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東京地方裁判所 平成11年(ワ)23382号・平11年(ワ)9109号 判決

当事者の表示

平成一一年(ワ)第九一〇九号事件 原告 根本雪枝<外一〇三名>

平成一一年(ワ)第二三三八二号事件

原告 大野真澄<外一七名>

右原告一二二名訴訟代理人弁護士 田中清治

同 藤村眞知子

同 青木秀樹

同 井口多喜男

同 木之瀬幹夫

同 坂勇一郎

同 櫻井健夫

同 佐藤淳

同 中野和子

同 花輪弘幸

被告 日本投資者保護基金

右代表者理事長 岩瀬正

右訴訟代理人弁護士 岡田暢雄

同 今西一雄

同 山本正

同 杉山憲広

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

(主位的請求)

被告は、原告らに対し、別紙請求債権目録の請求金額欄記載の金員及びこれに対する平成一一年一〇月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(予備的請求)

原告らと被告との間において、別紙請求債権目録の請求金額欄記載の金額につき、財団法人寄託証券補償基金の補償対象となり、原告らが被告に対して補償請求権を有することを確認する。

第二事案の概要

本件は、丸荘証券株式会社(以下「丸荘証券」という。)の顧客であった原告らが、同証券会社との取引によって損失を被ったとして、証券取引法により設立された投資者保護基金である被告に対し、主位的に右損失の補償を請求し、予備的に原告らが被告に対し補償請求権を有することの確認を請求した事案である。

一  前提事実

1  当事者

(一) 原告らは、丸荘証券の個人顧客として、同証券会社と有価証券の取引を行ってきた者である。(甲ハ二一、甲ハ三〇、弁論の全趣旨)

(二) 被告は、平成一〇年一二月一日、財団法人寄託証券補償基金(以下「寄託証券補償基金」という。)の一切の業務並びにその有する一切の資産及び負債を承継し、証券取引法に基づき設立された投資者保護基金である。(争いがない)

2  丸荘証券の債券購入

丸荘証券は、平成九年一月から同年一〇月までの間、アジア・インベストメンツ・インターナショナル・リミテッド(以下「AIIL」という。)が発行したアジア・インベストメンツ・インターナショナル・リミテッド・シリーズ二九九、同五〇七、同五四八、同五四九、同五九二、同五九三、同五九四及び同六六五との名称の債券(以下、まとめて「AIIL債」という。また、右各債券を「AIIL債#二九九」などという。)並びにING(US)フィナンシャル・ホールディングス・コーポレーション(以下「ING・FHC」という。)が発行したING(US)フィナンシャル・ホールディングス・コーポレーション・アジア一〇五〇及び同一〇五四との名称の債券(以下、まとめて「INGアジア債」という。また、右各債券を「INGアジア債#一〇五〇」などという。)を、AIIL債についてはペレグリン証券会社(東京支店)から、ING債についてはINGベアリング証券会社(東京支店)から、それぞれ購入した。(甲ハ二七の一ないし一八、甲ハ二八の一ないし一二、甲ハ三三、丁四の一、二、丁七の一、二、丁八の一ないし三、丁九の一ないし三、丁一七、弁論の全趣旨)

3  原告らの債券購入

原告らは、丸荘証券との間で、平成九年一月から同年一〇月までの期間、別紙請求債権目録中の「取引『銘柄』」欄記載の割引債券(以下、まとめて「本件債券」という。)を、同目録記載のとおり購入するとの契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、丸荘証券に対し、右代金として金員(以下「本件金員」という。)を交付した(なお、同目録中の「取引『銘柄』欄」記載の「ペレグリン」とは、丸荘証券が原告らに販売した「ペレグリンユーロ円建て債券」を、「ING」とは「ING(US)FHCユーロ円建て債券」をそれぞれ指す。以下、それぞれ「ペレグリンユーロ円債」「INGユーロ円債」という。また、同目録中の預け金欄記載の金額は原告らが主張する現実の払込金額である)。

現在、原告らは、同目録中の「預け金」欄記載の金員の返還を丸荘証券から受けていない。ただし、ペレグリンユーロ円債#一一を購入した者に対しては平成九年一二月二二日に、INGユーロ円債#二を購入した者については、平成一〇年三月一三日にそれぞれ別紙償還金一覧表の売付代金(償還金)額欄記載のとおり、金員が一部返還されている。(甲ハ五、甲ハ九の一、二、甲ハ一〇、弁論の全趣旨)

4  丸荘証券の破産

丸荘証券は、平成九年一二月二三日、東京地方裁判所に破産申立てをし、平成一〇年九月三〇日、破産宣告を受け、現在破産手続きが進行中である。(争いがない)

5  寄託証券補償基金の寄付行為

寄託証券補償基金は、証券業務の公共性にかんがみ、証券会社の破綻により、金銭、有価証券等を寄託している顧客が被る損失を補償する等の業務を行い、もって投資家の保護及び証券界の維持向上に資することを目的とする公益財団法人である。

寄託証券補償基金の寄付行為(以下「本件寄付行為」という。)には、証券会社の顧客が被った損失の補償に関し、以下の規定がある。(争いがない)

三四条(補償の事由)

この法人は、証券会社が次の事由のいずれかに該当することとなった場合において、顧客から寄託を受けている金銭、有価証券等の返還が不能となり、その顧客に損失を及ぼしたときに、その損失の全部または一部を補償する。(以下略)

1  証券業の営業の停止処分を受けまたは免許を取り消された場合

2  破産の宣告を受けまたは解散の決議を行った場合

三五条(補償の対象)

前条の補償は、次の金銭、有価証券等について行う。

1  預り金

(2ないし4 略)

5 前各号に掲げるもののほか、理事会において補償の対象と認められた金銭、有価証券等

四一条の三(丸荘証券の顧客に対する特例補償業務)

