に帰社すればそこで退勤できるように運営されており、被告における勤務時間の拘束は緩やかである。また、被告従業員は、配送のため走行中、適当な時間をみて昼食をとって休憩することとなっていたが、実際には、昼食時間帯は道路がすいていることもあって、ほとんど休憩を取る者もなく、その分、早く配送を終えて帰社して退勤するのが実際であった。
原告らが福田ギャラリーに出入りする時間も、このように休憩を取ることなく勤務して生まれる時間によるものであり、休憩時間をとる時間が各自の自由に任されていたことを考えれば、福田ギャラリーへの出入りは原告らが自由に利用できる休憩時間内の行為に等しい。また、原告らの福田ギャラリーへの出入りは、原告らの業務である家電製品の小売店への配送が終了した後に行われており、業務に支障を来すことは全くなかったし、帰社時間が遅れるにしてもせいぜい数分程度であった。
以上からすれば、原告らの行為が職務専念義務に違反するものとはいえないし、懲戒解雇事由にも当たらないというべきである。
オ また、福田ギャラリーへの家電製品の持込みは、安藤、安里、三沢、小林といった原告ら以外の複数の被告従業員も行なっていたし、被告の従業員である片山営業部長、岡村、安藤、安里らは、被告のトラックを使用して、引越のアルバイトをして、知人等から引越業務の仕事を請け負い、被告のトラックを使用して引越業務を行っていて、このことは被告も知っていることであった。
(3) 争点(3)(本件各解雇の不当労働行為性)について
(原告らの主張)
ア 被告(殊に小笠原)は、原告らを含む被告従業員が平成一〇年一一月一四日に本件分会を結成して以来、被告における労働条件の改善を求めるなどした同分会の存在自体を嫌悪し、同分会に所属する組合員を脱退させ、かつ、非組合員による組合批判を生じさせるなどの組合攻撃を行った。さらに、全労が同年一二月一八日に渋谷労働基準監督署に対し時間外労働の割増賃金未払い等に関して申告するなど、本件分会所属組合員の残業代の支払を請求し、同監督署からもこの点に関して是正勧告がされるに至り、ますますその嫌悪の念を強めた。
全労は、平成一一年一月一八日、被告の団体交渉拒否、支配介入行為に関し、東京都地方労働委員会に救済命令の申立てを行い、同年三月一二日の調査期日において、団体交渉を行うことの合意がされたものの、その後被告は団体交渉の延期を申し出、その直後である同月一六日に原告山谷に対し、同月二九日に原告堀内に対し、それぞれ本件各解雇に係る通知を発するに至っており、本件各解雇が警告なくいきなり行われたことにも照らせば、同解雇は労働組合に対する嫌悪から行われたものであることは明らかである。
イ 以上のとおり、本件各解雇は、全労及び本件分会が被告に対して残業代等の金員の出捐を迫ったことなどに対する対抗手段として、組合員を労働組合から脱退させ、あるいは労働組合を弱体化させる目的で行われたものであり、不当労働行為に該当する無効なものである。
(被告の主張)
一般に、労働組合の結成は、会社経営者にとって必ずしも歓迎すべきものではない。本件においても、被告代表者である小笠原が感情的となって一部不適切な言動をしたかもしれない。
しかし、小笠原は、労働組合の要求を無視したり、組合を弾圧したことはない。本件各解雇は、組合活動に打撃を与えるためにされたものではなく、原告らの本件アルバイト行為を理由にされたものであって、何ら不当労働行為には該当せず、有効である。
第三当裁判所の判断
1 争点(1)(就業規則の効力等)について
(1) 本件就業規則が三越運輸の就業規則であったこと、被告は三越運輸から営業譲渡を受けて設立されたものであることは当事者間に争いがないところ、被告は、被告が三越運輸から営業譲渡を受けた際に、労働契約の内容である本件就業規則の承継も受けたなどとして、本件各解雇(懲戒解雇)は、本件就業規則の四九条八号及び一〇号に基づいて行われたものである旨主張する。
しかし、証拠(略)によれば、本件各解雇に係る通知書には、本件各解雇の就業規則上の根拠条文として、二四条、二七条及び二九条が挙げられているが、本件就業規則二四条は休暇に関するもの、二七条は採用希望者の提出書類に関するもの、二九条は試用期間に関するものであることが認められる。被告が上記通知書において就業規則上の条文の摘示を誤ったなど、本件就業規則の条文と同通知書記載に係る適用条文との齟齬を合理的に説明すべき特段の事情が認められる場合であれば格別、そのような主張も立証もない本件においては、上記認定に係る事実は、被告が本件各解雇の時点で、本件就業規則の存在を認識していなかったことを示すものというべきである。
以上に加え、被告は、その設立時以降本件各解雇に至るまで、従業員に対し、本件就業規則が被告の就業規則であることを周知したことを認めるに足りる証拠はないことをも併せ考えると、本件就業規則が被告の就業規則であることを認めることは困難であるといわざるを得ない。