丸荘証券の破産申立てが受理された場合、寄付行為三四条に基づき、補償の業務を行う。

二  争点

1  原告らが丸荘証券に交付した本件金員は本件寄付行為三五条一号の「預り金」に当たるか。

(原告らの主張)

(一) 原告らは、別紙請求債権目録中の「取引『銘柄』」欄記載のとおり、「ペレグリンユーロ円建て債券」「ING(US)FHCユーロ円建て債券」との名称の本件債券を購入する本件売買契約を締結したものであるが、本件債券は存在せず、架空のものであった。その根拠は以下のとおりである。

(二) 丸荘証券は、AIIL債及びINGアジア債(以下、両債券をあわせて「丸荘証券の購入債券」ともいう。)をそれぞれ購入しているが、丸荘証券の購入債券と本件債券とは以下の点で異なっていることからすると、本件債券は架空の債券である。

(1) 銘柄

丸荘証券の購入債券と本件債券とはその名称を異にするうえ、丸荘証券の購入債券には「制限的償還請求権付き」「償還制限条項付き」との条件が券面の中に織り込まれているのに対し、本件債券にはそのような表示がない。銘柄名の表示の差異は両債券の本質的な差異を示すものであり、銘柄が異なれば債券は同一とはいえない。

(2) 額面

丸荘証券の購入債券の額面は一億円などの高額な金額であるのに対し、本件債券の額面金額は数百万円単位であって、両債券を同じものと考えることはできない。(原告平成一一年七月二九日付け準備書面)

被告は、本件債券は丸荘証券の購入債券を小口化したものであると主張するが、丸荘証券の購入債券は不可分債券であるから、丸荘証券がこれを分割して販売することはできない。

(3) 発行日

丸荘証券の購入債券と本件債券とでは、その発行日が異なるものがある(AIIL債#二九九とペレグリンユーロ円債#一一)。証券の基本的要素が異なれば、両債券は同じものとはいえない。

(4) 償還日

丸荘証券の購入債券と本件債券とでは、その償還日が異なるものがある(INGアジア債#一〇五〇とINGユーロ円債#一)。償還日が異なれば、それだけで債券は同じものとはいえない。

(5) 割引率(利回り)

丸荘証券の社内資料(甲ハ一〇)には、本件債券の一部につき「当社利回り」と「顧客利回り」とが示されている(ペレグリンユーロ円債#一一、同二一、同二二、同二三及びINGユーロ円債#一)。このことは、丸荘証券が割引率を操作していたことを示す。債券投資の目的は利回り確保にあるから、割引率は債券の本質的要素であって、割引率が異なるものは同じ有価証券ということはできない。

(6) 保管機関・決済機関・発行代理人

丸荘証券の購入債券のうち、AIIL債については、保管機関・決済機関はバンカーズトラスト香港であるのに対し、丸荘証券が原告らに交付した外国証券販売説明書には、ペレグリンユーロ円債の保管機関はユーロクリアであるとの記載があり、バンカーズトラストは発行代理人と説明されている。丸荘証券による本件債券の扱いはあいまいであって一貫性がなく、もちろん所持人の登録の取決めなどないから、本件債券の存在は疑わしい。

また、INGアジア債については、発行代理人はINGベアリング香港であるが、丸荘証券が原告らに交付した外国証券販売説明書(甲ハ七の一)にはINGユーロ円債の発行代理人はバンカーズトラスト香港となっている。

(7) 発行総額

AIIL債#二九九、同#五〇七の発行総額はそれぞれ三億円であるが、ペレグリンユーロ円債#一一、同一八の発行総額はそれぞれ一億五九〇〇万円、一億六一〇〇万円である。

(8) 為替リスク

丸荘証券の購入債券は、債券の保有者が発行会社に対して費用償還、損失補償義務を負担することになっており、これらの義務は為替リスクを保有者に負担させるものである。これに対し、本件債券は為替リスクがないと表示されている。

(9) 信用リスク

丸荘証券の購入債券は償還制限付き債券であって、償還は原資産の支払にかかっている。これに対し、本件債券では、原資産はあくまで担保であって、原資産の支払の有無にかかわらず発行者に償還請求できるものである。

(10) 原資産

丸荘証券の購入債券の原資産はインドネシア企業のルピア建て約束手形等であるが、丸荘証券は原告らに対し、原資産の内容には直接触れず、仕組債の発行会社である特別目的会社(AIILまたはING・FHC)の親会社であるペレグリングループまたはINGグループを強調する説明をしており、その販売手続や情報提供等に大きな違いが窺える。証券が仕組債であり特別目的会社発行のものである以上、背後の親会社は法的には何ら関係はない。その関係のないものを強調することは極めて問題であって、本件債券は丸荘証券により作られたものであることを推認させる。

また、丸荘証券の購入債券と本件債券とでは、原資産の通貨が異なっているものがある(AIIL債#五九三とペレグリンユーロ円債#二一、AIIL債#五九二とペレグリンユーロ円債#二二、INGアジア債#一〇五四とINGユーロ円債#二)。

(三) 原告らは、本件債券の購入代金として本件金員を丸荘証券に交付した(実際の代金支払は、原告らが有していた丸荘証券の信用取引口座に入金済みの金員を本件債券の代金に充当した。)が、本件債券は架空であったのであるから、本件売買契約は原始的不能で無効である。そうすると、原告らの丸荘証券の信用取引口座からの金銭支出は実体を伴わないものであって、原告らが右口座に預けていた本件金員は依然として「預り金」というべきである。

(被告の主張)

(一) 丸荘証券は、ペレグリン証券会社(東京支店)からAIIL債を、INGベアリング証券会社(東京支店)からINGアジア債をそれぞれ購入し、これらの債券を小口化したうえで、本件債券として販売したもので、本件債券は、いずれも実在の債券である。

丸荘証券が購入したAIIL債#二九九と丸荘証券が原告らに販売したペレグリンユーロ円債#一一を例にとると、債券自体の名称が正確に一致していないほか、発行日に一日のずれがあることは事実であるが、AIIL債#二九九の購入額面総額とペレグリンユーロ円債#一一の販売額面総額は三億円で一致しているし、発行会社及び償還日は同一であり、原資産及び債券の内容についても同一性のあることは明らかであって、両者は同一の債券であり、AIIL債#二九九を購入した丸荘証券が、これを小口化しペレグリンユーロ円債#一一の名称を付して原告ら顧客に販売したものである。そして、丸荘証券は、ペレグリン証券東京支店から購入したAIIL債#二九九に手数料相当額を加えた額をペレグリンユーロ円債#一一の販売価格として原告ら顧客に販売し、その後償還日にペレグリン証券東京支店を通じてAIILから支払われるAIIL債#二九九の償還金三億円を一括受領して、ペレグリンユーロ円債#一一を購入した原告ら顧客に対して額面で支払う仕組みになっていたのであるから、当該債券についての丸荘証券に対する利回りと顧客である原告らに対する利回りが異なるのは、当然である。また、AIIL債#二九九とペレグリンユーロ円債#一一では、債券の保管機関の表示が異なっているとされるが、AIIL債#二九九の保管機関とされるBT香港は、正確には原資産(約束手形)の保管機関であり、ペレグリンユーロ円債#一一の保管機関が何故ユーロクリアと記載されているかは判然としないが、丸荘証券は、AIIL償#二九九をペレグリン証券東京支店から購入し、これをペレグリンユーロ円債#一一として原告ら顧客に販売したうえ、約諾書に基づき原告ら顧客から保管の委託を受け、ペレグリン証券東京支店に再寄託したものであって、この問題は、債券の同一性とは次元の異なる問題である。

丸荘証券が購入したINGアジア債#一〇五〇と丸荘証券が原告らに販売したINGユーロ円債#一との関係についても、その基本的な仕組みは同様に解すべきであり、結局、本件金員は、本件債券の購入代金として既に支出済みのものであって、本件金員が未だ「預り金」として、存在するものではない。

(二) 丸荘証券がAIIL債とINGアジア債を小口化して原告ら顧客に販売した本件債券のうち、ペレグリンユーロ円債#一一及びINGアジア債#一の一部については、別紙償還金一覧表の売付代金(償還金)額欄記載のとおり、償還金が既に支払われており、このことは、右各小口化した債券が実在していたことを示すものである。

(三) 仮に本件債券の販売につき何らかの問題があったとしても、それは原告らと丸荘証券との間における損害賠償請求の問題にすぎない。

2  原告らは本件寄付行為三五条五号に基づき被告に対して補償請求権を有するか。

(原告らの主張)

寄託証券補償基金は、三洋証券株式会社(以下「三洋証券」という。)の破綻に際しては、本件寄付行為三五条一号ないし四号のいずれにも該当しない農業協同組合(以下「農協」という。)等の債権について、理事会において補償の対象とすることを決定し、約三八億円を農協等に支払うこととした。

寄託証券補償基金の公益性を考慮するならば、十分な保護を必要とする一般投資家である原告らを、機関投資家ともいうべき農協等より不利に扱うことは許されない。したがって、仮に、原告らの債券が「預り金」に該当しなくても、公平、平等の観点から本件寄付行為三五条五号で補償対象とされるべきである。

(被告の主張)

寄託証券補償基金が農協に対して補償をしたのは、三洋証券の会社更生申立てと同時に保全処分が出されたため、実質は農協所有の登録債の名義を農協名義に戻すことができなかったという事情を考慮したためであって、本件とはまったく事情を異にする。

3  原告らの意思表示のみによって被告との間で補償契約が成立するか。

(原告らの主張)

寄託証券補償基金は、既に丸荘証券の顧客に対して補償を行うことを一般的に決定しているうえ、公益法人であるという組織の公益性からすると、すでに補償意思の表示あるいは事前の承諾がなされているのであり、本件寄付行為の要件を充たす権利の届出(寄付行為三七条)である限り、顧客と被告との間で補償契約が成立すると考えるべきである。

(被告の主張)

本件寄付行為三四条及び寄託証券補償基金の業務処理要領一項によれば、寄託証券補償基金は、証券会社が証券業の営業の停止処分を受けまたは免許を取り消された場合、あるいは破産の宣告を受けまたは解散の決議を行った場合において顧客に損失を及ぼしたときに、理事会の調査・認定(決議)を経て、補償業務を開始することになっている。したがって、証券会社が破綻した場合に当然に寄託証券補償基金の補償業務が開始されるものではなく、原告らが直接的に寄託証券補償基金及び被告に対して補償請求権を有すると解することはできない。

4  被告は証券取引法七九条の五六に基づき原告らに補償する義務を負うか。

(原告らの主張)

被告は、証券取引法七九条の五六により一般顧客の請求に基づいて補償対象債権について支払を行う義務を有している。そして、被告は、寄託証券補償基金の一切の業務並びに約九〇億円の資金をはじめとするその一切の資産及び負債を承継したので、被告設立前に発生した原告らの債権についても補償する義務がある。

(被告の主張)

被告が証券取引法七九条の五六に基づいて支払を行うためには、経営破綻した証券会社が証券業の免許(登録)を有し、かつ被告の会員であること、当該証券会社が所定の手続を経て認定証券会社とされていることが不可欠である。ところが、丸荘証券は同条の施行前に破産宣告を受けて同証券の証券業の免許は失効しており、また、被告の会員ともなっていない。したがって、被告が同条項に基づき原告らに補償する義務を負うことはない。