そうすると、被告において、本件各解雇当時本件就業規則以外の就業規則が存在することについての主張、立証のない本件においては、本件各解雇当時、被告には就業規則は存在しなかったというほかはなく、懲戒解雇は、原則として就業規則等の規定を前提として初めてこれを行うことができると解されることに照らせば、被告は、本件各解雇当時、従業員を懲戒解雇することはできなかったというべきである。
よって、本件各解雇は、懲戒解雇として無効である。
(2) 被告は、本件各解雇は普通解雇として有効である旨主張する。
懲戒解雇以外の類型による解雇(以下一般の用例に従い、これを「普通解雇」という)が懲戒解雇よりも労働者にとって有利であると考えられる場合もある(一般にはそのような場合が多いものと考えられる)から、懲戒解雇の意思表示を普通解雇の意思表示に転換したものとみることが必ずしも不相当であるとまではいえないものと解される。もとより、この場合であっても、使用者が懲戒解雇に固執しないとの限定が付される必要があるが、本件において、被告が懲戒解雇に固執しないことは明らかであるから、本件各解雇の意思表示は普通解雇の意思表示とみることができる余地もあるというべきである。
(3) そこで、以下、本件各解雇を普通解雇としてみた場合の有効性について検討する。
2 争点(2)(本件各解雇の有効性)について
(1) 被告は、本件各解雇の理由として、原告らが被告に無断で、原告山谷にあっては平成六年六月ころから、原告堀内にあっては平成七年六月ころから、それぞれ本件各解雇ころまで、本件アルバイト行為を頻繁に行っていた旨主張する。しかし、被告が上記のとおり主張する期間の本件アルバイト行為のうち、被告が設立された時点(平成八年一〇月)より前の期間の分については、三越運輸当時の行為ということになり、これを被告における勤務に係る本件各解雇の理由とすることは、相当ではないと解されるから、以下、平成八年一〇月から本件各解雇のころまでについて、被告の主張するとおりの事実があったかについて検討を加える。
(2)ア 証拠(略)によれば、次の事実が認められる。
(ア) 小笠原は、平成一一年二月ころ、事故に遭って休んでいた宇ツ木に代わって配送業務を行った際、東京都品川区の武蔵小山駅付近に所在する小売店において、廃棄となったテレビが二台あるから引き取ってもらえないかと依頼され、併せて、原告山谷及び宇ツ木が、配達がなくても上記小売店から電話が入れば、廃棄物である家電製品を引き取りに来ていたことを聴取した。なお、当時宇ツ木の担当していた配送コースは、平成一〇年一一月ころ原告山谷から引き継いだものであった。
(イ) 小笠原は、平成一一年三月一日、福田ギャラリーに赴いたところ、原告山谷が福田とともに荷物の積込みを行っていたのを目撃し、さらに、翌日である同月二日も同じく赴いたところ、同所に原告山谷がいるのを目撃した。
同月二日、小笠原は、原告山谷が立ち去るのを確認した後、福田と話をし、「(福田が)留守の時には商品はどうやって預かるのですか」と尋ねたところ、福田は、「(廃棄物である家電製品を保管する倉庫の)シャッターのかぎは本人たちに預けてあるから、来たときにはいつでもノート(注・本件ノート)に記帳してもらい、後でまとめて支払っている」旨話した。
(ウ) 三越運輸当時、原告らは福田ギャラリーにおいて荷物の積込みの作業を有償で行うことがあり、このような場合、事前に原告堀内の携帯電話に福田から依頼が入ることになっていた。原告らは、被告設立後においてもこのような作業を行うことがあった。
イ 以上の事実からすれば、本件各解雇直前の平成一一年三月ころ、原告らは福田ギャラリー及び福田と、配送や荷物の積込みに関し何らかの親密な関係にあったことが認められるというべきである。
(3)ア 次に、原告らは、本件アルバイト行為につき、被告設立後、いずれも年間一、二回程度これを行っていたことを自認する(証拠略)。
イ 一方、被告は、被告が原告らの本件アルバイト行為を頻繁に行っていたことの根拠として、本件ノート(書証略)を挙げる。証拠(書証略。(ただし、本件ノートの一月一六日の欄の「堀内」との記載は、平成八年か平成九年のものであるとする供述部分を除く)、同一一、被告代表者本人、原告堀内本人)によれば、本件ノートは、福田ギャラリーにおいて保管されていたもので、福田ギャラリーに廃棄物である家電製品が持ち込まれた場合に、その品目、数量、買取額等が記載される性質のものであること、本件ノートの記載は平成一〇年八月から平成一一年三月までの分であることが認められる。
しかし、本件ノートを見ても、原告山谷の氏名が記載されているのは一箇所(平成一〇年一〇月四日の欄)のみであり、原告堀内に関する記載はない(厳密に言えば、平成一一年一月一六日の欄に「堀内」との記載があり、証拠(書証略)によれば、これは原告堀内自らが記入したものであることが認められるが、同記載は取消線によって削除されているので、ここでは無意味な記載であるというべきである)。この点、被告は、本件ノート中の「ツジDK」、「大岡山八島電気肥後」、「大井ラジオテレビ」、「高桑ムセン」、「プラス電器」、「ワシヤ」の記載は、原告らが家電製品を持ち込んだことを示すものである旨主張するが、これを裏付けるに足りる証拠はなく、採用できない。
なお、本件ノート中には、宇ツ木の名が平成一〇年一一月七日から同月一九日までの間に六回記載されており、証拠(略)によれば、これらの日に宇ツ木が福田ギャラリーに家電製品を持ち込んだこと、宇ツ木は平成一〇年一一月に原告山谷の配送コースを引き継いだこと、この引継ぎのころ、原告山谷は宇ツ木に対し、本件アルバイト行為を行うことを紹介したことが認められる。しかし、宇ツ木のアルバイト行為が実質的に原告らのアルバイト行為に当たることを認めるに足りる証拠はないし、宇ツ木がこの程度の頻度でアルバイト行為を行っていたことから直ちに、原告らが本件アルバイト行為を頻繁に行っていたことを認めることはできない。
したがって、本件ノートの記載をもって、原告らが本件アルバイト行為を頻繁に行っていたことの証左であるとすることはできない。
ウ 以上からすれば、原告らの本件アルバイト行為の頻度については、アのとおり、被告設立後いずれも年間一、二回程度これを行っていたことの限りで認められることになる。
(4) (2)イ及び(3)ウの事実を総合しても、原告らが頻繁に本件アルバイト行為を行っていたこと、すなわち、(1)掲記の被告の主張に係る事実(ただし、被告に無断であったかについては除く)を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
そして、被告は、本件ノートを入手し、原告らが本件アルバイト行為を頻繁に行っていたと認識した後に、原告らに対してその事実関係を確認することなく本件各解雇に至っていること(書証略、被告代表者本人)をも併せ考えれば、本件各解雇は、十分な根拠に基づいて行われた解雇ではないといわざるを得ない。
(5) さらに、原告らが行った本件アルバイト行為の回数が(3)ウの程度の限りで認められるにすぎないことに、証拠(書証略、原告山谷本人、原告堀内本人)及び弁論の全趣旨を併せ考えれば、原告らのこのような行為によって被告の業務に具体的に支障を来したことはなかったこと、原告らは自らのこのような行為について小笠原が許可、あるいは少なくとも黙認しているとの認識を有していたこと(原告らは、小笠原自身が、新十和田運輸の代表者として、このような行為を了承していた旨主張し、上記各証拠中にはこれに沿う部分があるが、反対証拠もある(書証略、被告代表者本人)ことに照らせば、これを認めるには至らない。しかし、そうであるからといって、原告らが上記のような認識を有していたとの認定は妨げられない)が認められるから、原告らが職務専念義務に違反し、あるいは、被告との間の信頼関係を破壊したとまでいうことはできない。
(6) 以上の次第であって、本件各解雇を普通解雇としてみた場合であっても、本件各解雇は解雇権の濫用に当たり、無効である。
3 なお、被告は、被告の経営状態からすると、原告らの復職は不可能である旨主張しており、本件請求との関係でその主張の趣旨は必ずしも明らかではないが、仮にそのような事情が地位確認請求を理由のないものとするとの趣旨であるとしても、そのような事情から直ちに地位確認請求が理由のないものと解することは困難である。
4 結論
以上の次第であるが、本件訴えのうち、原告らが被告に対し、本判決確定の日の翌日以降の賃金の支払を求める部分は、原告らと被告との間に雇用契約関係が存在することを確認する本判決が確定すれば、特段の事情のない限り、この雇用関係を前提とする法律関係が構築されるものと解されるから、あらかじめこれを請求する必要があるとはいえず、訴えの利益を欠くものとしてこれを却下するのが相当である。
これを除いた原告らの本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がある(なお、月額二万五〇〇〇円の無事故手当の請求については、弁論の全趣旨によれば、本判決確定に至るまでは、原告らが具体的な勤務に就く可能性が全くないか、少なくとも極めて低く、したがって、原告らが事故を起こすことはないものと認められるから、上記却下に係る部分を除いた同請求は理由がある。また、日額五〇〇円の出勤手当の請求については、弁論の全趣旨によれば、同手当が従業員としての地位を前提とする賃金に含まれる性質のものであることが認められるから、同請求も理由がある)。
よって、訴訟費用の負担につき民訴法六四条ただし書、六一条を、仮執行宣言につき同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉崎佳弥)