5  予備的請求について確認の利益はあるか

(原告らの主張)

寄付行為に定める補償の対象になるか否かの判断は、財団法人管理者に委ねられており、その範囲について争いがあるから、その範囲について確認を求める利益がある。

(被告の主張)

金銭の支払を目的とする請求に関し、給付の訴えができるのであるから、同じ請求権の確認を求める利益はない。

第三当裁判所の判断

一  争点1(原告らが丸荘証券に交付した本件金員は本件寄付行為三五条一号の「預り金」に当たるか)について

1  原告らは、本件売買契約の目的物である「ペレグリンユーロ円債」「INGユーロ円債」との名称の本件債券は架空の債券であると主張する。そこで、まず、以下2ないし4においては、本件債券のうち、ペレグリンユーロ円債#一一及びINGユーロ円債#一を例として取り上げ、本件債券が架空の債券であるか否かを検討することとする。

2  前提事実及び証拠によれば、以下の事実が認められる。

(一) ペレグリンユーロ円債#一一について

(1) AIILは、平成九年(一九九七年)一月六日、AIIL債#二九九を発行した。同債券は、インドネシア企業であるPT・ダーマラ・インティウタマ(以下「ダーマラ・インティウタマ」という。)が平成八年(一九九六年)一二月一九日に発行した平成九年(一九九七年)一二月一九日満期の七〇億ルピアの約束手形(プロミサリーノート)を原資産として、円とルピアの通貨スワップ契約を締結したうえ発行された債券であり、一証券あたりの額面金額は一億円、額面総額は三億円であった。(丁七の一、二、弁論の全趣旨)

(2) AIIL債#二九九の登録名義人に対しては、ダーマラ・インティウタマによって原資産の約束手形の支払がなされた場合には償還金が支払われ、同社による支払がなされない場合には償還金の支払は制限されることとなっていた。このことを示すため、AIIL償#二九九の買取契約書には、同債券は「制限的償還請求権付き」債券である旨記載されている。(丁七の一、二、弁論の全趣旨)

(3) AIILは、平成九年(一九九七年)一月八日、ペレグリン・トレーディング・シンガポール・ピーティーイー・リミテッドに対し、AIIL債#二九九を販売した。(丁七の一、二、丁一七)

(4) ペレグリン・トレーディング・シンガポール・プライベート・リミテッドは、右同日、ペレグリン証券グループのペレグリン・フィックスト・インカム・リミテッドに対し、AIIL債#二九九を販売した。(甲ハ八、丁七の一、二、丁一七)

(5) ペレグリン・フィックスト・インカム・リミテッドは、ペレグリン証券会社(東京支店)に対し、平成九年(一九九七年)一月六日ころ、AIIL債#二九九を販売した。(弁論の全趣旨)

(6) 丸荘証券は、平成九年(一九九七年)一月六日付けで、ペレグリン証券会社(東京支店)からAIIL債#二九九を購入した。(甲ハ二七の一、甲ハ二八の一、甲ハ三〇、甲ハ三一、丁一〇、丁一七)

(7) 丸荘証券は、平成九年一月六日、七日及び八日、原告らの一部を含む顧客に対し、ペレグリンユーロ円債#一一との名称の債券を販売した。(甲ハ六の二、丁一三の一、弁論の全趣旨)

(8) ペレグリンユーロ円債#一一の外国証券販売説明書には、「同債券はペレグリン証券の債券発行会社のAIILが発行する一一か月ユーロ円債券であり、その資金はインドネシアのダーマラ・インティウタマが発行したルピア建て約束手形の購入に充てられる。」旨の記載がある。

(丁一三の一)

(9) AIIL債#二九九とペレグリンユーロ円債#一一の特徴について比較すると別紙対比表(1)のとおりである。(丁七の一、二、丁一三の一、弁論の全趣旨)

(二) INGユーロ円債#一について

(1) 1NG・FHCは、平成九年(一九九七年)六月一八日、INGアジア債#一〇五〇を発行した。同債券は、インドネシア企業であるPT・ポリシンド・エカ・ペルカサ・リミテッド(以下「PTポリシンド」という。)が発行した平成一〇年(一九九八年)七月一四日満期の三〇〇万米ドルの約束手形(プロミサリーノート)を原資産として、円とドルの通貨スワップ契約を締結したうえ発行された債券であり、額面金額は三億四八〇〇万円であった。

INGアジア債#一〇五〇の募集代理人は、INGベアリング証券(香港)であった。(丁四の一、二、弁論の全趣旨)

(2) 1NGアジア債#一〇五〇の登録名義人に対しては、PTポリシンドによって原資産の約束手形の支払がなされた場合には償還金が支払われ、同社による支払がなされない場合には償還金の支払は制限されることとなっていた。このことを示すため、INGアジア債#一〇五〇の調印用条件記載書には、同債券は「償還制限条項付き」債券である旨記載されている。(丁四の一、二、弁論の全趣旨)

(3) 1NGベアリング証券(香港)は、平成九(一九九七年)年六月、INGベアリング証券会社(東京支店)に対し、INGアジア債#一〇五〇を販売した。(弁論の全趣旨)

(4) 丸荘証券は、平成九年(一九九七年)六月二日付けで、INGベアリング証券会社(東京支店)からINGアジア債#一〇五〇を購入した。(甲ハ二七の一一、甲ハ二八の一〇、甲ハ三〇、甲ハ三一、丁一一)

(5) 丸荘証券は、平成九年六月一六日、一七日及び一八日、原告らの一部を含む顧客に対し、INGユーロ円債#一との名称の債券を販売した。(甲ハ一〇、甲ハ三〇、甲ハ三一、丁一一、丁一三の九、弁論の全趣旨)

(6) INGユーロ円債#一の外国証券販売説明書には、「同債券は、ING銀行の持株会社のING・FHCが発行する一三か月物のユーロ円債券であり、その資金はインドネシアのPTポリシンドが発行したドル建て約束手形の購入に充てられる。」旨の記載がある。(甲ハ七の一、丁一三の九)

(7) INGアジア債#一〇五〇とINGユーロ円債#一の特徴について比較すると別紙対比表(2)のとおりである。(丁四の一、二、丁一三の九、弁論の全趣旨)

3  右に認定した事実によれば、丸荘証券は、AIIL発行のAIIL債#二九九を平成九年一月六日付けで、ING・FHC発行のINGアジア債#一〇五〇を同年六月二日付けでそれぞれ購入し、一方で、ペレグリンユーロ円債#一一については同年一月六日から八日にかけて、INGユーロ円債#一については平成九年六月一六日から一八日にかけて、それぞれ原告らの一部を含む顧客に対して販売したことが明らかである。

なお、原告らは、INGアジア債#一〇五〇に関する調印用条件記載書(丁四の一、二)に関係者の署名がないことを理由にそもそも丸荘証券が購入したとされるINGアジア債の存在自体を疑問視する主張もしている。

しかし、INGベアリング証券会社(東京支店)がINGアジア債#一〇五〇について丸荘証券に宛てて取引報告書、預り証を発行していること(甲ハ二七の一一、甲ハ二八の一〇)、丸荘証券がINGアジア債#一〇五〇について(ただし、債券の銘柄はINGユーロ円債となっている。)INGベアリング証券会社東京支店に宛てて外国証券取引照合表を発行していること(丁一一)、同じくINGアジア債#一〇五〇について、INGベアリング証券会社(東京支店)名義の気配値(参考価格)を示す書類も存すること(丁九の一ないし三)といった事実が認められ、これと、後記認定のとおり、同じくING・FHCが発行したINGアジア債#一〇五〇を小口化して販売したとされるINGアジア債#二の一部ついては、別紙償還金一覧表の売付代金(償還金)額欄記載のとおり、償還金が支払われていること、その他弁論の全趣旨を総合すれば、INGアジア債#一及びINGアジア債#二が存在したこと自体は認められるというべきである。

4  丸荘証券がペレグリンユーロ円債#一一とINGユーロ円償#一を原告らに販売するに至った経緯と右各債券の内容は、前記認定のとおりであるが、被告が、丸荘証券が販売したペレグリンユーロ円債#一一とAIIL債#二九九、同じくINGユーロ円債#一とINGアジア債#一〇五〇は、いずれも同一のものであると主張するのに対し、原告らは、丸荘証券が原告らに販売したペレグリンユーロ円債#一一とINGユーロ円債#一は、その銘柄、額面、発行日、償還日、割引率、保管機関等に照らし、存在しない架空の債券であると主張するので、以下、これらの点につき、原告らの主張に沿って順次検討する。

(一) 銘柄

原告らは、AIIL債#二九九とペレグリンユーロ円債#一一、INGアジア債#一〇五〇とINGユーロ円債#一とはその名称を異にするから、両債券はそれぞれ別個の債券であると主張する。しかし、丸荘証券がAIIL債#二九九及びINGアジア債#一〇五〇を顧客に販売するに当たって独自の名称を付したからといって両債券が別個の債券であることにはならない。加えて、丸荘証券作成のペレグリン証券会社東京支店宛ての外国証券取引照合表(丁一〇)はAIIL債#二九九に関するものであると認められるところ、同表の「銘柄名」欄には「ペレグリンユーロ円建債券11」との記載があること、丸荘証券作成の外国債券売買日記帳(甲ハ三〇)にもAIIL債#二九九と思われる債券の「銘柄名」欄に「ペレグリンユーロ円建債券11」との記載があることからすれば、丸荘証券がAIIL債#二九九を小口化したものにペレグリンユーロ円債#一一との名称を付していたことが明らかである。また、丸荘証券作成のINGベアリング証券会社東京支店宛ての外国証券取引照合表(丁一一)はINGアジア債#一〇五〇に関するものであると認められるところ、同表の「銘柄名」欄には「INGユーロ円建債券1」との記載があること、丸荘証券作成の外国債券売買日記帳(甲ハ三〇)にもINGアジア債#一〇五〇と思われる債券の「銘柄名」欄に「INGユーロ円建債券1」との記載があることからすれば、丸荘証券はINGアジア債#一〇五〇を小口化したものにINGユーロ円債#一と名称を付していたことが明らかである。

また、原告らは、AIIL債#二九九及びINGアジア債#一〇五〇には「制限的償還請求権付き」「償還制限条項付き」との表示があるのに対し、ペレグリンユーロ円債#一一及びINGユーロ円債#一にはそのような表示がないことをもって両債券はそれぞれ別個の債券であると主張する。しかし、ペレグリンユーロ円債#一一の外国証券販売説明書(丁一三の一)には、買付代金はダーマラ・インティウタマが発行したルピア建て約束手形の購入に充てられること、発行体は担保証券について債務保証を行っていないこと、ペレグリンユーロ円債の保有者はダーマラ・インティウタマ及びAIILの倒産リスクを負担することが記載されている。また、INGユーロ円債#一の外国証券販売説明書(甲ハ七の一、丁一三の九)には、買付代金はPTポリシンドが発行したドル建て約束手形の購入に充てられること、発行体は担保証券について債務保証を行っていないこと、INGユーロ円債の保有者は、PTポリシンド及びING・FHCの倒産リスクを負担することが記載されている。このことからすれば、AIIL債#二九九とペレグリンユーロ円債#一一、INGアジア債#一〇五〇とINGユーロ円債#一とは、償還が制限されるという同一の性質を有する債券であることは明らかである。原告らが購入したペレグリンユーロ円債#一一及びINGユーロ円債#一に「制限的償還請求権付き」「償還制限条項付き」との表示がなかったことが適正妥当なものであったかという問題は別に検討されるべきであるが、それを債券の同一性に影響を及ぼすものとはいえない。

そうであるとすれば、銘柄の差異をもってペレグリンユーロ円債#一一及びINGユーロ円債#一が架空の債券であると認めることはできない。

(二) 額面

原告らは、AIIL債#二九九の額面が一億円、INGアジア債#一〇五〇の額面が三億四八〇〇万円であるのに対し、ペレグリンユーロ円債#一一の額面は二〇〇万円、INGユーロ円債#一の額面は一〇〇万円であるから、両債券は別個の債券であると主張する。

しかし、ペレグリン証券会社の日本代表であった島尾直道の上申書(丁一七)には、債券を分割して販売することは一般的に行われていること、AIIL債#二九九についても分割を禁止する旨の合意は存在しないことが記載されている。そして、その余の証拠に照らしても、AIIL債#二九九について分割を禁止する合意の存在は認められない。そうすると、AIIL債#二九九とペレグリンユーロ円債#一一の額面が異なることは丸荘証券による小口化の結果と見るのが相当であって、INGアジア債#一〇五〇とINGユーロ円債#一についても、分割を禁止する合意の存在は認められないことからすると、同様と考えるのが相当である。

これに対し、原告らは、AIIL債#二九九の譲渡にはAIILの書面による事前の同意が必要であるところ(丁七の一、二)、本件では丸荘証券が原告らに同債券を譲渡するに当たりかかる同意がなされていないから、同債券が原告らに帰属することはないと主張する。しかし、丸荘証券がAIIL債#二九九を原告らに譲渡するに当たりAIILの同意を得ていなかったとしても、それは、AIILと丸荘証券との間の問題であって、これをもって直ちにAIIL債#二九九とペレグリンユーロ円債#一一とが別個の債券であるということはできない。

そうであるとすれば、額面の差異があるのは当然のことであるというべきであって、これをもってペレグリンユーロ円債#一一及びINGユー口円債#一が架空の債券であると認めることはできない。

(三) 発行日

原告らは、AIIL債#二九九とペレグリンユーロ円債#一一とはその発行日が異なることから、両債券は別個の債券であると主張する。確かに、AIIL債#二九九の買取契約書(甲ハ八、丁七の一、二)の「発行日」欄には「一九九七年一月六日」との記載があり、また一九九七年一月八日発行と解する余地のある記載もある。これに対し、ペレグリンユーロ円債#一一の外国証券販売説明書(丁一三の一)の「発行日」欄には「平成九年一月七日」との記載があることが認められ、一日ずれていることが認められる。

しかし、右記載の不一致は単なる誤記によるものである可能性も払拭できず、右記載の不一致から直ちに両債券が別個の債券であり、ペレグリンユーロ円債#一一が架空の債券であると認めるには足りない。

(四) 償還日

原告らは、INGアジア債#一〇五〇とINGユーロ円債#一とでは償還日が異なるから、両債券は別個の債券であると主張する。確かに、INGアジア債#一〇五〇の預り証(甲ハ二八の一〇)の「償還日」欄には「14JUL1998」(すなわち、平成一〇年七月一四日)との記載があるのに対し、INGユーロ円債#一の外国証券販売説明書(甲ハ七の一)の「償還日」欄には「平成一〇年七月一五日」との記載があり、一日ずれていることが認められる。

しかし、INGアジア債#一〇五〇の調印用条件記載書(甲ハ二六の一、二)の「満期日」欄には「平成一〇年七月一五日」との記載があることからすると、右預り証(甲ハ二八の一〇)の記載は誤記の可能性も払拭できず、右記載の不一致から直ちに両債券が別個の債券であり、INGユー口円債#一が架空の債券であると認めるには足りない。

(五) 割引率(利回り)

原告らは、丸荘証券の社内資料(甲一〇)の中に、INGユーロ円債#一につき「当社利回り」と「顧客利回り」とが示されていることから、INGアジア債#一〇五〇とINGユーロ円債#一とは別個の債券であると主張する。

しかし、当社の利回りは、INGアジア債#一〇五〇の丸荘証券の購入価格と債券の額面との差額により決定されるのに対し、顧客の利回りは、顧客の購入価格と債券の額面との差により決定されるものである。

そうであるとすれば、丸荘証券の利回りと顧客の利回りが異なるのは当然のことであるというべきであって、これをもって、INGユーロ円債#一が架空の債券であると認めることはできない。

(六) 保管機関・決済機関・発行代理人

原告らは、AIIL債#二九九の保管機関・決済機関はバンカーズトラスト香港であるのに対し、丸荘証券が原告らに交付した外国証券販売説明書にはペレグリンユーロ円債#一一の保管機関はユーロクリアであるとの記載があり、バンカーズトラストは発行代理人と説明されていることから、両債券は別個の債券であると主張する。また、INGアジア債#一〇五〇の発行代理人はINGベアリング香港であるが、丸荘証券が原告らに交付した外国証券販売説明書(甲ハ七の一)にはINGユーロ円債#一の発行代理人はバンカーズトラスト香港となっていることから、両債券は別個の債券であると主張する。

この点に関しては、別紙対比表(1)及び(2)のとおり、ペレグリンユーロ円債#一一及びINGユーロ円債#一の保管機関がいずれもユーロクリアとの記載があるのに対し、AIIL#二九九の保管機関がバンカーズトラスト香港、INGアジア債#一〇五〇の保管機関がユーロクリアの預託機関としてのバンク・インターナショナル・ルクセンブルクとされていることが認められる。しかし、ペレグリンユーロ円債#一一及びINGユーロ円債#一を購入した原告ら顧客は、約諾書に基づき丸荘証券に当該債券の保管の委託を行い、丸荘証券が寄託を受けた同債券をペレグリン証券会社(東京支店)ないしINGベアリング証券会社(東京支店)に再寄託していたものと認められるのであって(丁一三の一及び九、弁論の全趣旨)、保管先自体の性質に照らすと、このような記載の不一致が債券の同一性にまで影響を与えるものとは言えない。

(七) 発行総額

原告らは、AIIL債#二九九の発行総額が三億円であるのに対し、ペレグリンユーロ円債#一一の発行総額は一億五九〇〇万円であることから、両債券は別個の債券であると主張する。確かに、AIIL債#二九九の買取契約書(甲ハ八、丁七の一、二)には、発行総額として「三億円」との記載があるのに対し、ペレグリンユーロ円債#一一の外国証券販売説明書(丁一三の一)には、販売総額として「一億五九〇〇万円」との記載があることが認められる。

しかし、三億円というのはAIIL債の発行総額であり、一億五九〇〇万円というのは丸荘証券がこれを小口化し、ペレグリンユーロ円債#一一の平成八年一月七日約定、同月九日引渡分の販売総額であって(しかも、全部売却されるとは限らない)、両者が異なるのは何ら不自然ではない。

(八) 為替リスク

原告らは、AIIL債#二九九及びINGアジア債#一〇五〇は債券の保有者が発行会社に対して費用償還、損失補償義務を負担することになっているから為替リスクを保有者に負担させるものであるのに対し、ペレグリンユーロ円債#一一及びINGユーロ円債#一は為替リスクがないと表示されているから、AIIL債#二九九とペレグリンユーロ円債#一一、INGアジア債#一〇五〇とINGユーロ円債#一とはそれぞれ別個の債券であると主張する。

しかし、AIIL債#二九九またはINGアジア債#一〇五〇の保有者が費用償還、損失補償義務を負担することが保有者が為替リスクを負担することを意味すると解することはできない。そして、AIIL債#二九九の買取契約書(甲ハ八、丁七の一、二)及びINGアジア債#一〇五〇の調印用条件記載書(甲ハ二六の一、二、丁四の一、二)には、これらの債券の保有者が為替リスクを負担する旨の記載はない。

そうすると、原告らの主張はその前提において失当であって採用することはできない。

(九) 信用リスク

原告らは、AIIL債#二九九及びINGアジア債#一〇五〇は償還制限付き債券であるのに対し、ペレグリンユーロ円債#一一及びINGユーロ円債#一は原資産の支払にかかわらず発行者に償還請求できるものであるから、AIIL債#二九九とペレグリンユーロ円債#一一、INGアジア債#一〇五〇とINGユーロ円債#一とは、それぞれ別個の債券であると主張する。

しかし、既に述べたように、ペレグリンユーロ円債#一一及びINGユーロ円債#一は、AIIL債#二九九及びINGアジア債#一〇五〇を小口化したものであって、償還が制限されるという性質の債券であると認められるから、原告らの主張はその前提において失当であって、採用することはできない。

(一〇) 原資産

原告らは、丸荘証券が原告らに本件債券を販売するに際し、原資産の内容には直接触れず、ペレグリングループやINGグループを強調する説明をしていたことから、丸荘証券の購入債券と本件債券とは別個の債券であると主張する。

しかし、丸荘証券が本件債券を販売する際の説明が不適切であったとしても、それをもって、丸荘証券の購入債券と本件債券とが別個の債券であって、本件債券が架空の債券であると認めることはできない。

5  また、証拠(丁一三の一及び一〇、丁一四)及び弁論の全趣旨によれば、原告らのうち、丸荘証券からペレグリンユーロ円債#一一あるいはINGユーロ円債#二を購入した者については、これらの者の売却依頼により、別紙償還金一覧表の売付代金(償還金)額欄記載のとおり、償還金が支払われていることが認められる。

この点につき、原告らは、右金員の返還は、当初の「預り金」が返還されたものであると主張するが、両債券を購入した者に限って預り金が返還されるということ自体不自然と言わざるを得ないし、右金員の受領に当たっては、原告らとしても、右両債券が実在することを当然のことと認識していたものと推認できるというべきである。

6  以上2ないし5で認定判断したところによれば、丸荘証券においては、ペレグリン証券会社(東京支店)からAIIL債#二九九を、INGベアリング証券会社(東京支店)からINGアジア債#一〇五〇をそれぞれ購入したうえ、これと近接する日時に、これらを小口化したものと称してペレグリンユーロ円債#一一とINGユーロ円債#一を原告らに販売していること、AIIL債#二九九とペレグリンユーロ円債#一一、INGアジア債#一〇五〇とINGユーロ円債#一については、いずれも債券の同一性が認められること、ペレグリンユーロ円債#一一及びINGユーロ円債#二(丸荘証券がING・FHCが発行したINGアジア債#一〇五四を小口化したと称する債券)については、いずれも原告らの売却依頼に基づき丸荘証券から原告らに対し現実の償還がなされていることが明らかであり、これらの事実によれば、丸荘証券が、原告らに販売した、ペレグリンユーロ円債#一一とINGユーロ円債#一は、AIIL債#二九九とINGアジア債#一〇五〇をそれぞれ小口化した実在する債券と認めるのが相当である。

そうであるとすれば、本件債券のうち右で認定したペレグリンユーロ円債#一一とINGユーロ円債#一以外の債券(丸荘証券が購入したAIIL債#五〇七、AIIL債#五四八、AIIL債#五四九、AIIL債#五九二、AIIL債#五九三、AIIL債#五九四、AIIL債#六六五及びINGアジア債#一〇五四の債券をそれぞれ小口化したと称する債券)についても、これらの債券は、いずれもAIIL債あるいはINGアジア債を丸荘証券において実際に小口化したものであり、実在の債券であると認めるべきである。

結局、原告らの主張(本件債券はいずれも架空のものであって、原告らが丸荘証券に寄託した金員が依然として預け金として同証券の口座に残っている。)は採用できない。

7  なお、前提事実3で認定したとおり、原告らは、丸荘証券との間で、本件債券の購入契約を締結したうえで、原告らの意思で本件金員を本件債券の購入代金として払い込んだものである。そして、丸荘証券は、このようにして払い込まれた本件金員を、AIIL債あるいはINGアジア債の購入に宛てているのである(甲三一及び弁論の全趣旨)。

そうであるとすれば、本件金員は、既に原告の意思に基づき、原告らの口座から丸荘証券宛てに支出されているとみるべきであって、仮に、本件債券が本来架空のものであり、本件金員払込に関する原告らの意思に瑕疵があったというような事態が想定しえたとしても、その場合には、原告らに丸荘証券に対する損害賠償あるいは不当利得返還といった請求権が発生するのであれば格別、本件金員が依然として預け金として残っているといった解釈をとることには無理があるというべきである(原告らの意思に基づくという点で預け金の無断流用の場合とは本質的に異なるというべきである。)。

二  争点2(原告らは本件寄付行為三五条五号に基づき被告に対して補償請求権を有するか)について

原告らは、三洋証券が破綻した際に寄託証券補償基金が本件寄付行為三五条五号に基づき農協等に対して補償することに決定したのと同様に、原告らに対しても補償すべきであると主張する。しかし、同号は、補償するか否かを寄託証券補償基金の理事会の決議に委ねていることからすると、同号は、補償の可否を寄託証券補償基金の裁量に委ねた規定にすぎず、個々の顧客が同号に基づいて寄託証券補償基金に対して補償を請求する権利を認めたものではないと解するのが相当である。

これに対し、原告らは、公益法人たる寄託証券補償基金の公益性を根拠に本件寄付行為三五条五号による補償請求権を認めるべきであると主張する。確かに、寄託証券補償基金の公益性に照らせば、同基金がまったく恣意的に補償の可否を決定することは相当ではないとはいえようが、そのことから直ちに、本件寄付行為三五条五号が証券会社の顧客に対して法的権利を与えたものであるとまで認めることは困難というべきである。

したがって、本件寄付行為三五条五号に基づく原告らの請求は、いずれも理由がない(なお、本件寄付行為三五条一号または五号に基づく請求が認められない以上、争点3については判断するまでもない。)。

三  争点4(被告は証券取引法七九条の五六に基づき原告らに補償する義務を負うか)について

原告らは、証券取引法七九条の五六に基づき、被告に対し、補償対象債権について支払を行う義務を有していると主張する。しかし、同条に基づき被告が支払を行うためには、当該顧客の取引相手たる証券会社が被告の会員であることが必要である(同法七九条の二七第一項ないし三項、二八条)。ところが、丸荘証券は、被告の設立以前である平成一〇年九月三〇日に破産宣告を受け、被告の会員とはなっていないのであるから(争いがない)、同条に基づく原告らの請求は、いずれも理由がない。

四  結論

本件事案は、本件債券(丸荘証券が、ペレグリンユーロ円債あるいはINGユーロ円債の名称で顧客に販売した割引債券)を丸荘証券から購入した原告らが、丸荘証券の破産により損害を被ったとして、丸荘証券の顧客に対する特例補償業務を寄託証券補償基金から引き継いだ被告に対し、本件債券はもともと架空の債券であり、本件金員(原告らが本件債券の購入代金として丸荘証券に払い込んだ金員)は、依然として丸荘証券に預り金として残っていること等を理由に、寄託証券補償基金の寄付行為の規定(三四条、三五条、四一条の三)を根拠として、右預り金相当の金員の支払ないしは支払義務の確認を求めた事案である。

丸荘証券は既に破産宣告を受けて、破産手続が進行中であり、弁論の全趣旨によれば、原告らが支払を求めた本件金員全額を丸荘証券から回収することは到底困難な状況にあることは明らかである。そして、証拠(甲六の一ないし六、甲七の一ないし五、甲一三、甲一四)及び弁論の金趣旨によれば、本件債権の販売に当たっての丸荘証券側の説明が必ずしも十分なものでなかったことが窺われることからすると、本件訴訟により被告から補償金の支払を得られない場合には、その結果として、原告らが、必ずしもその責めに帰すのが相当とは言えない損害の負担をせざるを得なくなる可能性のあることは否定できない。

しかし、原告らが、本件寄付行為三五条一項に基づいて、丸荘証券の顧客に対する特例保証業務を寄託証券補償基金から引き継いだ被告に対し、本件金員の支払を求めることができるかとの本件訴訟の争点についてみると、既に認定説示したとおり、本件債券とその小口化のもととされたAIIL債あるいはINGアジア債とを対比すると同一性が認められること、さらには、既に本件債券の一部については原告らの一部に対し償還がなされていることに照らしても、本件債券が架空のものであると認めることは、困難と言わざるを得ない。また、解釈論としても、本件金員は既に原告らの意思に基づき原告らの口座から丸荘証券宛てに支出されていると解されるから、依然として預り金が存在すると認めることは無理があるというべきである。

そして、本件寄付行為三五条五号あるいは証券取引法七九条の五六に基づいて、原告らに補償請求権を認めることができないことも前示のとおりである。

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求は理由がないと言わざるを得ない。

よって、原告らの請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西岡清一郎 裁判官 金子修 裁判官武藤貴明は外国出張のため署名押印できない。裁判長裁判官 西岡清一郎)

請求債権目録、償還金一覧表、対比表<省略>

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